仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT   作:風人Ⅱ

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第十八章/GEAR電童の世界⑪

 

―ルルイエ島・遺跡跡地―

 

 

それから数十分後。自然の大半が死んだルルイエ島の遺跡跡地では、未だデモンゾーアが上空から無数の触手を伸ばし島の大地からエネルギーを吸収していた。そんなデモンゾーアの真下には、総一と薫が変身した歌舞鬼とダグバ、そして黒いコートの男がデモンゾーアを見上げる姿があった。

 

 

歌舞鬼『……スゲーもんだな。この島の自然からエネルギーを吸い取っただけで、力がさっきとは比べものにもならないくらいデカくなりやがってる』

 

 

「そうだな。だがまだ足りない……コイツにはもっと力を付けてもらわなければ、俺達の目的を100%達成する事など出来はしない」

 

 

『……それはつまり、初音島からも奪うって事ですか……溝呂木さん……』

 

 

上空で浮遊するデモンゾーアを見上げる男……溝呂木の横顔を見て何かを感じ取ったダグバが何処か暗い様子で問い掛けると、溝呂木はデモンゾーアを見上げたまま口元を歪めていく。

 

 

溝呂木「コイツが限界まで力を蓄えれば、御薙煌一達でも手に負えない化け物に育つ……その為にもまずは大量の糧が必要だからな。この島の次にはあの島も喰わせてやるさ」

 

 

『でも……あそこには何の関係もない人達が……』

 

 

溝呂木「だから何だと言うんだ?今はデモンゾーアの力を更に高める方が優先だ。どうせだから、そいつ等も一緒に喰わせてしまえば良いだろ?」

 

 

『っ……』

 

 

初音島と一緒に島の人間達もデモンゾーアの糧にしてしまえばいいと、鼻で笑いながらそう告げた溝呂木にダグバが思わず何か反論しそうになるも、途中で言葉を飲み込んで黙ってしまった。

 

 

溝呂木「フンッ…とにかく俺達の役目は、デモンゾーアが完全体になるまでアレを死守する事だ。いつ御薙煌一達が攻めてくるか分からない以上、周囲の警戒を怠らぬよう―――」

 

 

 

 

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!』

 

 

―ドシュウゥゥゥーーーーーーンッ!!!―

 

 

『…ッ?!』

 

 

溝呂木が歌舞鬼とダグバに指示を送ろうとした瞬間、何処からか電子音声と共に一つのエネルギー弾が三人へと襲い掛かり、いち早くそれを感知した溝呂木達は咄嗟に後方へと跳んでエネルギー弾を回避した。そして三人がエネルギー弾が撃たれてきた方角に振り返ると、其処にはライドブッカーGモードを構えるディケイドとバロンとシュロウガ、腰にベルトを巻いて右手にナックルウェポンを持つ姫が佇んでいた。

 

 

溝呂木「ッ?!貴様等は!」

 

 

ディケイド『ふむ、遺跡で海道とやり合ってたヤツと優矢が言っていたダグバに……何か知らない奴が一人混じってるな……』

 

 

ディケイドはライドブッカーを持つ右腕を下げながら溝呂木を見て訝しげに呟き、溝呂木はディケイド以外の三人の顔を目で追って見ていくと、怪訝そうに皺を寄せた。

 

 

溝呂木「何だ、御薙煌一達は来てないのか?」

 

 

ディケイド『あぁ、生憎アイツ等は今休憩中だ。此処にはいない』

 

 

ディケイドは溝呂木の疑問に対し淡々とした口調で答えながらライドブッカーをソードモードに切り替えて切っ先を向けていき、それを聞いた溝呂木は鼻で笑いながらディケイド達の顔を見つめていく。

 

 

溝呂木「それで?この世界と何の関係もない部外者のお前達が、一体何の用だ?」

 

 

ディケイド『決まってるだろう?お前達の邪魔をしに来たんだ』

 

 

バロン『騙されてたとはいえ、その怪獣を復活させるのに手を貸しちまったわけだしな。その尻拭いに来たってところだ』

 

 

姫「そういう訳だ。此処で大人しく御縄を頂戴してもらうぞっ!因みに関係ないが私の得意な縛り方は亀甲縛りだっ!」

 

 

シュロウガ『……亀?』

 

 

なんか一人関係ないことをカミングアウトしてるが、取りあえずそれは無視して溝呂木達と対峙するディケイド達。それを見た溝呂木は再び鼻で笑うと、何処からか薙刀をモチーフにしたツールを取り出した。

 

 

溝呂木「No.10、白金、お前達はあの三人を相手してやれ……俺はあの破壊者を相手する」

 

 

歌舞鬼『別にそいつは構わねえがよ……因子に下手な刺激は与えんじゃねえぞ?間違って暴走してこの世界と一緒にオダブツ、なんてぶざまな最後は送りたくねえからな』

 

 

ディケイド(……?アイツは……)

 

 

歌舞鬼が刀を肩に乗せながら溝呂木に注意を呼び掛ける中、ディケイドはそんな歌舞鬼を見て仮面の下で訝しげな顔を浮かべた。

 

 

ディケイド(あのライダーから僅かに感じる感覚……アイツ等に似てる?)

 

 

アイツ等と言うのは、以前ディケイドがセイガの世界やキャンセラーの世界で対峙したオーガ達のことだ。

 

 

キャンセラーの世界でヴェクタスを倒して以来、あれから奴らが姿を現す事はなくなった。

 

 

目的は最後まで分からなかったが、てっきりもう諦めて襲ってこなくなったのだと考えていたのが……

 

 

ディケイド(確かに似てる……まさかあのライダー、アイツ等の仲間か……?)

 

 

遺跡では状況が状況だった為に確かめる余裕がなかったが、こうして改めて感じ取ってみると何処となく気配が似てる、あの時戦ったオーガ達と。

 

 

だとしたら、あの黒いコートの男の隣に立つダグバもあのライダーと何か関係があるのだろうか?

 

 

以前謎のイリシットと手を組んで襲ってきた例があるし、その可能性はあるかもしれない。

 

 

それに、一番気になるのが……

 

 

 

 

 

 

―その零さんの友達は、何らかの事情があって敵側についてる、と思う。そして『因子』の力を狙っている―

 

 

 

 

 

 

ディケイド(―――本当にアイツ等なのか……いや、まだそうと決まった訳じゃない……だが……)

 

 

以前祐輔に言われた言葉を思い出し、内心揺らぎながらも歌舞鬼を見つめる目に自然と力を込めていくディケイド。その間にも溝呂木が一歩前に踏み出し、取り出したツールを両手で持ち目の前に突き出した。

 

 

溝呂木「さあて、そろそろ始めようぜ?デスゲームをな……変身ッ!」

 

 

高らかに叫びながら溝呂木が変身ツール……ダークエボルバーを左右に開くように展開すると紫色の光りが放たれ、溝呂木の姿が死神をモチーフにしたような姿をした黒いライダー……『メフィスト』へと変身したのであった。

 

 

ディケイド『(ッ!今は余計な詮索は後回しだ…!)皆、行くぞ!』

 

 

バロン『おう!』

 

 

シュロウガ『ん!』

 

 

姫「今回は相手が相手だからな、私も加勢させてもらう!」

 

 

ライドブッカーからカードを一枚取り出しながら呼びかけるディケイドに応えると、バロンとシュロウガはそれぞれ武器を構え、姫は右手に持ったナックルウェポン……イクサナックルを左手の手の平に打ち付けて起動させていく。

 

 

『READY!』

 

『変身ッ!』

 

『FOMARIDE:INFINITY!JEUNESSE!』

 

『F・I・S・T・O・N!』

 

 

ディケイドと姫がバックルにカードとイクサナックルをセットすると二つの電子音声が響き、ディケイドは上級武士の裃袴をモチーフにしたような姿をした赤いライダー…インフィニティ・ジュネッスフォームに、姫はバックル部から展開されたアンダースーツと桜色のアーマーを全身に纏い、イクサ・セーブモードの白い鎧をピンクに染めたようなライダー……『イクサ・フロンティア』(以後イクサF)へと変身したのであった。

 

 

メフィスト『ほう、噂通り面白い能力を持っているな?これは楽しめそうだ』

 

 

歌舞鬼『あんまりはしゃぎ過ぎんなよ?おら、出てこいお前等っ!』

 

 

インフィニティに変身したディケイドを見てメフィストが期待の篭った笑みを浮かべる中、歌舞鬼はそれを尻目に右腕を掲げ、目の前にライオトルーパーの大群を展開していく。

 

 

バロン『チッ!久々に出て来やがったなコイツ等っ!』

 

 

Dインフィニティ『だが大した数じゃない、散開して各個で叩くぞっ!アイツ等が来るまで少しでも奴らの戦力を削るんだっ!』

 

 

シュロウガ『分かった…!』

 

 

イクサF『やれやれ、それでも骨に来る数だぞコレは!』

 

 

正面から迫り来るライオトルーパーの大群を見据えて思わず愚痴りながらも、右手にイクサカリバー・ガンモードを構えるイクサF。Dインフィニティもそれを横目に見て苦笑いしながら構えを取ると、三人と共にライオトルーパーの大群の中へと飛び出していった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―芳乃家―

 

 

零達がルルイエ島でメフィスト達との激戦を開始したその頃、芳乃家では煌一が未だに沈んだ様子でテレビに映るルルイエ島を見つめていた。

どうやらデモンゾーアの側で謎の集団と仮面ライダー達が戦いを始めたらしく、おそらくその仮面ライダー達とは零達の事だろうと、煌一はテレビを見ながらふとそう思う。

 

 

霧彦「始まったようですね……」

 

 

朱焔「だな……煌一、良いのかよ……?」

 

 

煌一「…………」

 

 

テレビから視線を逸らして複雑げに問い掛ける朱焔。煌一は一度テレビに映るDインフィニティ達とライオトルーパー達の戦いを見ると、ぎゅうっと拳を握り締めた。

 

 

煌一「分かってるんだ……俺も彼処に行くべきだって……戦うべきだって……」

 

 

朱焔「だったら!」

 

 

いつまで経っても煮え切らない態度を取る煌一に、苛立ちの篭った声で叫ぼうとする朱焔。だが煌一はキッと朱焔を睨み上げ、乱暴に叫び出した。

 

 

煌一「俺だって分かってる!!こんなところで迷っている場合じゃないって事ぐらい!!だが決められないんだ!!紗耶香を……アイツを討たなければならない覚悟がっ……!!」

 

 

現在ルルイエ島上空に漂うデモンゾーアは、これまで戦ってきたアルシェインとは格が違う化け物だ。

 

 

甦ったばかりの頃の力でも此処にいるメンバー達の力を遥かに凌いでいたというのに、今はルルイエ島からエネルギーを吸収した事で更に力を付け、最早全力を出し尽くしても勝てるかどうか分からない本物の化け物と化している。

 

 

唯一倒せる方法があるとすれば、それはデモンゾーアを完璧に制御している核……ファウストさえ討てば、デモンゾーアは自然崩壊を起こして完全に消滅させる事が出来る。

 

 

しかしそれはファウストの……紗耶香の命を絶つという意味でもあるのだ。

 

 

煌一「こんな事にならないように、ずっとアイツを止めようと戦ってきたのにっ……説得も通じない!闇黒魔超獣だけを倒す方法も他にはない!ならもう……倒すしかないじゃないかっ……!」

 

 

恐らく紗耶香はルルイエ島を喰い尽くした後、自分の故郷であるこの島も襲うだろう。そうなれば純一達がどうなるかなんて、考えるまでもない。

 

 

そんな事になる前に、この手で紗耶香を討つしかないのだ。

 

 

愛する友や家族が住むこの世界か、命の恩人であるたった一人の女の命か……

 

 

どちらかを選ぶしかない。究極の選択を迫られ、煌一は苦悩に満ちた顔を両手で覆い隠してしまう。

 

 

さくら「――煌一お兄ちゃん」

 

 

そんな煌一の傍に、今まで無言でいたさくらがゆっくりと歩み寄って腰を屈めた。さくらは一瞬どんな言葉を伝えれば良いか分からず言い淀むが、すぐに決意の篭った瞳で煌一を見つめ口を開いた。

 

 

さくら「あのね……上手く言えないかもだけど、ボクは煌一お兄ちゃんとその人がどんな関係なのか良くは知らないし……その人と昔何があったのかも分からない……」

 

 

煌一「…………」

 

 

さくら「でもね、煌一お兄ちゃんがどれだけその人を大切に想っているか、少しだけ分かった気がする……煌一お兄ちゃんは、今までその人の事が大事?」

 

 

煌一「……ああ……大事な恩人だ……」

 

 

さくら「そっか……なら、難しく悩む必要なんてないんじゃないかな?」

 

 

煌一「……え?」

 

 

その言葉に、煌一は思わず顔を上げてさくらを見た。さくらはテレビの映像に映るデモンゾーアを見つめながら、言葉を続ける。

 

 

さくら「煌一お兄ちゃんの大事な人が彼処にいて、今も苦しくて誰かに助けを求めてる……その誰かは多分、煌一お兄ちゃんの事だと思うんだ」

 

 

煌一「そんな……そんな訳ないさ……だってアイツは俺の事を憎んで……」

 

 

さくら「うん、そうかもしれないね。でも、女心って結構複雑なんだよ?煌一お兄ちゃんの事を憎んでいるからって、それでお兄ちゃんへの想いが全部消えちゃったなんて、ないと思う」

 

 

煌一「…どうして…そう言い切れるんだ…?」

 

 

さくら「うーん…女の勘?もしくは魔法使いの孫としての勘かな?」

 

 

にゃはははと、自分が嫌ってる魔法というワードまで持ち出し苦笑いを浮かべるさくらだが、すぐに優しげな表情に変わって煌一に語り掛けていく。

 

 

さくら「お兄ちゃんの気持ちはなんとなく分かるよ?でも、最初から無理だって諦めちゃダメだよ……例え可能性が0%だとしても、0を1に変えて、其処からまた巻き返す事も出来ると思う……不可能だから何をしても無駄なんて、そんな道理はないと思うんだ」

 

 

煌一「……さくら」

 

 

さくら「格好悪く転んでもいい、立ち止まって悩んでもいい……でも何かをする前に、全部を諦める事だけはしないで?お兄ちゃんは一人で戦ってる訳じゃないんだから……」

 

 

 

まるで子供に言い聞かせるように優しげな声で語り、さくらは煌一の目を真っすぐ見据えながら……

 

 

さくら「だから聞かせて?煌一お兄ちゃんは今……何をしたいの?」

 

 

煌一「…………」

 

 

何時もの雰囲気とは程遠い、真剣な表情で問い掛けるさくら。

 

 

それを聞いた煌一が朱焔と霧彦を見上げると、二人は何も語らずただ力強く頷き返した。

 

 

煌一「――俺は……」

 

 

テレビには、Dインフィニティ達が死に物狂いで奮闘する姿が映し出されている。

 

 

その姿に感化されるかの様に、煌一は瞳の奥底に決意を宿して立ち上がっていった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

同時刻。ジェイルの研究所にある一室では、優矢が先程と変わらず沈んだ様子で自分の手の平を見つめていた。

 

 

優矢「……俺は一体、どうしたら……」

 

 

零達が部屋を出て行ってからもずっと悩み続けていたが、優矢の中で未だ答えは出なかった。

 

 

薫を止めたいと思う気持ち……

 

薫とは戦いたくない気持ち……

 

 

その二つの心が重なり、絡み合い……優矢は苦悩から抜け出せずにいた。

 

 

優矢「分かってる……動かなきゃ何も解決しないって事ぐらい……でもっ……」

 

 

脳裏に蘇るのは優しい顔で笑い、子供が笑ってくれるのが好きだという薫の笑顔。

 

 

それを考えると、痛むのだ。この手であの薫を殴る事を考えると。

 

 

人を殴るのは良い気分じゃない。最初の頃にグロンギと戦い拳を振るっていた時も、心の中は何時も穏やかではなかった。

 

 

それでもグロンギは人類の敵だから、倒さなければ罪のない人が殺されるから、綾瀬が笑ってくれるならと、そう自分に言い聞かせて戦ってきた。

 

 

今は零達との出会いや綾瀬の死を体験した事で、皆の笑顔の為に戦うと決めた。でも……

 

 

優矢「出来ねえよ……薫を殴るなんて……俺には……」

 

 

零が言っていた事も分かる、薫にこれ以上間違った道を歩ませたくないという気持ちは確かにある。

 

 

それでも友達を殴るなんて……そんな覚悟は自分にはない……

 

 

いつまでもグチグチと悩む自分に自己嫌悪しながらも、踏ん切りが付かないもどかしさから苛立ち、優矢は思わずベッドを殴り付けた。その時……

 

 

アヤメ「優矢?入るわよ」

 

 

部屋の外から声が響くと、扉がゆっくりと開きアヤメが部屋の中へ入ってきた。

 

 

優矢「あ、アヤメさん?」

 

 

アヤメ「様子見に来たわ。どう、調子は?」

 

 

優矢「え、あ、はい、一応大丈夫です。わざわざ来てもらってすみません……」

 

 

アヤメ「別にそんな畏まらなくても良いわよ。それに、貴方に伝えなきゃならない事もあったしね」

 

 

壁に寄り掛かって腕を組むアヤメ。優矢はそんな彼女の言葉に疑問符を浮かべるが、アヤメは真剣な目付きで話しを始めた。

 

 

アヤメ「さっきテレビで流れてたけど、零達がルルイエ島でヴァリアスの配下達と戦闘を開始したそうよ」

 

 

優矢「?!もしかして……薫も?」

 

 

アヤメ「居たわ。今頃零達と戦ってるでしょうね」

 

 

言葉を詰まらせる事なく、アヤメはハッキリと言い切った。それを聞いた優矢は唇を噛み締め、顔を俯かせてしまう。

 

 

アヤメ「どうするの?行かなくていいの?」

 

 

優矢「…………」

 

 

アヤメ「ま、無理に行けとは言わないわ。相手はグロンギとは言え貴方の友達……普通の高校生の喧嘩ならいざ知らず、友達と本気で殺し合うなんて出来るはずないものね……」

 

 

そんな戦いは零達のような熟練者ならともかく、ただの高校生でしかない優矢にはあまりにも酷だ。無理に行かなくていい。その言葉の誘惑に呑まれそうになるが、優矢は心の中で頭を振ってそれを退け、顔を俯かせたまま口を開いた。

 

 

優矢「アヤメさん……聞いてもいいですか?」

 

 

アヤメ「何かしら?」

 

 

優矢「その……もしもですけど……」

 

 

言葉が一瞬詰まる。それでも聞かずにはいられなかった優矢は、声を少し震わせながら語り出す。

 

 

優矢「もし煌一さんが……アルシェインに堕ちて人を襲うようになった時……アヤメさんならどうしますか……?」

 

 

アヤメ「…………」

 

 

もし煌一がアルシェインに堕ちたら。そう呟いた優矢にアヤメは無言のまま何も答えず、そんなアヤメから何かを感じ取った優矢は慌てて顔を上げた。

 

 

優矢「あ、す、すみません……いきなりこんなこと聞いて……」

 

 

アヤメ「ううん、別に構わないわ。そうね……私だったら……」

 

 

コツンと、アヤメは後頭部を壁に当てて天井を仰ぎ、少し唸って考える仕草を見せると……

 

 

アヤメ「――うん。やっぱり戦うと思う、こうちゃんを止める為に」

 

 

優矢「……煌一さんを傷付ける事になっても……ですか?」

 

 

アヤメ「えぇ」

 

 

迷う事なく、アヤメはその問いに頷き返した。

 

 

優矢「じゃあ、アヤメさんは平気なんですか?煌一さんを傷付ける事に、なにも感じないんですか?」

 

 

アヤメ「ううん、何もって訳じゃないわよ?こうちゃんを傷付けると思うと心が痛いし……そんな事したくないって思う……」

 

 

優矢「じゃあ……どうしてそんな簡単に……」

 

 

アヤメ「…………」

 

 

訝しげに問い掛ける優矢に対し、アヤメは天井を仰いだまま一度瞳を伏せ、ゆっくりと口を開いた。

 

 

アヤメ「……確かに、こうちゃんを傷付けるのは痛いって思うよ。でもね?それよりもっと恐ろしいことがあるから、私は痛い思いをしてでもこうちゃんと戦うの……」

 

 

優矢「?もっと恐ろしい、こと?」

 

 

頭上に疑問符を浮かべて問い返すと、アヤメは「そう……」と頷きながら瞳を開き、切ない表情を浮かべた。

 

 

アヤメ「ただでさえ、今のこうちゃんは沢山の人達の命を奪ってその罪を背ってきてる……そんないつ潰れても可笑しくない状態で、もしアルシェインに堕ちて関係ない大勢の人達を殺してしまえば……こうちゃんは本当の意味で後戻りが出来なくなってしまう……」

 

 

優矢「……後戻り……出来なくなる……」

 

 

アヤメ「そう……私はそれが嫌だから、こうちゃんと戦うの……こうちゃんを傷付けて痛い思いをするより、こうちゃんが自分の罪に潰れて嘆く姿を見る方が、よっぽど痛いから……」

 

 

優矢「…………」

 

 

そう告げるアヤメの瞳には、強い決意と共に何処か深い哀しみが入り混じっている。それを見た優矢は一瞬息を拒むと、包帯が巻かれた自分の右手を見下ろした。

 

 

優矢(そうだ……もしこのまま、薫があんな事を繰り返して誰かの命を奪ったら……)

 

 

本当に後戻り出来なくなる。アヤメの言葉を思い出しぎゅうっと拳を握り締める優矢の脳裏に、ふともう一人の友人の言葉が蘇った。

 

 

 

 

 

―お前は、目の前で友達が間違ったことをしているのに、それを放っておくつもりか……?―

 

 

 

 

 

優矢(――そうだよな……ほっといていいわけねえよな……)

 

 

友達が間違った道を進んでいるのに、それを無視して良い訳がない。

 

 

これ以上罪を重ねていけば、薫はあの時のような優しい笑顔を失ってしまう。その方が何より恐ろしいと、優矢は先程まで迷っていた自分を恥ずかしく感じた。

 

 

薫の笑顔を守る。ひとつの決心を心に決めると、優矢は右手に巻いた包帯を取り払ってベッドから立ち上がり、そのまま部屋から出て行こうとする。

 

 

アヤメ「……いくの?」

 

 

優矢「はい」

 

 

アヤメ「傷付ける事になるわよ?貴方の友達を、貴方の心を……」

 

 

優矢「大丈夫です。確かに、アイツを殴るのは嫌だけど……」

 

 

ゆっくりとアヤメへと顔を向け、優矢はさっきまでとは違う迷いのない眼でこう告げた。

 

 

優矢「――アイツが笑顔を失う事の方が……もっと嫌だから」

 

 

頭に思い浮かぶのは、あの公園で自分達と一緒に笑い合っていた薫の笑顔。

 

 

薫は敵だったが、あの公園で見せた笑顔は紛れもない本物の笑顔だったと、優矢は心の何処かで核心している。

 

 

それを守る為に戦いに行くのだと、優矢は闘志の宿る瞳でアヤメを見つめ、それを見たアヤメは含み笑いを浮かべ優矢の隣に立った。

 

 

アヤメ「そういう事なら、貴方にアレを渡しても大丈夫そうね。付いてきなさい」

 

 

優矢「……え?」

 

 

アヤメは笑みを浮かべながらそう言ってそのまま部屋を出ていき、いきなり付いて来いと言われ呆然としていた優矢はそれを見ると、慌ててアヤメの後を追って部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

優矢「――あの、アヤメさん?何処まで行くんですか?」

 

 

アヤメの後を追い、部屋を出た優矢がやってきたのは研究所内のとある倉庫だった。倉庫の中央には何やらシートが被されたなにかがあり、アヤメは優矢の質問に答えずシートが被されたなにかへと近付いた。

 

 

優矢「?何ですか、ソレ?」

 

 

アヤメ「フフ、これはね?私達から貴方へのサプライズプレゼントよ♪」

 

 

優矢「……は?サプライ?」

 

 

自分達からのサプライズプレゼント。何処か楽しげに微笑むアヤメの言葉に優矢が訝しげに聞き返すと、アヤメは笑みを浮かべたままなにかに被されたシートを勢いよく取り払っていった。それは……

 

 

優矢「―――ッ?!これ、は……」

 

 

シートが取り払われて露わになったそれは、一台のバイクだった。

 

 

形状は先の戦いで薫に破壊されたトライチェイサーに似ているが、バイクカラーは全体的に黒く赤いラインが入っている。

 

 

優矢が嘗ての愛機を連想させるそのバイクを見て唖然となる中、アヤメは優矢の反応に満足げに頷きながら説明を始めた。

 

 

アヤメ「このマシンの名はビートチェイサー。薫との戦いで破壊された貴方のバイクを私の知り合いがディジョブドの世界にいる輝晶紲那達に届け、修理と改良を依頼して造ってもらった物よ」

 

 

優矢「……ビートチェイサー……」

 

 

アヤメの説明を聞きながら黒いマシン……ビートチェイサーのグリップを握っていく優矢。

 

 

アヤメ「貴方のマシンは、ゴウラムとの合体を繰り返した事で急激な金属疲労を起こしてたからね。彼処で壊されなかったとしても、どの道貴方のマシンは限界だった……こうちゃんもそれに気付いて、どうにか出来ないかって頭を悩ませてたわ」

 

 

優矢「……そうだったのか……ありがとうございます、アヤメさん」

 

 

アヤメ「お礼なら私じゃなくて、ソレを造った人達に言いなさい。その為にも、絶対に生きて帰るのよ?」

 

 

優矢「はい!」

 

 

アヤメの言葉に力強く頷き返すと、優矢はビートチェイサーの上に置かれたヘルメットを頭に被ってマシンに跨がりエンジンを掛け、アヤメはそれを見るとビートチェイサーの前方に歪みの壁を出現させた。

 

 

アヤメ「さて、じゃあ行くわよ?貴方のお友達の下へ!」

 

 

優矢「はいっ!」

 

 

アヤメは高らかな声を上げながら歪みの壁に向かって疾走し、優矢もビートチェイサーを走らせて歪みの壁に突っ込んでいく。そして二人は歪みの壁に呑まれ、そのまま何処かへと消えていったのであった。

 

 

 

 

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