死んで叢雲になったわ。なに、不満なの?   作:東部雲

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やばい、予告詐欺かも。後日談の四日目は内容が濃くなったから一話で終らないし。冒頭の時点でまだ一日目だし(汗)

えぇ、それと。本作(と同時連載中の鋼鉄小説)は作者が特撮怪獣の大ファンであるため、有名な怪獣作品の影響を多大に受けています(我らが薩摩さん等)。
今回はそういった設定から、ある単語が登場します。

では、本編です。


後日談 四日目①

 菊月ら、サーモン諸島残留組が目的を達成して帰路に就いた同時刻。ショートランド泊地司令部執務室。

 

「失礼するわよ」

 

 数回のノックの後、薩摩が入室した。遅れてドアをくぐった古鷹が閉める。

 

「……予想通りね。早めに先勝祝いで飲酒かしら?」

 

 呆れたように言った。薩摩の眼前には執務机の上に一升瓶を置き、純白の第一種礼装を着崩した橿原が居る。ちょうど御猪口を傾けていた。

 

 傍らには軽空母娘、飛鷹が控えていた。恐らく、出撃後に秘書艦として待機していたのだろうが、彼女もまた呆れた顔をしている。

 

「作戦は成功に終わったからなぁ。アタシとしちゃ、今から先取りしても早すぎとは思わないぜ?」

「貴女はこの泊地の提督で、統括でしょうが。もう少し自覚を持ちなさいよ、まったく」

 

 因みに橿原の階級は准将で、提督と言う立場も省みればかなりのエリートだ。普段の言動と素行がそれに相応しいなら、容姿も相まって完璧のはずだっただけに残念美人と言う他なかった。

 

 薩摩の言う統括とは此処、ショートランド泊地に所属する全職員の指揮権を有する管理職である。

 ショートランドには警備の哨戒艇やヘリコプター等を運用する部門、通常装備から艦娘の艤装を整備する整備隊等百人前後が所属している。

 更に建設された高床式の一般隊員向けの宿舎で給養を担当する人間や、それら雑多な業務に携わる職員も含め様々な部署から配属された彼らを束ねるのが、鎮守府を中核とした各海軍基地の統括である。

 

「……それで」

 

 執務室の一角に視線を向けて睨む。そこには来客用に配置されたソファーが二台、向い合わせで配置されていた。

 

「何故、あなたが此処に居るのかしら? 今度はどんな気紛れを起こしたの。猫吊るし?」

 

 ソファーの一つには小柄な、猫を前足から掴んで垂らしたセーラー服の少女が居座っていた。

 

「別に気紛れと言う訳じゃないさ」

 

 薩摩から誰何を受けても、セーラー服の少女──猫吊るしは肩を竦めてそう言った。

 

「私はただ、今回の作戦のことで話しておきたいことがあったからな。例えば、駆逐艦叢雲とかな」

「なら、私から聞きたいことがあるわ。彼女、一体何なの?」

「何、とは?」

「彼女の体からマナを三つ感じた」

 

 聞かされた内容に、猫吊るしは「……ほう?」と興味深げに呟いた。

 

「やはり感じ取れたのか。いや、薩摩ならそれは当然だったな」

「誤魔化さないで。私の感じた通りなら、本来はあり得ない現象よ。今すぐそれをはっきりさせなさい」

 

 言いながら、手元に『対艦刀安芸』を出現させる。

 

「返答如何によっては、ここで斬らせて貰うわ」

「まぁ、待て。その刀は私に効く。ちゃんと説明するから待ってくれ」

 

 薩摩の反応に猫吊るしは溜め息をついた。

 

「駆逐艦叢雲は今まで、艦娘として浮上できない状態にあった。彼女を顕現させるため、私は対症療法を施しただけだよ」

「単なる特型駆逐艦にしては説明がつかないわね。例えば、あの索敵能力や防空性能とかは?」

 

 今まで疑問に思っていた点のひとつだった。

 

 隙を見て様子見した限りでは、快速を誇る特型駆逐艦にしては低速だった。同時に、それを補って余りある火器運用能力は第二次大戦のレベルとは思えない。

 

「叢雲を海底に縛り付けていた原因、と言えばいいかな。それが持っていた装備だよ」

「……自衛艦の装備じゃないでしょうね?」

「なんだ。もうとっくに分かっていたんじゃないか」

 

 口角を上げて猫吊るしは言う。一方で薩摩は表情を険しくしていた。

 

 半分は冗談で言ったつもりだったのだ。勿論、もう半分は確信があったからだが。

 

 薩摩とて艦娘として顕現してから長い。かれこれ二十五年以上になる。それは旧海上自衛隊時代から現国防海軍として所属した時間とほぼ同じだ。

 その間、薩摩は情報の収集を怠らなかった。何しろ薩摩が艦として現役だった頃とは、祖国は何もかも異様だったからだ。流石に文化で大きく異なる点は見当たらなかったが、科学技術と生活水準においては全く違う。

 その結果、現代の日本の社会構造と、自分が標的艦として沈んだ頃から現在に至るまでの史実を知ることとなった。過去の大戦での最後を知った当時、悔しさから人目を避け陰で泣いたのは苦い記憶だ。

 

 知り得た情報は他にもある。戦後日本の組織した軍事的組織である旧海上自衛隊が配備してきた、数多くの自衛艦についてだ。

 当然、叢雲が使用していた装備についても心当たりがあった。記憶にある知識と一致するなら、あれは6~70年代の装備だ。

 

「感じたマナのうち、二つ目は分かったわ。……それで? あとの一つは」

「悪いが言いたくないな」

「ふざけるな」

 

 長刀を鞘から引き抜いて斬りかかった。ソファーが叩き割られて中身のクッション材が飛び散る。

 

「あのさぁ。一応それ備品なんだけど。上から補償はしてもらえるんだよな?」

「……」

 

 橿原からジト目で文句を言われるがそれには答えず、部屋の中を見回した。

 

「逃げられたわね」

 

 ふぅ、と息を一つ吐いた。

 

 カチン。安芸を鞘に戻し、光と共に消し去った。

 

「悪いわね。この泊地、新設だから備品も新しいのに早速壊しちゃって。上に掛け合って、次から来る補給部隊に運ばせるわ」

「頼むぜ、ほんとにさ」

 

 橿原はやれやれ、と嘆息しながら首を横に振る。

 

「にしてもさぁ。叢雲にマナが3つも在るって話、ほんとかよ?」

 

 疑問を口にする橿原にも、マナと呼ばれるものが何なのかは知っていた。

 

「事実よ。少なくとも、叢雲の以外で一つは艦娘みたいだわ」

「一つはって、もう一つは艦娘じゃないみたいだな」

「ええ、そうよ」

 

 不愉快を隠しもせず、吐き捨てるように肯定した。そんな薩摩の様子を見て、橿原は眉を潜めた。

 

「……薩摩?」

「あの妖怪はとんでもないことをしてくれたわ」

 

 マナとは、自然界にはごくありふれたエネルギーだ。森や川、海に生息する動植物。土や水には必ず大なり小なり、マナが宿っている。勿論、人間や艦娘とて例外ではない。

 

 そして本来は、個として持ちうるマナは一つだけだ。だがあの駆逐艦には、それが三つも宿っている。一つの体に三つのマナ、それは三つの命を宿してるのに等しい。

 

「三つ目は艦娘ではないけれど、かといって深海棲艦とも違う。私が感じた通りなら恐らく、人間よ。それも十代の学生でしかない、若いマナだわ」

 

 それは薩摩にとって、最悪に等しい現実だった。二つ目のマナの持ち主が駆逐艦叢雲の浮上を妨げていたのは明らかになったが、恐らく三つ目の持ち主は緩衝材のはずだ。

 

「詳しいことは叢雲に聞けば分かる。あの状態なら、目覚めるのは今から三日後。それまでは私も留まるわ」

 

 史上最難関と言えた南方作戦は成功し、不穏な要素を残して終わった。窓の向こうでは太陽が高く上り、泊地の敷地を強く照らしていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 南方作戦完遂から四日目。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 突然だけど、シスターコンプレックス、所謂シスコンと言う言葉を皆さんご存じだろうか。

 

 それは程度に差はあれ、姉、あるいは妹を溺愛する事であるのは間違いないだろう。

 勿論、姉妹と呼ぶ間柄でも最低限の節度は保たれるべきだろう。親しき仲にも礼儀あり、と言う言葉もある。

 

「今日は何時もと違う香りですね雪風。シャンプーを変えたなら此処の備品ですか」

「~~っ! 不知火姉さん、そんなにくっつかないでくださいぃ……!」

「いいえ離れません。南方作戦発動してからと言うもの、スキンシップする時間が取れませんでした。今は別命あるまで不知火の自由時間です」

 

 僕が横になってるベッドの脇では、パイプ椅子に座った陽炎型姉妹の仲睦まじい光景があった。正確には嫌がりながらも満更でも無さそうな雪風に、抱き付いた不知火が臭いを嗅いでは恍惚とした表情を浮かべている。

 

 先程、目を覚ましたらこんな状況だった。多分、最初に艦娘として目を覚ました医務室だと思う。

 

 と言うか、このピンク頭は誰? 不知火がこんなシスコンだなんて知らないよ、僕。

 

「──! 叢雲ちゃんっ、目が覚めたんですね!」

「三日も寝続けて漸くですか。随分と朝寝坊なのね」

 

 内心困惑していると、目の前の二人が目覚めたのに気付いた。雪風は見られていたかもしれない羞恥心で顔を真っ赤にしていたけど、不知火は平然としている。

 

「お陰さまでね。所で、アンタ不知火よね? 何してるのよ」

「雪風ニウムを補充しています。……何ですかその目は、不知火に何か落ち度でも?」

「ごめんなさい、ちょっと何言ってるか分からないわ」

 

 雪風ニウムって何?不知火にとっては補給用の資源か何かなの?

 

「取り敢えず聞くけど、あれから──」

 

 どれくらい経ったと聞こうとした瞬間、部屋の引き戸が開いた。

 

「──! 叢雲ちゃん……っ」

 

 名前を呼ぶ声がした方へ振り向くとそこには、部屋の入り口で白雪が居た。

 

 白雪は俯いた。少しして、前髪で隠れた顔からは液体のようなものが落ちていく。泣いているのか。

 

「……白雪」

「叢雲ちゃん」

 

 こちらからも名前を呼ぶと、顔を上げて再び呼んできた。ゆっくりこちらに歩いてくる。

 

「言いたいこと、話したいことは沢山あります。でも、これだけは言わせてください」

 

 前置きのように話すと、不知火達が居るのとは逆のベッドの脇、目の前で止まった。

 

「お帰りなさい……」

「……ただいま」

 

 挨拶を交わして、漸く実感が持てた。

 

 叢雲や、むらくも、僕は、ショートランド(ここ)に帰ってこれたのだと。




現在、四日目の次回を執筆中です。早ければ年末までには投稿できるかと。

あと、アンケートも試しに実施しています。興味のある方は是非。

では、次回予告です。

        ~次回予告~

白雪と交わした挨拶で母港へ帰還できたことを実感した叢一。意識が回復したことを報告するため、白雪は橿原提督のいる指令庁舎へと連れていく。その後は泊地の野郎共がお祭り騒ぎに──!

「良いねぇ。それならパァーっと歓迎会といこうぜ、パァーっとなぁ!」

次回、後日談 四日目②

新たに自衛艦娘出したいけどどうしよう?

  • ミサイル護衛艦あまつかぜ
  • 対空護衛艦たかつき
  • ヘリコプター護衛艦しらね
  • どれも一緒に出そうか
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