仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
番外編/出会いと家族(前編)
――これはまだ、零達一行がGEAR電童の世界に滞在している頃の話……
―カブトの世界・市街地―
カブトの世界に存在する市街地。零達とルルーシュの活躍によってワームの脅威は一先ず収まり、街は一時の平穏を手に入れていた。様々な人々が街の中を交差する中、一人の少女が一つのビルの屋上に佇む姿があった。
麻衣「………………」
少女の名は、睦月 麻衣。零の持つ因子とヴィヴィオを狙う組織の一員の一人であり、かつて零達の友人の一人であった少女だ。彼女は現在此処から見える一つの建物……光写真館をジッと見つめていた。そんな時……
「――麻衣」
麻衣「……?」
不意に背後から声を掛けられ、麻衣は写真館から目を逸らし背後を見た。其処には屋上の入り口からこちらに向かって歩いてくる青年……同じ組織の一員である荒井真也が、両手に缶コーヒーとジュースを持って歩いて来る姿があった。
麻衣「真也……」
真也「どうだ?奴らに何か動きはあったか?」
麻衣「……異常は特に見当たらない……大丈夫」
真也「そっか……まあ零がいないんじゃ、次の世界に向かう事も出来ないだろうしな。暫くこの世界に滞在してるだろう」
ほら、と真也は麻衣の隣に立ってジュースを差し出し、麻衣は一言礼を告げるとジュースを受け取ってタブを起こし、ジュースを口に運んでいく。真也はそれを見ると自身もコーヒーを口にし、目を細めて写真館を見つめた。
真也「しっかし、因子を手に入れて礼のアレを破壊するっていうのは分かるけど、あのガキンチョまで手に入れて何する気なんだろうな」
麻衣「……分からない……でも多分、あの子がいないと揺り篭を動かせない理由があるのかも……」
真也「ふーん……ま、別に命まで奪うってことまではないだろうけどな……あんなガキ殺したところで、何が手に入るって訳じゃないだろうし……用が済めば、アイツ等に返してやりゃあいいだろ……」
そう言いながら真也は再びコーヒーを口にしていき、麻衣は手の中のジュースを見つめながら口を開いた。
麻衣「……真也はやっぱり……今も気乗りじゃない?あの子を巻き込む事……」
真也「…………」
ふと投げ掛けたその質問に、真也は缶コーヒーを持つ手を一瞬止めた。だがすぐに缶のコーヒーを口に運び、写真館を見つめながら口を開いた。
真也「正直に言えばそうだな……だけど、やらなきゃなんねえんだよ……自分の意思に反してても、やらなきゃ俺達に待ってるのは、『絶望』の未来だけだ……」
麻衣「……真也は……納得してないもんね……瑠璃の死を……」
真也「出来る訳ねえだろう」
強く、何処か怒りの篭った声音で真也はそう返した。
真也「そうさ……出来る訳がねえ……まだ交通事故とか、不慮の事故とかなら、強引にでも納得しようって思えたさ……けどあんな……あんなクズ野郎にあんな仕打ちをされて、その上命まで奪われて……それだけの事をされたってのにっ……」
麻衣「瑠璃を殺した犯人は……『裁かれなかった』……」
バキッ!と、何かが潰れるような音がした。隣を見れば、真也が唇を噛み締めながら顔を俯かせ、手に持つ缶を握り潰していた。
真也「周りなんて信用出来ねえ……アイツ等はただ、自分達の考えを押し付けてくるだけだった……俺の気持ちなんて考えずに『仕方ない』って、『これが現実だ、目を背けるな』って……たったそれだけしか……」
麻衣「…………」
悔しげに呟く真也に、麻衣も何も言えず顔を俯かせてしまう。
真也「だからやるんだ……周りの連中は何もしてくれなかった。だから俺達が、自分の手で足掻いてやるしかねえんだよ……『絶望』しかない未来を、変える為に……」
麻衣「……でも……その為にあんな小さな子を……」
真也「それでもやるしかねえだろ。お前だって、このまま揺り篭を動かせなかったら……また『あの病院』に……」
麻衣「…ッ!」
ボソッとそう呟いた真也の言葉に、麻衣は息を拒みながら恐怖に染まった表情に変わった。すると真也は自分が口にした言葉にハッとなり、慌てて麻衣の顔を見た。
真也「あ、わ、ワリィ……つい……」
麻衣「っ……ううん……大丈夫……気にしないで……」
全然大丈夫だからと真也に平気そうに返す麻衣だが、その顔はすぐれてるように見えない。真也はそんな麻衣に心配そうに手を伸ばすが、麻衣はそのまま屋上の扉に向けて歩き出した。
真也「お、おい、何処行くんだ?」
麻衣「……ちょっと、気分転換にその辺を歩いてくる……すぐ戻るから……後はお願い……」
真也「…分かった…後は俺がやっとく」
麻衣「うん……ごめん……」
真也に向けて一度謝ると、麻衣は屋上を後にし下へと下りていった。真也はそれを見送ると、ビルの真下を覗き込みながら……
真也「そうだよ……アイツは此処(組織)に来る前に……『もう未来を奪われてるんだ』……」
風が吹けば掻き消されてしまいそうな、小さな声でそう呟いていたのだった……
◇◆◆
屋上を後にした後、麻衣が向かったのは写真館の近くにある公園だった。周りには様々な遊具が揃っているが、その遊具で遊ぶ子供達の姿は一人も見られない。恐らく此処は遊び場として余り使われていないのかもしれないと、麻衣は適当に考えながら近くのブランコに腰を下ろした。
麻衣「……そういえば……こうやってブランコに乗るのも、何年振りなのかな……」
久々に感じたブランコに乗った感覚。麻衣はブランコの鎖を握り締めながら軽くブランコを揺らしていくが、不意にブランコを止めて顔を俯かせてしまう。
『それでもやるしかねえだろ。お前だって、このまま揺り篭を動かせなかったら……また『あの病院』に……』
麻衣(分かってる…分かってるよ…)
脳裏を横切るのは、先程の真也の言葉。それを思い出した麻衣はブランコの鎖から手を離し、鎖の錆が付いた両手の手の平を見下ろした。
麻衣(揺り篭を動かさなきゃ……私はこうして何かを『触る』ことも、『見る』ことも、『喋る』ことも、『立つ』ことも出来なくなる……私は揺り篭を動かす代わりに……また『私』を取り戻せたのだから……)
例え組織に入らなかったとしても、堕血水に手を出さなかったとしても、自分には既に『未来』なんてない。そんな理不尽な運命を変えたいが為に、彼女はこうして此処に在り、『家族』を取り戻す為に戦ってる。それが結果的に、『自分』を取り戻す事にも繋がるのだから。
麻衣(……もう……あんな暗闇に戻るのは嫌……揺り篭を動かせなかったら……『私はまた私を失う』……)
それは既に『約束』されている『未来』。揺り篭を動かせなければ、自分は自分の意思とは関係無く、再び『人』として生きれなくなる。『自分』と『家族』を取り戻す為にも、いい加減覚悟を決めねばと、麻衣は瞳を伏せて自分の心にそう言い聞かせていた。その時……
―コロコロコロッ……コツンッ―
麻衣「……?」
ブランコに座る麻衣の下にひとつのボールが転がってきて、ボールは麻衣の足先に当たって止まり、麻衣はボールを手に取ってそれが転がってきた方へと振り向いた。其処には……
麻衣「貴方は……」
ヴィヴィオ「――あ……」
其処にいたのは、自分達のターゲットのひとりである少女……零の娘である黒月ヴィヴィオだった……