戦姫と神々の多重奏   作:パクロス

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明けましておめでとうございます。
新年に合わせて新作投稿です。
宜しくお願い致します。


第一話 再臨

 目の前で、黒い炭が舞い散る。

 それはついさっきまで、妹だったものだ。

 妹の名を叫ぶが、返ってくる言葉はもう無かった。

 

「~~~~~っ!!」

 

 思わず慟哭の叫びをあげる少女―—奏。

 彼女の周りを『ソレら』が囲む。

 得意災害『ノイズ』——人の攻撃をものともせず、一方的に人を炭へと還る悪魔の化け物。

 既にこの地に派遣された調査隊はノイズによって殺され、奏の親も——そしてついさっき彼女の妹もその後に続いた。

 十数体のノイズたちが奏の周りを囲う。逃げ場はもうない。この状況で生き残る術などなく、数秒とせずに奏も同じように目の前で舞う黒い炭となるだろう。

 奏は地面に地面に膝をつき、俯く。

 震える体、その姿は絶望と恐怖に打ちひしがれてようにも見えた。

 

「……許さねえ」

 

 しかし、その状況の中で、奏は紡いだ言葉は絶望のそれではなかった。

 震えは、恐怖から来るものではなかった。

 ノイズへと向けた涙を流す瞳にあったのは絶望ではなく、怒りであった。

 

「お前ら、絶対に許さねえ……皆を殺したお前らを、アタシは許さねえっ!」

 

 そう叫び、掴んだ土をノイズに投げつける。位相差空間にその身を置くノイズに効く筈もなく、投げた土はすり抜ける。

 それでも奏は諦めない。ノイズが奏に触れようと腕を上げようとも、奏は諦めずノイズを睨めつける。

 そして——

 

 

 

 

 

 突如響いた爆音と共に奏の命は救われた。

 

「ぐっ!?」

 

 何が起きたのか、分からなかった。

 分かったのは、奏の目の前で何かが派手に落下したのと、それによってノイズがまとめて吹き飛ばされたことだけだった。

 

「な、なんだ……?」

 

 困惑する奏を余所に徐々に晴れ渡る土埃の中でそれはむくりと起き上がった。

 それは赤い髪の男の姿であった。

 男の姿は奇妙なものだった。全身をひび割れ所々欠けた青に金で縁取られた鎧で包み込み、肩からボロボロのマントを身にまとっている。

 

「ここは……地球、か?」

 

 困惑しているのは男も同じようで辺りを見回し、訝し気に言葉を放つ。そしてそんな男に向かうノイズたち。

 

「お、おいっ、後ろっ!」

「っ!」

 

 思わず奏が叫ぶ。同時に、男の背後から襲い掛かろうとする。

 男もまた炭へと変わってしまう、と身構える奏。

 しかし、男はくるりと周りノイズの一撃を避けると——

 

 

 

 

 

 勢いの乗った拳を叩き込みノイズを吹き飛ばし、炭へと変えた。

 

「なっ!?」

 

 奏が驚くのも無理はない。ノイズに物理攻撃は無駄であり、人のパンチなど逆に炭化されるのがオチなのだ。

 しかし目の前の男はその常識を当然のように覆したのだ。

 続いて襲い掛かる二体のノイズを男は同じように拳、蹴りを以てあっさり返り討ちにする。

 

「なんだ……? なぜゴエティアの眷属がここに……それにこの感覚——」

「うわっ!?」

「っ!」

 

 未だ困惑が抜けきれない男だが、奏の悲鳴に思わず目を向ける。

 見ると奏に狙いを定めたノイズが数体、襲い掛かろうとしていた。

 風が吹き荒れ、その中で男がふわりを浮かび上がる。そして一瞬にして距離を詰めると、瞬く間にノイズを粉砕した。

 驚く奏に、男は手を差し伸べた。

 

「無事か?」

「あ、あんた……一体……?」

「話は後だ。ここから逃げろ」

 

 上空から新たに現れた飛行型ノイズの姿を目に入れた男は右腕を伸ばす。

 今度は何をするのかと思う奏だが、暫くして男は短く舌打ちをすると右腕を上に掲げ、開いた手を握り締める。

 直後上空から幾多の雷が飛行型ノイズを貫いた。

 

「なっ!?」

「こう言う訳だ。ここにいたら巻き添えを喰らうぞ。——行け」

 

 男に促され後ろ髪を引かれる思いの中奏は急いでその場を走り去る。

 それを確認した男はマントを外し頭につけた金色の装飾に手を当てる。そこから展開した蒼い装甲が頭部を包み込み兜を形成する。

 

「さあ、古の魔物たちよ……ここからは俺が相手だ!」

 

 そう言い口元をマスクで覆った男が合わせた拳から青い稲妻が走る。

 そして雄たけびを上げながら男は目の前のノイズへと駆けだした。

 

 

 

 

 

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 その後どうなったのか、奏はよく覚えていない。

 何しろ地面が割れるような衝撃と豪風、青い稲妻が絶えず森の中で飛び交っているのだ。

 ただ無我夢中で走り、途中太い木の根に引っ掛かり山を転げ落ち——気がつけば遅れて駆け付けた救助隊の車の中だった。

 手当を受けながら車の窓から奏は山の方角を見る。既にノイズは自壊したと救助隊は認識したようだが、奏は知っている。自分を助けてくれた、あの稲妻の男を。

 

(アイツは、一体……)

 

 そんな疑問を浮かべながら、奏は疲れによる深い眠りへと落ちていった。

 

 

 

 

 

===============

 

 

 

 

 

 少女——天羽奏と、男——暮響也が再び相まみえるのは、それから一年後。

 

 




と言う訳で(どういう訳で)第一話です。
正月中は一日一話で投稿していきたいです。


……つーか最後にここで投稿してから6~7年経ってるわけで
正直ギアがかかり始めみたいな状態なんで
先行き不安極まりないですがよろしくお願いします

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