青き稲妻の物語   作:ディア

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更新遅れました。遅れた理由についてはダイジェスト化に手間取ったのと他の小説に時間を費やしたからです。


青き馬、NHKマイルCに出走する

 橘は果たしてこのままボルトをNHKマイルCに出走させても良いのか迷っていた。2000m未満のレースは2歳の時以来であり、しかも京王杯2歳Sは芝1400mでどちらかといえばスプリンターのレースであり芝1600mのマイル戦は未経験だ。橘が不安にさせたのは1400mのレースを知っているが故にNHKマイルCで1400mのレースをしてしまわないかという不安だ。

 

「これが吉と出るか凶と出るか……」

 

 

 

 そしてNHKマイルC当日

 

『必ず殺すと書いて必殺と読むっ!』

 

【鞭すらいらない、鞭すら抜いていない! これはもう桁が違う! 今、NHKマイルCを大差をつけゴールイン! そして二着にカムイソード! 皐月賞、NHKマイルCの次は日本ダービー! ダービーへ向け幸先の良い勝利です!】

 

「嘘だろ?」

 

 難なくボルトチェンジがカムイソードを突き放し、ゴールする。それまでの橘の不安を掻き消したかのような圧勝。それも前代未聞とまで言われたマオウのレコードタイムを更新し、橘は呆気にとられた。

 

 

 

「やはり圧勝だったか」

 

「元々がスプリンターですからね。皐月賞よりも短いマイル戦なら楽勝ですよ」

 

 武田も諏訪も満足気に頷き、ボルトもそれに続いた。

 

『俺としても走りやすいのは確かにそうだが、距離が短くなったっていうよりは噛み合ったような気がするんだが』

 

「噛み合った?」

 

『多分1600mが俺のベスト距離なんじゃないのか?』

 

「お前としてはそう見ているのか……」

 

『あくまでも個人の感想だ。ただ走りやすいのは事実だ』

 

「安田記念の心配は要らないと安心していいのか、それともスタミナ不足を懸念しなければならないのかわからないところだな」

 

「距離の不安ですか……確かに不安なところは多いですが、菊花賞や春の天皇賞といった長いレースは展開次第で多少スタミナがなくとも勝ててしまいます」

 

「それは言えているな」

 

「それにボルトはマジソンよりもスタミナがあると思いますし、今流行りのフェノシン配合が相手でもスタミナ勝負が出来ますよ」

 

「だといいがな。日本ダービーというのはスタミナだけじゃない。最も運の強い馬が勝つんだ。スピード、スタミナ、瞬発力、パワー、そして仕上がりの良さ、ありとあらゆる要素を日本ダービーという舞台で完成させなきゃ勝てない。それを完成させるには実力も運も必要で、皐月賞が最も速い馬が勝つって言われているのは実力が多少劣っていてもその仕上がりが他の馬よりも早いから勝てるってことと同じことだ」

 

 

 

「菊花賞の最も強い馬が勝つというのは?」

 

「強い馬ってのはタフネスな馬のことだ。菊花賞ほど3歳クラシックの中でタフネスさを測るGⅠはない。その理由はわかるよな?」

 

「距離が長いからですよね」

 

「その通りだ。3000m以上のレースはGⅠだと菊花賞と天皇賞春しかない。海外に目を向けてもそんな長いレースはそうそうあるものじゃない」

 

「それは確かに」

 

 世界には3000m以上のレースはあることにはある。しかし国際GⅠ競走でその距離を超えるレースがあるかと言われると、極僅かで数える程しかない。ちなみに4000mを超えるレースはカドラン賞、世界最長のGⅠ競走としてゴールドカップしかない。

 

 

 

「風間さんはそういったタフネスな馬が大好きなんだ。グリーン一族の始祖──ハーツタールにグリーングラスやグリーンダンサーを種付けさせた理由がそれだからな」

 

「グリーンダンサーってどんな馬でしたっけ?」

 

「ニジンスキー産駒の競走馬でスーパークリークの父ノーアテンションを輩出した馬だ。当初ハーツタールにニジンスキーとの種付けを望んでいたらしいがニジンスキーとは種付け出来ず、その代用として種付けしたんだ」

 

 ──競走馬として見てもかなりの名牝なのにな

 

 そう武田がそう呟き、腕を組む。日本馬であることを抜きにしても欧州で優秀な成績を残しており、当時の陣営からは信じられないの一言であったがその説明は割愛する。

 

 

 

「そのグリーンダンサーの産駒がグリーン一族の片割れとして生まれたってことですか?」

 

「その通りだ。そいつこそがグリーンダンサーの産駒の牝馬、ゼノグリーン。ゼノはGⅠこそ勝てなかったが子孫に産経大阪杯無敵のヘレニックイメージ、そしてそこにいる桜花賞馬ミドルテンポと言った馬が並ぶ」

 

『ミドルまでそうなのか?』

 

『えっ? 私のことを呼んだ?』

 

 それまで昼寝していたミドルが起き、ボルトを見つめる。

 

 

 

『ミドルの母の母の……まあとにかくご先祖様が糞爺やマジソンの親父と同じご先祖様にたどり着くって話だよ』

 

『へえ……あれ? 私のお父さんってその糞爺のお兄さんの子供でしょ? 私のお祖父さんのご先祖様ってことにもなるけど』

 

『代を重ねれば人間でも競走馬でもご先祖様が一緒になることはある。例えば俺の親は父親と母親の2頭だが祖父母は4頭、更に曾祖父母は8頭と数が増えていく。10代も先のご先祖様は1000を超える。更に10代を重ねれば単純計算で100万を超える』

 

『ひゃ、100万!?』

 

『更に言うなら繁殖に上がれる牡馬は極僅かだ。そんな中でご先祖様が一緒にならない方が難しいってものだ……それ故に区別をするために5代前まで一緒のご先祖様がいる場合はインブリードと呼ぶ』

 

『もう訳わかんない……』

 

『まあとにかくご先祖様がダブるってのは珍しくも何ともないって話だ』

 

 

 

「何はともあれ、日本ダービーで勝てる身体に仕上げなきゃいけない。いくらマジソンよりもスタミナがあるとはいえ、ミドル並みの末脚を持つとはいえ、不安要素は排除しなきゃいけない」

 

「ですね」

 

「諏訪、明日ボルトの疲労が取れていたらマジソンと併せ馬だ」

 

「了解です」

 

「よし、そういう訳だから明日から頼むぞ、ボルト」

 

「マカセロ」

 

「ミドルもオークス取ろうな!」

 

『はーい!』

 

「全く、良い奴だよお前達は」

 

 こうしてボルト、ミドル、マジソンの三頭による併せ馬の調教が始まった。




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