青き稲妻の物語   作:ディア

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青き馬、再び唖然とする

【さあ〜、やはりここで行ったのはリセット。先頭は誰にも譲れない。そんな雰囲気の中、二番手に追走するのはセントライト記念を勝ったテノカサブランカ、そして神戸新聞杯コンビのタチノフーム、サードメンタルと続いて馬群が固まっています】

 

 

『……ここまで馬群が固まるのは久し振りに見たな』

 

 

「そりゃマジソンが馬群をめちゃくちゃにしていたからな。そう錯覚すんのは無理ない」

 

 

 ボルトが呟くと武田が反応し、それに答える。ボルトはマジソンのレースを何度も見ているせいか

 

 

【もう一度先頭を確認しましょう、リセットはさらに加速して5馬身、6馬身と離して大きくリードを取っています。それに反するように先行集団はペースを落としゆっくりと進んでいます】

 

 

「いや……違う」

 

 

『え?』

 

 

「ペースが早すぎる。先行集団の騎手達はそれを意識しているがそれでもかかっている……」

 

 

『ならいつもの事でしょ?』

 

 

 ミドルがそう指摘すると武田は首を振った。

 

 

「違う。リセットからしてみてもこれは早い……0から600mの200m毎のラップを測ったが11秒3、11秒4、11秒7、合計して600m通過タイムが34秒4……淀の坂のことも計算すると1000mのペースが58秒0だ……」

 

 

 ちなみに放牧中の時のボルトとマジソンのマッチレースの1000mの通過タイムですら58秒9であり、いかに速いか理解出来るだろう。

 

 

『マジか?』

 

 

 そして武田は800mのラップを書いていき、メモする……

 

 

「マジだ。見ろ……現にどんどん突き放しているだろうが」

 

 

【さあ、リセットはすでに二番手から15馬身以上も差をつけ1000mを通過しました。そのペースなんと58秒! 超ハイペースです! リセットは本当に大丈夫なんでしょうか?】

 

 

 

 

 

『普通なら骨折してもおかしくないな……』

 

 

 マジソンですらそう言って、リセットのペースに呆れる。

 

 

「そうだろうな。だが聞いた話によるとリセットの母親の産駒達はサラブレッドとは思えないほど骨太で丈夫だ。だからあんな無茶が効く……」

 

 

 

 

 

 サラブレッドはスピード特化するために進化した生き物だ。確かにスピードは出て、速くなったがその代償にガラスの脚と呼ばれるほど脚が脆く、故障しやすくなってしまった。だがリセットの身体は先祖帰りなのか或いは突然変異なのか理由はわからないがサラブレッドらしくなく骨太かつ丈夫だ。しかしその一方でスピードも出せ、スタミナも尽きないという特徴はサイレンススズカにも似ているがスタミナはサイレンススズカの比ではない。これら二つの要素を足し合わせたらとんでもないのは誰でもわかるだろう。

 

 

 

 

 

『サイレンススズカがあんな風になったんだ。誰だってそう思う』

 

 

「……確かにな。だがサイレンススズカは所詮はサラブレッドだったってことだ。リセットはサラブレッドの血を引いた何かだ。一緒にするだけサイレンスが可哀想だ」

 

 

 そう言って武田はラップをメモをする。

 

 

 

 

 

【2000mを通過してタイムは1分57秒から8秒といったところ。やはり速い! 本当に本当に大丈夫なんでしょうか!? 現在二番手から40馬身以上も離しています!】

 

 

『……なあマジソン』

 

 

『なんだ?』

 

 

『俺らが3000m走った時の2000の通過タイムって2分過ぎてたよな?』

 

 

『……だよな?』

 

 

 マジソンもボルトもため息を吐くと武田が付け加えるように口を挟んだ。

 

 

「2分01秒1。それがお前らのタイムだ。牧場から送られてきたからよく覚えている。だがまあ……ペースが確実に遅くなってきているのは確かだ。1000mから2000m走るのに59秒以上かかっている。どんなに速くてもラスト1000mは64秒くらいかかるだろうな」

 

 

『その間にじわりじわりと仕掛けていかないとダメだってことだな?』

 

 

『無理だな』

 

 

『どういうことだ?』

 

 

『忘れたのか? 淀の坂の鉄則を……』

 

 

『そういうことか……』

 

 

 ボルトはそれを聞いて頷いた。

 

 

 

 

 

『武田先生、淀の坂の鉄則って?』

 

 

 ミドルはまだ2年くらいしか生きていない。ボルトのように前世が人間だったという訳でもない。故に淀の坂の鉄則を知らない。

 

 

「京都競馬場は特殊な作りで出来ている。直線に坂こそないが3コーナーから4コーナーにかけて高低差4.3mの坂がある……それをゆっくりと登ってゆっくりと下る。それが淀の坂の鉄則だ」

 

 

『そういう意味じゃなくてなんでゆっくりと下るの?』

 

 

「カーブのところでスピードが付きすぎて曲がりきれなくなるからだ。それだけじゃねえ。曲がり切ったとしても直線を向いた時にはスタミナ切れを起こして失速して負ける。ミスターシービーが出るまでこの淀の坂の鉄則を守らなきゃ絶対に負けるってジンクスがあったんだよ」

 

 

『そういうことね……ありがとうございます、武田先生!』

 

 

「まあ例外も幾つかある。マジソンの親父のシンキングアルザオの場合は逆にその坂を利用してロングスパートに持ち込んだけどな。これはよっぽどスタミナに自信がなきゃ無理だ」

 

 

 そして武田の解説が終わるとリセットはすでに直線を向いていた。

 

 

 

 

 

【直線に入ってリセットが先頭! まだ30馬身以上のリードがある。このリードを保てるか!? それとも三頭がじわりじわりと差を詰めてやってきたが届くか?!】

 

 

『普通なら失速してもおかしくないが……リセットの勝ちだな』

 

 

【残り200m! これは届かない!】

 

 

 そしてリセットがゴールに近づき、他の馬も必死で追いすがるが……あまりの大差に誰一人もリセットの影を踏むことすら出来なかった。

 

 

【サードメンタル、二着は確保できるか!? リセットが今ゴールイン! 史上初の牝馬での牡馬クラシック三冠を勝ち取ったのはリセット! 二着はサードメンタル、三着は微妙です!】

 

 

「やりやがった……あの牝馬……」

 

 

『どうした? マジソンの世界レコードを塗り替えたのか?』

 

 

「……それ以上だ。あいつは遂に3分の壁を超えた……」

 

 

 そういって武田がタイムを見せるとそこには2分59秒5と表示されていた。

 

 

『マジモンのバケモノかよ……クラシック三冠全てレコード大差勝利……マジソン、来週勝てなきゃ全部持ってかれるぞ』

 

 

「その前にミドルがくるみ賞に出走する……だから頑張れよ。ミドル」

 

 

『おっさん、どういうことだ?』

 

 

 その後、ボルトにミドルが来週レースに出ることをすっかり説明し忘れてた武田は甘噛みという名の処刑が下されたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 〜鵡川〜

 

 

 その頃、鵡川の中小牧場にて大歓喜の声が上がり、パーティが開かれていた。

 

 

「リセットの三冠達成に乾杯ーっ!!」

 

 

 そう、三冠を制したリセットの故郷の牧場だ。かつてリセットはこの牧場内でも期待されていなかった。というのもここの牧場長がリセットの母親の馬主の親戚であり、ダイワメジャーを父に持つ繁殖牝馬にしては安値で売ってくれた。しかし購入したはいいがキングカメハメハやシンキングアルザオなどの非SS(サンデーサイレンス)系でありながらリーディング上位に突っ込める種牡馬と種付けする金がない。

 

 

 

 

 

 何故そんな馬を探しているのかというとインブリードの危険を少しでも避ける為だ。インブリードとは血統の5代前までに同一の祖先を持っている近親配合のことである。インブリードの長所は祖先の能力を強く引き出し、より強い馬が生まれやすくなるということだ。しかし血が濃くなり過ぎると体質が弱くなるといった短所もある。ラムタラが種牡馬として大失敗したのもその理由にある。ノーザンダンサーの2×4(つまりノーザンダンサーが2代前と4代前にいることを示す)のインブリードがあったのでノーザンダンサーの血を一切含まない繁殖牝馬が必要だった。そんな繁殖牝馬は限定されているので数も集まらない……結果質も悪くなり失敗した。

 

 

 

 

 

 そんな訳でインブリードを少しでも避ける為にもリセットの母親の配合相手にはタニノギムレットが選ばれた。タニノギムレットはGⅠ7勝馬ウオッカを輩出してはいるが近年では重賞を善戦する程度の産駒しかおらず種付け料が全盛期に比べ減額していた。それだけではない。自身もダービーを勝利しており血統面でもSS系だけでなくMP(ミスタープロスペクター)系、ND(ノーザンダンサー)系の血を含んでいない為ダイワメジャーどころかサンデーサイレンスを父に持つ馬でもヘイルトゥリーズンの4×5のインブリードで済む。

 

 

 

 

 

 しかもタニノギムレット自身もダービーを勝利しており、スピードも受け継ぐことが出来る……そう思っていた。だが現実は悲しく走らなかった。

 

 

 

 

 

 それでも諦めずにタニノギムレットを配合相手にしようとしたがBOOKFULL(いわばもうその年の配合相手は出来ない状態)になりタニノギムレットとは交配出来なくなってしまった。そこで現れたのがリセットの父、ファイナルキングであった。ファイナルキングの種付け料はGⅠ馬としては信じられないほどに安くリセットの種付けの時には50万円といった値段で一か八かの勝負にかけた。そうして生まれたのがリセットだった……

 

 

 もちろんそんな種牡馬から生まれても大した期待はされていなかった。まず牧場が牧場であり施設も整っていない。その上父はダート馬、母は未出走、母父ダイワメジャーということから大した値段で売れるはずもなかった。確かに中小牧場にしてはダイワメジャーは良血馬かもしれない。しかしディープインパクトのいる日本競馬界ではそんな血統は無意味だ。

 

 

 

 

 

 リセットはそれらを覆し、三冠馬となった……故郷の牧場が喜ぶのは無理なかった。

 

 

 

 

 

「じゃあ得た収入で来年はキンカメかシンキンに種付けだな!」

 

 

 こうして鵡川の一つの牧場が大牧場に変わっていった。




活動報告にて応援してくださる読者がいて、小説家になろうにてこの小説を投稿する方針になりました!
ですがしばらくお待ちください…色々と準備をしなければいけませんので…多分明日か明後日あたりに投稿します。
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