凡矢理高校の生徒会長 作:煉獄ニキ
外はまだ少し薄暗い中目を覚ます。
そのまま暫く今日の予定を考えていると、突如部屋中に電子音が響いた。
ピピピピッ!
昨日の夜にかけた目覚ましを止めて上体を起こす。
いつもの事だが、鳴る前に目を覚ますんだが、寝坊するのはまずいので毎日かけている。
「顔を洗うか」
聞こえてくるのは数年前に変わって以来、最早聞き慣れた自分の声、そうじゃなかったらむしろ緊急事態な訳だが。
ベッドを抜け出し、そのまま自分の部屋からも出て台所を経由して洗面所に向かう。
台所でケトルのスイッチを入れるのも忘れない。
洗面所で顔を洗い、続けて歯を磨いていく。
目の前の鏡に写るのは昨日までと同じく己の姿。
僅かに癖のある親父譲りの黒髪に母譲りの薄らと翠に見える瞳。
自分の顔が両親どちらの要素も引き継ぎすぎて、それが親を思い出させて鏡を見ることが億劫な時期もあったな、なんてふと思いだす。
台所からカチッとお湯の沸いた音が聞こえた。
歯磨きを終え、口をゆすいで洗面所を出る。
その後は適当に食パンを焼き、沸かしたお湯で入れたコーヒーを飲み、ニュースを見ながらゆったりと過ごす。
朝食を済ませた後は制服に着替え、学生鞄に詰め込んだ教科書などが入っているか確認してもう一度歯磨きへ。
それらを済ませると今度は洗濯物を干す作業。
昨日のうちにタイマーでセットしてあった洗濯機は朝方から回り出し俺が起きる前には洗濯は終わっていた。
一人分なので大して時間はかからない。
家を出る予定時間が迫る中、リビングの小棚の一番上に置かれた一枚の写真に声をかける。
それには、俺によく似た若すぎる男と、茶髪の綺麗な女性が仲睦まじく映っている。
「それじゃ、行ってくる」
俺の、雪村柊一の朝は大体こんなもんだ。
「失礼します」
「おっ、来たか。こっちこっち!」
まだ校内に生徒が殆どいない時間、とはいえもう30分もすればぞろぞろと登校してくるだろうが。
普段からこのくらいには学校にいて教室で小説でも読んでいるのだが、今日に限って担任から呼び出されていた。
それで職員室に入ると、まだ教師の数も少なく半分も来ていないようで空席が目立つなか、手を挙げて存在をアピールするかのように声をかけられる。
俺の担任のキョーコ先生こと、日原教子。
昨日は細かい話は聞けなかったが、俺に用事があるのは間違いなさそうなので先生のデスクへ向かう。
「いやー悪いな、わざわざ早く来てもらって」
「いえ、いつもこのくらいには来てるんで」
「おっ、さすが入学から二週間で生徒会役員になるヤツは違うねー」
「自分としては不本意でしかないですよ。大体押し付けられたようなものでしょう」
「まあそう言うなって。生徒会長はみるみる痩せていってな。わたしら教師をも心配してたんだ」
そこにお前の入学は渡りに船だったんだよ、生徒会にとっては、なんてキョーコ先生の言葉を聞きながら視線を学ランの左腕に向ける。
そこにつけられた生徒会と刺繍された白の腕章を見ると、どうしてもため息をつきたくなる。
「何言っても今更なんで気にしてないです。同級生から敬語をつかわれること以外はね」
「なーに、それだけ頼りにされてるってことだよ」
頭を過るのは入学時には普通に話していた席が隣の生徒が、とあるトラブルを解決して以来何故か敬語で話しかけてきたことだ。
いや、あれは地味にキツかった。
口には出さないが一部の上級生も同じような態度を受けたこともあるし。
そのうち直るだろうとそこまで気にはしてないが。
「それならいいんですけど。それで、今日はどうして自分を呼び出したんですか?」
「おっとそうだった。我ら1-Cが誇る生徒会副会長に是非頼みたいことがあったんだよ」
「頼みたいこと?」
胸の前で手を合わせ拝むような仕草を見せる我らが担任、この時点で面倒事だと悟った俺はこっそりとため息をつくのだった。
まずいまずいまずい!!
私は今全力疾走している。
理由は単純、遅刻しそうだからだ。
といっても授業に、というわけではなく担任の先生との待ち合わせ時間に遅れそうなのだ。
というのも実家がマフィアでその幹部であるクロードが今朝も若干の暴走というか空回りをしたからだ。
護衛が必要だとかお嬢にみっともないことはさせられませんとか言って家の前にあったのはひたすら長いリムジン、ズレているとしか言えない。
そこから逃げるように飛び出して追いかけるクロード達から隠れながら学校へ、気づけば時間は思った以上に過ぎており優雅に歩ける余裕なんてなかった。
途中でもやしのような男を轢いてしまったが、それも今は頭の隅に置いて職員用入り口から入る。
そこから階段を駆け上がってすぐの扉の前で一時停止、見上げると職員室のプレートがありここで間違いない。
息を整えながら時計を確認すればまさしく待ち合わせの予定時間、最低でも五分前には着くはずだったのにと後悔の念が湧いてくるがそれを無理やり飲み込んで目の前の扉をノックし、開く。
「失礼します!」
「おっ、来たか。こっちこっち」
「はい!」
パッと目に入るのは半分ほど埋まったデスクの数々、多分クラス担任の先生は教室に向かっているんだろう。
またも申し訳なさが顔を出した私に声をかけたのは眼鏡をかけた若い女性。
説明を受けに来た時に会った、担任の日原先生だ。
これ以上待たせてはならないと小走りで向かう。
「お待たせしてすいませんでした!」
「なーに、時間通りだよ。まっ、今後は余裕をもった方が良いだろうけどなー」
「そ、そうします」
ここまで来て漸く先生のデスクのすぐ隣に立つ男子生徒のことが目に入った。
どれだけ余裕がなかったんだと頭を押さえたくなるがぐっと堪えてそちらに視線を向ける。
「そうそう、こっちは雪村柊一。うちのクラスの学級委員で生徒会役員でもある頼れるやつ。何か困ったことがあればこいつに聞くといい」
「雪村柊一だ。暫くは慣れないと思うけど、できる限りのフォローはするつもりだ。遠慮なく言ってくれると助かる」
「桐崎千棘です。ハーフですが日本語は話せるので良ければ仲良くして下さい!」
「ああ、よろしく」
驚いた、男なのに柔らかそうなふわふわした黒髪と僅かにつり上がった翠の目、雪村くんは鶫に負けないイケメンだったからだ。
女の子の鶫と比べるのもどうなのって話だけど。
っていうか、サラッと言うから流しかけたけど一年で生徒会役員ってどういう事よ!?
そんな彼は私の内心の混乱も知らず壁時計を見ると先生に向き直った。
「キョーコ先生、俺は先に教室行ってます」
「ああ。テキトーにまとめといてくれ」
「いつも通りってことですね。桐崎さん、良かったらこれどうぞ」
「え?」
そう言い残して彼は先生に視線を向けて、そのまま職員室を後にした。
渡されたのは……ハンカチ?
「おーおー、相変わらずだね。自分の口で言わない気遣いまで、そりゃファンクラブもできるわけだ」
「どういうことですか?」
「あー、それはねー……」
この後彼の行動の理由を聞いて、私は大層恥ずかしい思いをすることになる。
「おはよう」
「雪村くんおはよー!」
「雪村おはよう!」
「おー、雪村。はよーっす」
『雪村さん、おはようございます』
教室に入り、朝のあいさつをしたところ返事が返ってくるが、最後の方のは尊敬か何なのか俺に敬語を使ってくる奴らだ。
共通点としては、俺と同じ凡矢理中学の卒業生ってことくらいか。
思わず出かかったため息を呑み込み、自分の机へと歩く。
「お、おはよう雪村くん!」
「おはよう、小野寺。宮本も」
「ええ、おはよう。ところでどこにいっていたのかしら?鞄は置いてたみたいだけど」
「ああ、キョーコ先生に呼ばれてな。ちょっと職員室に行ってたんだ」
その途中で話しかけてきたのは、中学からそこそこ親しくしてる二人組、茶髪を左右非対称にしている小野寺小咲と小柄で眼鏡とポニーテールが特徴的な宮本るりだ。
「キョーコ先生に?何の用だったのかしら?小咲がずーっと雪村くんどうしたんだろうって「るりちゃん!」」
「今日から転校生が来るから、それについてだな」
『転校生!?』
宮本が言ったことに小野寺が過剰に反応して宮本の口を塞ぎにかかる。
こういう可愛い反応をするところは中学時代から変わってない。
そして俺が言った言葉に反応したのはこのクラスの殆どの男子である。
イスに座っていた者は思わずといった具合に立ち上がり、友達と談笑していた者達は途端にそれを打ち切り首をグルンと回しこちらに視線を向けた。
その他も様々な反応を見せ、教室中のほぼ全員の男子の視線がここに集中するというおかしな状況だ。
正直なやつらだ、さてどう伝えるか。
「ああ、ハーフの可愛い女子だったな。第一印象は大事だぞ、行儀よくしておけ」
俺がそう言った途端に、それまで席を立ちそれぞれ話したり好き勝手していた連中は席に着き姿勢を正し無言で教室のドアを見つめている。
本当に単純な奴らだ。
「小野寺も、心配かけて悪かったな」
「だ、大丈夫だよ!ちょっと気になっただけだし」
「そうか。そろそろキョーコ先生も来るだろうし、席着くか」
流石に学級委員がHRも始まるのに席を立ってるのは良くないので席に着くことに。
といっても俺の席は小野寺の隣だし、大して離れもしないんだが。
「おはよー!そんで、喜べ男子ーー!!」
『オオーーーッ!!』
二つある内の前のドアから入ってきたキョーコ先生は朝のあいさつをあっさりと済ませすぐに教室中が気になってる本題に入った。
俺と、さっきチラッと見た何やら不貞腐れてる一条以外の男子が雄叫びをあげた。
炊きつけといて何だが、そういうの女子は引くだけだと思うぞ。
「それじゃ入ってー、桐崎さん」
「初めまして。アメリカから転校してきた、桐崎千棘です」
職員室でも思ったが、猫かぶっているというかどこか無理してキャラをつくっているように思える。
俺がかき集めた情報でも中々のお転婆娘と書かれていたし……これが高校デビューってやつか。
などと俺がくだらないことを考えている間に彼女の自己紹介は終わり、教室は騒然となった。
「すっげー美人」
「キャ――――!!足細ーい!」
「何あのスタイル!モデル並みじゃね?」
「あんな可愛い子見たことねぇ!」
男女問わず彼女についての好意的な発言がポンポン飛び出す。
転校生が来ると知りただでさえ高かったテンションが想像以上の美少女で振り切れてしまった結果だろう。
だが流石に放置は出来ない、他のクラスは今もHRの真っ最中であることだし、ついでに言うならさっきからキョーコ先生とやたら目が合う。
静かにさせろって事ですね、わかります。
「静かに、それ以上は休み時間にするように。当然だけど桐崎さんの迷惑にならないよう気をつけること。それじゃ、キョーコ先生HRの続きを」
「あいよー。それじゃ、桐崎さんはどこかテキトーに後ろの席にでも……」
パンパンッ!と二度柏手をして皆の意識をこちらに集中させ、言いたいことを伝える。
それで静かになった教室の中で、キョーコ先生の指示を受け教室の後方へ視線を向けた彼女と、とある男子生徒の視線が合った。
「「あぁーーーーーーっ!?」」
「はぁ、やれやれだ」
一条楽という、本人は普通だが家庭に問題ありという何処かで聞いたような環境の生徒だ。
また騒がしくなるな、これは。
隣の担任から苦情がくるキョーコ先生、お疲れ様です。
担任のすぐ先の未来を想像して心の中で手を合わせつつ、俺は俺でやる事が増えるのは間違いない。
頭の中でいくつかのプランを立てながら、思わず呟いてしまった。