仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
それから数時間後……
アズサ「…………ん…………………?」
時刻は0時。日付が変わり、ミッドチルダが漆黒の闇と静寂に包まれている中、此処機動六課のとある一室に備え付けられたベッドで眠っていた少女……アズサが眠たそうに瞼を摩りながら何故か目を覚ました。
アズサ「……………………………此処は………」
見慣れない部屋。まだ意識が完全に覚醒していないままキョロキョロと辺りを見渡し、最初にそう思った。何故こんな所にいるのかと一瞬疑問に思って首を傾げてしまうアズサだが、部屋を見回していく内に徐々に思い出していく。
確か医務室でシャマル(別)の診察を終えた後、スバル達に案内されてこの部屋にやって来たのだが、疲れが溜まっていたのか部屋に入って直ぐにベッドに寝転がりおそらくそのまま眠ってしまったのだろう。
シロ『にゃー』
アズサ「?……シロ?」
漸く状況を理解したところで不意に猫の鳴き声が耳に届き、アズサは思わずそれが聞こえてきた方へと視線を落とした。其処には自分の飼い猫である黒猫がベッドの上で丸まりながら自分を見上げてきており、それを見たアズサは黒猫を抱えて膝の上に乗せていく。
アズサ「どうしたの…お前も眠れない?」
シロ『うにゃー』
耳を軽く撫でながら問い掛ければ、気持ち良さそうに両目を細めながら鳴き声を上げた。そんな黒猫に思わず微笑を浮かべると、アズサは顔を上げて再び部屋の中を見渡していく。
アズサ「……静か……だね……」
カーテンの隙間から射す月の光りに照らされながら、ポツリと呟くアズサ。おそらく殆どの局員が眠りに付いているからだろう。先程まで部屋の外から聞こえてきていた声や物音も、今は何一つ聞こえては来ない。
アズサ「……………此処にいるのは……………私だけ……………誰も……………いない……………」
部屋を見回して思わずそう呟き、表情を少し曇らせて顔を俯かせてしまうアズサ。こういう静かな雰囲気は一人でいる時には余り好きではない。それに知っている人が近くにいないというのは、正直不安だ。始めてくる場所というのもあるが、なにより記憶喪失のせいというのもある。此処で出会った人達は優しくて親切な人達ばかりだが、やはり見たことのない見ず知らずの場所に一人だけというのは心細い。
アズサ「…………」
寂しい。ふとそんな言葉が脳裏を横切り、その感情が心の中を埋め尽くしていく。更に周りを支配する暗闇と静寂がその感情を余計に駆り立てさせる。まるで自分だけが知らない世界に取り残されたような……そんな錯覚を感じ、自然と膝に乗せていた黒猫をキュッと抱きしめていた。
アズサ「…………」
そんな辺りに漂う静けさが次第に不気味に思えてきたのか、アズサは黒猫を胸に抱いてベッドから降り、そのまま扉を開けて部屋から出ていってしまった。
◆◇◆
そしてその頃、零は光達が用意してくれた部屋の机に座ってある資料を目に通していた。それは先程アズサの診断をしてくれたシャマル(別)が届けてくれた資料とカルテ……アズサの脳に関する内容が書かれた資料だった。
零(……やはり、何らかの強いショックを脳に受けたのが原因で記憶喪失になっているようだな。その強いショックとやらが暴走したハイパークロックアップによる強制転移だと考えるのが妥当か……)
そう考えながら資料を一枚一枚めくり、流れるような視線でカルテの内容を確認していく零。そして資料から一旦視線を外し、机の隅に置かれたハイパーゼクターを手に取って資料と交互にそれを見つめていく。
零(だが一番の疑問は……何故ハイパーゼクターがアズサを俺の下に転移させたのかっていうことだが……いや……それは俺にも言えたことか。何故コレは俺をいきなりこの世界に飛ばした?……まさか、アズサと引き合わせる為とでも?)
……いや、それこそまさかだろう。何故なんの接点もないアズサと自分を引き合わせる必要性がある?それこそ正に意味不明だ。だがそれ以外に特にコレといった要因など思い浮かばない。一体コイツは自分に何をさせたいのだろうかと暫くハイパーゼクターを睨む零だが……
零「…………止めよう……今考えても何も分からないし、取りあえず明日も早いんだから……寝るか」
これ以上予測だけで考えても時間の無駄だ。明日は引き続きアズサの記憶探しにクラナガンに向かわねばいけないのだから早く休もうと、零は机から立ち上がりベッドに畳んであった光達が用意してくれた服に着替えベッドに入ろうとした。そんな時……
―………コンコンッ―
零「……ん?」
なんの前触れもなく扉の方からノック音が響き、零はベッドに入ろうとするのを止め扉の方へと振り返っていく。
零(客?こんな真夜中に?……一体誰だ?)
こんな真夜中に訪問してくるなんて一体誰だろうか?と首を傾げつつも、流石に無視する訳にはいかないので扉へと歩み寄り、ドアノブに手を掛けて扉を開いていった。
―ガチャッ―
零「誰だ?こんな夜遅くに…………って、お前……」
シロ『にゃー』
アズサ「…………」
扉を開けた先に立っていたのは何故か一匹の黒猫を胸に抱いたパジャマ姿の碧銀の髪の少女………アズサがポツンと部屋の前に立っていたのであった。
◇◆◇
数分後……
零「……此処に泊めて欲しい?」
アズサ「……うん」
取りあえずアズサを部屋の中に入れた零は、アズサから事情を聞いて怪訝な表情を浮かべていた。アズサが此処に来たのは、どうやら自分の部屋に泊めて欲しいというなんだか良く分からない理由の為らしい。
零「泊めて欲しいって……お前、確かスバル達に用意された部屋があるだろう?」
アズサ「うん」
零「なら何故そんなことを言う?部屋でなにかあったのか?」
アズサ「……ううん」
零「なにもない?なら此処に泊まる必要なんかないだろう?自分の部屋に戻って寝ればいいじゃないか」
アズサ「…………」
何の問題もないなら、何故わざわざ此処に泊まる必要がある?そう言ってめんどくさそうな表情を浮かべながら聞き返す零だが、アズサは黒猫を抱いて顔を俯かせながらポツリと呟く。
アズサ「…………………………………寂しい……」
零「……なに?」
アズサ「……一人でいるの……心細い……だから……此処にいたい……」
零「………ハァ……ガキかお前は…?」
一人で寝るのが怖いからここで寝かせて欲しい。そんな子供みたいなことを告げてきたアズサに零は思わず瞼を抑えながら溜め息を吐いてしまう。が……
零(……いや……そう思うのも無理はないか?コイツは今記憶がなくて何もかもが始めてな状態なわけだし……心細いと思うのも無理はないか。実際コイツにはそんな事を打ち解けるまで親しい知り合いなんていないんだし……)
そういえば、自分も高町家に拾われた最初の頃は似たような経験をした事があった気がする。なにもかもが始めてで内心では戸惑い、でもそれを打ち解けるだけの親しい知り合いは誰もいなかった…………まぁ、いなかったというよりは自分から作らなかっただけで、別にアズサみたいに不安に思った事はない。寧ろ周りの人間が信じられず、高町家や同じ学校に通うクラスメイト達を警戒して敵意を剥き出してたような……
零(…今思えば…我ながら子供らしくない学生生活を送ってたな……俺……)
アズサ「…どうしたの?」
零「……ん?あ、いや……ちょっと昔を思い出してただけだ」
不思議そうな表情で聞いてきたアズサの声で現実に戻り、何でもないと首を降る零。そして零は顎に手を添えながら何かを考えるような仕種を見せると、少し小さめな溜め息を吐きながら告げる。
零「分かった……シャマルにお前への考慮を伝え忘れた俺にも責任はある。勝手に何でも使えばいい……」
アズサ「!…いいの?」
零「駄目だと言って落ち落ち込まれながら帰られても、逆に気になってこっちが眠れんだろう。そうなると迷惑だから言ってるんだ、勘違いするな…」
アズサ「………ん、ありがとう」
シロ『にゃ~』
相も変わらず無表情で礼を言うと胸に抱いた黒猫も一鳴きし、アズサはそのまま先程零が使おうとしたベッドに近寄るとシロをベッドの下に寝かせ自身もベッドに入っていく。零はそんなアズサにやれやれと疲れたように軽く溜め息を吐くと、部屋の隅に備え付けられているソファーへと近づいていく。
アズサ「……?何処行くの?」
零「ん?何処って、ベッドはお前が使うんだろう…?だから俺は其処のソファーで寝るんだ。別に何処にも行かない」
アズサ「…………」
不安げに聞いてきたアズサにソファーを指差しながら何処にも行かないと告げる零。それを聞いたアズサはジッと感情の篭らない瞳でソファーを暫く見つめると、何故かベッドの中でモゾモゾと動き出しもう一人分入れるぐらいのスペースを作っていく。
零「?おい、何をしてる?」
アズサ「……貴方がそんな事する必要はない……此処は元々貴方の為に用意された部屋。だから私の事を気にする必要もない」
アズサは平坦な口調でそう言いながらモゾモゾと動いてもう一人分のスペースを作り、零を見上げながら空いたスペースをポンポンと叩いた。
アズサ「…一緒に寝よ?」
零「…………………………………………………は?」
シロ『にゃー』
やはり平坦な口調でそう告げたアズサ。零はその言葉の意味が分からず何ですと?的な顔を思わず浮かべ、二人の間にいる黒猫の鳴き声が静穏に包まれた部屋に響き渡ったのだった。
◆◇◆
それから数十分後……
結論から言えばあの後、零は安眠を邪魔されるのが嫌だからと言ってアズサからの提案を断りソファーで眠ろうとしたが、提案を断られたアズサに悲しそうな顔をされたのが原因で敢え無く折れてしまい、結局は同じベッドで眠る事にしていたのだった。
零(……クソッ……本当にめんどくさい女だなコイツは……こういうタイプの女はどう対処していいのかも分からないから尚更めんどくさいっ……)
とか何とか言っておきながら結局はアズサの言う通りになってる我らが主人公。もうお前完全に尻に敷かれてね?と思う方もいると想うがそこは敢えて言わないであげて欲しい。これでも一応プライドはあるのですよ、『一応』は……大事な事なので二回言いました。
アズサ「………零、起きてる?」
零「……あぁ、後ろに気配を感じるせいで全く眠れない。誰かのせいでな」
背後から聞こえてきたアズサの声に若干不機嫌そうに答える零。因みにアズサは普通に天井を見つめるような態勢で眠っており、零はアズサから背を向けるような態勢で腕を枕にしながら眠っている。アズサはそんな零を見る事なく、天井に視線を向けたままゆっくりと口を開いた。
アズサ「………今日は……ありがとう……」
零「…?何がだ?」
アズサ「記憶探しの事……正直、貴方が此処までしてくれるなんて思ってもいなかった……だから、ホントにありがとう」
零「……別に……礼なんかしてもらいたくてやってるんじゃない。俺は俺の為にやってるだけだ」
主にお前の記憶喪失の原因は俺だし、と心の中で付け足しながらさっさと眠ろうと瞼を閉じていく零だが、アズサは天井を見つめたままポツリと呟いた。
アズサ「……此処までしてもらえば……例え記憶が見つからなかったとしても、私も後悔はないと想う……きっと」
零「…!なに?」
アズサのその言葉に反応して瞼を開き、思わずアズサの方へと振り返った。其処には変わらず無表情で天井を見つめるアズサの顔が目に映ったが、その雰囲気は何処か儚いように見えた。
零「……どういう意味だ?まさか、記憶探しを諦めるとでも言うのか?」
アズサ「ううん、そうじゃない……ただ……もしも手掛かりが何も掴めなくて、記憶が取り戻せなかったとしても……零達に此処までしてもらえたから、もうどんな結果になっても悔いはないってこと……」
零「…………」
アズサ「私は……あのまま零に助けられなかったら、きっと何処に行けばいいのかも分からず今もさ迷ってたと思う。そう考えたら、零に出会えたのは私の一番の幸運だった思う……」
零「……大袈裟だろう……というか寧ろ、俺に関わって運が悪いの間違いかもしれないぞ?こう見えて、俺はイロイロと厄介事を呼び寄せるみたいだからな」
実際これまでもそういうトラブルを呼び寄せることが度々あったし、その原因の殆どが自分絡みというのも多かった。特に今回の件も自分が大きく関係したトラブルだ。ならばアズサが零に拾われたのも幸運ではなく不運と呼ぶべきかも知れないと告げるが、アズサはそれを否定するように首を振った。
アズサ「……もしホントにそう思うなら、私はこんな気持ちにはならなかった。だから私は零に関わったのを不幸なんて思わないし、もしホントに不幸だったとしても……私はその不幸に感謝したい」
零「………………」
予想に反したその言葉に、零は思わず呆然としてしまう。何故この女はそんな事を何の戸惑いもなく言えるのか。それが理解出来ないし、その言葉を聞いただけで余計にこの少女を巻き込んだことに罪悪感を感じてしまう。ならそんな少女に何をしてやれるのか、自分が出来る事は…………
零「……分かった……そうまで言うなら、俺もひとつお前に誓おう」
アズサ「…?誓い?」
零「あぁ、誓いだ……お前が記憶を取り戻すまでの間、お前は俺が守る。そして必ずお前の記憶を見付けてやる。此処まで来たら意地だからな」
アズサ「…………」
自分がこの少女にしてやれる事なんてそれしかない。この少女が自分を此処まで思ってくれる以上、それに応えてやれるにはそれしか。その意味を込めてアズサにそう告げるとアズサは口を閉ざし、零の目を見つめながらおもむろに小指を差し出してきた。
零「…?なんだ?」
アズサ「約束」
零「約束?」
アズサ「うん……ちゃんと守るって約束……駄目?」
零「……………」
零は小首を傾げながらアズサが差し出してくる小指をジッと見つめると、おもむろに布団の中から手を出し小指を絡めようとするが、不意にある言葉が脳裏を横切り手の動きを止めてしまう。
―俺は誰にも優しくなんかなれないし、約束を守れた試しがない……―
零「……………」
アズサ「?どうしたの?」
零「……いいや、なんでもない。約束だ」
脳裏を横切った言葉を振り払うようにそう言うと、零はアズサの小指に自分の指を絡めていった。そしてアズサは互いの小指を絡めた手を見て無表情のままコクッと頷くと、そのままモゾモゾと零の懐へと距離を縮めてきた。
零「ッ!おいコラ、なんの真似だ…?」
アズサ「ん……此処が一番ぬくぬくする……ゴロゴロー……」
零「猫かおんどれはっ…」
アズサ「にゃあ……」
シロ『うにゃー』
零「……………もう勝手にしてくれ……」
もう相手にするだけ疲れると、密着してくるアズサを見て何度か分からない深い溜め息を吐く零。そしてそんな零の様子にも気付かず、アズサは零の胸元に頭を預けながら何処か安心したような表情で眠りについていったのであった。
◆◇◆
同時刻、機動六課の近くにある土手。深夜という時間帯の為に人影が全く見当たらない中、その場から機動六課の隊舎を険しげに見つめる一人の男性……鳴滝の姿が其処にあった。
鳴滝「ちっ……行方不明と聞いて捜しに来てみれば、まさか記憶を失って奴と共にいるとはな……」
そう言いながら険しげな顔で六課の隊舎を睨みつけていく鳴滝だが、その表情は何故か次第に不気味な笑みへと変わっていく。
鳴滝「まあいいだろう……記憶に関してはさほど問題ではない。寧ろ奴に警戒されることなく近づき、奴も情を移し始めたことに関しては嬉しい誤算と言うべきか」
ソレが何を示して言ってるのか未だ分からない。ただ鳴滝は六課の隊舎を見つめながら不気味に微笑んでいく。
鳴滝「以前のαの時のような失敗は繰り返さん。ディケイド…今度こそこの世界が貴様の墓場となるのだ。βの……シュロウガの手によって……フフッ……フフフフフフッ」
鳴滝は薄気味悪い笑い声を漏らしながらそう言うと、背後に現れた灰色の歪みを通って何処かへと消えていってしまったのだった。