死んで叢雲になったわ。なに、不満なの?   作:東部雲

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第一二駆逐隊が、書きたい……!(挨拶)

前回から投稿が2ヶ月以上滞ってしまいましたが、現在執筆中の鋼鉄小説も併せて頑張って書きますので、気長にお待ちください。

とは言え、あんまり投稿の間隔が長いと分からないところもあると思うのであらすじを以下に書いときます。


         あらすじ

一度は死んだ叢一は駆逐艦叢雲の艦娘として顕現して目覚め、自分だけが逃げることを拒否して叢雲の意思に従って決意した。
目覚めたショートランドを出航して出会った駆逐艦雪風、神通率いる第二水雷戦隊の支援を受けてサブ島に向かい、轟沈寸前の大破に追い込まれた。
その時、過去に沈んだ自衛艦むらくもの意思と交信し、彼女のチカラを借りて復活を果たす。
その後、二水戦と協力してサブ島近海で護衛部隊と交戦する本土からの増援と合流、戦線の安定を待った。
そんな叢一の防空戦闘中、突然砲撃を受けて損害を被る。砲撃してきた方角にいたのは鬼級の深海棲艦、南方棲鬼だった。


第9話 集結

 ここまで来て大きすぎる痛手を負ってしまった。

 僕の視線の先には、2013秋イベの前座に当たる夏イベの海域ボスだった南方棲鬼がいる。

 

 調べた当時の記憶が確かなら、後発のイベント海域には出てこなかったはずだ。戦艦棲姫が出てきた現状から、原作で言えばE-5に相当する戦況だと思う。原作とは異なる展開、と言うことは。

 

『この世界が必ずしも叢一の知識と同じとは限らない、と言う訳だな』

 

 !? ……この声、ひょっとしてむらくも?

 

『その通り、私だよ。ミクの奴がやったように、私も回路を繋げて話し掛けてるのさ』

 

 き、器用だなぁ。あと、ミクはやめてあげて? 今、叢雲が咎めるように意識向けてるから。

 

『そんなことよりこちらの被害状況だ。控え目に言ってこれは不味い状態だぞ』

 

 そ、そんなことって。とは言え、むらくもの言う通りだった。

 

 先に砲撃を受けるまで継続していた防空戦闘で唯一にして最大の火力、76mm連装速射砲を一基潰されてしまった。おまけに機関がダメージを受けたらしく、背中の艤装からは煙が吹いている。

 

『それだけじゃない、主砲に内蔵されたMk-63も同時に喪失した。幸い72式射撃指揮装置は無事だが、それでも防空火力は半減している。同じ理由でバウソナーをやられているし、体も負傷しているから長くは持たないぞ』

 

 砲の射撃レーダーが使えないのは、水上、対空捜索レーダー以外の“目”を失ったに等しい。

 “耳”はもっと酷かった。使えるか怪しい『DASH』を除けば唯一の対潜索敵可能な手段が潰されたのだ。こんな状況で雷撃なんてされたら溜まったものではない。

 

 怪我も無視できるレベルじゃない。砲弾の破片が掠ったようで、着ている衣装は右脇腹辺りから破けて裂傷を負っている。実際、そこが焼けるように酷く痛い。左手で押さえてはいるが、なかなか血が止まらない。

 

「……怪我については今はどうにもならないわね」

 

 言いながら右脇腹の患部から手を離すと、傍らで叢雲()を庇うように対空射撃する雪風に声をかけた。

 

「雪風、私はこれから離脱する。援護はもう充分よ」

「何言ってるんですか!? ただでさえ中破して怪我してるのに、放ってなんておけません!」

「主砲が一基だけでも敵機は何とかなる。上空に弾をばらまいてでも、何とか逃げ切るわよ」

「敵艦が相手ならどうするつもりですか! 同時に相手できるはずありません!」

「何とかするって言ってるでしょ!! 元々、私のわがままに付き合ってくれてただけでしょうが!」

 

 雪風と問答するうちに熱くなってつい怒鳴った。僕自身よりこれは叢雲の感情によるものだと思うけど、このままだと足手纏いにしかならないのは僕も同感だった。

 

「……初風ちゃん!!」

「はいはい、しょうがないわね」

 

 雪風が唐突に叫んだ。名を叫ばれて応じた初風が僕の右側に回り、雪風が反対に回ってそれぞれ腕を掴んできた。

 

「アンタ達、何してるのよ! 私を曳航なんてしてたら狙い撃ちにされる! 早く離れなさい!」

 

 両腕を掴んで引っ張る二人に止めるよう頼んでみた。

 

「雪風? スクラップがなんか言ってるけど」

「大人しく運ばれてもらいます! 浦風ちゃん!」

『了解じゃ雪姉! うちら十七駆に任しとき、離脱まで援護するけえ!』

 

 全く聞いてくれる様子はなかった。無線でやり取りしたあと、レーダーに浮かんだ4つの反応、浦風達第十七駆逐隊が離れた場所にいる大型の反応目掛けて突き進んでいく。

 

 その反応は新たに出現した南方棲鬼だ。戦艦棲姫、南方棲戦姫程ではないがその戦闘力は脅威的。一個駆逐隊で時間稼ぎができるかも分からない。

 

「離しなさいよ! アンタ達は陽炎型で、私は旧型の吹雪型だから優先されるべきはどちらかなんて明らかじゃない!」

「だからって見捨てられません! 叢雲ちゃんはドロップしたばかりで、まだこの世界で同位体も存在しないんです! 生まれて一週間も経たずに沈ませるわけにはいきません!」

 

 何を言っても雪風は拒絶するだけ。彼女の意思はそれだけ固いのは分かる。それでも僕も叢雲も、状況はそれを許さないくらい厳しいことをレーダーで把握できていた。

 

『雪風さん! 敵旗艦がこちらの包囲を抜けました! 逃げてください!』

 

 無線が神通からの警告を伝えてきた。相手の動きはこちらのレーダーでも把握していた。周囲にいた複数の反応を置き去りに、一息に包囲を抜け出したからだ。

 

 続いて砲声が轟いた。それから間もなく周囲の海面に着水。大きく歪んだ海面に足を取られそうになっても転覆しないのは幸運だったが、このままでは本当にまずい。

 

「相手の狙いは私よ! このままじゃアンタ達も巻き添えを食らうわ、逃げて!」

「嫌です! 雪風は目の前で誰かが沈むのを見るのはもうたくさんです! 叢雲ちゃんも雪風も、みんな沈みません!」

「もうそれどころじゃない! 今の砲撃は夾叉してる、次は狙い撃ちにされるわよ!」

 

 二人に運ばれながらでもそれは把握できていた。今の砲撃で左前方、右後方に砲弾が着弾していた。次は確実に当てに来る。良くて至近弾、それでも中破以上の損害を受ける可能性が高い。それでは雪風達まで逃げられなくなってしまう。

 

 後ろを振り返る。視線の先では戦艦棲姫がこちらに砲口を向けていた。

 

 先の砲撃が夾叉した以上、次は確実に当てる気だ。

 

「こんなところで、せめて行き足だけでもっ! ……レーダーに反応?」

 

 何とか足止めはしようと無事な左の主砲を旋回させようとした時、レーダーの索敵範囲の端に反応が浮き出た。索敵距離の外から来たようだが、見たところ反応が一つだけだ。

 

 戦艦棲姫が発砲した。間もなく砲弾が飛来するだろう。直撃しなくても海面に着弾する衝撃波の威力だけでも危険だ。無事ではすまない。

 

 ガァンッ!!

 

 硬質な打撃音が響いた。直後に戦艦棲姫が発射した砲弾は真横に弾かれ、付近の海面に着水して強烈な爆発を引き起こした。どうやら榴弾だったらしい。

 

「──間に合ったみたいですね。良かった……!」

「……どうやってレーダーの索敵距離の端から」

 

 反応が目の前の存在、戦艦の艦娘だったのは分かる。でもむらくもが装備するレーダーの索敵距離は、第二次大戦時のそれより世代が進んだ性能を持っている。その索敵距離の端からほんの一息に移動してきた。航空機でもこんな早くは来れないはず。

 

「一体どうやってこんな早く駆けつけたのよ、比叡」

 

 艦娘として目覚めて、必ず帰る約束をしてショートランドで別れた比叡がそこにいた。

 

 お馴染みの改造巫女装束は煤で汚れているが大した損傷はない。ここまでほぼ無傷の状態で突破してきたんだろう。

 片目を瞑りながら、右手を左右に振っている。アニメ版のように砲弾を殴り飛ばしたからだろう、ル級より更に強力な戦艦棲姫が放った砲弾の衝撃はそれなりにキツいようだ。

 

「どうやってと聞かれても、とある艦娘に投げてもらった(・・・・・・・)だけですよ」

「……は?」

 

 何を言ってるんだろう。意味が分からない。

 

「叢雲ちゃん、右舷前方に水柱が立ちました」

 

 雪風が報告してきた。言った方向に視線を向けると、水飛沫が舞い上がっているところだった。

 

「……は?」

 

 本日2回目の理解が追い付かないことによる困惑。

 

 水飛沫が上がった中心の海面には艦娘が立っていた。しかも両脇に駆逐艦らしい艦娘を抱えている。

 

「相変わらずあの人も無茶しますね。白雪ちゃんも初雪ちゃんも、あれで延びてないといいですけど」

「ひ、比叡? あの人って誰なのよ!? て言うか何したのよ!」

 

 白雪と初雪が一緒のようだけど、僕にはそれどころじゃなかった。

 

 比叡が瞬間的に移動してきた直後にも、移動元の地点には反応が残っていた。もしかしたらギリギリレーダーの索敵に引っ掛からなかっただけかもしれないけど、比叡が言ったことが正しければ艦娘を投げたのだ。しかも戦艦を。

 

「詳しいことは後で説明します。今は叢雲ちゃんをショートランドに連れて帰ります!」

 

 比叡はそう叫んでから主砲を上空の敵機に向け砲撃、直後に無数の子弾が上空で炸裂した。

 

 

 

          ◇◇◇

 

 戦闘海域に突如乱入した比叡の参戦に叢雲達が呆然としていた頃、同じく乱入した艦娘三人が動き出そうとしていた。

 

「……ふぅ。流石に今のは堪えましたね。初雪ちゃん、大丈夫ですか?」

「ん……、平気。これくらいなら、川内さんの夜間訓練で慣れてるし」

「あまり無理しないでくださいね。顔が少し青白いですよ」

「健康的に、見えないのは元から……だし」

 

 軽口を叩きあってるのはショートランド泊地に所属する駆逐艦白雪、初雪の二人だ。

 

 叢雲がショートランドを出発してから少しして艤装の修理と補給、高速修復材を使った入渠が済んで急ぎ出発したのだ。

 途中、艦載機が薄暮攻撃で壊滅して帰路についていた飛鷹とすれ違った。その際に叢雲が二水戦と合流して先へ進んでいったことを教えられ、自分の分まで頼むと託されてきた。

 

 頼もしい同行者ともその後に合流出来た。比叡を常識はずれのチカラで投げ飛ばし、自分達二人を抱えて戦闘海域のど真ん中に突入した艦娘だ。

 

「こちらは日本国防海軍“特務艦隊”旗艦薩摩。作戦海域に進入しました。これより交戦します」

 

 その艦娘は無線を使って周辺の友軍に呼び掛けた。

 

 艦娘の名は準孥級戦艦薩摩型一番艦薩摩。

 旧日本海軍がそれまで英国のヴィッカース社に発注してきた戦艦の建造技術を元に建造した、国産初の準弩級戦艦である。同時に最古参の第一世代艦娘でもあった。

 

 薩摩は伊勢型の艦娘を小柄にしたような容貌だ。金剛型のように巫女服ではなく、時代によっては一般的な、大正時代の女学生が着る純白の着物姿だった。

 髪形は左のサイドテールで、艦橋のマストを模した細長い髪留めが印象的だ。

 

 彼女の言う特務艦隊とは日本国防海軍

──戦後の海上自衛隊を前身とする組織──

のトップである総長直属の精鋭部隊のことだ。一部の例外(理由があって提督、あるいはそれに相当する権限を有する艦娘)を除いた国内の全艦娘、及び佐官までの提督より強大な権限を有し、前線では作戦に参加する艦娘を指揮する事が許されている。

 

『こちら横須賀第3の金剛デース! 薩摩サン、ようやく合流してくれたネ! 待ちくたびれマシター!』

 

 無線で薩摩の到着を知った金剛が呼び掛けてきた。

 

「ごめんなさいね。大和の実戦テストと、貴女の改二の慣熟訓練のために“ひゅうが”まで動かして、南方に来たはずなのに途中で別れてしまって。それでも必要だったから。勘弁して、ね?」

 

 補足を入れるなら、途中で装甲空母鬼を沈めてきてたりするのだが、薩摩にとって些事でしかないためこの場で言うつもりはない。傍らで初雪がジト目を向けていたが気付かない振りをしておく。

 

『無茶はこれっきりデスヨ? ワタシは敵旗艦の邀撃に回りマース!』

「承知したわ。私は南方棲鬼を叩く、以上」

 

 金剛との無線のやり取りを終えて、右腰から提げている軍刀を抜いた。

 

「白雪、初雪。貴女達はショートランドの新規ドロップ艦、駆逐艦叢雲の護衛に就いて。私は南方棲鬼を斬ってくる」

「了解、お気を付けて」

「あの程度なら問題ないわ、心配しないで」

 

 白雪に見送られながら海面を蹴り、勢いよく駆け出す。

 

「まずは注意を引き付けるべきね。まだ舞鶴第一の十七駆が頑張ってるようだけど」

 

 一個駆逐隊のみでは分が悪いのは日本国防海軍の精鋭でなくとも容易に理解できることだ。一度彼女達から南方棲鬼を引き離そうと、第一主砲で狙いをつけた。

 

「第一射、撃ち方始め」

 

 呟き、右腕の30.5cm連装砲を発射した。少しして砲弾は南方棲鬼の間近に着弾、海上に二つの水柱を立てた。

 

「着弾を確認。至近弾ね」

 

 スッ、と目を細めて彼方遠くにいる深海棲艦を見ながら呟いた。

 

 艦娘は艤装を装着する限り、その視界は生身の人間を遥かに超えている。その視認距離は軍艦時代の艦橋の高さに比例すると言われ、現在は扶桑型二番艦がその特性を生かし、日本国防海軍を代表する艦娘の一人に数えられている。

 

 砲撃を受けた南方棲鬼はこちらに気付いたらしく、腕の艤装に配置された多数の主砲を斉射してきた。

 

「なかなか良い砲撃ね。でも」

 

 直後、薩摩のいる海面を砲弾が着水、巨大な水柱を立てる。

 

 だがその頃には薩摩の姿はない。発砲してくる直前に右足を一歩踏み出し、南方棲鬼との距離を一息に半分まで詰めた。

 

「私には通用しないわ」

 

 その瞬間は南方棲鬼にも見えていたようだ。跳躍能力の高いとされる敵旗艦でも不可能な距離を跳んだのだろう、理解が追い付いていないことはその表情から手に取るように分かった。

 

「片腕を貰う」

 

 宣言すると同時にまた一歩踏み出し、南方棲鬼との距離を至近にまで詰めた。間髪入れずその手に携えた軍刀を一閃する。

 

 次の瞬間、装備する主砲の半分は切断されていた。

 

「ナ……ッ!?」

 

 南方棲鬼は驚愕の声を上げた。あまりに非常識な展開に思考が追い付かないのだろう。一瞬だが硬直して隙が生じた。

 

「遅い」

 

 当然、薩摩は一瞬だろうと硬直した隙を逃しはしない。

 更に軍刀を一閃、今度は左腕の艤装を損傷させる。

 焦ったように振りかぶった右腕の艤装を蹴ることで防ぎ、苦し紛れに放った魚雷は最低限の動作で避けるか信管を避け、掴んで投げ返した。

 

 目前で南方棲鬼が水柱に包まれた。水飛沫が収まると満身創痍になった状態で現れる。忌々しげに、闇のように黒い血を体の至るところから流しながら、恐ろしいものを見るような表情で薩摩を睨んだ。

 

「バ、ケモノメェ……!」

深海棲艦(アナタ達)と一緒にしないで」

 

 南方棲鬼の怨嗟の叫びに対して、薩摩は否定するだけだった。右腕の主砲を南方棲鬼に向ける。

 

「沈みなさい」

 

 その言葉を最後に、南方棲鬼は至近距離からの砲撃による高初速の砲弾の直撃を受け、バイタルパートを大した抵抗もなく貫かれて巨大な爆発を引き起こした。

 

 

 

          ◇◇◇

 

 薩摩が南方棲鬼と交戦し始めた頃、彼女と分かれた白雪と初雪は行動を開始していた。

 

「まずは叢雲ちゃんの近くまで辿り着きます。邪魔な障害は残らず排除です!」

「……ん、了解っ」

 

 白雪の叫びに対して、初雪は何時になく気合いを入れて応えた。

 

「砲雷撃戦用意! 突撃します!!」

 

 烈帛(れっぱく)の気合いを込めて叫ぶと、白雪は両手に装備した12.7cmA型連装砲を油断なく構えて最大戦速で疾駆する。初雪もそれに続いた。

 

「対空迎撃、対潜攻撃はこちらで引き受けます。初雪ちゃんは十八番の雷撃でお願いします!」

「分かった。九三式を、浮遊要塞に……ぶつける!」

 

 白雪の指示を受けて、初雪は足の三連装魚雷発射管から九三式酸素魚雷を取り出した。そのまま主砲を持つ右手とは別に、左手で3本保持する。

 

 敵が攻撃してきたのはその直後だった。上空の敵機が二個小隊6機で接近してくる。片方は雷撃機、もう片方は爆撃機のようだった。それぞれ魚雷と爆弾を抱えている。

 

「主砲で弾幕を張ります」

 

 白雪は両手の主砲を上空に向けて、宣言通りに発砲した。それぞれの主砲の第1砲塔から交互に砲弾を吐き出し、次弾装填までの間隔を減らすように射撃していく。

 

 彼女の放った対空弾幕は精度も秀逸だった。最初の一発は予測した敵機の未来位置に放たれ、撃墜した。対空戦闘には不向きの平射砲であるA型にも関わらず、正確に命中させたのだ。

 

 対空戦闘の戦果はそこで留まらない。いきなり僚機が被弾したことで警戒した残存機は散開するが、それすら予測して未来位置、あるいは行動を制限するように弾幕を形成していった。

 

「有効圏内に浮遊要塞を捉えた」

 

 白雪が敵機を相手取ってる間に、初雪は前方に何体かの浮遊要塞を睨んだ。

 

 浮遊要塞は二水戦が護衛する叢雲との中間に展開していた。彼女の元に急ぐなら、立ちはだかってるあの連中は邪魔だ。

 

「ここは通して……貰う、からっ。魚雷なら北上さんにも、負けない!」

 

 更に前へ前へと突進する。駆逐艦の持てる最大の切り札をぶつけるために、確実に叢雲を護るために。

 

 まだ艦だった頃、初雪は航行不能で爆発炎上した叢雲を雷撃処分した。本当なら魚雷はあまり好きではない、その時の記憶を思い出しそうだからだ。

 

 だが今だけは、初雪は魚雷の威力を信じることにした。手に持ったそれが叢雲を救うことになると信じて。

 

「ここだっ。酸素魚雷、い、けぇーっ!」

 

 腹から有らん限りの声を張り上げ、両手に挟んで持つ魚雷を放るように投擲した。近距離まで近付いて投げ放った魚雷は放物線を描き、浮遊要塞数隻に向かう。

 

 それらは見事命中した。まさか直接投げるとは予想していなかったのもあるが、浮遊要塞は発艦させた艦載機を管制しているため反応が遅れたのだ。酸素魚雷の爆発の威力に堪らず沈んでいく。

 

「道が、開いたっ。白雪」

「分かっています。行きましょう!」

 

 それからも途中、妨害してくる敵駆逐艦を蹴散らしながら目指す方向に突き進んでいく。

 

 その先で、遂に辿り着いた。

 

「叢雲ちゃん!!」

 

 白雪は呼んだ。今まで待ち続けた、今度こそ守ると決めた妹の名前を。

 

「白雪。初雪も……っ!」

 

 叢雲も白雪達の名を呼び返した。強気そうな印象を与えるつり目の端からは滴のようなものが流れている。

 

「ここからは私達も援護します! 一緒に帰りましょう!」

「ん。雷撃なら、初雪に全部……任せて」

 

 叢雲を守るための布陣に、二人の特型駆逐艦が合流した。

 

 

 

 ◇◇◇

 

「ここからは私達も援護します! 一緒に帰りましょう!」

「ん。雷撃なら、初雪に全部……任せて」

 

 白雪達は頼もしい言葉で励ますように言ってきた。

 

 僕が泣いてることに気付いたのはその直後だった。

 白雪の見惚れるような弾幕を見て思わず呆然として、初雪の果敢な突撃で浮遊要塞を沈めようとする辺りから既に泣きそうだった。その後の突撃で、今まで抑えてきた不安もあり彼女達の頼もしさから我慢が出来なくなったんだろう。

 

 何より嬉しいと感じたのは叢雲だったと思う。比叡が、白雪達特型駆逐艦の姉が助けに来てくれたことは素直になりきれない叢雲も、ありがとうと言いたがるはずだ。

 

 でも、今はそれより優先することがある。

 

「雪風。曳航しながらでも砲は撃てる?」

「叢雲ちゃん? はい、可能ですが……どうしてそれを」

「ここからは、私にしか出来ないことをやる。何も聞かず、私の指示に従ってもらえる?」

 

 これからやることは、生還を確実にするための物だ。

 だがこれは、現状の指揮系統を混乱させかねない。これで断られたら諦めるしかないだろう。

 

「……神通さん。私達十六駆は一時的に、駆逐艦叢雲に指揮権を譲渡します。これに関しては雪風の独断です。処分は覚悟しています」

『……何か策があるようですね。分かりました。後で始末書と反省文を叢雲さんと一緒に書いてくれれば充分ですよ。こちらは敵旗艦の邀撃を継続します』

 

 唐突な頼みを雪風は神通=サンと無線でやり取りする形で応えた。何もかも終わった後からも大変そうだけど。

 着任して早々に始末書と反省文は艦娘として珍しいのかな? それはそれで不名誉だけど、まあ仕方無いか。

 

「感謝するわ。……これから雪風達の行動は私から指示していくから、その通りに動いて。私のレーダーと72式射撃指揮装置(FCS-1)を使って海上の管制に専念する」

「敵機迎撃に使っていた能力を応用するんですね?」

「察しが良くて助かるわ。悪いけどお願い!」

 

 そのまま立体的な端末を展開した。手早く鍵盤に入力し、艤装の動作を各種レーダーによる敵機の追尾と迎撃、敵艦の捕捉に限定していく。

 

「良く分かりませんけど、叢雲ちゃんに考えがあるって事ですよねッ、 私もやります!」

「私も参加します。初雪ちゃんもですよね?」

「ん。こんな土壇場で、適当な事は……言わないはず」

 

 救援に駆け付けてくれた比叡、白雪、初雪も協力を申し出てくれた。先程までの戦闘を見て実力は高いことが分かっているし、叢雲としても馴染みの深い面子が揃っているので心強い。

 

「なら、貴女達も手を貸して!」

 

 協力体制は整った。比叡の火力、白雪達の頭数を加えて管制に必要なレーダーシステムの最適化も終わっている。

 

 ちょうどその時だった。新たな敵の動きをレーダーで捉えた。

 

「敵機現出! 八時の方角に多数。比叡、迎撃して!」

「了解! 気合いッ、入れてッ、行きますッ!」

「三時の方角から敵艦、浮遊要塞2! 白雪、初雪!」

「了解です!」「んッ」

「比叡の三式弾、効果確認! 敵機群分散、時津風、天津風お願い!」

「はーい、行くよー」「任せて!」

 

 端末の画面からは目を離さず、早口で叫びながら指示を飛ばしていく。

 

 まず最初に比叡の三式弾が主砲である35.6cm連装砲四基八門から斉射され、放物線を描いて敵機の直前で炸裂、無数の子弾のシャワーを浴びせた。

 

 海上から近付く二体の浮遊要塞には白雪、初雪が向かい、隙のない砲による速射と正確な魚雷の投擲で処理する。

 

 比叡の三式弾による迎撃を掻い潜った敵残存機に対しては、第十六駆逐隊の二人が近接対空射撃に入る。僕も敵機を確実に処理するため生き残った主砲を発砲した。

 

『敵旗艦がそちらに向かいました! 警戒してください!』

 

 無線から神通の警告が届く。レーダーでもその動きは察知していた。恐らく跳躍したのだろう、白雪達が浮遊要塞を迎撃した三時から接近、間合いをかなり詰めてきている。

 

「雪風、初風。二時方向に転舵」

「分かりました!」「了解」

「比叡。アイツの直前に砲撃、当てなくて良いわ!」

「了解!」

 

 速力の低下した僕の足になってくれている雪風と初風に針路を変更してもらい、比叡には戦艦棲姫への牽制を指示する。

 今なら弱ってきているので至近距離から砲撃すればダメージが通るかもしれないけど、アイツにはまだ艤装による殴打がある。出来れば勝負に出るのは最後にしたい。

 

「白雪、砲撃ッ、 初雪、雷撃!」

「任せてください!」「……任された」

 

 今なら比叡が巻き上げた水飛沫のカーテンは戦艦棲姫の視界を遮っているはずだ。それを利用して不意打ちすれば上手くダメージが通るはず。

 

 その目論みは上手く行ったようだった。

 水飛沫を貫いて戦艦棲姫のいる後方から雄叫びが響いてきた。次いで爆発音が聞こえる。魚雷が命中したのだろう。

 

「白雪。敵旗艦の損害は!?」

 

 雪風と初風に曳航されながら各種レーダーのみでは分からないため、白雪に確認した。

 

「敵旗艦、損傷してます! 火災を確認。外見から判断して中破状態です!」

 

 白雪の報告に少しだけ口元を緩めた。これだけの痛手を負っているならあるいは……!

 

「ッ!? 叢雲ちゃん、逃げて!」

 

 悲鳴じみた叫びで白雪が警告してきた。直後、背後の海面で水飛沫が上がった。

 

 戦艦棲姫だ。主砲を何門か失って煙も吹いてる様子から、艤装は満身創痍に見える。そんな状態になっても執拗にこちらを睨んでいる。

 

 駆逐艦一隻を追うにしては執拗な、激情に身を委ねた行動だった。これまでに行ったことは特攻染みた至近距離の雷撃、合流した二水戦とむらくもの力を使った撤退行動くらいだけど。

 

「叢雲ちゃんはやらせません!」

 

 比叡の叫びを聞いて肩越しに振り向いた。その時には戦艦棲姫に向かって比叡が突進しているところだった。

 突進する勢いそのままに相手と激突。ぶつかった際に比叡の主砲塔を含む艤装の何割かが砕け、戦艦棲姫の艤装も悲鳴のような叫びをあげた。

 

「オノレェッ、ヨクモォ……!!」

 

 戦艦棲姫が怨嗟の叫びをあげて比叡を睨む。叫びそのものが不快な音響を奏で、背中の艤装越しに響くそれは寒気すら感じる。

 

 対して比叡は衝突しにいった時の衝撃が予想以上に強いのか、表情を歪ませて海面に片膝をついていた。

 

「……分かっていたことでしょ!」

 

 比叡が叫んだ。艤装から軋むような音をさせながら立ち上がり、体勢を整える。

 

「頑張るの!」

 

 再度突進していった。生き残った主砲を旋回させて、砲撃の準備をしながら戦艦棲姫に向かっていく。

 

 

「良く頑張ったわ。後は任せなさい」

 

 今まで聞いたことのない、凛とした声が響いた。同時にレーダーは近距離まで近付いた存在を知らせてきた。

 

 現れたのは比叡と僕の中間だ。

 手甲のような主砲、戦国時代の甲冑のように装甲と副砲を配置した艤装を纏っている事から、艦娘なのは確かだ。

 

「薩摩さん……!?」

「何時でも砲撃出来るようにしてね」

 

 突然、すぐ近くにまで現れた事で一瞬硬直した比叡を追い抜いて、薩摩と呼ばれた艦娘が追い抜く。同時に右腰から提げている鞘から軍刀を抜いた。

 

「まずは主砲」

 

 彼女が呟いた直後、真横に軍刀が振り抜かれて艤装左側の主砲を切り裂いた。

 

「次に足」

 

 反撃する暇を与えず、軍刀を艤装の左前足に向かって降り下ろした。黒い血のような液体が飛び散る。

 

「貴様ァッ! 護衛部隊ヲドウシタンダァ!」

「どうって、大和達と一緒に掃討したわ。次、胴体」

「フザケルナァ!!」

 

 戦艦棲姫が腕を横に振るい、艤装が左腕の筋肉を膨張させて凪ぎ払う。

 

「いけないわ、軍刀が折れてしまった」

 

 今の一撃で薩摩は損害こそ被ったが、軍刀を破壊されただけだった。他は大して損傷は受けておらず、涼しい顔をしていた。

 

 だが、破壊された軍刀は突然発光すると消えてしまった。

 ……いや、薩摩が消したのか?

 

「……対艦刀“安芸(あき)”」

 

 呟いた直後、破壊された軍刀の代わりに違う武器が出現した。

 

 それは、刀身の部分が赤く、鋭角なデザインの長刀だった。

 薩摩はそれを下段に構える。

 

「撃ちます、ファイヤァー!!」

 

 響き渡った叫び声と同時に砲声が轟き、砲弾が戦艦棲姫に降り注いだ。

 声の主は金剛だろう。あの特徴的な訛りのある喋り方はそうだし、さっき駆け付けた時に確認していた。

 

「今よ、比叡!!」

「撃ちます、当たって!!」

 

 薩摩の指示を聞いて比叡が砲撃した。距離にして一万メートル以下を近距離とする超弩級戦艦の砲撃が、大艦巨砲の権化と言える戦艦棲姫を目指して飛翔する。

 

 同時に、曳航してくれていた雪風と初風の拘束を振り払った。

 

「叢雲ちゃん、何を……!?」

「下がってて雪風!」

 

 雪風が困惑していたけど構わず前方を睨んだ。

 

 戦艦棲姫が艤装と共に跳躍してくる先を。

 

 その光景を見据えて、右手に持つトレードマークのマストを模した槍を握り締めた。

 

「海の底に──」

 

 跳躍しながら艤装の腕を凪ぎ払ってくる戦艦棲姫の一撃は屈むことでかわし、本体に肉薄して。

 

「消えろッ!」

 

 右手の槍を一瞬のうちに出せる渾身の力で振るった。

 

 ドッ、と鈍い音が響いた。衝撃が槍の穂先から柄を伝って右腕、肩に伝わってくる。

 

「離れなさい、叢雲!!」

 

 怒号が聞こえ、慌てて飛び退く。槍を回収しようか一瞬迷ったが、戦場で何時までも迷っていられない。

 

「シッ」

 

 下段から右切り上げで一閃。日光を反射する刀身が、赤い軌跡を描いて振り上げられる。

 

 薩摩の一刀が戦艦棲姫の艤装を切り裂いた。まだ機能していた両前足を両断して、黒い血潮を噴き出す。

 

「大和!!」

『承知しました! 全主砲、徹甲弾扇射!!』

 

 無線から凛とした声が聞こえると、雷鳴のような砲声が轟き、すぐに怒濤の砲撃が戦艦棲姫のいる海面を叩く。

 

「……勝負あったわね」

 

 薩摩が確信したように呟いた。その言葉通り、この戦いは既に決着がついていた。

 

 従えていた艤装は完全に破壊されていた。薩摩の斬撃で両前足を両断されて動けなくなっていたはずだが、砲塔は残らず沈黙し火力を残していない。

 今やピクリとも動いておらず、死後硬直を起こしたまま浮いてるだけだった。

 

 本体に関しても似たような状態だった。敵ながら痛々しいほどに体の至る所が焼け爛れ、頭からは黒い血を垂れ流し息も絶え絶えとなりながらも、こちらを睨み付けていた。

 

「良くここまで苦戦させてくれたものだわ。消耗戦に付き合わされた此方としてはもう、うんざりよ」

 

 満身創痍となって動けない戦艦棲姫に薩摩は近寄り、手甲型の主砲を至近距離で指向した。

 

「沈め」

 

 止めを刺す直前に手向けた言葉は一言だった。

 

 砲声が響き渡り、撃たれた戦艦棲姫は海面に倒れた。そして落ちるように、静かに沈んでいった。

 

 ──何時カ……、静かナ……。ソンな、海で……。

 

 完全に海面下へと沈む直前、微かにそんな声が聞こえた気がした。

 

 そして、この海に静寂が訪れた。

 

 煙は幾つかの海面で上がっていたが、深海棲艦の抵抗は無くなっていた。砲声も、爆発音も、聞こえなくなっていた。

 

「作戦目標、及び敵艦隊の撃破を確認。敵増援が現れる兆候は認められないため、作戦は成功と判断します。帰投するわ」

 

 周囲を、合流した艦娘達を見渡して薩摩は宣言した。

 

 果てしなく長いようで、その実一週間の半分も経っていない、僕にとっては駆逐艦叢雲の艦娘として顕現してから一夜程度の、戦艦棲姫との戦闘が終結した事を意味していた。




今回、今章の最終話という予定であったため、文字数がトンでもない数字になり長くなりましたが、何とかここまで来たので一段落です。

それと、鋼鉄小説では再開した次回予告を今作でもスタートします。

         ~次回予告~

短くも長いように感じられた作戦は成功に終わった。戦艦棲姫が撃破された事で新規艦のドロップ現象が発生する現場で、叢一が受けた損害の影響で倒れてしまう。だが同時にそれは、初陣にしては濃すぎる戦闘経験によって改造可能となる予兆すら告げることになり……?

 間章 ~後日談一日目~

艦娘運用母艦なるものを出したいけどどうしよう?

  • 艦娘用カタパルト装備で二段式甲板の空母型
  • 強襲揚陸艦ベース
  • 内火艇と同じ発艦方法でいい
  • 考えるな、感じろ
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