仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
『ふ、ははははははは!!なんだ、見事に散らばったと思ったが存外にしぶといのだな?!なぁるほど、生き汚さだけが蟲の取り柄というワケか!』
ヤツの笑い声が聞こえる。正直に言えば、今はそれが有り難い。
それが耳障りであればあるほど、消えていく意識がしっかりと身体にしがみつく。
『……だが、そこまでだ。これ以上邪魔されては堪らんからな。二度と邪魔出来んようにトドメを刺してやる』
声と共に、足音が近付いてくる。今度こそ咲夜を手に入れる為に、邪魔者である俺を消すつもりだ。消えていく意識でも、それぐらいの事は自然と理解出来た。
零「は………あ―――!」
だから立たないといけない、立って戦わなければいけない、戦って咲夜を守らなければいけない。
視界は真っ赤で、どれが何なのかもう判らない。
それでも立とうと片腕に力を込めて、ずるりと滑る腕で地面を掴み、切断しかけた身体を起こしていく。
姫「―――なぜだ……もう無理だと、どうして判らないんだっ!!」
『なるほど、未練か?だろうなぁ……ソレはお前には過ぎた宝だ。その気持ちは分からんでもない。ならばこそ他の男の手に奪われるのは悔しかろう?』
零「っ……いい加減……にしろ……奪うとか奪われるとか……咲夜を、物みたい、にっ……!」
右手に力を込める。しかしそれでも身体は応えてくれず、傷口から夥しい鮮血を落としながら片膝をついてしまった。
姫「……もう止めろ。君の助けなんていらない!私は奴に敗れた!神なんて呼ばれながら君達も、世界も守れない役立たずなんだ私は!そんな私を助ける責務など、君にはないハズだろうッ?!!」
零「っ―――ぐっ―――」
悲痛に叫ぶ咲夜の声を振り払い、もう一度膝に力を込めて立ち上がろうとする。その度に、傷口からさっきの比にもならない量の赤い液体がこぼれ落ちる。
姫「嫌だ―――止めてくれ……それ以上はダメだ!!本当に、本当に死んでしまう!こんな、またこんな、君にまで死なれてしまったら、私は――!!!」
零「―――うるさいっ……お前もいい加減黙ってろっ……こんな時ぐらい……黙って頼ってればいいんだよ……お前はっ……!」
姫「それは違う……私にはそこまでして守ってもらう価値なんてないんだっ……私は死ぬ事も出来ない存在……不老不死の化け物なんだ……そんな物を、君が命を懸けてまで守る必要なんてない!それよりも、君は自分の命を第一にするべきだ!だからもう私に構わず逃げろ!!」
悲願するような声。自分のような化け物を助ける必要なんてないと、そんな声で告げてきた。それでも――
零「―――ふざけるな……お前が人間だとか神だとか……そんな小さい事はどうだっていいんだよっ……!」
姫「―――え……?」
立ち上がろうとしながらそう呟いた零の言葉を聞き、姫は呆然と零を見つめた。そんな顔で見つめてくる姫を他所に、零は格好悪くもう一度立ち上がろうとする。
零「お前、は……ずっとそうやって……独りでみんなを守ろうと頑張ってきたんだろうっ……誰かに頼る事なく……でも……それじゃ駄目なんだよ……神になんてなっても……お前は弱いままなんだっ……どれだけ外側を取り繕っても……それは変わらないっ……本当のお前は……傷付き易くて……壊れやすい……ただの女なんだ……」
姫「――――」
零「間違えて、間違えてしまった自分に嫌悪して、傷付いて、それでも守りたい人達がいたから、立ち上がれた……けど……独りじゃ駄目なんだ……独りじゃ、いつかまた自分が間違えた時、自分だけじゃその間違いに気付けないっ……独りじゃ、もう一度立ち上がる事なんて、出来ないからっ……」
―――かつて一人の少年がいた。彼は守りたかった筈の大切な人を守り切れず、守れなかった自分を嫌悪し、皆を守れる力を求めてがむしゃらに走った。
だがその少年は、その道が間違っていたということに気付けなかった。
仲間達の声を聞かず、独りで走り、その果てで新たな悲劇を生み、守りたかった筈の仲間達に更なる悲しみを与えてしまった。
間違いに気付いた時には全てが遅かった。その時には既に医務室のベッドの上で、傍らには自分の姿を見て涙を流す仲間達の姿。独りでがむしゃらに突っ走った結果がそれだったのだ。
だからその間違いに気付いて、自分を止めようとしてくれた仲間達に対する有り難みを余計に痛感した。
そんな少年の姿と、咲夜が重なって見えた。
守りたかった大切な人達を守れず、もう失う痛みも、後悔する痛みも味わいたくないから、必死に皆を守ろうと独りで努力し、だけどその道が間違っていると気付けず、その果てで悲劇を生んでしまった。
だから放っておけなかった。間違えてしまった後悔がどれほど大きく、間違えてしまった自分をどれだけ責めたか分かるから。
かつての咲夜には、自分のように傍らで支えてくれる仲間なんていなかった。だから……
零「――――だからっ……お前を置いていったりしない……独りにはしない……支えると決めたんだっ……お前がもう間違えないように……孤独で壊れないようにって……だか、らっ……!!」
姫「っ――――!」
息を呑む気配だけがした。振り返って見たかったが、もうよく見えないから止めておこう……本当はもう、そんな余裕すらないから。
『……遺言はそれで終わりか?ならばもう逝け。貴様の声は、酷く不愉快だ』
零「っ……!」
背後から、剣を振り上げる気配を感じた。それでなんとか立ち上がろうと身体に余計に力が入るが、身体は本人の思いには応えてくれず、ほんの少ししか身体が上がってくれない。
『さらばだ。何安心しろ。貴様が地獄で寂しがらないように、他の蟲共もすぐに後を追わせてやるさ』
零「っ……クッ……ソォッ……」
動け、動け!そう強く念じながら右腕で立ち上がろうとするが、それよりも早くフォーティンブラスの魔剣が振り下ろされた。それでも立ち上がろうとした身体は虚しく崩れ落ち、背中に襲い掛かるであろう痛みに備えて歯を食いしばった。だが……
『―――なんの真似だ……桜ノ神……』
零「……ぇ……」
次に聞こえてきたのは自分の背中を潰す肉の音ではなく、フォーティンブラスの苛立ちの篭った声。それを聞いた零は思わず首を動かして振り向こうとするが、自分の身体を押さえ込む何かの重みと、血の臭いとは違う優しい香りがした。
零「―――さ、くや―――?」
姫「…………………」
いつの間にか、姫が傍らに近付いて零を守るように覆いかぶさっていた。まるで母親が子を守るように零を庇う姫を見てフォーティンブラスも魔剣を下ろし、鋭い視線で姫を睨みつけた。
『一体どういうつもりかと聞いておろう、桜ノ神』
姫「……頼む……彼を……彼等をこれ以上、傷付けないでくれっ……」
『ふざけるな……その蟲は我の手で消さねば気が済まんのだ。さあ退け!退かぬのなら、貴様ごとその蟲を斬り裂くぞ?!』
先程から自分の邪魔ばかりしてきた零に余程業を煮やしてるのか、魔剣の切っ先を向けて姫に脅しをかけるフォーティンブラス。姫はそんなフォーティンブラスを見て零を抱き締める腕に力を込めながら……
姫「―――頼む……彼等を見逃してくれるなら……私のこの身を、お前に捧げていい……」
零「――っ?!!」
『……ほう』
震える声でそんな事を告げた姫の言葉に零は我が耳を疑って驚愕し、フォーティンブラスは興味深そうに頷いて魔剣を下げた。
『自分を差し出す代わりにそこの蟲共を助けて欲しい………そう言う事を言っているのか?』
姫「ああ……その代わり、条件がある……私の身はお前に差し出す。その代わり彼等にも、この世界にも二度と干渉せず、全ての幻魔達を幻魔界に戻せ……それが条件だ……」
零「っ?!お、前っ……何言ってっ……?!」
自分の身を差し出す代わりに零達を見逃し、この世界から手を引いて全ての幻魔達を幻魔界に戻せ。そう告げた姫に零は驚愕して身体を起こそうとするが、姫がそれを抑えて小さく語り出した。
姫「どの道、君ではヤツに勝つ事は出来ない……このまま戦えば君も彼女も殺されて、この世界の人々も皆殺しにされてしまう……ならばいっその事、私が奴の物になってしまえば全てを穏便に済ませられる。これ以上、君が傷つく事もない」
零「っ!ふざけ、るな……そんな勝手にっ……!」
必死に血まみれの右腕を伸ばし、行かせないと言うかのように姫の腕を強く掴む零。姫はそんな零の手の上に片手を添え、小さく微笑んだ。
姫「もういいんだ……そもそも奴等をこの世界に招いたのは私のせいだし、私は厄介事しか招かない疫病神だからな……それに私の代わりなんて幾らでも効く。私がいなくなってもこの世界が変わる事はないから、安心してくれ……」
零「違うっ……俺が言っているのはそんな事じゃない!それじゃお前が……!」
必死に姫に何かを告げようとするが、呼吸が出来ないせいでまともに喋れない。そんな零を見て姫は悲痛な表情を浮かべるが、すぐに苦笑いをしていく。
姫「私はな……別に神の座に着きたくて神になったんじゃないんだ。ただ誰かを守れる力を得られればそれでいい……目の前で苦しんでる人間を救えるならのなら、自分の身がどうなろうと構わないと、そう思っていた……」
零「っ……お、前……」
姫「だが、やはりダメだな……神になんてなっても、私は結局誰も救えなかった……そんな神は世界にいない方が良い……いや、寧ろ最初からいない方が良かったのかもな。私がいなくても人間は此処まで成長してこられたし……これなら私が神になる必要もなかったか。ははは……」
そう言って姫は頬を掻きながら苦笑を浮かべ、倒れる零の頬に手を添えて血を拭っていく。
姫「絢香達にも、すまないと伝えておいてくれ……こんな駄目な私を受け入れてくれて、ありがとうと」
零「っ…………待、て…………さく――――」
姫「――それと……さっきの君の言葉も、少しだけ嬉しかったよ……ありがとう、零……」
自嘲するように、情けない自分に泣きたくなるような顔で笑いかけ、最後の別れを告げる姫。そんな姫の顔を見て零は慌てて体を起こそうとするが、姫は自分の腕を掴む零の手を離させて立ち上がり、フォーティンブラスの下へとゆっくりと歩み寄っていく。
『フフ。漸く決心が付いたか、桜ノ神』
姫「あぁ……だが、約束は忘れるな。もしも破ったりしたら……」
『分かってる、安心しろ。我とて此処まで汚染された世界など欲しくもないからな……お前さえ手に入るのなら、最早其処に転がっている蟲共や世界などどうでもよい』
敵意を込めた目付きで睨む姫の視線に微動だにせず、フォーティンブラスは姫を迎え入れるように両腕を広げながら歩み寄っていく。姫は僅かに顔を反らして手の平を握り締めるが、背後で倒れる血だらけの零を見て覚悟を決めた表情をした、その瞬間……
―フアァァァァァァァァァァァアンッ!!―
姫「……っ?!」
『……何?』
突然汽笛のような音がその場に響き渡り、姫とフォーティンブラスはそれが聞こえてきた方へと視線を向けて思わず目を丸くしてしまった。
何故なら、上空から突然一台の白い電車が汽笛を鳴らしながら走って現れるという有り得ない光景が二人の目に映り、白い電車はそのまま零達と姫達の間を遮っていったのだ。
そして白い電車が過ぎ去ると、其処にはいつの間にか零と桜香を抱える青年と二人の戦士……大輝とベルが変身した二人のディエンドが立っていた。
『貴様等は……』
零「っ……お前、等っ……海……道……?」
ディエンド『やあ零、随分と良い格好になってるじゃないか?カッコイイねぇ、女性を守る為に其処までボロボロになるなんて』
ディエンド(ベル)『嫌味なら後にしなさい大輝。烈!一瞬だけ時間を稼ぐから、その隙にブレイブライナーをお願い!』
烈「分かってます!」
ディエンド(ベル)は血だらけの零に嫌味を言うディエンドを注意し、零と桜香を抱える烈と呼ばれた青年に呼びかけながらフォーティンブラスと対峙していく。
『なんだ貴様等は?そこの蟲共の仲間か?』
ディエンド(ベル)『ああ、悪いわね?生憎こっちには、アンタみたいな馬鹿神に名乗る名前は持ち合わせてないのよ』
『?!何だと貴様?!』
ディエンド『はいはい、今は君と喧嘩してる暇はないんでね?挨拶代わりに、コレをプレゼントしよう』
鼻で笑いながら馬鹿にするようにそう告げたディエンド(ベル)にフォーティンブラスも怒りの表情を浮かべるが、ディエンドとディエンド(ベル)はそれを他所に左腰のホルダーから一枚ずつカードを取り出してドライバーへと装填しスライドさせていった。
『FINALATTACKRIDE:DI・DI・DI・DI-END!』
『FINALATTACKRIDE:DI・DI・DI・DI-END!』
『ッ!何?』
二つの電子音声が響くと、二人のドライバーの銃口の周りにディメンジョンフィールドが展開されてフォーティンブラスに照準を定めていき、それを見たフォーティンブラスは思わず動きを止め、そして……
『ハッ!!』
―ズドオォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―
『チッ……』
―ドッガアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーアァンッ!!!―
二人のドライバーから撃ち出された巨大なエネルギー弾がフォーティンブラスへと真っ直ぐ向かっていき、そのままフォーティンブラスに直撃して巨大な爆発を起こしていったのだった。そしてそれと共に上空から先程の白い電車……ブレイブライナーが現れてディエンド達の目の前に停まり、三人はブレイブライナーへと乗り込もうとする。
零「ッ!は、離せお前等っ……俺はっ……咲夜っ……をっ……!!」
ディエンド『今の君に何が出来る?どうせそんな身体じゃまともに戦うことも出来ないんだから、大人しくしていたまえ』
零「クッ……くっ……そぉ……っ……ぁ……」
姫を助ける為にブレイブライナーに乗り込むのを拒否しようとする零だが、ディエンドに一喝されて思わず口を閉ざし、そのまま体力の限界を迎えて気絶してしまった。そして全員を乗せたブレイブライナーはそのまま何処かへと走り去り、それと同時に爆煙の中から全く無傷の状態のフォーティンブラスと、フォーティンブラスの張った障壁に守られる姫が姿を現した。
『チッ、あの蟲共…………まあ良い。今の我は機嫌が良いからな……特別に見逃してやろう……』
忌ま忌ましげにブレイブライナーが走り去った方角を見上げていたフォーティンブラスは愉快げにそう言うと、障壁に守られる姫へと近づき障壁を消していく。
『さぁて、漸く邪魔者がいなくなったぞ桜ノ神。どうだ?我の女になった感想は?』
姫「………………」
愉快げに笑いながら姫へと問いかけていくフォーティンブラス。しかし姫はその問いに答えず、力無くフォーティンブラスから顔を反らした。
『だんまりか……まあ良いだろう。最早どう足掻こうが、お前は我の物になったのだからな。光栄に思えよ桜ノ神?』
姫「っ……」
フォーティンブラスはそう言いながらクツクツと笑って姫の身体を舐めずるように眺めていき、姫は震える体を抑えるように強く抱き締めながら暗い表情で顔を俯かせていく。そしてフォーティンブラスはそんな姫の姿を見て更に愉快げに笑いながら、ゆっくりと片腕を上げていった。
『では、そろそろお前との約束を果たすとしよう……この世界から全ての幻魔達を戻し、共に幻魔界へゆこうではないか!!』
高らかに笑いながらフォーティンブラスが指を鳴らすと、今まで町や山で暴れていた幻魔達が突然黒い粒子と化して何処かへと消えていき、同時にフォーティンブラスと姫がいる霊山の下の地中から何かが地響きを響かせながら浮き上がり、そのまま地表を突き破って上空へと姿を現していった。
姫「……っ?!これ……は……」
『そう。かつてこの世界の蟲共を殲滅する為、ギルデンスタンが造りあげた我等幻魔の最強の兵器……時の方舟だ』
上空に浮かび上がる巨大な舟……いや、最早空中要塞とも言っていい巨大なそれを見た姫は呆然と固まり、フォーティンブラスは両腕を広げながら上空に浮かぶ要塞、時の方舟と呼ばれたそれを見上げて愉快げに笑っていたのだった。
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