ガンダムビルドダイバーズ Re:スタート 作:aki@ガンプラ
第二章 「それぞれの想い」
「FAW」 GBNフォースアタックトーナメントウォー。その本戦トーナメント抽選会、その会場にて発表された結果に対して 「ユウジン」 こと青城 雄二は自分が持てる限りの知恵を振り絞って作戦を考えていた。
自らがフォースリーダーを務めるフォース 「ユグドラシル」 の切願だったFAW本戦出場、その本戦の初戦の相手となるフォースは、前回FAWの優勝フォースであり自分たちのフォースの【元】エース 「S・A」 こと新谷 智が所属する 「ソロモンの悪魔」 であった・・・
ガンダムのシリーズにおける、ソロモンの悪魔という名から宇宙世紀の宇宙要塞を思いかべる者もいれば、鉄血のオルフェンズの設定として存在しているガンダムフレーム72機の事を思い浮かべる者も居るだろう。
彼ら、「ソロモンの悪魔」 は後者に該当するフォースである。ビルダーやサポート要員も含め、フォースメンバーが72名という超大型フォースであり、フォース全体を4つの部門に分けた団体である。大きく分けると彼らは・・・
ビルダー部門:
ファイター達のガンプラ制作のアドバイスや、補助。場合によっては作成したガンプラやパーツを直接供給する、ソロモンの悪魔の開発部門。
この部門のリーダーは主任という愛称で呼ばれる 「ミサキ」 という女性ビルダーが努めており、ユグドラシルの元フォースメンバー 「スノウドロップ」 こと新谷 由紀も此処に主任補佐という役職で所属している。
オペレーション部門:
ファイター達が実際に試合で戦う際の作戦を考案し、試合中のサポートや敵情視察でデータ収集を行う、ソロモンの悪魔の司令部門。
この部門にはリーダーが存在しない、結局の所フォースリーダーの 「カイエン」 が指揮を取るため、フォースリーダーと直接のやり取りを行う 「黒兵衛」 という男性がリーダーの代わりのようなことをしている。合計で4人しか人が居らず、臨時でビルダー部門からオペレーターに人を回してもらう事もある。
ファイター部門A:
ファイター、つまり直接試合に出て戦うダイバー達の所属する部門。彼らの間ではアサルトと呼ばれている。アサルトはいわゆるレギュラーであり、精鋭達。エースの「S・A」をリーダーとした組織で日々ガンプラバトルの鍛錬を積む。
ファイター部門B:
ファイター部門Aのダイバー達と違い補欠メンバー達。彼らの間では、ビギニングと呼ばれている。リーダーは存在しない下位組織であり、A部門のダイバー達との演習相手や予選大会期間などで戦うダイバー達の集まりである。
と、この様に大きく分けて4つの部門に別れてそれぞれが役割をまっとうする。かなり組織的な集団だ。
その性質から彼らは小隊ではなく、大隊や団体という印象が強い。
フォースリーダーである 「カイエン」 も団長という呼ばれ方で呼ばれている。 この団体全てを統べる彼は、このGBNでフォース戦の育成機関を作ろうとしてミサキ、黒兵衛と共にこのフォースを作った。
このフォースは72名という定員を設けては有るものの、入るのも出ていくのにも寛容な組織で、本当にフォース戦のノウハウを学ぶために作り上げられた組織だ。
それ故に、このフォースに所属していたダイバーや、これから所属したいとするダイバーは多く存在しており、フォース全体の力を完全に把握することは不可能だという・・・
まさに、勝つために最適化されたフォース・・・なぜか公式大会に出場しないという決まりがあり、ソレを臆病者と笑う者もいれば、育成機関として完成されていると称賛する者もいる。
「・・・そんな相手に、あと1週間で戦力を整えないとならないのか・・・っ!」
ユグドラシルのフォースネストのブリーフィングルームを兼ねたリビングで、ユウジンは二人の仲間と共に作戦を相談していた。
そんな中でまず声を上げたのは、黒い長髪に昔の軍服を女性らしく改造したスタイルのアバターの少女 「サーニャ」 だ。
「ユウジン、私は急いで前に言ってたエインヘリヤルの武器を仕上げる。少しは手伝える筈だから、あの子用の巨大アームドベース 「スレイプニル」 の設計図・・・見せて」
ユウジンは本戦の為に、ユニコーンガンダム:エインヘリヤル専用の巨大アームドベース 「スレイプニル」 を制作途中だった、サーニャはソレに搭載する兵器のアイディアを考えてくれるようだ。
「あぁ、助かる。コレが基本の設計・・・コッチは搭載兵器の方だ」
ユウジンはパソコンで引いた図面とメモをサーニャに送信する。
「・・・うん、コレならたしかに間に合う。けど・・・」
沈黙・・・敵は強大にして、強靭。時間すら無く未だ妙案もなし・・・
その沈黙を破ったのは、こういう時じっとしてられない我らが後輩。銀髪をゴムで止めただけの、2つのおさげを揺らす少々幼児体型、良く言えばスレンダーなアバターにサイバーチックなスーツを着込んだ少女 「リン」 である
「だぁー!!もう、どうしろっていうんですかぁー!いくらランダムだからって、なんで!ほぼ最下位のユグドラシルと1位のソロモンの悪魔がマッチングするんですー?」
ぷんすかしながら、運命の女神的なモノに八つ当たりするリン。 そりゃー、俺だってそう思う
「仕方ないだろ、当たってしまったんだから・・・なんかこう、天啓が降りてくりゃ良いんだが・・・」
スレイプニルを完成させても、数日分は時間に猶予が有る。同時進行すれば、武装やら作戦やらも本戦前には増やせるんだが・・・アイディアがない。というより、勝つためのビジョンが見えない。
「情報も少ないですしぃー、コッチの手札はほとんどバレてますしぃー・・・」
リンはふにゃ~っとテーブルに突っ伏してしまう。ネットの評判を調べてもらっていたが、やっぱりレギュラーであるアサルトの情報はあまり出てこなかった・・・なにせ、予選大会の大半はアサルトの下位組織である、ビギニングが担当しているのだ。
相手のフォースの強さに合わせて、アサルトから数人が予選に参加することはあっても、アサルト全員が出場したFAWの試合は後にも先にも前回のFAWだけだ。
「とにかく!俺は策を練る!リンは情報を集めたり、またなんか思いついたら教えてくれ、サーニャは武装の方を頼む。二人共、メールでも良いから何かある度連絡してきてくれ、ガンプラ制作に集中しすぎて電話は出れない可能性が高いから」
「・・・分かった」
「はーい♪」
とそれぞれの性格を表す返答に思わずクスリと笑ってしまう、前はコレに加えて「あぁ」って返す智と、その智の横で「分かりました!」って元気に返す由紀ちゃんが居た。
そうだ、大変なことばかりじゃない。こうやって嬉しいことや、楽しいことだって増えていく・・・大変と辛いは違うんだなと、ユウジンはそれまで張り詰めてた気が緩んで、ホッとする心地よさに感謝した。
「相手が最強ってくらいで諦められるなら、ソロフォースなんてやってないしな!皆で勝とうぜ、もう一回と言わず何度でも!」
お~!と三人が団結する。今日はそのままお開きとなり、サーニャと二人でリンを見送ったあと、帰宅することとなった。
叔父が経営する大型玩具店からログインしていた雄二と沙耶も、共に帰宅するため店を後にする。
春先とはいえまだまだ暗くなるのが早いと感じる中、駐輪場から自転車を引っ張ってくる雄二を店先で待つ沙耶、1年くらい前までこの光景がユグドラシルの日常だった・・・
沙耶を乗せて送り迎えをする雄二。
由紀を乗せて送り迎えをする智。
黒塗りのベンツで送り迎えをしてもらう夏凜。
それぞれ誰が言い始めたわけでもない役割分担、互いが互いにこの行為を気兼ねなく享受していた
「ほーい、お待たせだ沙耶。この時間はまだ大丈夫だけど、もう少ししたら冷えるし急ごうぜ」
ポンポンと自転車の後ろの座席を叩く雄二、沙耶も自然な動きでその後ろに横向きに座る
「なんだか・・・不思議だね。かれこれ1年ちかく乗ってないのに、それでもなんてこと無く乗れるなんて」
二人乗りは意外と最初が難しい、走り出してスピードが出てくれば楽なのだが最初は二人の息が合わないとなかなかスムーズに発進できないのだが・・・
「ん~?そうだな、特に気にしなくてもスムーズに行くよな♪俺達全員」
そう、昔夏凜がダダをコネて雄二の後ろに乗せたり、面白がって色々人を変えて駐車場をチャリで爆走したことがあった、誰と誰の組み合わせでも雄二と智はスムーズに発進していたものだ。
「・・・まぁ、そうだね」
沙耶はその雄二の回答にご満足は頂けなかったようで、すこしむくれたような言い方をする。
雄二も、ソレを感じ取ったのか
「まあ、でもソレだけ此処に通いつめてたんだよな、きっと大人になった後も俺達の青春の場所って聞かれたら、此処だよなって言いながら酒のんでるに違いない」
沙耶のご満足は得られるか分からないが、俺達は此処での思い出をずっと大事にしていける。
そして、その思い出はこれからも増えていく筈だ。沙耶は軽いため息を付きながらも機嫌を直してくれたようで、その後も自転車を進めながら、会話を続ける二人
「・・・勝てるかな?雄二」 沙耶はすこし身震いをしながら聞く
「勝てるさ、勝ってみせる」 雄二は駐輪場で買っておいたホットココアの缶をポケットから出して、沙耶の前に差し出す
「相手は、あの智とGフレームだよ?」 ココアを両手で受け取り、予熱でもって暖を取る
「そうだな・・・ユグドラシルの総力を結集した最強の機体だ。おまけに俺らの知らん装備が増えてるのに、俺達が調整したバランスを一切崩してない」
正直に言えば、ソロモンの悪魔のメインビルダーに少し嫉妬した・・・俺達が最終型だと信じていた 「ガンダムアストレイGフレーム:武御雷」 にはまだ先があったのだ・・・ビーム兵器有りなら俺達だってアレくらい!と思う半面、それでも思いつかずアレで最終型だと舞い上がっていた俺には出来なかっただろうと思ってしまう・・・
アレに勝てるのか?エイハブ・リアクターとナノラミネートアーマーのビーム耐性とトランスフェイズ装甲(TP装甲)を掛け合わせた究極の防御力、その防御力を盾にガンダムフレームの運動性でもって接敵し、智の武術の全てをガンプラの動きに反映させるモビルトレースシステム・・・
おまけに阿頼耶識システムのおかげで、智はガンプラが見ているモノ、聞いて、感じるモノを全てフィードバックされている。
「超高機動なタンク・・・それも味方を護るタンクじゃない、自身の身だけを護る鎧を纏った一騎当千の武将みてーなガンプラだもんな」
「でも・・・弱点も有るには有るんだよね?」 沙耶は装備は作ったが機体は雄二が作った
「あぁ、リソース制のFAWでならGフレームが最も恐れるのは実弾火器による重厚な弾幕だ・・・
エイハブ・リアクターの動力炉でもってしても、TP装甲の消費は決して安くない。
物理にもビームにも強い夢のような装甲だけども、そいつはリソースと等価交換だ・・・つまりは智の見切りの感の良さも働きようがない弾幕の壁を作って消耗させる。コレが一応有るには有る弱点なんだけども・・・」
どうにも歯切れが悪い・・・沙耶は聞かなければ対策しようがないと先を促す
「・・・積んであるんだよ。Gフレームには 「デュートリオンビーム送電システム」 その受信機がな」
そう、当然弱点には対策を講じる。自画自賛で申し訳ないが過去の俺に抜かりは無かったのだ
「え?・・・つまり遠隔からエネルギーだけなら補充可能なの?」
「あぁ、エイハブ・リアクターは転換炉だからな。どっちも電力を使ってる設定だから上手くいった」
今は、上手くいってしまった・・・と言い直したいがビルダーとして自慢したい気持ちが勝った
「ソロモンの悪魔も・・・知らないわけないよね。絶対デュートリオンビーム搭載の支援機も居るはず・・・」
その程度ならまだいい・・・もっとやばいのは
「この技法・・・前回のFAWで知れ渡っててな?実はトップランカー達はこぞって導入を試みてるらしい・・・なんども俺のところにランカーお抱えのビルダーがメール飛ばしてきてた」
教えたりはしなかったが、相手だって一端のビルダーだ、間違いなく同じものを、無いし類似品は完成させただろう・・・
雄二もまた、スレイプニルに実装する予定なのだから
「雄二~?・・・」
ジトーっと背中を睨む視線を感じる、待ってくれ・・・悪いのは俺じゃない!技術を大会でお披露目した以上どうしようもない事だ!俺達だけが一流のビルダーって訳じゃないんだから・・・
「あぁ、怒らないでくれよぉ!確かに俺が発起人だけどもさー、おかげで智が前回の大会で、見事相手エースを討ち取ったんだぜー?こう、スパーン!と・・・エネルギー切れ寸前からの大逆転だったんだからな?」
「うん・・・ソレは私も素直に嬉しいけども、その技術が広く出回っている現状、私達の首が絞まっているのですけども?どうしますか?リ~ダ~?」
「はい、すいません・・・」 いやー、俺もまさか此処まで有効だとは思わなかったんだけどな
もう少ししたら、沙耶の家だ。
沙耶の家は、青城模型店の先に在るため沙耶を家まで送る時は家に帰るのは遠回りになる、一度悪いからと言われ、沙耶を家の前で下ろしたらお袋に全力で叩かれて以来、家まで送り届けないと家に上げてもらえないと思ってしまう・・・これって洗脳とかトラウマなんじゃないだろうか?怖い
沙耶もその時一緒に居たから、下手に俺に遠慮して下りるようには言い出さない、沙耶の家に着き、沙耶を下ろす。
「じゃあ、明日学校でな。またハードな1週間だけど、よろしくな♪」
「うん・・・直ぐ作って手伝うから!」
手を振って、沙耶が家に入るのを確認して反転!さぁ、家に帰ってガンプラ作るぞ!
雄二はコレ以上無いほどにやる気に満ちていた、やはり壁は高いほど超えたがるのは男の子の本能なのだろう、一目散に家へと舵を切り一目散に走り出した。
一方で、やる気に満ちている青年がもう一人居た。此処は火星圏エリアの一角に特設された演習エリアで、ソロモンの悪魔のレギュラー部門のアサルト達がリーダーである「S・A」の指導の元、模擬戦闘を行っていた。
このエリアは、FAWの主催者である 「ゲンスイ」 が所有するフィールドに設けられた施設。
ゲンスイは火星圏エリアの、かなり大規模なフィールドを所有するフィールドコレクターであり、そのフィールドに様々な施設を作って運営している。
この演習エリアもその一つで、FAWランキング上位フォースは優先して使うことが出来る。
FAW出場者の中には、こういった特設された施設を利用する為に参加する者達も居る。優勝フォース以外に賞金は出ないが、こういうプラスな特典が在る。
FAWがアングラな非公式の大会なのにこんなにも人気なのは、こういった背景があるのだ。
そして、今まさにその特典をフルに活用しての演習が始まろうとしていた。
アサルトの後衛3機を前に、S・Aは一機でコレに対峙する、彼が駆るは 「ガンダムアストレイGフレーム:武御雷」 後衛の3機は皆、実弾の二連ガトリング砲を装備、これはWガンダムのヘビーアームズの装備である。
今回の演習はGフレームの弱点である、エネルギーを奪う戦術に対する訓練だ。
3機を相手にしているにも関わらず、S・Aは落ち着いていた。ついさっき見たユウジンの姿が何度も瞼の裏でフラッシュバックする・・・今のアイツはどれほど強い?3機相手じゃ足りないのではないか?とすら思っているほどだ。
そう考えていると通信が入る。相手は自分の妹であり、蒼と白のグラデーションがかかった前髪パッツン系ショートヘアに、雪のような真っ白な和服を着込んだアバターの 「スノウドロップ」 だ。
「兄さん、今回の戦闘訓練の目的は被弾を極力少なく戦う事です。被弾覚悟でいきなり突っ込んで終わらせるような真似は無しでお願いしますね?
これは、本戦初戦での補給タイミングを計算するためでも在るんですから・・・聞いてますか?兄さん!」
精神を集中してる兄に対して、ソコまで言わなくてもいいのに・・・と思いながら返答するS・A
「あぁ、聞こえているさ。相手はGフレームを作った本人なんだ、当然実弾火器の弾幕対策はフォース全体の課題だと心得てる・・・僕が思ってるのは」 と最後まで言う前に被せるように本心を付かれる
「足りねーかねぇ?S・Aくん、君のお友達はもっと多い敵を相手してもんなぁ」
スノウドロップの横から、にゅっと顔をだす女性。
エンジニアがするようなゴーグルを付けた田舎っぽい喋り方が特徴的な、主任と呼ばれる彼女はソロモンの悪魔のメインビルダー 「ミサキ」 である
「ムムム・・・兄さん?」 そうなのですか?と凄むスノウドロップ
「いや・・そんなことは、少ししか思ってない・・・」最後の方は聞こえるか聞こえないほどの小さい声で言うS・A
兄さん!と叱責するスノウドロップを嗜めながらミサキは
「そう拗ねんでなぁ?エインヘリヤル一機とオーキスカスタムが出せる現実的な実弾の弾幕を計算すっと、この辺が現実的なんさぁ~
必要以上に過大評価すっと、ソレはソレで作戦に支障が出るからぁ駄目って黒やんにも言われてるんよ」
黒やんとは、オペレーション部門のリーダーの様な事をしている 「黒兵衛」 のことである。
「わかりました・・・始めて下さい。いつでもいけます」
そう言って腰に備わっている4枚のスラスターバインダー。そのバインダーに格納されている日本刀型の武器 「斬機刀影打ちシリーズ」 「鬼切」 「蜘蛛切」 「童子切」 「千人斬」の全てに手をかける。
Gフレームの肩には、バルバトスルプスレクスの腕がサブアームとしてそのまま装備されており、この様に4本の刀全てに手をかける事ができる。全ての刀に性能差は無いが、鍔の形がそれぞれ違う、沙耶が一つ一つプラ版を削って作ってくれた特製だ。
その構えに対してガトリング砲を構える3機、お互い準備は出来たと判断したスノウドロップは合図を出す
「実体弾対策訓練、初め!」
合図と同時に激しい弾幕が撃ち出される!あえてGフレームを狙わず、広い面積をカバーする面制圧射撃をする後衛3機、彼らの機体は元々後方からの砲撃や狙撃支援を行うガンプラだからか、ダイバーの射撃の腕はとても高い。
にもかかわず・・・ほとんど被弾することなく、右へ左へと跳び、またある時は滑るかのように移動するGフレーム。
阿頼耶識システムがパイロットに情報をフィードバックし、S・Aがその感じ取った戦場の空気を、今度は逆にS・Aが読み切って自らの動きをモビルトレースシステムを介して機体へとフィードバックする!
まさに人機一体という言葉を体現する動きで、トップランカーのスナイパー達をあしらう。
「被弾率・・・すんげぇな~、普通のダイバーならもうバラバラだべ?エネルギー未だ9割って♪笑うしか無いなぁ、こりゃ~」
ミサキは、このGフレームの改修を行った本人だが、ミサキ自身この機体を弄る必要性を感じていなかった・・・ソレはビルダーとして初めて【敗北】を感じた瞬間でもあった。
それでも此処まで改修できたのは、彼女のビルダーとしての意地が成したモノだ・・・
徐々に詰まるGフレームと3機との距離、此処だ!と感じたS・Aは全ての斬機刀を抜き放つ!
赤く光るカメラ・アイが、敵を間合いに捉えたのだ・・・
「くそ、散れ!纏めて落とされる!」 3機のウチの一人がそう指示を飛ばす。
決して間違った判断では無い。だが、この瞬間においてソレは悪手だった、なにせ移動しながらの射撃では弾幕の方向性は一時的に絞られてしまう。空きの無かった弾幕に、ガンプラ一機を滑り込ませるだけの隙間を開けてしまったのだ。
そして、阿頼耶識システムと融合したS・Aはその隙間を見逃さない!スラスターをフルスロットルで接敵する、最高速度より加速力に特化したセッティングのスラスターは、Gフレームをまるで滑るかのように高速で移動させる、体勢をほとんど変えずに移動するその様子は、昔のゲームのバグ移動のようにすら見える。
「・・・貰った!」 四本の腕から繰り出される一閃!二本でガトリング砲を、もう二本で敵機本体を切り裂き、断つ!
体勢が殆ど変わらないということは、攻撃するための姿勢のまま移動しているということだ。至近距離での攻防において、攻撃するためにいちいち振りかぶっていては意味がない・・・
武道を修めている彼だからこそ出来る芸当なのだが、本人があまりに自然に行うためデータを取る側は頭に???を浮かべてしまう
そんな彼の武道の動きに注釈を入れるのもスノウドロップの仕事であった。
一機を撃墜したまま、離れる2機を速度を落とさず追うGフレーム。
当然迎撃のため弾幕を貼るが、もう遅い・・・撃つ為にスピンアップしているガトリング砲を横から蹴り弾く。アサルトのメンバーのガンプラの性能は決して低くない、この程度で壊れるヤワな武器は装備していない筈なのだが、蹴られたガトリング砲が横から何かに切断されたように裂けている。
何事かとGフレームを見やれば、踵に備わっているアーマーシュナイダー。
おそらくアストレイブルーフレームのソレが、黄色く塗装されている・・・
Gフレームには、各部にこういった鉄血のオルフェンズのレアアロイ製の刃が備わっている。
「レアアロイ製近接兵装システム」 と呼ばれるこの一式は、踵のアーマーシュナイダー、ゴッドガンダムの篭手のクロ―、サブアームのレクスクロ―に搭載されており、S・Aの格闘技術が合わさることでGフレームを全身凶器へと変える。
「此処まで接近を許せば、僕が負けることは無い・・・」
自信過剰と思うだろうか?だが、事実なのだ。
S・Aは近接格闘戦にさえ持ち込めば誰にも負けない、そう言い切れる程の力を持っている。
やられまいと、ガトリングを捨ててナイフを装備するも・・・ナイフを持っていた腕ごと機体を斜めに両断される。
相手のほうが小さく、素早く攻撃できる武器を装備していた筈だったのだが、Gフレームはそのナイフを突き立てるよりも速く背中にマウントされている大太刀を装備し、振り抜いてみせた。
ガーベラストレートを元に改造した抜身の大太刀 「神打ち:雷切」 である。この雷切の刃もレアアロイ製であり、耐久性と切れ味は大業物クラスだ。
「こ、降参!降参だ!一人じゃ弾幕にすらならねーよ、もう!」
最後の一機も仲間がやられたのを見て、且つもう訓練の目的は達成されたと判断して降伏する。
ソレを聞いたミサキも
「んだな、お終い~おっ疲れだぁ」 ビー!というアラームと共に演習は終了した。
「ありがとうございました」 相手にキチンと一礼をして、機体を降りるS・A
「こちらこそ、あんがとなぁ~、スノウちゃんも遅くまでゴメンなぁ?」
ミサキはいつもどおりニコニコしてはいるが、遅くまで付き合わせた事を謝罪する
「いえ、ログイン無しの音声チャット程度でしたら・・・いつでも声をかけて下さい、主任」
スノウドロップは、今実際にはGBNにはログインしていない。ミサキが見せているライブ中継をVRチャットのようにアバターを使って見せて、意見だけを聞いていたのだ。
「兄さん、そろそろ夕食も出来るみたいですから・・・私達は御暇しましょう、後はおまかせします、主任」
気にしなさんなぁ~と明るく返してくれる主任。良い演習だった・・・筈なのだが、肝心のS・Aだけは納得が行かない様子だった
「主任、本当にユウジン・・・いえ、ユグドラシルの仮想戦力をこの程度と見積もって良いんでしょうか?アイツは、1週間アレば何を作ってくるか分からないんですよ?主任だって・・・そう思っているんですよね?」
その言葉にいつもニコニコしているミサキも少し困った顔をする、無理もない・・・防衛ベースアタックの成功。
そんな事をやってのけたフォースの戦力を、この程度に予想するのはビルダーとしての彼女は否定的だ、しかし・・・
「私の仕事はビルダーだぁ、黒やんがおそらくコレくらいってんなら、今はコレがソロモンの悪魔の分析できた全てってこったろぅ?なんら、信じてやるしかねっ」
それぞれに役割があり、それぞれが完璧に役割をこなす・・・それがソロモンの悪魔が強豪相手に勝ってきた理由だ。ソレをあえて崩す必要はない。ミサキはそう言っているのだろう
コレには、S・Aも納得するしか無い。だってそうやって勝ってきたのだ・・・ずっと
「わかり・・・ました」
他の人が見れば、古巣の友人を贔屓したい彼の過度な期待と見える。それは仕方のない事なのだ、いくらすごい偉業をやってのけたとは言え、それでも相手はたったの一機・・・その現実は変わらない。
そう言ってログアウトしていく兄妹。その背中を見ていたミサキが一人つぶやく
「んでもー・・・黒やんも、たぶん分かってるんよぉ?だからこんな訓練を今更もっかいやってるんだぁ・・・」
リアルに戻ってきてからの夕食。
新谷家の夕飯はとても静かだ・・・厳格な父と祖父、彼ら二人は食事中にテレビを見たり、大声で話し合うのも行儀が悪いとして厳しく躾けてきた。いつも喋るのは母と由紀の二人だけで、その会話もそれほど盛り上がって笑うような事はない
由紀は、この家の静かさが嫌いだった・・・侘び寂びが在るなんて人は言うけれど、温かいご飯も照明の電気もみんな、ひどく冷たく感じてしまう・・・昔からずっとこの状態に慣れ親しんだ兄はあまり気にしていないけれど、由紀は慣れる前に知ってしまった。
他の家との温度の違いというものをだ、雄二さんの家での夕食や、沙耶姉の家での夕食・・・子供の頃のお泊り会は、由紀にとっては一番楽しいイベントだった。
そんな空気が嫌で、ひたすら心を無にして食事をしていると、その日は珍しく父が口を開いた
「二人共・・・最近の玩具遊びはどうなっているんだ?」
最初の頃は反対していた父だが、GPDでの私達の活躍を間近で見て、私達チームの交流には賛成してくれていた。だから、気になったのだろう・・・最近GBNをする時は決まって一人で部屋にこもっている兄の事が。
「父さん、玩具遊びじゃなくてガンプラだよ。昔もそう言ってオモチャ屋で店員さんを困らせたの忘れたの?」
兄はソレを意に介さず答える。・・・これはわざとだ。由紀にはすぐに分かった
「あぁ、そうだったな。名前はいい・・・最近あの子達を見かけないからな、喧嘩でもしたのかと気になったのだ。新谷の家の男児たるもの、喧嘩で女々しい真似など許されんぞ?」
あの子達、とは雄二さんや沙耶姉、夏凜ちゃんのことだろう。父は何気に雄二さんを気に入っているのだ・・・バカっぽいところとか?がたぶん好きなんだろう、そういう意味じゃ兄の父親なのも納得だ。兄には絶対言えないが
「喧嘩だなんて、僕と雄二はちょっと違う道を進んでるせいであまり最近一緒にならないだけだよ。お互い、今も普通に話したり出来るし」
真顔でものすごい嘘を付きましたよこの兄!この前の沙耶姉の様子からみても、絶対なにかあったでしょ!?
ムムム・・・と少し眉間にシワを寄せながら兄を睨んでいると兄は食べ終えたのか、席を立つ。
「だから、心配なんていらないよ。父さん」
ごちそうさまと言い食器を流しに下げに行く兄を追うべく、由紀も急いでご飯をかき込む。
新谷家において、お残しと食器を置いていくことは禁止されている。祖父に怒られないギリギリのラインで早食いをして兄を追う
「兄さん、まって」 廊下の奥、智の部屋の前で智を呼び止めることに成功した
「どうした?由紀、風呂ならいつもどおりお前が先なんだから早くしてな?」
「違う、そうじゃなくて・・・なんで父さんに嘘をついたの?雄二さんとなんかあったんでしょ?この前沙耶ね・・・塚本先輩に会った。道着着たまま雄二さんの店に来たって・・・詳しいことはソレ以上聞いてないけども」
目は真剣に・・・兄は目の動きから人の動きを見切ろうとする癖がある。真剣なときほど目をそらしてはいけないのだ
「・・・全部が嘘ってわけじゃない無いだろう、本当にアイツとは違う道を進んでる。倒さないとならない相手として、仲良くしようとしてたらフォースの皆にも悪い。
皆、勝つために必死だ・・・あのフォースは所属するダイバー達がそれぞれの思いを持って門を叩くんだ。
弱いせいでフォースに居られなくなった人、勝利に拘りすぎて周りから浮いてしまった人、これからフォースを立ち上げるために力を身に着けたい人。ホントに様々な人があの場所で真剣にガンプラバトルに打ち込んでいる・・・
僕はそのファイター部門、アサルトのリーダーなんだ!勝たなくてはならない、そして雄二は間違いなく秘策を引っさげて来るだろう、その驚異を最も知っている僕がしっかりしないとならないんだ」
顔を反らしながらも続ける
「沙耶がユグドラシルに帰ってきた。アイツは本当に有言実行してみせた・・・負けられない。負けたくないんだ、仲良くするのが必ず大事とは限らないだろう?僕たちはダイバーなんだから」
「兄さん・・・じゃあ、勝った後はどうするんですか?戻りますか?あの場所へ・・・きっと皆歓迎してくれま・・・!」
ソコまで言いかけて、ソレを遮る様に智は由紀の両肩を掴む。少し痛いほどだ
「・・・戻れるわけ無いじゃないかッ!僕は、僕はあの場所から離れていったんだぞ!雄二は自分が悪かったと言っていたけど、悪いって思って自分を責めてる親友を僕は見捨てたんだ!・・・自分が強くなるためにって。 だから、戻るだなんて都合が良すぎるよ。それは駄目だ、筋が通らない」
「そんな・・・そんな事無い筈です。だってあの人達は」
優しかった、暖かかった・・・其処で輝く兄は私のヒーローだった・・・でもそのヒーローは自分で自分を押し殺してしまった、強いだけのファイターになってしまった。
肩を掴まれてる痛みと相まって涙が出てくる、しまった!と手を離した兄を振り切って浴場に逃げ込む由紀、そこで涙が出なくなるまで風呂に浸かって心を落ち着けた。
その日は、兄と口を利けなかった。部屋の前で一言ゴメンと謝ってくれた兄に恨みなんて無いのに・・・
「雄二さん。沙耶姉、夏凜ちゃん・・・!冷たいんだよ。此処は、冷たいよぉ・・・」
気丈に振る舞ってきた由紀だが、彼女はまだ中学2年生・・・しかもコミュニティ全員が年上という事もあり、彼女はいつもコミュニティ内で起こるトラブルには無力な存在だった。
沙耶がインしてこなくなったあの時も、兄と雄二が団結して運営に立ち向かった時も・・・そして、ソレに敗れて二人が仲違いをしてしまったあの日ですら、由紀は智の後ろにくっついていただけだった。
そう・・・仲のいい親友同士だったあの二人が決別することになってしまった、あの出来事が今の由紀を作り上げてしまった。