ガンダムビルドダイバーズ Re:スタート 作:aki@ガンプラ
アレは沙耶がGBNにログインする頻度が目に見えて減ってきた頃だった、ユグドラシルのフォースネストの中でも会話が減っていた。
リンだけはそれでもユウジンに積極的に話しかけていた印象がある。
そんな彼女の働きが功を奏したのか、ユグドラシルは再び活動を再開すべく会議を行った。
最初はユウジンが、今までどおりガンプラの出来を向上させるしか無いと提言したが、S・Aはコレに反対した。
そもそもの根本的解決にならないと思ったのだ、実際パーツデータのリアルマネートレードという行為は現在でも続いている悪質な行為だ。
その根本的解決が成されなければ、沙耶が今一度安心してログインすることは出来ないというS・Aの意見が採用され、ユウジンは行動に移した。
まずユウジンが訪ねたのは、ビルダー達が集うイベントだった。ユウジン自身そこそこ名のしれたビルダーだったおかげで顔が利いたのだ。
「済まない皆、どうしても皆に協力してもらいたいことが在るんだ・・・知っての通り、今GBNではパーツデータのリアルマネートレードという問題を抱えたまま未解決になってしまっている。俺達ビルダーの努力やアイディアの薄い表層部分だけを掬って利益を得ている人がいる。
コレをどうにかしたいと同士を今集っているんだ。根本的な解決をするには、どうしても多くの人間の意志が必要になる」
ユウジンは冷静に、それでいて真剣にビルダー達に訴えた。
他のビルダー達も気持ちは同じだったのだ、自分たちの作り上げたモノを、自分の知りもしない場所で使われ、批評されたり詰られる痛みを理解していた。
でも、具体的にどうすれば良いのか?その答えが誰にも出なかったのだ、だから皆で考えた。
その結果、やはり運営と直接話し合うしか無い。という答えだった、広大なネットの悪事一つ一つを解決するなんて非現実的なプランではなく。パーツデータを如何に保護するか?というプランにこそ、根本的解決の道があると思い団結してビルダー連合とでも言うべき団体となった。
言い出しっぺだったユグドラシルだが、運営への交渉は実際に大人の人がやるべきという意見も出たため、ビルダー連合の代表者は別のフォースのリーダーが努めた。
約80以上のフォースの署名が記載された、運営への改善案の申請。GBN内のニュースでも少し取り上げられたこの一連の活動は、あまりにあっけない結果に終わってしまう・・・
あれは、運営の人と私達ビルダー連合が、GBN内で直接会って話をする最初で最後の話し合いの席での事だ
「・・・皆様に提出していただいた改善案。【パーツデータの著作権の設定】ないし【パーツデータのコピーのロック化を可能にするシステムの構築】ですが、まず先に著作権の方は申し訳ありませんが受理できません。
なぜなら、ガンプラそのものが著作権で守られている商品そのものだからです。改造したパーツとは、その著作物に手を加えたものであり、完全な別個の製品としては認められません。コレを受理してしまえば、改造行為そのものを取り締まらなければならない事態になってしまいます」
運営側の代表者が淡々と語る。ビルダー連合もこの意見は通らないだろうと踏んでいた、あくまでも保険であり本命はデータのロック化にある・・・だが
「そして・・・誠に申し訳ありませんが、パーツデータのロック機能の搭載に関しても、議論の結果・・・【受理できない】という判断となりました」
ビルダー連合の代表者も、一緒に同席していた我々ユグドラシルも目を丸くした・・・技術的に難しい事でもなく、それでいて規約違反であるリアルマネートレードを抑制出来る。誰も不幸にならない一石二鳥な案を、運営は受理できないのだという・・・
「そんな・・・!どうして!」
ユウジンは食い下がった、コレまで否定されたらビルダーはどうやって自分のパーツを守っていけばいい?努力の上澄みを啜る連中をとっちめたいと言ってる訳じゃないんだぞ!?
と、今にも運営の人に掴みかからんとする程だったのを・・・今でもよく覚えている
そんなユウジンをスルーして、運営の代表者は続けた。
「このGBNは、パーツのやり取りをしやすくする事でダイバー同士の交流を促す方針を取っています・・・コレは、GBNを発足させる時から決めていた一つのテーマであり、コレを変えてしまうのは惜しいと我々は考えているのです。
皆様が考えている不安も理解できます。ですから、我々運営はコレよりますますのリアルマネートレードを始めとする規約違反行為に対して、警戒を強めて取り締まっていく所存です。
我々運営が受理できるのは、残念ですが此処までなのです・・・我々はネット犯罪を取り締まる権限など無く、このGBNを運営するだけの企業でしか無いのですから」
ぐうの音も出ないとは、この事だった。
その通りなのだ、運営はこのGBNを管理する権限はあってもその範疇を超えている出来事に対しては、法的手続きを決められた窓口に通すことが限界だ。
パーツのやり取りに関してもそうだ、多く存在するMMORPGでだって、アイテムをトレードしたり渡したりする行為を、何処まで制限し、緩和するかはゲーム性に委ねられる。
実際、パーツデータを渡すのが簡単だからこそ、ビルダーは他のダイバーに夢を託せる。
会ったこともないネットの知り合いと、リアルに会ってパーツを渡す行為より、よっぽど安全だ。
むしろ、制限することでリアルで発生するトラブルは増える可能性すらある・・・運営は自分たちよりよっぽど全体を見ているのだと、思い知らせれた。
更に悪いことに、この直談判と時を同じくして 「ブレイクデカール」 という違法ツールが世間を騒がせていた、運営の対応はそのブレイクデカールにかかりきりとなってしまい、この直談判もビルダー連合も静かに空中分解することとなった。
「くそ!なんでなんだ!?取り締まるったってGBN内だけでの話だろ、そんな場所で商売する馬鹿なんてもう居るわけ無いだろう・・・!」
ユウジンはこの結果に納得いかなかった、ビルダーである彼の目線から見れば仕方のない事だ。
ビルダーはパーツを供給する金のなる木などではない、信じれるダイバーに自分の技術と誇りを託すためにパーツを作るのだ。
戦える者は自分で戦うだろうけれど、そうでない者はこの結果を受け入れられない・・・なにより、沙耶が帰ってこれない。だって、このGBNはまだ何も変わっていないのだから・・・
だが、一方でファイターであるS・Aの意見は全く別だった。彼は運営の言う理由に納得していた。
彼とユウジンが、この一件で初めて意見が食い違った瞬間だった。
もう、ソコから先は酷いものだ・・・たぶん、戦端を切ったのは兄だったと思う、ユウジンさんは自分が悪かったと一点張りしているらしいが、私は見ていた。兄の背中に隠れてずっと兄を見てきた私が断言する。アレは・・・
【兄の嫉妬が発端だった・・・】
「・・・でもユウジン、運営の言うことにも一理あるよ。僕たちは今のGBNの仕組みのおかげで出来ることがあって、その恩恵を受けている。
だから、他の方法を探そう?まずそうだな・・・皆でサーニャの家に行って一緒にガンプラを作ろう、楽しいことで少しでも嫌なことを忘れさせてあげて、そして側にいてやろう・・・僕たちはフォースメンバーの仲間なんだ、だから」
一見すれば、兄の言っている事は正しい・・・変えれないなら、少しでも落ち込んだ沙耶姉を元気づけてあげる。その行為や想いに嘘も偽りもない・・・でも兄はあえて隠した事がある。
兄は、内心ホッとしてた。ガンプラを作れない自分がフォースの中で厄介者になるんじゃないかと恐れていたのだ。
根本的解決をしたかったのは本心だが、ビルダーにとってのみ都合がいい嘆願が通らなかった事を兄は内心喜んでいたと、私は感じていた
ガンプラが作れなくて、仲間に頼るしか無い自分
バトルでしか貢献できない自分
沙耶姉の一番近い場所に自分が居ない事実
そして・・・その近い場所に初めから居る親友
兄は、自分でも気づいていないほどに、心に拭えない灰を積もらせている。
ユグドラシルはフォースとしては弱い、兄個人が強くてもフォースの戦績は悪い・・・兄は自分の活躍の場でフォースに貢献しても結果が付いて来ていない事を歯がゆく思っていた、だから兄は・・・
沙耶姉のプライドを無視した発言にすら気づけなかったのだ・・・ユウジンさんが誰のために怒っているのかも知らずに
「S・A!」
胸ぐらを掴んで壁に叩きつけるユウジン、背中に隠れていたスノウドロップは押し出されるように尻もちをついてしまう。
コレも良くなかった・・・私はホントに間の悪い場所に居たのだ
「由紀!・・・ッ雄二、いくら気に入らなくても、少しくらい周りを見ろよ!もう、ビルダー連合の皆もそれぞれ折り合いを付けてGBNと向き合ってる!
お前がどうにかしたくたって、結果は変わらないだろう!?やれることをやるんだよ!馬鹿みたいに真っ直ぐ突っ走ったて常に正しいとは限らない!」
そう言って胸ぐらを掴み返す。フォースネストだから良いものを、アバターネームで呼ぶことすら忘れてヒートアップするふたり
「じゃあ何か!?沙耶に現状が正しい形だから、元気出せって言うのか?アイツの作ったもんはスゲーんだよ!分かってんだろ。
なのに現状を受け入れろって言うのか!ミストルティンは欠陥品で、俺達が笑われるのも、貶されるのも、結果を出さなかったせいだから気にするなって!お前はそう言うってのか!?」
「そんな事言ってないだろ!」
「アイツに今のGBNを納得させるってのは、つまりそういう事なんだよ!
沙耶は、怖がってるんだ。今のGBNをな!忘れたらなんねーんだよ。怖いもんを怖いままにして忘れたら、人はその恐怖に立ち向かえないんだ!」
「立ち向かうかどうかは、お前の都合で決める問題じゃないだろ!沙耶が決めることだ!」
「その沙耶から、立ち向かう為の力を奪うなって言ってんだよ!」
ソコから先は、ずっと耳を塞いで蹲っていた・・・怖かったんじゃない、痛かったんじゃない、ただただこの場所が無くなっていくんだと直感的に感じて、その事実から目を反らしたかったのだけだった。
蹲る私を兄が抱きかかえて、ユグドラシルを出ていくと言った時・・・私は生まれて初めて兄を軽蔑した。
兄は強い人だった、強さを履き違えず、誰かのために力を振るえる私のヒーローだった・・・
その兄が、弱い者を見限ったのだ。
仲間だと言い張るなら、今のユウジンさんのように、共に沙耶姉の為に戦うべきだった。勝って屈服させる為じゃない、勝って分かり合う戦いをするべきだった。
なのに兄はそうしなかった・・・気に入らなかったのだ、自分より沙耶姉を分かってあげれるユウジンさんが・・・
分かり合う戦いに必要なのが、ユウジンさんのような創り出す力なのに対して、兄の敵を打倒する力はあまりにも非力だったから・・・
私はユウジンさんが正しかったと、今は信じている。
でも私は意志が弱いから、結局また兄の背中をアヒルの子供のように追いかけてしまった・・・最初は兄を説得できるのは自分しか居ないと意気込んでいた。
だけども兄は、ユグドラシルを出てからとんでもなく活躍をした。誰もが認める強豪のエースに成ったのだ、そんな兄に私が何を言える?
私はただのビルダーだ、戦えない訳じゃないけれど・・・私はガンプラが壊れていくのを見るのが好きじゃない。だから修理技術を極めたのだ、どれだけ壊れても直してあげられる人になりたかったし、実際そう成れたと自負してる・・・
兄は最近、ガンプラバトルをしていても笑わない・・・勝つことが全てであるかのように、感情すら置いて戦っている。そんなのまるで機械だ、誰のためでもない・・・自分のためですら無い、ソロモンの悪魔っていうなんか大きなモノの為に戦っているだけだ。
私の、勝手で身勝手な願望だと分かっている。兄には兄の目指すものが有る、それでもどうしたら良い?どうしたら・・・
「私のヒーローは・・・帰ってきますか?皆・・・」
一人布団の中で声を上げる、お風呂で落ち着けたはずの心は乱れ、声がかすれる。不安に押しつぶされそうな中、ふと彼女を思う。彼女はなぜ、こんな不安の中でも雄二さんの側に居続けられたのか?
なぜ、貴方はそうも強いのか・・・そんな事を考えながら、次第に睡魔が打ち勝つ感覚が襲ってくる・・・また明日・・・かんがえよう・・・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「う~ん・・・」
ユウジンはフォースネストのリビングで考え事をしていた。考えるのはもちろんエインヘリヤルの改造案だ、沙耶の協力のおかげで少し余裕があるから、どうしてももう一手欲しい・・・そんな事を考えていると、隣で同じ格好をしてうーんとわざとらしく真似る後輩が一人
「なんだ~?リン、そんな欲しがりさんでも構ってやらんぞー?」
こちとら真剣なのだ、そんな余裕はない
「え~?センパイ冷たくないですか?可愛い後輩が構ってオーラ全開なんですから、キチンと愛でるのがセンパイの仕事だと思うんですよね?いや、使命?」
そんな事に命を賭けねばならんのか・・・世紀末より命が安いな、おい
「仕方ないだろう、時間無いし・・・っていうかリンこそ情報収集の方はどうなってるんだよ?」
チッチッチ!と指を振りわざわざ口で言う後輩
「私は出来る後輩!抜かりはありません!」
おお!と目を見開くユウジン、流石だぜ!ユグドラシルの竹中半兵衛!
「今・・・無性にセンスのない称号を充てがわれた気がしますが・・・まあ良いでしょう!私は前のインタビュー映像から!Gフレームに増設された装備にアテを付けることに成功しました!」
とドヤる後輩、ホントに仕事してる!?
詳しく聞くと、どうやらGフレームの装備には4つほど改善、又は増強されている事がわかった。
一つは背中のビームライフルである。元々は鉄血の300mm滑空砲を装備していたのだが、現在はΖガンダムの銃身の長いビームライフルを装備している。
コレはビームサーベルを発生させることが出来るライフルで、銃口の下にもビーム刃を発生させる機器が取り付けてある。
そのことから、近接戦での使用に重点を置いた改造がされていると見ていい、そういえば智は槍術も修めてたな・・・
2つ目は分かりにくいが、腰のフロントアーマーの武器だ。元々鉄血のヴィダールのモノを使用しており、備わっていた火器も実弾のハンドガンだった。
現在はストライクノワールのビームライフルショーティーに変わっているようで、至近距離での射撃では注意が居るだろう。接射されれば、Iフィールドとて防ぎようがない
3つ目は腰のスラスターバインダーには斬機刀の他に、ビームサーベルラックが備わっていた。元々斬機刀の柄同士は繋げてゲルググのビームナギナタみたいな形状にして使える。きっとこのビームサーベルも、SEED系のラケルタ・ビームサーベルだろう。
4つ目は膝部分に、ストライクフリーダムの篭手の光波シールドが備わっていた。防御としてだけでなく、アレを展開して蹴り込めば通常の打撃よりもダメージは跳ね上がるだろう、ということは容易に想像できる。
それに、あの位置なら刀を構えていても邪魔にならない
こうしてみれば見るほど、改修は完璧に行われている。Gフレームの機体特性をまったく変えること無くパワーアップさせた。
つまりは、俺達ユグドラシルビルダー4人の技術の集大成に、もう一人のビルダーの力もこの機体には集っているのだ。
「どうです?センパイ・・・また皆が揃ってじっくり改造できれば、エインヘリヤルでも勝てますかね?」
情報はすごくありがたいが、なんだろう・・・いつもどおり俺の心をへし折りに来ているだけなのではないだろうか?この後輩
「そうだな・・・Gフレームが強いのは、単にS・Aの戦闘技術に頼ったモンじゃない。色んなビルダーが、色んな思いをあの機体に注いだんだ。たった一人のエースを最強とするために・・・
う~ん・・・力が足りない、単純な機体性能だけを見比べれば差は微々たるモンだけど、ガンプラが背負ってる力・・・仮に愛とでも言おうか?ソレが足りん」
「じゃあ、不肖私めがエインヘリヤルにキッスでもしましょうか!」
唇に指を這わせ、セクシーポーズ?っぽいポーズで茶化すリン
「そういうのは今は良いから!」
しゅ~んとする後輩、しかし本当にどうするか?まだ6日ある。逆に言えば6日しか無いのだ・・・
「スレイプニルの装備の増強って結局、オーキスカスタムで使ってたのを流用するんですよね?此処の~・・・シリンダー式シールドラックでしたっけ?あの場所に」
現在の改造案では、スレイプニルの両側にはワルキューレを格納、展開可能なシールドラックを設置する予定だ。
そのラック自体をリボルバーのシリンダー状にする事で、ドッキング時のエインヘリヤルの腰に装着するワルキューレを簡単に交換出来るようにしてある。
それなりにスペースは在るので此処に装備も足そうと考えたわけだが・・・
「それがな~、フォールディング・バズーカやビームライフルを格納しても、ステイメンほど使えないんだ、アームの数も長さも減ったからな、その分サイコフレーム化したから頑丈だしパワーもあるんだけども」
「じゃあ、手に装備する武器だとただ乗っかるだけなんですね~・・・確かビームマグナム:ブルパップとミストルティンのEパックは背部に格納庫設けてましたよね?アレも届かないんですか?」
「あぁ、専用に補充用アームを作る予定だけど?それがどうした?」
「いや、わざわざ補充用のアームが在るより。装備を取り替えてその中にアームが付いてる装備がアレば良いんじゃないかなって?・・・ほらスノウちゃんが好きだったAGEはそういうの有りましたよね?」
おそらくAGEシリーズのウェアか?その事だろう、あれは付ける四肢なんかを付け替えて状況に対応したりしてたな、そういや
ん?・・・四肢じゃなく全く別々な装備でそうしたらどうなる?
スレイプニルには9枚ワルキューレを接続できるようにするし、エインヘリヤルにも9枚装着する部位がある、状況に合わせて付ける装備と部位をとっかえひっかえすれば・・・可能なんじゃないか?ステイメン:シグルドで俺がやろうとした戦型。それに限りなく近い戦いが・・・
「悪くないな・・・問題はそんな大量の武器今から作れるかってことだが・・・」
「センパーイ?なんかこう、装備の備蓄とか無いんですかぁ?センパイ暇あれば色々作ってたじゃないですか」
無茶言わないで欲しい、確かに作ってるけど大半は失敗作としてジャンクパーツ箱の中で熟成中だっつーの
「そんな都合よく、使えそうな武器なんて・・・」
そこまで言って、俺は思い返す。最近こんな事を話したよな?・・・たしか、久々に沙耶が家に来た日。押し入れでアイツと・・・ッハ!?違う!そうじゃない、そっちじゃなくて
「あった・・・使えそうな装備。ほら、覚えてるか?昔、家で深夜テンションで作ったろ?あの装備群だよ」
ポカーンとした顔で後輩を見る。後輩は俺の顔をじっくり見ていたのか何故か不機嫌だ
「ほうほ~う?ございましたかぁ?センパ~イ?・・・一体どんな場面でそんな都合のいい記憶掘り返したんですぅ?・・・よっぽど楽しい思い出みたい、です!ねぇ!」
ガシガシと俺の足を踏むリン、だからGBNだと痛くないけど痛いからやめて?除け者っぽくなって申し訳ないとは思ってますよ?ホントに
「でもアレなら、手直し程度で十分以上に使えるはずだ!シリーズがチグハグで統一感無いけど、良いんじゃないか?」
当然、コレは戦う上で良いんじゃないか?と言ったつもりだったが、リンは違う意味に聞こえたらしい
「ですね!私達の機体って感じがします!」
「俺達の?どういう事だ?」
「だって、アレって皆が自分の好きなシリーズの武器を片っ端から詰め込んだじゃないですか♪私とセンパイが宇宙世紀、サーニャ先輩がS・A先輩を手伝ってWと鉄血とSEED、由紀ちゃんがAGEと08小隊!
私達の 【好き】 が詰まった豪華全部載せですよ♪なんか楽しくなってきますね!」
「ああ・・・そうか」
そうだ、アレはカオス箱であると同時に、皆の大好きな物を手当たり次第詰め込んだ福袋なんだ、アレには皆のガンプラが好きな、ただ好きだった一直線な気持ちが詰まってる。
後輩のその言葉で腹は決まった・・・俺はコレを使う。いや、使いたい!
「決めたぞ、リン。エインヘリヤルは俺の機体だけど、コイツはユグドラシルの為の機体にする。俺は、コイツを皆のために完成させるって、今決めた!
どうやら、S・Aもスノウドロップも・・・なんか色々在るらしい。俺みたいな馬鹿と違ってあの兄妹は逐一難しく考えるからな~、アイツラにも取り戻してやろう!サーニャの時みたく」
エインヘリヤルを見ながら決意を新たにするユウジン、リンはしょうがないな~と言った顔で横に並び立つ
「なら、私がサポートしてあげないとですね!センパイは直ぐ調子に乗ってコケますから!あ、あとリソース管理ガバガバですし、レーダーろくに見ませんし、あとー・・・」
一緒になって士気を高めているのかも知れないが、事実を付きすぎていますよ?リン?
「ええい!全部あげようとしなくてよろしい!とにかくやってやろう、頼むぜリン!」
拳を突き出すユウジン
「もちろんです!センパイ」
互いに笑い合い、その拳にトン!と拳を突き合わせる。見せてやろう、俺達ビルダーにしか持ちえない力ってやつを!
遂に方針が定まった雄二、そうとなれば後は彼のビルダーとしての腕がモノを言う。スレイプニルを予定の日取りより1日速く仕上げ、沙耶と合流してあのカオス箱を広げる
「雄二・・・コレを使うの?確かに粗は多いけど、コレくらいなら簡単に手直し出来る・・・」
「ソレだけじゃない、ユニコーンガンダムの盾に装着する装備としてはちょうどいいサイズなんだよ、どれも!こんなラッキーそうはないぜ?」
「でも、戦術とかどうするの?・・・対応力は上がると思うけど、何が強みなのか分からないよ?これだと」
フフン♪と自慢げにドヤる、そう来るのは当然わかってたさ!
これは、良くないドヤ顔だ・・・と沙耶はすでに諦める準備を初めている。まって!最後まで聞いて?
「強みなんか必要ないんだよ!」
ほらね?と言わんばかりに装備群を片付けだす沙耶
「まてまてまてー!良いか?強みはなんだ?と聞かれれば当然この機体の強みはミストルティンっていう超火力をチラつかせながらの物量戦だ!相手は何が怖いって、そりゃ回避か同等の火力での相殺するしか対抗手段の無いミストルティンだ。
コッチも当然ソレを当てたいけど、互いにミストルティンを意識しあってたら絶対当たらない。
でも、そこで副装備として、9種類も装備があって、しかもスレイプニルからせわしなくミサイルまで飛んでくるんだぞ?」
そこまで言われて沙耶も気づいてくれたらしい
「そっか・・・相手はミストルティンに意識を向け続けれない、しかも雄二の選択する装備がどれなのかも逐一注意を払わないとならなくなるんだね?」
そうなれば、隙きも出来るだろう。上手く行けばその装備を読み違えて落とせる可能性もある・・・選択肢が多いと言うのは、強みはないが確実に相手の判断力を奪う武器になる。
おまけに雄二は宇宙世紀好きだ、その雄二の使うガンプラに鉄血やSEED、AGEやWの装備が入ってくるなんて想像もしないだろう・・・初見殺しで数機は倒せるかも知れない・・・
「むむむぅ・・・」
たぶん無茶だろうから、バッサリ言ってやろうと思っていた沙耶は逆に完全に説き伏せられてしまう。悔しかったのか枕を投げつけてくる
「フハハハ、どうしたぁ?抵抗に力がないぞぉ?」
そう言ってたら、引っ掴んだ掛け布団を投げつけられた!おいぃ?パーツ巻き込むじゃねーか!
一通り話し合いも終わり、工作に入る。なにせ9種類全部の手直しだ、時間はいくらあっても足りない。
「なあ、沙耶・・・コイツラにも名前つけてやろうと思うんだけどさー」
合わせ目消しの為ヤスリをかけながら神話にも詳しい才女に知恵を借りる。せっかく北欧神話で統一してるんだし、いまさら変えるのもなんかしっくりこないのだ
「うん・・・ならワルキューレの姉妹達の名前をつけてあげればいいよ。キチンと名前あるんだよ?」
へ~・・・とパソコンで調べてみる。なんか三十くらいあるんだけども?9姉妹の方はコレか・・・ほうほう
「ブリュンヒルデ、ゲルヒルデ、オルトリンデ、ヴァルトラウテ、シュヴェルトラウテ、ヘルムヴィーゲ、ジークルーネ、グリムゲルデ、ロスヴァイセ・・・これホントに女性の名前?覚えきれるか?っていうかグリムゲルデしか聞いたことねー・・・」
「鉄血に居たもんね♪」クスクス笑いながら、どうせ慣れるよと言ってくれたし採用することにした。
当然、我らがオペレーター殿にも名前が決まったので送りつける。秒で返信が返って来て俺と同じ反応を示していた。だよな~?
そうこうしている内に、あらかた手入れが終わる。明日仕上げれば完成だ・・・本当にコレで全部か?やり残したことはないのか?・・・そんな事ばかり考えてしまう。
不安ばかりはどうやったって拭いきれない、いつだってソロフォースは1ミスが敗北に直結する。
それでも、やるしか無い。戦力は十分に整った・・・後は俺が何処までやれるかだ、この目一つとガンプラ一つで最強に食らいついてやる
「・・・いよいよ明後日だね。雄二、もう勝てるかどうかなんて聞かないよ。きっと二人にも届くよ、私に届いたように雄二の本気、見せてあげて・・・あの二人もきっと何か大事なモノを零してしまったんだと思う」
そうだ・・・俺が仲間達の信頼を、沙耶がGBNへの想いを、心から溢してしまった様にあの二人もきっと、何かを失ってしまったんだと思う。でも、失った物は無くなってなんかいない筈だ・・・
ソレがなんなのか、俺にはまだ分からない・・・俺がもっと大人で、賢くて、出来る男だったなら良かったんだろうけど、俺はビルダー以外は凡才だ。
分かんないから、ぶつかってみよう。壊れた場所も分からないんじゃ、ビルダーだって直せやしない、全てを取り戻す。その戦いは、相手の土俵の上で無ければ出来ないのだから
「あぁ、そのために戦う・・・分かってやるために、分かりたいから。全力でぶつかる!その必要があるんだ。
エインヘリヤルは、その為のガンプラになった。俺達のかつての想いと、これからの願い、全部を背負ってもらう。俺と一緒に背負ってくれ、ガンダム。こんな嬉しい重み、一人で抱えるのは勿体無いからな!」
最後は沙耶にニカッと笑いながら言う
「うん・・・託すよ。雄二、コレが本戦前に私からエインヘリヤルに託せる最後の武器・・・」
そう言って、沙耶はずっと作り続けていた 【例の装備】 を雄二の手に握らせる。
ゆっくりと開く雄二、沙耶が作ってくれた最高の一振りをその目に捉える。
エインヘリヤルのサイコフレームと同じ緑色のカラーをした刀身、その光沢と透明感のある刀身を、コレまたエインヘリヤルと同じく白い外装で覆った・・・小ぶりな大剣と言った所か?厚めの刃が長期戦での戦いを想定している事がわかる
「・・・実態剣アームド・アーマーVNソード。銘を 【グラム】 ・・・神話だと英雄シグルドが振るったとされる魔剣の名前だよ。
サイコフレームで出来た刀身と刃を持ち、貴方の思いに応えて強靭性を増すだけじゃない、VNの超振動による高周波ブレードになってる・・・この剣は、ガンダリウム合金すら簡単に粉砕、両断する!」
沙耶の説明に、一瞬頭が追いつかなくなる・・・アームド・アーマーVNをソード化したのか?
今一度装備を確認する、ミストルティンを見た時も驚いたが、コレはソレとは違う。派手さは無いのに出来の高さはミストルティンを超えている!?
・・・ほんと、なんて奴だよ
「こっちは、ミストルティンを1年かけて超えたんだから、沙耶も1年くらい苦労してくれよ。また超えないとならないじゃんか」
そんな軽口を沙耶はいとも簡単に受けて返してくる
「・・・そう言って、直ぐ超えちゃうんだから、少しだけ猶予をちょうだい。雄二が引っ張っていくのに付いていくのも、結構大変なんだからね?」 そう言ってクスクス笑うのだ
「ありがたく使わせてもらうよ・・・今度は大丈夫だ、なんかエインヘリヤルなら行けるって信じられるんだ。コイツは俺の常識すら全部すっ飛ばしてくれた、夢のつづきはまだ終ってなんかいない。
それに、シグルドの剣ってんなら最高だ!アイツが側にいてくれるなら、何も怖くないぜ」
さっそく、エインヘリヤルの腰のアームについている基部にマウントする。右がビームマグナムブルパップ、そして左がグラムだ。
こうして見れば、装備がとてつもない種類になる事が分かる・・・でもコレで良い、コレが良いんだ。アイツが言ったとおりの 【俺達のガンプラ】 らしくなったよ。本当に
「頑張ってね、雄二。たぶん私が作った剣の武器の中でグラムと雷切は、ほぼ互角の強靭性が有ると思う・・・高周波ブレードだから、打ち合いではグラムが有利だけど・・・」
少し言いにくそうにする沙耶の後に、続いて補足する。そんな顔するなって、と笑いながら
「剣術では智が圧倒する、そもそも打ち合いをさせてもらえないかも知れない・・・でも受けるって選択肢が無いなら、アイツだって多少は苦労するはずだ・・・まぁ!実際の剣術に剣で打ち合う事なんて無いって聞いたけどな!」
チャンバラなんてのは時代劇なんかの演出だって聞く、でもガンプラバトルと実際の剣術も違うんだ。全てに置いてリアルの剣術が勝るなんて事は無い
「勝機はある、近接戦での秘策だって用意してあるんだ。俺は弱いからな!創意工夫だけが俺のたった一つの武器だ」
自信に満ちた笑顔だった、確証なんて無いんだろう・・・雄二はずっとそうやって戦ってきた。
バトルで強くなるために努力してきた全てのダイバーに、自分がしてきた努力で示すのだ。【退屈させてすまなかったな、今度こそ一緒に遊べるぞ!】と、胸を張って・・・だから
「私も、きっとソコへ行くよ。私にしか出来ないやり方で、皆のステージに立つ。ガンプラは自由だって人は言った・・・だから私にも在るはずだよね?雄二だけの戦い方と同じように・・・」
もちろんだと、彼は少しも躊躇なく言ってくれる。雄二は強いわけじゃない、彼が今こうして立って前を見れるのはあの子のおかげだ。
正直悔しかった・・・自分から離れたくせに、私はなんて図々しいのだろうか、それでも心の中でちょっと悪態をつく位は許してね?・・・夏凜
・ ・ ・ ・ ・ ・
ユグドラシル陣営がそうして準備を整えているのと同じくして、ソロモンの悪魔も当然準備を整えていた。
巨大なフォースネストの、これまた巨大な格納庫にて、フォース全体の合同ブリーフィングが行われている。団長であるカイエンが格納庫のハンガーに上がり、皆を見下ろすように声を上げる
「出席可能な奴は全員揃ったな?各班長!通達ミスなんてヘマやらかすんじゃねーぞ、報連相くらいは基本なんだからな・・・よし、じゃあ始めるぞ」
そう言って作戦内容を全てのフォースメンバーと共有する、彼はソコにアサルトやビギニングといった区別をしない。
フォースが一丸となって立ち向かう試合なのだ、全てのフォースメンバーが作戦を頭に入れて、各自与えられた役割に全力を注ぐ。
それが、ソロモンの悪魔というフォースを作る上で一番大事な事だった・・・此処は強くなるための手段、通過点だ。
まだ半端者だからと見学しかさせないのではフォースの存在意義がない、どんな実力でも、どんな役割でも、チームにとって無くてはならない戦力なのだということを、彼は信条としている。
そんな彼が立案した此度の作戦、ソレは此処に居るすべての者を驚かせた。その作戦の内容にアサルトのリーダーであるS・Aは、自分こそが言わなければならないと団長に意見を述べる
「団長!いくらなんでもこの作戦は相手を軽視してます!ユウジンがおとなしく前回と同じ装備を使ってくるとは思えません!なんで・・・なんで!?」
そう・・・コレは無茶だ。誰もがアレを見た、防衛ベースを貫通する一条の光を。アレを前にしてなぜ?
「【モビルアーマー】を導入するんですか!?的になるだけだし、アレを回避する、ましてや防御出来る性能のモビルアーマーなんてありませんよ!」
モビルアーマーを導入すれば、リソースをごっそり持っていかれる。モビルアーマー1機に必要なリソースは最低でも5機分、活動時間や活躍させる役割を限定縮小すれば4機分まで抑え込めるだろうか?それでも、莫大なリソースがかかる。
「分かってる・・・だけどな?モビルアーマーは落とされても負けにはならねー。でも防衛ベースは貫通されたら負けなんだ・・・だったらその防衛ベースを無くすのが一番手っ取り早い」
FAWの攻守は、試合に参加するプレイヤーの数で決まる。多いほうが防衛、少ないほうが攻勢だ。
だけど、昔にルールの改正があってモビルアーマーや巨大アームドベースのような巨大兵器にカテゴリーされる搭乗機を参加させる場合、強制的に攻勢側に回される。
そして、両陣営がこのルールに引っかかった時は、両陣営が攻勢となり全滅させる以外に勝利する手段が無くなるのだ。
そんな中、モビルアーマーを戦場に出すのか?モビルアーマーは火力と防御力だけはモビルスーツなんか足元にも及ばない性能だけども、扱いが非常に難しいうえに敵の攻撃を回避する手段が少ない。
そんなコチラ側の懸念を最初から理解した上でカイエンは続ける
「だから、モビルアーマーでエインヘリヤルの相手はしない!いつも後衛が請け負ってるサポートをモビルアーマーが全部受け持つ、その分後衛の装備を増強する。
精鋭の前衛3機、後衛2機の5機のみでエインヘリヤルを討つってのが・・・今回、黒兵衛と相談して決めた作戦内容だ。ミサキ、アレを」
そう言われてビルダー部門のリーダーであるミサキは、自分のコンソールを弄って格納庫に一機のモビルアーマーを出現させる。
宇宙空間での視認性を考慮して暗めな塗装が施された、00シリーズの大型兵器 「アルヴァトーレ」 の改造機であった
「これがぁ、今回団長のガンプラに追加装備してもらう擬似太陽炉搭載型モビルアーマー 「オロバス」 だぁ。あ、名前はソロモンの悪魔の名前だ~よ。
本機体のリソースを最小限にすっと、どうしても太陽炉とかが必要でなー、でもって首に付いてる大型GNキャノンは、バッテリー式のデュートリオンビーム送電システムになってるんよ。
だもんで、砲撃支援は出来ん・・・積んでる火器は全部自衛用だぁ、参加機体全てデュートリオンビーム送電システムには対応してあるから、ホント前線でのエネルギータンク代わりになっちまうだぁ」
説明ご苦労、とカイエンは手を上げてコレに応える
「コイツには俺の 「ガンダム・ダンタリオンⅡ」 をドッキングさせる。今回の作戦での俺の役割は陣頭指揮に徹することにある、黒兵衛とも話したがユグドラシルは何を作ってくるか分かんね―連中だ。
今までの定石が通用しない装備がまだまだあるかも知れねー、だから少数精鋭を全力でサポートする。俺は向こうのレーダー範囲ギリギリ外で戦う・・・正直気に入らねーが、勝つために必要なら裏方も大事な戦力だってことを、お前らにも理解してもらいたい」
ガンダム・ダンタリオンのTブースターを、より近接戦に特化させた改造機であるカイエンのガンプラは、後方支援に回れば活躍の場はほぼ無いだろう・・・ホントにオロバスを動かすためだけのガンプラになってしまうことを、彼は容認したのだ。
自ら面白くもない立ち位置に着く彼の言葉に、もう反対しようとする者は居なかった。
そして、オペレーション部門の黒兵衛が、作戦の詳しい部分の補足をする
「・・・では、皆よろしいようだな?では、詳しい解説に参ろう!互いに情報が少なく、確定した事が言えない中でも、某達に確実に有利な事が一つ在る、ソレは索敵包囲網が圧倒的に広いと言う事だ!
味方同士の位置を工夫すれば少ない機体数でも、エインヘリヤルの索敵範囲の狭さを利用し強襲と隠密を繰り返すことが出来る!
相手のほうが圧倒的にスピードが有るため、陣形を広く取るのはリスクが大きい・・・だが団長の指示で的確に敵の虚を突来続ける事が出来れば、スピードの差は驚異ではない・・・では、選抜者とコールサインは・・・」
と黒兵衛は、後衛の二人にはガンナー1、2と・・・前衛の3人にはアタッカー1、2、3とそれぞれ通信で呼びかける際の名前を決めていく。
S・Aは当然アタッカー1である、同じくアタッカーになった二人のガンプラは 「デスティニーガンダム」 「ガンダムキマリスヴィダール」 の改造機だ。どちらも近接戦型で、破壊力の高い武器を持ち、ダイバー二名もコレを得意とする精鋭。デスティニーは速度重視、キマリスは防御重視だ
ガンナーになった二人のガンプラは 「グシオンリベイクフルシティ」 「ジムスナイパーカスタム」 の改造機である。S・Aと先日に模擬戦闘を行った者達で、射撃の腕は高い。
普段は、彼らがデュートリオンビームを担当しているが、今回はその装備が無いのでかなり装備が増強されている。
グシオンは砲戦仕様のミサイルや大砲、ビーム砲が目立つ、ジムスナイパーは狙撃仕様で、超大型のスナイパーレールキャノンとスナイパービームライフルを装備している。
実体弾や実態剣を多めに取り入れてる所を見る限り、ユウジンのIフィールドをかなり意識しているのが分かる・・・ビルダー部門の面々がその調整を行い、パイロットのダイバーと対面でミーティングをしている
S・Aは、コレラを適切に装備させて調整を行っているのが自分の妹だと思うと少し誇らしかった。
ただ、この前の一件以来あまり話せていない事が心配だった・・・彼自身の中で妹という存在は、未だに自分の後ろに隠れていないと周りと上手く付き合っていけない。そういう人見知りな子供だという認識だったからだ。
「スノウドロップ、どうだ?調子は・・・Gフレームの反応が偶に遅く感じる時があるんだ」
S・Aなりに、とっつきやすいガンプラの話しから始める。
元々、智はガンダムは好きだったがガンプラはそうではなかった・・・彼とガンプラは肌が合わないのか、いくら作っても上手く作れなかったからだ。
だから、ガンプラが最初から好きだったのはむしろ由紀の方だった、彼女は何かを黙々と作るのが好きで、兄の【買ってきたは良いが、諦めて積まれてしまった】積みプラを作って消化するのが幼い頃の彼女の遊びだった。お人形遊びの一種だったのだろうが作っていく内にガンダムに興味を持った
好きになる順番が逆だった兄妹、だからガンプラの話から切り出す彼の行いがおかしいわけではないのだが・・・
「・・・すいません、兄さん。この複合システムに手を加えれるビルダーはおそらく・・・」
S・Aは、そう言われてようやく話題のチョイスを間違えたことに気がついた。
元々妹と口論になったのは、雄二達と自分の事だ、システムじゃなくて装備について聞けばよかったと後悔し始める。
黙ったままギクシャクしてると、後ろから「んな~?」という田舎臭い声を上げて近づいてくる助け舟がやってくる
「どした~ん?・・・・ふ~む、反応が遅れるねぇ・・・そら~作った本人に聞くんが一番だぁ♪いっちょきいたげよっか?」
と言い、ミサキは自分のコンソールを開く。コレには二人共、ん?となる
「「え?連絡先知ってるんですか?主任???」」
なんで?っていうか連絡とり始めちゃったぞ!?スノウドロップが抱きつくように慌てて止める
「ワー!?ワー!!何やってるんですか、主任!今度の対戦相手にいきなり通話で突撃とか!」
慌てふためく二人を見てミサキは発信画面を止めて、腰に手を当て不満げに言う
「なんね~?分からんことあったら、聞けば済む話だ~?難しい話じゃなか~?」
ちなみにと、連絡先は以前デュートリオンビーム送電システム導入について質問したくて、本人に無理やり連絡先を交換したらしい・・・行動力の塊みたいな人だな・・・
S・Aも流石に冷静でいられず声を上げる
「仮にも、1部門のリーダーですよね!?勝負する相手と試合前に仲良くしてどうするんですか?」
その言葉に、ミサキはケロッとした顔で返す
「試合があろうとなかろうと、仲良ぉしたい相手に仲良くして、いけない事なんかあるんか?私達は、全力で遊んでるんだど?試合は喧嘩でも、戦争でも無いよぉ?」
そのあまりにも当たり前な言い分に、二人の勢いは完全に止まった・・・コレはゲーム。遊びの場であり、この試合は競い合うモノであって戦いではない・・・だが
「ソロモンの悪魔は、勝つために全力を尽くしてきたんじゃ無いですか?馴れ合ったりするのは、戦う上では足枷になることだって有るはずです!勝たなければならない時に、そんな浮ついた気持ちを持つのは互いに取って失礼です」
武道の道を修めてきたS・Aにとっては、そういう世界が普通であった。試合の後に互いの健闘を称える事はあっても、戦う前に浮ついた態度を取ることはしない。
それは、相手を認めているからだ。勝負の世界において、一線を引いて応じるのが正しいと彼は思ってきたし、ソロモンの悪魔はそういう場所であると信じていた。
だが、ミサキはコレにもフワっと返す
「確かに、此処は強くなりたいって人の為~つって私達が作ったぁ・・・でもな~?仲良く戦わないで、誰に勝つと?皆で勝つことを楽しみたいから、戦うんだで?」
「楽しむって・・・勝負は遊びじゃないんですよ!?」
「んでも、コレはゲームっつー遊びだ、本気で遊ぶ為のGBNだぁ」
「そんな・・・!僕は、そんな不真面目には振る舞えません・・・!」
そう言って、踵を返して立ち去るS・A・・・遊びであろうと、勝負はどんな時だって真剣なモノなんだ!と彼は腹を立てて行ってしまった。
ありゃ~・・・と頭をかく主任、スノウドロップに向き直り頭を下げる
「なんかぁ・・・すまんかったねぇ?スノウちゃん」
「いえ・・・主任は悪くないです。兄は、勝負事に真剣なだけで」
自分で言っていても、訳が分からない・・・主任の言ってることは正しい、なのに私達兄妹はずっとそんな事を思うのは良くない。みたいな感情に支配されていたのだろう・・・
ユグドラシルを抜けたのに、彼らを無視して楽しむことが悪いことであるかのように、何処かで思っていたのだ・・・
スノウドロップは、この時気づいた。何かを変えたい時、誰かを期待して待つ行為こそが私の最も変えなければならない事だったのでは無いだろうか?と
私はまた、自分でも気づかず期待していたのだ・・・この戦いで雄二さんが兄を変えて、あの頃を取り戻してくれるのではないかと。
沙耶姉の恐怖を打ち払ったように、私の兄への、身勝手な期待や願望も・・・兄が心に抱えて積もらせてしまった嫉妬や悔しさも・・・あの人がなんとかしてくれるかも知れないと期待していた。
本当に・・・私は今この瞬間も誰かの背中に隠れていた、かつての兄に戻ってくれればいいのに、雄二さんがソレを成し遂げてくれればいいのにと。
私が楽で痛くない未来ばかりを望んで、黙って・・・結局何もしてこなかった。
「主任、私には何かが出来るんでしょうか?このGBNに修理技術なんて、ほとんど要らないのに・・・私がやりたいこと、本当にやろうと思いたくても何も思いつかないんです・・・」
「そうさなぁ~・・・」
いつものようにほわ~っとした口調のミサキ・・・だが、彼女はゴーグルを外して告げる
「何でも良いのよ?なんでもやりなさい・・・きっと、彼はそうして取り戻した。そして、これからもそうするでしょう・・・かつての仲間が、大事だから」
まるで、別人であるかのように淡々と標準語で喋るミサキ・・・ゴーグルを外した彼女の顔は、凄まじい美人であった!
突然の事が多すぎて、スノウドロップは思考が追いつかなくなってしまう
「え?・・・主・・・任?」
「私達、ソロモンの悪魔は強くなりたい人達のために門を開く、でもどう強くなるかはその人次第、目指す強さが何なのか?ソレを見つけるためのフォースなの。
此処はゴールじゃないわ、スノウドロップさん・・・だから走って、貴方が目指す場所まで、どんなに格好悪くても、惨めでも、それでも走りなさい!私達ソロモンの悪魔だけは、その努力を認めるから・・・貴方は頑張れる人よ」
そう言って抱きしめるミサキ・・・彼女も感じてくれたのだろう、スノウドロップが目指す道がこのフォースにはもう無い事を、これからその道に踏み出せずに居る事を・・・だから
「いつでも、私に言って・・・貴方が走り出したい時、私が精一杯にその背中を押してあげるから」
そう言ってゴーグルを付け直すミサキ、付け直すとまたヘラ~っとして次の機体のチェックに行こうか~と何事も無かったかのように振る舞う
スノウドロップの頬を、一筋の涙が流れた・・・
「わた・・・し。私ぃ・・・」頑張っていいだろうか?何もしてこなかった、出来るとも思ってなかった・・・コレは私の我儘で、身勝手なのに、それでも頑張っていいの?でも・・・
「戻りたい・・・皆と・・・皆と一緒に居たい、兄さんと一緒に・・・皆と居たい!」暖かくて、優しいひだまりの様なあの場所へ、もう一度!
ミサキは黙ったまま歩く、ニカっと笑って振り返り
「んじゃあ、見届けてやんべ?あの子らのぉ試合。もしかしたらお兄さんとは、しばらく別々だぁ・・・勝っても負けても」
涙を拭い、真剣に前を見るスノウドロップ
「はい・・・私はもう、誰かの後ろに隠れる卑怯者を辞めます!。二人の戦いを見届けて私は・・・【兄と戦ってでも、私はわたしのヒーローを取り戻します!】あの場所に行くために、もう一度初めから!」
「寂しくなるなぁ・・・スノウちゃんが居ないと美少女成分が減っちまうだぁ」
ヘラヘラしながらスノウドロップの頭を撫でる
「主任一人で美女成分、足りてるじゃないですか。どおりでおかしいと思いました、だって主任の方言、何処の方言なのか安定しないんですもん」
目をゴシゴシしながら茶化すスノウドロップ、その顔から笑顔が取り戻りつつ有る。
「んな~?そら~厳しい♪」
ハッハッハ♪と笑う。コレが、ソロモンの悪魔だ。此処は通過点に過ぎない・・・頑張れ、スノウちゃん
試合は遂に明日。泣いても笑ってもコレが、あの二人の決着になると信じよう・・・