ガンダムビルドダイバーズ Re:スタート   作:aki@ガンプラ

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第一章 「可能性の証明」 2話目

それからの彼は多忙の日々だった。彼の学校には模型部というプラモデルを制作する事を活動内容とした部活動があり、彼もコレに所属している。

休み時間のたびに部室に走ってパーツを加工し、放課後にはパーツを全部カバンに詰めて叔父の大型店へ行き、GBNにインして後輩と今作っているガンプラの機体特性の説明を交えてのブリーフィング。

リンのログアウトを見送ったら今度は自宅に向かってチャリを漕ぎ、身支度を整えたら後の時間は全てガンプラ制作に当てる。そんな日々をかれこれ1週間ほど続けたのだ・・・当然

 

「ZZZZ・・・・ ZZZZ・・・」

授業中の彼はこうなる。

 成績は勉強してなくても、中の上くらいなので先生もあまり心配はしていないし叱られたりもしないのだが、そんな彼に冷ややかな視線を向ける女生徒が一人いた。

 休み時間となり、ガバ!っと起き上がった雄二は一目散に部室に走り出そうとする。が、その行く手を横からスッと割って入って止める影、長いサラサラな黒髪を幻想的になびかせる一人の美少女・・・雄二にとっては顔を確認するまでもなく雰囲気だけで誰だか分かる。

それほど長い付き合いであり、幼馴染の少女・・・GBN内でのアバターネーム 「サーニャ」こと

 塚本 沙耶(つかもと さや)であった。

 

「沙耶、どうした?用事か、用事なら部室で聞いてもいいか?ほら、俺FAWのガンプラ新作中なんだよ♪」 中学時代から、コイツと話す会話の内容の半分はガンプラ制作に関することばかりだった。この提案も雄二にとっては日常会話と言っていい。 だが・・・

 

「違う、そうじゃない・・・授業で寝るくらいならガンプラ作りは止めなよって言いに来た・・・」

 

 コイツはリンと大局的に淡々と喋る。俺たちフォースメンバーくらいしかコイツの微妙な喜怒哀楽の差は分からないかもしれないが、今は怒っている?と判断できた

 

「いやいや、模型部の部活動に力を入れてるだけだよ。たしかに寝てたのは悪かったと思うんだけどさ・・・すまん!時間がなくてどうしても作りたいんだ!頼む、このとおり!!」

 沙耶にはごまかしはしたくない。なんでか分からないが、俺は昔からそうしてきた。それに沙耶は知ってか知らずか、こうすればキチンと応えてくれる

 

「・・・なんで、急に新しいガンプラを作ろうとしてるの?ステイメン:シグルド以上のガンプラなんて・・・そうそう思いつかないと思うんだけど?」

 ジトーっと全てを見透かすかのような瞳、沙耶は飛び級で外国の大学にだって入学できるほどの才女だ。俺のようなビルダー以外に才能のない奴が隠し事を貫けるわけもない、おとなしくゲロってしまおう

 

「前々から話してると思うけど俺、今でもユグドラシルでバトルを続けてるんだ。次の大会で本戦に上がるための秘策を、我らがマスコット参謀殿が思いついてくれた!

 俺もコレに賭けて見ようと思ったって訳だ!この機体なら、きっと勝てる。だから沙耶も見ててくれ、お前と俺。一緒に作ってきたモノが盛大に大活躍するからよ!」ニカッと笑い意気込みを語る しかし・・・

 

「そう・・・夏凜が」 と雄二の話しの大半を無視して気になるところは別な様子の彼女

「・・・無理だよ、雄二。機体性能でどれだけ圧倒しても、私達はッ・・・勝てなかった・・・勝てなかったんだよ。

夏凜は雄二を励ましたかっただけ。あの娘は私達よりもっとバトルに精通してない、素人ですらない。観戦者なんだよ・・・?」

 

 分かっている、分かっていても・・・

 

「それでもだ。俺はやるよ・・・やりたいんだ。勝てば全部元通りなんて思ってない、むしろ逆だ。きっと新しく始められると俺は信じてる、だって俺たちはビルダーだろう?壊れたら作り直すんだ、何度だって!

GPDは無くなっちまったけど、あの場所で手にしたものは消えない。

 だから沙耶、怖いならまだ歩き出さなくたって良い、もう嫌になったんなら止めたって良い・・・いや、ホントは嫌だけども。でも、お前の席はずっと彼処に在る。絶対に最高の特等席に変えてやる」

 

「・・・で、でも・・・」 ずいずい寄ってくる雄二に顔を赤くしてたじろぎながら

 

「お前の作った【コイツ】も取り付けてやるんだ♪最高だろ!?」と見せるのはウイングゼロカスタムのバスターライフルを改造した大型ビーム兵器・・・彼のために沙耶が作った・・・・

【彼女の心に深い傷を負わせる原因となったガンプラ装備】であった。もともと血色は薄い方な彼女の顔が青くなっていく・・無我夢中で雄二から取り上げる!

 

「だ、駄目!!・・・コレは駄目!使ったら、また・・・また雄二がバカにされる!ユグドラシルが、私達が否定されてしまう・・・!だって、コレは・・・コレは・・・【欠陥品】じゃない!皆そう言って・・・皆が・・・ウゥ、ウゥゥ・・・!」押し殺すように泣く様を、雄二はしまった・・・と言った顔で沙耶に肩を貸しながら部室へと一緒に行く

 

 部室の椅子に沙耶を座らせて、黙って待つ。沙耶は雄二と違って、頭で思ったことと口が直結した単純な性格ではない、彼女は自分の感情や意思と、周囲や相手の意思をキチンと頭で整理してから喋るタイプなのだ・・・故に彼女が泣いてしまったときはいつも、こうして黙って側で待つのが、雄二の役割だった。

 

「・・・(そういや、沙耶がGBNにインしなくなって1年くらいか。もうそんなになるのか・・・)」

 

自分たちが、GBNデビューをしたのは中学2年の頃だった・・・俺が叔父からすごいガンプラゲームがあるんだ。と誘われて、皆を無理やり引っ張ってGBNの世界に降り立った。

その【世界】は、俺達の想像の全てを凌駕していた・・・風を感じ、熱を感じ、匂いを感じた。そして何より・・・俺たちのガンプラが、本物になって眼の前に現れたんだ。

 GPDだって、別に偽物って訳じゃない。むしろGBNが仮想の世界なのだから、偽物はどちらかといえば、こっちだ。

 でも、そうじゃない・・・確かに感じたんだ。俺たちが注いだ、ガンプラへの【愛】とでも言うべき不確かなソレを、俺達は自分たちのガンプラに感じた。

 

それから俺たちは、GBNにのめり込んでいった。GPDがドンドン下火になって、筐体自体を見なくなったってのも有る。少し寂しかったけど、それでもGBNでなら皆と楽しくガンプラバトルが出来たから構わなかった。由紀ちゃんなんかは逆に、大好きなガンプラが壊れなくて喜んでたぐらいだ。

 ちょっと前にブレイクデカールとか、ELダイバーだとかの騒動があったけど、アレだって自分の好きなもんは誰にも譲れないモンなんだ、って俺はそう思ったね・・・

 

 だからこそ、俺達は【あの出来事】に向き合わないとならない・・・自分の譲れないモンの為に

 

 あの頃の俺たち、フォースユグドラシルは、戦績こそ下の中くらいの弱小フォースだったけどガンプラの出来、装備の出来、塗装技術の高さ、ビルダーとしての腕は一目置かれるフォースだったと自負してる。

俺がガンプラを作り、沙耶が装備を作り、夏凜が塗装する・・・由紀ちゃんは修理に関しちゃ、教えた俺より既に上手い。

 そんで、その最高の機体を駆るは我がフォース最強のダイバー、智だ。

フォース戦じゃ俺らが足引っ張りまくって全然だったけど、タイマンのバトルなら智は公式のランキングの上位のダイバーにだって勝ち越した男だ。

 

そんな経緯もあり、俺たちユグドラシルは、弱小フォースながらちょっとした有名どころに成長していった。沙耶なんかは、【世界樹のブラックスミス】なんて呼ばれるようになっていた。

 まぁ今は、別な意味で有名になっちまったけどな・・・そのきっかけ。と俺は思ってるけど、沙耶は原因だと思ってるこの、ウィングガンダムゼロカスタムのバスターライフル。その改造装備【ミストルティン】を巡る騒動が俺たちを大きく変えた・・・

元々このミストルティンは、沙耶が俺のガンプラ用にと作った装備だ、バトルの腕が足りない俺でも当てれば致命傷になる、最高にスペックの高いバスターライフル。

 ウイングガンダムのエネルギーカートリッジ式と、ゼロカスの内蔵ジェネレター式のツインバスターライフルをミキシングしたソレに加え。

 脱着式だったメッサーツバークをライフルに直接組み込み、ドライツバークバスターの小型化に成功した 【1門でツインバスターライフル2門のドライツバークと同等の火力が出る】 というとんでもない兵器を生み出した。

 そんな無茶な改造にも関わらず、ライフル自体への負荷はツインバスターライフルとほぼ同じというチートっぷり・・だけどもこのミストルティンは・・・

 

「俺のガンプラの性能を信じて・・・沙耶が俺に託してくれたモノだったんだよな・・・なのに俺は・・・」

 

「ッ・・・・!!」沙耶が俺の言葉に、捨てられた子犬のように震える。

 

 そう、俺の最高傑作だった「ステイメン:シグルド」は、このミストルティンを使いこなせる性能に・・・届いていなかった。俺は、沙耶の期待に一歩届かなかったんだ。

操縦技術で補えさえすれば、十分に使えるはずだった。

現に今もセーブかけながらだけども使えてる。でもそれは・・・ミストルティンを完全に使いこなせている訳じゃない。

 自分の撃った攻撃で、自分のガンプラが盛大に破損して大破した時、俺は盛大に笑い者にされた・・・でもそれは俺が笑われた【だけ】では済まなかった・・・作った沙耶もまとめて俺たち、ユグドラシルのビルダーとしての腕が笑われてしまったのだ。

 

失った尊厳も沙耶への批評も、俺がガンプラビルドで取り戻す! そう意気込んで一人突っ走って改造に勤しんでた俺を見て。仲間もそれぞれ頑張ってくれた。

 

 智は、俺たちのガンプラで戦いに勝利することで・・・夏凜は俺のガンプラ作りを手伝ってくれて・・・由紀ちゃんは知り合いダイバー達のお手伝いでビルダーとしての腕をふるってくれた。後は、俺がステイメンを完璧に改造できれば、きっと最悪の事態にはならなかった・・・でも

 

「ヒグッ私が・・・ミストルティンのデータで・・・友達にテスターを、頼んだせいで・・・ゥゥ」

 

「違う、アレはビルダーとして何も間違ってなんかいない。モデルケースを増やして調整するのは当たり前だろう?」

 

GBNではパーツもデータの集まりだ。データからキットを作る機械も大型店にはある。

 沙耶はソレを利用して友達にテスターを頼んだのだ。俺がもっと使いやすいモノになるように、その使用感やデータを手に入れるためにだ・・・でも、ソコから負の連鎖が始まってしまった・・・

 沙耶は友達に、他にテスターになってくれそうな人が居たら教えて欲しい、とお願いしていた。

親切な友達は、そのお願いを承諾して・・・【沙耶に確認を取る前にデータを有志の人に渡してしまったのだ】・・・あくまでも親切のつもりだった、沙耶も俺と同様パーツ作りで根を詰めていたし、その友達はGBNで出会った人だったからGBN内でしか連絡先を交換していなかった。

 

 GBNはオンラインゲームだ・・・どれだけ性善説を信じようとも、悪いことを思いつく奴、悪いことをしてしまう奴は居る。このGBNにも裏ではマナーやモラルのかけた行いは沢山ある、その一つが 【パーツデータのリアルマネートレード】 だ。

GBN内で入手可能なパーツデータ。ソレをGBNの運営の目の届かない場所で、リアルにお金を使って売買する、と言うものだ。

自作パーツのデータ化も、コレと同じ手段で他人に渡すことが可能なため、データさえ手に入れば商いが出来るのだ・・・データという、実際に触れて守れないモノがネットという広大な世界に散布されてしまえば、回収することは不可能と言っていい。

 

 楽に儲けれる商売だけども、当然それ相応のデメリットも有る。それは、このデータによって購入者が得られるのはあくまでも【キット状態になったパーツ】なのだ。

 

 パーツのゲート処理や合わせ目消し、段落ち処理や塗装・・・などなどなど、データを手に入れただけでは、全く同じモノは手に入らない。

 沙耶が頼んだ友達も、ビルダーとして腕の立つ女性だったから頼んだのだ。

 

コレがビルダーとしての教示も持たず、ただ上手い人の努力の上澄みだけ吸えればいいと思っているだけの、クソダイバーが金を払って手に入れてしまったら?・・・

答えは考えるまでも無い。GBN関連のSNSや掲示板、様々な場所で沙耶の作ったミストルティンは酷い中傷と共に炎上した・・・

 

もうホント今でも怒りで我を忘れそうになる・・・ミストルティンは使えないに始まり、パーツのせいで負けましたとか、一般に出回らせてもいない、使ったことすら無い沙耶の作った装備を自慢げに酷評しはじめ・・・・終いには!・・・終いには!!

ギリィッ!!と歯を食いしばる。俺のそんな怒気を放つ様子を、沙耶が目を真っ赤に張らせて覗き込む。その顔は申し訳なさそうで・・・でもって、俺を心配してくれている。

 

「ごめん、沙耶・・・大丈夫、大丈夫だ・・・・」俺が沙耶に心配されてどうする!俺が、しっかりしないと・・・・

 

 そう・・・際限なく加熱し熱膨張で崩壊したネットモラルは、最終的にまだ中の人が中学生である、沙耶の使っているアバター「サーニャ」を対象として、性的な妄想で穢すセクハラ行為にまで発展したこともあったのだ。

当然、多方面から通報を受けた運営は法的にそのサイトと決着をつけた、それでも沙耶が辱められ、傷つけられた事実が消えるわけではない・・・それどころか、今だってあのサイトに書き込んでたバカはGBNの何処かには居るのだ・・・

 

 だから、沙耶はGBNが怖くて仕方ないんだ・・・だんだんインする頻度はへり、高校生になって直ぐの頃にはもう、沙耶はGBNにインする事は無くなった。フォース内もギクシャクし始めて、いつしかユグドラシルは俺と夏凜だけが残った・・・でも

 

「今のユグドラシルの事と沙耶の一件は、ホントきっかけでしかないんだ。

俺と智が揉めたのだって、ユグドラシルのその後の活動方針で互いに譲れなくなって・・・だから沙耶はなんにも悪くない、原因ってのときっかけは全然違うだろ?

 誰が悪かったかって話なら俺が悪かったんだ・・・智は正しかった。俺も今は反省して、実力を示すことでその他大勢と分かり合う道を探してる。不満をぶつけて、衝突するだけだった馬鹿な自分を変えてみせる。だって・・・」

 

過去は変えられない、誰だって魔が差して他人を傷つけることだって有る・・・でも

「全てのダイバーは絶対 【ガンプラが好き】 って気持ちだけは一緒だとおもうから」

 

黙って聞いてくれた彼女は、目をこすりながら深呼吸をして彼の手を取る

 

「・・・分かった。私自身、私のことはまだ無理・・・どうして良いかも分からない。でも雄二がやりたいこと、成し遂げたいことは分かったよ。

私のためだけじゃない、自分のためだけでもなくて・・・皆、本当に全部ひっくるめて 【皆】 の為に戦いたいんだね?雄二・・・」

 

「・・・あぁ、戦いたい。打倒して頷かせる為じゃない、俺たちユグドラシルの思いや気持ちを知ってもらうために、相手の心を知るために、フォースリーダーとして全てのビルダーと最高に楽しいバトルがしたい。そのために俺は、皆の土俵に立たないとならないんだ」

 

そう言ってカバンから一体のガンプラを出す、全身が白いモビルスーツ。通称ユニコーンモードと呼ばれる装甲が展開していない状態のユニコーンガンダム。その改造機、アームドアームが両腰と背中に計3本増設され、両肩と両スネに武装ラックになるアームが取り付けられ、デザインに修正が入った。彼の最高傑作を超えるための機体

 

彼が駆る新たな力 【ユニコーンガンダム:エインヘリヤル】 その姿である

 

「・・・これが、雄二の新しい・・・ガンプラ!」

今までの雄二のガンプラとは、まるで違う。雄二は誰かの為に機体を作り上げてきた。

 それは、言ってしまえばオーダーメイド機をダイバーに合わせて作るということで、当然彼が彼のために作ったガンプラ 「ステイメン:シグルド」 もそうであった。

バトルの腕が足りない彼のために、彼が少しでも戦いに貢献出来るように扱いやすく素直な挙動を返す、そう作った機体。でもコレは違っている・・・これは

 

「雄二!正気?コレは・・・その・・・」と言い出しづらそうに、でも言わなければという気持ちが葛藤する沙耶。無理もない

 

「そうだ!コレは俺とは違ってもっと 【バトルが上手いやつ】 が使ってこそ、最大の力を発揮するように作った!もう、とてもじゃないが俺には扱いきれん!!」と盛大にドヤる。いつも淡々と喋る彼女も、流石に慌てふためく

 

「分かってるなら、なんで!?雄二じゃ下手したらコレ、試合でデブリにぶつかって壊れる可能性だってあるじゃない!」

 

おーい・・・何処かの後輩のように俺の心をへし折りに来るのは本当に止めていただきたい。流石にそこまではー・・・いや、言い切れないか?・・・うん、あり得るな。

 

「言ったろ?我らがマスコット参謀殿の天啓だ。俺にもあるんだよ!戦う術ってやつが・・・だから沙耶、頼む!コイツのためなんだ!この「エインヘリヤル」には、どうしてもミストルティンが必要なんだよ。コレを俺に使わせてくれ・・・!

 今度は失敗しない、俺はあれからずっとステイメンを改造し続けた。ミストルティンを使いこなせるようにするためにだ。でも足りなかったんだ・・・俺の実力に合わせてチューンしたアイツをいくら改造しても、届かなかったんだ!」

 

必死に訴える、コレを使うことが沙耶の心にどれだけの痛みを与えるのか、考えもしなかった。それでも頼む、頭を下げる。ミストルティンを認めさせる為の意地じゃない。今度こそ、本当にこの力が必要なんだ!

 

黙ってうつむく彼女・・・なにかを必死に考え、腹を決めて彼を見る

「・・・駄目」

「ッ・・!」

駄目か?やっぱり駄目なのか!自分でも目頭が熱くなってくるのを感じる。そんな中彼女は続ける

 

「ただ付けただけじゃ、この子はまだ戦えない・・・もっと他の装備を増やして全体のバランスを整えないと・・・そうだね。シールドファンネルも使えるんだし、使おう・・・出来れば推力の向上に繋がる改造がいるね・・・あとは、一人で戦うんだから内蔵エネルギー式よりEパック式や実体弾の武装を多めに・・・」

彼女は淡々とエインヘリヤルの装備の改造プランを組み立てていく。その光景は、まさにあの頃のままの「世界樹のブラックスミス」その人だった!

 

「沙耶!!」嬉しさのあまり沙耶を抱き寄せてしまう。ありがとう!沙耶。お前が協力してくれるなら、絶対負けない!千人の助っ人を得た気分だ!

 

「ひぇ?・・・ひゃわわあ///」

血色の悪い肌を耳まで真っ赤に染めながら固まる彼女、腕が壊れたロボットみたいに空をワチャワチャと切る様は見ていて少し面白かった。ガバっと離してまっすぐ彼女を見る

 

「改造プラン、俺も考えがあるんだ!今日メールする!後で見て意見くれ」

 

沙耶は、まだ動揺したまま帰ってこないが首だけは縦にブンブンふりながら

「わわわ、分かった・・・・!わた、私も作ってくる!週末に雄二の家で!」

 

ガンプラ製作のいつもの拠点である模型店の我が家。週末に二人で作ったパーツをあわせ、調整すれば遂に完成するだろう・・・このユニコーンガンダム:エインヘリヤル。永遠に戦い続ける、神々の尖兵たる戦士が!

 

「おっしゃー!やるぞー!」

 と意気込んでいた俺達だが、授業をほっぽりだしていた事に気づいて先生に説教を受けたのは言うまでもない・・・

 

                         

 

 放課後、いつもの日課どおりGBNにインしてリンに休み時間での事を話した。沙耶には、一部秘密にして欲しいという部分は黙ったままだが、今思えば確かにこっ恥ずかし事も結構喋ってた気がする・・・グッジョブだ、マイ幼馴染

 

「へ~・・・そうですかぁ~、それはようございましたねぇ~、せんぱ~い?」

 

何ゆえの疑問形?お話聞いておりましたよね?マスコット参謀、ユグドラシルの竹中半兵衛ことリン御大将殿?

 不機嫌なのはこの際スルーだ、今日は大事な交渉もあるしな

 

「おっほん!・・・まあそういうことなので!コレでガンプラは間違いなく間に合う。なので、今日は前に話してた【上位ランカーとの試合の成立】に向かうぞ!」

 

わざとらしく話題を変えるユウジン。納得言っていないような目つきだったリンだが、はぁ~とため息をついて切り替えてくれる

 

「むむむぅ・・・わかりましたけど、一体どうするんですか。センパイ?」

 

「言っただろ、アテがあるんだ。ほらほら、椅子にへばりついてないで行くぞ!ハリーハリー!」

そう言うと、彼はハンガーにあるステイメン:シグルドを指さして乗れと暗に伝える。GBN内の長距離の移動はだいたいいつもガンプラなのが、ユグドラシルの常だった

 

 リンと二人、コクピットに搭乗してフォースネストから発進する!うひゃー♪と言いながらユウジンの腰にしがみつくリン。ちなみに、しがみつくほどスピードも衝撃も出ていない・・・操縦の邪魔だ!と軽くげんこつくれてやる。いつものお決まりをしていざ、3つほど隣のエリアへ・・・

 

たどり着いた先は、紀元をコズミック・イラと呼ぶエリア、機動戦士ガンダムSEEDの舞台である宇宙コロニー【プラント】へと足を向ける。此処では、SEED好きが集まりフォースネストを立てている。ユウジンが向かうのもそんなSEED好きなフォースリーダーが結成したフォース【マスカレード】のフォースネストだ。アポイントメントを取ってある為、すんなりと中へと通される。

 

「え?え?マスカレードですか?・・・まさかセンパイ!?ついにこの仮面集団の仲間入りする代わりにバトルしてもらうつもりですか!?私、仮面なんて着けたくないんですけどー!?」そ・・・そんな・・・と言った具合に

 

「そんなわけあるかぁ!バトルする代わりにフォース無くしてたら戦う意味無いだろうが!

・・・っていうかぁ?リン!お前、俺が此処に入るなら一緒に入っても良いってコイツらに言ったんじゃなかったんでしたっけー!?」 

ほんとにお調子者がすぎる。まぁ、どうせ俺が首を縦に振るなんて夢にも思ってないからこその発言なんだろうけども・・・

 

ステイメンをゲスト用ハンガーに繋ぎ、降りていく。低重力の中なので乗り降りが楽でいい。ちょうど着地点で俺たちを制動してくれる仮面を付けた集団マスカレード、そのリーダーはいつものオーバーリアクションで歓迎してくる

 

「まっていたよ、ユウジン。この度は私のフォースネストへようこそ。

 フォース入りとは違った用向きと言うことだったね。ハンガーを一望できるテラスがあるんだ、其処で話そうじゃないか。お嬢さんのエスコートは君におまかせしてしまって構わないね?フフフ♪」

 

上機嫌に話すラウ。無理もない、俺も自分のネストに客が来たら色々自慢したいもんな。うんうん・・・でもどうしてもコイツの話し方は慣れない

 

通されたのはイギリスのカフェテラスのような一室。重力もきいており、優雅にお茶を楽しむにはもってこいだ。ただ、見える景色が自分たちのガンプラが置いてあるハンガーのみってのは、その・・・結構ナルシストだな。と素直に思った。

 アフタヌーンティーセットが眼の前に置かれ、一息入れる。もてなしてくれているのだ、いきなり本題に入る前にもてなされるのがマナーってもんだ。と姿勢を正しつつリラックスしてお茶を飲む。だが我らが後輩殿は・・・

 

「センパイ♪良いですねぇ!コレ!家にも入れましょう。アフタヌーンティーセット!ウマウマ~♪」

鼻歌交じりにもぐもぐとケーキやサンドイッチを食べる後輩、こらこら君は良いところのお嬢様じゃ無かったか?

 

「気に入ってただけたようで、なにより。私の故郷の心ばかりのおもてなしさ」

 

ほう?と気になりきいてみると、ラウはイギリス人で、毎日ヨーロッパのサーバーからインして此処、日本サーバーのネストに甲斐甲斐しく足を運んでいるらしい・・・

日本サーバーで出会えた、同じ仮面キャラ好きの同士と一緒に遊ぶためにだ。

 

 ユウジンは、その事をRPしながらとても嬉しそうに話し、語るラウを見て不思議と彼への苦手意識が薄れていくのを感じた。やはり、彼も同じガンプラが大好きで仕方がない男の一人なのだと、そう感じた。これからする提案への不安も、すこしばかり薄れていくようで、嬉しかった。

 

 そうして、おもてなしを受けながら彼らの機体を見せてもらったり、逆にステイメン:シグルドの機体への質問なんかに答えれる範囲だけ答えながら、まったりして10数分立った頃。そろそろと思い、話しを切り出した。

 

「ありがとう、素晴らしいもてなしだったよ。こんなにもてなしてもらって済まない、そろそろ話しをさせてもらおうと思う・・・」

 

その言葉にラウは一度姿勢を正して座り直す。続けて?と促してくれる彼はやはり自分なんかと違い、大人だ。

 

「FAWで、俺たちユグドラシルと戦って欲しい・・・キチンと見返りも用意してある」

 その場の空気が凍る・・・当然だ、面と向かって俺は今マナー違反を犯しているのだから

 

「その提案、当然どういうものかは分かっているのだよね?ユウジン・・・君たちは118位、私達は28位だ。我らマスカレードに挑んでいいフォースは38位まで・・・とてもじゃないが力が足りていなさすぎる・・・受ければ我々もマナーを破ったことになるのだよ?」

 

そのとおりだ、ただ挑戦するだけならユグドラシルのマナー違反で済む。彼らには何の落ち度もない・・・でも一度受けてしまえば彼らもまた、同じ様にマナーを破ったことになる。

だからこそ、身を切らねばならない・・・俺が出せる最大の交換条件を出さなければ、交渉にもならないのだ

 

「分かってます、だからお願いしに来たのは挑戦を受けてもらうことではありません・・・」ん?と顔を傾けるラウ

「ラウさん!いや、マスカレードの皆さん達に 【ユグドラシルにバトルを挑んで欲しいんです!】」誠心誠意叫び、頭を下げる

 

場がざわめき始める。異例なことでは有るが、確かにFAWのルールにもマナーにも 【自分たちより下位のフォースに挑んではならない】 というモノは無い。

なにせ、益がないのだからそもそも誰もやらない。その言葉を聞いて、マスカレードの一人で副リーダーでもあるフル・フロンタルのコスプレをした成人男性であり、アバターネーム 「†フル・フロンタル†」 さんが声を上げる

 

「待ってくれたまえ、ラウ。いくらルールやマナーに違反しないからと、今の少年の提案を受ける意味は我々には無いはずだ!君は少年を高く評価していても、我らマスカレード全員がそうではないということを、忘れてしまっては困る!」

 

落ち着きながらも怒気を含んだその言葉にリンが割って入る

「待って下さい!†フル・フロンタル†さん!センパイの話、最後まで聞いてあげて下さい!お願いします!」

 

「話すときはダガーはつけないでくれたまえ!!」別な方向から煽るんじゃない!後輩

 そんな様子を落ち着いて聞いていたラウは紅茶を一口飲んでフル・フロンタルさんを静止する

 

「落ち着くんだ、フロンタル。まだ彼の話は終わっていない・・・ユウジン、君は見返りを用意したと言ったね?それは私だけでなく、私達マスカレード全員が君たちユグドラシルに挑戦したくなるだけのモノなのだろう?

 フロンタル、ソレを聞いた後で答えを決めても良いはずだ?コレはユウジンの、ビルダーとしての実力を贔屓目に見ている私の意見ではない。1フォースリーダーとして、フォースの利益を考えた上での意見だ。どうだろう?」

 

 その言葉に†フル・フロンタル†さんも納得してくれたようだ・・・気合を入れろ、俺。此処が正念場だ!このために彼らのことも調べた、提案内容は十分魅力がある!・・・はずだ!信じろ!

 

「失礼を承知で言います。マスカレードには、ビルダーが一人も居ませんよね?基本的な工作でガンプラは作れるけど、大々的な改造やスクラッチ品を作るだけの技術が無い・・・ラウさんは、マスカレードをより強いフォースにするためにはビルダーの力が必要だと感じて、俺に声をかけた・・・違いますか?」

 

誰も言い返さない・・・そう、マスカレードはキットをそのまま組み立てたのみのガンプラを使う。ゲート処理や合わせ目消し、スミ入れと言った基本工作は出来るが、パーツの改造をしているガンプラを使っているダイバーは一人もいないのだ。パーツの差し替えも改造の一種だが、必ずしも差し替えで強くなるというわけでは無いのが、ガンプラビルドの難しさなのを、ユウジンは嫌というほど知っている。

 ラウはユウジンの言葉を肯定するように、黙ってうなずく

 

「でも俺は、マスカレードには入れない。交換条件がソレじゃ、バトルをする意味が無くなってしまう・・・だから俺は!」

 

バ ン !

 

と、テラスから見える窓を叩く。その先にあるのは・・・小学生の頃からずっと俺と共に戦ってきた愛機、【ステイメン:シグルド】 の姿だった

 

「俺の!技術の集大成を、全てを賭ける!この話しを飲んでもらえるなら、俺はこの機体をそのままマスカレードに譲渡する!そのまま使うもよし!コレを見て、ばらして俺の技術を身につけるもよし!コイツを作るの為に使ってきたメモノートも同封する!」と、トントンと条件を提示していく、その条件を知らなかったリンは慌ててユウジンを止める

 

「そ、そんな・・・待って!待ってよ!センパイ。駄目です!ソレはセンパイの愛機じゃないですか!GPDの頃から壊れては直して、直しては壊されて、何度も何度も何度も改造を重ねて!センパイ自身が最高傑作って胸を張って言ってたガンプラじゃないですか!!ソレを手放しちゃったら・・・絶対後悔します!サーニャ先輩みたく、センパイまでGBNに来なくなっちゃったら!・・・・私!」今にも泣きそうな後輩の頭をなでてやる、心配するなと、俺は自暴自棄にはなってないぞ。と・・・

 

「この中に東京にお住まいの方は居ますか?この提案を飲んでいただけるなら、受け渡し方法は都内の駅の貸しロッカーを使います。最近のは全部暗証番号付きですから、受け渡しが成立してからバトルを挑んでもらって構いません!」まっすぐマスカレードの人達を見据える。俺はマジだ、ガンプラを手放す事に冗談なんて言わない・・・

 そんな俺を見て、軽く息をはいて落ち着くラウ

 

「確かに魅力的だ・・・データではない、本物の君のガンプラ。ソレを我らマスカレードで共有し、君の技術の一端でも身につけることが出来たなら・・・私達はもっと強くなれるだろう、そして自分の理想を体現出来るだろう・・・」

 

 そうだ、ダイバーにとって自分の理想を形にしたガンプラに乗る。これ以上の喜びは無く、そしてソレを現実のものにするには高いガンプラ作りの腕が必要不可欠なのだ。

だから、多くのフォースはビルダーを求める。作ってもらう事だけが目的じゃない、自分が求める理想を実現するために、どうすればその形が作れるのか?を教えてくれる俺たちビルダーは、作れないダイバーにとっては憧れの存在なんだ。

 ビルダーである俺が、一流のファイターに憧れるのと同じ様に・・・

 

「幸いな事に、フォースリーダーである私を除いて我々はリアルに気軽に会える間柄だ・・・私も毎年日本に旅行に行っては彼らと交流を深めている。リアルに君のガンプラに触れ、且つその時の制作メモまで手に入るなら、その全てを私達はフォース内で共有出来る・・・!」

 

コレは?好感触なのでは!?いけるか! と思った矢先、†フル・フロンタル†がまたしても割って入る

 

「だが、ラウよ。もし万が一、いや億が一我らが負けたとしよう?その時、周囲の者は八百長を疑うのではないか?あまりにリスクが大きすぎる!裏の取引があった。その事実だけで人は疑心に囚われ、もっとも低俗な答えこそを信じようとする生き物だ」

 

億が一は言いすぎなのでは?だけども、これも想定済み

 

「だから、隠さないでいくんです!俺たちは、互いに順位とガンプラをかけて戦う。ステイメン:シグルドはそれだけでも十分な性能ですが、このオーキスカスタムとの組み合わせによって最大の力を発揮する・・・だから、俺はこのバトル成立の条件にステイメンを!バトルの勝敗にデンドロビウムを賭ける!コレは、裏の取引なんかじゃない!1ダイバーが、1フォースに対する決闘の申込みだ!逃げ出したって良い!その時は貴方達は何も失わないし、何も得ない。でも、逃げ出さずに戦うなら!貴方達は得るものがある!ソレは、ステイメンとユグドラシルへの黒星一つだ!」 

 

はわわわ、と後輩が口をパクパクさせる。無理もない、交渉なのに最後は完全に相手を煽り初めているからな! 

 さぁ、どうする・・・?此処から先は、逆に相手を信じるしか無い。マスカレードというフォースのガンプラに対する熱意と教示の方向性に、全てを賭けるしかないんだ

 

黙っていたラウが、口を開く・・・

「決闘、と来たか・・・確かに、そこまで言われた以上私達もその口車、乗らなければなるまい?

 フロンタル、私達は一切隠し事無く戦おう。私達はこの戦いの成立にステイメンを手に入れる。そして、この戦いに勝利してオーキスカスタムも!私達がより高みへと、最後の扉へと至るために!鍵はこうして眼の前にぶら下がった・・・ならば食らいつくまでのこと!私達は勝つ!そうだろう?同志諸君!」

 

「「おおおぉぉ!!」」

「フロンタルもソレでいいかな?」

 

「あぁ、ラウ。正真正銘の決闘をするならば、異論などはさみようもない、存分に見せてもらおうじゃないか。少年のガンプラの性能とやらを!」

 

思わず、震えた・・・この人達を毛嫌いしていた自分が恥ずかしいと感じるほどだ。一緒だった、彼らも俺も・・・ガンプラに事関しては、俺たちは世代も国籍も超えた。ただの馬鹿の集まりだったんだ!それがとてつもなく嬉しかった!

 

「あ、ありがとうございます!!!」ユウジンは今日一番大きな声で感謝した

 

交渉も成立して、一段落かと思って気を抜いていると、ハンガーからステイメンを眺めるフロンタルは一つ気になりユウジンに一つ訪ねた

「・・・少年、あの機体。武装が一つ欠けているように思えるのだがね?」ビクリ!と背筋が冷える。あざとい・・・当然まわりの人達もざわつく

 

「なに?条件と違うんじゃないか?」

「もしかして・・・騙されてるんじゃ」

などなどなどが聞こえてくる。やばい・・・懸念はしてたけど、やっぱり俺が、俺がやらないと駄目なのか!?

 冷や汗をかき、ユウジンはどうするべきか考えた・・・だが彼は答えを既に知っている、譲れないものを得るために、虚言でも良いから言ってしまえばいいのだ・・・それで誰もが納得する方法を、彼は知っている。

それでも、口から出てくるのは言葉なのか呼吸なのかも分からないタダの音・・・そうして黙り込んでしまうユウジンに助け舟を出したのは、意外な人物だった

 

「あぁ、アレのことだろう?それならば、構わないだろうさ。なにせ、【あのバスターライフル】は流石に持て余す。我々には不要なものだ・・・ユウジン、言っている意味は当然分かるね?」

 

「え?・・・」リンがキョトンとする、さっきまであんなにフレンドリーだったのに?どうして急に?

 周囲もその【あのバスターライフル】という単語に安堵の表情を浮かべる。なーんだ♪とか、ほっとしたとか・・・まるで、ババ抜きでジョーカーを引かなくて済んだような顔をしながら。

 そんな連中を見ていたリンの手がフルフルと震えだす。

 

「な!なんてこと言うんですか!なにも、何も知らないくせに!!」はぁ・・はぁ・・と息を荒げる彼女をみて、空気は再び凍りつく。

 駄目だ!ユウジンはリンを抱き寄せて静止させる

「リン!良いんだ!コレで良いんだよ!」なんで!?なんでぇ!?と暴れだすリン。駄目だ!今は耐えてくれ・・・!あの人は分かってくれてる!大丈夫なんだ!

 

パンパン!と手を打つラウ

「どうやら、私が失礼なことを言ってしまったようだ。同志諸君、バトルに備えてブリーフィングをしたい。先に行って準備をしていてくれ」

何のことだか分からないまま、マスカレードのメンバー達は部屋を後にする・・・

 

未だ興奮したままのリンを抑え、ユウジンはラウに頭を下げる

「ありがとう、ラウさん。気づいてくれてたんですね・・・」

 

「はて?私はフォースの利益のために動いたまでの事、君が勝手に恩に着てくれるならソレはソレで構わないが、気にすることなどなにもないさ。

 さぁ、今日はコレで解散にしよう、バトルでは手は抜かない・・・本気でかかってきたまえ、ユグドラシル諸君!フフフ♪ハハハ」

 

                     

・・・帰りの道中、リンは一言も口を利いてくれなかった。

そっか、コイツが喋ってくれないと、こんなに寂しいもんなんだな。ソロフォースってのは・・・

 でも、先に折れたのは結局リンだった。泣きべそをかきながら拗ねたように言う

 

「グスッなんで・・・何も言い返さなかったんですか、センパイの意気地なし・・・」

 

俺もそう思う、昔の俺ならあの言葉をそのまま受け取ってラウさんに殴りかかっていたかもしれない。だから、ラウさんの人となりを先に知れて良かったと思う。あの人は、俺の思った以上に大人だったって事に感謝しないといけないと思う。

 

「ラウさんは、分かってたんだよ。俺がわざとミストルティンを外して持ってきてた意味を・・・だからああいう言い方をして、マスカレードの皆を納得させたんだ。

 あの人は・・・悔しいけど、俺よりずっと大人で・・・悔しいけど!あの人がああ言わないとならなかったのは、俺がキチンとリーダーをしてやれてなかったからだ・・・!」膝を付き、操縦桿のグリップから手を離す・・・機体は宇宙空間で静止する。今度は逆にリンがいたたまれなくなってしまった

 

「セ、センパイ・・・?」

 

「俺が・・・!俺がもっと上手く交渉して、ミストルティンを貶されなくて済む様に機体を交換条件に載せてしまえれば、良かったんだ・・・フロンタルさん以外も装備が足りてないのはきっと気づいてた。ラウさんは先に手を打ってくれたんだよ・・・ああいう言い方なら、誰も文句を言わないと踏んで!・・・・」

悔しくて涙が出そうだ、結局最後の最後で詰めが甘かった・・・俺は最後までミストルティンを話題にしないで逃げおおせようとした。

だって・・・俺がその役を、ミストルティンを貶して興味を削ぐ真似をしてしまったら・・・俺はもう、沙耶と一緒には笑えない。そう思ってしまったから・・・

 

「あ・・・あ、センパイ私、そんなつもりじゃ・・・ホントに何も気づいて無くて・・・その、あの・・・」

リンも気づいたようだった。ラウさんはあえてああいう言い方をして交渉のテーブルからミストルティンを除外した。

 流失したデータじゃない、本物のミストルティンの実際の性能を知っている者はほとんど居ないのだ。ネットで流れている情報の大半は面白半分で書いた批評で、本物のミストルティンを正しく評価したものじゃない。

もしかしたら価値があるかも知れない?と思える程度には魅力的な装備なのだ・・・でもラウさんはソレを手放そうとしない子供を見て、取り上げないでいてくれたのだ・・・

 もっと、上手くやれるリーダーだったなら。俺が、貶める以外の方法でコレを守れるだけの才人であったなら。でも!それでも!

 

「コレだけは・・・守った。守ったんだ・・・!コレ、だけは!」

ミストルティンを握りしめて蹲る。なんて、情けない・・・たかが玩具一個なくすだけじゃないか!小学校から愛着有るお人形を捨てられて悲しむ2年の女子高生なんて居るか!?居るわけない。なのに・・・なのに・・・!

 

「ごめん・・・ごめんよぉ。ステイメン!俺が、俺がもっと強ければ!もっと・・・もっとぉ!くぅッ・・・ううぅ!」

 ずっと戦ってきた。コイツが如何に格好良く、優雅に、力強く敵を倒し。仲間を守り、宇宙をかける姿をずっと、ずっと夢見てきた。

 俺がソレを叶えてやるんだと、高校生にもなって、ソレでもずっと追いかけてきた。

智という身近な天才が、俺に可能性って奴を見せてくれた。

努力すれば、俺もあんなふうに・・・チャンピオンの 「クジョウ キョウヤ」 のように、ステイメン:シグルドを動かせる日が来るって、信じてた。

でも、ソレは叶わない。いつかは叶う日が来るかも知れない可能性はコレで潰える。

 マスカレードの人達は良い人だった。コイツがひどい目に合うことは無いと確信が持てた。ソレだけでも救われる、それでも俺は!

 

「コイツと一緒に強くなりたかった・・・・!智みたいに!クジョウ キョウヤのように!なのに、こんなお別れだ・・・!何も成長しちゃいない!ちくしょう・・・・ちくしょう!」

何度も何度もコクピットの床を叩く。いっその事、ステイメンが俺を殴ってくれればいいのにとすら思った

 

「センパイ!」ユウジンに覆いかぶさる様に抱きつくリン

「センパイ!勝って下さい!この子の分まで、コレからずっと!ユニコーンで勝って下さい!!そしたら・・・そしたら・・・えーと・・・喜んてくれます!ステイメンが!絶対喜んでくれます!

 だって、私達・・・頑張ったじゃないですか。頑張ったんだから、褒めてもらっていいじゃないですか!だから、褒めてくれます!この子がセンパイを、ずっと褒めてくれます!・・・だから、泣かないでください。涙も流さず我慢して、自分に鞭打って泣かないで・・・センパイ」

 

 最初にリンが言ったとおりだった・・・彼は後悔していた。

次の大会でも良かったはずだった、ソレまでに順当に順位を上げて、キチンと挑めばステイメンを失うことは無い・・・でもこうしなければ、大会出場は出来ても勝ち上がっていくことが出来ない現実を、彼は理解していた。

 

 トップランカー達はどんなガンプラが相手でもキチンと戦略を立て、対策する。エインヘリヤルで地道に順位を上げている間にエインヘリヤルへの対策なんて、10は思いつくだろう・・・やるからには速攻勝負、目指すべきが頂点である以上、この道しか無いのだ。

それほどまでに 【ソロフォース(ぼっち小隊)】 の眼の前の壁は厚く、冷たい

 それが、分かっているからこそ彼は決断した。決意に嘘はない・・・それでも心を割り切れるほど彼と愛機「ステイメン:シグルド」の絆は浅くはなかった。

 

 だから・・・立て!後輩に此処まで言わせた責任を取れ!勝つんだよ、勝って笑って全部コイツのおかげだったと言ってやらなきゃならないんだ!

ユウジンはおぼつかない足取りで、頭上にある操縦桿に手を伸ばす。コレが最後・・・生みの親であるユウジンが動かしてやれる、最後の時間を無駄にしてはいけない。

 彼は握りしめた、最初はGPDで4年・・・そしてGBNで3年。それほどの歳月握りしめてきた愛機の手綱を、過去最大の力で握りしめてやる。

ソレに呼応してくるかのように、愛機は変わらず応えてキュピーン!と起動する。

 

「あぁ、そうだ。そうだな・・・リン。コイツが喜んでくれる、俺が戦い続ける限り・・・夢を諦めない限り。コイツは俺と一緒だ・・・!誰がなんと言おうと、俺はこの選択に胸を張るぞ!悔しいけど、辛いけど・・・意地を張り通して!」スラスターに火が入る、いつもどおりのいい音だ!

 

「はい!帰りましょう。センパイ!私達のフォースネストまで♪今日はたっぷり寄り道して行っちゃいましょう!」

 

「任せとけ!グルっと逆方向から帰ってやる!」愛機を疾走らせる。ありがとう、ステイメン・・・俺、強くなるよ。絶対絶対強くなって、お前を作ったあの頃をもう一度始めるよ。新しい新入りと一緒に・・・!

 

                        

 帰路に付き、ふと見ると。GBNの端末にラウさんからメールが受信されていた。フォースネストに帰って直ぐ送った受け渡しの詳細に関してOKの返事が来たのだ・・・受け取りが確認できた後の日程をメールでやり取りする。日時は予選期間の最終日、つまり1週間後。

 相手プレイヤーは十名、オペレーター2名。こちらはプレイヤー1名、オペレーター1名。よって必然的にユグドラシルは攻勢側、マスカレードは防衛側だ・・・ユグドラシルが防衛側になったことは一度もないので、コレはいつもどおり。相手にモビルアーマーが居た場合はその限りではないが、彼らがモビルアーマーを使って戦っている所を見たことはないし、集めた情報にも無い。

 

「3日後には土曜か。沙耶と作り込んで次の昼過ぎには完成するな・・・一日だけ夏凜には悪いがフォースの留守番をお願いしないとな」

そう言って、端末でリンにメールを送る。すぐさま返信が来てOK!と描かれたプチッガイのスタンプが送られてくる。続けざまに色々送りつけて遊ぶリンに励まされながら、ユウジンは今一度机に向かう。

明日、朝イチにステイメンを送り出す・・・だから最後に今まで以上にキレイに仕上げてやろうと思ったからだ。

 

「・・・たしか此処のカラーは・・・あったあった。まだキチンと残ってるな」定期的にメンテナンスをしていた癖で塗料を必要以上に作っておいて良かった、と彼はそれはそれは楽しそうに、最後の時間を過ごしたのだ・・・

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