死んで叢雲になったわ。なに、不満なの?   作:東部雲

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色々と書きたいことはありますが、それらはこれから活動報告に書き込んでいきます。気が向きましたらどうぞ。

前回のあらすじ

轟沈寸前の損傷をして泊地に運ばれ、改装ドックで第一次改装を受けてから三日後に目を覚ました叢雲こと叢一。
そこで再会した白雪に指令庁舎執務棟に案内され、国内有数の実力者である十傑に自己紹介を受け、乱入してきた青年整備士と出会う。
そして唐突に開催されたお祭りの雰囲気を堪能しているところで吹雪とも再会、なかば強引に連れていかれた先で、白雪が初陣の直前に交わした約束を果たすべく、集まっていた大勢の職員や艦娘がいる場所でカレーを用意して待っていた。
泣きそうになりながらも、カレーを食して帰還したことを実感するのだった。


後日談 五日目

 泊地所属、本土組を問わず大勢が集まった着任祝いの食事会は盛況だった。

 

 この瞬間を待ちわびていたかのように張り切る比叡が次から次へとサイドメニューの料理を運んでくるため、姉の金剛がそれを嗜めたり。

 その次は基地の整備士達が初陣はどうだったか等、対空機銃のように質問を連打されて困っていると、イイ笑顔した白雪が手に持った氷を指弾にして鎮圧したり。

 何人かの泊地の警備員が執務室で紹介された十傑の時雨に絡んで、鬼の形相を浮かべた山城=サンに物理的に制圧されたり。

 いきなり抱き付こうとしてきた二水戦の陽炎と吹雪が極寒と猛暑の空間を作り出したりして、騒がしくも賑わいのある時間があっという間に過ぎていった。

 

 

 

          ◇◇◇

 

「うぅ、気持ち悪いわね……」

「はい、酔い止めです」

「助かるわ……」

 

 白雪が半分に折られた紙と水の入った紙コップを差し出してきた。受け取って礼を言ってから、紙を傾けて錠剤を口に含み、水で胃に流し込んだ。

 

 くそう、RJぇ……! まぁ、飲んでみ? とか、飲酒勧めてきやがってぇ。叢雲はどう見ても女子小学生( J S )高学年か女子中学生( J C )一年程度の見た目だってのに、前世の僕でさえ16歳の少年でしかなかったのにさぁ。

 

 着任祝いの食事会は既にお開きとなっていた。夜の19時になった時点で解散し、僕と白雪もまた寮の近くにあるベンチで休んでいた。酒が回ってシンドイから、白雪から世話を焼かれていたんだよ。

 

「いつか絶対、目にもの見せて仕返してやるわ……」

「でも、賑やかで良かったでしょう?」

「……否定はしないわ」

 

 作戦成功祝いでもあったため、みんな羽目を外していただけだと思うし。あれはあれで悪くなかった。

 

「まだお祭りは終わってませんし、折角だから楽しみましょう。ごみを片付けてきますから、少し待っててくださいね」

「ええ。行ってらっしゃい」

 

 酔い止めの錠剤を包んでいた紙と、空になった紙コップを持って歩いていった白雪にそう言って見送る。それからぼんやりと頭上を見上げた。

 

 上方に見える夜空は無数の光る星で彩られていた。時折瞬くのは人工衛星だろうか、この世界の詳しい事情についてはよく知らないのでなんとも言えないけど。

 

 

 

          ◇◇◇

 

 あれからごみを片付けた白雪が寮から出てきた。それからは南国の楽園でのお祭りを楽しもうと、泊地の砂上を歩く。

 

「叢雲ちゃん、向こうに射的があります。あれで遊びましょう?」

「夕立は輪投げが良いっぽい!」

「綾波、夕立も。少し待ちなさいよ」

 

 急かすように腕を引く二人の艦娘、駆逐艦の綾波と夕立に困ったような口調で言うと、「悪いわね」と隣から謝罪する声がした。

 

「綾波もいい加減ベテランの筈なんだけど、羽目を外す機会があれば見た目相応の無邪気な子供なのよ」

「うちにも謝らせてな。夕立も同じくらい艦娘として長く戦ってきたんやけど、精神面ではまだまだお子さまでしかないんや。堪忍してな」

 

 佐世保第1鎮守府所属であり十傑第1位の山城、横須賀第1鎮守府所属同第7位の龍驤がそう言って頭を下げてきた。

 

「別にいいわよ。最初見たときは実戦で、あの時は凄く勇敢に見えたもの。こうして見るとやっぱり同じ駆逐艦なんだと感じて意外だったし、迷惑とは思ってないわ」

 

 実際、あの二人は同じ駆逐艦でも動きが秀逸だったように感じた。例えるなら、十傑である白雪や神通のそれに近い。

 

「綾波ちゃん。夕立ちゃん?」

「ぽいっ!?」「ひえっ」

 

 それを見かねたのか、白雪が二人の名前を呼ぶと途端に止まった。片方は誰かに似てたけど気にしない方がいいかな?

 

「二人とも、叢雲ちゃんに比べて年功はずっと上なんですから、それに見合った振る舞いをしましょう?」

「そうするっぽい! だから許してくださいお願いします」

「綾波も自重します。だからあれは、あれだけは……!」

 

 い、今起こった事を有りのままに話すよ!

 頭を下げてきた山城、龍驤と話していたら白雪が鬼神と悪夢を産まれたばかりの子鹿のように怯えさせた! 何を言ってるか分からないと思うけど、幻覚なんてちゃちなものでは決してない。もっと恐ろしい片鱗を見たよ。

 

 ていうか、あの二人を震え上がらせるなんて。白雪。君は一体、夕立と綾波に何をしたんだよ!?

 

「ちょっと、二人の様子が変よ。何をしたのよ?」

「大したことはなにもしませんよ。ね? 綾波ちゃん、夕立ちゃん?」

 

 堪らなくなって叢雲の感情に従って聞くと、白雪はそう言って二人に訊いた。当の本人達は相変わらず震えながら高速で首を縦に振っていた。まるで意味が分からないよ。

 

「それはそうと、その辺の屋台で焼きそばでも貰ってきますね。綾波ちゃん、夕立ちゃん。行きますよ」

 

 話題を逸らすように屋台の群れへと足を向けると、表情を青ざめさせた駆逐艦娘二人を引き摺っていった。それは見る限り、彼女達の力関係を表しているようにも見えた。

 

「綾波達は心配要らないわ。何時もの事なのだし、この程度なら茶飯事よ」

「ほ、本当に大丈夫なの? あの二人を引き摺っていったし、穏やかには見えなかったけれど」

「そんなに心配せえへんでも大丈夫や。白雪も横須賀基地に来るときは、嬉々として夕立に訓練を施しとるからなぁ」

 

 十傑という海軍の主だった戦力とされている二人にとっては問題ないらしい。多分、あの二人がこれまで何をされてきたかも知っているのかもしれないけど、内容は怖くて聞けないよ。

 

「取り敢えず、場所だけ確保しましょう? あっちに資材箱があるから、そこに行きましょう」

「そうね」「そうやな」

 

 山城がそう促してくるので、龍驤と揃って頷いた。指差した場所に足を向けて歩き始め

 

「────悪いけど、それは少し待って貰えるかしら」

 

 ……ようとしたら声をかけられた。その声は聞き覚えがある。あの常識はずれな戦い方は忘れようもない。

 

 振り向くとそこには、大正時代を連想させる着物にブーツの女性が立っていた。

 

「貴女は、確か……薩摩よね?」

「あの時の戦闘で会ったわね。覚えてくれていたなら嬉しいわ。ゆっくり話したいところだけど時間がないから……。山城、龍驤。そこの駆逐艦娘を拘束しなさい」

「……了解です、師範」

「しゃーない。叢雲、恨むのは堪忍やで?」

 

 薩摩が二人に命じると、山城が僕の両手を後ろ手に掴んで押さえ、龍驤は紙で出来た式神を飛ばして体に張り付けてきた。

 

「ちょっとッ!? 何すんのよ!」

「悪いわね、これから大事な話に付き合ってもらうわ」

「体の自由を奪ってまでしなきゃ出来ないことかしら!?」

 

 龍驤が張り付けてきた式神、どういう原理か体を自由に動かせなくする機能があったようだ。ここまでして、一体何を話そうというのか。

 

「……そのまま連れていくわ」

 

 僕の問いに対する薩摩の返答はたったそれだけだった。

 

 

 

         ◇◇◇

 

「叢雲ちゃん、遅れてすみません。屋台の人が気前よくサービスしてくれたのもあって遅れてしまいました。何処で食べます……?」

「どうしたっぽい?」

「変ですねぇ、皆さん居ません。どこに行ったんでしょうか?」

 

 あれからしばらくして、白雪達は屋台の焼きそばを手に入れていた。綾波と夕立に人数分持たせて、待ってくれているはずの叢雲や十傑の二人を探しているところだった。

 

 見たところ、見渡せる範囲には居なくなっている。草地と砂浜よりやや上を貫いて沖の手前まで展張した埠頭付近に、木組みの資材箱が置かれているためそこかと思ったがいない。

 

「……何かおかしいです」

「白雪さん、どうするっぽい?」

 

 夕立は訊いてみるが、白雪は答えず目蓋を閉じた。

 

「嫌な予感がします。少し、チカラ(・・・)を使ってみましょう」

 

 そしてまた、ゆっくり目蓋を押し上げる。先程までと違い、白雪の瞳は金色に輝いていた。

 

「白雪さんがマナ操作を使うなんて、余程重大なことなんですね」

「夕立達でも使えないチカラまで使ってるっぽい」

 

 この状態になった白雪は設定した目標の痕跡を辿って追跡できる。

 目標とは当然、最近ドロップで顕現して初陣を飾っ

て以来、白雪が愛して止まない妹の叢雲だ。更にそこへ幾つかの条件も付与しているが。

 

 まず前提となるのは、外敵による誘拐ではないことだ。

 ここの泊地は新設したばかりとは言え、それなりに警備の目がある。ショートランド諸島周辺を巡回する沿岸警備隊の派遣巡視艇、夜間警備を担当する国防海軍所属の警備艇や艦娘等、何者か接近すれば以上の何れかが気付くはずだ。当然、十傑の白雪にも優先してそれは伝わってくる筈だが、それもない。

 

 更に言えば、叢雲の傍には白雪と同じ十傑が二人居たこと。彼女達を無視して叢雲はどうこうできないし、短時間で無力化出来るほど柔ではない。

 

 ここまで推察すれば残る可能性は絞られ、ある一人の艦娘が浮上する。

 

 十傑の上位に位置する、山城以下十傑に対する命令権を有する特務艦隊旗艦、戦艦薩摩。

 大規模作戦後の祝勝ムード一色に染まる泊地、海軍省総長を除けば最高クラスの権限を与えられている作戦末期に参戦した彼女くらいしか、この状況を産み出せそうな人物に、白雪は他に心当たりがなかった。

 

 ゆっくりと、周囲に視線を巡らす。何かを探すように、正面、埠頭、正面海域方面の順で視線を動かした。

 

「……そこですか」

 

 白雪が険しい表情のまま呟く。

 

 その視線の先には、暗夜の洋上に浮かぶ巨大な艦影があった。

 

 

 

         ◇◇◇

 

「……こんな場所にまで連れてきて、アンタ達はどうしたいのかしら?」

 

 パイプ椅子の支柱に脚を縛り付けられ、両手も拘束バンドで身動きが出来ない状態で正面を睨み付けながら言った。

 

「取って食いはしないから安心しなさい。拘束したのは立場上の措置でしかないから」

 

 強制的に連行した張本人がどの口で言うんだよ。

 

「薩摩殿。幾ら貴官ら特務艦隊の為にこの“ひゅうが”があるとは言え、私にも納得のいく説明がしてもらえるんでしょうな?」

「ご免なさいね、蕪木司令。叢雲にも言ったけれど、これも立場上は必要なことなの。勿論、事情はあとで必ずね」

 

 薩摩に話しかけたのは齢五十と思われる初老の男性だ。純白の士官服に身を包み、薩摩を睨みながら唸る。

 

 薩摩達に連行されてからは、この場所で拘束を受けていた。それまでいたショートランドの海岸線から、灰色に彩られた鋼鉄の艦船の内部に。

 

 今居るのは艦尾に位置する区画だ。前世でも存在した強襲揚陸艦のウェルドックと同様の内部構造のようで、スペースの半分は海水が注水された状態、つい先程薩摩達と進入したスターンゲートは解放されたままだ。

 

「こうしてここに連れ込んだのは、これから貴女と話すことはなるべく秘匿したいからよ」

「?」

 

 どういうことだろう。

 

「蕪木司令、ちょっとこの場を外して貰えるかしら?」

「監視カメラからモニタリングはさせてもらいますが、よろしいですかな?」

「構わないわよ」

 

 指揮官の男性が歩み去っていく。他に設備の点検などしていた水兵も退去していき、この空間には僕や薩摩、十傑の二人以外はいなくなった。

 

「余計な人間がいなくなったところで本題に入りましょう、正体不明の駆逐艦娘さん?」

「……どういう意味よ」

 

 などと返しながらも、冷や汗をかきながらある可能性を思い浮かべた。

 

 僕の存在がばれている。

 

 薩摩の表情からは確信が見てとれた。現世に浮上するためとは言え、駆逐艦叢雲は三位一体で成り立っているのが現状だ。

 

 それに加えて、先の戦闘で見た常識はずれの戦闘能力。国内でも有力な戦力である山城達十傑、それに対する命令権を有した特務艦隊旗艦の彼女なら、艦娘という存在について根幹となる部分まで把握してる可能性が高い。

 

「別に深い意味はないわよ? ただの特型駆逐艦なら戦闘中に突然姿を変えたり、自衛艦の艤装を纏って一方的に敵機を落としたりもしない。これらの全く未知の事象を起こしたのだから、正体不明とせざるを得ないでしょう?」

「……」

「正直に答えなさい。貴女は、どちら側かしら」

 

 どちら側、と言うのはつまり。僕らが深海側なのか否かと言った所か。

 

 やはりあの土壇場で、顕現したばかりの艦娘があれだけの事を仕出かせば流石にそうなるか。かといってどうすれば。

 

『この際、全てを話しても良いかもしれないわ』

『自衛艦娘としては賛成だな。どうやら目の前の艦娘は自衛艦を知ってるようだし、話せば解る相手にも見える』

 

 叢雲(世帯主)むらくも(同居人)がエコーがかかった声で意見を述べた。

 

 やっぱりそれしかないのか? でも、戦場で助けられたからとは言え、薩摩はよく知らない相手だ。簡単に信用して良いものかどうか。

 

 …………話すしかないか。

 

「私は──」

 

 意を決して話していった。僕の前世について、特型駆逐艦叢雲が現世に浮上できなかった理由であるむらくもとの関係性、猫吊しとのやり取りも。何もかもを目の前の艦娘に曝け出した。

 

「──というわけで、私は一人の少年を取り込み、みねぐも型護衛艦むらくもとの共生関係を築いているわ。今の私は一人称こそ聞いての通りだけれど、体を動かしているのは八雲 叢一よ。ショートランドで目覚めてから、今日この瞬間に至るまでね」

 

 把握できている秘密は全て暴露した。これを聞いて目の前の彼女達がどう反応するのか、危険分子として判断されてもおかしくないが、果たして……?

 

「……なるほど。普通ならにわかに信じきれないところだけれど、あの妖怪が関わってくるなら話は別だわ。よく話してくれたわね」

「猫吊るしはあらゆる妖精のなかでも上位に位置するし、異なる世界から魂魄を引き寄せてもなんら不思議やない。それが分かったからと言え、扱いに困るのも確かやけどな」

「私は時雨に迷惑がかからないなら、特に問題ありません」

 

 あれぇ? 意外と受け入れられてる?

 

 薩摩は異常なぐらい、妖怪と呼ぶほどに猫吊るしを嫌っているようだし、龍驤はそれなりに詳しいのか納得した様子だった。山城=サンは時雨第1主義を掲げてる感じがしたけど、気にしたら負けだね。

 

「──これは何の真似ですか、師範」

 

 聞き慣れた声がウェルドックに響き渡った。振り向くとそこには、十傑の時雨と姉の白雪がスターンゲート付近の水面に艤装を着けた状態で立っていた。

 

 

 

         ◇◇◇

 

「──これは何の真似ですか、師範」

 

 憮然とした表情で白雪は言い放った。両手に携えた12.7cmA型連装主砲の引き金には指をかけており、何時でも撃てる態勢だ。

 この主砲は白雪専用のカスタムモデルでもある。本来なら右手のみに対応した仕様なのだが、改造して両手で撃てるようになっている。

 

「意外と早く来たわね。マナの痕跡は消したはずだけど」

 

 そう言った薩摩は本当に意外そうな表情を浮かべていた。それを聞いて白雪は鼻で笑う。

 

「今度からは十傑の人にも注意を促すことですね。龍驤さんの式神から漏れでるマナが足跡を作ってました」

 

 直後に「あかん、やってもうた……」と十傑の軽空母が頭を抱えた。

 

「なるほど、それなら納得ね。龍驤ほど強力な艦娘のマナであれば、貴女の“導眼”で追跡できるものね。今度からは気を付けるわ」

 

 導眼。

 

 それは白雪を十傑第4位たらしめる要因となった、撃てば当たると言わしめた高精度な砲撃技術の核心に位置する技能だ。

 技能と言っても、特別な才能の一種でありその持ち主が白雪だったのだ。同時に、このような特殊能力の持ち主が現在の十傑でもある。全員が尋常な艦娘ではないのだ。

 

「私の能力についてはどうでも良いです。それより、これはどういう事か説明してもらえませんか」

「どうもこうも、見たままよ。そしてこれは、特務艦隊に下された任務に基づいた行動でもあるわ。出来れば貴女にも協力して貰いたいのだけれど」

「何の通告もなく、空き巣狙いみたいな真似をされて従うわけないでしょう」

 

 せっかく叢雲のために焼きそばを屋台から貰って、あとは食べるだけだったのだ。なのに少し自分がいなかった時間を狙ってとなると、今まで隙を窺っていたに違いない。

 それに白雪は薩摩との師弟関係ではあるが、かといって今回みたいな横暴を、自分より上の立場である特務艦隊旗艦と言えど、溺愛する妹を無理矢理連れていかれたら黙ってはいられないのだ。

 

「もうひとつ意外なのは、そこにいる時雨かしら? 今の時間帯なら、確か沖合いの警備だったわよね」

「海上を巡回していたんだけどね、フル装備の白雪がおっかない顔で移動していたのを見つけたから」

「状況を説明して一緒に来てもらいました」

 

 都合よく国内有数の実力者、十傑の一人である時雨に同行してもらえた。彼女は他の十傑と比べるなら戦闘能力でどうしても見劣りしてしまうが、相手に山城がいるならとっておきの切り札に変わる。

 

「山城、これはどういう事なんだい?」

「し、時雨……っ。これは、その」

 

 時雨の追及に十傑最強の艦娘は言い澱んだ。その様子からは十傑の序列による力関係とは程遠く、寧ろ山城の方が明らかに弱く感じられた。

 

「こんなことしてる山城なんか、嫌いだ。失望したよ」

「…………ガフッ!」

「山城ぉ!? しっかりせぇ、傷は浅いで!」

 

 時雨の発言を聞いた途端、山城は吐血して倒れた。よほどショックだったのだろう、血相を変えた龍驤に抱き支えられるが絶望した表情のまま気絶していた。

 

「素晴らしい、実に素晴らしいわ。荒事をせずに、確実に戦力を削ってくるとは。それでこそ私が鍛えた門下生ね」

 

 時雨の言葉の雷撃による戦果を見て薩摩が称賛するが、単純に時雨に依存していた山城の自滅である。

 

「お褒めに与り光栄です師範。出来れば自慢の弾幕を張る前に、叢雲ちゃんを解放して頂けたら嬉しいのですが」

「私から取り返す前に叢雲が巻き添え食いかねないから止めなさい。それに言われなくても解放するわよ。知りたいことは聞けたし、特務艦隊旗艦としての義務はこれでお仕舞いよ」

 

 龍驤の方を向いて「式神による拘束を解きなさい」と指示する。指先に揺らめく金色の光を発光させ、“勅令”の文字を浮かび上がらせると叢雲に向けて放った。

 

 文字は叢雲に接触すると手足を縛っていた拘束バンドが弾け飛ぶ。

 

「……動けるわね」

 

 安堵したように叢雲は呟いた。右手を閉じては開いてを繰り返し、最後に力強く握った。

 

「無理矢理、艦艇に連れ込むような真似して悪かったわね。今回の事は揉み消させてもらうけど、その代わり神通から書かされるはずの反省文と始末書は取り下げるように言っておくわ」

「良いんですか? 海軍としては面子が立ちませんけど」

「等価交換よ。今回、私はかなり重大な情報を得たわ。それに叢雲には迷惑をかけたのだから、当然の措置よ。それと、叢雲」

「……何よ」

 

 叢雲は警戒心を隠そうともせずに身構えた。これだけの事をされたのだから当然ではあるが、白雪にも同感だった。

 

「貴女、比叡とは仲が良いみたいじゃない。艦だった時代、お召し艦と護衛や供奉艦だった記憶の縁かしら?」

「否定はしないわ。私が誇りをもって言える艦歴の一部よ」

 

 実際、叢雲の言ったことは事実だ。彼女のように供奉艦だけでなく護衛までをも経験し、同様の記憶を持った駆逐艦娘は少ない。由緒正しい艦歴と記憶を有する艦娘と言える。

 

「親睦を深めているところ悪いけど、彼女と過ごせる時間は既に少ないわよ」

「どういう意味よ」

 

 薩摩の発言の意味するところについて、白雪は先に知らされていた。泊地に帰投して、改装ドックから出て未だ眠っていた叢雲の世話をしつつ、十傑に課せられる事務処理をしている途中で薩摩から聞かされていた。

 

「今から二週間後、当地域の安定を確認でき次第、本土組は引き上げます。それに伴い、横須賀第3鎮守府の比叡と霧島、吹雪。舞鶴第1鎮守府の川内はショートランド泊地での任を解き、本来の所属する鎮守府に戻ってもらうわ」

 

 大規模作戦が終わればその地域に艦娘を集中させる必要がなくなる。比叡達がショートランドを去るのは必然だった。

 

「他にもあるわ。この件については叢雲、貴女が関係しているわ」

「まだ何かあるのかしら」

 

 叢雲は動揺した様子を見せながらも訊いた。薩摩は頷くと続けた。

 

「今から1週間後、駆逐艦叢雲を含む第十一駆逐隊と舞鶴第1鎮守府の第十八駆逐隊による対抗演習をしてもらうわ。その後は本土組が引き上げるのと同時に、貴女も本土まで同行してもらいます。宜しくね、世界初の第三世代艦娘(・・・・・・・・・・)さん」




今回で南方作戦終了後の後日談はお仕舞いです。次回から2章に突入していきます。

新たに自衛艦娘出したいけどどうしよう?

  • ミサイル護衛艦あまつかぜ
  • 対空護衛艦たかつき
  • ヘリコプター護衛艦しらね
  • どれも一緒に出そうか
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