仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
数十分後、零達は姫の日用品を揃える為にお昼過ぎのショッピングモールへと訪れていた。因みに姫はアズサの服を元に複製した服を身に纏い、下着等はカリムから借りている為ちゃんと履いている。
姫「ほお、いろいろな店があるんだなぁ」
絢香「えっと、まずは何処から行きましょうか?」
零「ふむ……そうだな……」
絢香にこれからどうするかと問い掛けられた零は顎に手を添えながら唸り、興味深そうにショッピングモールを見渡す姫の恰好を見つめながら考える。
零「……取りあえず服からにするか。何時までもアズサを真似した恰好じゃアイツが不憫だろうし、買った服に着替えさせてそれから買い物すればいいだろ」
晃彦「そうだな。んじゃ、先ずは服屋からってことで……」
◇◆◆
それから数十分後、零達がまず最初に訪れたのは先程の場所から徒歩5分の場所にある洋服店だった。店内には様々な服が並んでおり、分かってはいたが店内で買い物をする客は女性客が殆どだった。
絢香「ほら姫様、これなんてどうですか?」
姫「んー?だが少し可愛らし過ぎないか?どちらかと言えば君の方が似合いそうな気がするが」
絢香「そんな事ないですよ!とっても似合います♪」
紗耶香「あ、絢香様、その服にならこっちのジーンズと合わせて……」
カリム「あ、ほらアズサ、ちょっとこの服試着してみたら?」
アズサ「?私も……?」
カリム「えぇ♪貴女も元は良いんだから、ちゃんとオシャレすればもっと可愛くなりますよ♪」
アズサ「……?良く分からないけど……分かった」
カリム「素直でよろしい♪あ、シャッハ!次はそっちの服もお願い!」
シャッハ「……騎士カリム……何だか楽しそうですね」
洋服店に入って早々、姫に似合いそうな服を意気揚々と選び始める絢香達と、その隣でアズサを着せ替えして楽しむカリム達。そしてそんな普段では見られない年相応の姿を見せる一同を見つめる零達は……
零「……楽しそうだな……」
晃彦「あぁ……ホントだな……」
勇二「まぁ……こっちは暇過ぎて死にそうだけどなぁ……」
……零、晃彦、勇二の鈍感トリオは店内にある椅子に座って呆然とその光景を眺めていた。というか女性客ばかりしかいない店に男子三人がいるのは妙に目立つ、そして暇過ぎる。
勇二「一応覚悟はしてましたけど……やっぱり暇ですねぇ……」
晃彦「だな……女子が服選びに没頭してる間、こっちはただ座って待ってるしか出来んからな……」
零「先に服を選ぼうと提案したのは間違いだったのか正しかったのか……………ん?おい晃彦、お前缶珈琲に何を入れてる?」
呆然と服選びを楽しむ女子組みを眺めていた零だが、隣に座る晃彦が先程買った缶珈琲に何かを入れてる事に気付いて声を掛けると、晃彦は「ん?ああこれか?」と何やら良い笑顔で缶を寄せてきた。
晃彦「先程俺の世界では見られない珍しいプロテインが売ってあってな。ソイツを入れた特製の缶珈琲だ♪お前も飲むか?」
零「……いや……俺は良い。というかそもそも、俺はプロテインとか飲まん主義だし」
晃彦「なっ?!プロテインを飲まんだと?!ありえんっ……どういう神経をしとるんだお前は?!それでも人間か?!」
零「いや少なくとも缶珈琲にプロテインぶちまけるお前よりかはマシな人間だと自負出来るぞ、俺」
晃彦「馬鹿なっ……良いだろう!ならば今度、お前が嫌でも飲みたくなるプロテインを持って来てやる!首を洗って待っていろ!!」
零「………なんで俺コイツに宣戦布告されてるんだ?」
勇二「アハハハ……」
缶珈琲を片手に零を指差しながら、背後に変な闘志を燃やす晃彦に困惑の表情を浮かべる零。そんな二人のやり取りを見ていた勇二は苦笑いを浮かべていた、そんな時……
姫「男子が三人隅っこに集まって、なにをしてるんだ君達は?」
零「…?木ノ花?」
今まで絢香達に服を選んでもらっていた姫がいつの間にか零達の目の前に立っており、姫の存在に気付いた零は晃彦から姫へと視線を移した。
零「別に何もしていない、ただちょっと話し込んでただけだ……そういうお前こそ、服選びはいいのか?」
姫「あぁ、そっちはもう終わった。今絢香達が選んだ服を会計しに行ってくれて……ん?晃彦、君の隣に置いてあるそれはなんだ?」
晃彦「ん?……ああこれのことか?」
服を選び終えたことを三人に伝えようとするが、姫は晃彦の隣に置かれたピンク色の容器を見て不思議そうに問い掛け、晃彦はその容器を手に取って姫に見せていく。
姫「それは?」
晃彦「さっき其処で買ったプロテインだ。俺の世界では見られない物だったからつい買ってしまってな♪」
姫「ああ、何だプロテインか。てっきり違うモノかと思って一瞬驚いてしまったぞ」
勇二「?違うモノって?」
姫の発言に勇二は疑問げに聞き返し、その問いを受けた姫は若干顔を赤らめながら目を泳がせると……
姫「いやその……色とサイズ的に携帯用のオナ〇かと思ってな……」
零「そんなもの堂々と外で持ち歩く訳ねぇだろ……というか今更だが本当に頭大丈夫かお前?」
姫「ん?いきなり失敬な奴だな君は?私は封印される前と変わらず、頭の中は今でも思春期真っ只中だ!」
零「……ああ尚更ダメだなこの女……」
威張るように胸張って叫ぶ姫に零も何処か諦めたような声を漏らし、晃彦と勇二はそんな零を見て苦笑いと冷や汗を流していたのだった。
◇◆◆
それから洋服店での買い物を終えた一行は姫に新しい服を着せ、他の日用品を揃える為にショッピングモールを再び歩き回る事となった。
しかし、この後も木ノ花之咲耶姫の暴走に振り回される事になるとは、この時はまだ誰も気付いてはいなかった。
時に下着を買いに行こうとランジェリーショップに向かう途中で……
姫「……そういえば、絢香は普段どんな下着を身につけているんだ?」
絢香「え、えぇ?!な、何ですかいきなり?!」
姫「いや、出来れば君達の趣味も参考にして下着を選ぼうかと思ってな……で、どうなんだ?」
絢香「え……えぇっと……ほ、殆ど普通ですよそんなの……というか、そういう姫様はないですか?コレといったこだわりというか何というか……」
姫「ふむ、こだわりか……こだわりかどうかは分からないが、私は下着の色は赤しか選ばない主義だ」
絢香「へ…?どうしてですか?」
姫「赤ならアノ日が近い時はいつ着ても大丈夫だからな」
零(……そんなこったろうと思った……)
◇◆◆
時に薬局で買い物の最中で……
姫「……むーー……」
零「……?何をしてるんだ木ノ花?」
顎に手を添えながら難しい表情で商品が並ぶ棚を睨みつける姫。零はそんな姫の様子に疑問を浮かべながら姫が睨みつける棚に視線を向けると、其処には一つの商品が別の商品コーナーに置かれていたり位置が斜めにズレていたりする商品等があった。
零「?その棚がどうかしたのか?」
姫「いやな……私はこういう風に商品を雑に扱う輩は好かないんだ。だって、後で買い物しに来た人達の事を考えてないみたいだろう?」
零「……まあ、確かに見ていて気持ちが良いワケではないが……」
姫「そうだろう?だから君もコレを直すのを手伝ってくれ。こういうのは自分でやらないと気が済まないんだ。あと位置直しも頼む」
零「細かい奴だなぁ。あまり細かいこと気にしてるとハゲるぞ?」
姫「下の毛なら大歓迎だ」
零「……ああそうですか」
◆◇◇
時に休息で寄ったレストランで……
勇二「……うぅ……すみません……ちょっとトイレ……」
零「ん?おい勇二?」
一同がレストランのテーブルに着いて何かを頼もうとするが、突然勇二が腹を抑えながら立ち上がり店の奥のトイレへと向かっていった。
晃彦「勇二の奴、一体どうしたんだ?」
絢香「心配ですね……お腹壊したんでしょうか?」
姫「いや……果たしてそう言い切れるかな?」
零「?どういう意味だ?」
何かを見通しているような発言をした姫に零は訝しげに聞き返し、姫は腕を組みながら伏せていた瞳を開いて……
姫「巨〇ならあの位置に手があっても可笑しくはない!溜まってたんだろうきっと……!」
零「いやありえねぇよ」
アズサ「……?シャッハ、巨〇って何?」
シャッハ「貴女が覚えなくて良い事です!というか今すぐ忘れなさい!!」
アズサ「???」
ボケる姫に零がツッコミを入れる中で、アズサは自分の疑問をシャッハにぶつけるも教えてもらえず、頭上に疑問符を浮かべて小首を傾げていたのだった。
◇◆◆
時にたまたま寄った近くの公園で……
零「……ん?絢香、アレは一体なんだ?」
絢香「はい?」
公園を歩いていた零は芝生の先を指差しながら疑問げに問い、絢香は零が指差す方へと顔を向けた。其処には湖の近くにある一本の木の下で一組の男女が向かい合い、なにやら告白をしている光景があった。
晃彦「アレって……もしかして告白してるのか?」
絢香「あぁ、はい。アレはこの辺じゃ結構良く見掛けますね。特にあの木の下では」
零「?なんだ、あの木には何かあるのか?」
絢香「はい。あの木は昔からあった物みたいで、あの木の下で告白をすると恋が成就するって伝説があるんです。街で有名なスポットの一つでもありますよ」
零「ほぉ……昔からって事は、お前の時代にもあったのか?あの木」
姫「ん?ああ、言われてみればあった気もするが……だが、その時の伝説は全然違う物だったぞ?」
勇二「違うって……じゃあどんな伝説が流れてたんですか?」
姫「うむ。私の時代では、あの木の下で種付けすると高確率で子供が出来るという伝説が流れてたな」
零「…………色んな意味で台無しだなおい……」
そうこう話してる間に、木の下で女性が告白していた男が女性を強く抱きしめていた。恐らく告白が上手くいったのだと思うが、今の話を聞いたせいか全然感動出来ない。
絢香「え、えっと……ああでも!恋愛物って結構女の子が憧れちゃうようなモノがいっぱいありますよね!」
姫「ふむ……確かにな。中には現実味がないと言う輩もいるが、やはりそういう物には憧れるな」
絢香「ですよね!例えば……あっ、良く恋愛物で有りがちの運命の赤い糸とか!あれ憧れちゃいますよねぇ~」
姫「おぉ、赤い糸か!そのようなモノがあったら……『ヘッヘッヘ、お前アソコから糸引いてやがるぅ~』と日常的に言われるだろうなぁ」
零「言われますね」
勇二「ツッコミ放棄ッ?!」
もう一々ツッコムのめんどくさいから良いや、と遠い目をしてツッコミ放棄してしまった零に代わりにツッコミを入れる勇二。
絢香「あー、えぇっと……そ、そういえば!零さんは今まで女性と付き合った事ってあるんですか?」
零「……ん?あっいや、話を振ってもらって悪いがそういう関係になった異性はいないぞ、俺」
姫「そうなのかぁ……では右手が恋人なんだな」
零「いや違うから……」
姫「ん?違ったのか?では左手か?」
零「だからそういう訳じゃないとっ……」
姫「右手でも左手でもない?ではまさか……口が?!どれほど身体が柔らかいんだ君は?!」
零「一番ねえよ」
晃彦「……二人とも、早く先に行こう……」
絢香「そ、そうですね……」
勇二「だな……」
下ネタを連発して暴走する姫と姫にツッコミを入れる零を置いて先に向かう一同。そうして暫く漫才を繰り返してた二人が一同がいなくなった事に気付いて後を追い掛けたのは、それから10分ほど経った後だった。
◆◇◆
零「…………………………………疲れたっ………」
あれから姫のエロボケネタに振り回されながらも買い物を続けた一行だが、零は休憩を申し出て姫と紗耶香と共にベンチでくたびれた様にうなだれながら座っていた。
因みに他のメンバーは休憩時間を利用して目の前にあるゲーセンへと遊びに行っており、晃彦と勇二も零のようにくたびれていたが、有無を言わせないと言わんばかりに女性メンバー達によって強制連行されていた。
紗耶香「ふぅ、随分とくたびれているな黒月?そんなに疲れたのか?」
零「……ああ……主にあの神様へのツッコミのせいでな……」
聞いただけでも疲れてます、と分かるような声で言いながら零はうなだれていた顔を上げ、視線だけを動かしてゲーセンの隅っこへと目を向けた。其処には……
『ワンワン!ワン!』
姫「アハハハッ!コラくすぐったいだろう♪」
何処からやって来たのか分からない子犬と戯れ合い、子供のように笑う姫の姿が其処にあった。そもそも零が休憩したいと申し出たのもあの女のエロボケネタに振り回され続けたからなのだが、当の本人である姫はそんな事も知らずに子犬を可愛がり、そんな光景に零は再びガクリとうなだれてしまう。
零「全く……誰の為に買い物してやってると思ってるんだ、アイツは……」
紗耶香「仕方あるまい……桜ノ神様は長年もの間ツボに封じられていたのだ。漸く自由になれたのだから、少しばかりハメを外し過ぎているだけだろう」
零「いや、あれで少し程度なのか?」
いくらなんでもあのハメの外し方は少しではないだろう?と険しげに眉を寄せて紗耶香に告げる零。そんな零の発言に紗耶香も少なからず共感しているのか冷や汗を流しながら黙り込み、零はそんな紗耶香の反応を見てもう一度深い溜め息を吐くとベンチからゆっくりと立ち上がった。
紗耶香「黒月?何処に行く気だ?」
零「ちょっと散歩がてら飲み物でも買ってくる。お前はあの女を見てろ。勝手に何処か行かれて捜すとなったら面倒だからな……」
紗耶香「あぁ、分かった。だが早く帰ってこいよ?」
いつ絢香様達が戻って来るか分からないからなと付け足す紗耶香に零は片手を軽く上げて答え、そのまま飲み物を買いに行こうと歩き去っていったのだった。
◇◆◇
―……ピッ、ガタンッ!―
零「はぁ……まさか買い物だけで此処まで疲れるとはな……いや、この場合ツッコミだけでと言うべきか?」
溜め息を吐きながら自販機のボタンを押していき、思わずそんなことを呟く零。まだまだ買い物は続くようだから、買い物を再開したらまたあの女のボケに付き合わされるハメになるんだろうか?……想像しただけでも気が滅入るので考えるのは止めよう。
そう思いながら缶の飲み物を口内へと流し込み姫達の下に帰ろうと歩き出した、その時……
「―――あっ!お姉ちゃんだぁー♪」
「お姉ちゃーん!」
零「……ん?」
姫達の下に戻ろうした零の耳に大勢の子供達の声が届き、零は足を止めてその声が聞こえてきた建物に目を向けた。それは……
零「……孤児院『青空』?」
零の瞳に映ったのは大勢の子供達の楽しげな騒ぎ声が聞こえてくる建物……青空という名の孤児院だった。
零「孤児院か……そういえば翔のとこ以外の孤児院は初めてみるな……」
以前大輝と共に祐輔の世界で翔の孤児院のリフォームを手伝った事があるが、他の孤児院はどんな感じなんだろうか?興味本意でそう思った零は缶を片手に歩き出し、孤児院の中を覗き込んだ。其処には……
桜香「ふふ、久しぶりね。みんな元気にしてた?」
「うん!」
「ねえねえお姉ちゃん!今日はお姉ちゃん、ずっと孤児院にいるの?」
桜香「あー……ごめんなさい……またこの後すぐ仕事に戻らなきゃいけないのよ」
「えー……またお仕事ー……?」
桜香「ごめんなさいね……でもそれまでまだ時間はあるから、少しだけなら一緒に遊べるわ」
「ホント?!じゃあじゃあ、一緒にかくれんぼしよ!」
「あっお前だけずるいぞー!」
「お姉ちゃん!私も私もー!」
桜香「はいはい焦らない焦らない。じゃあ最初は――」
零「ッ!アイツは…?!」
其処には孤児院の庭の中で一人の女性……公園で零達とツボを賭けて戦った桜香が孤児達と楽しげに遊んでいるという光景があったのだ。
公園で自分と戦った女とは思えない明るい笑顔で子供達と遊ぶ桜香の姿にも驚いたが、何故桜香がこんな所にいるのか?動揺を隠せない零がジッと子供達と遊ぶ桜香を見ていた、そんな時……
「――あら?貴方は?」
零「……ん?」
不意に隣から誰かに声を掛けられ、零は桜香に向けていた目をそちらに向けた。すると其処には一人の高年の女性……格好からしてこの孤児院の先生と思われる女性が不思議そうにこちらを見ていた。
「えぇっと……どちら様?うちに何かご用でも?」
零「あ、いやその……すまない……彼処にいるのって、土御門桜香だよな?」
「?もしかして桜香ちゃんのお知り合い?まあまあ、あの娘も隅に置けないわねぇ♪こんなイケメンさんとお付き合いがあったなんて♪」
零「……は?」
何故か楽しそうに笑う女性の言葉に零は訳が分からず疑問符を浮かべてしまうが、視界の端に桜香と子供達の姿が映ると女性と桜香達を交互に見て口を開いた。
零「えっと……すまない。少し聞きたいんだが、桜香は何度も此処に来ているのか?」
「?もしかして貴方、桜香ちゃんから聞いていないの?」
零「?聞いてないって……何を?」
疑問そうに問い掛けてきた女性に零も思わず首を傾げながら聞き返し、それで零が何も知らないのだと理解した女性は少し言い難そうな表情で桜香を見つめながら口を開いた。
「その……あの娘はね……昔此処の孤児院で育った娘なの」
零「ッ?!」
桜香が此処の孤児院出身。女性の口からそう聞かされた零は驚愕の表情を浮かべ、子供達に明るい笑顔を向ける桜香へと視線を向けたのであった。
◇◆◇
「バイバイお姉ちゃーん!」
「また遊びに来てねー!」
桜香「えぇ、またね」
それから数十分後、今まで子供達と遊んでいた桜香はそろそろ仕事に行かなければと言って孤児院を後にしようとし、手を振って見送る子供達に手を振り返しながら門から出て何処かに向かおうとする。その時……
「――驚いたなぁ……お前でもあんな顔して笑うんだな?」
桜香「…っ?!」
不意に背後から誰かに声を掛けられ、桜香はそれに驚きながら直ぐさま背後へと振り返った。すると其処には孤児院の塀に背中を預けながら桜香を見つめる零の姿があった。
桜香「あ、貴方っ……どうして此処に?!」
零「なに、たまたま通り掛かっただけだ……だが驚いたな?まさかお前が子供好きだったなんて」
桜香「っ……ずっとのぞき見してたわけ?趣味が悪いわね……」
零「それもたまたまだ……別に見たくて見たかった訳でもない」
バツが悪そうに顔を逸らす桜香とは対照に、なんでもないように言いながら軽く息を吐く零。そして塀の壁からゆっくりと背中を離すと、零は孤児院を見つめながらポツリと呟いた。
零「……お前も昔、此処の孤児院で育ったんだってな?」
桜香「……調べたの?私のこと……」
零「いいや、さっき呼び掛けられた此処の先生から話を聞いた。なんでもお前が九歳の頃から面倒を見てきたとか言っていたが……」
桜香「林先生か……全くあの人は余計な事を……」
ふぅと呆れるような溜め息を吐きながらそう呟くと、何処か観念したかのような顔をしながら零と同じように孤児院を見つめながら口を開いた。
桜香「――私がまだ九歳の頃にね、両親が交通事故に巻き込まれて死んだのよ。身寄りを失った私は此処の孤児院に入って、それから十四になった頃に土御門家に引き取られて鬼王を受け継ぐ為の教育を受けさせられたの」
零「?鬼王を受け継ぐ為に引き取られたって……」
桜香「ああ、言ってなかったわね……私は土御門家の本当の子供じゃないのよ。本来鬼王を受け継ぐべき子が不治の病に遭って亡くなったみたいでね、それで急遽その子の代わりとして私が引き取られたの……」
何処か辛いような、懐かしむような表情で自身の過去を話していく桜香。そんな桜香を見つめながら零は黙って話に耳を傾け、桜香は静かに話を進めていく。
桜香「最初は辛い事ばかりだったけど……私を引き取ってくれた土御門家に恩を返す為にもくじける訳にはいかない。ただその一心で聖者への修業を乗り越え、私は鬼王としての力を手に入れた……幻魔と戦う為にね」
零「…………」
桜香「それから私は人造幻魔達を引き連れてこの世界に現れたギルデンスタンと戦い、その中で絢香や紗耶香達と出会い、仲間となってギルデンスタンを倒した……長い戦いを終わらせる為に……それで全部終わるのだと信じて……それだけの為に戦ってきた」
零「……なら何故幻魔神を蘇らせようとする?ソイツを蘇らせれば、更に戦火が広がるんじゃないのか?」
幻魔との戦いを終わらせる為に戦ってきたなら、何故今幻魔神を蘇らせようと動いているのか?それが理解出来ない零が疑問げに質問すると、桜香は奥歯を噛み締めながら語り出す。
桜香「そうね……確かに奴が復活すれば世界が混乱し、戦火が広がる可能性が高い……でも……今も無差別に人々を襲ってる幻魔達を消し去るには、幻魔神を倒すしかないのよ!」
零「?どういう意味だ?」
桜香「簡単な話よ……全ての幻魔は幻魔神という存在が有る事によって延々と生まれてくる……つまりどれだけ雑魚を倒しても奴らが尽きる事は決してない……幻魔神という存在を消すしかね」
零「ッ!」
全ての幻魔は幻魔神という存在から生まれてくる。つまり幻魔神が存在する限り幻魔が全て消える事はない。そう聞かされた零は驚愕し、同時に桜香のホントの目的を理解した。
零「ならお前は……幻魔神を復活させて倒すために、幻魔達に……?」
桜香「えぇ、絢香達は幻魔神復活に反対しているようだから、これしか方法はないと思ったのよ……」
零「ッ!……絢香達はその事、知っているのか?」
桜香「さあ、多分知らないんじゃないかしら……私もギルデンスタンとの戦いの後に幻魔界に行って、奴が生前に使っていた研究所を調べて知ったんだし」
零「お前っ……なら何故その事を絢香達に話さないで殺そうとした?!あの二人にその事実を話せば、きっとお前の考えに賛同して……!」
桜香「それはないわね……絢香達はどんな事があっても幻魔神を復活させようとはしないわ」
零「何故だ?!そんなこと話してみないと……!」
桜香「分かるわよ……あの二人は幻魔神が復活する事で世界が混乱する事を恐れている。例えこのことを話しても奴を復活させる事に賛同するハズがない。貴方も公園で見たでしょ?絢香が必死に幻魔神の復活を妨げようと私の前に立った姿を……」
零「…………」
桜香に言われて公園で必死に幻魔神復活を阻止しようと身体を張る絢香の姿を思い出し、零は言葉が詰まってそれ以上言えなくなり口を閉ざしてしまう。
零「……だからって、何も殺そうとする事はなかったんじゃないのか?アイツ等はお前の仲間だったんだろう?何故そう簡単に殺そうとする事が……」
桜香「…………」
幻魔達を消す為なら、仲間である絢香と紗耶香を殺す事を厭わないのかと。険しげに桜香へと問い掛ける零だが、桜香は無言のまま何も言わずに孤児院に視線を向けながら話し出す。
桜香「―――私ね、此処の子供達からお姉ちゃんって呼ばれてるの……多分前に孤児院にいたからそう呼ばれてるんでしょうね……血は繋がっていないけれど、本当の姉みたいにあの子達は接してくれる……そんなあの子達が愛おしくて堪らないの……」
零「?何の話だ?」
何故かいきなり子供達の事を話し始めた桜香の意図が分からず疑問符を浮かべる零だが、桜香はそんな零を他所に言葉を紡ぐ。
桜香「だから私は、あの子達が傷付いて涙を流す姿を見たくない……貴方は知らないでしょうけど、此処にいるほとんどの子供達は……幻魔達に両親を殺されて居場所を失った孤児達なのよ……」
零「なっ……」
この孤児院にいるほとんどの孤児達が、両親を幻魔に殺されてしまった身寄りのない子供達。それを聞いた零は絶句して言葉を失い、今も庭で遊んでいる子供達へと視線を向けた。
桜香「分かる?私達が延々と幻魔と戦い続けている間にも、沢山の人達が傷付いてるっ……さっきも私達が公園で戦ってる間に孤児の子の一人が幻魔達に襲われそうになったらしいけど、黒い仮面の人に助けてもらって助かったそうよ……」
そう言って桜香は他の孤児達と一緒にボールで遊ぶ肩に包帯を巻いた男の子……先程ジョーカーに変身した翔一に助けられた男の子を指差すと、零に真剣な目を向けた。
桜香「もう悠長にしてる暇なんてないのよ……幻魔達の動きは日に日に活発化し始めて町への被害もひどくなってきてるっ……そうなれば、此処もいずれ幻魔達の被害に遭うかもしれない……だからそうなる前に、全ての元凶である幻魔神を復活させて奴を殺すしかないの!!これ以上あの子達の居場所を奪わせる訳にはいかないから!その為なら私は仲間を裏切るし、仲間を殺す事も問わない!!」
零「……お前……」
全ては此処にいる傷付いた子供達を守る為。そのためならどんな汚名を被ってもいいと、悲痛な叫びを上げてそう告げた桜香に零も口を閉ざした。
桜香「……みっともないとこ見せちゃったわね………どう?可笑しいでしょう?こんな馬鹿みたいな理由で私は絢香達を殺してツボを奪おうとしてた……最低な人間よ……私は……」
零「……そうだな……お前は馬鹿な女だ……それについては激しく同意する」
桜香「ふふ……貴方も容赦ないわね……でもそうよ。私は仲間とあの子達を天秤に掛け、あの子達を選んだ……紗耶香に裏切り者って言われるのも当然――」
零「違う。俺が言いたいのは……何故もっと早くその事を絢香達に言わなかったのかって事だ」
桜香「……え?」
静かに、それでいて何処か怒りを含んだ口調でそう言い放った零に桜香は思わず呆然としてしまうが、零は瞳を伏せて深く息を吐いて告げた。
零「お前がもっと早くそのことを絢香達に伝えておけば、もっと違う道があったかもしれない……もしかしたらってこともあったかもしれない……お前はその可能性を自分で壊したんだ」
桜香「…………」
零「お前が裏切り者と罵られるようになってしまったのは、確かにお前のせいだ。だがそれはお前が絢香達を裏切って殺そうとしたからじゃない……お前が……仲間を信じないで一人で突っ走ったからだ」
桜香「ッ!」
零「絢香はお前を信じようとした……だがお前は勝手に予想を付けて絢香達の手を取ろうとしなかった……仲間達に自分の意思が受け入れてもらえないことを恐れて自分から裏切った……お前の間違いはそれだ……仲間が仲間を信じられなければ、それで終わりなんだ……そんな事、お前が一番分かってるんじゃないのか?」
桜香「…………」
真剣な表情でそう言い放った零に桜香は言葉を失って黙り込んでしまう。そして暫く経つと、桜香は顔を俯かせながら自嘲するように笑みを漏らしていく。
桜香「仲間が仲間を信じられなきゃそれで終わり、か……ふふ、そうね……確かにそうだわ……私は自分の意思を絢香達に受け入れてもらえないのが怖かった、だから自分から裏切った。絢香達なら話せば分かってくれてたかもしれないのに……そんな当たり前のことを忘れるなんて……本物の馬鹿ね……私は……」
零「桜香……」
桜香「……零……悪いけど、此処で話した事は絢香達には内緒にしててくれる?この事は私が……私自身の口で、いつか絢香達に話すから……」
零「……これからどうするつもりだ?」
桜香「……一先ず幻魔退治でもしながら、此処から東にある霊山にでも行ってみようかと思ってる。彼処は昔幻魔神が根城にしていた山でもあるから、何か手掛かりが掴めるかもしれないし」
零(東の……霊山?……まずい……彼処は確か幻魔神が封印されてる場所じゃなかったか?)
桜香が東の霊山に行くと告げて幻魔神が封印されてることを思い出した零は内心焦りを浮かべてしまうが、そんな零の様子の変化に気付いた桜香は軽く溜め息を吐きながら腰に両手を当てていく。
桜香「何よその反応?言っておくけど、仮に幻魔神が封印されている場所を見つけても一人で挑んだりしないわよ?封印を見つけたら、先ずは絢香達に伝えに言って全てを話す。今までのこと全部ね」
零「……いいのか?絢香は大丈夫だと思うが、紗耶香が黙ってるとは限らんぞ?」
桜香「そうなっても仕方ないわ……私が彼女と絢香にしてきた仕打ちは謝って済む問題じゃない……だから斬り捨てられる覚悟で行く……その上で、一緒に幻魔神と戦って欲しいと頼んでみる」
零「以外と度胸のある女だな、お前……」
桜香「ふふふ、それだけが取り柄だから……じゃあ、そろそろ行くわ」
微笑みながら零にそう言うと軽く手を振りながら東の霊山に向かおうとする桜香。その時……
零「おい、ちょっと待て」
桜香「……ん?」
零が何故か桜香の背中を呼び止め、桜香は怪訝そうに小首を傾げながら零の方へと振り返った。そして零は無言で桜香へと歩み寄って手を掴むと、ポケットから神社のお守りのような物を取り出し、それを桜香の手に押し付けた。
桜香「?これ……」
零「お守りだ。ホントなら自分の為に買ったんだが、どうやら不幸が強すぎる為に俺には効かないようだ。だからお前が持っとけ……お前も以外と無茶する所があるからな」
桜香「……クス……何だ、心配してくれるの?」
零「そんなわけあるか……ほらさっさと行け。俺もそろそろ皆のところに戻らんといけないからな」
そっぽを向きながらさっさと行けとジェスチャーする零。桜香はそんな零の姿に思わず笑みを浮かべると、受け取ったお守りをつまむように持ちながら……
桜香「色々と世話になったわね、零…………私、貴方みたいな人は結構好きよ♪」
零「…………は?」
先程子供達に向けていたのと同じ優しげな笑みを浮かべながらそう告白した桜香に零は思わず唖然となり、桜香はそんな零の顔を見てクスクスと笑いながら霊山へと歩き去っていった。
零「……何なんだあの女は……訳が分からん……」
唖然としていた零も桜香の背中を見て漸く正気に戻り、より一層疲れた溜め息を吐きながら姫達の元へと戻ろうと歩き出していった。その陰では……
紗耶香「…………桜香の奴………馬鹿者め…………」
零の帰りが遅いのに気になって捜しにきた紗耶香が、建物の陰に隠れながら今の話しを立ち聞きして複雑な表情を浮かべていたのだった。
◇◆◆
それから数分後、桜香と別れた零は先程姫達と別れたゲーセン前のベンチへと戻ってきていた。しかし其処にはベンチに座っていた筈の紗耶香や他のメンバーはおらず、姫が未だに子犬と戯れている姿しかなかった。
零「……お前、まだソイツと遊んでたのか?」
姫「よぉーしよーし♪……ん?零か?遅かったじゃないか、一体何処に行ってたんだ?」
零「ちょっと野暮用だ……それより、まだ絢香達は戻って来ないのか?というか紗耶香は何処に行った?」
姫「?紗耶香なら君を捜しに行くと言って何処かに行ってしまったぞ?途中で会わなかったか?」
零「俺を捜しに?ふむ……まあ待ってればその内に帰ってくるだろう」
先程桜香と話したせいか少し疲れたし、ちょっと休むかとベンチに腰を下ろしていく零。姫もそんな零から視線を逸らして子犬と向き合い、再び子犬と戯れ合いだした。
零「……それにしても、お前ホントに子犬が好きなんだな?」
姫「ん?あぁ、だって愛くるしいではないか♪まあ、そんな私でも大型犬とかは苦手なんだが……」
零「?なんだ、もしかして怖いのか?神のくせして」
姫「だって、大型犬に押し倒されながら唇とか舐められてると獣〇されてるみたいに見えるだろう?」
零「………それ言われたらそう見えるようになってしまうから言って欲しくなっかったなぁ………」
というか子犬相手にまで下ネタ言うかこの女は、と一気にテンションが下がってしまう零。姫はそんな零を他所に子犬と遊んでいくが、その時何かを思い出したように突然立ち上がった。
姫「そうだ……零、悪いが少し行きたい所があるんだが、付き合ってもらって良いか?」
零「?行きたい所って、まだ絢香達が戻って来ないだろう?それに紗耶香もまだ……」
姫「あぁ、その点なら心配は無用だ♪」
姫は微笑みながらそう言うと何処からかペンと一枚の紙を取り出し、ペンで紙に何かを書いていく。
恐らく戻ってきたメンバーに対し心配いらないという内容でも書いているのだろう。そう考えている間に姫は足元に落ちている小石を拾ってベンチの上へと紙を乗せ、更に紙の上に風で飛ばされるの防ぐ為の小石を乗せていく。
姫「これでよしっと……では行くとしよう!」
零「……え?いやホントに行くのか?」
姫「ん?当然だろう?その為に書き置きを書いたんだぞ?」
零「いやそれは分かるんだが、その前に俺の意思とかな「ではいざ行かん!しゅっぱーつ!」……ハハ……人権って何の為にあるんだろうネェー……」
肯定も否定もする間もなく意気揚々な姫に襟を捕まれ、そのまま何処かに向かって引きずられながら遠くを見つめる零であった。