死んで叢雲になったわ。なに、不満なの?   作:東部雲

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間違えて鋼鉄の咆哮二次に投稿してしまった(汗)

後から来た気付いて慌てて再投稿。内容的には、主人公が叢雲として顕現するところからスタートです。


第1章 南方作戦
第1話 サブ島沖


 サブ島沖は日ノ出を迎えた現在、朝焼けの陽光が海面を反射し、まだ薄暗く感じる上空の高積雲は日ノ出を背に影が伸びていた。

 

 その眼下を幾つもの人影が航行していた。

 

 

「ここもすっかり静かになりましたね。本土の主力は凄いです、憧れます」

 

 先頭を走るオッドアイが特徴的なセーラー服の少女──古鷹が呟いた。

 

 

「私は夜戦がしたかったんだけどなぁ」

 

 不満げに応えるのは両手を頭の後ろで組んだ少女──川内だった。こちらは古鷹が同じセーラー服だが、色合いと細部が異なる。

 

 

「本土の主力が作戦完了した後の残敵捜索も大事です! 頑張りましょう!」

 

「吹雪ちゃんの言う通りです。元々、私達泊地の艦隊は本土から任務でやって来る艦隊の支援が役目です。私達が今やってるのも重要な任務ですよ」

 

 その後ろから続くのは先頭の二人より小柄な少女──吹雪と白雪で、不満な様子の川内をそれぞれ励まし、嗜めた。

 

 

「そりゃ分かってるけどね。やっぱり新設の泊地は警備が精一杯かなぁ」

 

 普段嚮導艦である自分の指揮下にある二人から言われ、まだ不服そうに頬を膨らませて言う。

 

 

「私が編入されたのは残敵に強力な個体がいた場合、例えばeliteクラスに備えた用心らしいので気を引き締めましょう?」

 

「あ、うん・・・分かった」

 

 古鷹の優しげな口調とは裏腹に有無を言わせぬ雰囲気が感じられ、川内はただ頷くしか出来ない。

 

 そんな二人のやり取りに同行する駆逐艦二人は笑みを溢し、和やかな空気が流れた時だった。

 

 

「! 旗艦より各艦ッ、右舷(みぎげん)前方に異常!」

 

 突如、進行方向より右の海面で発光現象が起こり、先頭にいた古鷹がいち早く気付いて叫んだ。

 

 

「まさか、深海棲艦!?」

 

 吹雪から声が発せられて、全員が砲を構える。

 

 

「待ってください!」

 

 そこに制止する声をあげたのは古鷹だった。

 見れば水面の光は弱まり始め、やがて収まるとそこには。

 

 

「艦・・・娘?」

 

 一人の垢抜けた少女が立っていた。

 見たところ駆逐艦娘だ。腰まで伸びる銀の長髪、ワンピース風のセーラー服を着ている。背中には一部の駆逐、軽巡洋艦娘が使用する可動式のアームが付いた艤装を背負っていた。右手には細長い槍のようなものを持っている。

 

 

「まさか、叢雲ちゃん・・・?」

 

 吹雪の驚きを含んだ声に反応して、叢雲と呼ばれた少女が返事した。

 

 

「ふ、ぶき・・・?」

 

 鈴が鳴るような掠れた声で名を呼んだ。直後、ふっと糸が切れたかのように海面に倒れた。

 

 

「叢雲ちゃん!?」

 

 吹雪は思いきって隊列から飛び出し、倒れた叢雲に駆け寄る。遅れて古鷹達も後を追った。

 

 

「吹雪さん、叢雲さんの様子は!?」

 

「・・・気を失ってるみたいです。でも」

 

 どうしてこんなところに突然現れたのか。当然の疑問が吹雪から発せられた。

 

 

「白雪、座標は?」

 

「ちょうど一致してます。ここから見えるサブ島の地形から考えて、ここは叢雲ちゃんが沈んだ場所、だと思います」

 

 川内の問いに白雪が表情を硬化させて答えた。

 

 人類が擁する彼女達艦娘、それと敵対する深海棲艦の戦争が始まって二十年近く。多くの戦船が世に顕現してもなお邂逅していない艦娘がいた。

 

 特Ⅰ型駆逐艦五番艦、通称雲級と呼ばれる駆逐艦の一番艦叢雲。

 過去の大戦で実施された、南方の制海権を巡る戦いで沈んだ第十二駆逐隊の一隻。

 

 自分達が記憶する限りなら、公式では叢雲という艦娘はどこの鎮守府にも存在しない。

 

 

「私達が叢雲と初めて接触した艦隊だね」

 

 自嘲気味に川内が呟いた。

 ここにいる艦隊は新設されたショートランド泊地の所属だ。

 本当は未発見の艦娘と邂逅するのは歴戦を戦ってきた本土の艦隊だと思っていた。実際に大規模作戦の主力は本土の鎮守府だから当然だが、特型とは言え叢雲を自分達が発見してしまった。

 

 川内の内心をよそに、駆け寄った吹雪に抱えられた叢雲は瞳を閉じて眠り続けていた。

 

 

 

          ◇◇◇

 

『ここ、は?』

 

 意識せず呟いた声はエコーが掛かっている。だけどそれは問題じゃない。

 

 僕は船の甲板上にいた。

 砲身が二つある連装砲、その下に広がる木甲板。その後方に雨風を防ぐ天蓋(てんがい)が二つ、階層毎に取り付けた艦橋が此方を見下ろしていた。

 

 

『貴方が叢一? 意外と地味なのね』

 

 背後から辛辣な言葉が聞こえた。声がした方に振り向くと、現世で見慣れた美少女が立っていた。

 

 

『そう言う君は叢雲だよね』

 

『その通り。私は叢雲。旧日本海軍特型駆逐艦、五番艦の叢雲よ』

 

 前世で見た図鑑のように自己紹介してくれた。良いね、流石に気分が高揚する。某空母の艦娘じゃないよ?

 

 それは取り敢えず置いといて、今気になっている事を聞いてみる。

 

 

『ここはどこ? 見たところ君の甲板上だけど』

 

『厳密には違うけど見ての通りよ。ここは私と叢一の内側(・・・・・・・)にある私の甲板上ね』

 

『僕と叢雲の内側?』

 

『前世で死んだ後の事は覚えてるわね?』

 

 叢雲の質問に頷く。

 

 

『確か深海らしい場所で猫吊るしが現れて、僕が不憫だから転生させると言って、君の沈んだ船体に触れた。そしたら僕の中に叢雲の色んな感情が入ってきた』

 

 それから意識が途切れる間際まで、猫吊るしが見送った所まで記憶してる。

 

 

『最初の二つはともかく、あとの二つはその通りね。特に最後の感情については現状と深く関係するわ』

 

『どういうこと?』

 

 あの時、僕と叢雲は等しく混ざりあったように感じていたけど。

 

 

『さっき私達はサ()島沖で現出して付近を航行していた艦娘の艦隊と遭遇した。でもその時はまだ融合が完全じゃなかったから途中で気を失ったわ。安心しなさい。今はそれも殆ど終わってるから』

 

『分かった。あと君が沈んだのはサボ島だよね? 今サブ島と言ったけど』

 

『叢一のやってた“げーむ”と同じよ。この世界に存在する地名はげーむと同様で、サブ島はその一つね。でも問題はそれじゃなくて、ここからが大変よ』

 

『そ、それって・・・一体?』

 

 普段柔和な物腰ではないが、より真剣な表情を浮かべた叢雲を見て深刻な問題かもしれない。

 

 

『────この世界に、駆逐艦叢雲はまだ私達しかいない』

 

『えっ!?』

 

 駆逐艦叢雲は他に居ない? それってつまり。

 

 

『僕達が最初に出現したってこと? でも、なんで』

 

『この海域が、それだけ特別な場所だからよ。それはともかく、私達は難しい状況にあると思う。駆逐艦叢雲としては最初の個体だからその関係でトラブルに遭うかもしれない』

 

『! 例えそうだとしても、僕が好きにさせないっ』

 

 せっかく叢雲と一つになったのだ。邪魔されてたまるもんか。

 

 

『ふふ、頼もしいわね。その意気よ』

 

 僕が意気込んでるのを見た叢雲は、愉快げに微笑みながら言った。

 

 

『それについては叢一に任せるわね。あとはひとつだけ言っておくわね。目が覚めてから口調が変わってるかもしれないけど、私に合わせて変換してるだけだから。気にしないで話して』

 

『あ、うん。分かった』

 

 多分叢雲がベースになってるからなんだろうな。

 

 

『さて、そろそろ時間よ』

 

 叢雲がそう言った直後、辺りは白い光で溢れ始めた。周りの風景を塗り潰すように、叢雲の天蓋付きの艦橋や主砲が光に埋め尽くされていく。

 

 

『最後にもうひとつだけ言っておくわね』

 

 光がこの空間を満たそうとするなか、徐々に体まで及んだ叢雲が前置きした。

 

 

『ありがとう、私を選んでくれて。史実では大した活躍も出来ず、今までは艦娘に生まれ変わることもできなかった。それが叶ったのは叢一のおかげ』

 

 靴を履いた足からセーラー服の腰辺りまで光に覆われ、ゲームでは聞くことのなかった素直な言葉を恥ずかしそうに、頬を染めながら言う。

 

 

『目覚めたら、私達は駆逐艦叢雲よ。よろしくね、相棒』

 

 それを最後に、視界はホワイトアウトした。




最後の辺りは叢雲の素直な気持ちを表現した、というのを書いてみたんですが、同じ叢雲嫁な提督さん達にはどうなのでしょう? ツンデレが足りないかもです。勿論、ツンを増やしたいですけど(苦笑)

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