青き稲妻の物語   作:ディア

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ようやく書けました……アホみたいに仕事が忙しく隙間の時間を見てコツコツ書き上げました。


青き馬、史上最強ステイヤーの誕生を垣間見る

 ボルトチェンジが皐月賞を制した二週間後、天皇賞春がやって来た。

 

『いよいよね……歴史的快挙の瞬間を見れる時が』

 

『そうとも限らねえよ。おっさん達には話したが今回の天皇賞は去年のJCとまではいかずともハイレベルだ』

 

 ミドルとボルトの目の前にはTVがあり、そこにはマジソンティーケイ大本命の文字が映し出されていた。

 

『ハイレベルっていう程ハイレベル?』

 

『有馬記念を制したサードメンタルを始め、数多くの重賞馬がいるんだ。それもGⅡ以上の勝者や長距離に滅法強いシンキングアルザオ産駒ばかりだ。ハイレベルとしか言い様がないだろ』

 

 シンキングアルザオの代表産駒はマジソンティーケイの他には既に種牡馬として活躍しているBCクラシック馬カウンセリング等が上がり、如何にシンキングアルザオが種牡馬として有能か理解出来る。

 

【いよいよ名誉あるGⅠ競走、天皇賞春の本馬場入場です】

 

 そして本馬場入場が始まり、各馬が騎手に誘導され、コースの中に入っていく。

 

 

 

【4枠7番、マジソンティーケイ。天皇賞春三連覇をかけて、王者として走ります】

 

『ぎゃーっ! ほら見てボルト、マジソン先輩だよ!』

 

『やかましいわ。見ればわかる』

 

 

 

【4枠8番、クラビウス。ゴールドシップ以来天皇賞春の栄光を求めるこのステイゴールド産駒が春の天皇賞の王者に挑みます】

 

『そういやこいつが最後のステマ配合だっけか。すっかり忘れていた』

 

『ステマ配合ってあれだよね? ステージダンスとメジロマックイーンの配合』

 

『違う。父ステイゴールド、母父メジロマックイーンの馬のことだ。父ステージダンス母父メジロマックイーンの配合は確かにいない訳じゃないが一般的には父ステイゴールド母父メジロマックイーンのことを指す』

 

 

 

『そうなの?』

 

『そもそもステマ配合って言葉が出来たのは10年前の話だ。ドリームジャーニー、オルフェーヴル兄弟を始め父ステイゴールド母父メジロマックイーンの競走馬達が大活躍してそんな単語が出来上がったんだ』

 

『そうなんだ……』

 

『父ステージダンス、母父メジロマックイーンの配合は悪くはないが、俺の血統以上にステイヤー気質な競走馬になりかねないから不人気なんだよ。考えてみろよ、父も母父も菊花賞馬だ。1980年代ならともかくスピードを求めるこの時代にステイヤー血統を求める奴なんて余程の物好きしかいないだろ』

 

 

 

 尚、長距離のGⅠ競走を制する為に作られた著名馬はスーパークリーク。スーパークリークを生産した牧場はとにかく長距離を重視しており、スーパークリークに限らず他の馬もステイヤー寄りだったがその中でもスーパークリークは菊花賞や天皇賞春を勝つ為に生まれていたような馬である。

 

 父はニジンスキーの直系の孫にあたるノーアテンション、母父のインターメゾは当時のステイヤーの代表格であったグリーングラスを輩出しているだけでなく皐月賞と菊花賞を勝利したサクラスターオーの母父でもある。

 

 そんな配合で生まれてきたスーパークリークだが当時の菊花賞や天皇賞春は名誉高いレースで本当に強い馬でないと勝てないレースだった。つまり皐月賞や天皇賞秋よりも菊花賞や天皇賞春を勝つことこそが重要視されていた時代である。

 

 

 

『それはそうだね』

 

『まあ風間さんなんかはその類いだけどな』

 

『そう言えばそんなことを言っていたね……』

 

『マジソンの血統表を見る限りじゃ、いかにもステイヤーって感じだ。父シンキングアルザオ、母父メジロブライト。どっちも言わずとしれた名ステイヤーだが、母父のメジロブライトはタイムを出せないスローペースで力を発揮するタイプで、スピードがあるとは言い切れない競走馬だった』

 

『へぇ~……』

 

『それでもスペシャルウィークに食らいついた二度目の春の天皇賞のタイムは制した時よりもタイムが良いから全くスピードを出せないという訳でもないが、基本的にはタイムを出せない生粋のステイヤーだ』

 

『それはなんとも……』

 

 あんまりな言い様たがボルトの言うとおりメジロブライトは快速馬とは呼べるほどタイムは優れていない。それどころか新馬戦の時は1800mを2分以上かけてようやくゴールする程遅かった。それにも関わらずメジロブライトが天皇賞春を勝てたのはメジロブライトの持久力にありそれは良い方向でマジソンにも受け継がれている。

 

 

 

『さてそろそろ始まるようだ』

 

『あ、本当だ』

 

【各馬ゲートインが終わりました。さあ一体どの馬が勝つのでしょうか。一番人気のマジソンか、それとも別の馬か。各馬一斉にスタート!】

 

『行けーっ先輩!』

 

 スタートと同時にミドルが嘶きマジソンを応援するとマジソンが予想外の行動に出た。

 

【おっとこれは珍しい。マジソンティーケイなんと最後方】

 

『なんですって!?』

 

『奴らしくないな』

 

 ボルト達が驚いた理由、それはマジソンが逃げ或いは先行以外の選択肢を取ったことだ。マジソンといえば逃げるか先行するかのどちらかでペースを作り他馬を競り潰すようなレーススタイルだ。しかし今回はそうではない。

 

『……いや前回の天皇賞春よりも速いペースだ』

 

『え?』

 

『前回の天皇賞春は自身のライバルが追い込み馬だったせいで超スローペースにせざるを得なかったが今回は違う。スローペースでも対応出来てしまう先行脚質やそいつらをまとめて凪ぎ払える差し脚質がいる。マジソンからしてみればやり辛いだろうよ』

 

『でも先輩が追い込みになる必要はないんじゃない?』

 

『1分3秒』

 

『なんのこと?』

 

『このまま追い込みで行った場合の1000mの通過タイムだ。よく見ていな』

 

【さあ1000mを通過してタイムは61秒から62秒あたりと言ったところでしょう】

 

『ぷぷーっ。ボルト、1秒間違えているよ』

 

 小馬鹿にするようにミドルが指摘するがボルトはため息をついた。

 

『ミドル、マジソンは先頭から何馬身遅れていた?』

 

『え?』

 

『マジソンの通過タイムは先頭からおおよそ10馬身離れていることを考慮すると1分3秒だ。だがマジソンは何を考えて──』

 

 ボルトの言うとおり、マジソンは1分3秒で1000mを通過している。しかしボルトですら予想外のことをマジソンをしでかす。

 

【あーっと、ここで早くもマジソンがスパートをかけた!】

 

「ダニィッ!?」

 

 某野菜人の如く叫び声を上げるボルトに思わずミドルが放心してしまう。

 

 

 

『一体何を考えてやがる!? 淀の坂の鉄則云々以前の問題だぞ!?』

 

 残り1000mでスパートをかけるならともかく、マジソンがスパートをかけた距離は残り2200mはあまりにも長すぎ途中で力尽きるのは明らかだ。そんなことをするなら最初から逃げた方がマシである。

 

『ボルトうるさいわよ』

 

『ミドル、何故そんなに冷静でいられる?』

 

『それは先輩だからね。何か作戦を立てているからって信用しているからよ』

 

『対して必要でもないのにウイニングランをしたバカがそんなことを考えられると思うのか?』

 

『……先輩ゴメン、それだけは庇えないわ。恨むならあの時の自分を恨んで』

 

 ミドルの謝罪など関係なしにマジソンが徐々にギアを上げていき遂に先頭に躍り出て更に突き放す。

 

 

 

【さあ残り1000mを過ぎても未だにマジソンティーケイが二番手を突き放す。その差は15馬身、クラビウス達はこの差を縮められるのでしょうか?】

 

『……おいおい冗談だろ?』

 

 一向にマジソンを除いた天皇賞春の出走馬達がマジソンとの差を縮められないことに対して、ボルトが目を見開く。

 

 淀の坂の鉄則の関係上ここから差を縮めるには下り坂からスパートをかけなければならない。しかしそんなことをすれば先に力尽きるのは自分達の方であり自滅するに等しいだけでなくマジソンは放っておいても力尽きる。それ故に無理をすることなく無難に下っていく。ただ一頭クラビウスを除いて。

 

【ここでクラビウス仕掛ける。クラビウスが坂を下っていく!】

 

 クラビウスの騎手のみがマジソンの脚が全く衰えていないことに気づいていた。もしここで勝負を仕掛けなければマジソンに絶対に勝てない。それ故の判断だった。

 

【マジソンティーケイ、未だに先頭! その差は縮められない、縮められない、縮められない! 二番手にはクラビウスが上がるがまだ縮められない!】

 

 だがそれでもその読みは甘く、マジソンとの差は開く一方。

 

『つ、強い……』

 

 そしてミドルまでもが目を見開き、マジソンの走りを見るのではなく凝視する。それだけマジソンが強いということ他ならない。

 

【マックイーンよ見ているか、シンキングアルザオよ見ているか、今マジソンティーケイ一着でゴールイン! 強すぎる! 祖父や父を超えた馬の名前はマジソンティーケイだ!】

 

 マジソンティーケイが二着のクラビウスに18馬身差をつけゴールインすると京都競馬場は騒然とする。

 

 

 

 圧倒的な一番人気で勝利したこともそうだが問題は二着につけた着差とタイムである。

 

 それまで八大競走史上の最大着差はヒカルタカイの17馬身差*1でありマジソンはそれを超えた。

 

 さらにタイムは世界レコードを更新し3分11秒5という未来永劫超えることのないタイムであり二着のクラビウスも例年であれば勝っていたのだがそれはそれ、これはこれである。

 

 この時のマジソンティーケイ程強い競走馬はおらず、後にどんな馬が今回のマジソンの出したレコードを更新してもマジソンが永久に持つことになる史上最強のステイヤーの称号を得られることはなかった。

*1
18馬身と見なす声もあるが6馬身につき1秒差がつきヒカルタカイは二着の馬に2.8秒しかついておらず18馬身以上差をつけるには3秒以上差をつける必要がある




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