仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT   作:風人Ⅱ

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番外編⑦
番外編/黒月零、結婚します?!


 

 

―光写真館―

 

 

 

優矢「……んで?まぁーた懲りもせずになのはさんを怒らせた訳か?」

 

 

零「あぁ……ちょっと用があって部屋に入ったら着替えの最中だったらしくてな……そしたらいきなり問答無用でバスターを撃ち込まれた……」

 

 

エリオ「アハハハ……やっぱり其処は相変わらずなんですね」

 

 

とある光写真館の午前中。優矢とエリオはテーブルに向かいに座る黒焦げの零に向けて苦笑いを浮かべていき、零は疲れたように溜め息を吐きながらテーブルに俯伏せになっていた。因みに零が黒焦げになっている理由は今話した通り、着替え中のなのはと部屋で遭遇しバスターを撃ち込まれたからである。

 

 

優矢「で、なのはさんの方はどうなんだ?やっぱ不機嫌なのか…?」

 

 

零「多分な……部屋から全く出て来てくれないんだ……どうしたものか……」

 

 

エリオ「やっぱり、謝った方がいいじゃないですか?流石に今回はなのはさんが怒るのも当然だと思いますし……」

 

 

零「……それしかないか」

 

 

とにかくエリオの言う通り、早めになのはに謝って許してもらった方が無難だろう。そう思った零は部屋にいるなのはに謝りに行こうと椅子から立ち上がろうとした。そんな時……

 

 

―ガチャッ―

 

 

大輝「それは流石に甘いんじゃないかなぁ?」

 

 

零「ッ!海道?!」

 

 

部屋の扉から青年……大輝が何時もの笑みを浮かべながら現れ、なのはの下に向かおうとする零の前に立ちはだかったのである。

 

 

優矢「アンタ、今度は一体何の用だよ?!」

 

 

大輝「たまたま通りかかったから寄っただけさ………それより、話しは聞かせてもらったよ。君もまだまだ甘いねぇ?」

 

 

零「…なんだと?どういう意味だ?」

 

 

大輝「言葉通りの意味さ。女の人の着替えを見たという最低な行為を犯しておいて、ただ謝るだけで許してもらおうなんて誠意が足りないんじゃないかい?」

 

 

零「…!それ……は……」

 

 

確かに大輝の言葉にも一理ある。女性の着替えを見るなんて男して最低な行為だと、幼い頃からなのは達や母親と姉である高町桃子と高町美由希から散々教わってきている………それでも度々そういう事故に遭遇してしまうのは運が悪いというべきか何というか……

 

 

零「……なら、一体どうすればいいんだ?」

 

 

大輝「そんなのは簡単さ、謝罪を込めたお詫びを用意すればいいんだよ」

 

 

零「お詫び?」

 

 

疑問そうに聞き返しながら小首を傾げる零だが、大輝はそれに答えないで代わりに何処からか釣竿を取り出し、零へと押し付けていく。

 

 

大輝「君の得意分野は料理だろう?なら、謝罪の意味を込めて豪勢な魚料理でも振る舞えばいい、彼女の為にね。ちょうど近くには川もあるし」

 

 

零「……確かにお前の言う通りだな……よし。今日はお詫びとして、アイツに豪勢な魚料理でも振る舞うとしよう」

 

 

受け取った釣竿を力強く握り締めながらそう呟くと、零は何時もより張り切った様子で写真館から飛び出していった。

 

 

エリオ「……でも、珍しいですね?海道さんが零さんにアドバイスするなんて」

 

 

大輝「ん?アドバイスー?そんな訳ないじゃないか♪俺がそんなことする人間に見えるかい?」

 

 

優矢「…は?ど、どういう意味だよソレ?」

 

 

先程のがアドバイスではないと言うなら、一体何の為にあんな事を言ったのか?それが分からない優矢が怪訝そうに聞き返すと、大輝は何処からか零に渡したのと同じ釣竿を二本取り出し優矢とエリオに押し付けていく。

 

 

エリオ「こ、これは?」

 

 

大輝「実は風麺で魚類系のラーメンも始めてみようかなぁって思ってさ。どうせなら新鮮な魚を使いたいから、彼にも手伝ってもらおうと思ってねぇ♪」

 

 

優矢「って自分の店の為かよっ?!つか、まさか俺達にも手伝えっていうんじゃ……」

 

 

大輝「もちろんさ。出来るだけ大漁に欲しいからね、別に構わないだろ?どうせ君等も暇だろうし」

 

 

勝手に決めんなよ!と叫びそうになるが、残念な事に事実なので否定しようがない。なので優矢とエリオも半ば強制的に風麺で使う魚を釣りに向かうハメになるのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

それから数十分後……

 

 

 

 

大輝「――む?!またまたフィィィィィィィィシュッ!!!」

 

 

優矢「ウッセェ!!アンタもうちょっと静かに釣り出来ねぇのか?!魚が逃げちまうだろう?!」

 

 

零「お前のツッコミも十分うるさいだろう……」

 

 

エリオ「アハハ……」

 

 

光写真館から徒歩10分の所にある綺麗な川。其処へやって来た零達はそれぞれ釣竿を構えて順調に魚を釣り上げていた。因みに零は十六匹、優矢は八匹、エリオは五匹、大輝は三十七匹と大漁に釣っており大収穫となっている。

 

 

零「………っと、もうそろそろいいんじゃないか?」

 

 

エリオ「ですね、もう十分過ぎるくらい魚も捕れましたし」

 

 

大輝「ま、これ以上釣っても持って帰るのが面倒になるからね……明日に持ち越すとしよう♪」

 

 

優矢「いや明日もやる気なのかよ……」

 

 

大漁の魚が入ったバケツとケースを見てもうそろそろ良いだろうと思い、四人はそれぞれ帰る準備を始めていく。そんな時……

 

 

零「ん?………おい海道、この大きい魚貰ってもいいか?コイツで刺身料理を作りたいんだが……」

 

 

大輝「んー?……まあそれぐらい良いか。勝手に持っていけば?」

 

 

釣竿を仕舞う大輝から了承を得ると零は大輝が持参したケースの中から少し大きめの魚を両手で抱え、自分のバケツの方へと移動させようとする。その時……

 

 

―…………ポロッ―

 

 

エリオ「よいっしょ………アレ?零さん、その魚、今口から何か出しましたよ?」

 

 

零「……ん?」

 

 

零が抱える魚が口から何かを吐き出したのに気付いたエリオがそう告げると、零は両手に抱えた魚をバケツに移動させて地面に落ちている魚が吐き出した何かを手に取っていく。それは……

 

 

零「…………指輪?」

 

 

そう、魚が吐き出した物の正体とは、一見高そうな白い宝石がついた指輪だったのだ。指輪を見て思わず零がそう呟くと、他の三人が零へと近づいて指輪を覗き込んでいく。

 

 

エリオ「うわぁ……それってもしかして指輪ですか?」

 

 

零「あぁ、みたいだな……だがなんでこんなモノを魚が?」

 

 

エリオ「んー、たまたま川に落ちてた物を餌と間違えて食べちゃったんでしょうか?」

 

 

優矢「てかそれしか考えらんないよな……にしても、玩具とかにしちゃなんか高そうだよなぁ?アクセサリーか?それとももしかしてダイヤモンドとか?ってんな高価なもんが川に落ちてる訳ねぇか」

 

 

大輝「……いや……これは………………ニヤリ……」

 

 

零と優矢とエリオが指輪を眺めながら会話を行う中、両目を細めて指輪を眺めていた大輝は何やらいたずらを思いついたような笑みを浮かべて零の肩に腕を回していく。

 

 

大輝「良かったじゃないか零!!思わぬ収穫だよ♪」

 

 

零「?何がだ?」

 

 

大輝「何がじゃないさっ!なのはさんに良い手土産が出来たんだぞ?これでなのはさんの機嫌も良くなるに違いない♪」

 

 

零「なのはの……?」

 

 

何処となく楽しげにそう言う大輝だが、何故この指輪がなのはの機嫌に繋がるのかイマイチ理解出来ない零は疑問げに指輪を睨みつけていく。

 

 

大輝「……本当にそういうのに関してはイマイチ鈍いよね君は……いいかい?女性というのはこういう指輪やアクセサリーなどを貰うと大いに喜ぶものなんだ。なのはさんだってもちろん、そういうのを貰って喜ばない筈がない!」

 

 

零「……あぁ、つまりコレをなのはに渡せば……」

 

 

大輝「そう、コレを渡せばなのはさんは必ず君を許してくれるに違いないという訳さ♪」

 

 

漸く大輝が言いたいことを理解した零は納得したように頷き、ジィーッと指輪を見つめていく。そしてそんな零の様子に大輝は予想通りと笑みを浮かべながら、零に耳打ちする。

 

 

大輝「なんだったら、俺が女性の喜ぶ指輪のはめ方を教えてやろうか?」

 

 

零「ッ?!そ、そんなモノがあるのか…?」

 

 

大輝「あるとも♪どうする?なのはさんを喜ばせてあげたいなら、俺も協力を惜しまないけど?」

 

 

零「……………………………………どうやるんだ?」

 

 

結局、零はなのはと仲直りしたいが為に悪魔の囁きに耳を傾けてしまったのであった。そしてそんな会話を行われているとも知らず、優矢とエリオは隅っこで話をしている二人に疑問を抱きつつ片付けを進めていたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―光写真館―

 

 

 

なのは「……はぁ……どうしようかな……」

 

 

そしてその頃、高町なのはは自室のベッドに腰掛けながら深い溜め息を吐いていた。その溜め息の理由は、先程零に着替えを見られてしまった件である。

 

 

なのは「……着替えを見られたからって、流石にバスターはやり過ぎたよね……やっぱりあそこは平手打ちの方が良かったかも……」

 

 

………まあその方が普段の制裁に比べればずっっっとマシな方だろう。とにかく先程の件は自分も悪かったかも、と軽く後悔しながらなのははベッドに横たわっていく。

 

 

なのは「それに、いい加減こういうも止めた方が良いよねぇ……シズクさんや祐輔君にもそのことで散々叱られてるし……」

 

 

どちらの説教もかなり怖く、アレが嫌でもうやらないと何度も決心したが、それでもやってしまうのはあの青年にも原因はある。超が十を越えるほど付く鈍感だし、デリカシーはないし、女心を何も分かっていないし、恋愛についても全く関心がないし、すぐ他の女の子と知り合ってはイチャイチャしてるし、セクハラなこと言うし、無自覚でエッチだし、どれだけアプローチし続けても「…は?」の一言で返されるだけだし………本当に、何故あんな青年に好意を持ってしまったのか自分でも不思議でならない。

 

 

なのは「だけど……好きになっちゃったんだよね……」

 

 

十数年も前、母や兄や姉が怪我を負った父に代わって働き詰めな日々を過ごしていた中、まだ幼かった自分は皆に迷惑掛けないようにと寂しさを堪え出来るだけ笑顔でいるようにした。幸いにも家族は皆そんな自分を変だと思ってはいなかったみたいだし、自分でも簡単には見抜かれないように笑っていたつもりだが……あの青年だけは違った。

 

 

なのは「………気付いてたんだよね……私が無理して笑うようなった頃から……ずっと……」

 

 

普段は鈍感なくせに、そういうところに関しては妙に鋭い。何故そういうところを他のところに回せないのかと何度不思議に思ったことか……

 

 

なのは「……確か昔の人が言ってたっけ……『恋愛は惚れた方が負け』って」

 

 

確かに色んな意味で負けてるような気がする。どんなアプローチをしても結局は空回り。やはり祐輔が言うように直接好きだと言った方が早いのだが……

 

 

なのは「うぅ……やっぱり恥ずかしいんだよねぇ……」

 

 

いざ告白しようと思うと、顔が真っ赤になる上に頭が真っ白になって何も考えられなくなる。恥ずかしい、という気持ちもあるのだが、告白出来ない理由がもう一つある。それは……

 

 

なのは「もし仮に告白したとしても………零君にその意味が通じるかどうか……」

 

 

彼の鈍感さはホントに酷すぎる。中学の頃なんか色んな女子に告白されていたが、どうやら付き合うという事を『買い物や遊びに付き合って欲しいと』いう風に考えていたらしい。今では大分マシになったかもしれないが、そこの所もマシになっているのか全然判断がつかない。もし仮に告白しても……

 

 

 

 

 

 

―付き合う?何に付き合えばいいんだ?買い物か?―

 

 

―あぁ、俺もお前や皆の事は好きだぞ?当然だろ?―

 

 

 

 

 

 

などと言われても不思議ではない。それにもし本当にそんなこと言われたら……立ち直れる自信が全然ない……

 

 

なのは「……あぁーもう!どうして零君はあんな鈍感なのかな?!もうギネスに登録されても不思議じゃないと思うよ私は?!何だったらナノナノ動画とかにもあの鈍感なところを撮った動画を載せちゃおうか?!一緒に寝てるところとかアーンされてるところとかキスをねだられても全然相手の気持ちに気づかないところとかその他諸々!きっとあの鈍感は罪だって皆が共感するよ?!特に好きな人に気持ちを気付いてもらえない人達には!!」

 

 

不満爆発。ベッドに置いてあった枕を抱きながらゴロゴロゴロゴロゴロと激しくベッドの上を転がり不満を叫び続けるなのはだが、そんな時……

 

 

―コンコンコンッ…―

 

 

『なのは、ちょっといいか……?』

 

 

なのは「ひょわい?!え、れ、零……君?」

 

 

いきなり扉から聞こえてきたノックと青年の声に反応してビクッ!とベッドから立ち上がり、思わず奇声をあげてしまったなのは。そんな声をあげてしまった事に内心恥ずかしがりながらも、扉の方へと呆然と振り返る。

 

 

『ちょっと用があるんだが良いか?良かったら開けて入るが……』

 

 

なのは「え……ま、待って!!ちょっとだけ待ってっ?!」

 

 

いきなり訪問してきた零に戸惑いつつも慌てて部屋の中に入るのを待ってもらい、備え付けの化粧台で服装や髪が可笑しくないか十分に確認していく。

 

 

なのは「だ、大丈夫だよね……は、入っていいよ?」

 

 

格好を確認して大丈夫だと判断するとなのはは扉の方へと呼びかけ、入室の許可を得た零はゆっくりと扉を開けて部屋の中へと入っていく。

 

 

なのは「ど、どうしたの?何か用事?」

 

 

零「あー……いや……ほら……さっきの事について、ちゃんと謝った方が良いかと思ってな……」

 

 

なのは「さっきの…事?」

 

 

さっきの事と言われて一瞬ポカンとなってしまうが、直ぐにあの着替えの件の事だと気付いていく。

 

 

なのは「あ、あのことなら気にしなくていいよ。私も悪い事したかなって思ってたし……」

 

 

零「いや、元を辿れば俺の不注意が招いたことだ……本当にすまなかった……」

 

 

なのは「あ、謝らなくていいってば!こちらこそ……ごめんなさい……」

 

 

頭を軽く下げて謝ってきた零に向けて自分も頭を下げ、先程の件について謝っていく。これでもうこの件についてはお互い気にせずに済むだろう。

 

 

なのは「えぇっと……此処にきたのって、それだけを伝える為に?」

 

 

零「ん?まあそうだが……実はまだちょっと、な」

 

 

零は少し顔を逸らしながら手の中を覗き、何やら考え込むように両目を伏せると軽く息を吐いてなのはを見つめる。

 

 

零「……今日のお詫びとして、ちょっと贈りたい物があるんだが……悪いが少し目をつぶっててもらってもいいか?」

 

 

なのは「へ?あ、うん、別にいいけど……」

 

 

贈り物ってなんだろう?とちょっと気になりつつも、なのはは小首を傾げながら言われた通り両目をつぶっていく。すると不意に左手を捕まれて持っていかれるような感覚と、指に何かを嵌め込まれるようなものを感じ、その不可解な感覚になのはの脳内は疑問符で埋め尽くされていく。

 

 

零「――これでいいのか?……もう開けていいぞ」

 

 

なのは「ん……」

 

 

最初の一言が何か気になるが、とにかく今は先程から気になってる不可解な感覚の正体を確かめたい。そう思いながらなのはは両目を開き、左手を自分の視界へと持ってきて目の前の青年に嵌められたモノの正体を確かめた。

 

 

なのは「………………………………………へ?」

 

 

確かめて、言葉を失ってしまった。自分の左手の薬指に嵌められた物の正体……それは白く美しい輝きを放つダイヤモンドという宝石をつけた指輪だったのだ。コレはなんだ?と頭の中で何度も連呼する中、目の前の青年は頭を掻きながら言いにくそうに告げる。

 

 

零「まぁ、あれだ……お前にはいろいろと迷惑掛けてばっかりだったからな……今日ぐらいちゃんと、自分に素直になっても良いかなって思ったんだ……」

 

 

なのは「…………………………………………え?」

 

 

状況がまだ飲み込めない。だがそんな事はお構いなしにと、青年は照れ臭さそうにそっぽを向きながら告げる。

 

 

零「――今まですまなかった、なのは……これからもずっと……俺と一緒にいてくれるか?」

 

 

なのは「え…………えっ…………へ…………?」

 

 

何処となく不器用な笑みを浮かべながらそう告げた零に、なのははただ言葉にもならない声を漏らして呆然と零を見上げていく。左手の薬指に嵌められた指輪を見て、青年を見上げて、今の言葉を脳裏で再生して何とか状況を飲み込もうとする。そして……

 

 

なのは「……ッ!!!!」

 

 

漸くその意味に気が付き、なのはは瞳から大粒の涙を流して口に手を当てながら静かに泣き出したのであった。

 

 

零「お、おい……なのは?どうした?」

 

 

なのは「っ…………ずるいよぉ…………こんなっ…………こんないきなりっ……………ぅ…………ひぐっ…………」

 

 

零「…?」

 

 

何故いきなりなのはが泣き出したのか。意味が分からないといったように小首を傾げる零だが、なのはは涙を流したまま零を見上げて告げる。

 

 

なのは「グズッ……一緒にっ……一緒にいますっ……これからもずっと……傍にいさせて下さいっ…!」

 

 

零「は?……あ、あぁ……よろしく頼む……?」

 

 

顔をあげて泣きながらそう告げたなのはに若干戸惑いがちに後退りしながら頷き返すと、なのはは再び泣き出しながら左手を大事そうに右手で包み込んでいく。

 

 

なのは(ッ……全然違ってたっ……零君は鈍感だって思ってたけどっ……相手の気持ちにはちゃんと気付けていたんだっ……ごめんね……本当にごめんなさいっ……)

 

 

先程まで不満を口にしていた自分に自己嫌悪しつつも、左手の薬指に嵌めた指輪を見つめながら、これからの人生を共に歩む彼のことをもっと理解していこうと泣きながら心に誓うなのはであった。そして零は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零(……………………………………えぇっと…………そんなに指輪が嬉しかったのか?流石指輪パワーだな……これなら俺が買っても良かったかもしれないが、まあなのはの機嫌も治ったみたいだし……良かった良かった……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全ッッッッッッッッッッッッッッ(中略)ッッッッッッッッ然関係ねぇこと考えてホッと一安心していたのであった。

 

 

 

とんでもない思い込みをしてしまったなのはと、ただのアクセサリーだと勘違いし何も知らないままなのはに指輪を贈ってしまった零。

 

 

 

そして後日、これが原因で彼がとんでない苦労をしてしまうハメになるとは……この時はまだ誰一人として気付いていなかった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

―光写真館―

 

 

 

それから翌日。メンバーがそれぞれ有意義な時間を過ごしている中、写真館の庭ではスバル、ティアナ、キャロの三人がボール遊びをしている姿があった。因みにエリオは優矢と共に昨日の釣りの続きとして昨日の川へと行っている。

 

 

スバル「――ねぇティア~、キャロ~、昨日のなのはさんってなんか変じゃなかったぁー?」

 

 

ティアナ「んー?何が……よっ!」

 

 

―トンッ!―

 

 

スバル「なんていうか……ずっと上の空みたいな感じだった気がするんだよね。夕飯の時もずっと上の空で、時たまに幸せそうに笑ってたりと……かっ!」

 

 

―トンッ!―

 

 

キャロ「あ、それ私も気になってました。何だか何時ものなのはさんらしくなかったから、具合でも悪いんじゃないかなってシャマル先生に相談してみたんですけ……どっ!」

 

 

―トンッ!―

 

 

スバル「シャマル先生、なのはさんのことでなんか言って……たっ?!」

 

 

―トンッ!―

 

 

キャロ「いえ、今朝なのはさんの健康診断をしてみたみたいなんですけど、身体には特別異常は見られなかって言ってました……よっ!」

 

 

―トンッ!―

 

 

ティアナ「ほら、やっぱり気のせいなんじゃないの?どうせまたアンタの見間違いだったと……かっ!」

 

 

―トンッ!―

 

 

スバル「うーん……でも確かにそう見えたんだけど……なっ!!」

 

 

―ドシュンッ!!―

 

 

ティアナ「あっ?!馬鹿!どこ打ってんのよ?!」

 

 

スバル「あ、ご、ゴメンっ?!」

 

 

会話に集中し過ぎたせいか、スバルは思った以上の力を込めてボールを打ち込んでしまいボールはそのままティアナの頭上を勢いよく飛び越えてしまった。そしてティアナの頭上を飛び越えてしまったボールは……

 

 

なのは「…………(ポ~」

 

 

キャロ「ッ?!な、なのはさん?!」

 

 

スバル・ティアナ『えぇっ?!』

 

 

猛スピードのボールはそのまま写真館の中に入ろうとしていたなのはに向かっていたのである。だがなのはは自分目掛けて跳んできているボールの存在にまだ気づいてはいない。

 

 

ティアナ「な、なのはさん危ない!!避けて!!」

 

 

なのは「…………………………………ふぇ?」

 

 

ティアナの必死な叫び声が届いたのか、ボーッとしていたなのはの表情がいつも通りに戻りスバル達の方へと振り向いた。だが、時は既に遅く……

 

 

 

 

―シュウゥ……ドガシャアァッ!!―

 

 

 

 

『あっ?!!』

 

 

 

 

ボールはそのまま止まる事なく、辺りに鈍い音を響かせながらなのはの顔面へと打ち込まれてしまったのであった。そしてボールはなのはの顔から剥がれるかのように地面へと落ちて何度かバウンドし、なのはは何も言わず顔を俯かせながらボールを拾い三人へと歩み寄っていく。

 

 

なのは「……スバル……ティアナ……キャロ……」

 

 

ティアナ「す、すすすすみません!!このバカがバカやったせいで!!ほ、ほら!!アンタも早く?!」

 

 

スバル「ひぃ?!ご、ごごごごごごめんなさい!!」

 

 

キャロ「す、すみませんでしたぁ!!」

 

 

ガタガタと全身を震わせながらなのはに向けて頭を下げていくスバル達。それを見たなのはは無言のまま何も言わず、ゆっくりと俯かせていた顔を上げて……

 

 

 

 

 

 

なのは「――――もぉー♪ダメだよぉ?ちゃんと周りを見てやらないと危ないでしょー♪」

 

 

『…………………………………………………は?』

 

 

…………目茶苦茶良い笑顔でそう告げたのであった。言われた本人である三人は耳を疑うかのように思わず頭を上げていくが、目の前にはやはり邪気のない目茶苦茶良い笑顔をしたなのはさんしかおらんかった…。

 

 

なのは「はい♪次からはちゃんと周りに気をつけて遊ばないとダメだよぉ?約束だからねぇ~♪バイバ~イ♪」

 

 

そんな呆然とするスバルにボールを返すと、なのはは上機嫌のままスキップしそうな勢いで歩き出し写真館の中へと戻っていったのであった。そしてなのはがいなくなった後、その場にはありえない生物を見たように固まる三人の少女の姿が残されていたとか……

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

一方その頃、写真館を出た優矢とエリオは昨日釣りをした川に向かおうと土手を歩いていた。因みに何故川に向かっているのかと聞かれたら、どっかのエセ怪盗に強引に向かわされたからである。

 

 

優矢「はぁ~まったくよ、なんで俺等がまた釣りをしに行かなきゃなんないんだっての」

 

 

エリオ「仕方ないですよ、どうせそう言ってもまた暇なんだろう?って言われるだけでしょうからっ」

 

 

優矢「チキショウ……次の世界で邪魔して来たら絶対一発ぶん殴ってやるぞあのエセ怪盗め……」

 

 

拳にグッと力を込めながらそんな事を誓っていると、いつの間にか目的地である川へと到着した。そうして川へと到着した二人は釣りの準備をしようと土手から川に下りようとするが……

 

 

エリオ「……あれ?」

 

 

優矢「ん?どうしたエリオ?」

 

 

エリオ「いえ、あそこに何か人がいるんですけど……あの人なんか様子が変じゃないですか?」

 

 

釣りの準備を始めようとしたエリオが何かを発見してその方へと指差し、優矢はそれを追ってエリオが指差す方を見つめていく。すると二人から少し離れた先に黒いスーツの男性が川を見つめて立っており、男性は何処か思い詰めた様な表情で服も靴も脱がずにそのまま川の中へと足を……

 

 

優矢「―――って待て待て待て待て待てぇ!!?早まるなぁお兄さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!?」

 

 

「…え?う、うわあぁ?!」

 

 

―バッシャアァンッ!!―

 

 

男性の様子と服を着たまま川に入るという行動で良からぬ事を想像してしまい、優矢は血相を変えて慌てて男性へと抱き着き二人はそのまま川の中へと落っこちてしまったのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

数十分後……

 

 

 

エリオ「……じゃあ、貴方はただ川の中に間違えて捨ててしまった物を探す為に?」

 

 

「そう……とても大事な物なんだ。それに余り時間も掛けられないから、直接川に入って探そうかと思ってね……」

 

 

優矢「な、なんだ……そういう事だったんスね�」

 

 

優矢が良からぬことを想像して止めに入ったこの男性……事情を聞いたところによると、どうやらある勘違いで大事な物をこの川に捨ててしまったというらしい。そしてその大事な物を探そうとして、川に入って直接それを探そうとしていたみたいだが……

 

 

エリオ「だけど、そんなに大事な物ならどうして川に捨ててしまったんですか?」

 

 

「……実は……僕には付き合い始めて四年になる女性がいてね……僕はその人にプロポーズしようと必死に働いて買った婚約指輪をこの間のお祭りで贈ろうとしたんだけど、彼女が見知らぬ男と仲よさげにお祭りを見て回ってる現場を見てしまって、裏切られたと思ったんだ。そして悲しみの余り、僕は指輪をこの川に捨ててしまった……けど、それは僕の勘違いだったんだ」

 

 

優矢「勘違い?」

 

 

「そう、どうやらその男は彼女のいとこだったらしいんだ……事実を知った僕は焦ったよ。彼女は僕がプロポーズしてくれるのを心待ちにしてるみたいなんだけど、肝心の指輪はこの川の中なんだ!だからもうどうしたらいいのか僕には分からなくて…!」

 

 

エリオ「……因みにですけど、その指輪ってどんな?」

 

 

「え?えっと……これぐらいの大きさのダイヤモンドをつけたエンゲージリングなんだけど……」

 

 

優矢「ダイヤモンド?……あっ?!」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

―光写真館―

 

 

 

零「……指輪?」

 

 

エリオ「はい、あの指輪、どうやらある人が間違えて川に捨ててしまったものみたいなんですよ」

 

 

優矢「確かあの指輪って、お前が持って帰った筈だよな?あれどうした?」

 

 

男性から事情を聞いた優矢とエリオは指輪に心当たりがあると一度釣りを中断して写真館へと戻り、零から昨日持って帰ってきた指輪の場所を聞き出していた。だが……

 

 

零「…あぁ、あの指輪ならもうなのはにあげてしまったぞ?」

 

 

エリオ「へ?…………あ、あげた?!」

 

 

優矢「なのはさんにあげたって……エンゲージリングをか?!」

 

 

零「えんげーじりんぐ?そういう名前の指輪なのか?アクセサリーにしてはなんか高そうだと思ったけど、やっぱりそこそこ根が張る指輪なのか?」

 

 

あの指輪をなのはにあげてしまった。更にエンゲージリングと聞いて首を傾げながら疑問げに言う零に優矢とエリオは全身から嫌な汗を流しまくり、まさかと思いながら口を開いた。

 

 

エリオ「あ、あの零さん?エンゲージリングってどういう物か分かってますか?」

 

 

零「む?…………ちょっと高そうなアクセサリー?」

 

 

優矢「んな訳あるか!!エンゲージの意味すら分かってないなんてお前マジでどんだけぇ?!」

 

 

エリオ「ま、まぁまぁ!ただあげたっていうだけならまだ焦る範囲じゃないですよ」

 

 

そう、ただ贈っただけだというなら事情を話して返してもらえばいいだけの話だ。それに零のこの様子ならエンゲージリングのちゃんとした渡し方も分かっていないだろうし、きっとそんなややこしい事にはならないだろう。だが……

 

 

優矢「ゼェ……ゼェ……と、とにかく……お前はただなのはさんに指輪を渡しただけなんだな?」

 

 

零「?あぁ渡したぞ。ちゃんと指に嵌めてな」

 

 

『…………………………………………………は?』

 

 

 

 

 

 

 

 

………………ユビニハメテワタシタ?

 

 

 

 

 

 

 

 

優矢「……………………………お、おい………お前、どの指にリングを嵌めたんだ?」

 

 

零「ん?どのって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「薬指に決まってるだろ?女性に指輪を贈る時には薬指に嵌めるのが常識だって聞いたぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優矢「……………………」

 

 

エリオ「…………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!!!!?』

 

 

 

 

何言ってんのこの人ぉ?!これでもかという様な絶叫をあげながら本気でそう思う二人だが、零は両耳を抑えながら怪訝そうな表情を浮かべて困惑していた。

 

 

零「な、なんだ一体?どうしたんだ?」

 

 

優矢「お前バカかぁ?!!なんでエンゲージリングの意味も分かってねぇくせにそこんところはちゃっかりしてるわけぇ?!!」

 

 

零「?何がだ?なんでそんな必死になってるんだ?」

 

 

エリオ「い、良いですか零さん?零さんがなのはさんに贈ったエンゲージリングっていうのは、婚約指輪って意味なんですよ?!」

 

 

零「婚約指輪って……あの男が女にプロポーズする時に贈る奴か?」

 

 

優矢「そうだよ!!だからお前は、知らず内になのはさんにプロポーズしちまったて事なんだぞ?!」

 

 

零「…………は?誰が…………誰に?」

 

 

優矢「だからぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優矢「お前が!!なのはさんに結婚を申し込んだってことになってんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「………………………………………………………………………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァッッッッ!!!!!!?」

 

 

 

 

 

 

写真館内に響いた二度目の絶叫。それは、とある青年がやっと自分の立場を理解したという意味の込められたものであった……

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―風麺―

 

 

 

 

零「どういう事か説明しろ海道ぉ!!!!」

 

 

大輝「ん?珍しくそっちから来たかと思えば……いきなり何の話だい?」

 

 

零「惚けるな!!昨日お前に教わった女性が喜ぶ指輪の嵌め方とかいうやつ!!最初から分かってて騙してたなぁ!!?」

 

 

写真館での絶叫から数十分後、あのあと暫く真っ白となって燃え尽きかけていた零は優矢達と共に写真館を飛び出し風麺へと殴り込みに来ていた。その理由はもちろん、昨日大輝に教わった指輪の嵌め方についてである。

 

 

大輝「まぁ、これでも俺はトレジャーハンターだからねぇ?あの指輪や宝石がどんなものなのかぐらい一目で分かったよ♪」

 

 

零「ふざけんな!!こっちはお前のせいでとんでもないことになってんだぞ?!どうにかしろ!!」

 

 

大輝「無理無理♪だいたいこうなったのは、君がちゃんと指輪や薬指の事を理解していなかったのが悪いんじゃないのかい?一応俺はこれぐらいの事は君でも分かってるんだと思ってダメ元で教えたのに……まさか君がこんな事も知らなかったなんて、流石の俺も予想外だったんだから」

 

 

零「うぐっ……?!」

 

 

大輝「だいたい指輪渡す前に、どうして桜川君辺りにちゃんと確かめてもらわなかったんだい?今まで散々俺に騙されてきたくせに、もしかしたら今回もって思わなかったのか?」

 

 

零「ぐっ……くっ……」

 

 

優矢「……完全に押されてるな……」

 

 

エリオ「ですね……」

 

 

確かに今回の件は大輝に騙されただけが重要でなく、婚約指輪と薬指の事について理解していなかった零にも責任はある。そのことを突き付けられた零は何も言い返す事が出来ずガクンと肩を落としてしまった。

 

 

エリオ「けど、本当にどうしましょう?なのはさん、完全に零さんにプロポーズされたって勘違いしてますよね?」

 

 

優矢「恐らくな……だけどあの人の事もあるし、此処はやっぱり事情を説明して素直に返してもらうしかないんじゃないか?」

 

 

零「無理だっ……アイツ、指輪を貰った時に泣いて喜んでたんだぞ?それなのにあれは間違いだったから返してくれ、なんて今さら言える訳ないだろうっ……」

 

 

大輝「やれやれ……着替えを見ただけでなく次は婚約破棄かい?君ってホントに最低だね?」

 

 

零「元を辿ればお前のせいだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

 

優矢「おおお落ち着けって?!とにかく今はどうやってなのはさんから指輪を取り返すか考えなきゃだろっ?!」

 

 

そう、今重要なのはどうやってなのはから指輪を取り戻すかという事だ。指輪は今もなのはの薬指に嵌められているだろうし、泣いて喜んでいたというなら事情を説明して落胆させるのも気が引ける。しかも相手もあのエースオブエースが相手なわけだから一筋縄ではいかないだろう。一番良いのはなのはが指輪を外した隙に指輪を取り返すという方法が最適なのだが、果たしてなのはが自分から指輪を外す機会があるのかどうか……

 

 

大輝「―――全く、君達はもう少し頭を使ったらどうだい?」

 

 

優矢「…?どういう意味だよ?」

 

 

大輝「指輪を取り戻す方法なんて幾らでもあるって事さ。彼女の近くにいる君達にしか出来ない方法が、ね」

 

 

零「…は?」

 

 

不敵な笑みを浮かべながらそう告げる大輝だが、そんな大輝の考えが読めない三人はただ頭上に疑問符を並べながら首を傾げていたのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―光写真館―

 

 

 

 

なのは「んー……掃除も終わりっと♪」

 

 

それから数十分後、今まで自室の掃除をしていたなのはは二階から一階へと続く階段を降りてリビングへと向かっていた。そしてリビングの扉を開ける前に左手の薬指に嵌めた指輪が視界に入ると、何やら幸せそうに笑いながら扉を開けてリビングへと入っていった。とその時……

 

 

優矢「あ、なのはさん!」

 

 

なのは「…あれ?優矢君?って、零君に大輝君にエリオも?」

 

 

零「……よぉ」

 

 

大輝「お邪魔してま~す」

 

 

エリオ「アハハ…」

 

 

なのはがリビングに入ると、其処にはリビングのテーブルに集まって席に座っている零達の姿があったのである。

 

 

優矢「丁度良かった、今なのはさんも呼びに行こうとしてたところなんですよ」

 

 

なのは「え?私?ていうかどうしたの皆で集まって?」

 

 

優矢「それはほら、コレですよコレ」

 

 

そう言いながら優矢がテーブルの上を指差すとなのははそれを追ってテーブルに目を向ける。するとそこにはテーブルの真ん中にズッシリと置かれたある物……おはぎの山が其処にあったのである。

 

 

なのは「わっ、これってもしかしておはぎ?」

 

 

優矢「えぇ、久しぶりに食べたくなって張り切って作ったんですけど、ちょっと作り過ぎちゃったんですよね」

 

 

なのは「え?これ優矢君が作ったの?!」

 

 

優矢「えぇまあ……あっ、なのはさんもどうですか?」

 

 

なのは「え、いいの?……えへへ、実は私もちょっとお腹空いてたんだよね」

 

 

優矢「あぁ、だったらどうぞ。沢山ありますから遠慮しないで下さい」

 

 

なのは「じゃ、じゃあ……有り難くいただきます」

 

 

そう言ってなのははおはぎに左手を伸ばしていくが、薬指に嵌められた指輪を見た途端ピタリと手を止めてしまった。そしてその様子を見た優矢は心の中で不敵な笑みを浮かべていく。

 

 

優矢(よし、やっぱ思った通りだ!なのはさんの利き手は左手!つまり指輪を嵌めてる手!いくら食べ物でも、貰ったばかりの指輪を汚すような真似は絶対出来ない筈だ!!)

 

 

なのは「…………」

 

 

これできっと指輪を外すはずだ!そう核心した優矢はゴクッと唾を呑みながらなのはの様子を伺い、零達も真剣な表情でなのはの顔を見つめる。そしてなのはは薬指の指輪をしばらくジッと見つめると……

 

 

なのは「――うん、やっぱりこっちで食べよう♪」

 

 

と、なのはは迷うことなくおはぎを手に取りおはぎを食べ始めたのであった……右手で。

 

 

エリオ(なっ?!)

 

 

優矢(し、しまったぁ!!?その手があったかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーっっ!!?)

 

 

零(あぁ……コイツ馬鹿だぁぁ………)

 

 

大輝(…っていうか、作戦考える前に気付くだろう、普通)

 

 

おはぎ作戦失敗。大輝を除いたメンバーがガクリと肩を落とす中、なのははそんな事に気付かず美味しそうにおはぎを食べていたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―光写真館・入浴場―

 

 

 

なのは「にゃ~癒される~♪」

 

 

おばきを食べ終えた後、なのはは掃除した時にかいた汗を流そうと風呂に入っていた。そしてなのはが風呂に入る中、浴室では……

 

 

優矢「――よし……今の内だな……いこう」

 

 

エリオ「うぅ……」

 

 

浴室の方では、なのはが風呂に入っている隙に優矢とエリオが忍び足で忍び込んできていた。そして二人は、なのはが脱いだ衣服が入ったカゴの前へと恐る恐る立っていく。

 

 

エリオ(ほ、ホントにやる気ですか?!)

 

 

優矢(しょーがないだろ!ジャンケンに負けちまったのは俺等だし、指輪を取り返すには今しかチャンスはないんだから!)

 

 

エリオ(で、でも……幾らなんでも女の人の服を漁るなんて……)

 

 

優矢(俺だって嫌だよ……というわけでエリオ、よろしく頼む)

 

 

エリオ(え、えぇ?!僕がやるんですか?!嫌ですよそんなの優矢さんがやって下さいよ!!)

 

 

優矢(大丈夫だって!俺がやったら犯罪になるけど、エリオがやるならまだギリギリOKだろ!というわけでがんばれ!)

 

 

エリオ(なにがというわけなんですか?!嫌ですよそんな犯罪に手を染めるような行為は!!)

 

 

優矢(だから大丈夫だって!これも大人の男になる為の道だと思えばなんの苦難にも……)

 

 

エリオ(そんな大人になるくらいなら僕は子供のままで良いです!!)

 

 

となのはが浴場にいるにも関わらず、なのはが脱いだ衣服の前でギャーギャーと騒ぎまくる優矢とエリオ。がそんな時……

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――何してるんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

優矢・エリオ『?!!』

 

 

 

 

背後から聞こえてきたドスの聞いた声。それを耳にした二人はビクッ!!と肩を震わせながらブリキ人形のようにギギギ、と首だけを動かして背後を見た。其処には……

 

 

 

 

 

 

 

ティアナ「――こんな所で……何してるんですか?」

 

 

スバル「アハハ……どうも~」

 

 

キャロ「……エリオ君」

 

 

優矢「ス、スバル?!ティアナ?!」

 

 

エリオ「キャ、キャロ?!」

 

 

其処には、冷ややかな目で二人を見つめるティアナとキャロ、そしてその二人の背後で苦笑を浮かべるスバルの姿があったのだった。因みにスバルの手には洗濯物などを入れる為に使われる大きめなカゴが握られており、おそらく三人は浴室に備え付けられた洗濯機に入った洗濯物を取りにきたのだろう。

 

 

ティアナ「……その手に持ってるの……確か今お風呂に入ってるなのはさんが脱いだ服ですよね?」

 

 

優矢「へ?……い、いやいやいやいや違うんだよ?!誤解だ!!これにはとても深い訳が?!」

 

 

キャロ「エリオ君っ……」

 

 

エリオ「ご、誤解しないでキャロ?!これは違うんだ!!僕達にもいろいろと訳があって?!」

 

 

ティアナ「……優矢さんはそんなことしない人だって思っていたのに……」

 

 

キャロ「信じてたのに……エリオ君の……エリオ君のっ……」

 

 

エリオ「キャ、キャロ?!」

 

 

優矢「いやいやいやいやいやいや先ず落ち着こう?!今すべき事は何故こんなことになってしまったのかをじっくり落ち着いてお話する事であって不毛な争いは止めて皆で手を取り合うのが一番だと思うのですがどうでしょうこの平和的解決策はダメですかダメですねごめんなさぁああああああああああああああああああああああああああああああい!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大輝「――遅いねぇ、あの二人?」

 

 

零「だな……出来れば無事に帰ってきて欲しいものだが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ドッガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァンッ!!!!―

 

 

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大輝「――無理だったようだね?」

 

 

零「………………………………………………」

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―光写真館・リビング―

 

 

 

なのは「すぅ……すぅ……」

 

 

入浴後、なのはは写真館のリビングに備え付けられているソファーで横になり、静かな寝息を立てながら眠っていた。そんななのはが眠るソファーへと歩み寄る人影が一つ……

 

 

零(――よし……良い感じに眠ってるな……この隙に指輪を…!)

 

 

人影……零は忍者のように身を屈めながらゆっくりとなのはが眠るソファーへと近づいていき、なのはが起きる様子がないことを確認すると早速指輪を外そうと試みるが……

 

 

なのは「……うにゃあ……うにゅぅ……」

 

 

零(なッ?!コイツ……何て面倒な態勢を…!?)

 

 

婚約指輪が嵌められた左手はもう片方の右手によって大事そうに包まれており、婚約指輪を外す事が出来ない状態になっていたのである。

 

 

なのは「……にゃはは……零くぅん……」

 

 

零(チィ!なんて幸せそうな顔して眠ってるんだ?!こっちは一刻を争うというのにっ……仕方ない……)

 

 

此処はやはり、なのはが起きないように慎重に右手を退かして指輪を外すしかないだろう。そう思いながら先ずは左手を覆い隠す右手から退かそうとなのはの右手に触れる零。しかし……

 

 

なのは「…………んー………………んん……?」

 

 

零(?!し、しまった?!)

 

 

なのはの右手に触れた瞬間、なんと静かな寝息を立てて眠っていたなのはがゆっくりと瞼を開けて目を覚ましてしまったのだ。それを見た零は慌ててなのはから離れ、なのはは眠たそうに目を擦りながら零の方へと視線を向けていく。

 

 

なのは「んうー……?」

 

 

零「……よ、よぉ……おはよう……なのはっ……」

 

 

なのは「んー……にゃあ~……零君だぁ~……」

 

 

零「…は?―ドサァッ!―ヌオォッ?!」

 

 

なのはは寝ぼけたまま上体を起こして零に抱き着き、零はいきなり抱き着かれたせいではバランスを崩してしまいなのはと共に床へと倒れ込んでしまった。

 

 

零「痛っ……おいコラ?!なんだいきなり?!」

 

 

なのは「にゃあ~……零君の匂いだぁ……」

 

 

零「聞こえてない?!というか、さっさと退け!重い!聞いてるのか?!おい!」

 

 

首に両腕を回して離れようとしないなのはをなんとか退かそうと試みるが、上にのしかかられてるせいか上手く逃れる事が出来ない。そしてジタバタと暴れる零に機嫌を悪くしたのか、なのはは寝ぼけたまま眉間に皺を寄せて零を睨みつけていく。

 

 

なのは「むぅ~……往生際が悪いよぉ零くぅん……」

 

 

零「クッ!いいからさっさと退け!いつまで夢の中にいるつもりだお前は?!」

 

 

なのは「ゆめぇ?……あ~そっかぁ~……これ夢なんだぁ~……じゃあ……」

 

 

―パチッ……パチッ……―

 

 

零「…………おう?」

 

 

そう言ってなのはは何処となく妖艶な笑みを浮かべると、なんと零に馬乗りしたまま胸元のボタンを外して胸元を露わにし出したのである。

 

 

零「……おいコラ……何のつもりだっ……?」

 

 

なのは「むふふ……夢の中ならぁ~……何しても良いよねぇ~……例えばぁ……現実じゃ恥ずかしくて出来ない事とかもぉ~……」

 

 

零「は?いや全く意味が分からな……というか何故服を脱ごうとしてる?!」

 

 

いきなり大胆な行動に出たなのはに流石の零も顔を引き攣らせて後退りしようとするが、生憎なのはに馬乗りされてるせいか動くことすら叶わない。そして胸元のボタンを外していたなのははトロンとした目で零を見つめながら頬に手を添えてきた。

 

 

なのは「えへへぇ……どうせ夫婦になるんだしぃ……今からでも……いいよねぇ……?」

 

 

零「何が?って何故俺の服まで脱がそうとしてる?!離せこの馬鹿ッ?!」

 

 

いつの間にか自分の胸元のボタンまで外され掛けている事に気づいた零は慌ててなのはを止めようと試みるが、未だ寝ぼけているのかなのはは零の服を脱がそうと夢中になって止まる気配がない。そうしてなのははゆっくりと身を乗り出し零に向けて顔を近づけてきた、その瞬間……

 

 

零「ッ!!このっ……いい加減に目を覚ませ馬鹿なのはぁッ!!」

 

 

―ガバァッ!!―

 

 

最早我慢の限界となった零は怒りの咆哮をあげながら馬乗りするなのはを押し倒し、なのはに覆いかぶさるような態勢になりながらなのはの両腕を押さえ込んだ。

 

 

零「いい加減大人しくしてろ!!こっちはただ指輪を返してくれればそれで……………なのは?」

 

 

両腕を押さえながらなのはに向けて叫んでいた零だが、何故かなのはからは何も返事が返ってこない。まさか、押し倒した時に頭でも打ったか?と心配になって様子を伺おうとなのはに顔を近づけると……

 

 

なのは「……すぅ……すぅ……すぅ……」

 

 

零「……………………………………………………」

 

 

……まぁーた呑気に寝てやがりましたよコイツ。静かな寝息を立てて再び眠りについたなのはに、零もドッと疲れが襲い掛かりガクリと肩を落としてしまった。

 

 

零「クソッ……余計な手間を取らせやがって……まあいい……とにかくこれで指輪を取り返せるな……」

 

 

なのはが眠った以上、これで安全に指輪を外すことが出来る。そう思いながら零はなのはの寝顔を見つめると左手の薬指に嵌められた指輪に触れた。が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――とにかくこれで、何を取り返せるんや?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「………………………………………………は?」

 

 

 

 

背後から聞こえてきた空気を斬り裂くような冷たい声……あれ?なのはは今目の前で眠ってるはずだろう?ならばこの声は誰の物だ?疑問げにそう思うが考えるより先に身体が勝手に背後へと振り向いてしまった。其処には……

 

 

 

 

 

 

 

 

はやて「……こんな真っ昼間から何しとんのや、零君?」

 

 

 

 

零「ッ?!は、はやて?!」

 

 

そう、背後に立っていたのはブリザードよりも冷たい目で零を睨みつけるはやてだったのだ。予想外の人物の登場に零も思わず驚きの声をあげてしまうが、はやては零が覆いかぶさっているなのはを見てピクッと眉を動かした。

 

 

はやて「……これは一体どーいう事なんかなぁ?キッチリ説明して欲しいんやけど?」

 

 

因みにはやての視点からは、零がなのはに覆いかぶさってる+熟睡中のなのはの胸元のボタンが外され谷間が露わになってる=眠っているなのはが零に寝込みを襲われそうになっている様に見えてしまっていた。

 

 

零「は?いや……その……こっちにも色々あるんですよ?なんというか死活問題というか俺の人生とかその他色々な物が掛かってるんですよこの行動に?!」

 

 

はやて「ほぉ……つまり、今すぐにでもなのはちゃんを襲わんと……零君の人生が大変な事になるっちゅうことやなぁ?」

 

 

零「お、おそ…?襲うって何だ?というかおもむろにシュベルトクロイツ(レプリカ)を構えるのは止めて頂けませんか?!」

 

 

はやて「あぁこっちの事は気にせんでええよ♪さぁ、なんでこないな事しようと思ったんか詳しく聞かせてもらおうかぁ……?」

 

 

トン、トンとシュベルトクロイツ(レプリカ)で手の平を叩きながらニッコリと微笑みかけるはやて。そんなはやてから生命の危機を感じ取った零はダラダラダラダラと大量の汗を流しながら思考する。

 

 

零(クッ!!まさかこんな伏兵が潜んでいようとは?!何故怒ってるのか知らんが何か、何かごまかさないとマズイぞ?!幸い指輪のことはまだ知られていないみたいだが……知られたら本気でこの世とオサラバするハメになりそうだと思うのは俺の気のせいか?)

 

 

いや今重要なのはそんな事じゃない!この状況をどうやって切り抜けるかって事だ!何か場を和ませるような、何かアメリカンジョーク的なもので…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

零「―――その……あれだ……そう!実は最近なのはが『もうちょっと胸が大きくならないかなぁ?』って悩んでるようだったからコイツが寝ている間に揉んで大きくしてやろうとしてただけとですよ!起きた時には胸が大きくなってて本人もビックリ仰天、俺も昇天!なーんて……」

 

 

はやて「………………………………………………」

 

 

零「なーん……あれ?……な、なーんて……な……」

 

 

はやて「………………………………………………………………………………」

 

 

零「なーん……なっ……なん……なっ……なっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優矢「―――零の奴、まだ手こずってんのか?」

 

 

大輝「さぁ?ま、余り期待しない方がいいんじゃない?」

 

 

優矢「だ、大丈夫だって!指輪を取りに行くぐらいアイツにだって――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『判決!!死刑!!』

 

 

『なぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!?』

 

 

―ドグォオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優矢「…………………………………………」

 

 

大輝「ほら、だから言っただろう?期待するだけ無駄だって♪」

 

 

エリオ「キャロォ……キャロォォォォ……」

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―――数時間後……

 

 

 

―アホー、アホー……―

 

 

『………………』

 

 

時刻は夕方。あれから様々な作戦を用いてなのはから指輪を取り戻そうとした零達であったが、結局は全敗。成す術を失ってしまった零達は心身ボロボロになりながら、川が流れる土手で体育座りをして夕日を眺めていた。(ちなみにティアナ達に関しては作戦途中で何とか誤解を解き、その後の作戦でフォローに回ってもらっていた)

 

 

零「……あれもダメ……これもダメ……考えつく手段は全部試してみたが……」

 

 

エリオ「全部失敗……でしたね……」

 

 

大輝「やれやれ。作戦事態は悪くなかったのに、君達は本当に鈍臭いねぇ?っていうか使えないね?」

 

 

優矢「アンタは結局なにもしてなかったじゃねぇかよ?!」

 

 

結局、今回の作戦に一度も参加してなかったのにやれやれといった感じに溜め息を吐く大輝に食ってかかる優矢だが、何かそんなことを叫ぶのも虚しく感じ再び体育座りをしていく。

 

 

大輝「あーあ……こうなった以上、もうなのはさんに直接土下座して指輪を返してもらうしかないんじゃない?」

 

 

エリオ「で、でも……今回は流石に素直に謝っただけで許してもらえるかどうか……」

 

 

優矢「だよな……ぶっちゃけ命すら危う気がするし……」

 

 

零「…………フッ…………フフッ…………年貢の納め時が遂に来たって訳か…………思えば、俺も良く此処まで生きられたよなぁ…………」

 

 

優矢「こっちはもう諦めモードに突入してる?!」

 

 

既に自分の死期を悟ったのか、虚ろな瞳で呆然と夕日を眺める零。そんな青年に掛けるべき言葉が見つからず、優矢達はただ哀れみの目を零に向けることしか出来なかった。そんな時……

 

 

 

 

「あ、あのぉ……」

 

 

零「……む…?」

 

 

優矢「…あ、アンタは?」

 

 

黄昏れてた四人(正確には三人)の背後から誰かが声を掛け、四人が振り向くと其処には一人の男性………昼間に優矢とエリオが会った指輪の持ち主である男性が立っていたのだ。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

優矢「――別れる?!」

 

 

「あぁ……指輪が見つからない以上、そうするしかないと思ってね……」

 

 

エリオ「そ、そんな……」

 

 

思い詰めたような表情を浮かべながら男性がそう言うと、優矢とエリオは表情を曇らせ顔を俯かせてしまう。どうやらこの男性は指輪を無くしたことをすっかりへこんでしまい、彼女へのプロポーズを諦め別れようと思っているらしい。

 

 

優矢「だ、だけど、指輪を無くしたからって別に別れなくても…!」

 

 

「……あの指輪は……以前彼女が僕にプロポーズされる時に贈られたいと言ってくれたものなんだ……そんな高価な物ではないけど、アレには彼女を思う僕の気持ちが込められているんだ……勘違いだったとはいえ、それを無くしてしまった僕に彼女と一緒になる資格なんてないよ……」

 

 

零「……指輪に込められた……思い……」

 

 

「そういう事で悪いけど、ごめんね……僕の為に関係ない君達まで巻き込んでしまって……それじゃあ…」

 

 

エリオ「あっ……」

 

 

男性はそれだけ言うと四人に背中を向けて歩き出し、そのまま何処かへと去ろうとする。だが……

 

 

 

 

―ガシッ!―

 

 

「……え?」

 

 

零「………………」

 

 

何処かへ去ろうとした男性の手を零が後ろから掴み、男性を引き止めたのである。

 

 

「君…?」

 

 

零「……アンタがそんな事する必要はない……俺に任せろ……」

 

 

優矢「ま、任せろって……お前まさか?!」

 

 

零が何を言ってるのか気付いた優矢は思わず身を乗り出して叫ぶが、零は何も言わないまま男性の横を通りすぎ何処かへと向かおうとする。

 

 

エリオ「れ、零さん?何処に行くんですか?!」

 

 

零「……今回の件は、俺の勘違いのせいで招いたことだ……だから受けるべき罰は……俺一人で受ける」

 

 

優矢「そ、そんな……お前死ぬ気か?!」

 

 

零「……すまない……巻き込んだ本人である俺が言えたことじゃないが……骨は拾ってくれ……」

 

 

大輝「はいは~い、安心して逝ってらっしゃ~い♪」

 

 

優矢「いや縁起でもない事言うなよつかアンタはもうちょっと自重しろぉ!!」

 

 

零が死亡フラグ立たせまくりな振る舞いを見せているにも関わらず何時も通りの笑みで見送る大輝に優矢が食ってかかるが、零はそれに構わず写真館へと戻っていった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―光写真館―

 

 

 

―ガチャッ―

 

 

なのは「――あ、おかえり零君♪」

 

 

零「……あ、あぁ……」

 

 

写真館に戻ってきた零を迎えたのは、私幸せです♪的な満面の笑顔を浮かべながら夕食の準備をするなのはの姿だった。そんななのはの姿に思わず決意が揺らいでしまうが、頬を叩いて気持ちを切り替え、テーブルに皿を並べるなのはにゆっくりと近づいていく。

 

 

零「……なのは……ちょっといいか……?」

 

 

なのは「んー?なぁにー?」

 

 

零「いや……その……実はな……」

 

 

なのは「…あ、でもその前にちょっと待って?」

 

 

どう説明するかと言い淀む零にそう言うと、なのはは零へと駆け寄ってスカートのポケットからハンカチを取り出し、零の口端に出来た怪我(はやてのOHANASHIで出来た怪我)に優しく当てていく。

 

 

なのは「もう、またこんな怪我出来てるのに放っておいて……菌が入って悪化でもしたらどうするの?」

 

 

零「あ……あぁ……その、ちょっと色々立て込んでたから治療する時間がなくてな(主にどうやって指輪を取り返そうという作戦会議などで)だから目立つ物にしか包帯が巻けなくて……」

 

 

なのは「だからって放置していい訳じゃないでしょ?ホントにそういうところは横着なんだから……」

 

 

零「…………すまん……」

 

 

なのは「………でも、これからは私がそういうところも含めて支えなきゃだよね……その……ふ、夫婦になるんだし……//」

 

 

零「は?あ、いや……それは……」

 

 

なのは「…もうほら!早く夕食の準備手伝って!ヴィヴィオ達が帰ってくる前に終わせなきゃ…!」

 

 

自分で言ってて恥ずかしくなったのか、なのはは顔を赤くしながらグイーッと零にハンカチを押し付けて夕食の準備を再開していく。そしてハンカチを押し付けられた零はそんななのはの背中を呆然と見つめながら額から嫌な汗を流していく。

 

 

零(ッ!何故今日に限ってこんな気持ち悪いぐらい優しいんだっ……余計に言いにくいっ……いや……駄目だ……このままだと他人の人生を壊す事になるし……それにホントになのはの事を思っているなら……事実を伝えなければ……!)

 

 

押し付けられたハンカチを握り締めながら刹那にそう思う零。そして……

 

 

零「――なのはっ……」

 

 

なのは「ん?何ー?」

 

 

零「……そのっ……ッ……本当にすまない!!!」

 

 

死を決意し、地べたに両腕を付けて全力で頭を下げたのであった。

 

 

なのは「へ?え?ど、どうしたのいきなり?」

 

 

零「いや……その……実は……実はなっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優矢「――一応様子見に来たけど、アイツ大丈夫かな?」

 

 

大輝「とかなんとか言っておきながら、全然中に入ろうとしないじゃないか?」

 

 

優矢「今回は程度が予想出来ないから入るのが怖いんだよ!仕方ないだろ?!」

 

 

エリオ「だ、だけど写真館はまだ無事みたいですし、事情が事情ですからなのはさんだってきっと―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『バカバカバカバカ!!!零君のバカァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!』

 

 

―ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァ!!!!!!ドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドグォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!―

 

 

『うぐぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?』

 

 

『全力全開!!!!!スタアァァァァライトオォォォォォォォォ!!!!!』

 

 

『ちょ……まっ……』

 

 

『ブレイカァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!』

 

 

『ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!?』

 

 

―ドッガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!!!!!!!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優矢「………………」

 

 

エリオ「……………」

 

 

大輝「………………」

 

 

優矢「……エリオ……黙祷しよう……」

 

 

エリオ「……はい……」

 

 

大輝「零、君のことは忘れないよ……三秒ぐらい」

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

それから数十分後……

 

 

 

―――結論から言えばあの後、何故か酒や食材を差し入れに来てくれたクラウンが仲裁してくれたお陰で指輪は取り返すことができ、例の落とし主はプロポーズに成功した。指輪を貰った女性も涙を流しながら喜び、あの二人は見事ハッピーエンドを迎えることが出来た

 

………………一人の青年の犠牲もあって。

 

 

 

 

 

 

 

零「ッ……ゼェ……ゼェ……ゼェ……なんとかっ……今日も生きながらえる事が出来たっ……」

 

 

優矢「だな……てかホントに良くあれで生きていられたよな?お前首でも斬り落とさなきゃ死なねぇんじゃの?」

 

 

エリオ「アハハハ…でも良かったですね、あの人もプロポーズが成功して、零さんも何とか無事で……」

 

 

零「……正直、今にも意識を失いそうだけどな……それにまだなのはのことが終わっていないし……」

 

 

時刻は夜。あの男性のプロポーズを影で見届けた後、零と優矢とエリオの三人は写真館への帰路を歩いていた。因みに現在の零は全身の至る所に何重にも包帯を巻き、トンファーのように現代的な杖(クラウン持参)を右手についてフラフラと覚束ない足取りで街中を歩いている。

 

 

優矢「因みに、なのはさんは今どうしてるって?」

 

 

零「……やけ酒ならぬやけ食いをしているようだ……さっきオットーからSOSが来たぞ……」

 

 

エリオ「うわぁ……今回は相当頭にキてるみたいですね……」

 

 

優矢「まあプロポーズされたかと思えば実は勘違いだった、なんて言われたら当然だよな……糠喜びも良いとこだし」

 

 

零「……もういろんな意味で覚悟は出来るがな……後はもうなるようになるしか………………ん?」

 

 

帰った後の事を考えて気が滅入っていた零だが、ある店の前にまでやって来て足を止め店をジッと見つめていく。

 

 

優矢「……ん?どうした、零?」

 

 

零「…………」

 

 

足を止めて立ち止まった零に優矢が小首を傾げながら聞いてくるが、零はそれに答えず、代わりにポケットから先程なのはに押し付けられたハンカチを取り出しそれを眺めていく。

 

 

零「……悪い……ちょっと此処で待っててくれ」

 

 

エリオ「え?ちょ、零さん?!」

 

 

零は二人にそう言うとハンカチをポケットに仕舞い、そのまま二人の返答も待たずに店の中へと入っていったのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―光写真館・リビング―

 

 

 

 

なのは「おかわり!」

 

 

オットー「あ、あの……もうその辺にした方がいいんじゃ」

 

 

ディード「もう十人前はおかわりしてますし……」

 

 

なのは「おかわり!!」

 

 

そしてその頃、写真館ではなのはがテーブルに並んだ料理(昨日川で釣ってきた魚やクラウンが持ってきた食材も含まれてる)をやけ食いしていた。数十枚も重ねられた皿を見て、流石にもう止めた方がいいかもと思いなのはに説得を試みるオットーとディードだが、なのはから発せられるただらぬ覇気に押されて説得も失敗に終わっていた。

 

 

セイン「ありゃ~……相当お冠みたいだよ、アレ……」

 

 

ウェンディ「まぁーた零がニブチン発言でもして怒らせたんスかねぇ?」

 

 

チンク「可能性としては一番高そうだが……いつもと比べたらあれは少し異常だな……?」

 

 

部屋の外から室内の様子を覗いていたセインとウェンディはやけ食いするなのはを見て顔を引き攣り、チンクは何処か何時もと怒り方が違うと疑問に思い小首を傾げている。そんな時……

 

 

優矢「たっだいまぁ~」

 

 

零「…………」

 

 

セイン「あっ、零!優矢!エリオ!」

 

 

出掛けていた零達が玄関を開いて中へと入っていき、それを見たチンク達は駆け足で三人の下へと近づいていく。

 

 

セイン「遅いよ三人共!今まで何処に行ってたのさ?!」

 

 

優矢「悪い悪い、ちょっと野暮用があって遅くなっちまったっ」

 

 

エリオ「えっと……それで、なのはさんは今どうしてます?」

 

 

ウェンディ「あー……なんというか……かーなーりお怒りッスね……」

 

 

チンク「黒月、また何かしたのか?あの怒り方は何時もと少し違うように見えるのだが……」

 

 

零「……まぁそんなところだ……とにかく、なのはは今奥にいるんだろう?」

 

 

セイン「え?あ、うん」

 

 

零「そうか……なら、お前等は部屋に戻ってろ……」

 

 

優矢「は?お、おい、零?」

 

 

零はチンク達に部屋に戻るように伝えると、そのままチンク達の間を通り抜けてリビングへと向かっていく。

 

 

―ガチャッ―

 

 

オットー「……あ、零」

 

 

なのは「……む」

 

 

零「…………」

 

 

部屋の中へと入ってきた零を見てやけ食いをしていたなのはは不機嫌そうに眉を寄せながらそっぽを向き、零はそんななのはに溜め息を吐くとオットーとディードに部屋を出るようにアイコンタクトを送り、二人はそれを見てそそくさと部屋の外へと出ていった。

 

 

零「……なのは……」

 

 

なのは「……今度はなに?私は何も話す事なんてないよ」

 

 

零「…………」

 

 

やっぱり不機嫌だ、と想像通りの反応を見せるなのはに零もバツが悪そうに顔を逸らし、一度溜め息を吐くとなのはに向けて頭を下げた。

 

 

零「……すまなかった……今回の件は本当に俺のせいだ……俺のせいで、お前に嫌な思いをさせてしまったようだ……本当に……すまない……」

 

 

なのは「…………」

 

 

なのははそっぽを向いたまま何も答えない。だが、零はそれでも頭を下げたまま続ける。

 

 

零「知らなかったとはいえ、今回は完全に俺に責任がある……言い訳はしない。だが一つだけ信じて欲しい……アレをお前に贈ったのは、お前を喜ばせたかったからなんだ……」

 

 

なのは「…………」

 

 

零「許してくれとはいない……ただそれだけは信じて欲しい……お前を喜ばせたいという気持ちに嘘偽りはなかった……だが結局は、お前に嫌な思いをさせてしまっただけだった……本当に……すまなかった……」

 

 

そう言って零は深々と頭を下げ続ける。今回の件は、謝って済む問題ではないと分かってる。女性にとってプロポーズや結婚などがどれだけ重要な物かぐらいこんな自分でも知っている。それを自分の勘違いのせいで、なのはの人生初のプロポーズを勘違いという嫌な思いをさせて終わらせてしまった。あれだけの制裁を受けて死ぬ思いをしても、なのはからしてみればまだまだ足りないぐらいだろう。だから謝り続ける。例え一生許されなかったとしても、それだけの事を自分はしてしまったのだから仕方ない。しかし……

 

 

なのは「………………もういいよ」

 

 

零「…………は?」

 

 

返ってきたのは、予想とは違う言葉だった。それを耳にした零が思わず顔をあげると、其処には仕方ないといった感じに溜め息を吐くなのはの顔が目に映った。

 

 

なのは「……よくよく考えてみれば、零君が何の前触れもなく婚約指輪なんか渡す筈ないもんね……大方、また大輝君にでも騙されたんでしょ?」

 

 

零「なっ……なんで分かった?」

 

 

なのは「ただの勘。何年も一緒にいれば、そういうのはちょっと考えれば予想は付くもん……まぁさっきのは勘違いだったって言われたのより……そんな一般的な流儀も分からないまま、指輪を贈ってきたんだっていう事実にムカッて来ちゃったんだよね。私なんか、精一杯の決心を込めて一緒になるって言ったのに……言ってきた本人は全然違うこと思ってたんだもん」

 

 

零「……すまない……そういう事に関してはまったくの勉強不足だった……本当にすまない……」

 

 

なのは「だからもういいよ……寧ろ、一人浮かれて変な期待してた私の方が悪いんだし」

 

 

だからもう気にしないで、と自嘲するように笑い掛けるなのは。そんななのはの姿に零も内心胸を痛めるが、なのははそれに気付かず席を立っていく。

 

 

なのは「さてと……じゃあこの話はもうおしまいね?なんか私のせいで他の皆も部屋に入れなかったみたいだし……私、ちょっと皆を呼んでくるね?」

 

 

もうこの話題には触れないでおこうと、なのはは笑いながら零の横を通りすぎ、自室で休んでると思われる他のメンバーを呼びにいくためリビングから出ようとする。が……

 

 

―パシッ―

 

 

なのは「へ?……零君?」

 

 

零「…………」

 

 

リビングから出ていこうとしたなのはの手を零が後ろから掴み、それを引き止めたのだ。なのはは怪訝そうに小首を傾げながら掴まれた手と零を交互に見つめるが、零はその視線から逃れるようにそっぽ向けながらポケットから包みのような物を取り出し、それを無言のままなのはの手に押し付けた。

 

 

なのは「?なに、コレ?」

 

 

零「…………開けてみれば分かる……………」

 

 

なのは「…?」

 

 

たった一言だけ告げてそれ以上の事は何も教えてくれない零。そんな零に疑問符を浮かべつつ、なのはは手渡された包みを開けて中身を取り出していく。

 

 

なのは「……これ……」

 

 

包みの中から出て来たのは箱に入ったアクセサリー、桜の花びらを形取った指輪だったのである。それを見たなのはは思わず零の顔を見上げるが、零はそっぽを向いたまま淡々と語る。

 

 

零「……此処に帰ってくる途中で買った……あの指輪に比べたら安い物だが……一応お前に似合うと思った物を選んでみた……気に入らないなら他の奴にやるか捨てればいい……」

 

 

なのは「あ、ううん、別に気に入らないなんて言ってないけど……なんで急にこんなもの?」

 

 

零「……別にそんな他意はない。ただアレは俺が選んで買ったものじゃないし、指輪のデザインだって正直お前に似合っていなかった……それに……」

 

 

なのは「…?それに?」

 

 

此処に来て初めて口ごもる零になのはが疑問げに聞き返すと、零は何やら言いにくそうに頬を掻きながら目を伏せて告げる。

 

 

零「……アレを贈った本人の俺に言えた事じゃないが……他の男が選んで買った物を付けて嬉しいと言われても……あまり嬉しくないというか……寧ろ面白くない……」

 

 

なのは「……え?えっと、それってどういう……」

 

 

零「…だってそうだろう?幼い頃からお前と一緒にいたが……あんな嬉しそうな顔……今まで見せてくれたことなかったし……させてやることも出来なかった……俺は一度も……」

 

 

なのは「……あ」

 

 

其処まで言われて漸く気が付いた。要は嫉妬してるのだ、彼は。

別にそれは恋愛感情的な物ではなく、恐らく『今まで親友と思っていた友達が、自分と遊ぶより他の友達と遊んでいる時の方が楽しそうに見えた』的なものなのだろう。

会ったこともない他の人が選んで買ったアクセサリーを貰ってこれ以上にないくらい嬉しそうだった、という風に彼は見えていたようだが、どうやら彼から指輪を貰ってプロポーズされたことにこれ以上にないくらい幸せそうに笑っていた、という風には解釈していなかったらしい。

 

 

なのは(はぁ……此処まで自分でも分かりやすい反応してるのに……どうして気付いてくれないのかなぁ……)

 

 

零「…?どうした?」

 

 

なのは「別に……ただ零君がどれだけ鈍いのか改めて再確認されただけだから……」

 

 

零「は…?」

 

 

やっぱり気付いてないようだ。疑問の声を漏らす零になのはは思わず深い溜め息を吐いてしまうが、それでも口元が緩んでしまうのは嬉しいと思うせいだろう。いつもは彼に嫉妬『する』方の自分が、嫉妬『される』方になれたのだから。

 

 

なのは(ちょっと自惚れって思われるかな?……でもたまにはいいよね、こういうのも)

 

 

そう思いながら貰った指輪を見てクスッと微笑みを浮かべるなのは。その一方で零は……

 

 

零(……何故溜め息吐いたと思ったらまた笑い出す?やっぱり指輪はまずかった?だが手持ちの所持金じゃコレが限界だったし……やはり他のを選ぶべきだったか……?)

 

 

やはり指輪をチョイスしたのは間違いだったか?と内心かなり不安になっていたのであった。そしてそんな心配をする零を他所になのはは暫く指輪を眺めていると、零に指輪を差し出してきた。

 

 

零「ッ!なんだ?やっぱり気に入らなかったか…?」

 

 

なのは「ううん、そうじゃなくて……昨日みたいに、零君の方から嵌めてくれない?」

 

 

零「は?何故だ…?」

 

 

なのは「いいから!はい!」

 

 

零「……何なんだ一体…」

 

 

意味が分からないと溜め息を吐きつつも、取りあえず言われた通りにしようとなのはの手から指輪を受け取り、左手の中指へと指輪を嵌めていく。思いの外、指輪はなのはの指にピッタリと嵌まった。

 

 

なのは「あれ……サイズが合ってる?」

 

 

零「当たり前だろう?何年一緒にいると思ってるんだ…お前の指のサイズぐらいちゃんと分かってる」

 

 

なのは「……そっか……知ってたんだ……ふふ」

 

 

零「…?何笑ってるんだ?」

 

 

なのは「……ううん、なんでもない♪」

 

 

零「?可笑しな奴だな…」

 

 

何故嬉しそうに笑ってるのかと、意味が分からず怪訝な顔を浮かべてしまう零。なのははそんな零に今度は苦笑を浮かべつつも、指に嵌めてもらった指輪を眺めていく。

 

 

なのは(まぁ、まだ当分の間はコレでいいかな……)

 

 

本物を貰える日が何時来るのかは分からないが、取りあえず今はこのままでいいだろうと、今度こそ彼から贈ってもらった指輪をジッと眺めながらそう思うなのはであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―オマケ―

 

 

 

それから翌日……

 

 

はやて「―――さぁて……じっくりお話を聞かせてもらおうか、零君?」

 

 

零「……いやあの……取りあえず聞きたいのだが……何故俺は朝っぱらから全身を縛られながら正座させられてるんだろうか?」

 

 

フェイト「何故?そんなの……コレを見たら直ぐに分かると思うよ?」

 

 

零「……コレ?」

 

 

縄で縛り上げられた零が疑問げにそう聞き返すと、フェイトは何処からか一枚のカードを取り出して開き、それを零へと見せていく。それは……

 

 

『黒月零様・高町なのは様、ご結婚おめでとうございまぁ~す♪ ルミナより』

 

 

…とお祝いの言葉が書かれたメッセージカードだったのである。

 

 

零「あのバカ女なにをしてるんだ?!というかなんだそのカード?!」

 

 

はやて「今朝ルミナさんが花束を持って届けに来てくれたんよ。『結婚式って言えば豪勢な料理がたくさん並ぶんですよね?!絶対に呼んで下さいよぉ~♪』って言って……」

 

 

フェイト「どういう事なのかな?零となのはが"結婚"って……」

 

 

零「い、いや待て……先ずは落ち着いて話し合おう?これにはイロイロと事情というモノがっ…!」

 

 

はやて「事情?なんでいきなり幼なじみから夫婦へとランクアップしたかっていう事情か?」

 

 

零「そういう訳じゃない!えっと……そうだ!海道に聞けばいい!アレはきっとアイツがいつもの悪ふざけで送ってきた刺客に違いない!」

 

 

フェイト「私達もそう思ってさっき確認したよ?でも『ルミナ君なら朝一に出ていったまま帰って来ないけど?…何処に?さぁ?彼女が前触れなくいなくなるのは珍しいことじゃないし、その内帰ってくるじゃない?』って、全然知らなかったみたいだけど?」

 

 

零「……………………………………………………」

 

 

はやて「黙秘するっちゅうことは……認めたと取ってもええんやな?」

 

 

零「いやいや違う!これは本当に違う!な、ならアレだ!なのはに聞けばいい!きっとアイツも違うと証言して…!」

 

 

フェイト「なのはなら今朝優矢達と一緒に出掛けたからいないよ、釣りに行ったんだって」

 

 

零「コンチキショオォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!」

 

 

はやて「さて……そろそろ覚悟は決まったか?」

 

 

零「い、いや待て落ち着け?!良く見ろこの状態を!こんなケチョンケチョンな状態で今コロコロされたら流石の俺でも死んでしまう?!!というか耐え切れるモノか?!!」

 

 

フェイト「大丈夫大丈夫♪そうならないように間を挟んでシャマルが治療してくれるから♪」

 

 

零「あ、そうなのか?なら大丈夫……いや大丈夫でもなんでもない?!というか間を挟む?!それはつまりコロコロが連続で続くって訳か?!無理だ耐えられない本気で死ぬ?!」

 

 

はやて「大丈夫大丈夫♪加減はちゃ~んとするから……でもちょっと加減間違えたらゴメンなぁ?」

 

 

零「加減する気ぜんっぜんないだろ明らかに?!」

 

 

それぞれのデバイス(レプリカ)を撫でるはやて達に向けて必死に叫び続ける零だが、はやて達は聞く耳を持たないといった感じにデバイス(レプリカ)を構えながら徐々に迫ってくる。

 

 

零(クッ!仕方ないっ……こうなったらカブトかキャンセラーに変身して逃げるしか……って、バックルとカードがない?!)

 

 

クロックアップかタイムクイックを使って逃亡を謀る零だが、ポケットに入れておいたディケイドライバーとライドブッカーがいつの間にかなくなってることに気付き慌てて辺りを見渡していく。すると、はやてとフェイトの背後に目的の物を持ったある人物の姿が目に入った。

 

 

すずか「ふふ♪零君が探してる物って……これ?」

 

 

零「バックルとカード?!いつの間にというか何故お前が持ってるすずか?!」

 

 

すずか「零君のことだからコレを使って逃げるんじゃないかなぁって思って、縄で縛る時にさりげなく没収しておいたの♪それに私にもなのはちゃんとの婚約について…………じっくり、ゆっくり、聞かせて欲しいなぁ♪」

 

 

零「なんかすずかが恐い?!」

 

 

はやて「さぁ……零君?」

 

 

フェイト「覚悟は……出来た?」

 

 

零「い、いいいや待て?!もう少し待て?!というか落ち着いて聞いて欲しい!確かに俺は婚約指輪をなのはに渡したしプロポーズっぽい事も言ったぞ?!だがそれはぐぁああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ?!!!」

 

 

 

 

…最後まで言い切る前に、はやて達は一斉にデバイス(レプリカ)を構えて零へと勢いよく飛び掛かっていったのだった。

 

 

 

因みにこの後、零は回復→GYAKUSATSU→回復→GYAKUSATSU→回復→GYAKUSATSU→回復→GYAKUSATSU→回復→GYAKUSATSU→GYAKUSATSU→GYAKUSATSU→GYAKUSATSU→GYAKUSATSU→GYAKUSATSU→GYAKUSATSU→GYAKUSATSU→GYAKUSATSU→GYAKUSATSU→ULTIMATE GYAKUSATSUをエンドレスに繰り返され、いつも以上にボロボロになった零が写真館でぶっ倒れていたのを確認されたとか。

 

 

因みに本人曰く『あと一歩で川の向こう岸へと完全に渡り切るところだった…』らしい

 

 

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