仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT   作:風人Ⅱ

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第十七章/桜ノ神の世界⑬

 

一時間後、一先ず作戦会議したメンバーは作戦が整うまで時の方舟の動向を様子見するという話で決まり、一度解散してそれぞれ自由行動を取っていた。

 

 

その中で、絢香と紗耶香は居間を後にして桜香のいる部屋へとやって来た。部屋に入ると桜香は既に上半身を起こして目覚めており、取りあえず二人はこれまでの経緯と現状を桜香に説明していた。

 

 

桜香「……そう……私が眠っている間に、そんなことが……」

 

 

絢香「はい……皆さんと話し合った結果、作戦が決まるまで方舟の動向を様子見することになりました……作戦が整えば、私達はすぐに方舟へと向かう予定です」

 

 

桜香「……そう……」

 

 

今後の行動について詳しく説明する絢香だが、桜香は二人から顔を逸らしたまま多く喋らない。恐らく裏切り者の自分が此処にいる事を気にして気まずいのだろうかと、絢香は少し悲しげに眉を寄せながら顔を俯かせて無言となり、暫く三人の間に沈黙が流れていくが……

 

 

絢香「―――桜香さん……その……本当に……ごめんなさい……」

 

 

桜香「…………え?」

 

 

その沈黙を破ったのは、頭を深く下げながら謝る絢香の謝罪の言葉だった。それを聞いた桜香は思わず声を上げて振り向けば、絢香の隣に座る紗耶香まで頭を下げていた。

 

 

桜香「ちょ、なんで謝るの?別に貴方達に謝られる事なんか……」

 

 

絢香「……私……聞きました……桜香さんが……私達の敵になったホントのワケを……」

 

 

桜香「……へ?」

 

 

戸惑う桜香を他所に、次に絢香の口から語られたのは更に意外な言葉。その言葉に桜香は思わず唖然となってしまい、絢香は袴を握り締めながら話を続けた。

 

 

絢香「桜香さんは……皆を守る為にひとりで幻魔神と戦おうとしてたんですよね……家族を失った孤児達の居場所を、守る為に……」

 

 

桜香「っ?!……そう……聞いたのね……零から私のこと……」

 

 

この話を知ってるのは彼しかいない。多分自分が運び込まれた時に全て話したのだろうと、桜香はそう予想しながら顔を俯かせるが……

 

 

紗耶香「いいや、絢香様にお前の事を話したのは……私だ……」

 

 

桜香「……え……紗耶香……?」

 

 

頭を下げたままずっと無言だった紗耶香が予想外な事を口に出し、桜香は思わず目を点にして紗耶香を見つめた。そして紗耶香は頭をゆっくりと上げ、暗い表情でポツリと語り出した。

 

 

紗耶香「すまない……昨日偶然、お前と黒月が孤児院の前で話してるのを見たんだ……それでお前達の会話を聞いてしまって……」

 

 

桜香「……そっか……貴方もあの時、彼処にいたんだ……」

 

 

紗耶香「ああ……だから、本当にすまないっ!!」

 

 

ドンッ!と、鈍い音と共にいきなり畳の上に額をぶつけながら桜香に土下座する紗耶香。その突然の行動に二人も驚愕し、桜香は慌てて紗耶香の肩に手を差し延べた。

 

 

桜香「や、止めて紗耶香っ!私には貴方達に謝られる資格なんてっ……!」

 

 

紗耶香「いいや謝らせてくれ!!私は、私はホントに愚か者だっ……共に幻魔と戦った仲間のお前を信じる事が出来ず、ただ裏切り者と罵ってばかりで軽蔑してっ……お前があの子達の為に必死に戦っていたことも知らずに……最低だ……私は……」

 

 

絢香「……紗耶香さん……」

 

 

今までの自分を情けなく思えてか、紗耶香は土下座をしたまま手の平を強く握り締めて拳を作っていく。そんな姿を見て紗耶香の思いが痛いほど伝わったのか、桜香と絢香は互いに複雑な表情を浮かべ、桜香も顔を俯かせながら呟いた。

 

 

桜香「それは私だって同じよ……貴方達が私の意思を受け入れてくれないんじゃないかって勝手に恐がって、拒絶される前にって自分から裏切った……最低なのは私も同じ……貴方達二人を信じる事が出来ずに一人で突っ走って……本当に、ごめんなさい……」

 

 

絢香「桜香さん……いえ、それを言うなら私だって……」

 

 

互いに自分の非を口にし、暗い雰囲気を漂わせながら口を閉ざしてしまう一同。そうして暫く気まずい空気が流れる中、絢香は薄い息を吐いて瞳を伏せながら、口を僅かに開く。

 

 

絢香「―――仲間が仲間を信じられなければ、それで終わり……でも、また信じ合う事が出来れば……またやり直せますよね……」

 

 

紗耶香「……え?」

 

 

桜香「絢香……?」

 

 

ソッと、以前花壇の前で零が言っていた言葉を紡いだ絢香に沈んだ顔を浮かべていた二人は顔を上げ、何処か驚いたように絢香の顔を見た。そして絢香はゆっくりと瞼を開き、桜香の手を両手で握り締めていく。

 

 

絢香「桜香さん、私のお願いを聞いてもらっても良いですか?」

 

 

桜香「……?お願い?」

 

 

絢香「はい……私達と一緒に、フォーティンブラスと戦って頂けませんか?」

 

 

『…ッ?!』

 

 

何かを決心したような顔で力強く告げる絢香。それを聞いた二人の表情は驚愕に染まり、絢香は桜香の手を握ったまま話し出した。

 

 

絢香「今この町……いえ、世界はフォーティンブラスの脅威に震えています……正直彼には、私達だけでは太刀打ち出来ないかもしれないし、姫様を助け出す事も不可能かもしれない……でも皆と一緒なら、もしかしたら彼に勝てるかもしれない……だから、桜香さんの力も貸して下さい。この世界の人々を守る為にも」

 

 

桜香「……だけど……私は貴方達を殺そうとしたのよ?そんな私が今更……」

 

 

絢香「……確かに、私達は何度もすれ違いをして傷付き合ってきました……でもそれは、桜香さんが悪い訳じゃないと思います。桜香さんも命懸けで守りたいと思う物があったから、そうするしかないと悩んで別の道を歩むことを決めた……本当のことを話してもらえなかったのは少しショックですが、桜香さんが子供達を守りたいと思った気持ちは……間違ってなかったと思います」

 

 

桜香「……絢香……」

 

 

絢香「そして今、私達皆が守りたいと思うものは一緒なんです……それを守る為にも、私達との絆が、まだ壊れていないと信じてくれるのなら……一緒に戦って頂けませんか……?」

 

 

その言葉は、自分を励ましてくれたある青年が送ってくれた言葉。

 

 

真摯の瞳で見つめ返してくる絢香に桜香も思わず息を呑み、隣でそれを見ていた紗耶香も決意を込めた顔で頷いて二人の手の上に右手を乗せ、桜香の顔をジッと見つめていく。

 

 

そして桜香はそんな二人を見て思わず涙ぐみ、瞳から溢れそうになる涙を拭って小さく頷き返し、庭の花壇に咲くシャニチソウの花はそんな三人を祝福するかのようにそよ風で揺れ動いていたのだった―――

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

そしてその頃、離れの部屋では先程デネブと柚子に連れ戻された零が布団の上で横になっており、その周りには紲那とゼウスとクライシス、そしてシロを抱えるアズサの姿があった。因みにデネブ達は零や他のメンバーのお夜食を作りに台所で料理している。

 

 

紲那「どうだ零、ちょっとは落ち着いたか?」

 

 

零「……ああ……大分楽になった……すまないな……」

 

 

先程紲那がくれた薬、超ばんのうぐすりのお陰で胸の傷の激痛は大分引いたが、やはり傷を治す事は不可能だった。暫くは痛み止めになって気休めにはなるだろうが、いつ薬の効果が切れてまた激痛が走るか分からない以上、此処で絶対安静にしておかないといけないという事で紲那達が見張りに着いていたのだ。

 

 

零「……それで……お前達はこれからどうする気なんだ……?」

 

 

アズサ「一先ず……作戦が整うまで方舟の動向を様子見する事になった……作戦が決まり次第、ヒメの救出に方舟に向かうってことに決まった……」

 

 

零「……そう……か……」

 

 

アズサから今後について話を聞いた零はそれだけ呟いて返すと、黙って天井へと目を向けていく。そんな零を見て何かを感じ取ったのか、紲那は僅かに目を細めて口を開いた。

 

 

紲那「零、一応忠告はしておくけど、君は此処で絶対に安静だぞ。作戦には参加させない……ただでさえ、さっき怪我を無視して動いただけでも危なかったんだから」

 

 

ゼウス「紲那殿の言う通りだぞ零殿、無茶し過ぎだ。自己犠牲で在られる救済なんてゴミ屑みたいなものだぞ」

 

 

クライシス「言葉は過ぎるけどそうね。零ちゃんの体は零ちゃんだけのものじゃなくなってきつつあるんだから。もっと自分を大切にしないと」

 

 

零「……分かってるさ……そんな事言われなくたって分かってる……」

 

 

忠告する紲那達の言葉を聞いた零はそう言って右腕を瞼の上に乗せ、ポツリと呟いていく。

 

 

零「ああ……頭では十分に分かっている……守る事と無茶をする事は全くの別物……無茶して誰かを守ったとしても、それはただ自分が守れたと思って自己満足するだけの独善にしか過ぎないって事も……」

 

 

ゼウス「其処まで分かっているなら……」

 

 

零の言葉を聞いて何かを話そうとするゼウス。だが、零はギリッと唇を噛み締めながら瞳を伏せ、拳を握り締めていく。

 

 

零「―――だが……あの時俺がちゃんとアイツを守っていれば……こんな事にはならなかったんだっ……」

 

 

悔しげに、後悔の念が篭った声でそう言いながら血が滲むまで拳を強く握り締める零。そんな零を見て一同も思わず口を閉ざし、零は震える声で再び語り出す。

 

 

零「目を瞑っても……思い出すのはあの時の……俺達を守ろうとして血まみれになったアイツの姿だけだ……それを思い出す度に思うんだ……どうして俺は何も出来なかったんだ……守るどころか逆に守られて……アイツにあんな顔までさせてってっ……」

 

 

最後の別れの時に見せた姫の泣きそうな笑い顔。今もそれが脳裏にこびりついて離れず、そんな顔をさせたのが自分を守ろうとしたからだと、そう思う度に後悔の念がとどまる事なく溢れてくる。

 

 

零「なにが守るだ……なにが後悔するような生き方を二度としないだ……なにが独りにはさせないんだっ……偉そうな事言っておきながら奴の前に手も足も出せずっ、無様にやられてっ、アイツを置き去りにしてっ……テメェだけ助かってるんじゃねぇかっ……!!」

 

 

悔しげに噛み締める唇から血が流れ、頬を一筋の雫が伝っていく。すぐ傍にいながら何も出来ず、逆に守られて、置き去りにして、今も助けに行けず此処で寝ていることしか出来ない。そんな自分が情けなく思えて仕方ない零はただ自分を責める事しか出来ずにいた。

 

 

紲那「……とにかく、今は傷を治す事に専念するんだ……桜ノ神は僕達が助け出す」

 

 

ゼウス「残念だが、いくら零殿でもその傷で戦うのは不可能だ……此処で大人しく寝ていろ……」

 

 

クライシス「アズサちゃん、零ちゃんのことお願いね……?」

 

 

アズサ「……うん……」

 

 

そんな零に掛ける励ましの言葉も見付からず、紲那達はとにかく零を眠らせようとアズサに零の看病と見張りを任せて部屋を後にした。そして残された二人は互いに交わす言葉が見付からず沈黙が続き、取りあえずアズサはタオルを手に取って零の唇から流れる血を拭っていく。

 

 

アズサ「……零……大丈夫……?」

 

 

零「……あぁ……すまない……面倒ばかり掛けて……」

 

 

アズサ「ううん……私は別に平気……今の零と比べたら……」

 

 

今はそんな気遣いすら心に痛い。だがそれを表情にはださず、零は上体を起こし苦笑いを浮かべながら自分の手の平を見た。

 

 

零「……本当に無様だな、俺は……ホントなら自分の手で木ノ花を助けにいかなきゃいけないのに……今はアイツ等に任せることしか出来ないなんてっ……」

 

 

アズサ「……零……」

 

 

歯痒さを隠せず、手の平を握り締めて苦悩の表情を浮かべる零。そんな零を見てアズサも口を閉ざしてしまい、再び二人の間に沈黙が流れ始めた。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

『――えぇ。本当に無様な格好ね、破壊者さん?』

 

 

 

『…ッ?!』

 

 

 

突然鳴り響いたケラケラとした女性の笑い声。不意に聞こえてきたそれに二人は驚愕しながら慌てて辺りを見渡していくと、突如二人の目の前の空間が捩れていき、其処から一人の異形の姿をした女性が姿を現したのだ。零は突然現れた人物を警戒して身体を起こし、アズサは零の前に出て身構えていく。

 

 

『フフフフ……こんばんわ破壊者さん……』

 

 

零「ッ!お前は……誰だ?というか、どうやって此処に入ってきた……?」

 

 

『フフ、別にそんな難しい事じゃないわよ?ただ気配を消せば簡単に侵入出来るんですもの。なにせ、私は幻魔神様に仕える高等幻魔の一人……ベガドンナなのだからねぇ?』

 

 

零「?!幻魔神だと?!」

 

 

フォーティンブラスに仕えてるという異形の女性……ベガドンナの正体を聞いた零は驚愕し、アズサはそれを聞いてより一層警戒心を強めながら零を守るように構えていく。

 

 

アズサ「その高等幻魔が、一体何の用なの……」

 

 

『あらあら、怖い顔で睨みつけてくれちゃって……別に戦いに来た訳じゃないわ。ただ貴方に素敵な贈り物をしてあげようと思って、こうして足を運んであげただけよ』

 

 

零「贈り物だと?どういう意味だ?」

 

 

零はベガドンナに鋭い目で睨むが、ベガドンナは気にせずクスクスと笑いながら何処からか一枚の写真を取り出し、それを零に向けて投げ渡した。

 

 

零「?写真?これが何なん……っ?!!」

 

 

アズサ「……零?」

 

 

零はいきなり投げ渡された写真に疑問を覚えながらも写真を見ると、其処に写されていた物を見て両目を見開き驚愕した。そんな零の様子を見てアズサは小首を傾げ、零は僅かに口を開き声を震えわせながら言葉を出した。

 

 

 

 

 

 

零「―――さく……や……?」

 

 

 

 

 

 

写真に写されていたのは、縄で縛られ、顔や身体中に何かで殴られたようなアザが出来てグッタリと倒れる少女……姫の姿が写っていたのだ。写真を見るそんな零の顔を見て、ベガドンナはケラケラと笑いながら話し出した。

 

 

『どぉーお?良く撮れてるでしょう?』

 

 

零「……何だコレはっ……お前等!!アイツに何をしやがった?!」

 

 

『フフ、それ見て分かるでしょ?その女、幻魔神様がどれだけお声を掛けてもずっと無視してばかりでね?流石の幻魔神様もご機嫌を損ねて、ちょっとばっかし調教してやったのよ』

 

 

アズサ「調教って……!」

 

 

『何か問題でも?その女は幻魔神様の物となったのだから、どう扱おうが幻魔神様の勝手じゃない?それに所詮は不老不死なのだから、どれだけ痛めつけようが死んだりしないでしょ?』

 

 

零「なんっ…だと…!!」

 

 

『それで余りにも面白い姿だから、貴方にも見せてあげようと思ってねぇ?どんな気分?貴方がちゃんと守ってあげなかったせいで、そんな無様な姿に代わり果てて……アハハハハハハッ!!悔しぃーい?大事な女を汚されて♪』

 

 

零「っっっ?!!貴様ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっっ!!!!!」

 

 

アズサ「?!ダメ!零!!」

 

 

おもしろ可笑しくケラケラと笑うベガドンナの言葉で完全にキレ、写真をグシャグシャに握り潰してそのまま怒りのままに駆け出し、ベガドンナに勢い良く拳を放つ零。だがベガドンナはそんな零を軽くあしらって地面に叩き付け、頭を踏み付けた。

 

 

零「グウッ!!」

 

 

アズサ「零?!」

 

 

『はいストォープッ!それ以上動いたらこの男の頭、踏み潰しちゃうわよ?』

 

 

アズサ「っ……!」

 

 

ベガドンナは零の助けに入ろうとしたアズサに警告して動きを止めさせ、それを確認するとニヤニヤと笑いながら倒れる零を見下ろしていく。

 

 

『何だか幻魔神様を倒そうとかしてるみたいだけど、哀れねぇ?貴方達みたいな屑があの方に勝てると思ってるの?身の程知らずだって事が分からない訳ぇ?』

 

 

零「ぐっ……!」

 

 

『それに、貴方も良くこんな所で寝てられるわねぇ?貴方を守ろうとしたからあの女は幻魔神様に身を捧げたというのに、貴方は助けようともせずに此処で寝てるだけ……はははは!何?もしかして自分が助かったからあの女の事はどうでも良くなったとかぁ?』

 

 

零「っ……!!」

 

 

蔑むようにケラケラと笑うベガドンナの言葉を聞き、悔しさのあまり肩を震わせながら拳を作る零。アズサはそんなベガドンナの言葉で更に表情を険しくさせ、拳を握っていつでも殴り掛かれるように構えた。その時……

 

 

 

 

 

 

―シュンッ!―

 

 

 

『……あ?―バキィッ!―ウグアァッ?!』

 

 

『ッ?!』

 

 

 

突如部屋の入り口の方から誰かが飛び出し、そのまま零を踏み付けるベガドンナを勢い良く蹴り飛ばして壁に叩き付けていったのだ。そしてベガドンナを蹴り飛ばした人物……黒髪の青年は零を守るように立ち構え、ベガドンナを睨みつけながら口を開いた。

 

 

「居間に行く前に異世界のディケイドの見舞いでもしようかと寄ってみれば……意外な場面に鉢合わせちまったな」

 

 

『アグッ……グゥッ!な、何だお前は?!』

 

 

「うん?俺か?俺の名は、三崎雷火。お前達と戦う為に異世界からやって来た、仮面ライダークラストだ」

 

 

零「……三崎雷火……仮面ライダークラスト……?」

 

 

突然現れた黒髪の青年……"三崎 雷火"のいきなりの登場に零とアズサは思わず唖然となり、ベガドンナは口から流れる血を拭ってふらつきながら立ち上がっていく。

 

 

『餓鬼風情がっ……この私の顔を足蹴にするなど!!貴様のような餓鬼一匹、私の手で「誰が一人だなんて言ったんだよ?」……?!』

 

 

雷火に向けて殺気を剥き出しにしていたベガドンナだが、再び聞こえてきた別の声を聞いて入り口の方へと振り返った。其処には腰に手を当てて悠然と立ち構えながらベガドンナを睨む青年……稟の姿があった。

 

 

零「ッ!稟?何でお前まで……?」

 

 

稟「零さんにお見舞いでもしようと思って此処に来る時に、雷火と会いましてね。それで道案内しに此処へ来てみればなんか変なのがいるし……取りあえずヤバそうと思ったんで乱入させてもらいました」

 

 

驚く零にそう言いながら稟は再びベガドンナに視線を向けていき、ベガドンナは雷火と稟を交互に見たあと舌打ちしていく。

 

 

『流石に分が悪いか……まあいいわ。どれだけ醜く足掻こうが、所詮貴方達なんて私達の足元にも及ばないのだからね?せいぜい屑なり頑張れば?アハッ、アハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!』

 

 

そう言って馬鹿にするように笑いながら背後に空間の捻れを作り出し、ベガドンナはその捻れへ飛び込んで何処かへと消えていったのだった。そしてそれを確認した雷火と稟は構えを解き、アズサも零に駆け寄っていく。

 

 

アズサ「零、大丈夫……?」

 

 

零「っ……あぁ、大丈夫だ……稟とそっちのお前……雷火だったか?も面倒を掛けてすまない……」

 

 

稟「いえ、お礼なんて良いですよ」

 

 

雷火「こっちが勝手に割り込んだだけだしな。それはそうと、さっきの幻魔だろう?何処から入ってきたんだアイツ?」

 

 

零「いや、俺も詳しくは分からん……ただなにもない空間が捻れたと思ったらいきなり奴が現れて―――」

 

 

雷火に問われてベガドンナが現れた時の状況を説明していく零だが、ふと右手の中に握られたグシャグシャの写真が目に止まって口を閉ざし、ジッとそれを見つめていく。

 

 

雷火「……?どうした?」

 

 

零「………………」

 

 

不自然に口を閉ざした零に雷火が思わず聞き返すが、零は右手の写真を見つめたまま何も喋ろうとはせず、ゆっくりと立ち上がるとふらついた足取りで部屋から出ていこうとする。

 

 

雷火「お、おい?何処に行く気だ?」

 

 

零「……決まっている……さく―――木ノ花を迎えに行く……」

 

 

『ッ?!』

 

 

姫を迎えに行く。その言葉を聞いた三人は驚愕してしまうが、零は構わず部屋を出て廊下へと出てしまう。

 

 

雷火「おい待て!その身体であの舟に行く気かっ?!無茶だろ明らかに?!」

 

 

零「心配するな……迎えに行くだけで、幻魔神と戦うつもりは毛頭ない……それに幸いにも紲那がくれた薬の効果で傷の痛みは全然ないし、無理だと判断したらすぐに逃げるさ……」

 

 

雷火「そういう事を言ってるんじゃない!そんな身体で何が出来るんだ?!あの神の事なら他の奴らに任せて、お前は「それじゃ駄目なんだ!!」……っ?!」

 

 

姫を迎えに行くと聞かない零を何とか引き留めようと説得する雷火だが、零の怒鳴り声で思わず言葉を飲み込んでしまう。そして零は三人に背中を向けたまま、右手の写真を強く握り締めていく。

 

 

零「それじゃ……駄目なんだ……アイツを独りにさせないって言ったのは、他の誰でもない俺なんだ……なのにアイツは今独りで、頼れる人が傍にいなくて、苦痛に耐えて……きっと今も誰かに助けを求めてるハズなのに、それを言わないで……アイツが苦しんでるのに、俺だけこんなところで呑気に寝てるなんて、やっぱり出来ない……」

 

 

雷火「……………」

 

 

零「だから頼む……無茶なのは自分でも分かっているし、これで周りの人間にどれだけ心配を掛けるのかも分かってる……だがそれでも、これだけは俺の手でやらせてくれ……此処で行かなかったら……多分俺は、こんな気持ちを抱えたまま誰かを守って生きていくなんて……二度と出来ないと思うからっ……!」

 

 

アズサ「零……」

 

 

自分の胸を鷲掴み、自分の正直な気持ちを必死に訴え掛ける零。その気持ちが伝わったのか、アズサは何かを考えるように少し顔を俯かせた後、零の隣に歩み寄っていく。

 

 

零「……?アズサ……?」

 

 

アズサ「……零が行くなら、私も一緒に行く……」

 

 

雷火「……はっ?!」

 

 

零「いや、だがお前まで付き合う事なんて……」

 

 

アズサ「ううん、私も行く……私も、零に命を救ってもらった……だから私は零を守る為に戦うって決めた……零の背中を守るのが、私の生きる証だから……」

 

 

零「……お前……」

 

 

何時も通りの無表情であるが、何処となく力強さが伝わってくる表情で見上げてくるアズサに零も思わず息を呑み、それを聞いていた稟も軽く息を吐いて二人に近づいていく。

 

 

稟「そういう事なら、俺は零さんの意思を尊重しますよ?」

 

 

零「っ!稟……?」

 

 

稟「戦力は少しでも多い方がいいだろうし、サポート役がいた方が生存率も上がるでしょう?来るなと言われてもついていきますよ」

 

 

零「……ハァ……どうしてこう最近の若者は、こんな年寄りみたいな無茶ばかりするんだろうか……」

 

 

稟「無茶するのが苦労人でしょう?それに年寄りとか言っても、零さんまだ十代じゃないですか?」

 

 

年寄り臭い台詞を吐く零にそう言って微笑を浮かべる稟。そしてそれを見て口を閉ざしていた雷火は呆れたように溜め息を吐き、仕方がないと言ったように零に近づいてポケットから一枚の紙を差し出してきた。

 

 

零「?これは……?」

 

 

雷火「俺の方で調べといた時の方舟内の構造図、それとある神様が調べてくれた幻魔神の弱点が載ってあるメモだ」

 

 

零「っ?!何?!」

 

 

稟「お前、どうしてこんな物……?!」

 

 

雷火「此処に来る前に間違ってあの舟の中に転移してしまってな?構造図はその時に俺が調べてメモしといたんだよ……多分役に立つと思うから、持っていけ。他の連中には俺の方で事情を説明しておく」

 

 

零「そう、だったのか……すまない……何から何まで……」

 

 

雷火「謝るくらいなら最初からやるなよな……でも、これだけは約束しろ。必ず三人、生きて帰ってくるって……」

 

 

零「ッ!……ああ……必ず……」

 

 

そう言って零は真剣な表情で雷火に頷き返し、アズサと稟と顔を見合わせて頷き合うと部屋を後にし、他のメンバー達に見付からないように裏口からソッと出ていき、三人は夜明けが近い霊山へと向かっていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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