仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
銀色のオーロラと共に現れた謎のライダー、カイザの襲撃に遭い、窮地に追いやられるディケイド。逆手持ちで巧みに振るうカイザブレイガンの斬撃を前に次第に防戦一方に追い込まれ、ライドブッカーを弾かれた隙を突かれて何度も鋭い斬撃を浴びせられていき、階段を勢いよく転げ落ちて地面に倒れ込んでしまう。
ディケイド『ぐうぅッ!』
なのは「零君っ?!」
倒れ伏すディケイドの姿を目にし、二人の戦いを離れて見ていたなのはが思わず駆け寄ろうとするが……
ディケイド『……ッ!来るななのはッ!』
なのは「え……?!」
カイザ『ツァアアアアッ!!』
其処へカイザがカイザブレイガンを振りかざしながら階段から飛び降り、追い討ちを掛けるようにディケイドへと容赦なく斬り掛かった。それを見たディケイドも咄嗟にライドブッカーを盾に斬撃を受け止めながらカイザの腹を蹴り飛ばして距離を開かせ、そのまま身を起こしてなのはから離れるように戦闘を再開していく。
なのは「ッ……このままじゃっ……レイジングハート……!お願い応えてっ!このままだと零君がっ!」
一時は持ち直したかのように思えたが、戦況は目に見えてディケイドが再び不利になりつつある。このままでは彼の身が危険だと悟ったなのはは縋る思いで首に掛けた待機状態のレイジングハートに必死に呼び掛けるも、やはりその声は届かず、機能が停止したレイジングハートからは何も返ってはこなかった。
なのは「お願い……お願いだからっ……!零君を助けたいのっ!だからっ!」
その場に崩れ落ちる様に膝を着き、必死に願うようにして叫ぶなのは。その時……
―ガギィイイイイイイイイイイイイイイインッ!!―
ディケイド『ガハァアッ!!』
なのは「ッ?!」
けたたましい斬撃音と悲痛な声がスタジアムに鳴り渡る。その声を聞いてなのはが弾かれたように顔を上げると、其処にはディケイドがフェンスに叩き付けられ、カイザの胸ぐらを掴まれ追い詰められる姿があった。
カイザ『がっかりだな……君の力はこの程度、という事でいいのかなぁ?』
ディケイド『ッ……!』
なのは「れ、零君っ!!」
最早黙って見ている事は出来ない。ディケイドの危機を前にいても立ってもいられず、なのははディケイドを助けるべくその場から走り出してしまうのであった。
◆◇◆
一方その頃、キャッスルドランの城内では玉座を襲撃したビートルファンガイアの圧倒的な力の前にキバが手も足も出せず追い詰められていき、繰り出す技の一つ一つが通用せず首を掴まれて身体を持ち上げられてしまっていた。
『こんなものか……?弱い王にその鎧は相応しくない、キバの鎧を渡せ!』
キバ『ッ……ァッ……!ダメだっ……これは、王の資格だっ……!』
『いいや、お前はまだ王に即位していない!だから俺が王となる!』
そう言いながらビートルファンガイアは凄まじい力でキバを床に思いきり叩き付け、更に痛みに悶えるキバの胸を足で踏み付け踏みにじっていく。其処へ騒ぎに気付いて駆け付けたガルル達がその光景を目の当たりにし、動揺を露わにした。
『王子?!王子に手を出すとは、この狼藉者めっ!』
『待て!あの方は……』
キバを襲うビートルファンガイアに側近のファンガイアが飛び出そうとするも、ビートルファンガイアの姿を見たガルルが何故か片手でそれを制して止めに入る。そしてビートルファンガイアは踏み付けていたキバをガルル達の下へ蹴り飛ばしてしまい、何とか身を起こしたキバはガルルに目配りする。
キバ『ガルル……!お前の力を貸せ!』
このままでは奴に太刀打ち出来ない。戦い方を変える為に素早い身のこなしのガルルフォームになる為、ガルルに力を貸すように命じるキバだが、しかし……
『…………』
キバ『……?ガルル……?』
ガルルは何故かキバの命令に応えず、他のアームズモンスター達と共に顔を背けて口を閉ざしてしまう。臣下達のその様子にキバも困惑を浮かべ戸惑ってしまう中、一瞬で背後に接近したビートルファンガイアがキバを殴り飛ばし、そのまま足でキバを押さえ付けながら自らの手をキバットの前に翳していく。
『キバットバット三世よ……!我に従え!』
キバット『ッ?!ウ、ウオォォォォォォォォッ!!』
ビートルファンガイアの手から放出されるエネルギー波がキバットを捉えて包み込み、キバットの意識を封じ込んでしまう。そしてそのままキバットベルトから独りでに離れたキバットはビートルファンガイアの手に収まってしまい、キバットを奪われたキバも変身が解かれワタルに戻ってしまった。
ワタル「?!な、何でっ……?!」
変身が解け、王の資格であるキバの鎧を奪われたワタルは茫然自失となりその場から動けなくなってしまう。そしてビートルファンガイアはそんなワタルに目もくれず玉座に腰を下ろし、ガルル達もビートルファンガイアの前に並んで忠義の構えを取っていく。
『キバの鎧は受け継がれた』
『この方が、新たな王だ』
ワタルを見捨て、新たな王へと忠誠を誓うガルル達。だがその新たな王、ビートルファンガイアから発された言葉はこの場にいる者全ての意表を突くものだった。
『俺は掟など廃する……人間との共存など無意味。ファンガイアは人間を貪り尽くす。逆らう者は、滅ぼす!』
『ッ……?!』
ワタル「そ、そんな……」
今までの掟を廃し、人間を餌として貪る。それは嘗てこの世界で起こったとされる人間とファンガイアの争いを今一度起こすに等しい命令であり、ワタルだけでなく彼に忠誠を誓ったガルル達すらも驚愕を露わにしてしまうが……
「──そんなこと許すかよ!」
玉座の間の扉が勢いよく開かれ、其処から優矢、スバル、ティアナが現れ、優矢はワタルの前に飛び出してビートルファンガイアを睨み、スバルとティアナは傷付いたワタルに駆け寄って抱き寄せていく。
『貴様……!新たなファンガイアの王の御前だ!控えよ!』
優矢「違う!王は……ワタルだ!変身ッ!」
腹部に両手を翳し、アークルを出現させた優矢は即座にクウガに変身しながらビートルファンガイアへと飛び掛かる。しかし、それを阻むようにドッガが咄嗟にビートルファンガイアの前に出てクウガの拳を代わりに受け止めて防ぎ、ガルルとバッシャー、スワローテイルファンガイアが三方からクウガを攻め立ててビートルファンガイアから引き剥がしてしまう。
ティアナ「優矢さんっ!」
クウガ『グッ!俺の事は良いっ!二人は今の内にワタルをっ!』
スバル「っ……わ、分かりました……!王子!さぁ、早く逃げましょう!」
ワタル「あ……」
四体のファンガイアの攻撃を必死に捌くクウガに後ろ髪を引かれながらも、今の自分達に出来る事をする為に未だ呆然としているワタルをスバルが背中に抱え、玉座の間から脱出しようとした二人の前に扉の方からヴィータが現れた。
ヴィータ「スバル、ティアナ!退路は確保したぞ!急げ!」
「「はい!」」
城に潜入する際に三人とは別行動を取り、逃走経路を確保していたヴィータの後を追い掛け、二人はワタルを連れてキャッスルドランから脱出していくのであった。
◆◇◆
一方、スタジアムでは…
カイザ『さぁ、君のベルトを貰おうか……』
なのは「零君ッ!!」
カイザはディケイドライバーを奪おうとディケイドの腰のバックルに徐に手を伸ばし、なのはもディケイドのピンチを前にデバイスも無しに助けに向かおうと走り出すが……
ディケイド『ッ……どうかな……?こっちはまだ手の内を明かし切っていない……!』
不敵な笑みと共にディケイドが一枚のカードをライドブッカーから取り出し、バックルに装填してスライドさせる。
『ATTACKRIDE:ILLUSION!』
ドライバーから鳴り響く電子音声と共に、カイザに首を掴まれるディケイドの身体が突如一人から三人に、更に三人から六人、九人と増え続けてカイザを包囲していったのである。
カイザ『何ッ?!』
なのは「ぶ、分身した?!」
分身したディケイド達に囲まれたカイザは驚き、なのはもまた同じように驚きを隠せず足を止めてしまう中、九人に分身したディケイド達はすぐさま数の多さを利用した立ち回りでカイザを翻弄しながら仕掛け、左右前後からの攻撃をカイザに絶え間なく浴びせていく。
カイザ『ぐううぅっ?!コ、コイツ等……?!』
なのは「あれって……フェイクシルエットみたいな幻影じゃない……全部実体がある?!」
そう、ディケイドが使用した新たなカード、イリュージョンは一体一体が確かな実体を持ち、それぞれ意思を持って動く分身を生み出せるトリッキーなカードなのである。
加えて一人一人の能力や技能も元のディケイドと同様であり、九人のディケイドは連携を組んでカイザの技を容易く弾きながら徐々に追い詰めていき、トドメに三人同時蹴りを打ち込みカイザをスタジアムの壁に叩き付けていった。
カイザ『がァああッ!ぐッ……キサマァッ……!』
『Redy!』
ディケイドを忌々しげに睨みながらどうにか身を起こし、カイザは自身のベルトに付属されているデジタル双眼鏡型のデバイスを手に取り、バックル表面に取り付けられてるメモリカードを装填して右足に装備していく。
カイザのその動作で何かを察したディケイドも即座に一人に戻りながらライドブッカーからカードを一枚取り出し、ディケイドライバーに装填しスライドさせていった。
『FINALATTACKRIDE:DE·DE·DE·DECADE!』
『EXCEED CHARGE!』
カイザ『ハァアアッ!』
ディケイドライバーから響く電子音声に合わせ、カイザもバックルに装填されてる携帯を開いてエンタキーを押し、バックル部分から右足に向けて黄色のラインに光を走らせながら一息で空高く跳躍する。
そしてディケイドも空へ跳び上がるカイザに目掛けて無数のカードの残像……ディメンションフィールドを展開していくと、カイザが突き出した右足のデバイスから放たれた黄色の閃光が円錐状のポインターとなって最後のカードの残像を捉え、カイザは上空で飛び蹴りの態勢を、ディケイドはカイザに目掛けてディメンションフィールドへと右足を突き出して飛び込み……
ディケイド『ハァアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!ハァアアァッッッッ!!!!』
カイザ『デェエエエヤァアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!』
―チュドオォオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーオオオオォォンッッッッ!!!!!!―
なのは「うっ、くっ……!!キャアアアアッ?!」
観客席の上空でディケイドとカイザの必殺技同士が激突した瞬間、凄まじい爆発と閃光が発生し、辺り一帯に衝撃波が広がっていったのである。そのあまりの威力に両腕で顔を庇い、衝撃波を耐えようとしたなのはも堪らず転倒してしまう中、爆風が止んだ黒煙の中からディケイドとカイザが勢いよく飛び出し、お互いに壁やフェンスに叩き付けられて苦悶の声を上げた。
ディケイド『グアゥッ!』
カイザ『グッ!……ッ……今日は、こんな所かなっ……』
ディケイドの技のダメージが見た目以上に響いているのか、ふらつきながら起き上がったカイザは襟を掴んで首を軽く鳴らすと、背後から再び出現した銀色のオーロラに呑まれてそのまま何処かへと姿を消していった。
そしてカイザの逃走を確認したディケイドも身を起こして変身を解除し零の姿に戻るも、それと同時に右腕を抑えながら片膝を着いてしまい、それを見たなのはも血相を変えて零の傍に駆け寄った。
なのは「零君!しっかりして……!大丈夫?!」
零「ッ……あぁ、大丈夫だ……それより今の奴は……」
なのは「あ、うん……前の二人組のライダーみたいに消えたちゃったみたいだね……」
零「……そうか」
零はなのはに支えられて何とか立ち上がり、銀色のオーロラと共にカイザが消えた場所を訝しげに見つめる。結局あの仮面ライダーは何故自分達をいきなり襲ってきたのか?募る疑問を胸に二人が考える中、辺りの景色が再び歪み始め、二人はまた公園の中へと戻っていた。其処へ……
キバーラ「フフフッ……アハハハッ♪」
スタジアムからいつの間にか姿を消していたキバーラが二人の前に現れ、妖しく笑いながら何処かへと飛んで夜の闇の中へと消えていってしまった。
零「おい……!待て!」
―ディケイド!仮面ライダー達と戦う悪魔よ!―
「「……?!」」
キバーラを呼び止めて後を追おうとしたその時、突如何処からか聞き慣れない男の声が響き渡った。思わず周りを見渡す二人だが、夜の闇に紛れているのか声の主と思われる人影は何処にも見当たらず、その間にも男の声は明らかな敵意を宿して零に呼び掛けていく。
―このキバの世界も、調和は取れていた。だが貴様が現れた事で調和が乱れ、破壊を望むキバが誕生してしまった!―
なのは「破壊を望む……キバ?」
零「どういう意味だ……?!答えろッ!」
意味深な発言をする声の主に向かって問い返すが、男の声は何も答えず、そのまま返事が返ってくる事はなかった。
零「……クソッ、逃げたみたいだな……」
なのは「みたいだね……でも、あの人の言っていた破壊のキバって……ワタル君に何かあったって事なのかな……?」
零「……かもな……ともかく、一旦写真館に戻るぞ……分からない事も増えたし、これからの事について話し合わないといけないしな……」
なのは「……うん」
新たに増えた謎や疑問に不穏の影を感じるも、此処で立ち往生していても何も変わらない。一先ず写真館に戻って傷を治療し、他の皆と合流して此処であった事を話し合おうと決めた零が歩き始めたのを見て、なのはも後を追うように歩き出す。だが……
零(……あの声、一体何者だったんだ……それに、俺の存在が世界を破壊する?まさか、俺の失った過去と何か関係があるのか……?)
カイザとの戦闘で傷付いた腕を見つめながら先程の声の主の言葉を思い出し、零の心中は疑問ばかりが溢れていた。そしてその後ろを歩くなのはの表情も暗く、何処か思い詰めているように見える。その理由は先程の、ディケイドとカイザの戦いにあった。
なのは(私……全然だめだ……レイジングハートがいないと、何も出来ない……)
傷ついていく零をただ黙って見ているしか出来なかった。それが堪らなく悔しかったし、自分の無力さを痛感した。魔法が使えなければ、自分はこんなにも弱いのだと……零の背中を見つめながら改めてそう思い、なのはは無意識に胸に当てた拳に力を込めてしまう。
なのは(私も一緒に戦って、零君を助けたい……だけど、無理なのかな……魔法が使えなくて、レイジングハートもいない今の私に……何が出来るんだろう……)
大事な相棒と一緒に戦えず、戦う力を失った今の自分に何ができるのか?自分は結局、このまま黙って零が一人戦って傷ついていくのを見ている事しか出来ないのか?なのはは暗い表情を浮かべながらも今の自分が零に一体何をしてやれるのか必死に考えながら、彼と共に光写真館への帰路に付いていくのであった。
──その時、自分のポケットが淡い光を放っていた事に気かぬまま……。