仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT   作:風人Ⅱ

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第三章/キバの世界②

 

十分後。情報収集の為にスバルとティアナと二手に別れ、ディケイダーに乗って市内の繁華街に訪れた零となのは。

 

 

バイクで走行しながら二人が周囲を見渡すと、街のあちこちでは人間とファンガイアが実際に仲睦まじく共に暮らす光景が多く見られた。

 

 

なのは「凄いね……本当に人間とファンガイアが共存してる……」

 

 

零「らしいな。だが、二つの種族が平和に共存してるこの世界で何をしろっていうんだ……」

 

 

クウガの世界でならグロンギという分かりやすい倒すべき存在がいたが、ファンガイアが人間と共存しているのなら敵対する存在もなく、自分達がこの世界で果たすべき役目が分からず溜め息を漏らしてしまう零だが、その時……

 

 

―……ギギィッ……ギギギギィッ……ギギギィッ……!―

 

 

なのは「……え?」

 

 

バイクを走らせる中、不意に何処からともなくバイオリンのような音が聞こえてきた。しかし、その音は音楽と呼ぶにはあまりにも酷く不気味であり、なのはは薄気味悪さを感じて顔を引き攣らせながら零の肩を叩く。

 

 

なのは「ね、ねえ零君っ、この音って……」

 

 

零「……まさかファンガイア以外にも敵が?いや、だとしても──」

 

 

何度も肩を叩いて呼び掛けるも、零はこの世界での使命や戦うべき存在について考え込んでなのはの声も奇妙な音も聞こえておらず、無視する零になのはは頬を膨らませ……

 

 

なのは「もうっ……零君ってばぁッ!!」

 

 

―バゴンッ!―

 

 

零「痛ったァッ?!うぉおおおおおお危ねぇええええええええええーーーーーーーっっ!!!!?」

 

 

―キキキキィイイイイィィィィィィーーーーーーーッ!!―

 

 

怒ったなのはが自分の持っていたバイオリンケースで零の頭を後ろから小突き、いきなり不意を突かれて殴られたせいで零も手元が狂って危うく道端の電柱に激突しそうになり、蛇行しながらも何とか態勢を立て直しマシンを停車させた。

 

 

零「お、おまっ!いきなり何しでかしてくれてんだこの野郎ォッ?!遂に本気で俺を殺りに来たのかァッ?!」

 

 

なのは「零君が無視するからだよッ!……ってそうじゃなくて、何か変な音が聞こえて来ない?」

 

 

零「音っ……?」

 

 

危うく事故り掛けて泣きそうになりながら頭を抑えて抗議する零だが、なのはにそう言われて漸く不気味なバイオリンの音に気付き、険しげに眉を顰めていく。

 

 

零「随分と個性的な音楽だな……音は……あっちからか……よし、行ってみるか」

 

 

なのは「えっ?あ、うん」

 

 

奇妙な音の正体が気になった零は再びディケイダーを走らせ、なのはと共にその音が聞こえてくる住宅街の方へと向かっていった。

 

 

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 

 

一方その頃、零達とは別行動で街に着いたスバルとティアナは早速この世界での情勢について調べ始め、街ゆく人に田舎から出てきた体を装って話を聞き出したり、コンビニの雑誌から情報を集めたりなど暫く探索を続けた後、情勢の整理も兼ねて一旦休憩を挟もうと適当な飲食店に入っていた。

 

 

スバル「うあー、つぅーかぁーれぇーたぁーよぉー……イテッ!」

 

 

ティアナ「うっさいわよバカスバルっ。もうちょっと声を抑えなさい、他のお客さんに迷惑だから」

 

 

歩き疲れた足をパタパタ振りながら声を大にテーブルの上に突っ伏すスバルの頭を、ティアナがメニュー表で軽く叩いて注意する。

 

 

それに対し「ふぁーい……」とスバルは気の抜けた返事を返しつつ店内を軽く見回し、人間とファンガイアが一緒に食事をしたり、共に働く姿を物珍しげに見つめていく。

 

 

スバル「それにしても、調べれば調べるほど本当に平和みたいだね、この世界」

 

 

ティアナ「みたいね……それでも以前までは人間とファンガイアの間でそれなりにいざこざもあったみたいだし、紆余曲折あって漸く今の現状に落ち着いたらしいから、色々大変だったみたいだけど……でもまさか、本当に人間と怪人が共存してるなんて……」

 

 

スバル「でも、それっていい事じゃないかな?争いとか事件とかなさそうで」

 

 

ティアナ「まぁ、そうかもね。前の世界の時みたいにまた追い掛け回されるとかゴメンだし……」

 

 

スバル「あー……うん、それは確かに……」

 

 

クウガの世界でグロンギ達に襲われた事を思い出して溜め息を吐くティアナの言葉に、彼女と同様に元の世界で多種多様な怪人達から必死に逃げ回った記憶が蘇り複雑な表情を浮かべるスバル。

 

 

そうしてティアナは椅子にもたれ掛かりながら店の天井を仰ぎ、溜め息を一つこぼしてしまう。

 

 

ティアナ「でも、だとしたらこれからどうするかよね。こんな平和な世界で、私達は一体何をすればいいのか……」

 

 

スバル「うーん……あっ、じゃあさ!他の皆を探しに行かない?ティアみたいに、もしかしたら私達の世界の誰かがこの世界に飛ばされて何処かにいるかもしれないし!」

 

 

ティアナ「いるかもって、あんたねぇ……簡単には言うけど、この街も相当広いのよ?人も多いし、そう簡単に見つかるワケ──」

 

 

「おめでとうございまぁーーすっ!!見事、完食でぇーーすっ!!」

 

 

カランカランカランッ!と、テーブルに身を乗り出すスバルの提案に呆れるティアナの言葉を遮るように、突然店内に嬉々とした声と鐘を鳴らす金属音が響き渡った。

 

 

すると、その声を聞いた二人以外の客達が一斉に席から立ち上がり、今度は盛大な拍手が店内に響き渡る。

 

 

スバル「え?え?な、何がどうなってんの?」

 

 

ティアナ「わ、私が分かる訳ないでしょ!」

 

 

盛大な拍手が鳴り渡る店内を見回し、突然の事に理解が追い付かず困惑してしまうスバルとティアナだが、取りあえず何が起きてるのか探る為に自分達の後ろの席の客の一人に声を掛けた。

 

 

スバル「あ、あのー?これって、一体何ですか?」

 

 

「ん?君達知らないのかい?この店には"ビッグステーキ"っていう超巨大ステーキがあってね。それの完食に挑戦するイベントが行われてたんだよ」

 

 

ティアナ「あ、成る程。イベントをやってたんですね、ここ」

 

 

「そうそう。でも今までそれに挑戦して完食した人なんて一人もいなくてね。だけど、今親衛隊の人が挑戦して見事完食だよ!いやー、ファンガイアの人達でも無理だったあんな物を完食するなんて本当に凄いよ~」

 

 

へえ~、と二人は感心する。すると二人はそんな凄い物を完食したのは誰なんだろう?と興味が沸き、客達が視線を向けている先へと振り返って大食いチャレンジャーの顔を確かめると、其処には……

 

 

「──おう!ありがとな!いや~、でも何か照れ臭いな~♪」

 

 

―ゴォオンッ!!―

 

 

……盛大な拍手を浴びて照れ臭そうに頭を掻く噂のチャレンジャーの顔を目にした瞬間、二人はほぼ同時にテーブルに頭を打ち付けてしまった。

 

 

何故か?無論、そのチャレンジャーの顔に滅茶苦茶見覚えがあるからである。

 

 

スバル「……ねえティア……私、此処のところ色んなことに巻き込まれ過ぎて疲れてるのかな……?何か今、幻を見たような気が……」

 

 

ティアナ「……奇遇ね……多分それ、私が見たのと同じヤツだわ……」

 

 

いやほんと、何故よりにもよってこんな形でと、お互いに目頭を抑えて軽い現実逃避をしてしまう二人だが、そんな心境も他所に上機嫌な聞き馴染みのある声が再び聞こえてコレがリアルであると再認識させられる。

 

 

……こうなっては仕方がない。何処か観念したように溜め息を吐いた二人は徐に席から立ち上がると、他の客達の間を抜けて注目を浴びる件のチャレンジャーに恥ずかしそうに声を掛けた。

 

 

スバル「ヴィ、ヴィータ副隊長!」

 

 

ティアナ「何やってるんですかこんな所で!」

 

 

ヴィータ「──うん?って、スバル、ティアナ?!お前らなんで此処に?!」

 

 

件のチャレンジャーである幼い外見をした赤毛の少女……スバルとティアナが所属するスターズ分隊の副隊長であり、ヴォルケンリッターの鉄槌の騎士である"ヴィータ"は目の前に現れた見知った顔の二人を見て驚きで目を丸くするが、スバルとティアナの方は注目を浴びるヴィータに声を掛けた事で他の客達の視線を集めてしてしまい、恥ずかしさで顔が赤くなり萎縮してしまうのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

場所は変わり、零となのはは不気味なバイオリン音の出処を追って住宅街を訪れ、音の発生源と思われる家の前まで来ていた。しかし……

 

 

零「……何だこの幽霊屋敷は……こんな所に人なんか住んでるのかっ?」

 

 

なのは「でも、あの音は此処から聞こえてくるんだから……多分誰かいるんじゃないかなぁ……?」

 

 

音の出所である家を半信半疑の眼差しで見つめる零にそう言いながらも、なのは自身もあまり自信はないのか何処か口調に覇気がないが、それも無理はない。

 

 

二人が辿り着いた音の出処である家は遠目に見れば豪邸のように見えるが、近くで良く見ると門は錆付いていてツタが巻き付いており、家の壁も所々ヒビ割れて窓が割れていたりなど、とてもじゃないが人が住んでいるようには見えない。

 

 

だが、肝心の奇妙な音は確かに今もこの廃墟のような家の中から鳴り響いていた。

 

 

なのは「うーん、どうしよう?流石に勝手に家の中に入るのはマズイだろうし……」

 

 

零「バレなきゃ別に問題ないだろう?見たところ廃墟のようだし誰も気にしな、おごはぁああッ?!」

 

 

なのは「駄目に決まってるでしょ?!不法侵入しただなんてスバル達に知れたら教官の面目丸潰れになり兼ねないんだから、下手な真似しないのっ!」

 

 

そう言ってなのはは人目を気にせず廃墟の中に踏み込もうとする零の襟首を掴み、力づくで引っ張って注意する。

 

 

そして無理矢理襟を引っ張られたせいで首が締まった零は喉を抑えて何度か激しく咳き込み、若干涙目になりながら廃墟を見上げて少し考える素振りを見せた後、目元を拭いディケイダーに積んである自身のバイオリンケースを手に取っていく。

 

 

なのは「?バイオリンなんて取り出してどうするの?」

 

 

零「この音を出してる奴を誘い出そうと思ってな。なのはも準備しろ」

 

 

なのは「え?で、でも私、バイオリンなんて弾いたこと……」

 

 

零「やってみればわかるさ。ほら、早くしろ」

 

 

なのは「う、うん……」

 

 

零に言われるがまま、なのはは戸惑いながらも自分のバイオリンをケースから取り出し演奏の準備を整えていく。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

一方、廃墟と化した家の中。室内は外と同様に荒れ果てており、床や壁が抜けていたり、辺りに蜘蛛の巣が張り巡らされていたりと、人が住んでいる気配は一切ない。

 

 

そんな家の中で一人、少年が埃被ったバイオリンを引いていたが、流れる音楽はとても音とは呼べない不快な物しか出ず、どれだけ引いても望む音が出ないバイオリンを見て少年は暗い表情で諦めたように溜め息を吐き、演奏を止めてしまう。その時……

 

 

 

 

―♪~♪♪~♪~♪♪―

 

 

 

 

「……?」

 

 

不意に外から美しい音楽が聞こえてくる。少年はそれが気になり、バイオリンを置いて窓から家の門を覗くと、其処には零となのはがデュエットで優雅にバイオリンを奏でている姿があった。

 

 

「……あの人達……」

 

 

二人の存在か、それとも二人が奏でる音楽が気になったのか、少年はまるで零達の音楽に誘われるように外へ出ていき、扉から顔を覗かせて家の中から出てきた少年を見て零となのはも演奏を止める。

 

 

零「よぉ、あの音楽を弾いていたのはお前か?だったら止めてくれ。余りの酷さに耳がおかしくなる」

 

 

なのは「もう零君っ!何でそんな言い方するのっ!ゴメンね?このお兄さん、人当たりは良くないけど別に悪気があって言った訳じゃ……」

 

 

意地の悪い言い方をする零を叱りつつ、なのははそう言いながら少年に笑顔で歩み寄る。が……

 

 

「近寄るな!」

 

 

なのは「……へ?」

 

 

少年は歩み寄ろうとしたなのはを怒鳴って止めた。その表情は険しく見えるが、何処か怯えているようにも見える。

 

 

「近寄るな……人間が僕に……」

 

 

零「……お前、ファンガイアか?」

 

 

「……だったら何?恐い?僕のこと……」

 

 

零「別に。お前が人間だろうとファンガイアだろうと関係ないし、どうでもいい。ただな、初対面の人間に対して礼儀って物がなってないだろ!」

 

 

なのは「ちょっ、待ってよ!相手はまだ子供なんだしっ、というか礼儀云々で零君がお説教出来る立場じゃないからねっ?!」

 

 

今の思いっきり自分に返ってきてるからソレっ!と少年の態度に怒鳴る零にごもっとなツッコミを返すなのはだが、そんな二人のやり取りを他所に少年は暗い表情を俯かせて顔を逸らしてしまう。

 

 

「関係ない……お前達に何が分かる……」

 

 

なのは「……ねえ君、もしかして何か悩みとかあるのかな……?もし私達で良ければ──」

 

 

と、人間を拒絶して寄せ付けようとしない少年の顔を見て何か気になるのか、なのはは少年と目線を合わせるように屈んで彼と話が出来ないか試みようとするが、その時……

 

 

―キャアァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!―

 

 

突如、街の方から女性の悲鳴が聞こえ、零達はその悲鳴が聞こえた方へと振り返る。

 

 

なのは「今の悲鳴は……?!」

 

 

零「……どう考えても何かあったって感じだな。行くぞ、なのは!」

 

 

なのは「う、うん!」

 

 

少年の事は気になるが、今は街の状況を確かめる為に二人はディケイダーに乗り込み、マシンを走らせて急いで現場へと向かっていく。

 

 

「…………」

 

 

そして、残された少年も騒ぎが気になるのか、零達が走り去っていった後に別方向から街へと向かっていった。

 

 

 

 

 


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