凡矢理高校の生徒会長   作:煉獄ニキ

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第6話

 

 

「おはよう、桐崎さん」

 

「お、おはよう。雪村くん」

 

 

朝一番。

 

いきなりの遭遇である。

 

話しかけてきたのは雪村くん、昨日あろうことか彼からの忠告を受けたにも関わらず、足を攣って溺れかけた私を助けてくれた恩人だ。

 

よくよく考えたら昨日は混乱していて、ろくにお礼も言えてないわけで学校で会ったら言おうと思っていたのです。

 

けどもう一度言おう、いきなりだと。

 

覚悟ができてないわけよ。

 

……いや、女は度胸っていうし。

 

よし、言うわよ。

 

 

「あ、あのさぁ」

 

「うん?」

 

「あ……」

 

「うん?」

 

「あっちから来たけどどうしたの?」

 

「職員室に行ってたんだ。ま、いつものキョーコ先生の呼び出しだね」

 

「そ、そうなんだ〜」

 

 

って、違うでしょ〜!?

 

ああ、もう!

 

お礼を言うのってこんなに難しいの?

 

そりゃあ、私は今まで友達が居なかったわよ。

 

鶫だって友達っていうよりは家族って意識が強いし。

 

向こうの学校では、一人でご飯食べてたりとかザラだったし。

 

そもそも丸一日誰にも話しかけられないなんて事もあった。

 

うわぁ、思い出したらヘコむなぁ。

 

って、イカンイカン。

 

今は雪村くんと話してるんだから。

 

 

「そうだ、昨日は大丈夫だった?」

 

「えっ、あ、うん。一応病院に行ったんだけどあんまり水も飲んでなかったし、大丈夫よ」

 

「そっか、なら安心かな」

 

「そ、そうデスか……」

 

 

そう言って柔らかく笑う彼を見ると、何故か恥ずかしくなって目を逸らしてしまった。

 

か、顔が熱い。

 

原因不明の熱を冷ますように、顔をブンブンと横に振って深く呼吸をする。

 

よし、今度こそ言うわよ。

 

ここで言えないと、後からだと余計に言えなくなることは私にだってわかる。

 

そして私は隣を歩く彼に体ごと向けた。

 

 

「あの、雪村くん」

 

「はい」

 

「昨日はありがとう、ございました」

 

「うん、どういたしまして」

 

 

よっし、言えた!

 

見たか、コンチキショー!

 

私だってお礼くらい言えるのよっ!

 

しかし目標を達成して、ご満悦だった私はまだ知らなかったらしい。

 

目の前の雪村くんが、時にすっごくイジワルになることを。

 

 

「しかし、それを言いたかったんだねぇ。桐崎さんは」

 

「へ?」

 

「いやぁ、朝からどうにも挙動不審だからさ。何か言いたいことがあるのかな、ってね」

 

「わ、わかってたなら言いなさいよ!」

 

「いやいや、半信半疑だったしね。ひょっとしたら寝癖がついてて、それを教えてくれるのかもしれないだろ?」

 

「いや、いつも身嗜み完璧なのに何言ってるのよ」

 

「でもやっぱり、桐崎さんは真面目だね」

 

「なにが?」

 

「お礼一つ言うのにそんなに考えて、悩んで。普通は、昨日はありがとねーって感じであっさり終わると思うよ。ま、そういう会話に慣れてないのもあるかもだけどね」

 

 

何とこの男、私が苦悩している間も大体のことを察して放置していたのである!

 

半信半疑とは口で言っていたが、すっごい笑顔の感じから嘘である。

八割くらいの確信はあったって顔だ、アレは。

 

しかも畳み掛けるように私を褒めて、貶して?くるのだ。

 

っていうか別に真面目じゃないし!

 

ただタイミングがわからないだけだし。

 

たしかに思い返してもパパやママ、鶫にクロード、要は身内以外でお礼なんて言った記憶がちょぉっとすぐには出てこないけど。

 

そしてどう返したらいいのよコレ。

 

あー、とかうー、とか私が声にならない声を出していると、彼は続けて言った。

 

 

「でも、そういうの良いね」

 

「ッ!?」

 

「見てて飽きないのもあるけどね、可愛いし」

 

 

もう限界、さっき以上に顔の熱を感じる。

 

私は、速やかにその場を後にした。

 

……逃げたとも言う。

 

多分、この真っ赤な顔は見られてないと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、桐崎さん。昨日はありがとう。それで、あの後大丈夫だった?」

 

「おはよう、宮本さん。うん、大丈夫だったよ。あと、千棘でいいよ」

 

「じゃあ私もるりでいいよ」

 

「わかったわ!あ、小野寺さんも名前で呼んでいい?」

 

「うん、いいよ。じゃあ私も千棘ちゃんって呼ぶね」

 

「それで、どうして顔を赤くしているのかしら?」

 

 

朝、登校してきた桐崎さんに声をかける。

 

昨日の練習試合のお礼を改めて言いたかったのと、体調も気になったからだ。

 

大丈夫とのことで、少しホッとした。

 

あと、名前で呼び合うことになった。

 

少しよそよそしく感じていたからこれについて文句はない。

 

しかし、顔を見てみればうっすらと赤い。

 

昨日のことで風邪でもひいたかと思ったけど、見たところそんな様子もない。

 

まあ、とりあえず聞いてみれば早いでしょう。

 

 

「えっ。そ、そんなことないわよ!?」

 

「いや、赤いから。小咲もそう思うでしょう?」

 

「うん。もしかして、熱があるんじゃない?」

 

「いやいや、こ〜んなに元気だから!!」

 

 

そう言うや、ガバッと立ち上がり腕を振り回す千棘ちゃん。

 

怪しい……明らかに心当たりがあって、それを誤魔化しているように見える。

 

こういう時は……。

 

 

「そうね。てっきり昨日雪村くんに助けられた時の事でも思い出して赤くなってたのかと思ったのだけど」

 

「うぇっ!?」

 

「図星かしら。でもちょっと違いそうね。雪村くんは……来てるけど教室には居ない。ここまでに会って何か話したのかしら?」

 

 

当たりね。

 

この手のカマかけは私が良く小咲に使う手だ。

 

大体同じような反応を見せてくれる。

 

座り直していた千棘ちゃんは椅子を倒す勢いで立ち上がり、さっきよりも更に顔は赤い。

 

これは違ったけど、言われて思い出して恥ずかしいのか照れてるのかは知らないけど、とにかく顔に出たと。

 

そして彼の席を見れば、いつもの通り鞄はあっても姿はない。

 

経験上、ごく簡単な推理だ。

 

そう、雪村くんは基本的に相手を貶すようなことは言わない。

 

マイナスの部分を見るのではなく、プラスの部分をつまり相手の良いところを探して、そこを矢鱈と褒める。

 

私もだけど小咲も、寧ろ同じ中学だった生徒の大半はやられていると思う、男女問わずに。

 

そして顔を赤くして、しばらく夢見心地というところまで一緒だ。

 

そういうところも良いところだと思うのだけど、彼に恋してる身としては少し心配になる時もある。

 

……小咲が、そう、小咲の話だから。

 

 

「いや、確かに話しはしたけど。別にそういうのじゃないし」

 

「別に責めてるわけじゃないから、気にしないで。何となく気になっただけだし。それに雪村くんと話して顔を赤くするなんて小咲にとってはいつものことだしね」

 

「えぇっ!?そんなことないよ、るりちゃん!」

 

「……今度デッカイ鏡持ってくるわ」

 

「どういう意味かな!?」

 

「ひたい、ひたいわよ。ほさき」

 

「……ねぇ。小咲ちゃんってもしかして」

 

 

顔を赤くして、目線がバタフライしながら言っても説得力はまるで無いんだけど。

 

問い詰めるつもりじゃ無かったし、ここらで小咲イジりに移行しようかしら。

 

痛い、痛いって。

 

もう、本当のことを言っただけじゃない。

 

頰を引っ張られて、それこそ赤くなるわよ。

 

今度ちょっと小さいけど、本当に手鏡でも見せてあげようかしら。

 

そうやって小咲とじゃれてると、千棘ちゃんが何か真剣な顔をして何かを聞いてくる。

 

いつの間にか顔の赤みも元通りになっている。

 

しかし、それに被さるように予鈴のチャイムが鳴ってしまった。

 

 

「ん?千棘ちゃん何か言った?」

 

「いや、何でもないの。準備しなきゃだから、また休み時間にね」

 

「うん、後でね」

 

 

今の真剣な表情……。

 

小咲ちゃんってもしかして、雪村くんのことが好きなの?とか続いたりして。

 

でも千棘ちゃんは一条くんと付き合ってるらしいし、それはないかしら。

 

それから、戻ってきた雪村くんと軽く挨拶をしてHR、そして授業が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の授業が終わり、放課後になった。

 

るりちゃんは練習試合があったばかりで、部活も休みらしいし、一緒に帰れるかな。

 

帰る支度をしている途中、何となく隣の席に視線を向けてしまう。

 

隣の席に座る雪村くんはもう鞄に荷物を入れ終わったようで、携帯の画面をジッと見ている。

 

雪村くん、今日は生徒会の仕事あるのかな?

 

昨日は千棘ちゃんに付き添って帰ったから、私たちとは別になったし、今日は一緒に帰れたらいいんだけど。

 

中学の時は結構一緒に帰ることもあったから、大抵は私の勉強を見てもらってて遅くなった時だったけど。

 

 

「そんなに熱っぽい視線を送ってたらバレちゃうわよ?」

 

「るりちゃん!?そ、そんなことしてないよ!」

 

「いやいや、あれは完全に恋する乙女の表情だったね。朝の千棘ちゃんのこと言えないくらい頰を赤く染めてたわよ」

 

「る、るりちゃんだって頭撫でられた時にそういう顔してるよ!」

 

「はぁ!?してないわよ!」

 

 

いつもるりちゃんにはからかわれてるけど、私だってたまには言い返すんだから!

 

そもそも言ったことは本当だからね?

 

この間も、何かを雪村くんに伝えてお礼と一緒に頭ぽんぽんされてたの見てたんだから!

 

その後1時間くらいポーッとしてて、何を話してもちゃんとした返事は返してくれなかった。

 

加えて言うならずっと顔は赤かったし。

 

そんなことをあれこれ言い合ってたら、多分同時に思い至ったみたいでるりちゃんと目が合ってお互いに無言になってしまう。

 

えっと、ここは雪村くんの隣の席なんです。

 

そこで大声ではないけど、普通の会話くらいの大きさの声で言い合ってました。

 

そして彼はすぐ隣に座っています。

 

るりちゃんを見る。

 

額に汗をかいているけど、多分私も同じだろうから気にしてる余裕なんてない。

 

合図なんてしてないのに同じタイミングで、隣に顔を向ける。

 

そこにはさっき見た時と同じように携帯を見ている雪村くんが。

 

…………セーフ?

 

 

「うん?悪い、何か話してたか?」

 

「いいい、いいから!何でもないから!」

 

「そ、そうよ。気にしないで」

 

 

良かった、聞かれてなかったみたい。

 

彼は私たちに見られていることに気づいたのかこちらを見たけど、その様子に不自然なところはない。

 

そして少しだけ会話して、一緒に帰ることになった。

 

私たちも動揺していて気づかなかったけど、彼は目を合わせて話さなかった。

 

表情にも声にも変化は無いけど、彼は私たちの会話を聞いていて、照れていたらしい。

 

それを知るのは、ずっと後のことなんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、さっき教室で何を見ていたの?随分真剣だったみたいだけど」

 

「あぁ、ちょっと知り合いから連絡があったんだ。しばらく入院してたんだけど、退院が決まったってね」

 

「そうなんだ。良かったね」

 

「そうだな。多少無理に説得したところがあったから、完治したみたいで良かったよ」

 

「ちなみに相手は女子なのかしら?」

 

「そうだけど。何か言葉に棘を感じるんだが」

 

「別に他意はないわよ。雪村くんは誰にでも優しいけど、女子にはもっと優しいものね」

 

「否定はしないけどな。女子の方が見てて和むから……。あー、でも特に宮本には優しいつもりだけど?」

 

「ふぁっ!?」

 

「勿論、小野寺にもな?」

 

「えぇっ!?」

 

 

胸焼けしそうな気分で茶を啜る。

 

ったく、店の飲食スペースでどんな会話してんだか!

 

イチャイチャするのは自分の部屋でヤレって話よ!

 

でも、会話からするとライバル登場っぽくないかしら?

 

まったく、小咲も親友のるりちゃんに遠慮してるんだろうけど、そんなんじゃ誰かに掻っ攫われるわよ。

 

店も暇だし、参加させて貰おうかしら。

 

そうと決まれば、包み終わってた注文の和菓子を持って、と。

 

「おー、同時に2人口説くなんてやるわね。しかも片方の親の前でなんて。はい、これ持ち帰りの和菓子ね」

 

「口説いてなんていませんよ、本音を言ってるだけです。っと、ありがとうございます」

 

「さて、せっかくだし仲間に入れて貰おうかしら。あんたたちが普段どう過ごしてるのかも気になるしね」

 

「ちょっとお母さん!ちゃんと店番してよ!」

 

「いいじゃないの、お客さんも居ないんだし。それとも、私に聞かれたらマズいことでも経験しちゃったのかしら?」

 

「そ、そんなわけないでしょ!?」

 

「そんなに狼狽えて……怪しいわね」

 

 

雪村くんは、相変わらずぬらりくらりとしてるわね。

 

正直、ホントに高校生?って気分だ。

 

こりゃうちの小咲ちゃんも苦労しそうだ、主に彼の心を射止めるまでが。

 

当の本人に軽くジャブで進退を聞いてみるが、これはシロね。

 

口では怪しいと言ったけどね。

 

……もうキスでもすればいいんじゃないかしら。

 

まあヘタレの小咲ちゃんじゃ無理だろうけど。

 

るりちゃんのこともあるしね。

 

と、考えている時に着信音が鳴った。

 

どうやら雪村くんの携帯らしく、ポケットから取り出した。

 

 

「あ、俺だな。……ちょっとすいません」

 

「あら、電話?女の子から?」

 

「はい。さっきまで話していた知り合いからです」

 

 

そう言って、彼は店を出て行った。

 

そして電話に出たらしく、耳に携帯を当てて話している。

 

これは、今がチャンスね。

 

 

「もう、2人して何て顔してるのよ」

 

「「え?」」

 

「心配で堪らない、って顔してるわよ」

 

「そんなことないよ!?」

 

「……私も、してないです」

 

「隠さなくて良いから。っていうかチラチラ彼の方を見てるの隠せてないからバレバレだし」

 

 

ホント、素直じゃないわね。

 

んー、私としては2人が後悔しないなら良いんだけど。

 

今のままだと、どっちかが彼と恋人になったりしたら絶対に後悔するだろうし……。

 

それが別の誰かだったら、尚更よ。

 

中々難しい問題よね、親友で同じ人を好きになったなんて。

 

そもそもるりちゃんは頑なに認めないからそれ以前の問題かしら。

 

 

「まあ、認めないならそれも良いけど。そうしている間に横から奪われても知らないわよ」

 

「「…………」」

 

「すいません、戻りました」

 

「いいわよ。この2人から色々聞いてたから。さて、そろそろ店番に戻るわね」

 

「はい。あ、お茶ありがとうございました」

 

「はいはい」

 

 

ヒラヒラと手を振って、店番に戻る。

 

ま、今日はこんなもんでしょ。

 

いきなり色々詰め込んでも、逆に考えられないだろうし。

 

これで少しは2人共、今後についてを考えると思う。

 

あんまり青春してる子供たちにアレコレ言いたくはないんだけどね。

 

何でこんなに口を出したかと言うと、ちょっと春の様子も怪しいのよねぇ。

 

やたら電話で雪村くんの事聞いてくるし。

 

娘2人が、というのは母としては心配だが、相手も性格良し、成績良し、スポーツ万能な超優良物件だし、まあ大丈夫でしょ。

 

いっそ2人共貰ってもらおうかしら?

 

…………意外と、アリ?

 

でもるりちゃん含めると3人になるのよね……。

 

ま、物は試しって言うし後で小咲に言ってみようかしら。

 

 

 


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