※2019年2月7日に加筆修正しました。
「叢雲……ちゃん」
「…………」
二人に呼び掛けるとまず反応したのはセミロングの茶髪を二つ括りにした少女、白雪が弱々しい声音で呼んできた。
一方でぱっつんの黒い長髪が特徴の少女、初雪は俯いたまま返事はなかった。
「初雪? どうしたのよ、あんた」
前世の記憶でも初雪はダウナー系で口数も少ない印象だったけど、それでも様子が気になったから訊いてみた。
「……なんでも、ない。久しぶり……叢雲」
「なんか気になるわね。ま、良いわ。改めて久しぶり」
どうも引っ掛かるけど、それより今は状況を把握するべきだ。
「それで? 貴女が私の司令官?」
この問い掛けは比叡や白雪、初雪とは少し違う感覚がしたからだ。相手がいかにもな服装と言うのはあるけど、
「やっぱドロップならアタシを選ぶか。もっと落ち着けるタイミングなら、歓迎会したのにな」
「どういう意味よ」
「目を覚ましたばかりで悪いな、ここを離れてくれ」
「…………は?」
意味が分からない。自分で着替えてからだが覚醒直後に連れ出されて、叢雲の姉二人に出会ったのにここを離れろ?
「何でよ、私はここに必要ないって言うの? 比叡や白雪、初雪にまた会えたってのに、それで私にはここから出ていけって!?」
思わず声を荒らげて叫ぶが、この言動は僕より叢雲のものだろう。今言った3人とは史実の関係で特に思うところがあるからだ。
「まあ落ち着けって。別に必要ない訳じゃない、だけど周りの様子見ればどんな状況か予想はつくだろ」
橿原司令官は宥めるように言って溜め息をついた。
「今、泊地は敵艦隊の襲撃を受けている」
「ッ!」
工廠の有り様を見てから何となく、予感はしていた。
多分、この泊地は橿原丸司令官の言った通り襲撃を受けていて、整備士達と床に散乱した部品や血痕から察する限り、消耗戦になっている可能性も。
「発端は友軍が発動した敵飛行場砲撃、敵泊地の破壊を旨とする大規模作戦だ。アタシ達の泊地を前線の拠点として作戦は開始され、それは無事に成功したさ。けど、そのあとに出現した深海棲艦を旗艦とする敵艦隊が問題だ」
「叢雲ちゃんがドロップ──ここに居る白雪ちゃんを入れた4隻が回収してから帰投途中に襲撃を受けたんです。そいつは強力な戦艦クラスで、同行した古鷹でも歯が立たなくて、他の敵艦隊から逃げてどうにかこの泊地まで辿り着いたんです」
「私が見つけられてからそんなことが……」
そう呟いてみたが、僕には心当たりがあった。
友軍が発動した大規模作戦は、恐らく前世の2013年秋に原作で実施された『決戦! 鉄底海峡を抜けて!』の
飛行場姫の撃破がE-4の突破条件だから、新たに出現したのは恐らく戦艦棲姫。
「それからは泊地に留まっていた本土の攻略艦隊が応戦を開始した。だけど相手が想像以上に強大で、うちの泊地からも戦力を抽出する程の消耗戦になっちまった……」
そう話した橿原丸司令官は疲れた様子で肩を落とす。無理もない、前世でも戦艦棲姫は“ワンパン姫”と呼ばれるほど、当時の提督達にトラウマを植え付けた強敵だったのだから。
「まだこの泊地が陥落するかはまだ分からない。だけど万が一もある。実戦を経験した他の艦娘ならともかく、ドロップしてから間もなく実戦経験のない叢雲は投入出来ない。だから一度泊地から離脱してもらう。心配するな。移動は長距離航行可能な船舶とうちの泊地の軽空母による援護で行う」
「私は行かないわよ」
きっぱり、僕はそう言い切った。その発言に橿原丸司令官は苦い表情を浮かべ、比叡、白雪と初雪は揃って目を丸くした。
確かに状況は苦しいだろう。出現した敵艦隊が強力で、南方の作戦である以上夜戦だってあるから消耗戦になったのは仕方ない。そんな状況だからこそまだ船舶が航行する余裕がある内に、まだ顕現したばかりの叢雲は待避させるべきなのも分かる。
…………だけど
「私は比叡や白雪、初雪と同じ艦娘よ。ドロップして間もないから何? 錬度が乏しいし駆逐艦だから? だからって、順序が逆じゃない!」
僕は感情のままに叫んだ。顔が熱を帯びて頭に血が上っているのが分かる。その勢いのままに続けた。
「ここには艦娘じゃない、普通の人間だって居る! 整備士も、さっきまで私が寝ていた病室を管理する人も! それなのに私がここで逃げれるわけないわよ!」
「けどさ、叢雲はまだ訓練も受けてないんだ。経験皆無の駆逐艦が一人いても──」
「さっきから騒がしいわね。どうしたの、提督?」
橿原司令官が言い切る前に声を掛けられた。聞こえた方に振り向くと、ストレートの黒い長髪の女性が屋外の桟橋と繋がる出入り口に立っていた。
この女性は多分艦娘。前世では原作で入手したから知ってる、名前は。
「飛鷹か。気になって様子を見に来たんだな」
橿原司令官がその名を呼んだ。
軽空母飛鷹。
豪華客船をベースにした商船改装空母の艦娘で、軽空母であるが蒼龍型、飛龍型正規空母を超える排水量とそれに迫る搭載量が特徴の航空母艦。
「そんなところよ。それで、貴女が例のドロップした艦娘よね?」
「そうだけど」
「……そう。それで提督? 何を話していたの」
「ここを離れるよう指示していたんだ。だけど本人は言うこと聞かなくてな」
なんと言おうが僕と叢雲は逃げないよ? 出撃させてくれないなら最悪、艤装勝手に持ってくし。
「ふぅん? 叢雲、どうしても泊地から逃げ出したくないのよね?」
「答えは変わらないわよ」
「そう、分かったわ。提督、叢雲の出撃を許可してあげて」
「はぁ!? 冗談だろ飛鷹! 叢雲はドロップしたばかりで訓練も、演習もしてないんだぞ!」
橿原司令官は信じられないと言わんばかりに叫んだ。
「この期に及んで冗談は言わないわよ。それにこの駆逐艦、テコでも動かないと思うし、なら私が連れてくわよ」
「……はぁ。分かったよ、それでいい。直衛に使えるので何機残ってる?」
飛鷹の言葉を聞いて諦めたように言った。
「零戦二一型が八機、九九艦爆が四機、九七艦攻が六機残ってる。使うならその半分だから、零戦四、九九艦爆二、九七艦攻三で計九機を叢雲の援護に回せるわ」
「OK、それでいこう。明石! ちょっと来てくれ、叢雲が目を覚ました!」
橿原司令官の呼び掛けに一人の女性が駆け寄ってきた。
「提督、何のよう……っ!? 叢雲ちゃん起きてきたんですか!」
こちらを見るなり驚いた様子で叫ぶ女性は、うん。間違いなく原作と同一人物だね。ピンク色の髪を前で結ってるところも同じだ。
「見ての通りだ。ただ困ったことに出撃を希望しててな、急いで艤装を用意してくれ」
「えぇ!? まだ訓練も演習も「時間が無いから頼むよ」わ、分かりました!」
有無を言わせず橿原司令官が言うと明石は慌ててまた走り出した。もう司令官でいいや。いちいち書くの作者も面倒だろうし。
「明石はすぐに艤装を持ってくる。桟橋で待機してくれ。友軍が深海棲艦と交戦する海域までは飛鷹に案内してもらえばいい」
「無理言って悪いわね」
一応謝っておく。彼女達も本当はこちらの身を案じて止めようとしたかもしれないし、他に何か理由があったかもしれないからね。
「まぁ気にしないでくれよ。ただあれだけ言ったんだし、沈むんじゃないぞ」
「端っからそのつもりよ。私にとってここは懐かしい場所だし、また戻ってくるわよ。行ってくる」
そう言って桟橋と繋がる出入り口に足を向けた。
「……叢雲ちゃん」
行こうとしたら白雪がこちらを呼び止めてきた。
「白雪……?」
「どうしても、行くんですね」
白雪は不安げに表情を曇らせて言った。
「ええ。ここにはいないけど、私を回収したらしい吹雪と古鷹が多分、向こうに居るはず。だから助けにいくわ」
これは叢雲の願いだ。過去の戦争と同じ様にあの二人を助けられなかった、なんて結果は彼女が何より望まないし、恐れてることだから。
「……分かりました。でも、気を付けてください。私も修理が終わったらすぐに向かいます」
「私も。今度こそ……叢雲を助ける」
「話はもういいかしら? 明石が艤装を用意できたみたいよ」
「……そろそろ行くわね。行きましょう、飛鷹」
無意識に顔を背けてから言った。
白雪は吹雪型では二番艦だから姉として言ったと思う。でも初雪は、意味が重い気がした。
理由は見当がつく。恐らくそれも史実に関係することだろう。
駆逐艦叢雲はサボ島沖で沈んだ吹雪と古鷹の乗員捜索に出撃したが痕跡すら見つけられず、敵飛行場から空襲を受けて航行不能になり、艦長と砲雷長を除いた生存者が初雪に移乗した。
叢雲に雷撃処分をしたのも初雪だった。白雪の艦長が艦内に残っていた二人を説得して、退艦した直後に大炎上した叢雲を沈める役目は初雪が担った。
白雪にとっては、吹雪と古鷹の救援に向かった先で大破した叢雲を置いて待避するしかなかったからだと思う。
初雪は多分、叢雲を雷撃処分するなんて2度としたくないからかもしれない。
そんな姉二人が無事を願ってるから、理由が分かる素直じゃない叢雲はそれしか返せない。
だけど、僕としてなら言えることはある。
「白雪、一つ良いかしら?」
「なんですか?」
白雪からすれば思い出したように聞いてきたと思う。戸惑う彼女に続けた。
「私、目が覚めてから何も食べてないわ。だからカレーでも食べてみたいわね。この姿に生まれ変わってから初めてのカレーをね」
振り返りながらそう発言した。それを聞いた白雪はポカーンとした表情になったけど、すぐにそれを明るくして駆け寄って来た。
「約束します! 絶対、美味しいカレー作りますから!」
こちらの手を取りながらそう返してきた。うん、いい笑顔だ。
「私も、手伝う。カレー……作るの。絶対」
初雪も倣うように手を触れさせた。姉妹としては嬉しい、でも叢雲は素直になれないので。
「感謝はしないけど、作ってくれるなら食べてあげるわよ。それじゃあね」
と返した。そして踵を返し歩き始めた。
「私もカレー作り、気合い、入れて、頑張ります!」
背後からそんな声が聞こえたけど、今は気にしない。ダークマターなら後で阻止できるだろう。
出入り口で台車に積んだ艤装を明石から受け取った後、桟橋から飛ぶように着水した。思っていたより初めての体験から来る不安な気持ちはなく、そこからは飛鷹に速力を合わせながら泊地を出発した。
多分次回から交戦回に入ると思います。叢雲の新人なりの戦いを書いていきたいところです。
ちなみにこれは私情を含みますが、
叢雲の妹──雲級の駆逐艦はいつ実装するんでしょうかね?(´・ω・`)?
番外編追加するならどれ?
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オリジナルキャラ視点
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未登場の原作キャラ視点
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大和視点