仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
―機動六課・食堂―
時刻は夜中。アズサと鳴滝が消えたあの後、零と光は先程合流した勇司とアゲハワーム達を退けてくれたストライク……ジェノスの手によって六課へと運ばれ、シャマルの治療を受けた光は食堂に集まった勇司達にアズサと鳴滝について話をしていた。
はやて(別)「――ア、アズサちゃんが?!」
フェイト(別)「…ほ、本当なの?それ……」
光「……あぁ……事実だ。アズサは鳴滝という男が零を抹殺する為に造り上げた人造人間であり、真実を知ったアズサは……零を殺したくないと告げて何処かに消えてしまった……」
なのは(別)「そ、そんなっ……」
光の口から語られた衝撃的な事実に一同は思わず絶句してしまう。アズサが零を抹殺する為に造られた命であり、しかも零を消す為に自爆装置まで積んである。加えてアズサは零を殺したくないが為に自ら行方をくらましてしまった。全ての話を聞かされた一同の間に重苦しい空気が流れ、それを破るかのように勇司が怒りに満ちた表情でテーブルに拳を打ち付けた。
勇司「ふざけんじゃねぇぞ…それって零を消す為に、アズサを捨て石にするって事だろう?!鳴滝の野郎っ……命をなんだと思ってんだッ!!!」
フェイト(別)「許せないっ……零とアズサの思いを利用して、しかも自分の都合で造り出したアズサをなんの戸惑いもなく犠牲にするなんてっ…!!」
まるでアズサを人間として扱おうとしていない鳴滝にそれぞれ怒りの感情を露わにしていく一同だが、光だけは至って冷静な様子で口を開いた。
光「皆、お前達の気持ちは良く分かる……だが、今は落ち着くんだ」
ヴィータ(別)「これが落ち着いていられっかよッ!!鳴滝って奴の身勝手な目的のせいで、アズサはなんの意味もない犠牲にされそうになってんだぞ?!」
なのは(別)「何で光君はそんな冷静でいられるの?!アズサちゃんは無意味な事の為に殺されそうになっているのに、光君は何も感じないの?!悔しいって思わないの?!」
光「思わない訳がないだろうッ!!!」
『…ッ?!』
それぞれのメンバーが鳴滝に対しての怒りで我を忘れる中、光の怒号が食堂内に響き渡った。普段はクールで誰よりも冷静な光が自分の感情を露わにして叫んだのだ。それだけで勇司達は口を閉ざして黙り込み、光は瞳を伏せてぽつりと呟き出す。
光「思わない訳がないだろう……あの時、二人の近くにいたのは俺なんだぞ……なのに何も出来なかった。泣いて別れを告げたアズサを引き止める事も、鳴滝を殴る事も……何も……」
フェイト「……光……」
光「それに……俺達がこんなんでどうする?今アズサの事で一番辛いのは……零の奴なんだぞ」
『……あっ…』
そう、この状況に一番苦しんでいるのはこのメンバーの誰よりも付き合いが長く、アズサに一番信頼されていた零なのだ。加えて零はアズサを守ると約束を交わしていたのにそれを守る事が出来ず、更に自分を殺す為だけにアズサが犠牲にされそうになってると知ったのだ。それでショックを受けない方が可笑しい。
シグナム(別)「…それで、黒月は今どうしてるんだ?」
勇司「……それが……部屋に篭ったまま出て来ないんだよアイツ。今ジェノスの奴が様子見に行ってるんだけど……」
なのは(別)「ジェノスって……確かさっきの戦闘の中で現れたライダーっていう?」
光「あぁ、どうやらアイツも平行世界の住人らしい。事情によると渡したい物があって、それを届ける為に零の気配を感じたこの世界に訪れたのだと言っていたが……まぁ、さっきの戦闘はアイツのお陰で助かったというのは事実だ」
はやて(別)「そっかぁ……そんなら暫くの間、ジェノス君に戦力として加わってもらえんか頼めへんかな?さっきラウルとリオンとアッシュの三人が空士第47部隊に呼び戻された今、あの三人の穴埋めとしても申し分ないし」
光「……その方がこちらとしても助かるな。あの上級ワーム達はまだ残っているし、鳴滝がまた何かを仕掛けてくる可能性もある……戦力は多いに越したことはないだろう」
実際の所、今の六課面々…特に零は未だアズサの事を引きずっている。光と勇司はまだ何とかなりそうだが、こんな状況の中で一番まともに戦えそうなのはジェノスしかいない。その事を考慮すればジェノスに戦力として加わってもらうのが一番の得策だろうと、光はそう考えながら珈琲を飲んでいく。とそんな時、零の様子見に向かっていたジェノスが食堂内へと入って来た。
勇司「ッ!ジェノス!どうだ、零は…?」
ジェノス「……ダメだ……何度呼び掛けても応答がない……」
フェイト(別)「そんな……まさか、このまま部屋から出て来ないつもりじゃ…」
ヴィータ(別)「クソッ!何やってんだよアイツは?!今はそんなことしてる場合じゃねぇって事ぐらい分かってんだろ…!」
光「…………」
返答もなく部屋からも一切出て来ない零に一同はざわめき出し、ジェノスから話を聞いた光は何も言わないまま残った珈琲を全て飲み干していたのだった。
◇◆◇
―クラナガン・路地裏―
其処は照明のない真っ暗闇な空間に包まれた路地裏。繁華街からの光りで多少は周りが見えるが、路地裏の奥は深い闇に包まれ不気味な雰囲気を漂わせていた。そんな場所に……
アズサ「……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
先の戦いで零に別れを告げ、行方をくらましたアズサが其処にいた。夜風で飛ばされて足元に絡み付く紙屑にも目も向けず、まるで何かに取り憑かれたように苦しげに歩き続けるアズサ。だが既に体力の限界なのか、アズサは路地裏の壁に背を付けて背中を引きずりながら地べたに腰を下ろしていく。
アズサ「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
地べたに腰を下ろし、乱れた呼吸を整えようと深呼吸を繰り返していくアズサだが、それも数回までしか続かず呼吸が止まった。何故なら……
―キイィィィィィィィィィィィィィィインッ!―
『……消せ……ディケイドを消せ……ディケイドを……』
アズサ「うぁ……あぁ……ぁあ……!」
脳に直接聞こえてくる声。それが聞こえてきたと共にアズサは両手で頭を抱えながら苦しみ出し、その声に逆らうかのように頭を左右に降り続ける。
『殺せ……ディケイドを殺せ……それがお前の造られた意味……お前の存在異議……』
アズサ「ッ!違うっ……私は……私は零を殺さない…殺したくっ……ないっ…」
必死に声に抗うように呟きながら、アズサは首に巻かれた機械的な首輪を両手で掴みそれを外そうとする。
――自爆装置。
鳴滝が零達に言っていた物の正体はこれだった。首輪の中央に付けられた丸いランプが赤く点滅し、その度にアズサは苦しげな声を漏らして身体をくの字に折り曲げていく。
その首輪には一度に二つの機能が備え付けられているのだ。一つは鳴滝が言っていた零の抹殺の為と裏切りを防ぐ為の自爆システム。もう一つはアズサの意志を捩曲げ、必要とあらば彼女の精神を壊してでも鳴滝の支配下に置かせるマインドコントロールシステム。絶対に自分の支配下からは逃れられないようにと、鳴滝が以前の失敗を踏んで作り上げたのがそれだったのだ。
『殺せ……殺せ……殺せ…ディケイドを抹殺しろ!』
アズサ「ッ……止めて……私……私は……そんな事……望んでないっ……!!」
見えない何かに飲み込まれそうになる意志を必死に保ちながら、聞こえてくる声に抗い首輪を外そうとするアズサ。だがどんなにやっても頑丈な首輪はアズサの首から外れることはなく、アズサは諦めたように首輪からゆっくりと両手を下ろしていく。
アズサ「ッ……何でっ……どうしてこうなったんだろうっ……」
声はもう聞こえて来ない。恐らくアズサの抵抗が予想以上に強いから一度引いたのだと思うが、それも一時の間だけだろう。またディケイドを殺せと命じてくるに違いない。また何時来るか分からない声に怯えながら、アズサはガチガチと震える両手で首に掛けられたカメラを包み込んでいく。
アズサ「……私……やっぱり……生きてちゃいけないのかな……私がいるせいで……皆にも……零にも……迷惑掛けてばかりで……」
前髪で顔が隠れている為にどんな表情をしているのかは分からないが、アズサは震える声でポツリとそう呟いた。それと共に、アズサの両手に包まれたカメラにポツポツと小さな粒が落ちて弾けていく。
アズサ「っ……死にたく……ないっ……死にたくなんかない……生きたい……もっとみんなと……零と一緒にいたい……それだけなのにっ……どうして……どうしてっ……」
望むべきではないと自分でもわかってる。そんな望みは叶わないのだと、ちゃんと自覚もしている。
だがそれでも……それでも死を受け入れるなんて出来るワケがない。彼女だって生きているのだ。造られた命でも、皆と何処も変わらない普通の人間の女の子。死ぬのは怖い。そんな当たり前の感情を彼女も持っているのに……もうすぐ彼女は、ある男の目的の為に死ななければいけない。自分の意志とは関係なく。
アズサ「……零を殺したくない……だから一緒にいられない……離れないといけない……私は消えなくちゃいけない……なのに……」
顔は上げない。ただ顔を俯かせたままカメラを大事そうに握り締めるアズサの頬から、小さな粒が幾つも流れて落ちていく。
アズサ「……なのに……どうして?どうして一緒にいたいと思うの……離れたくないって……死にたくないなんて……そんなこと……思っちゃいけないのに……」
零を傷付けない為にも彼の前から消えなければいけないのに、離れたくないと、彼と共に居たいと望んでしまってる自分がいる。矛盾しているにもほどがある。自分はこんな望みを抱いていい人間ではないのだ。なのに……
―何って…お前の記憶探しに決まってるだろう?此処まで事情を知ってしまった以上、このままお前を放っておく訳にはいかないからな―
―あぁ、誓いだ……お前が記憶を取り戻すまでの間、お前は俺が守る。そして必ずお前の記憶を見付けてやる。此処まで来たら意地だからな―
―……ちょっと出てくるから預かってろ。帰ってきた時に返してもらうから、傷なんか付けるなよ?大事な物なんだからな―
アズサ「……忘れなきゃいけないのに……傍にいたらいけないのに……何で……どうしてっ……?」
望む事は許されない願い。どんなに願っても手に入らない未来。それを誰よりも分かっている癖に、それを捨て切れない自分がいる。死ぬ定めなのに、生きていたいと望んでいる自分。離れなければいけないのに、彼と一緒にいたいと思っている自分。もう頭の中がゴチャゴチャで、自分でも何を望んでいるのか分からなくなっていた。
アズサ「っ……もう分からない……誰か……誰でもいいから……助けてっ……」
ゆっくりとカメラを胸に当て、抱きしめるようにギュッと握り締める。頬を滴り落ちる涙の線を手の甲で拭いながら、アズサはその場から立ち上がり覚束ない足取りで路地裏の奥へと消えていった。
何時起爆するか分からない爆弾……
何時消えてしまうか分からない自分の心……
それらの恐怖心に押し潰されそうになりながらも、誰もいない、この爆弾の被害にならない場所を目指して歩き続ける……
◇◆◆
そしてその頃、シュロウガとの戦闘で受けた傷をシャマルに治療してもらった零は六課で用意された部屋に一人篭っていた。ベッドに腰掛け、包帯が巻かれた両手を見つめながら零は唇を噛み締める。
零(……考えろ……なにかある筈なんだ……鳴滝の下からアイツを解放する方法が……何か…!)
アズサを鳴滝の下から解放する方法。思考をフルに使ってその方法を考えていくが、その途中で零は両手で頭を掻きむしりながら顔を俯かせてしまう。
零(駄目だ……どの手段を使ってもアズサを助け出すことなんて出来ないっ…!仮に光達の力を借りても、アズサの爆弾をどうにかしなければ意味はない…!)
既に何十何百という方法を考えたが、どの手段を使ってもアズサを救い出す事は出来ない。完全に手詰まりとなった状況に零が思わず頭を抱えていると、不意に先程の鳴滝の言葉が脳裏を横切った。
零(……やはり……アイツの言う通り消えるしかないのか……俺がいる限り……アズサは俺を消す為の犠牲になる……だが……)
自分が消えれば、なのは達は一体どうなる?アイツ等の世界を救うと約束したのに、それを裏切る事になる。だが自分が消えなければアズサは……?
零(っ……どうしたらいい……俺は一体……どうしたらいいんだっ……)
自分のせいで無意味な犠牲になろうとしてるアズサ。世界を救うと約束を交わしたなのは達。天秤に掛けられたその二つに零は悲痛な表情を浮かべて黙り込み、暫くの間部屋に静穏が流れていた。その時……
『みゃあ~』
零「………?」
足元から不意に聞こえてきた一つの鳴き声。それを聞いた零は俯かせていた顔を上げ、ゆっくりと足元に目を下ろしていく。其処には……
シロ『にゃあ~』
零「……シロ?」
そう、零の足元で鳴き声を上げていたのはアズサの飼い猫であるシロだったのだ。今日初めて見たシロに零も少し驚いて僅かに目を見開いてしまうが、シロは構わず零のひざ元まで跳んで零の顔を見上げていく。
シロ『みゃあー』
零「…………」
気が抜けるような声で一声鳴きしながら顔を見上げてくるシロだが、その瞳はなにやら別物のように思えた。まるで『何を勝手に諦めてんだ?』とでも訴えてきているような……
シロ『にゃあ~』
零「…………」
何もせず、ただ零の顔を見上げながら鳴き続けるシロ。そんなシロを見た零は閉ざしていた口を僅かに開いて薄い息を吐き、ひざ元に乗った黒猫の両脇を掴んで持ち上げていく。
零「分かってるよ……お前だって飼い主様に逢いたいんだろう?助けたいと思ってるんだろう?」
シロ『うにゃあ~』
零「あぁ……分かってるよ……でも……どうしたらいいのか分からないんだ……アイツを……アズサを救い出す方法が……」
どうすればアズサを救えるのか。その方法が思い付かず落ち込んだ表情を浮かべてシロの瞳を見つめていくと、シロの瞳に自分の間抜けな顔が映っているのが見えた。その時……
零「……………ッ?!!!待て……待てよ……いや……もしかしたら……」
シロ『?』
シロの瞳に映った自分を見た瞬間、零は何かを思い付いたようにベッドから勢い良く立ち上がった。そんな青年の様子に両手に抱かれた黒猫の頭上に疑問符が浮かび上がる。
零「……いやダメだっ……この方法は確実じゃない!一歩間違えば俺やアズサが共倒れする可能性がっ……ッ!そうだ……」
一瞬苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた零だが、その時なにかを思い出したような声を上げながらシロを片手で抱き、テーブルに近づいてその上に置いてあったライドブッカーを手に取って開き中身のカードを取り出していく。
零(あのカードの力とアレを合わせれば、もしかしたらこの条件をクリアー出来るかもしれない…!アレは確か…………あった…!)
ライドブッカーから取り出したカードの束から見つけたシルエットだけのカード……手に入れた覚えのない『PRIEST』と書かれたライダーカードを手に取って眺めていく。
零(……やはりそうだ……このカードの力とアレを合わせれば、いけるかもしれない……!)
絵柄が消えた『PRIEST』のカードを強く握り締めながらそう考えると、零は取り出したカードの束をライドブッカーへと戻してポケットに仕舞い、シロを抱えたまま部屋から飛び出していく。とそんな時……
光「…っ!零?」
零「ッ?!光…!」
部屋から飛び出して通路を走っていた中、通路の向こうからやって来た光とバッタリ遭遇したのであった。光も零を見て一瞬驚いたような表情を浮かべるが、胸に抱いた黒猫と顔付きが変わった零の顔を見て何かを悟ったような顔を浮かべていく。
光「……行くのか?」
零「……あぁ……アイツを迎えに行くのは、俺の役目だ」
光「だがどうするつもりだ?分かっていると思うが、ただアズサのところに行くだけではアズサの命が危険になるだけだ。無論、お前も……」
零「…………」
真剣な表情でそう質問してきた光に零も一度口を閉ざし、無言のまま光の隣を通り過ぎてから再び口を開いた。
零「考えはちゃんとある。確実に助けられるか?と聞かれたら自信はないが……アズサを奴の呪縛から解放出来る可能性は高い。だがあまり安全とも言える方法じゃないから、お前や皆は此処で待っててくれ。正直、他の人間を巻き込まない自信がない……」
光「……分かった……正直不本意だが、仕方ないな」
零「すまん……それと……お前に少し頼みがある」
光「…頼み?」
頼みがあると言ってきた零に光は不思議そうな表情を浮かべながら振り返り、零は一度間を置くと少し暗い表情を浮かべながら喋り出した。
零「……アズサは必ず救い出す。だが、今回は自分のことにまで手が回りそうにない。だからもし俺の身に何かあった時には、アズサを「止めろ」……?」
零が光に向けて何かを言いかけるが、光の呟いた言葉がそれを遮った。思わず光の方に振り返れば、何処か呆れたような表情を浮かべる光の顔が目に映った。
光「全く……そんな戯れ事を気く気はない。この前も言っただろう?アズサの居場所になってやれるのは、お前しかいないんだぞ?」
零「……だが……」
光「安心しろ。何かあった時には、俺がお前を助ける……俺は天の道を往く男だからな。お前ぐらい助ける事など造作もない」
零「……フッ……成る程、それは頼もしいな?」
天を指差すポーズを取りながら強気にそう答えた光に零も思わず微笑を浮かべ、光から背を向けていく。
光「……死ぬなよ、零」
零「……あぁ、そう簡単にはくたばらんさ」
光の言葉にそう答えると、零は黒猫を抱え直し一度も振り返る事なく走り出していったのだった。光が見つめる零の背中、其処に一切の迷いは感じられなかった……