凡矢理高校の生徒会長 作:煉獄ニキ
窓から差し込む光で、私しか居ない夕暮れの教室はオレンジ色に照らされて、どこか幻想的に輝いて見える。
普段は外から聞こえる運動部や遠くからの吹奏楽の演奏の音などで騒がしい校舎が、今は静かなのが不思議で、でもそれも気にならない。
心の中はまず緊張があり、次に期待、それからやっぱり不安、細かいものは他にも様々で、とにかく複雑な感情が渦巻いている。
チラリと黒板の上に掛かっている時計を見る、時刻はあと五分で六時を指す、真面目な彼はそろそろ来るかも、なんて思い浮かべただけで胸が高鳴るようでこれじゃいけないと頭を振って平常心を取り戻す。
今度は髪型が崩れてないか心配になり手鏡で確認、しょうがないんだよ、少しでも可愛いとか綺麗とか思われたいしそんな私を見てほしい。
いつもの私だと確認を終え、鏡をバッグへ。
扉が開く音に振り返るとそこに立つのは私が待っていた、テレビで見るアイドルやモデルよりもカッコよく思う男の子、中学から私が密かに恋心を抱いている相手、雪村柊一くん。
この高校を進学すると決めたのも彼がきっかけだった、その時の私の成績だと結構厳しくてるりちゃんにも雪村くんにも迷惑かけたのを良く覚えている。
けど、その勉強を見てもらう時間も楽しくてそれで満足してしまいそうになる度にるりちゃんに注意されながら受験まで頑張った。
結果を三人で見に行って自分の番号があったのを見て飛び上がって喜んで、思わず二人に抱きついてその後はしばらく彼の顔すら見れなかった。
「ごめん、待たせたみたいだ」
「大丈夫だよ、さっき来たところだから」
これじゃ逆だろ、なんて笑う彼を見てまた胸が暴走してきたがこれじゃいけない、これから私は一世一代の告白をするのだ。
はっきり言って、雪村くんはモテる。
彼がどこまで自覚しているかはわからないが、その大人びた雰囲気と紳士的な対応、加えてイベントでは先頭で皆を引っ張るけど本当は一番楽しんでいて浮かべる子供のような邪気のない笑みは数多くの女子生徒のハートを撃ち抜いてきた。
実際に告白した子もかなりいる、それを聞いた時はこの世の終わりかと本気で思ったくらいだ。
だって地味な私よりも可愛いかったり、友達も多い子だったり、む、胸も大きかったりだったし。
それでも彼は誰とも付き合わなかった、噂では好きな人がいるから、と断ったらしいがそれが誰なのかはわからない。
私だったらいいのに、きっと彼を好きな女子なら皆が思ったことだ、私だって彼と恋人になった未来を何度妄想したことか。
最近だって彼が下駄箱から手紙を取り出した日は放課後まで気が気でなかった。
そうして中学から数えて通算十五回るりちゃんに告白するよう言われた私はついに決心したのだ。
「それで、用事でもあったのか?」
こちらを見つめて来るが、彼にしては珍しくどこかそわそわしているようで。
きっと彼はわかってる、雪村くんにとってはもう馴染みのシチュエーションだろうし彼を呼び出した時の私だって多分いつもとはかけ離れた態度だったに違いない。
それでも私の言葉を待っているのは全部受け止めて振るからなのか、それともまだ確証が持ててないのか。
ちなみに彼は告白された時は相手の言葉を全部聞いてその上で断るらしい。
ブワッとこれまで隠れていた不安が顔を出す。
それでも勇気を振り絞り、彼へ。
「雪村くん。私、ずっと中学の時から雪村くんのことがす「ちょっ、待ってくれ!」」
それまで黙って聞いていた雪村くんが止めてきた。
これまで聞いた話とは違う、私の勇気を出した告白は全部聞く必要すらなかったのか、やっぱりただの友達なんだ、なんて。
私は足元が崩れたようにすら感じられ、気を強く持たないとその場に座りこんでしまいそうで、でも視界がぼやけてくるのは止められず。
だけどせめて彼の言葉だけは聞こうと思って彼に視線を向けた。
「ごめん、不安にさせた。でもこれは俺から言いたくて」
ぎゅっ、とフラついた私の両手を握り、気づけば私たちの距離はずっと近くて。
思っていたのと違う、友達としか見れないとか、好きな人がいるからとか、これじゃあまるで……。
心は現金なもので、まさしく地獄から天国へと昇るような、微かな期待をしてしまっていた。
「小野寺。俺は、小野寺が好きだ。中学の時からずっと。絶対に悲しい思いはさせない、俺と付き合ってください」
「っ!」
思わず、涙が溢れた。
さっきまでとは意味の違うそれが、彼には違う風に見えたのか、真剣だった顔が不安に染められ恐る恐るといった風に訊いてきた。
「駄目、か?」
「違うの、これは嬉しくて。私も、雪村くんが好きです。私で良ければ付き合ってください」
良かった、言えた。
私はそう言うだけでもう喉がカラカラになってて、でもとんでもない達成感のようなものがあった。
彼の様子を伺うとホッとしたような、安堵の表情で、それを見て私もホッとする。
「ありがとう。さっきも言ったけど、絶対悲しい思いはさせないから、これからよろしく」
「こ、こちらこそ不束者ですが、よろしくお願いします!」
彼はプッと吹き出して、流石に気が早いぞなんて言って頭をポンポンと撫でてくる。
ああ、これだけで幸せです。
「でも、ほんと夢みたい。私が雪村くんと恋人になれるなんて」
「確かめてみるか、夢かどうか」
「へ?にゃっ、にゃにするの?」
それは私の本心を口に出した言葉だったのだが、彼はからかい混じりに私のほっぺたを摘んできた。
普段の紳士的な彼からはちょっと想像しにくいけど、精神的に高揚している時に限ってちょっとしたスキンシップが増えるのだ。
るりちゃんなんかは脇の下に手を入れられてそのまま持ち上げられ高い高いされてたっけ。
けど、今の私にはそんなことはどうでもいい。
何故かって、
「ごめんごめん、それじゃお詫びに」
呆然とする私のあごを手で優しく持ち上げ、自分と視線を合わせるようにして、少しずつ顔を近づけてくる。
あわわ、雪村くんがこんなに近くに。
あっ、まつ毛長い、肌も綺麗、彼の瞳って薄い緑色だったんだ。
残り三十センチ、十五センチ、ついに覚悟を決めた私が彼へと一歩踏み出す。
はっきり言ってこれが夢だとかは頭の中から綺麗に飛んでいってしまった。
そして互いの唇が触れる、という時。
意識が徐々に薄れていく、目覚めていく、ともいう。
そして、目を開く。
そこにはいつも通りの自分の部屋、顔が熱かったり、心臓がバクバクと煩かったりするけどとりあえず私がすることは一つ。
「……もう一回寝よう」
二度寝して、続きを見ないと。
クロードとの組手から一週間と少し、休日の今日に宮本達と約束していた映画を見ることに。
クロードの相手は中々にシンドかったが、有意義な時間だったと思う、少なくとも実力は認められて校内の警護は任され、侵入もしないと確約させたし。
地味に気に入られたみたいだしな、何だろ、桐崎さんを護るって言ったのが効いたのかな。
それはそうと一昨日までは平和だったわけだ。
特に話すこともない、学校でも問題は起きない、強いて言うなら桐崎さんにノートを貸したくらいか。
そこらで銃撃戦が起きていたのは両方のトップに電話で警告はしたが。
そうすると、一昨日の夜に桐崎さんから電話で、昨日の朝に一条から、泣きつかれた。
何でも二人でニセモノの恋人となるらしい。
どういった超理論でそこに至ったかは知らんが、それを止めることは出来ない。
俺はあくまで部外者であって実家の方針に口を出すことは流石にルール違反だろう、勿論心情的には同情もしたが、そこは耐えてくれ、三年間。
学校内では普通に過ごせば良いと伝えたら、少しは安心したのか引き下がった。
二人の高校生活には暗雲が広がって見えるがそれはそれ、今は二人とのデート優先だ。
宮本は認めないだろうけどあえて言おう、デートであると。
まあ、デートの相手の片方、小野寺がまだ来てないんだけど。
既に集合予定の駅前には着いていて、宮本とも合流し、もう待ち合わせ時刻は過ぎているが、小野寺は姿を見せない。
「遅いわね、遅れたことなんて殆どないのに」
「寝坊かな?たま〜にするだろ、小野寺」
「一年に一回くらいね。それにしても、電話にも出ないし……あっ。ちょっと、何してるの、小咲!」
おっ、小野寺が電話に出たみたいだな。
向こうの声は聞こえないが、宮本の様子からして事故に遭ったとかじゃなさそうだ。
十中八九で寝坊だと思うんだが、どうなんだろうか、残りの一ニは急な家の手伝いかな、それなら電話してくるだろうから今回はほぼないけど。
「それじゃ、普通に寝坊なのね。ええ、わかってるわよ。それじゃ、しっかり伝えとくから、車に気をつけて来るのよ」
「どうだった?」
「やっぱり寝坊みたいね。雪村くんに謝っといて、らしいけど」
「気にすることないのに。けど、それじゃここまでもう少しかかるのか?」
「もうすぐ家を出るって感じだったし、多分三十分くらいはかかるんじゃないかしら」
三十分か、長いようで短い時間だ。
今日の目的のショッピングモールにいくのは小野寺が来てからだとして、何をして時間を潰すか。
駅前の通りをグルリと見渡す、パッと見て目につくのはファストフード店や飲食店、次に眼科や歯科といった医院、あとは学習塾なんかだ。
ちなみに本屋は除外している、三人ともよく本を読むため後で行くことになるんだし、小野寺が来てからでいいと思ってのことだ。
めぼしい店もないし、喫茶店にでも入るか。
「適当な喫茶店でも入ろうぜ。気になる店はあるか?」
「そうね。強いて言うならあの店かしら」
「んん?あー、なるほど。んじゃあそこにするか」
彼女がビシッと指差したのは一つの喫茶店で、その前で揺れるのぼり旗を見て思わず納得した。
「もぐもぐ、結構おいしいわね。こういうのって意外と味は微妙だったりするんだけど」
「それはなにより」
「雪村くんはこれじゃなくて良かったの?」
「ああ。このくらいが丁度いいよ」
宮本が指差すのは、デカすぎて彼女の口元から下を隠す特大パフェだった。
ちなみにテーブルに運ばれてきた時は向かいに座る宮本の顔がほぼ隠れていた、彼女が開拓を進め今に至る。
さっきの旗にあったのはこのパフェのこと、特大パフェ始めました、と書かれていた。
あと、俺は朝食をしっかり食べてきたからこの小さなケーキとコーヒーで大丈夫だ。
しかしこの店は当たりかもしれない、コーヒーは普通だがケーキは美味い、とはいっても『おのでら』の和菓子には及ばないが。
しかし、なんだ、そんなにじっと見て。
「これも結構美味いぞ。一口食べるか?」
「は?」
「はい、あーん」
「ちょっ、むぐっ!?」
「どうだ、美味いだろ?」
呆けたように口を開いて固まったところに一口大のケーキを放り込む。
食べたいならそう言えばいいのに、結構宮本って遠慮するとこあるよなぁ。
「こんなところで、誰かに見られたらどうするの?勘違いされるわよ」
「それじゃ今度は個室のある店に行こうか。それに、俺は宮本なら勘違いされてもいいけど?」
あっはっは、ちょ痛い、宮本ちゃん、机の下で足を蹴るのはやめてくれないかな。
それと顔赤いけど、どうしたんだい?
結局夢の続きは見れず、寝過ごしてしまい、るりちゃんと雪村くんとの待ち合わせに遅れてしまった。
それにも二人は怒ることなく許してくれて、映画を見に行くことに。
るりちゃんはすっごい大きなポップコーンを買って食べてたけど、雪村くんは苦笑いだった。
不思議に思って聞いてみると私が来る前に特大のパフェを食べてたみたい、流石に食べ過ぎだよ。
そこで恋愛物の映画を見てしまったのが失敗だった、画面の中での俳優さんと女優さんのキスシーンを見てたら夢のことを思い出してしまった。
それからは意識してしまって、まともに雪村くんの顔を見れなくなった。
でもやっぱり見てしまい、結果チラチラ見ることになってきっと今日の私すごい変な子だったなぁ。
そして本屋に行き、ゲームセンターに行って三人でプリクラを撮ることに。
最初は普通に撮ってたけど、途中でるりちゃんが雪村くんに耳打ちして彼は戸惑った様子だったけど、るりちゃんの勢いに負けたらしく私の後ろに。
画面に映るのは私と雪村くんだけ、彼は嫌だったら言ってくれ、と前置きして後ろから私を抱きしめてきた。
もうそれだけで頭が沸騰するかと思ったけど、カウントダウンが始まったのでそのまま続行、るりちゃんがニヤニヤしてたのが気になったけど。
だから、今度は私が雪村くんに耳打ちした。
内容はお姫様抱っこをしてあげて、と。
他の女の子なら嫌な気持ちになると思うんだけど、るりちゃんなら平気だったりする。
珍しく顔を赤くするるりちゃんが見れて写真としても残っているので私は大変満足、今日は楽しかったです。
彼は本当に、あれは天然なのかしら。
いきなりの間接キスとか、その後のお姫様抱っこもだけど、いつか刺されるんじゃないかしら。
小咲と合流して、映画を見に行って私たちは特に見たいものも無かったので彼の見たいという恋愛物を見ることに。
でも失敗だったかも、画面の中でイチャつく俳優と女優がさっきの私たちと重なってしまい、それからはもう駄目。
何をするにしても彼を意識して無駄に動揺するし、顔は熱いし、照れ隠しに軽く叩いちゃっても彼は堪えない。
本屋では雪村くんのお勧めの本の中で彼の持ってない本を何冊か買った、彼が持っているものはそのうち貸してくれると言うのでそうなった。
本屋でも手が重なり(私が)飛び跳ねるという珍事があったが、あれは忘れましょう。
ゲームセンターのプリクラでは小咲にしてやられたといった感じか。
初めは普通に撮っていたが、刺激が足りないと思った私は雪村くんに小咲を後ろから抱きしめるようにこっそり伝えたのだ。
流石に付き合ってるわけでもないし、といった風に彼は否定的だったが、小咲は喜ぶから良いのよなんて強く言えば渋々と実行に移した。
顔を赤くして固まる小咲を見た私はもうそれで満足していた、油断していたともいう。
先ほどの私のように彼に何かを言っている小咲に気づかなかったのは一生の不覚だと言っていい、肩から背中にかけてと膝の裏に何かが触れたと思えば、ふわりと私は浮いていて、というか彼の顔が近くて今日イチの熱を顔に感じた。
そのあとはなんて事はない、彼が態々遠回りになるのに私たちの家を回って送ってくれた。
帰り道の始めは微妙に気まずい空気もあったけど、それもすぐに解消しいつもの私たちに戻れた。
でも、そろそろ駄目。
私は小咲の恋を応援するって決めたんだから、いい加減自分の気持ちも整理しないと。
親友が恋敵なんて、今時少女漫画でもないわよ。
それはそうと、今日の小咲の様子が変だったのは明日にでも聞き出さないと。