死んで叢雲になったわ。なに、不満なの?   作:東部雲

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 第13.5話から続けての更新です。
 本当は前回の続きというより視点の違う回になるのですが、ちょうど仕上がってるので投稿します。

 では、本編をどうぞ。


第14話 白雪の秘密

『──て。───ん』

 

 微かに声が聞こえた。

 鼓膜を伝うような音響じゃない。僕の心身全てに響いてくるような、エコーがかかったような不思議な感覚。

 僕はそれを知っている。既に何度も経験していて、聞き慣れた現象。それは──

 

 

『─きて。──君。起きて。義弟(おとうと)君』

 

『……誰が義弟だよ』

 

 叢雲の顕現が果たされた時、その次はむらくもの顕現で先の大規模作戦を戦い抜いてショートランド泊地に帰投途中、意識を沈ませていた精神世界だ。

 そして、義弟なんて妙な呼び方するなんて、最近では一人しか心当たりがない。

 

 

『あら。起きましたね?』

 

 瞼を押し上げてみれば、白雪が僕の顔を覗きこむようにして見下ろしていた。それに、後頭部に柔らかい感触を感じる。いつかの叢雲と同じかな。

 

 

『お陰様でね。しかもご親切に、膝枕もしてくれていたようだし』

 

 そんなことを言いながら、上体を起こす。

 

 僕が覚えている限りだと、むらくもの関連任務を受領して出撃したサーモン海域でエリレ(レ級elite)とそれが統率する敵艦隊と交戦して、最終的に薩摩が旗艦のエリレを撃破して帰投しようとしたところだったはず。

 

 

『私も頑張りましたよ? レ級を撃破しました♪』

 

『そうだね、白雪も凄かったよ。それで? これってどういう状況?』

 

 こうしてこの精神世界に意識を沈めていると言うことは、むらくもの状態で戦闘していた影響と考えるのが妥当だ。でも、ここに白雪が居るのは不思議でしかなかった。

 

 

『義弟君がこの場所で目覚めたのは、今考えた通りで良いと思いますよ。帰投しようと第二艦隊で移動する途中で、力尽きたんです。今は雪風ちゃんが曳航してくれていますよ』

 

『そうか。雪風には助けられてばかりだね。それで、白雪は何故ここに?』

 

『似たようなものですよ。力を使いすぎて、その反動で倒れたんです。私のことは、初霜ちゃんが面倒見てくれているでしょうね』

 

 初霜かぁ。あの娘、少し苦手なんだよなぁ。型月によく居るような、現実に直面して絶望したキャラ達と同じ目をしてるし。

 でも、白雪が倒れたのは分かったけど、この精神世界にいる事についてはどうなんだろ?

 

 

『──そろそろ、私達の事に気付いても良いと思うけれど』

 

『右に同じく。家主の先代もそうだが、私とて三心同体の同居人なのだがね』

 

 声がした方へ振り返る。

 そこには、現世に顕現した頃からの付き合いである相棒の叢雲、今となっては頼れる存在となったむらくもの姿があった。

 

 

『やぁ、二人とも。こっちでは数日ぶりかな?』

 

『そうね。これは少し意外だったけれど。やっぱり、3代目(むらくも)の状態だと負担が多いのかしら?』

 

『もしそうなら、私としては申し訳ない事だな』

 

 むらくものスペックを考えるなら、必要経費として見積もっても良いような気がするんだけどね。

 

 戦後生まれの自衛艦は船体構造も、装備している兵装まで違う。それだけに、名前しか共通しないような艦に切り換える事はリスクを伴うことなのかもしれない。

 

 

『義弟君の考えているのは間違いではないですよ』

 

『僕の考え読まないで?』

 

『悪いけど、叢一。白雪には大体が筒抜けよ。薩摩さんの事もそうだし、特殊な能力でもあるのかもしれないわ』

 

 特殊な能力、ねえ……。

 

 言われてみると、白雪は原作と比較したらかなり異質だ。

 敵の艦載機に確実に主砲弾を命中させる砲撃精度。未来でも見えているかのような予測。僕らが薩摩に拘束されている時、居場所の特定に至った捜索能力。

 最初の砲撃精度はともかく、後の二つは通常の艦娘なら考えられない。顕現してから21年目のベテランとは言え、明らかに次元が違う。

 

 

『叢雲ちゃんの言っていることは概ね、正解だと思いますよ。この精神世界で三人の思考が読めるのも、今まで私が見せてきた数々も、私の持っている特異性が関係しています』

 

『……マジで?』

 

『はい♪』

 

 イイ笑顔で肯定した。

 白雪が言った通りなら、その特異性とやらはかなり強力な能力と言うことになる。砲撃の命中補正だけでなく捜索能力にも優れているなら、それは。

 

 

『それって、異能と呼ぶべきかな?』

 

『当たらずも遠からず、ですね』

 

 先程までの笑顔から一段、陰りを差したような表情に変わった。

 

 

『白雪?』

 

『……すみません。義弟君の問いに正確に答えるなら、私の言う特異性とは、異能と言うより権能になります』

 

 権能? 神話の神々とか登場する人物なんかが有しているような?

 

 

『それで、権能って具体的にはどんなものなの?』

 

『今は教えられません。機密なので』

 

 教えてくれないらしい。まぁ、白雪は古参の艦娘だし、国防海軍でも指折りの実力者『十傑』の一人だから秘密にしなければいけないことなんだろうけど。

 

 

『分かった。それで、艦の入れ換えについてだけど。白雪としては何か分かっていたりするかい?』

 

『はい。それなら答えられますね。まず、何故負担が大きいのかについてですが。単純にキャパオーバーと言うだけですね』

 

『キャパオーバー?』

 

 白雪の言葉を繰り返して、彼女はそれに『はい』と頷いた。

 

 

『と言っても、世帯主である叢雲ちゃんに問題があるわけではありませんよ?』

 

 そう言って叢雲の方へ視線を向けた。

 不意打ち気味に名前を出された叢雲は、微妙な表情だ。多分、その事で責任を感じていたのに言い当てられたから図星だったんだろう。

 

 

『……そう。それで、結局は何が原因よ?』

 

『ふふっ、そう焦らないでください。簡潔に言いますと、緩衝材として共生関係にある義弟君が関係しています』

 

『……僕が? あと、義弟は止めて』

 

 もしかして、ただの人間の魂魄でしかない僕は不純物でしかないとか?

 

 

『別に、義弟君が問題と言うわけではないですよ? 寧ろ、叢雲ちゃんとむらくもさんが顕現するためには不可欠な存在でした。ただ、それを実現するに足る要素が義弟君に備わっていただけなんです』

 

『何が視えたの?』

 

『……義弟君が緩衝材となっている、と言うのはある意味間違いではありませんでした。でも、厳密には少し違うみたいです』

 

 それから白雪が説明した内容は以下の通りだった。

 

 先ず前提だけど、駆逐艦娘叢雲が顕現するには、むらくもの存在が問題だった。同じ艦名の艦艇が似たような場所の海底で沈んでいた為に、艦名に込められた言霊の関係でお互いが干渉し合っていたからだ。

 具体的には、同じ艦名であるが故に性質も同様で、お互いに反発しあっていたとの事。例えるなら、磁石のN極同士、S極同士のもの。同質の存在同士で反発し合い、今まで海底に縛り付けていた。

 

 そこで猫吊るしが僕に目を付けた。

 人間である僕の霊魂は叢雲達艦娘と異なり、真逆の性質を有している。同時に叢雲とむらくもには反発するどころか引き付け合うことも解った為、顕現するための要素として求められた。

 

 猫吊るしから聞いた訳ではないらしいけど、以上が白雪の説明の内容だった。

 

 

『成る程ね。叢雲達と引き付け合う性質を有するから、僕が二人から受ける影響も大きい。負荷も重いものになるから、耐えきれずに意識を失うこともあるんだね』

 

『はい。別に艦の切り替えだけなら問題ないのですが、戦闘をこなそうとするなら……』

 

『今回みたいに気絶する、か。そう言えば、土壇場でむらくもが覚醒した時も吐血した後に気絶したんだっけ』

 

『あれはそう言うことだったのか……』

 

 僕が思い出したように言うと、むらくもが申し訳なさそうに落ち込んだ様子を見せた。

 

 

『気にすることないよ。あの時はやむを得ない状況だったし、お陰であの場を切り抜けることが出来たんだから』

 

『叢一の言う通りよ。(叢雲)のままだったら大破してマトモに戦えなかったし、3代目の力が必要だった。だから結果的に正しかったのよ』

 

『……そうか、そうだな。吐血するほどの負荷も、双方の艦が損傷していなければそうそう起こるまい』

 

 僕と叢雲がフォローするように言うと、自分に言い聞かせるように言うむらくも。

 実際、あの場ではむらくもの力が必要だった。叢雲のままだったら轟沈寸前で動けなかったし、まともな戦闘能力も残っていないはずだったから。それにしても、

 

 

『ねえ、白雪?』

 

『何ですか義弟君』

 

『むらくも関連の任務なんだけどさ、達成したらショートランドには何が贈られるの?』

 

 前世で体験した記憶に自衛艦の任務なんて無かったけど、あの様式なら何かしら報酬がある筈だ。

 それが資材か装備なのか、もしくは艦娘か。その内容が気になる。

 

 

『秘密です♪』

 

『そっかぁ。秘密かぁ』

 

 この反応だと白雪は知っているかもだけど、教えてはくれないらしい。

 ……ちょっとズルいやり方だけど、やってみようかな。

 

 

『やっぱり気になるなぁ。教えてよ義姉(ねえ)さん』

 

『っ、いきなり不意討ちとは。反則ですよ』

 

『良いじゃん。実はちょっとだけ、姉と言う存在に憧れてたんだよ』

 

 前世では、僕を兄様と呼んで慕ってくる従妹の妹分なら居たんだけどね。一人っ子だったから姉はいなかったんだよ。

 

 

『……それでも駄目です。まだ機密事項ですから、本土に行くまではお預けです』

 

『今、ちょっと悩んだよね』

 

『嬉しくなかったと言ったら嘘にはなります。でも、十傑としての立場上の責任があります』

 

『……分かったよ』

 

 大人しく引き下がった。

 本当は気になっているところだけど、僕も今では軍属だし弁えないとね。白雪の珍しい一面は見れたし。

 

 

『……えぃっ』

 

『ちょ、白雪っ?』

 

 仕返しのつもりだろうか、白雪がいきなり抱き付いてきた!

 そのせいで柔らかい感触が。この前に白雪と入浴した時、着痩せしやすいのか意外と立派な胸部装甲が背中に押し当t……考えるな僕! 考えたら死ぬぞ!

 

 

『……あのー、ところで叢雲?』

 

『……何よ』

 

 どう言うことだろうか、叢雲も右腕を抱き寄せてきた。

 

 

『えーと、一体何を』

 

『何だって良いじゃない。私はアンタの相棒なんだから』

 

『ははっ。そいつは良い! なら私も相棒だし、混ぜてもらうとしようかな!』

 

 何が良かったと言うのか、ついにはむらくもまでもが左腕を抱き寄せてきた。ちょっと待って、頭の処理が追い付かない。

 

 

『ふふっ。小学生の頃にアメリカの大学に飛び級入学の話題があった天才少年でも、処理が間に合わなくなることもあるんですね♪』

 

『……痛いとこ突いてくるね』

 

『何でそれを受けなかったのよ』

 

 僕の右側から顔を覗き込むように叢雲が聞いてきた。

 

 

『確かにそれは気になるな。どうなんだ、相棒?』

 

『大した理由じゃない。敢えて言うなら、周りの目を気にしたんだよ』

 

 むらくもからの質問は僕の予想していた通りの内容だった。

 

 嘘は言っていない。だけど、当時の僕は精神面が幼く、広い太平洋の向こうにある新天地での生活に不安があった。

 アメリカの大学に飛び級入学する話を持ってきたのは父親と旧知の間柄だった人物であり、持ち掛けた責任としてホームステイで面倒を見ると言っていたから衣食住の心配はなかったと思う。それでも、異国の地で異人種間のコミュニケーションを上手く取れるかが不安だったんだ。

 

 それに、理由はそれだけじゃなかった。

 

 

『──その娘(・・・)のこと、そんなに大事でしたか?』

 

『うん。少なくとも、飛び級入学の話を蹴る程度にはね』

 

 白雪にそう言って答えると、右腕に掛かる圧力が強くなった。

 

 

『叢雲……?』

 

『勘違いしないでよ。別に、誰を大事にしてようとアンタの勝手なんだから。……でも、実際のところどうなのよ?』

 

『……特別な感情があった訳じゃないよ。単純に妹分としてしか見ていなかったと思う』

 

 当然だけど恋愛感情とかはない。僕を慕ってくれている従妹であるあの娘にとって、良い兄貴分でいようとは思っていたけどね。

 

 今思えば、飛び級入学の話を持ち掛けられた直後だって────

 

 

 

『アメリカに行くって、本当なのですか……?』

 

 僕がそれで悩んで、迷っていた時に彼女からそう聞かれた。

 

 

『耳が早いんだね』

 

『ごめんなさい。でも、兄様が遠くに行ってしまうと思うと……』

 

『……』

 

 この時のあの娘の様子を見て、僕はすぐに言葉が出せなかった。

 

 だって、今にも泣きそうだったから。

 不安な気持ちからか表情を歪めて、目尻には涙を湛えていた。訴えるような眼差しで見つめてくる瞳は心情を表すように揺れて、それだけで僕にはもう見るに堪えなかった。

 

 

『行かないよ。アメリカの一流大学には、将来的に高校卒業してから渡米して行けば良い』

 

 だから、そう答える以外なかったんだ。

 

 

『良いの、ですか? こんな機会、滅多にないはず……』

 

『普段から仲良くしてくれてる従妹泣かしてまで、優先したいとまでは思えないよ』

 

 

 

 ────この時から、僕は実力を隠すようになった。ごく平凡な、どこにでも居る普通の男子を演じるようになったんだ。

 

 それからも6年間、あの娘とは家族ぐるみでの付き合いをして来た。

 平凡な高校生として生活してきたけど、小学校時代に期待された頭脳も自動車事故から生還するのに活かせなかったんだから、我ながら笑っちゃうよね。

 

 

『自分を慕ってくれる女の子が泣いていたら決心するくらいには、僕はあの娘に甘かったんだろうね。小学生ながらなかなかのシスコンだったよ』

 

『その娘のこと、今は気にならないわけ?』

 

『……正直、少し心配してるんだよね。何処か、僕に依存してる節があったから』

 

 僕が死んだ後、早まったりしていなければ良いのだけれど。

 

 

『……ふふっ。なるほど、分かりました。なら、今後は私に任せてくださいね♪』

 

『は? ちょっと待ってそれどういう……』

 

『それは私も気になるところだけれど。時間切れよ、叢一』

 

 白雪に発言の意図を問い質そうとした直後、叢雲の宣告と共に周りを光の粒子が浮かび始めた。これまで通り、この世界での時間が終わろうとしている。

 

 

『楽しい時間も、今回はこれでお仕舞いですね』

 

 名残惜しそうに言いながら白雪は僕から離れ、叢雲達もそれに倣った。

 

 

『3人とも、先の任務ではお疲れ様でした。ショートランドに帰還後は忙しくなると思いますが、私もお手伝いしますので安心してください』

 

『白雪に世話されるでもなく、何とかやっていくわよ』

 

『先代がその意気なら、海上自衛隊で自衛艦隊旗艦だった艦として置いていかれないようにしないとな』

 

 今後の日程について示唆したものだろう、白雪の言葉にそれぞれが頼もしい返答をして見せる。そんな叢雲達に続いて僕も口を開く。

 

 

『一度死んでからこの現状になってまで、能力を隠すつもりはないからね。僕の全力で第二の人生を生き抜いていくさ』

 

『ふふっ。期待してますよ、義弟君♪』

 

 僕の決意表明に白雪は満足げな表情を浮かべながらくすっ、と微笑んだ。

 

 そんなやり取りの間にも光の侵食は進み、叢雲とむらくもは光の粒子に塗り潰されるように消えていく。

 

 

『──折角なので、最後にひとつだけ』

 

 今にも精神世界が光で満たされようとしている時に、白雪はそう言いながら歩み寄ってきた。

 

 

『この先、何があっても私は貴方を守りましょう。今度こそ、最悪の結末は迎えませんから。──』

 

 最後の台詞は、ノイズが掛かったように良く聞き取れなかった。

 

 それを疑問に思う暇もなく、僕の意識は光に包まれた。

 

 




 今更ですが、原作と比べて白雪さんがかなり性格改変されてるかもしれない(^_^;)
 あとアンケートの自衛艦娘についてですが、いずれも採用というか全員出します。容姿やら設定やらは一応考えてあるので、第13.6話くらいでお披露目するかも?

番外編追加するならどれ?

  • オリジナルキャラ視点
  • 未登場の原作キャラ視点
  • 大和視点
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