仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT   作:風人Ⅱ

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第十七章/桜ノ神の世界⑧(後編)

 

 

―桜ノ町・高台―

 

 

零「―――おい、何処まで行く気だ?というかこんな場所に何の用が……」

 

 

姫「ついて来れば分かる。ほら、こっちだ」

 

 

何処に行くのか聞かされないまま、姫に強引に連れて来られたのはショッピングモールから少し離れた場所にある高台だった。そして疲れた身体にはキツイ長い階段を登り切ると、其処には頂上である広場や公園等が広がっており、姫は広場を見渡しながら唸り声を上げていく。

 

 

姫「ふむ……やはり此処も変わってしまっていたか……」

 

 

零「?何だ、此処になにかあったのか?」

 

 

姫「ああ。私の時代の時には此処に一面中綺麗な花畑があったんだが……やはり無くなってしまってるようだな……思い出の場所だったんだが」

 

 

寂しげな顔でそう言うと、姫はその場から歩き出して高台の手摺りへと近づいていき、零も無言で姫の隣に歩み其処から見える景色を眺めていく。其処にはオレンジ色の黄昏れに照らされる桜ノ町が一望出来、姫は手摺りに両肘を付けて目を細めた。

 

 

姫「此処もか……私が封印されていた間に色々と変わったんだな。あの頃とは何もかもが違う……」

 

 

零「そんなの普通だろう。個人の意思とは関係無しに世界は移り変わっていく。自然の道理なんてそういうものだ」

 

 

姫「それはそうなんだが、な……変わって欲しくないと思うものだってこの世にはあるさ。思い入れが有れば尚更な……」

 

 

零「……そう思うならお前が力を使って残すようにすればいいだろう?一応この世界の神なんだし」

 

 

姫「馬鹿な事を言うんじゃない。確かに変わって欲しくないと思うが、逆に此処まで世界を変えたのは人達が血の滲む努力をしたからだ。その努力を、私自身の勝手な都合で無為には出来ん」

 

 

零(……ほう……コイツでもまともな事は言うんだな……)

 

 

若干皮肉を込めて言ったつもりなのだが、案外まともな答えを返した姫に内心驚く零。そんな姫の横顔を見つめながら手摺りに背中を付け、目を動かして広場を眺めていく。

 

 

零「……さっき、思い出の場所とか言っていたな…?此処に何があったんだ?」

 

 

姫「ん?ああ……特に何かがあったという訳じゃないな。ただ此処に綺麗な花畑があって、周りには美しい自然があって、森に様々な動物達がいた……まだ人間だった頃に良く来ていた場所だったから、少し懐かしくなって来てみたくなったんだ」

 

 

零「?人間……だった?」

 

 

だったとはどういう事か?姫の発言に疑問を感じて思わず聞き返してしまう零であるが、ふと知り合いの神である幸助やシオンの姿が脳裏を横切った。

 

 

零「お前まさか……人間から神に神化したタイプの神なのか?」

 

 

姫「?何故分かった?」

 

 

零「……ちょっと知り合いにそういう奴らが居てな。それで大体予想が付いただけだ」

 

 

姫「ほう……もしかして、その知り合いとやらは混沌の神や深淵の神達の事か?」

 

 

零「ッ!何だ?お前幸助達のこと知ってるのか?」

 

 

姫「神の中でも彼等の名は有名だからな、一応名前だけなら知っている。何でも変神が多いと聞いているが?」

 

 

零「……まあ変神と言えば変神が多い気もするが……お前も十分変神だぞ?」

 

 

姫「ああ安心しろ、それはちゃんと自覚してる♪」

 

 

零「…………そうかよ」

 

 

自覚してるなら直せよとツッコミ掛けてしまう零だが、多分言ってもまたボケで返されるに違いないと思い言葉を飲み込んだ。そんな零の心境を他所に姫は笑みを漏らしながら、黄昏れに包まれる町を眺めていく。

 

 

姫「まあ、確かに私は人間から神へと神化した神だが……別に始めからなりたいと思ってなった訳じゃないんだ。寧ろ私自身、神を恨んだりとかした事もあったからな」

 

 

零「…?神を恨んでたって……ならどうして神になんかなったんだ?」

 

 

理由は知らないが、姫自身が神を恨んでいたなら何故神などになったのか?それが気になった零が思わず口にして問うと、姫は町を眺めたまま何処か自嘲する様に笑った。

 

 

姫「確かに神は嫌いだ。神になりたいと思ったのも、別に神の座に興味があった訳じゃない。私はただ……神になればもう誰も失わずに済む、誰も悲しない世界が創れる、すべての人達に幸福を与えてやれるのだと……そんな絵空事みたいな理由で神になったんだ、私は」

 

 

零「……確かに聞いた限りじゃ絵空事みたいに思えるな……だがそんな絵空事みたいな理由でも、それなりの要因があったからそう思って、神になろうと決めたんじゃないのか?」

 

 

姫「……まあな……」

 

 

目を細めてそう問い掛けてきた零に一言で返すと、姫は何処か遠くを見つめる様に黄昏れの空を見上げた。

 

 

姫「私は神になった時から人間だった頃の記憶を殆ど失ってしまってな。今では思い出せる記憶も数える程度しかないが………その中に二つだけ、今でも鮮明に思い出せる記憶がある……一つはこの場所で過ごした記憶と………一人の妹と、二人だけで暮らしていたという記憶を………」

 

 

零「……妹?他に家族はいなかったのか?」

 

 

姫「あぁ……両親がいたという記憶はない。死んだのか、それとも最初からいなかったのかは分からないが……私が覚えてるのは妹のことだけで、私が神になると決めたのもあの子が理由でもあった」

 

 

何処か懐かしむように笑いながら妹の事を話し始める姫。そして手摺りに背中を預けて瞳を閉じ、両手の指を絡ませながら話を続けていく。

 

 

姫「妹は病気持ちで身体が弱くてな。いつも家で寝てばかりで、私が家事や働きに出て家計のやり繰りをしていた……家計をやり繰りしながら妹の病気を治す薬を買おうとお金を貯めたし、たまに余裕があれば妹へのお土産を買ってあの子を喜ばせたりもした」

 

 

零「ほう……妹思いなんだな、意外と」

 

 

姫「別にそんなんじゃないさ。ただ、私自身があの子の笑顔を見たかっただけだ……ご飯を作ったり、看病をしたり、お土産を贈ったり、そんな些細な事をするだけであの子は笑って言うんだ……『ありがとう』って」

 

 

零「…………」

 

 

姫「私は別に、普通の女としての生き方なんて求めてなかった……ただあの子に感謝される事……それさえあれば他には何もいらなかった。それだけで満足していた。あの子にありがとうと感謝される事だけが、私の生き甲斐だったんだ……だが……」

 

 

優しげな顔で自身の妹の事を話していた姫だが、何故かその表情が暗くなり顔を俯かせてしまう。

 

 

姫「…………季節が冬に差し掛かった頃、あの子の病が悪化し出したんだ。私は直ぐに苦しむあの子を抱えて先生に診てもらうとしたが……どんなに頼んでも、何処も金がないというだけで突き帰され、誰もあの子を診てくれようとはしなかった……結局あの子を診てくれる先生は見つからず、私はただ病で苦しむあの子を黙って見てるしか出来なかった……」

 

 

ギリッと何かを噛み締めるような音が微かに聞こえた。良く見れば、姫が悔しげに唇を噛み締めている顔が見えたが、零は何も言わずに姫の話に耳を傾ける。

 

 

姫「悔しかったっ……目の前で苦しんでる人間がいるのに、なにもしてやれない自分がっ……そんな私があの子の為にしてやれたのは、神社でお百度参りをして神にすがる事だけだった」

 

 

零「お百度参りって、神社の境内で百回往復して百回拝むことしていくっていうアレの事か?」

 

 

姫「そうだ……何度も何度も、真冬の中で何度も境内を往復して妹の病気を直してくれと必死に神頼みした………だが………」

 

 

姫の声のトーンが先程より下がった。それが一体何を意味しているか、零はすぐに予想が付いて険しげに眉を寄せた。そして姫は瞳を伏せたまま顔を上げ、ゆっくりと口を開いて次の言葉を紡いだ。

 

 

姫「―――あの子は死んだ……最後に私と星を見たいとこの場所に来て、私に背負われながら……な……」

 

 

零「……………………」

 

 

何も言えない。悔しげな顔で、震える声で妹の死を口にした姫に掛ける言葉が見つからず、零はただ無言を突き通すしか出来なかった。そして姫は両手をゆっくりと開き、両目を細めたまま自身の手を眺めていく。

 

 

姫「間もなくして、私もとある事故に巻き込まれて死んだ……私は死ぬ間際にも神を恨んだよ。あの子は何も悪い事はしていないのに、どうしてあの子を救ってくれなかったのか。どうして何もしてくれないのか……そう思って死にかけていた私の前に突然現れたんだ。神が」

 

 

零「……神?お前以外にもこの世界に神がいたのか?」

 

 

姫「一応はな。と言っても、君が思っているような神ではないぞ?数百年前から人間の女に化けては、夜な夜な夜道を歩く人間の男を襲っている性欲の塊と言っていいド変態の神だ」

 

 

零(……コイツが其処まで言う程の変態ってどんな奴だ……?)

 

 

呆れるようにもう一人の神の事を話す姫を見て額から冷や汗を流す零。そんな零の反応を横目で見ると、姫は軽く息を吐きながら再び此処から見える町を眺めていく。

 

 

姫「どうやら本人曰く、この世界を司る神を探していたらしくてな。そんな時に私を偶然見付けて、私を神にしようと決めたらしい。その理由が―――」

 

 

 

 

 

 

『此処まで神に恨みを抱く人間なんて始めて見たからね。そんな人間が恨みを抱いている神になったら一体どうなるのか?っていうのも興味あるし、そんな神が今の世界を良い方向に導くのか悪い方向に導くのかも気になる……まあホントは資格者を探すのに飽きてきた頃だったし、貴方が何か問題を起こしても何の気兼ねなく殺せるから私自身が楽って話なんだけどね~♪』

 

 

 

 

 

姫「―――だそうだ」

 

 

零「……絶対性格歪んでるだろソイツ……」

 

 

というか、そんな理由で神になる人間を選ぶソイツが問題過ぎるだろう。と内心付け足してツッコむ零だが、姫は「そういう奴だから仕方がない」とウンザリとした感じで溜め息を吐きながら話を続けていく。

 

 

姫「最初は私も誰がそんな話しに乗るか!と反発していたが、良く考えて見ればそれも悪くないかもしれないと思ったんだ……神の座に興味はないが、神という立場になれば妹の様な不幸な人間達を救えて、多くの人達を幸せに出来るかもしれない。この無慈悲な世界を変えられるかもしれないと……そう思った私は神になるという話を呑んだんだ」

 

 

零「……じゃあつまり……それが……」

 

 

姫「そう……それが今の私……桜ノ神が生まれた瞬間だ……」

 

 

零「…………」

 

 

妹のような不幸な人間達を救う為に、もう誰も悲しまない世界を創る為に。それだけの理由で自身が恨んでいた神になると決めたのだと、そう告げた姫の姿は、何処か儚げに見えた……

 

 

 

姫「そうして神となった私は手始めに、私が妹と暮らしていたこの村……ああ、戦国時代だった頃のこの町だぞ?この村の人達から救おうと思って、あの神社に居座った」

 

 

零「あの神社……桜ノ神社のことか?」

 

 

姫「ああ。と言っても、私が居座り始めた頃は名前のない寂れた神社だったがな……あの神社に居座ってから、私は何の見返りも無しに村の住人の願いを叶えていった……金に困っていた貧しい家族を裕福にしたり、万病を抱えている子供の病気を治したり、誰かとの縁を結ばせて欲しいという恋結びなど……私は様々な願いを叶えていき、かつて貧しかったこの村を富裕にしていったんだ……」

 

 

零「…………」

 

 

姫「それから名前のなかったあの神社も、桜ノ神社と呼ばれるようになってな。村の人達も笑顔を絶やすことのない生活を送るようになった。これで誰も苦しむ事はない、これでこの人達は救われたんだと……そう思ってた……だが……」

 

 

姫がこの村の住人達を救い、住人達に裕福な暮らしをさせていった。それだけ聞けば良い話のように思えるが、姫は瞳を開いて何故か暗い表情を浮かべポツリと呟いた。

 

 

姫「ある日、他の貧しい村から一人の青年が駆け込んできてな。どうやら家族に食べさせる食べ物がなくて困っているらしく、村人達に食料を分けてくれて頼み込んできた…………だが、村の住民達はそんな青年に食料を分け与えず、寧ろ汚らわしい、貧乏人と見下して、その青年を全員で袋だたきにして殺してしまったんだ…………」

 

 

零「なっ……」

 

 

ただ食べ物を分けて欲しい。それだけの事を頼み込んできた青年を汚らわしい、貧乏人という理由だけで殺した…。悲痛な表情でそう告げた姫に零は思わず息を拒んで驚愕してしまい、姫はグッと震える両手を握り締めていた。

 

 

姫「信じられなかった……私がまだ人間だった頃に、私と妹に親切にしてくれた優しかった村人達が……人が変わったように何の罪もない青年を笑って踏み殺した事が……」

 

 

零「…………」

 

 

姫「……そしてその事件が発端になり、青年の住んでいた村の住民達がこの村に攻め込んできた……青年の仇討ちという口実で、様々な奇跡を起こしてこの村を裕福にした私を手に入れる為に……そしてこの村人達も、私がいなくなれば今の暮らしが出来なくなると恐れて、攻め込んできた人間達を殺し始めたんだ……」

 

 

一人の青年の惨殺。それがきっかけとなって他の村の住人達が目を光らせ、これを機にと姫を手に入れる為に戦争を起こした。そう聞かされた零は険しげな顔で姫を見つめ、姫は顔を俯かせたまま話を続けた。

 

 

姫「他の村との争いは三日三晩と続いた……その間にこの村の住人が押し寄せるように神社へとやって来て、私に様々な望みを言ってきたよ……アイツ等を殺してくれ、向こうの村人達を全員消してくれ、村ごと奴らを殺してくれ……そんな歪んだ願いばかりを……」

 

 

零「…………」

 

 

姫「それで漸く悟った……私が良かれと思ってこの村の人達に与えた奇跡のせいで、こんな悲劇を起こしてしまったんだと……」

 

 

こんなハズではなかった。彼女はただ誰にも悲しんで欲しくない、みんなに平等で幸せな人生を送らせてあげたかった。

 

 

それだけの思いでみんなの願いを叶えてきたのに……その願いを叶えたせいで村の人達が豹変し、罪のない人を惨殺し、自身が裕福な人生を送りたいが為に人が人を殺す……そんな悲劇が起きてしまったのだ。

 

 

零「……それで、結局その事件はどうなったんだ?」

 

 

姫「……争いが三日目を迎えた頃に、私が村人達全員の記憶を書き換えることで争いを収めることが出来た……争いの発端となった、青年の存在を彼等の記憶から消す事で……」

 

 

零「?!お前、正気か?!それじゃその男の死は……!」

 

 

姫「分かってる……だがそれしか思い付かなかったんだ……変わってしまったとは言え、知っている人達が次々に傷付いて、死んでいって……幼い子供まで殺され掛けて……三日間どれだけ考えても、あの争いを止めるには……それしか……」

 

 

零「っ……」

 

 

唇を噛み締めて辛そうに語る姫の顔を見て、零はやりきれない感情を抱きながら手摺りを軽く殴り付けた。

 

 

村人達は自分達の欲望に駆られ、彼女を奪う、彼女を死守しようと互いに大勢の犠牲者を出していった。そんな彼等の問題は既に話し合いで済ませられるレベルではなくなっていたのだ。

 

 

だから姫は、惨殺されてしまった青年の存在を村人達の記憶から消す事でしか、争いを止められなかった……それが許されるべきことじゃないと分かっていても、自分の奇跡を手に入れる為なんて理由で皆が傷付くのを見たくなかったから。

 

 

姫「争いは何とか止める事が出来た……だが私はそれ以来、自らの奇跡を使って村人達の願いを叶えることはしなくなり、神社に引きこもった……あの争いを見て、私がやろうとしていたことは正しいのか間違っているのか、自分でも分からなくなったから……」

 

 

神になり始めた頃は自分や妹のような人間を救う為、この救いのない世界を変える為に頑張ろうとした。

 

 

だが実際に力を使って人々を救えば、彼等は自分の力を更に利用し、永遠の幸福を得ようとする欲望に塗れた醜い生き物と成り果ててしまった。

 

 

それを恐れた彼女は人間達との関わりを断ち、信じていたモノを見失って自らの世界に閉じこもってしまったのだ。

 

 

一人の人間の存在を消し、自分の力のせいで皆を不幸にしてしまうと知った……それがどれほど辛かったか、零にも想像出来ない。

 

 

姫「……それから間もなくして、この世界に幻魔達が現れ人々を襲い始めた……人を根絶やしにし、この世を手に入れて自分達の世界にすると言っていたが……幻魔神にとっては、それは二の次でしかなかったようだ……」

 

 

零「?二の次?」

 

 

姫「ああ……奴のホントの目的は……私を自分の女にする為だそうだ」

 

 

零「……はあ?」

 

 

姫を自分の女にする為に。幻魔神の本当の目的を聞かされた零は唖然とした表情になり、姫は軽く息を吐きながら話を続けた。

 

 

姫「何でも私を気に入ったらしくてな。私を奪うついでに世界を手に入れるとか、この世界を私と奴と幻魔だけの世界にする為に我の物になれとか、傲慢この上ない性格の神だったよ」

 

 

零「……目茶苦茶な奴なんだな、幻魔神とやらは……それで、お前はその誘いをどうしたんだ?」

 

 

姫「無論断ったさ。お前のような人を人とも見ない奴の女になるつもりはない、とバッサリとな……だが、奴は心底諦めが悪くてな。『お前がそう来るのなら、まずはこの世界を支配してからお前を我の物にしてやる』などと言って人間達を襲い始めた……だから私もそれに対抗する為、龍王と鬼王の籠手を創り、二人の聖者を見つけ出して幻魔と戦った……この世界を守る為に」

 

 

零「……それが幻魔達との戦いの始まりという訳か」

 

 

幻魔との戦いの歴史に関しては絢香と紗耶香から既に聞いているから大体分かる。腕を組みながら零がそう言うと、姫はオレンジ色の空を見上げながら言葉を紡ぐ。

 

 

姫「奴らとの戦いは辛く、過酷なものだった。何百人何千人もの犠牲を払いながら、私達はやっと幻魔神を封印する事に成功した……これで漸く全てが終わったのだと、私達は安心し切っていた……だが……」

 

 

零「?だが……?」

 

 

姫「……幻魔の脅威がなくなった途端、幻魔達の被害に遭った人々は私を一斉に非難し出したんだ。『この疫病神が!』、『お前さえいなければあんな化け物は攻めて来なかったんだ!』、『消えろ化け物が!』とな……」

 

 

零「っ?!何故だ?お前は幻魔達の脅威からみんなを守ってきたんだろう?!なのにどうしてそんな…!」

 

 

姫「フフッ……仕方がないさ……実際に幻魔神が私を手に入れようと攻めてきたのは事実だ。そのとばっちりを受けてしまったのだから、彼等を攻める事は出来ない……」

 

 

零「っ……!」

 

 

苦笑いしながらまだそんな庇うようなことを言う姫に零は険しげに顔をしかめてしまい、姫はそんな零の顔を見て更に苦笑しながら話の続きを語り出す。

 

 

姫「そして私はツボに封印していた幻魔神をあの霊山に封印し、私もツボに封印されて眠りに付いた……逃げたギルデンスタンの目を欺く為とは言ったが、あれは単なる建前だ。ホントは私自身が逃げたかっただけなんだ……私が神になったせいで大勢の人間を犠牲にしてしまった。もしかしたらまた幻魔のような化け物が私を狙って攻めてきて、また誰かが犠牲になるかもしれないと……そう思い、怖くなって逃げ出したんだ……最低な神だよ、私は」

 

 

零「木ノ花……」

 

 

姫「……本当ならあの時、私は奴の誘いを断って死んでおけば良かったのかもしれない……神としての勤めを果たせず、大勢の人間達を犠牲にし、幻魔達をこの世界に引き込んだ……もしかしたら、私より神に相応しい人間がいたのかもしれない……今でもそう思っているからな……」

 

 

零「…………」

 

 

桜ノ神となった後も、世界は何処までも彼女に無慈悲だった。

 

 

何処かで妹のように苦しんでいる誰かを救いたい、救いのない世界を変えたい。本当にただそれだけの願いで神となったのに……

 

 

人間達はそんな彼女の力に甘え、自らの欲望のため、自分が幸せになりたいが為に他人を傷付けて彼女へと縋り付いた。

 

 

彼女もそんな人間達に恐怖し、そして漸く自分の過ちに気付いた。自分が彼等の願いを叶えれば叶える程、彼等は醜く変わっていってしまう。それを悟った彼女は人間との関わりを断ってしまった。

 

 

そして幻魔の脅威から人間を守るために立ち上がって必死に戦っても、返ってきたのは彼女に対する罵声と拒絶。

 

 

人間達に利用され、信じていたものを見失い、守りたかった人達から理不尽に拒絶され、独り孤独になり、それでも彼女は自分が悪いんだと苦々しく笑った。

 

 

そう言った彼女の心がどれほど傷付いてるのかなんて、零には到底想像が付かなかった。

 

 

 

姫「……つまらない話しを聞かせてしまったな、すまない……早く戻ろう?きっと絢香達が心配してるに違いない」

 

 

話しが終わってから一言も話さない零に苦笑したままそう言って、絢香達の下に戻ろうと歩き出していく姫。その時……

 

 

零「…………お前の気持ち…………何となく分かるかもしれない…………」

 

 

姫「……ん?」

 

 

ポツリと呟いた零の言葉を耳にし、姫は小首を傾げながら零の方へと振り返った。そして零はそんな姫と目を合わせないまま、自身の左目へとソッと手を当てていく。

 

 

零「俺にも普通じゃない力があってな……それは時に誰かを守れる力になるが、同時にそれは俺が守りたいと思うものを壊してしまう力にもなる……だから時々怖くなるんだ。もしこの力の事が知れたら、アイツ等に拒絶されてしまうかもしれない……もしかしたら、いつかこの力に支配されてアイツ等を手に掛けてしまうかもしれないと……」

 

 

姫「…………」

 

 

零「それを考えたら、俺はアイツ等の傍にいてはいけないのかもしれない。アイツ等の前から消えなければいけないかもしれないと……今でもそう考える時があるんだ……」

 

 

零はそう呟きながら自身の左目から手を離し、自分を見つめる姫の目を見据えながら再び語り出した。

 

 

零「だから何となくだが、お前の気持ちは分かる……守りたい人達に拒絶される苦しみも、信じていた物を見失う絶望も、独りになる悲しみも……な……」

 

 

姫「……フッ……まさか、慰めてくれてるのか?」

 

 

零「……別にそんなんじゃない……ただ……」

 

 

苦笑いを向けてくる姫から閥が悪そうに目を逸らし、頬を掻きながらそっぽを向いて口を開いた。

 

 

零「……ただ俺もこんなんだから、お前も一々そんな昔のことに縛られるなって言いたいだけだ。今の世界はお前の力なんて求めてないし、お前はもう独りじゃないだから」

 

 

姫「……え?」

 

 

零「っ……だからその……今のお前には絢香や紗耶香、カリムにシャッハ、アズサやシロ、晃彦に勇二……俺もいるんだ。アイツ等や俺はお前の奇跡なんか求めていないし、お前を拒絶するつもりもない……だからそんな寂しそうな顔するな……俺達がいるんだから、お前を独りにはさせない」

 

 

姫「……零……」

 

 

零「……だが勘違いするな?お前みたいな変神を独りにさせたら何するか分からないからいってるんだ。ところかまわず下ネタ言われてたらこっちが堪らないんだからな」

 

 

フンッと顔を逸らしながらそんな言葉を口にする零。そして姫はそんな零の言葉を聞いて一瞬ポカンとしてしまうが、すぐに可笑しそうに声を出して笑い出した。

 

 

零「っ!な、何笑ってるんだ?」

 

 

姫「ふふふっ……いや、単に君は人を励ますのが下手くそだなぁ、と思ってな」

 

 

零「っ……別にお前みたいな変神を励ましたつもりはない……さっさと帰るぞ」

 

 

零は可笑しく笑う姫を見て内心あんなことを口にした自分に悪態を付き、さっさと絢香達の下に戻ろうと歩き出して姫の隣を通り過ぎようとするが……

 

 

姫「――零、少し待ってくれ」

 

 

零「……ん?」

 

 

不意に広場を後にしようとした零を姫が呼び止め、いきなり呼び止められた零は頭上に疑問符を浮かべながら姫の方へと振り向いた。

 

 

零「何だ今度は?またからかうつもりか?」

 

 

姫「そんなんじゃないさ。ただ、昔話に付き合わせてしまった礼がしたいだけだ」

 

 

零「礼?……別にそんな物欲しくない」

 

 

姫「まあそう言うな。さて、何が良いか…………」

 

 

本人の意志も関係なしに、腕を組みながらなにを上げようかと悩み出す姫。零もそんな姫を見てめんどくさそうに溜め息を吐いていると……

 

 

姫「ふむ……そうだな……ああ、私の名前なんてどうだろうか?」

 

 

零「は?お前の名前って、木ノ花之咲耶姫だろう?そんなのもう知って――」

 

 

姫「それは桜ノ神である私の名前だ。私が言っているのは、人間だった頃の名前……咲夜の事だ」

 

 

零「?さく……や?」

 

 

姫が人間だった頃の名前。それをお礼にしたいと言ってきた姫に零は不思議そうに聞き返し、姫はその場でしゃがんで適当な木の棒を拾うと、地面に『木ノ花之咲耶姫』と『咲夜』の名前を描いていく。

 

 

姫「木ノ花之咲耶姫という名は、私を神にした上司が私が人間だった頃の名前を元にして付けた名前なんだ……それが咲夜……ホントなら他人に易々と教えてはいけないのだが、君だけにこの名を教えよう」

 

 

零「?いいのか?そんな事を教えて……?」

 

 

姫「私が良いと決めたんだ、構わないさ……試しに呼んでみてくれないか?」

 

 

自分の名を呼んでみてくれと、何処か期待するかの様な視線を送ってくる姫。零はそんな姫の視線を受けて地面に描かれた咲夜の名を一度見ると、姫の顔を見つめながら口を開いた。

 

 

零「……サクヤ」

 

 

姫「むう……少し堅い気がするな……もう少し柔らかく」

 

 

零「さくや」

 

 

姫「今度は堅すぎる。もう少しこう……愛情と情熱と愛おしさを込めてくれないか?」

 

 

零「……注文の多い奴だな……」

 

 

名前を呼んでくれと言ったのはお前だろ。と心の中で愚痴りつつ、姫に言われた通り愛情と情熱と愛おしさを込めようと姫の目を真っすぐ見つめながら……

 

 

零「――咲夜」

 

 

姫「……ふむ……ギリギリ合格点と言った所か?」

 

 

零「なんだそれ?此処まで付き合わせておいてそれか……?」

 

 

姫「フフ、ならもう少し、女心という物を学んだ方がいいぞ?」

 

 

姫はそう言ってジト目で睨む零の視線を軽く受け流しながら微笑み、ゆっくりと立ち上がって夕日を眺めていく。

 

 

姫「さて、そろそろ帰るとしよう。早くしないと絢香達に叱られてしまうからな」

 

 

零「もう遅いような気もするがな……何処に行っていたのかと聞かれたら一から説明するのも面倒だし……どうしたものか」

 

 

姫「なら適当にごまかしてみてはどうだ?何処かで時間潰しをしていたらいつの間にか日が暮れていた~とか」

 

 

零「……そっちの方が説明しなくて済みそうだな……適当に本屋で立ち読みしてたとでも言っとくか」

 

 

姫「そうか……いやだが、それを言ったら君の立場が悪くならないか?」

 

 

零「?何故だ?」

 

 

姫「だってそれでは君が本屋でいやらしい本を読んでいたみたいに思われるだろう?勃ち読みだなんて」

 

 

零「一々そっちネタに話を持っていくなっ!!」

 

 

また何時もの調子に戻って下ネタを口にし出した姫に再びツッコミを入れてしまう零。そして二人はそんなやり取りを繰り返しながら広場を後にし、絢香達の下に戻っていったのだった。

 

 

 

因みに二人が元の場所へと戻ると、其処には案の定お怒りの絢香とカリム達の姿があったらしく、一体何処に行っていたのかとお説教されたのは言うまでもない。

 

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