仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
―時の方舟・ブリッジ―
『ヌエアァッ!!』
―ガギィンッ!グガアァンッ!ガギィンッ!!―
ディエンド『グッ?!』
場所は戻り、ブリッジ内ではフォーティンブラスと戦っていたディエンドが壁に叩き付けられていた。フォーティンブラスは先程ディケイドと戦った時よりも力を増し、姿だけでなく戦闘力をもディエンドを遥かに上回っているのだ。それによりディエンドは防戦一方となっており、フォーティンブラスは一方的にディエンドを痛め付けて追い詰めていた。その端では……
姫「っ……うっ……ぁ……」
二人の戦いを他所に、姫は未だ零の身体に寄り添いながら涙を流していた。それでも零はピクリとも動かず、顔は血で濡れた前髪によって隠されている。
姫「どう、して……どうしてこん、なっ……こんな事にっ……!」
赤いものが滲み出て、冷たくなった零の胸に泣き顔を埋めて嘆くように叫ぶ姫。叫ぶ声は不安定で、嗚咽が混じっている。余りにも涙を流し過ぎたせいで、横隔膜の制御が可笑しくなっているのだ。
姫「また……また私は……何も出来なかった……またっ……!」
脳裏を横切るのは、彼女がまだ人間だった頃の唯一の肉親である妹の顔。あの時と同じ、すぐ近くにいながら大切な人を見殺しにした。そのことに対して後悔を拭えない姫は、血みどろになった零の服を強く握り締めながら泣き叫び続けていた。その時……
―…………キュッ……―
姫「…………ぇ……」
不意に、服の袖が何かに引っ張られるような感覚を僅かに感じた。姫はその感覚に思わずのろのろと顔を上げて服の袖に視線を向けると、其処には自分の服の袖を人差し指と親指で僅かに掴む手……零の手があった。
姫「ッ?!何……で……?」
姫は自分の服の袖を掴む手を見て、零の顔へと驚きながら目を向けた。その顔は未だ前髪に隠れて良く見えないが……今にも消え入りそうな紫色の瞳が自分の顔を見つめてるのが見えた。
姫「ッ!零っ?!」
自分を見つめる零を見て、姫は驚愕と戸惑いを隠せずに零の名を思わず叫んだ。
有り得ない……確かに心臓を貫かれた筈なのに、その瞳には間違いなく生気が宿っている。
普通ならば心臓をやられた時点で即死する筈なのにと、姫が目を見開いて零の顔を見つめる中……
零「…………ゃ…………」
姫「……え……?」
零の口が僅かに開き、其処から何か言葉が放たれた。しかしその声はか細いもので、全く聞き取る事が出来ない。それでも零は消え入りそうな声で何かを呟き、姫はそれを聞き取るためにゆっくりと零の口へと耳を近付けた。
零「……………は……………やく……………に、げ……………ろ……………」
姫「……っ?!!」
耳に届いた言葉は、自分に早く此処から逃げろと呼び掛ける物だった。それを聞いた姫は思わず息を拒んで零の顔を見つめ、困惑した。
姫「逃げろって……なに、言ってるんだっ……?」
零「――――――」
それはつまり、自分に彼を置いていけと言ってるような物だった。何故そんな事を言うのかと理解出来ない姫だが、その真意を彼女が知る筈もない。
破壊の因子。黒月零の左目に埋め込まれたそれは絶対なる破壊の力を司り、負の力により成長し、神や世界、因果律や万物すらも例外なく葬り去る悪魔の力を秘めてる。
その力が今、宿主である零の死が間近に迫ってる事で暴走の予兆を見せているのだ。
今は彼を生きながらえさせようと働く『内なる力』によって命を繋いでいるが、その力事態が損傷を負ったせいで長くは持たず、最早助かる見込みもない。
そして彼の命が死を迎えると共に因子を押さえ込む物がなくなり、すべての力を発揮して暴発する。
有り体に言えば、今の彼は制限時間付きの核爆弾の様な物だ。
それが暴発すればこの方舟……最悪、この世界すらも破壊し兼ねない。
そんな物に巻き込まない為にも、だからこそ……
零「…………にげ…………ろ…………は…………ゃ…………く…………」
ただ逃げろと、此処から離れろと、残された力を使って必死にそれだけを姫に伝える零。それを聞いた姫は……
姫「―――出来ないっ……出来る筈ないだろうっ!」
そんな事は出来ないと、首を左右に振って拒否した。自分を助けに来て、今にも死に掛けの彼を置き去りにして逃げれるハズがない。姫は涙しながら、そんな零の身体を強く抱き締めた。
姫(どうする……どうすればいいっ……どうすれば零を救えるっ……?!)
必死に思考を巡らませて、今考えられるだけの手段を思い浮かべていく姫だが、どれも彼の命を救えるだけには至らない。自分の奇跡を具現化させる力も、今のままでは彼の命を繋ぎ止める事も出来ない。
姫(っ……何が神だっ……何が全知全能の存在だっ!私は結局、目の前で死にかけてる人間すら救えないんじゃないかっ……!)
全ては妹のような人達を救いたくて、目の前で誰かを失う後悔をしたくないが為、ただそれだけの為に神となったのに、自分はまた何も出来ずにいる。
妹と同じぐらい大切な人達が出来た。彼もその一人なのだ。
姫(なのに私は……何もしてやれない……奴に一矢報いるどころか……彼を助けることもっ……!!)
何も出来ない自分の無力を呪い、悔しさのあまり涙を流す。
この時の為に、こんな悲劇を起こさないようにする為に、この力を手に入れたのに、これでは意味などないではないか。
『あの時』も、こんな時に何も出来ないのは力が足りないからだと思ってた。
力が足りないから、目の前の人間を誰も救えず、皆が傷付いていくのをただ見ているしか出来なかった。
だから当時、人間であった自分はそんな無力な自分に耐えられず、無力な人間だった自分を捨てて神になることを選んだ。しかし……
姫(……何が……『無力な人間』だ……)
そう考えて、姫はふと自分の姿とフォーティンブラスが重なって見えて、奥歯を噛み締めた。
姫(なんて……傲慢な考え方なんだっ……)
人間は無力だから誰も救えない、誰もが神のような力を持っていれば誰も傷付かずに済む。
本当にそうか?そんな訳があるか。
人間が無力で誰も守れないなら、この青年はなんだ?
このようにボロボロになりながら、みんなと共に此処まで来て、同じ神である奴を追い詰めて、自分を助けに来てくれたこの青年はなんだ?
結局、神なんて存在になっておきながら、自分は一体何をした?
彼がフォーティンブラスと戦う中、自分はなにをしていた?
そんな青年とは対照的に、自分は一体何を出来た?
姫(……違う……人間だの神だの関係ない……本当に大事なのは……)
この青年のように、誰かの力を借り、力を合わせ、そして何をしたかだ。
あの時の自分も、今までの自分も、誰かに頼る事なく生きてきた。あの時の自分はそんな必要がないからと思って、今までの自分は、自分以外の誰かはただ守るべき対象としか見てなかった。
あの時、もしも自分以外の誰かの力を借りていれば、妹は死なずに済んだかもしれない。
今までも、傍に誰かが居てくれれば、あんな間違いを起こす事もなかったかもしれないし、幻魔達とも皆と力を合わせて戦っていれば、皆と一緒に笑い合っていられたかもしれない……
―だがな……そんな人間を変えることが出来るのは、結局は人間しかいないんだよ……人は独りじゃ弱い。だけど傍に誰かがいてくれて、手を差し延べてくれる他人がいる限り、人はそこから立ち上がって変わる事が出来る……自分でも気付けない過ちを正してくれるのは、自分を思ってくれる誰かなんだ……!―
姫(私は……大馬鹿者だ……)
自分に対し、心の中で吐き捨てた。
人間とはそんなに弱かったのか。
本当に弱かったのは、一体誰だったのか。
誰も救えないからと嘗ての自分を見限って捨て、神になって誰かを救える力を手に入れた気になってた。
だけどそれは違った。人にだって、誰かを守れる力があったんだ。
一人では不可能なことも、仲間と力を合わせれば可能に出来ると。
だから彼は、仲間達の力を借りて奴と彼処まで戦えた。だがそれでも、彼一人の力では奴にまだ届かない。
姫(……私は……)
姫は両手で血まみれの零の頬を包み、改めて彼の瞳を見つめた。
既に限界が近いからか、零の瞼は徐々に閉じられていき、瞳から放たれる紫色の輝きが激しさを増していく。
このままでは彼も、彼が守りたい人達も、自分が守りたい人達も守れない。
彼や皆を救う為に、自分が取るべき選択は何か。
姫(分かってる……)
本当の意味で、大切な人達を救う選択は何か。
正々堂々と、大切な人達を守る為に戦う選択は何か。
姫(分かってる……!)
自分一人では決して勝てない絶対の敵、フォーティンブラスの間違いを正す為に相応しい選択は何か。
神の力を利用した圧倒的な暴力に対抗する為の選択は何か。
彼等と、本当に肩を並べて歩いていける選択は何か。
姫(分かってるっ!)
涙が浮かぶ瞳に揺るぎない決意が宿る。
そして零の瞼が完全に閉じられたと共に、姫もゆっくりと瞼を閉じ言葉を紡いでいく。
姫「――我が神名……桜ノ神・木ノ花之咲耶姫の名の許に……此処に、新たなる契りを立てる……」
たった一言。それだけを口にした瞬間姫と零の足元に巨大な桜色の魔法陣が展開され、膨大な神氣が辺りに放出されていく。そしてその異変に感じ取り、ディエンドとフォーティンブラスは組み合ったまま二人へと目を向けた。
ディエンド『これはっ……?』
『ま、まさかっ?!止めろ桜ノ神!!貴様正気か?!』
フォーティンブラスは姫達の足元に出現した魔法陣を見て何かに気付き、静止の言葉を投げ掛けた。しかし姫はそれに聞く耳を持たず、今にも息を引き掛けてる零の顔を見つめていく。
姫「――すまない、零……私は君一人にばかり戦わせて、何もしてやれなかった……だから―――」
目尻に溜まった涙がこぼれ、零の頬に滴る。姫は零の頬を両手で包みながら、ゆっくりと顔を近付け……
姫「――もう一度、機会をくれ……共に歩み……戦う機会を……」
――青年の血まみれになった唇へと自身の唇を重ね、同時に桜色の光りが辺りを包み込んでいった……