それはそうと、5月、元号が令和になり元年を迎えてからは変わったことがありました。
今書いてる話の舞台となった徹底海峡で沈んだ、神通と古鷹発見の報ですね。書いてる途中で舞い込んだ知らせに霧島の時と同じく、少し感慨深く感じました。書いてる小説の内容と無関係ではない三隻の発見。他に見つかってない艦が発表されないうちにボス戦を書き終わりたいですね。
あと読者の皆様、令和初のイベントは順調でしょうか。作者は自信喪失のあまり後段作戦を諦めましたが(E-2の時点で予定される期間の1/3を浪費したため)、まあ何とか前段を終わらせます。
あとこれだけ更新が遅れた理由の一つとしてはやはり、自衛艦について詳しく調べていたためでした。装備も細かいところを調べて描写に必要な部分だけ抽出するため時間がどうしても長くなったんですよね。
前書きで長々と語ってしまいましたが、最初は雪風の視点からです。では、どうぞ。
目の前で起きた事象に雪風は愕然としていた。
敵旗艦に雷撃して自身を巻き込んだ爆発で、叢雲は先程まで気絶していたはずだ。実際、神通率いる二水戦の援護で側に駆け寄ったときは酷い状態だったのを確認している。
艤装は主砲と魚雷が完全に脱落して攻撃力を喪失、更に肉体は酷い怪我を負い出血も多量だ。それ以上の失血を防ぐため、雪風と初風は応急処置を施そうとしたときだった。
突然、彼女の体を強烈な光が包んだ。その光は視界を埋め尽くすほどで、反射的に目を閉じた程だった。
暫くして光が弱くなり始めたのを瞼越しに感じ取り、目を開けて驚愕した。
叢雲が目の前で立っていた。先程までの轟沈寸前の状態が嘘のような無傷の、全く異なる外見へとその姿を変えて。
頭上に浮かぶ電探艤装は変わっていないが、服装はワンピース風のセーラー服から変わり、丈の短いノースリーブを黒いインナーの上に着ている。両手には白黒のグローブを着けていた。
変化は艤装にも起きていた。元々装備していた主砲二基は、密閉式の連装砲が内部機構を剥き出しにした砲身の小振りな形状に変化している。
左手の三連装魚雷発射管は俵積みに、やや短く細い外見になっていた。
「また会えたな、あの時の深海棲艦! 沈められた姉達、僚艦の仇を取らせて貰うぞ!」
別人のような姿となった彼女は口調すら異なり、勇ましさを感じる威勢で告げた。
対して敵旗艦は動揺が見てとれるほど困惑した様子だった。無理もないかもしれない。一度は戦闘継続不能になった筈が、姿を変えて復活したようなものなのだから。
「みねぐも型護衛艦三番艦、DD-118 むらくも。交戦規定に従い交戦する! 往くぞ」
叫んでから前傾姿勢を取ると、弾かれるように動き始めた。
「叢雲ちゃん、待って! 初風ちゃん、お願いします!」
「何なのよ、もう! しょうがないわね、あの駆逐艦!」
後を追うように雪風と初風が付いていった。
◇◇◇
「どうやらこれも無事だったようだな」
機関を始動して発進した私が最初に行ったのは、駆逐艦叢雲が持っていた槍を回収することだった。
これは戦術的には重要ではない、艤装に装備された
それでも敵艦(叢一の記憶に従えば戦艦棲姫)との中間地点に浮かんでいた、戦場のあらゆる光を反射するそれを見た時、自然と体は動いていた。
理由は直感的にだが分かっていた。恐らくだが駆逐艦叢雲の意思が干渉したのだろう。叢一は好きにさせてくれたが、肉体のベースはあくまで駆逐艦叢雲。彼女にとってこれだけは譲れなかったのだな。
『良く分かってんじゃない』
む? 直接私の頭に声が響くこの声は、ひょっとして叢雲か?
『その通り、私よ。取り敢えず言いたいことだけ言うために回線を確保したわ』
薄々感付いてはいたが、器用な娘だな。動機がこうでなければ良かったが。
『何よ、文句ある? 言っとくけど、この戦いで生き残らないと意味ないんだからね。下手を打たないでよ』
言われなくとも分かっているさ。見ていろ、今から二水戦を援護するところから始めるからな。
「叢雲ちゃん!」
背後から名前を呼ぶ叫び声が聞こえてきた。と言ってもレーダーで確認は出来ているから、追い付いてきたときに声を掛けられるくらい予想していたが。
「雪風か。悪いが今は撤退しないぞ。二水戦を援護して、あの化け物をどうにかしたいからな」
「それは取り敢えずいいです。それより怪我は!? 酷い損傷だったはずですよ!」
「心配は要らん。見ての通り、ピンピンしている」
声を荒らげた雪風にそう返していると初風が近寄ってきた。
「ちょっと貴女! いきなり飛び出さないでよ! 折角救助に駆け付けたってのに……!」
彼女が捲し立てる間、私は右側の主砲『
「叢雲ちゃんっ!?」
「撃て」
驚きに声を上げる雪風に構わず命じる。主砲に内蔵されたMK.63 GFCSが闇の中に潜む標的を捉え、レーダー波でロックしてからすかさず発砲した。
発射した砲弾は間もなく命中した。直撃した際に生じた爆炎で浮かび上がった敵の駆逐艦の影を視認して、レーダーは標的が沈んでいないことを報せた。
続けて砲撃する。私が装備する主砲は砲架後部に回転式シリンダーで装填用の砲弾を給弾する仕組みになっているため、後は人力で装填する半自動式だ。給弾から装填までの効率は装填手の技量と体力に依存した機構だが、それでも発射速度は前大戦時の駆逐艦より大幅に向上している。
立て続けに砲撃を浴びた敵駆逐艦は耐えきれず爆発炎上し、周囲の暗闇を照らす篝火と化した。
「ここから動くぞ!」
叫んでから駆け出した。海上を駆けながら、
私から一番近い左右に二つの反応が出ている、これは雪風と初風だろう。前方には大型と思われる反応、それを囲むように中小の反応が多数激しく動いている。恐らく、戦艦棲姫と交戦中の神通達二水戦だ。
「ねえ! さっきから全然速度出てないじゃない! 10knotは遅く見えるわよ!」
レーダーを確認してると並走する初風が叫んでくる。
「それは悪いな! これは仕様なんだ、既に全速だよ!」
私も叫んで返した。前大戦時の記憶を持った彼女からすれば、駆逐艦級が30knotにも満たないのはよほど老朽化してるか、艦種が違うかのどちらかだろう。
だが、私を含む『みねぐも型護衛艦』が搭載した機関はボイラーではなくディーゼルだ。海上自衛隊は最速32knotを期待したが当時の技術で実現できず、燃費効率の悪い方式の機関を積むことになった。
だから初風の指摘は尤もで、駆逐艦叢雲が最速38knot出たのに対し、私は最速27knotしか出せない。
「それよりレーダーに反応がある! サブ島方面に多数、ケ島より東の海域に複数確認。ケ島の反応はこっちに向かってきている!」
「サブ島の反応は本土から来た増援が交戦してると思います! 叢雲ちゃんと合流する前に連絡を受けましたから!」
雪風が叫んで教えてくれた。成る程、本土から援軍が向かってきてるのか。ならそれがこちらまで駆け付けるまでが勝負だな。
「本当なら有り難い! 私もそろそろ撤退したいが、サブ島方面で戦闘が発生したなら難しい。それよりも目の前の戦闘に集中したい!」
眼と鼻の先と言える距離に二水戦と戦艦棲姫が砲火を交えていた。
駆逐艦、軽巡なら即撃沈する危険性のある砲撃を直撃されないよう、二水戦は回避を重視した動きに徹している。
一方で戦艦棲姫は翻弄された様子で、忌々しげに表情を歪めながら使役する艤装に砲撃させている。
「初風は上空を警戒してくれ。もうすぐ夜が明ける筈だ。敵艦載機の空襲に注意してくれ! 雪風は周囲を警戒。電探ならそれが可能だ、頼むぞ!」
「こんな筈じゃないんだけど、目の前の敵をどうにかしないといけないし仕方無いわね!」
「退路ができたら即撤退ですからね!」
私の指示に二隻の陽炎型駆逐艦が渋々と言った様子で応じてくれた。ここで引き下がっては機会を与えてくれた叢一に顔向けできんのだ、悪いな。
「では往くぞ! 主砲一番から撃ち方始め!!」
艤装に装備された捜索レーダーは入り乱れて動き続ける戦艦棲姫と二水戦を捉え続けている。狙うは戦艦棲姫のみ。MK.63 GFCSが艦影に向けレーダー波を向けると、FCS -1の統制に従って右側の主砲を発砲した。砲弾は敵艦を目掛けて飛翔していく。
「……弾着を確認。効果はない!」
精密な射撃は戦艦棲姫への着弾を成功させたが、目立った損傷はない。敵の重装甲に対して、私の火力は明らかに不足していた。
元は
だが注意を引くには十分だったようだ。私の砲撃で一瞬だが気を取られた戦艦棲姫は、二水戦の一斉雷撃でその何割かに直撃を受けた。
「オノレェェ! アノ時ノ人間ノ船ガ、忌々シイ真似ヲォ!」
呪詛の言葉を吐き出した戦艦棲姫にもはや交戦直後のような冷静は見られない。周囲の二水戦すら無視して私に砲口を向けてくる。
「あんまりこう言う使い方、するものではないがな!」
回避しようと舵を切りながら、左腕の三連装魚雷発射管を向けた。
今の私は駆逐艦叢雲、差別化を図るため第39号駆逐艦に因んで今後はミクと呼ぶが、彼女とは違い装備する魚雷は何もかもが別物だ。
元は敵潜水艦の雷撃から自艦、あるいは護衛対象を守るために迎撃用として装備する対潜誘導魚雷だ。弾頭部のアクティブソナーから音波を発信して、返ってきた音響で対象の位置などの緒元に従って誘導するアクティブ音響ホーミング方式を採用している。
用途としては対潜であるため対艦攻撃には向いていないが、誘導を考慮しなければ攻撃に使用可能な筈だ。
「取って置きの73式だ、持っていけ!」
俵積みの三連装魚雷発射管から圧搾空気で誘導魚雷を射出し、着水した3本の73式魚雷は真っ直ぐ海中を突き進んでいく。
それから数秒後、戦艦棲姫の足元で二つの水柱が立ち上った。
「よし! 上手く当たったようだ」
73式は幸運にも2発が命中した。
要因となったのは二水戦との攻防だった。砲撃の直撃を避けるため激しく動き回る二水戦に対し、戦艦棲姫はそれに意識を奪われ私の魚雷まで察知できなかったようだ。
やりたい事はやった。後は任せるぞ。ミク、叢一。
そう内心で彼らに語りかけ、体のコントロールを手放した。
◇◇◇
「任せなさい。絶対に貴女も連れていくわ」
体のコントロールが戻ったのを知覚しながら小声で呟いた。
むらくもから僕に戻ったと言うことは、彼女はそれなりに満足したのだろう。
さて、そろそろ行動を起こさないと。
「雪風、初風! 付いてきてるわね!?」
「貴女に合わせて航行してます!」
「さっきから何なのよ貴女! ボロボロになって気を失ったと思ったら姿変えて、雰囲気も変わったと思ったらいきなり元に戻って!」
「元に戻ったのは雰囲気だけよ! 色々聞きたいのは分かるけど、今は戦闘中だから後にして!」
初風が興奮しながら叫んできた。ごめん、色々変化したのは事情があるし、話して良いのか正直わからない。これは今後の課題かな。
「て、敵旗艦接近!回避してください!」
雪風が叫んだ。僕の(と言うよりむらくもの)レーダーでもそれは捉えていた。周囲の二水戦を無視して真っ直ぐこちらに向かってくる。
「どうやら相当恨まれたみたいね……!」
言いながら舵を切って回避行動に移った。
とは言え、当然の結果だったかもしれない。気絶した戦艦を抱えた艦隊はたった三隻の駆逐艦が介入して取り逃がし、僕の捨て身の雷撃で少なくとも打撃を受けたのは確か。更にむらくもの攻撃もあって相手も我慢できず、ターゲットをこちらに絞ってきたんだろう。
……暢気に分析してる場合じゃないか。
「雪風、酸素魚雷は!?」
「一斉射分あります!」
隣で並走する雪風が応えた。
「航行しつつ後方に撃って!」
当たるかは分からないが、足止めにはなると期待したい。
「分かりました!」
雪風は叫んで応えると航行しながら右半身を前に、魚雷発射管を後方の戦艦棲姫に向けた。
四連装魚雷発射管から酸素魚雷を一斉に射出した。速力と航続距離に優れた性能から海外で“ロングランス”と呼ばれた魚雷四本が、それぞれの射線を突き進んでいく。
それこら数秒経つと爆発音が一つ背中越しに響いてきた。
後ろを振り返ると舞い上がった水飛沫を弾きながら追い掛けてくる戦艦棲姫が見えた。雷撃を何度も受け続けた影響なのか、使役している艤装からは煙が噴いていた。それに多分、速力が低下してきているように見える。あの分だと相当ガタが来ている筈なのに執拗な追撃を仕掛けてきてる。
相手は頭に血が上ってるし、今なら行けるか。
「雪風、神通に連絡できる!?」
「隊通信で出来ます!」
「このまま敵旗艦を引き連れてサブ島方面に向かう。そこの増援と合流して任せた後はその足でショートランドに帰投する。悪いけどお願い!」
「分かりました!」
返事してから耳に手を当て、集中するように目を閉じた。
「………返信来ました。『追撃を続行しながらサブ島まで送る』、以上です!」
「決まりね。二人とも、悪いけどもう少し付き合って!」
「はい!」
「今回は貸しよ! 覚えておきなさい!」
本土から来たと言う増援に戦艦棲姫撃破の望みを託すため、白雪達と約束を果たすために北へ向かう。
その時のケ島東部とフロリダ島に挟まれた海域からは夜空を明るく染める陽光が漏れ、夜明けの訪れを告げていた。
残念ながらまだ原作イベに相当する作戦は終わりません。ただ次回かその次に決着は着いてると思います。次はようやく撤退戦になりますね。
あとどれだけ待ってくれてる方が居るか分かりませんが鋼鉄小説の近況について。恐らく、早ければ7月、あるいは8月頃に連載を再開できるかもしれません。あと世界線が同じの作品を幾つか検討中、書くかはまだ分かりませんが。
では、宜しければ感想、高評価をお待ちしていますm(__)m
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