仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
―ミッド郊外・鉄橋―
時刻は11時半。もうすぐ日付が変わろうとしている事もあってか、ミッドからの明かりも少しずつ消え始めてミッド郊外周辺もすっかり暗闇に包まれていた。空は分厚い雲に覆われて星も見えず、ザーザーと強い雨滴が降りしきる。
アズサ「…………」
そんな雨滴の中、大きな川にかかるミッドと郊外を繋ぐ鉄橋の上では、アズサが寂しげな顔をしながら此処から僅かに見えるミッドの街を眺める姿があった。傘などは差していない為、碧銀の髪や服もびしょびしょに濡れて肌に張り付いてしまってる。
アズサ(……この辺りなら……誰にも邪魔されない……)
だがそんな事にも関心を向けず、此処から僅かに見えるミッドの街と鉄橋周辺を眺めながらそう考えると、アズサはふらつきながら雨で濡れた地面に腰を下ろして座り込み、赤いランプが点滅する首輪にソッと手を当てていく。
アズサ「……何も望んではいけない……私は……存在してはならない命なのだから……」
感情の篭らない口調だが、何処か悲しげにも聞こえる声でそう呟きながらゆっくりと首に掛けてたカメラを外し、傍らに置いていく。そしてアズサはゆっくりとその場から立ち上がり、鉄橋の手摺りに手を掛けて橋の下を見下ろした。
土砂降りが影響しているのか、眼下の暗い川は増水していて、濁った水が鈍い音を立てていた。
アズサ「……これで終わる……もう誰も……傷付かずに済むんだ……」
土砂降りの雨に打たれながらそう呟き、両目を伏せるアズサ。そして暫く伏せていた両目をゆっくりと開き、両足に履いてた靴を脱いで手摺りの上に片膝を乗せようとした。そんな時……
『にゃあー』
アズサ「………え?」
何処からか聞こえてきた聞き慣れた鳴き声。それを聞いたアズサはピタリと動きを止め、手摺りに乗せようとした片膝を下ろしてそれが聞こえてきた方へと振り返った。其処には雨に打たれながらこちらにゆっくりと歩み寄ってくる黒い毛の猫……シロの姿があった。
アズサ「…シ、ロ…?」
シロ『にゃあー!』
アズサが呆然と猫の名前を呼べば、黒猫はそれに応えるようにまた鳴いた。何故こんなところにシロが?とアズサが疑問を隠し切れない中、シロの後ろからまた一つ人影が現れ、アズサの表情が再び驚愕のものへと変わっていく。
アズサ「……れ……い…?」
零「…………」
シロの背後から現れた人影……真剣な顔付きで佇む零を見たアズサは震える声でその人物の名を呟き、信じられないものを見たような表情で数歩後退りしていく。
アズサ「何で…どうして、此処に……」
零「…………」
零は動揺を浮かべるアズサに何も言わず、アズサに歩み寄ろうと一歩踏み出そうとするが……
アズサ「来ないでっ!」
零「…ッ!」
アズサに歩み寄ろうとした零にアズサが拒絶するように叫び、零は思わず足を止めて立ち止まってしまう。アズサはそんな零から視線を逸らすように顔を俯かせ、胸元に当てた手をギュッと握り締めた。
零「……アズサ……」
アズサ「っ……どうして?どうして来たの?やっと…やっと覚悟を決められたのにっ……なんでっ……」
零「…………」
前髪で顔を隠し、震える声でぽつぽつと呟くアズサ。零はそんなアズサから視線だけ逸らして手摺りの近くに視線を向けると、其処に置かれてある自分のカメラとアズサが脱いだ靴を発見して眉を寄せた。
零「……お前……一体何をする気だったんだ?」
アズサ「…………」
零「消えるつもりだったのか?俺や……他の人間が傷付かないように……自分を犠牲にして……」
アズサ「っ…………」
真剣な口調でそう告げた零にアズサは思わず拳を更に強く握り締め、顔を俯かせたまま口を開いた。
アズサ「……だって……それしか方法はないの……もう私には、自分で自分を止める事は出来ない……手遅れになる前に……自分の手で全部終わらせるしかない……」
零「…………」
アズサ「それに……どうせ私は死ぬ事を前提に造られた命だから……だから死んで当然の命なの……寧ろ、それが当たり前なの……」
零「っ……」
最初から捨て石にする為に造られた命だから、死んでも問題はない。そう告げたアズサに零は唇を噛み締め、手の平を鉄のように握り締めていく。
零「――ふざけるな……」
アズサ「………え?」
零「…ふざけるなと言ってるんだっ!!」
アズサ「っ?!」
まるで雨水を吹き飛ばしてしまいそうな勢いで怒号を響かせた零。そんな零からの気迫に思わず肩をビクッと震わせるアズサだが、零は構わず叫ぶ。
零「死んで当然?死ぬのが当たり前の命?…そんな命がある訳がないだろう!!確かにお前は造られた命かもしれないっ……けどお前の命もっ!俺や光達と何も変わらないっ!たった一つしかない命だろうが!!」
アズサ「…………」
零「それしか方法はない?何でお前が全部一人で抱え込んで死ななきゃならないんだ!お前だって気付いているんだろう?!こんな方法じゃ誰も救われない!お前が死んで俺達が助かったとしても、それで俺達がお前に感謝するとでも思ってるのか?!そんな事して助けられても俺達が……俺が……喜ぶ筈がないだろう…!」
アズサ「…………」
悲痛な表情で必死にアズサへと叫び続ける零。アズサはそんな零の言葉に悲しげに眉を寄せ、顔を俯かせながら再び呟く。
アズサ「だけど……仕方がないことなの。どの道此処で死ななかったとしても、私の意思はもうすぐ消えてただの操り人形になる……どうせ消えるなら……私のままで「消させない」……え?」
どうせ消えるのなら自分のままで消えたいと、そう告げようとしたアズサの言葉を遮った零。俯かせていた顔を上げれば、目の前には真剣な顔付きのまま言葉を紡ぐ零の姿があった。
零「俺がお前を消させないし、絶対に死なせない……俺はその為に……此処に立っているんだ」
アズサ「……そんなの無理……これは零にはどうにも出来ない……」
零「無理かどうかなんて、お前が決める事じゃない!……俺が決める事だ」
既に諦め切ってしまってるアズサに叫び、再び歩みを進めていく零。それに気付いたアズサはハッと俯かせていた顔を上げ、歩み寄ってくる零を見て怯えるように数歩後退りしていく。その時……
「――わざわざ自分から死に来たか……ディケイド」
『?!』
何処からか聞こえてきた第三者の声。不意に響き渡ったそれに零やアズサも驚愕して思わず振り返っていくと、其処にはトレンチコートを雨風で靡かせる一人の男性……鳴滝が不敵な笑みを浮かべながら零の背後に立っていたのだ。
零「鳴滝っ…!」
鳴滝「フフ、丁度いいタイミングで来てくれたねディケイド。まさかβの最後を見に来てくれるとは……ホントにタイミングが良い」
零「アズサの…最後?どういう意味だ?!」
鳴滝「言葉のままの意味だ。やはりβに感情など持たせるべきではなかったようだからな……今からβの心を壊し、完全に私の支配下に置かせるのだよ!」
そう言って鳴滝はコートの懐から四角い形状をした何かのスイッチのような物を取り出し、上下レバー式のスイッチを操作していく。その瞬間……
―キイィィィィィィィィィィィィィィインッ!!!―
アズサ「――ッッ?!!!ぁ……あぁ……うっ………あああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!」
零「ッ?!アズサッ!!」
突如アズサの首輪から大量のエネルギーが電流のように流れ出し、それと同時にアズサは頭を抱えて絶叫を上げながら苦しみ出したのであった。そんなアズサを見た零は思わず身を乗り出し、鳴滝は零を見て不気味な笑みを浮かべていく。
鳴滝「これで貴様も終わりだ、ディケイド!βの手によって、今度こそ貴様の旅を終わらせるがいい!フフッ……フハハハハハハハハハハハハハッ!!」
そう言って鳴滝は背後から現れた灰色の歪みの壁に呑まれて何処かへと消えてしまい、それを見た零は一度舌打ちしながら頭を抱えて苦しむアズサと向き合っていく。
アズサ「うっ……ぐっ……零っ……」
零「アズサ……」
アズサ「っ……お願いっ……私を……消してっ……このままじゃ……本当に零を殺してしまうっ……だから……お願いだからっ……」
零「…………」
頭を抱えて苦しみながらも、必死に自分を消してくれと零に望み続けるアズサ。そんなアズサに零は何も言わずに両目を伏せ、無言のまま何処からか取り出したディケイドライバーを腰に装着していく。
アズサ「零……」
零「……アズサ、お前確か言ったな?お前を救う方法はない、俺には無理な話だと」
アズサ「……え?」
ドライバーを腰に巻いた零を見て一瞬安心したように微笑むアズサだが、静かに呟いた零の言葉を聞いてその微笑みもすぐに消えた。そして零はそんなアズサの反応に構わず、伏せていた両目を見開きアズサを見据えていく。
零「俺はお前を諦めるつもりはない……方法がないなら、俺がこの手で切り開くだけだ。お前も俺も消えない、誰も傷付かない方法を……」
アズサ「ッ!そんな……そんな方法なんかっ…!」
零「ないなんて言わせない……なくても創るだけだ。俺は、諦めが悪い男だからな」
零は悲痛な表情を浮かべるアズサとは対称的に場違いな笑みを浮かべながらそう言い返すと、優しげな眼差しをアズサに向けながら口を開く。
零「……もう、一人で全部背負わなくていいんだ……お前の苦しみも悲しみも……俺が一緒に背負う……お前がその重みに潰されないように……俺がお前を支え続ける……」
アズサ「ッ……零っ……」
零「どんな事が起きようと……お前はこれからも……俺が守り続ける……傍にいる……約束だ」
アズサ「っ!!」
優しげな、それでいて何処か力強さを感じさせるその言葉にアズサは思わず息を呑んだ。
何も望んではいけない、誰の傍にも居てはならない、自分は誰かを傷付けてしまう存在なのだ。
何度も心の中で必死にそう言い聞かせるアズサだが、心の内から溢れてくる思いは止まらない。
もし本当に、この苦しみを彼が一緒に背ってくれるのなら。
もし本当に、彼がこんな自分を受け入れてくれるなら。
許されないと分かってる、そんなのは都合のいい甘えだと言うのも。
だがそれでも、彼女は自分の望みを口にする事を止められなかった。
アズサ「……私……私は……誰も傷付けたくない……誰も……殺したくなんかないっ…」
零「…………」
アズサ「死ぬのが怖いっ……死にたくないっ……もっとっ……もっと生きていたいっ……でも、私にはそれを叶える力がないっ……だからっ……」
アズサ「お願いっ……助けて……零っ……」
零「あぁ……その願い……確かに聞き入れた……」
心の内に仕舞い込んでいた、本当の思いを聞かせてくれたアズサにそう応えると共に、零は左目のコンタクトを外した。
――破壊の因子。すべてを破壊する悪魔の力。
その力を自ら解放する共に零の左目が妖しげに輝く紫色へと変わり、体の内から信じられない程の巨大な力が溢れてくる。だが……
―キイィィィィィィィィィィィィィィインッ!!!―
アズサ「ッ?!うっ…あっ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」
『CHANGE UP!SYUROGA!』
零「ッ!アズサっ!」
零が因子を解放させると共にアズサの耳に鳴り響いていた耳鳴りが激しくなり、腰に現れたベルトから電子音声が響くと共にアズサはシュロウガへと変身した。まるで因子の解放を感知したような、そんな不自然なタイミングで。
零「成る程……余程この力を危険視しているってことか……鳴滝の奴……」
シュロウガ『はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……あああああああああああああああああああああああっ!!!!』
零が紫色に輝く左目に触れながらそう呟くと、シュロウガの首に巻かれた首輪のランプが何度か赤く点滅し、シュロウガはそれに応えるように左腕に魔力を注ぎ込んで手の平の前に出現した魔法陣から剣を取り出し戦闘態勢に入っていく。
零「チッ!最早容赦は無しって事かっ…」
シュロウガ『くっ…うっ…あぁ…!』
零「……待ってろアズサ、お前との約束……今度こそ守ってみせる」
まるで何かにもがき苦しむような様子を見せるシュロウガに向けてそう言うと、零は左腰のライドブッカーからディケイドのカードを取り出して構えを取る。そして……
零「変身ッ!」
『KAMENRIDE:DECADE!』
カードをバックルにセットすると零はディケイドへと変身していき、変身を完了すると共にライドブッカーから一枚のカード……絵柄の消えた『PRIEST』のカードを取り出していく。
ディケイド『……この方法が正しいのか間違っているのか、俺には分からない。だが、今はお前の力が必要なんだ……アイツを縛り付ける呪縛から解放する為にも……お前の力を貸してくれ……』
アズサを苦しめる呪縛から解放する力を貸して欲しいと、カードを握り締めながらそう強く望むディケイド。すると、その願いに呼応するかのようにカードのシルエットに白いライダーの絵柄が浮かび上がり、それを見たディケイドは仮面越しに穏やかな笑みを浮かべた。
ディケイド『……有り難う……変身ッ!』
絵柄が蘇ったカードに一度礼を告げると、ディケイドはディケイドライバーを開きカードを装填してスライドさせていった。
『KAMENRIDE:PRIEST!』
電子音声が鳴り響くと共にディケイドの背中から白い翼が広げられ、ディケイドの体を包み込むように優しく覆っていく。そして翼が再度広げられると共に無数の白い羽が辺りに舞い散り、ディケイドの姿は赤い瞳と因子の力を解放した証である紫の瞳を持った聖職者のような姿をしたライダー……プリーストへと変身していったのだった。
シュロウガ『くっ!うっ…あぁ…!』
Dプリースト『アズサ……少し辛抱してくれ……今、お前を解放してやる』
シュロウガ『グッ!うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!!』
シュロウガは首輪のランプが何度か点滅すると同時に苦しみに満ちた叫び声を上げ、地面を爆発させる勢いで蹴ってDプリーストへと突っ込んでいった。そしてそれとは対称にDプリーストは焦った様子も見せずにその場から一歩も動かず、冷静にライドブッカーをSモードへと切り替えて右手に構える。
シュロウガ『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!』
Dプリースト『――救われぬ者には救いの手を……迷いし者には導きの手を……ってな』
―ガギイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィインッ!!!!―
超スピードで突っ込んできたシュロウガの紅い剣がDプリーストに向けて上段から勢いよく振りかざされ、それに反撃するようにDプリーストはライドブッカーSモードを横薙ぎに払い、大粒の雨が激しく降る鉄橋に甲高い鉄の音が鳴り響いていったのであった。