以下は前回までのあらすじです。
特務運用群に招待を受けたむらくもは、ひゅうがにまず乗艦した。
艦娘の発着用に使われるウェルドックで時雨と山城の十傑コンビと会い、格納庫でアメリカとの関係や輸入品である機動兵器『トップアームズ』についての説明を受ける。
二人と別れ、ひゅうが所属のトップアームズ部隊を指揮する航空団司令から『ファントム』の運用について説明されてその過酷さを想像する。
格納庫を後にして、ひゅうがの各所を回って次なる場所、こんごうに向かった。
蕪木ら特務運用群の指揮官達の案内で艦娘運用母艦ひゅうがを訪れ、その艦の主だった区画を巡ってから下船して少しした後、私こと護衛艦むらくもはひゅうがとは異なる艦に乗艦していた。
「特務運用群に随伴する護衛艦、巡洋艦《こんごう》へようこそ。今度はこの艦を案内するよ」
「宜しくお願いする」
「じゃあ付いてきて。取り敢えず、この艦のCICに行こうか」
加藤の先導でこんごうの艦上を歩く。艦の前部にある上部構造物のハッチを潜り、途端に狭くなった通路内の空間を進んでいった。
「対潜戦を想定した護衛艦だった君には今更だし、《ひゅうが》を見てきたから解るだろうけどぶつけないように注意して。CICは第2甲板にあるから階段を降りるよ」
階段があったのは前艦橋内の第1甲板中央で、ここはレーダー室が集中配置された区画で通路も多く思ったより複雑だった。
艦だった頃の私は前大戦時の駆逐艦と規模が大して変わらないため、こんごう程大型ではなかったから内部構造もそう複雑ではなかった。この辺りは対潜を主任務にしていたみねぐも型が、船体の規模の関係で居住性を二の次にしていたからでもある。
……流石に護衛艦隊旗艦になってからは、少しは改善されたがな。
「──着いたよ。ここがCICだ。狭いから気を付けて通って」
そんな事を考える間にもCICのハッチまで辿り着いた。ロックを開けた加藤、蕪木司令に続いて通る。
室内は薄暗い。大型モニターや複数の端末が光源となっているものの、慣れないうちは目に悪いだろう。
「司令臨場、気を付け!」
入室したことに気付いたらしい幹部の一人(階級章を見る限り恐らく中佐だろう)が声を上げ、反応したCIC担当の全員が起立して姿勢を正した。
今まで海上自衛隊しか知らなかったが、この艦の乗員を見る限り大して変わりがないようにも感じるな。その為か分からんが、懐かしく想えてくる。
「休ませ」
「休めぇ!」
「取り敢えず楽にしてくれ。普段通りで構わないからな」
にかっ、と年齢とは裏腹に柔和な笑みを浮かべた。蕪木群司令は意外と少年のような一面を持っているようだ。老いを感じさせない若々しさがある。
「今日もCICに詰めていたのだな。比較的安全な泊地沖でも相変わらず精が出るな、雨宮大佐」
「拠点を脅かすのは深海棲艦もそうですが、それだけとは限りませんから」
雨宮と呼ばれた相手は女性だった。見た目からは30代と思われる、現在乗艦しているこんごうのような大型艦を指揮する艦長にしては比較的若く感じられた。
ちなみに、こんごうはイージスシステム搭載の新鋭艦らしい。確か、叢一の前世にも同名の艦が存在したな?
『イージスシステム搭載艦までは同じだと思うよ。建造されるまでの経緯が違ってきてるから、違う部分が多いかもしれないけど』
深海大戦が始まってから、暫くして米軍との連携は取れなくなったらしいからな。連携が取れるようになったのは、座学で習った限りでは西方打通作戦と欧州救援が成功した後で8年前と割と最近のようだから仕方ないかもしれん。
「貴女が例のドロップ艦ね? 話は伺ってます。旧海自の伝統を受け継ぐ国防軍人としては先輩に当たるかもしれないわ。──巡洋艦《こんごう》の艦長、雨宮です」
そう言って差し出してきた手を握り返す。
「みねぐも型護衛艦、三番艦のむらくもだ。護衛艦隊旗艦を務めたとは言え、艦艇だった頃の出来事だ。今は二人三脚の艦娘と言うだけだから、そのつもりで頼む」
「今、表に出てるのが貴女で普段は先代なのよね? 承知したわ」
朗らかな笑顔で雨宮艦長は承諾した。何となくだが、先程の蕪木群司令と同じものを感じるな。
「雨宮艦長のことだけどね、実はこの人、蕪木司令の教え子なんだよ」
加藤が耳打ちして小さく呟くように言うと、私もそれで合点がいった。
「……なるほどな。道理で似た者同士な訳だよ」
きっと、雨宮艦長は蕪木群司令を慕っているのだろうが、教え子だったが故に似てしまった部分があるのだろう。別に悪いことではないが。
「所で気になったんだが、雨宮艦長。拠点を脅かすのは深海棲艦だけではないと仰ったが、どう言うことだ?」
「外洋進出したのは、我々日本国防軍だけではないという事よ。スクリーンを見て」
促されるまま、薄暗いCIC内を照らす大型スクリーンに視線を向けた。
スクリーンには幾つかのマーカー表示されたユニットが映っていた。
スクリーンの中心に現在、乗艦しているこんごうは《CG-1 KONGOU》。それを囲むように私が先程まで見学のため乗艦したひゅうがは《FOC-1 HYUGA》《USV-3 CHITOSE》。
そこから離れて泊地より南東の地点には《SS-589 ASASHIO》がアンノウン表示されたユニットを追尾していた。
「見て分かると思いますが、我々は泊地の沖合いに三隻の水上艦を停泊した状態です。艦隊の旗艦ひゅうが、ちとせ、そして当艦である《こんごう》です。ここから離れた水域にも随伴の潜水艦、《あさしお》が航行していますが、平時とは異なる状況にあります」
「……アンノウンは他国の艦船か」
「その通りよ。それも潜水艦ね。現在、《あさしお》は大亜連合所属と思われる潜水艦を追尾しています。向こうはどうやら、気付かれることはないと思っていたようね。不規則な針路で動いているから、かなり動揺してるみたい」
呆れを含んだ口調で雨宮艦長は言った。今言った通りなら、まるで経験不足じゃないか。ここはサーモン海、水深が浅い場所はかなり多いはずだ。そのうち、海底に船殼を擦るのではないか。
ちなみに大亜連合とは、深海大戦が始まって10年程経った頃、近隣の大国が周囲の隣国を併呑して興った国のようだ。これは叢一が座学で学んだ内容だな。深海棲艦とは別に、日本国防軍の仮想敵国になっているようだ。
「──っ! 艦長! 《ちとせ》三号機が投下した二番ソノブイに感有りました!」
「詳細は?」
雨宮艦長が促す。
「海底で衝撃音。破裂音も確認できました!」
ソナーマンらしい当直士官の報告を聞いて、思わず私は唖然とした。
内心で予想した直後に、それが現実になったのだ。乗ってるのが本当に潜水艦乗りなのか、それさえ怪しく思えてくる。
「! 当該潜水艦に新たな動きがあります。タンクの排水音、浮上するようです!」
「……ショートランドの沿岸警備隊に連絡しなさい。それと《ちとせ》に打電、特別警備隊に出動を要請します。それで宜しいでしょうか、群司令」
続くソナーマンの報告を受けて、雨宮艦長は指示を飛ばし、その上で蕪木群司令に確認を取った。
「構わない。練度が低いとはいえ、大亜連合は警戒するに越したことはないからな。どうせなら、例の部隊にも監視させるか……」
最後に小さく呟いた言葉が気になったが、聞かなかったことにした方が良い気がするな。機密の匂いがする。
「ゴタゴタに巻き込んで申し訳無いわね。本艦の案内については、蕪木群司令と
「そうですね。艦の設備は乗員の方も手伝って頂ければと思いますが」
雨宮艦長が改めて確認して、加藤が答えた。
ちなみにセサとは、旧海軍用語のひとつで首席参謀を略したものだ。これも含めて、旧海上自衛隊では旧海軍から受け継いだ伝統として多くの言葉を継承し、現場では様々な旧海軍用語が飛び交っていた。
「それなら問題ないわね。三人が来る前、艦内放送で《各部署に待機してる要員はそれぞれが扱う装備を客人に、機密に抵触しない程度に説明するように》と伝えたから。散策してれば待機する乗員が見付かるから、話し掛ければ良いわよ」
どうやら艦の乗員に根回しをして待っていたらしい。その手際の良さを流石に思いながら、先導する加藤らと共にCICを後にした。
次に訪れたのは、先程出てきたCICのある同じ第2甲板の更に後方、機関操縦室と呼ばれる場所だ。
レーダー、ソナー等のセンサ系を稼働させているからか、室内では振動がしていた。
「群司令と首席参謀、それにむらくもさんですね。話は伺っています。加藤中佐、彼女が今回の客人で間違いないでしょうか?」
「それで間違いないよ。今回は宜しくね、倉橋二曹」
待機していたのは雨宮艦長と同じく女性で、機関科の下士官のようだ。階級章を見る限り二等海曹……、国防海軍だから今は海軍二等兵曹か。一応、アメリカ海軍でも冠称を付ける筈だから間違いないはずだ。
取り敢えず、お互いに自己紹介する。彼女はこんごうの3分隊長(機関科長)で、雨宮艦長とは旧知の仲らしい。国防海軍に入隊してからは雨宮大佐とは同じ職場だったことが多かったらしく、互いによく知る間柄のようだ。
「機関操縦室の役割については、自衛艦だった貴女に今更説明するまでもないですね。機関の構成だけ、説明します」
「宜しくお願いする」
私は対潜能力を重視し、新装備を就役した当初から搭載した小型軽量の護衛艦でしかなかった。当時、期待されていた《Dash》は米国からの供給が中止されて海上自衛隊でも運用を断念するしかなかった。そのままでは設計上の欠陥のせいで運用には不便だったが、長距離から対潜攻撃が出来るだけに残念だったよ。
「まず
「ガスタービンか」
私が搭載したのはディーゼル六基を両舷三基ずつ配置したマルチプル・ディーゼル方式(CODAD方式)だった。
倉橋二曹の言った符号の通りなら私と同じ同種の機関を組み合わせる方式だろうが、こんごうが大出力のガスタービンエンジンであるのに対して、私は低燃費低速向けのディーゼルⅤ型エンジンだ。燃費は兎も角、速力で劣っているし、私が就役した時期を境により強力なディーゼルエンジンも出現している。就役した頃から既に時代遅れとも言えたかもしれないな。
「それで、出力はどの程度出るんだ?」
「一基辺り25000馬力、それを四基で計100000馬力発揮できます。速力は30ノットです」
「私とは完全に段違いだな。時代遅れのディーゼルとは桁がひとつ違うようだ」
やはりⅤ型エンジンのままでは限界があるのか。潜水艦相手にするだけなら充分なのだがな。
『ディーゼルの割合減らして、ガスタービン載せれば良いんじゃない?』
簡単に言ってくれるな、先代。
『知ってるかしら? 特型駆逐艦は要求された水準が無理難題と言われたのよ。それでも実現できた。3代目は戦後の海上自衛隊を知る艦娘なのだから、明石に相談してみなさいよ』
それは、改装案を作ってみろと言うことか?
『ものは試しよ。ついでに実現が叶わなかった装備についても考えれば良いわ』
実験艦の趣が強かった私が改装か。楽しみだな。
これからの方針に自身の改装を付け加えると、倉橋二曹に続きを促した。
「この艦に装備されている発電機は最新の物を採用しています。一基で2800キロワットを発電できます」
「こんごうはイージスシステム搭載艦だったな。レーダー、ソナー等のセンサ類も稼働させる以上は、電力が多いに越したことはないな」
振動してるのはガスタービンであるのは間違いない筈だが、騒音があまり気にならないな。
それについて訊いてみたが、ガスタービンを固定し保護するエンクロージャーと呼ばれる外皮によるものらしい。
ガスタービン搭載艦なら私が現役の頃にも存在した筈だが、80年代後半になってから深海棲艦が出現して制海権を脅かした為、米国の要請で戦後初の防衛出動となった関係で私は護衛艦隊旗艦の任を解かれ、南方への遠征に参加していた。その時、旗艦は『ひえい』に変更されたのだが、あの艦は流石に一線を退いてるのだろうな。
機関室で動力の性能を聞いてみて改めて自衛艦だった頃の私と比較して出力や効率が違うことを実感して、次にやって来たのは後部甲板にある格納庫だった。
「こんごうの後部甲板、ヘリコプター格納庫にようこそ! その娘が例の第三世代艦娘で間違いありませんね、お二方?」
機関操縦室と同様、加藤中佐が答えた。私も自己紹介を済ませる。
「私はこんごうの飛行科で管理をしています、
近藤大尉が先導して格納庫内に進入した。その時点で内部は意外にも広く感じる、本格的に航空機運用に対応した設備のようだ。
そして、すぐに興味を引かれるモノが目に映る。
「こちらはこの艦に搭載されている機種のひとつ、9式無人対潜哨戒ヘリです」
そこにあったのは、二機のやや小柄なヘリコプターだった。
ヘリコプターとは言っても、一般的なそれとは違いスライドドアが見当たらずキャビンは確認できない。従来ならコクピットがあるはずの機体前部にはキャノピーすらない。例えるならのっぺらぼうのような印象だ。
その代わりかは知らないが、攻撃・戦闘ヘリのようにスタヴウイングを備えていた。無人と言っていたし、乗員を乗せないからこその装備なのだろう。
「聞いてもいいか、大尉」
「何でしょう」
「この艦は、何故無人兵器を装備しているんだ」
私にとって無人兵器と言えばDASHだが、あれは米軍で事故が多発したから運用を中止したことを受け、海上自衛隊でも供給がストップして最終的に運用は中止している。後は訓練や性能試験に使用した標的機位で、他は聞き覚えが全く無い。
「深海棲艦の跳梁跋扈する海上では、有人機は危険でしかありませんから」
その一言で理由を察した。
確かに、通常兵器の通用しない深海棲艦が何処で出没するか定かでない以上、従来通りの有人ヘリではパイロットが危険なだけだ。艦艇を母機とする無人兵器に注目するのは納得のいく話だった。
「では、現在の日本は」
「無人兵器が発達しています。無人汎用機、偵察機、《ちとせ》にも搭載されている対深海棲艦機を想定した小型の無人汎用機、そしてこの9式無人対潜哨戒ヘリですね」
思った以上に日本の軍事技術は発展していたらしい。
勿論、無人兵器の技術がたった今挙げた四種類だけに使われているわけではないだろう。戦争で生まれた技術はやがて民間に普及する。古来より変わらず人類の技術と生活水準を上げてきた、戦争が文明を発展させる皮肉と言えるな。
「では、本機の概要について説明致します。まずは──」
それからは9式無人対潜哨戒ヘリの説明を受け、同格納庫内にある有人の艦載ヘリも紹介された。有人の艦載ヘリについては僚艦との連絡用のようだった。
更に、ヘリを運用するための航空艤装、発着艦するための甲板や着艦拘束用の装備を紹介してもらった。これらは叢一が言うには、前世では格納庫も含め備えてはいなかったようだ。それがこの世界で就役したこんごうは、あたご型に類似する部分が見受けられるらしい。
そうした航空科の装備や設備などを説明されてから、格納庫を後にした。
その後は、こんごうの主砲やミサイルVLS等の火器について砲雷科から、レーダー・ソナー等のセンサー類については航海科から説明を受けた。他にもダメージコントロールを担当する科等の説明を受けた後、こんごうでの見学を終えた。
これ以上、特務運用群での見学はないらしい。
大亜連合の潜水艦騒ぎで彼らもそれ所ではないらしく、見学に来ていた私や先代、叢一の安全のためにも今回はこれで仕舞いにするようだ。
無人機母艦とやらがどんなものなのか気になっただけに、残念な話だった。まぁ、本土に行く際には随伴するのだから、その時にも見られるだろう。
◇◇◇
ショートランド泊地 艦娘用宿舎
「──では、今から出動を?」
本土から作戦のために来た自分達の為に宛がわれた一室でそれまで寛いでいた艦娘──初春型駆逐艦四番艦初霜は、とある秘匿回線で通話していた。
同室で寝泊まりしている姉達は居ない。全員部屋を開けているため、今は自分だけだった。
『すぐにでも動いてもらうわ。件の大亜連合所属と思われる潜水艦、ただ過失で事故を起こしただけのハズはない。意図があっての事だと考えるべきよ』
通話する相手はまだ幼い少女のそれだが、無機質な声音が機械を思わせる。
「また、艦娘目当てですか」
『その可能性は高いわ。泊地に集結している部隊のなかには
「了解しました、
初霜が呼んだのは指示してきた相手の肩書だった。とある機密部隊の隊長を表すもので、初霜はそこに所属していた。
『
「分かっています、躊躇いはしません。既に理想は捨てました。必要なら殺します」
『なら良いわ、健闘を祈る。
「艦娘の未来のために」
所属する機密部隊特有のやり取りをして、通話を終了した。
通信機器を誰の目にも映らないように隠してから、部屋を後にした。
今より5年前から続けてきた、仲間を脅かす敵を殺すために。
(私が、護ります。護るために殺します)
この瞬間、駆逐艦娘の少女は人殺しへと変わる。命のやり取りをする相手は深海棲艦から人間に、その意識を変えた。
第12話とその中間に当たる第11.5話の執筆も進めています。第11.5話については近日中には更新できるかもしれません。晩秋イベも近いので、早めに第12話も挙げたいところですね。このままでは年を越してしまいますから。
最近実装された雪風改二、その前提となる
新たに自衛艦娘出したいけどどうしよう?
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ミサイル護衛艦あまつかぜ
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対空護衛艦たかつき
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ヘリコプター護衛艦しらね
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どれも一緒に出そうか