死んで叢雲になったわ。なに、不満なの?   作:東部雲

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前回からだいぶ間隔が空いてしまいました。何で遅れたかと言えば、春イベに挑戦してたのと、夏の蒸し暑さで筆が遅れたからです。

あと前回投稿してからは、春イベはこんな感じで進みました。

take1:よーし最新話投稿したしE-2攻略するぞ。→無事攻略。
take2:次はE-3だな、どれどれ。→途中で燃料が底をついて諦める。
take3:なんか期間だいぶ余ってるな、試しにもう一回出撃してもらうか。→ゴトランド泥ナンデヤ!
take4:ゴトランド来てくれたしモチベ沸いたしもういっちょ→ガングート泥エッ?(°Д°)?
take5:まさか、また誰か来ないよね?→巻雲泥→ヤッテヤロウジャネエカヨ!!
take6:やる気取り戻して本腰→無事E-3クリア。

みたいな感じでした。後段は今回も諦めましたが、海外艦も来たし、E-3クリア後は掘りで秋月が来てくれたので満足な結果です。これからは対空艦を育てた方がいいので育成ローテを見直しました。次は後段に挑みたいですね。

では本編をどうぞ


第8話 南方棲戦姫

 むらくもの顕現で三位一体となった叢()、神通率いる二水戦が戦艦棲姫を引き付ける形で移動する頃から時は少し遡る。

 

 月明かり以外海面を照らすものの無かった夜の闇は徐々に薄まり、曙光がフロリダ本島の山々から溢れつつある時間帯に、本土から来た増援の部隊が新たに出現した護衛部隊と交戦していた。

 

 

「夕立、一旦下がるネ! 綾波は突撃するデース!!」

 

「了解っぽい!」

 

「分かりました!」

 

 乱戦状態の僚艦の駆逐艦夕立が飛んできた指示に砲撃で敵艦を牽制しながら後退し、入れ替わりに綾波が猛烈な勢いで敵艦に肉薄していく。

 

 

「綾波が、守ります!」

 

 決意のこもった言葉を叫び、至近距離から叩き込まれた高初速の砲弾が軽巡ヘ級eliteの装甲を食い破り海の藻屑へと変えていく。

 

 

「なかなかheavyな海域デス。ここはbigな敵艦を狙いマショウ!」

 

 英語混じりの訛りがある口調の戦艦金剛は背部艤装で主砲を旋回させ、前方奥にいる戦艦ル級flagshipに向けて指向する。

 

 

「撃ちマス、fire!!」

 

 両手を前に突きだし、41cm45口径連装4基8門が一斉に砲声を上げた。

 

 長門型戦艦に匹敵する火力の砲弾は最新鋭の水上電探が計測した緒元に導かれ、正確に敵戦艦へと降り注ぐ。直後、何発かがル級に命中して文字通り粉砕した。

 

 

「流石は提督がくれた装備デス。これが改二のpower……!」

 

 金剛は最近配備されつつあった新装備でこの海域に出撃していた。

 

 ────改二改装。

 

 既存の艦娘の性能を格段に向上させる、第2の改装に名付けられた総称だった。最初は球磨型軽巡洋艦二隻を対象とした改装が試験的に実施され、その後の実戦で改二改装によって得られた性能を評価されてからは、各地の有力な艦娘に改装が施されていった。

 

 金剛が指示を飛ばした駆逐艦綾波、夕立もその例に漏れず、それぞれが戦時での活躍をモチーフに改装されていた。

 

 金剛もその一隻だった。金剛の戦艦としての戦力を長門型と同等レベルに引き上げたものだが、これは軍縮により建造が中止された天城型巡洋戦艦を参考にしたと言われている。

 

 

「そっちは大丈夫デスか、ヤマチャン!」

 

 叫んだ金剛の視線の先では一隻の戦艦がいる。

 

 

「私は大丈夫です。金剛さんは周囲の敵艦をお願いします!」

 

 交戦中の敵艦と砲火を交えながら艦娘──戦艦大和は叫び返した。

 

 その一方で敵艦は強大だった。

 両腕に付いたハリネズミのごとく砲塔が並んだ艤装を振りかざし、多数の砲門による脅威的な火力で大和と交戦している。

 

 その周囲でも激しい戦闘が展開されていた。

 海上に浮かぶ球状で顔だけの物体が砲撃を行い、その先で二人の艦娘が激しく駆け回っていた。

 

 

「大和には指一本触れさせないわ!」

 

 艦娘の一人──軽巡矢矧は気合いのこもった言葉を叫び、15.2cm連装砲を発砲した。射戦の先にある標的──今作戦の当初から出現が確認されていた護衛部隊の深海棲艦『護衛要塞』は直撃を浴び、近距離の砲撃だったことで火だるまと化していく。

 

 だが護衛要塞は作戦海域に潜む姫級の護衛であり、その数は単体ではなく複数存在した。矢矧は残った数体とも交戦を続ける。

 

 

「こいつらは大和のところには行かせない。……菊月!!」

 

「承知した」

 

 矢矧に呼ばれて銀髪の小柄な少女が前に飛び出した。両手に主砲の12cm単装高角砲を携え、目の前の敵艦群を睨む。

 

 

「私はここでやりたいことがある。沈んでもらうぞ!」

 

 両手の主砲を護衛要塞に向けて発砲する。毎分約11発の速度で発射された砲弾は4秒毎に敵艦を直撃していく。敵艦も反撃してくるが、菊月は装填するまでの間それをかわし続けた。

 

 そこに矢矧の放った砲弾が護衛要塞の隙を突くように直撃、先程と同様火だるまに変えた。

 

 

「菊月、そのまま敵艦を撹乱して!」

 

「了解だ。私では魚雷が使えない以上出来るのはこれくらいだからな!」

 

 護衛要塞は海上に浮かんでいるため砲撃は当たっても、魚雷を当てることはできない。最大の火力である魚雷を封じられた菊月に出来るのは、敵艦の注意を引くことだけだった。

 

 

(矢矧達が抑えてくれている。でも何時次の増援が来るか分からない、早く目の前の姫級を仕留めないと……!)

 

 目の前の敵戦艦と砲撃の応酬を繰り返す大和は焦っていた。

 

 目の前にいるのは今作戦から『南方棲戦姫』と命名された新型の深海棲艦だった。

 今作戦の足掛かりとして実施された強行偵察作戦でも酷似した個体が確認され、その後は強化された個体も含め複数の姫・鬼級が攻略の障害として幾度も作戦海域に展開してきた。

 目の前の敵艦は更に強大な存在だ。当該海域の既に討伐された飛行場姫、敵旗艦を護衛する艦隊の中核となって出現してからは攻略艦隊と交戦、少なくない被害を与えてきた。

 

 南方棲戦姫を脅威としているのは砲撃力もあるが、巡洋艦並の雷撃能力と艦載機運用能力を有していることに起因している。そんな単体として柔軟で強大な戦力を発揮する姫級だが、脅威はそれだけではない。

 

 護衛要塞もまた、南方棲戦姫と同じく砲雷撃戦、航空戦能力を有している。

 単体としての能力は南方棲戦姫には及ばないものの数が多く、その万能と言える性能は深海棲艦の物量もあって昼戦を困難にしていた。攻略艦隊が態々開幕を夜戦で挑んでいるのは、そう言った戦力差を補うためだった。

 大和達のような後から来た増援艦隊も同様であり、夜明けを迎えてからの展開を大和は危惧しているのだ。

 

 

「時間がありません、一気に片を付けます!」

 

 意を決して南方棲戦姫目掛けて肉薄しようと接近する。相手がどれだけ強大でもこちらは大和型、地上最強の戦艦と言われた自分がここで退く訳にはいかない。至近距離の砲撃で少しでも損傷を与えるつもりだった。

 

 だが相手にもその意図が解っているのかそれを妨害するように、両腕の凶悪な艤装が口を開いて雷撃してきた。

 

 

「各砲門、各個に迎撃開始!」

 

 急速に舵を切り回避しながら主砲、副砲を海面に向けて発射した。着弾で生じる衝撃と波で敵魚雷の信管を誤作動させる狙いだ。

 海面に多数の水柱が屹立する。直後、海面下で爆発が生じて水飛沫を撒き散らした。

 

 南方棲戦姫の放った魚雷群が信管の誤作動で爆発したのだと確信し突撃しようとしたその時、水飛沫のカーテンを引き裂くように敵の艦載機が飛び出してきた。

 

 

「主砲再装填、弾種三式弾!」

 

 恐らく敵機は南方棲戦姫が発艦させたものだ、夜明けを迎えたことで発着艦が可能になったのだろう。冷静に分析すると、頭上の敵攻撃隊を撹乱する為にジグザグに動く。対空戦闘における戦闘航海術『之字運動』だ。しかも時折蛇行を含めることで敵に予測させず、その間に主砲を上空に向ける。

 

 

「全主砲、薙ぎ払えッ!!」

 

 号令の直後、砲撃で大和の周囲を衝撃波が襲う。主砲の仰角を最大にして放った砲撃は、立っている海面のほぼ全周囲に巨大な波紋を作り出した。

 続けて上空の敵機群を三式弾に内蔵された無数の子弾が襲い、海上の空を炸裂した対空砲火と相次ぐ敵機の爆発が彩る。

 

 

「これなら、……ッ!? 敵機!」

 

 たった今撃破した敵機とは別の編隊を大和の42号対空電探が捉えた。反応は4機、こちらを目掛けて真っ直ぐ接近して来ている。主砲は先に斉射したため直ぐには撃てない、高角砲と機銃で対応するしかなかった。

 

 だが目前には南方棲戦姫がいる、姫級に加え敵機群まで同時に相手するのは危険すぎる。

 

 

(それでも後には退けない、覚悟を決めるしか……)

 

 でなければ随伴の金剛達がもたない。ここで敵の戦力を削り取っておく必要がある。顕現して間もない戦艦娘が悲壮な覚悟を決めかけたときだった。

 

 ここから少し離れた位置から砲声が響き渡った。直後に空気を切り裂く音がすると、上空の敵機が爆発した。

 すぐに再度の砲声が響き渡る。突然僚機が墜されて状況を掴めずただ旋回していた敵機群は先と同様爆発、次々に撃墜されていく。

 

 この現象を生んだ主は大和の電探で捉えていた。それが示す方角に振り向くと、そこには駆逐艦娘らしき少女がこちらに向かって来ていた。

 

 

『こちらはショートランド泊地所属、駆逐艦叢雲。そこの友軍艦隊、今のうちに態勢を建て直しなさい! 上空の敵機はこっちで引き受けるわ!』

 

 叢雲と名乗った艦娘は無線でそう告げてから、再び対空射撃を開始した。

 

 

 

          ◇◇◇

 

「十七駆は突撃してください! 十八駆は私と一緒に敵旗艦の要撃、十六駆は叢雲さんと敵機の迎撃を開始してください!!」

 

 神通の飛ばした指示に「了解!」と周囲から返事が返ってくる。それから弾かれるように谷風達第十七駆逐隊、陽炎達第十八駆逐隊が飛び出していった。

 

 

「叢雲さん。私はショートランドに帰還できるよう安全を確約しました。残念ながら貴女は一度大破相当の被害を受けてしまいましたので、それを守りきれなかったのは申し訳なく思っています」

 

 何かの前置きのように言いながら背後から迫ってきた球体の深海棲艦──多分護衛要塞かな? を振り返らずに砲撃して撃破した。彼女の後方で火柱と硝煙が立ち上って少し怖い。思わず対空射撃を止めてしまった。

 

 

「ですが、現地に近付いた途端対空射撃して、勝手に話を進める許可まで出した覚えはありませんよ?」

 

 怒ってる。レーダーでサブ島沖の戦闘を確認したのは雪風達に話して、彼女達経由で神通達に伝わったからそれは良いんだけど、神通が今言った通り敵機の迎撃を勝手に請け負った事がいけなかったらしい。

 

 

「え、えーと。悪かったわ、ごめんなさい。つい勢いで」

 

 と言うか今の神通さん(・・)、目が怖い。顔は柔らかく微笑んでるんだけど目が笑ってない。眼光が氷みたいに冷たい光を帯びてる気がしてきて、目を逸らしたいけど逸らしちゃいけない気がして逸らせない。

 

 

「神通さん、それくらいにしましょう。初風達が敵機との交戦に入ってます」

 

『叢雲ッ、貴女対空射撃が得意なんでしょ! いい加減手伝いなさい!』

 

 目の前の戦況もあるのか、見かねた雪風が助け船を出してくれた。前方では敵機の機銃掃射を受けながら交戦する初風達が見える。無線からは切羽詰まったような叫び声を伝えてきた。

 

 

「そうですね。叢雲さん。ここの安定化が出来次第、貴女は雪風さん達とショートランドに向かってください。それまでは敵機の排除をしてください。私は敵旗艦を抑え込みます」

 

 そう告げてから反転して後方に遠ざかっていく。後方の海上では、幾度も繰り返された攻撃で明らかに消耗した戦艦棲姫が忌々しげに叫んでいた。

 

 あちらは神通達に任せて大丈夫だろう。意識を後方から前方の敵機群に移した。護衛の雪風が前に出て駆け出し、僕も後を追う。

 

 

「次発装填良し、主砲照準!」

 

 前方の敵機を睨み叫ぶと、攻撃を再開する意思に従って左右の76mm連装速射砲が駆動する。主砲に内蔵されたMk.63 GFCS(砲射撃指揮装置)と第1方位盤のFCS -1B(72式射撃指揮装置1型B)が前方の敵機群を捕捉し、目標の諸元に従って照準した。

 

 

「墜ちなさい!」

 

 再び発砲した。本来むらくもの主砲は前大戦後期から必要に迫られた米海軍が戦後に配備したものだ。発達したGFCSと自動装填装置の恩恵を受けた強力な両用砲が、敵機に猛然と砲弾を浴びせかける。

 

 敵護衛部隊は新たに艦載機を発艦させたらしく、先に砲撃して数を減らした部隊に合流しようとする部隊が見えていた。合流される前に直近の部隊を殲滅するため、各砲門を交互に射撃して畳み掛ける。

 

 元々想定していない連射速度と高精度だったみたいで、某自衛艦がタイムスリップするアニメみたく砲弾は命中して敵機を墜としていった。

 

 

「敵機群α(アルファ)を撃滅したわ!」

 

「叢雲ちゃん、敵機が分散しました!」

 

 雪風が叫んでそう伝えてきた。僕もレーダーでそれは把握している。どうやら部隊を二つに分けたみたいだ。

 付近で戦闘中の大和らしい艦娘がいる艦隊を迂回するように遠回りする小規模の一群、β(ブラボー)と呼ぼう。次に、現海域に点在する反応が確認できる。多分護衛要塞の艦載機か、これは仮称でC(チャーリー)と呼ぶことにする。

 

 

「雪風。私は敵機群βを叩きにいくわ! その間は水上戦闘は難しいから、援護して!」

 

 これはむらくもの抱えていた欠点だった。対空射撃だけなら先程みたいにFCS-1BとMk-63を併用すれば問題はない。ただ、対艦対潜いずれかを同時にこなすのには無理があった。

 

 例えば今僕はむらくもの状態になっているけど、まだ使っていない兵装では無人対潜哨戒機DASHがある。これはむらくもの記憶の通りなら、当時の海上自衛艦が熱望した期待の新兵器だった。

 残念ながら米海軍でも事故が多発したせいで運用は中止され、後からアスロックに変更された不遇の兵装だったけど。

 

 話を戻そう。実は、むらくもにはDASHに関係する弱点がある。DASHの誘導には第1方位盤のFCS-1Bが必要で、使用中は対潜以外の目標を同時に捕捉できない。その間は手動のMK.63しか対空戦闘に対応できず、みねぐも型が抱える最大の欠陥であり当時の課題だった。

 

 これは対艦でも同じのようだ。対空だけなら良いけど、水上目標まではFCS-1Bで処理しきれずどちらか一方のみとなってしまう。

 

 

「分かりました。行きましょう!」

 

 だからこそ雪風達第十六駆逐隊に頼るしかない。それに対して申し訳なく思う一方で雪風は快諾してくれたので正直ありがたい。

 

 サブ島沖の戦線を安定させるため、移動する敵機群βを迎撃するため移動を開始した。

 

 

 

          ◇◇◇

 

「磯風。右から雷跡が来とる、回避じゃ! 浜風の後方から敵機、迎撃してや!」

 

 神通の指示で増援艦隊を援護するため、突撃した第十七駆逐隊は敵護衛部隊と混戦状態にあった。

 

 海上は敵護衛部隊のイロハ級(姫・鬼級、護衛要塞以外の深海棲艦)や護衛要塞、上空は護衛要塞と南方棲戦姫が発艦させた艦載機と多数だ。それでも数的不利を補うため、駆逐艦浦風の指揮のもと敵艦隊と近距離戦闘を展開していた。

 

 

(全く呆れた物量じゃけぇ。あの駆逐艦にはいつか借りを返して欲しいものじゃね)

 

 海上を包む爆音と衝撃のなかを駆け抜けながら、浦風は内心呟いてある場所にチラリと視線を向けた。

 

 その視線の先では二基の主砲のみで強力な対空弾幕を展開する叢雲の姿がある。

 とは言え、彼女が本当に駆逐艦叢雲なのかについて浦風は疑問だった。

 

 明らかに駆逐艦叢雲には無かった筈の、前世の日本海軍にも無かった強力な兵装は寧ろ、当時戦争していた敵国の軍艦を彷彿とさせるものだったからだ。

 

 

「考えても仕方ないけぇ」

 

 疑念に関しては叢雲本人に聞くしかないだろう。実際、彼女はその力を実戦で問題ないレベルで運用できている。なら、それが何なのかぐらい把握してる可能性は高い。

 

 だからこそ浦風は。

 

 

「金剛姐さんと久しぶりに会ったんじゃ。さっさと終わらせて帰投するけぇ! おどりゃァ! そこ退けやぁ!!」

 

 尊敬する戦艦娘と過ごす時間のため、叢雲に対する疑念を隅に追いやり、ドスの利いた声を響かせた。

 

 

 

           ◇◇◇

 

 上空で砲弾が爆ぜるたび、敵機が火だるまになりながら墜ちていく。その直下で海面を駆け抜けながら敵艦隊と激しく撃ち合い、余裕があると雪風は上空を見上げててその様子を見ていた。

 

 現在、雪風達第十六駆逐隊は叢雲の護衛に徹していた。

 敵機に関してはほぼ叢雲に委任している。あの迎撃能力は日本国防海軍が保有するどの艦娘より優れていると、という確信から雪風は判断したからだ。

 

 高精度のレーダーを装備しているためか、精密な射撃によって敵機を高確率で撃ち落としていく。装填速度も高速で、矢継ぎ早に撃ち出される砲弾は上空で多数の硝煙を短時間に生み出した。それだけで敵機群は甚大な被害を被り、攻撃のたびに不発で終わる。

 

 圧倒的と言える対空能力はこの上なく、自分達は唯一速力で劣る叢雲をカバーするため水上戦闘に徹していた。第十七駆逐隊とも連携し、偶発的に生じる穴を補い合って叢雲の防空戦闘を支援する。ただそれだけに雪風は集中していた。

 

 敵艦隊は巡洋艦相当の護衛要塞を中核とする編成で、乱戦に持ち込めば勝機はあるはずだ。

 

 

「雪風~、タイミング合わせて?」

 

「分かりました!」

 

 パッと見れば垂れ耳と見紛う特徴的な髪を揺らして時津風が駆ける。それに続いて雪風が後を追う。

 

 前方には複数の護衛要塞。近付かせまいと主砲を撃ち、海面に水柱を乱立させる。それに対して時津風と雪風は躊躇なく水柱に突っ込み、水飛沫を吹き飛ばしながら撃ち返した。雪風は隙を見て背中の四連装魚雷発射管から九一式酸素魚雷を引き抜き、至近距離からぶつける。

 

 本来なら至近距離だと誤爆の危険もあるが、護衛要塞は宙に浮いてるため雷撃は通じない。かといって最大の火力を遊ばせる訳にはいかないと考えた雪風は今のような行動に出たのだ。

 その甲斐もあってか至近距離からの魚雷投擲は功を奏し、護衛要塞は一撃で沈んでいった。

 

 時津風もまた同様の行動を取ったが、誤爆の影響を受けてしまい若干の損傷を受けてしまった。

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

「ちょっと痛いけど平気。護衛要塞は沈めたし~」

 

 時津風は間延びした口調を崩さずに返した。雪風と共通するセーラー服はボロボロだが、艤装の具合から見て中破には至っていないようだ。

 

 無事を確認できたのですぐに動いた。違う敵と交戦していた初風や天津風を援護して、第十七駆逐隊の支援を受けながら攻撃していく。

 

 二個駆逐隊の活躍で戦況を優位にしつつある時だった。

 

 彼方から砲声が響き渡る。叢雲の護衛をしていた第十六駆逐隊の陣形中央に砲弾が落ち、巨大な水柱が上がった。

 

 

「叢雲ちゃん!」

 

 陣形中央に居たのは叢雲だ。水柱はそこで上がっている。安否を確かめるため駆け寄る。

 

 

「……無事よ、と言いたいけれど。不味いわね……!」

 

 水柱が消えて出てきたのは中破した叢雲だった。

 

 艤装は二基のうち一基を喪失、左腕の三連装魚雷発射管も脱落している。

 服もあちこちが破れていた。脇に空いた隙間からは傷から血を出し、左手でそれを押さえていた。

 

 

「大丈夫ですか!? 傷の具合は」

 

「この位なら航行に支障はないわ。速力は落ちたでしょうけれど」

 

 そう返した叢雲は砲撃が来た方角を睨んだ。

 

 その視線の先には一体の深海棲艦がいた。

 外見はは南方棲戦姫によく似ているが、艤装の細部が異なるため別の個体のようだ。

 雪風はそれを知っている。この海域の攻略のため、交戦した経験があったからだ。

 

 

「……南方棲鬼」

 

 南方棲戦姫に次ぐ脅威、鬼級の深海棲艦だった。




今回は間隔が空いた分長めです。次回はクライマックスにしたいなぁと考えてますけど、予告詐欺しそうでちょっと不安ですね(汗)

あと鋼鉄小説の再編集は進めています。この分だと来月になりそうですが、頑張って再開できるようにします。

艦娘運用母艦なるものを出したいけどどうしよう?

  • 艦娘用カタパルト装備で二段式甲板の空母型
  • 強襲揚陸艦ベース
  • 内火艇と同じ発艦方法でいい
  • 考えるな、感じろ

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