【合同企画】 三題噺集 【正月企画】   作:倉月夜光

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【作者:amarinaXV】 「私と僕と新たな決意」

──お前は錬金術師に向いていない。

 それは父にして偉大なる高等錬金術師、アダムス・ウェーバーが何度も私に言う口癖だった。

 

 錬金術の基礎である物質の理解、探求。それをおろそかにし、遊びふける私には錬金術の深淵を覗くことすらできず、結果を出すことすらなく野垂れ死ぬだろう。そう、父はよく私に言ってきた。

 それは物腰柔らかく、人当たりがいいと錬金術師のくせにご近所の評判がいい父の私にだけ見せる顔だ。家では家族と会話なんてせず、ひたすら研究に耽って邪魔をすればすぐ怒鳴っていた父の何処が人当たりがいいのか私にはよくわからないが。

 まぁ、彼なりに父親として私に対しての助言のつもりだったのだろう。

 

 だが、私はそんな戯れ言を聞く気はなかった。その結果父に勘当され、どんなに頑張っても錬金術師としては3流程度の腕しか持てないとしても自分としては全く構わない事だった。

 

 ♦︎

 

「ここか」

 

 首都クオレスから馬車で1日ほど揺られて、彼女──エレナ・ウェーバーはある建造物の前へとやってきた。

 一見すると洞穴だが、外側からちょっと中を覗いてみると白い近代的なタイル模様が広がっていて明らかに自然の中でできたようなものではないのがわかる。そう、ここは決して自然にできた洞穴などではなく、紛れも無い人工物だ。

 

 錬金術師というのは世界の法則を探求するため、研究するために1箇所を拠点にして短い時は一月、長い時は何年も篭る。その結果、栄養失調になって死亡する者も少なくは無い。だが、その程度で錬金術師という存在が研究をやめることはない。

 

 臨床実験のために一日中ずっと見てなければならない。

 ──仕方ない、ずっと見ていよう。

 3日間かけて実験材料を作成しなければならない。

 ──仕方ない。眠気を抑えて作成しよう。

 一年かけて魔導生物を育成しなければならない。だが、研究に必要な金が少々心もとない。

 ──仕方ない。自分の取る食費を極限まで抑えて育成費に回そう。

 

 実験のためであれば全て仕方ないで諦めるのが一流の錬金術師なのだ。それでうっかり死亡したとしてもそれはドンマイ、運が悪かった。そのように言われるのが当たり前。外になど一切出てないのに死亡率が冒険者と大して変わらない。

 そんな狂った研究欲を抱えてる錬金術師の中に一人の天才がいた。

 

「死ぬのが心配だな……なら、まず不老不死になってから研究をしよう」

 

 そう思い、実行したのが後にも先にも生まれないであろう超越級錬金術師レスター・マスト。彼はそう言ってわずか数年で不老不死を実現させ、その後数千、数億年の時を研究に費やし、今もなお世界の何処かで研究していると言われる伝説の錬金術師だ。

 そうしてここはその錬金術師が拠点にしていた場所の一つ、エレスト遺跡。彼女は馬車を雇った御者に任せて傷も汚れも無い純白のタイルの先へと足を進めて行く。

 

 そして歩いて行くこと数分、床や壁に貼られているタイルが全て剥がれて彼女の目の前に壁として姿を変える。

 

『警告、ここは錬金術師レスターの研究所。間違えて入ったなら危ないから帰ってね。泥棒は死なないように頑張ってね』

 

 若い男の声で警告文が発せられた後、タイルはあるべき場所へと戻って行く。ここ以外の場所でも出る定型文だ。

 錬金術師にしては常識的な対応をしているな、とすこし苦笑しながら彼女は警告を無視してその先に進んで行く。すると白色のタイルは途中で色を変え、赤色のタイルへと色を変える。

 

『待機モードから排除モードへと移行。侵入者を排除します』

 

 言葉とともに地面にあったタイルが剥がれることで現れた地べたから、成人男性がすっぽり入るほどの大きさを持つ青色の塊が3つ吐き出されるように彼女の前へと現れる。

 そしてその塊からボゴっと打撃音が何度か聞こえると、中から腕が出てきた。そしてその後、豚のような顔を持つ二足歩行の生物が現れる。豚のような顔を持ち、背は高く、筋肉もある。そして全員額には三角帽子を被った小人が笛を吹いているような特徴的な紋章が描かれている──レスター・マストの魔導生物だ。

 

「この遺跡は人型か」

 

 魔法強化を受けた鉄の剣を構える魔導生物から目を離さず、彼女は腰につけていたホルスター状のものに拳を突っ込む事で籠手を素早く嵌めてファイティングポーズを取る。

 

 そして踏み込む。

 右足で踏み出した一歩目の地表を魔法陣に置換、そして起動。魔法陣から生み出される気流の力を借りて超加速し、その勢いを保ったまま一番前へいた魔導生物の懐まで入る。魔法で作られた生物でも、その驚くべき速度に目を見開きながらも咄嗟に防御姿勢を取ろうとするがその速度は彼女に及ぶわけもない。

 

「──フッ!」

 

 勢いを生かしたまま、全身を捻り繰り出す渾身の右ストレート。それは魔導生物のこめかみへ容赦無く叩き込まれる。

 パキっという乾いた音が響くとともに、目がグリンとひっくり返り白目を見せながらその場に倒れこむ。瞬きする間に仲間が撲殺されたが、それでも魔導生物たちが怯むことはない。当たり前だ。彼らは便宜上は生物だが、正確には魔法で作られた人形だ。操り主の命令に背くことも、疑問を持つこともせず、痛みも感じず恐怖も感じない。

 だから怯まないし、逃げることも無い。

 

『A-1の機能が破損。自動修復開始』

 

 機械的な声が響いたかと思えば、頭蓋骨を砕かれて頭から血を流していたはずの魔導生物が、傷口から肉が焼けるような音と匂いを出しながら起き上がる。流石に先程の一撃のダメージが抜けないのか頭を抑えてはいるものの、その視線や姿勢は頭を砕かれたもののそれでは無い。

 

 各地でそれなりに発見されているはずのレスター研究跡地、通称叡智の遺跡。それらが唯の一度として全貌を暴かれたことのない理由がこれだ。どんなに体を斬っても焼いても再生し、封印しても自己再生を始める無敵のレスター製の魔導生物。コレが活動している限り、どんなものにも突破不可能と言われているのだ。

 だが、彼女は違う。

 ニヤリと笑いながら籠手についた魔導生物の血液をペロリと舐め、そして自身の唾とともに地べたへと吐き出す。

 

 ──錬金術というのは理解と探求。

 父が言っていた口癖だ。錬金術であるのならこの世すべてを理解し、探求する。その過程の一部で生物の生態を調査することもある。生態を把握する。つまりその対象の弱点を丸裸にすること。

 

「──血液より魔力波形を把握、それによりマギラインに介入」

 

 銀色の髪の毛を、自身より噴出する魔力ではためかせながら、魔法陣を地面へと展開。

 展開されたと同時に高速で回転し始める魔法陣。しばらくするとそこから何十本と緑色の体液を循環させる透明な触手が現れる。

 

「ラインを解析……いける。構成式の08から30までを改竄保存」

 

 触手は魔導生物の体へと纏わりつく。全力で抵抗しているが、触手が外れる様なそぶりはどこにもない。そしてその透明な体に旧世代の神字の羅列を映し出し、そしてその一部の文字を別の神字へと変換する。

 それの効果が現れたのか、魔導生物もだんだんと動きが鈍くなっていく。

 そして完全に動きを止めた時、彼女は拳を魔導生物の腹へと突き刺して青色のガラス球を抉り出す。

 

「構造解明!拘束」

 

 そしてそれを握りつぶす。

 するとガラスは甲高い音を奏でながら砕け散る。そしてそれに合わせるように触手も後の2体の体の中から青いガラス球を抉り出して砕いた。

 

 だが、油断してはいけない。エレナは再び拳を構え、いつ動き出してもいいようにする。

 そうして構えること半刻、再び魔導生物は動き出すこと無くその場で倒れ伏したままだった。

 

「大……丈夫……よね?」

 

 エレナが松明の先で小突くも反応はない。そのあと水をかけても、調子に乗って蹴飛ばしても反応はない。

 ──再生をせず完全に死んだ。それを確認したエレナは両手を大きく掲げて大喜びした。

 

「やったぁ!ついに私はパパを超えた!」

 

 夢だった。才能を受け継ぐことができなかった出来損ないだと馬鹿にしてきた奴らを全員黙らせるのが。それがついに叶った。

 現在までの人類史で誰一人できなかったレスター製魔導生物の制圧。そして叡智の遺跡の踏破。その名誉がついに自分の与えられると思うと彼女はいてもたってもいられなくなり、機能を停止した魔導生物を一度蹴飛ばしてから駆け出す。

 目標はこの奥にあるはずのレスターの研究跡。それは世界中の錬金術師達が喉から手を伸ばすほど欲しがるであろうもの。もちろんそれは彼女であっても例外ではない。

 そして彼女は自分二人分くらいあるであろう高い両開きの扉の前に着く。そして一呼吸して緊張をほぐし、目を一度閉じて、開ける。

 

「さあ、これでついに──」

 

 ニヤニヤが止まらない。ゆっくりと扉に手をかけ、そして開ける寸前──地面が無くなった。

 

「……へ?」

 

 エレナは目を白黒させるまもなく、下へと落ちていった。

 

「へーー!?」

 

 訳がわからない。全財産叩いて突破したのにその結果これか。そう思っていたエレナの上、洞窟の天井あたりから再び音声が流れた。

 

『──自動防衛機能突破、危険度を雑魚から黒いアイツに変更。対処方法をタイプGからタイプTへと変更』

 

 私を黒いあれと同じ扱いにするな。それが彼女の最後の思考だった。

 

 ♦︎

 

 目の上で弾ける水の感触。それを感じながらエレナは体を起こす。

 

「いてて、思いっきり打ったはずなのになんで生きてるんだ……ん?」

 

 頭をさすっていたエレナ。彼女は自分の頭、正確には自分の髪の毛がやけに硬質になってることに気づく。長時間気絶していたのなら、脂でベタベタになるのなら分かる。だが、硬くなるのは何故だろうか?

 そう思い、水を水鏡に変換するため立ち上がろうとする──と違和感。

 

 なんか股に変な感触がある。

 

「んんんん???」

 

 あまりに邪悪な考えが頭によぎったが極めて無視。そして恐る恐る、自分の股をまさぐる。

 股をまさぐるってなんか面白いね。そんなクソみたいな事を考えながら触る、そして握る。そして絶望した。

 

「なんで……なんで……!」

 

 神様、私は何な悪い事をしたでしょうか?

 そんなことを思っていると彼女の前、なんか訳のわからない半壊したガラスの筒から声が出る。

 

『あー、テステス。どうだい?新しい体は楽しんでくれてるかな家荒らし君……いや、ちゃんって呼んだ方がいいかな?』

「ちゃんに戻して」

『んー?君からの罵詈雑言が聞こえてきそうだよ。いやぁ愉快愉快。あ、なおして欲しかったら今どこかにいる僕のとこにおいで。土下座すれば直してあげるよ〜』

 

 バイバイ!と機嫌の良さそうな声を最後に声は途絶え、真っ暗だった目の前が開き、遺跡のある森へとつながる道が現れた。そこを通って帰れ、という事だろう。

 

 エレナは顔を赤くし、腕をプルプルと振るわせなから決断する。

 

 ──絶対ぶっ殺す、と。

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