仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
それから翌日の昼間。咲夜ははるかに朝食を食べさせて薬を飲ませた後、今日も仕事先に出て村の市場へとやって来ていた。ジリジリと太陽の日差しが降り注ぐ中、咲夜は荷車に乗せて畑から運んできた野菜を店に並べ、額に浮かぶ汗を拭った。
咲夜「ふぅ……今日も暑いな……」
空を見上げれば、晴れやかな青空を数羽の鳥達が羽根を羽ばたかせ、何処かへと飛び去っていく姿が見える。咲夜は手の平で爛々と降り注ぐ太陽の日差しを遮りながらそれを見送り、品物並べを再開した。そんな時……
「―――聞いたかい?尾張での織田軍と今川軍の戦の話……」
咲夜「……ん?」
品物並べを再開した直後、店の外から話し声が聞こえそちらの方に視線を向けた。すると其処には、近隣の住人と思われる二人の女性が店の近くで話をする姿があり、咲夜は手を止めて話に耳を傾けた。
「聞いたよ。あの織田軍の総大将が義元の首を取ってすぐ、敵の矢を受けて討ち死にしたって奴だろ?」
「そうそう、でもなんか変なんだよ。総大将が討たれた時は大騒ぎしてたくせに、織田軍は総大将の葬儀も執り行わないらしくてさ……何かあったのかねぇ?」
咲夜(織田軍の総大将……あぁ、織田信長とか言ったか?確か天下を取って天下人になるのなんだの言っていた……)
女性らの話を聞き、咲夜は以前何かの話で聞いた織田信長の名をふと思い出すが、すぐに軽く溜め息を吐いて顔を左右に振った。
咲夜(天下を取るだの大口を叩いておきながら、結局この様か……やはり、戦をする人間なんてどいつもこいつも似たようなものだ……)
信長のように大名等と大層な名を持った人間は大勢いるが、そんな連中は一般市民や農民の自分達にとってなんの助けにもならない。寧ろ、連中は兵士の士気を下げない為という理由で、各地で自分達のような民を一方的に奴隷として捕らえたり放火したりなどをする雑兵達の行いを黙認、或は推奨したりしているのだ。
咲夜(武将等と持て囃されてはいるが、所詮どいつも戦をするしか脳のない連中ばかり……私達の事なんて、何も考えていない……)
何処の誰が何の戦に勝とうが、そんなものは興味ないしどうだっていい。さっさとこんな戦国の世が変わってくれなければ、自分達の立場はいつまで立っても変わりはしないのだ。だからさっさと誰かが天下を取って、さっさと今の世の中を変えろと願うしか出来ない。
咲夜(そんなに戦がしたいのなら勝手にやって、勝手にみんな死んでればいい……そうすれば、少しは今の世の中だって変わるだろう……)
そもそも咲夜は戦も、武士も武将も嫌っている。そうなったのも、以前この村を襲った落ち武者達の一団が原因であった。あの時咲夜とはるかの両親は兵士達の手により無惨にも殺され、しかもはるかは自分と一緒に両親の死を目の前で見たせいで、元々病弱だった体が更に悪化してしまった。病で苦しむはるかを見る度に思う。あの兵士達さえ現れなければ、連中が戦で負けたりしなければ、戦などなければと、つくづくそう思った……。
咲夜「……早くこれ、終わらせるか」
そんな事を考える内にだんだんと気分が落ち込んできてるのを感じ、咲夜は気を取り直して売り物を並べていった。そんな時……
『――だからよぉ、ごめんじゃ済まねえって言ってんだよ!』
咲夜「……?」
店の外から、今度は男の怒鳴り声が聞こえたのである。それを聞いた咲夜は手を止めて頭上に疑問符を浮かべると、店の入り口から外を除き見た。其処には……
「だ、だからっ、さっきからちゃんと謝ってるじゃないですかっ……!」
「うるせーんだよっ!人にぶつかっておいて、ただで済むと思ってんのか?!」
咲夜(……あれは……?)
咲夜の目に飛び込んできたのは、道の真ん中で何やら揉め合う二人の男と女の姿だったのである。女の方は風来坊の格好に白いサラサラとした髪を持った少女であり、男達の方はボロボロになった足軽の鎧を身に付け、酒でも飲んでいるのかその顔には若干赤みが帯びていた。
咲夜(あいつ等は……)
「何だありゃ?何かあったのか?」
「いやな?さっきあの二人があの子と肩をぶつけたらしくて、それで妙な因縁つけて絡んでんだよ……」
「まじか?またみっともねえ事を……うん?あの二人の鎧……ありゃあ今川軍のじゃねえか?」
「ああ……この間織田軍との戦で大将をやられたってとこの?敗戦して此処まで逃げてきて、挙げ句にやけ酒までして八つ当たりかよ……ますますみっともねえな……」
咲夜「…………」
隣でコソコソと女に絡む男達の愚痴を話す農民の男達だが、助けに入ろうとする素振りは見せない。恐らくあの男達の腰にさしてある刀を見て助けに入ろうにも入れないのだろう。咲夜はそんな予想をしながら女に絡む男達を睨みつけ、その間にも男達はオドオドと焦る女に詰め寄っていく。
「ホントに悪ぃって思ってんなら、そら、金出せ金。治療費だ!」
「そ、そんなっ…目茶苦茶過ぎますっ!第一、何処も怪我なんてしていないじゃないですか?!」
「んなもん服の下に隠れて見えねえだけなんだよっ!」
「いいから、さっさと出すもん出しやがれっ!」
男達はしつこくぶつかった代償に金を出せと女に詰め寄っていくが、女もそれに従うつもりはサラサラなく少しずつ後退りしていく。すると男の一人が、女が腰に刺す白塗鞘の太刀を見つけて目を細めた。
「けっ、生意気なアマだ。女のくせして刀まで差してやがる、それで武士にでもなったつもりかぁ?」
男は気に入らなそうにそう吐き捨てると、女が腰に刺す太刀を奪い取ろうと手を伸ばしていく。しかし……
―パシイィッ!―
「てえぇッ?!」
男の手が刀の柄に触れようとした瞬間、女が平手で男の手を叩く様に払い退けていったのだ。よほどの強さで叩かれたのか、男は手を抑えながら思わず後退り、女は刀を隠すように身構えながら男達を睨み付けた。
「こ、この刀には、指一本触れないでっ!」
「つうぅっ……何しやがんだこの女ァッ!」
「ッ!」
言う通りにされず反抗までされて激怒したのか、叩かれた男は女の顔目掛けて握り拳を振りかざした。それを見た女は両目を見開き、振り下ろされる拳から目を逸らすように目を強く瞑った。その時……
―ヒュンッ…グシャアァッ!―
「ゴアァッ?!」
「なっ?!」
「……え?」
突如、女を殴ろうとした男の横から猛スピードで何かが飛来し、その何かはそのまま男の顔へと減り込んで勢いよく吹っ飛ばしていったのである。女は男の悲鳴を聞いて思わず閉じていた目を開き、情けない格好で地面に倒れる男を見て唖然とした表情を浮かべると、男の近くに先程男を吹っ飛ばした物と思われるものが落ちているのに気づいた。それは……
「い、いも……?」
そう、男を吹っ飛ばした物の正体とは、なんの変哲もないただの芋だったのだ。何故芋がいきなり?と女が疑問げに小首を傾げていると、男と女の背後からザッと物音が響き渡った。それに気付いた女達が背後に振り返ると、其処には……
咲夜「―――女一人を男二人で責め立てた上に金まで要求し、暴力まで振るおうとは……情けない奴らめ」
其処には、腰に手を当てて男達を睨みつけながら仁王立ちする咲夜の姿があったのである。すると、芋をぶつけられて吹っ飛んだ男が頬を押さえながら起き上がり、近くに転がる芋を手にし咲夜を睨みつけた。
「いっつぅ……てめえか、人様に芋を投げつけやがったのは?!いきなり何しやがる?!」
咲夜「それはこっちの台詞だ。人様の店の前で騒ぎを起こしおって……営業妨害だ。さっさと失せろ」
「んだと?!女のくせして生意気なっ!」
咲夜「フンッ……その女を二人掛かりでなければ強気に脅せない下衆風情が何を言うか……腐るなら、もう少しマシに腐ったらどうだ?この負け犬共めが」
「なっ……んだとテメエッ?!」
馬鹿にするように鼻で笑う咲夜の暴言に堪忍袋の尾が切れ、男達は激怒して腰に刺していた刀を振り抜いた。それを見た周りから小さな悲鳴とざわめきが広がるが、咲夜はそれを見ても特に臆する様子を見せず、呆れるように息を吐いた。
咲夜「やれやれ……小娘に暴言を吐かれたぐらいで刀を抜くとは、器量の小さい男達だ……そんな事だから戦にも負けたんじゃないのか?」
「コイツッ、言わせておけばッ!!」
「あ、危ないっ!!」
軽蔑の眼差しを向ける咲夜の態度が更に怒りを駆り立て、男の一人が刀を振りかざしながら咲夜へと突っ込んでいった。その光景に女が思わず悲鳴を上げるが、咲夜は焦る事なく腰に当てた手を下ろし、そして……
―ビュンッ!―
咲夜「ふんっ……」
「?!なっ―ドガアァッ!―グハァッ?!」
体位を少しだけずらして刀を避け、左手の拳でカウンター気味に男の顔面を殴りつけ怯ませていったのだ。更にそれだけでは終わらず、咲夜は顔を押さえる男の手から刀を蹴り落として男の右腕を両手で抱え、男に足払いを掛けて身体を浮かせると……
咲夜「はあぁっ!!」
「う、うあああああああああああああああっ?!!」
―ブオォンッ!!ガシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!―
……そのまま勢いよく男を背負い投げ、咲夜に投げ飛ばされた男は近くの建物の壁に叩き付けられ気絶していったのであった。その光景に女や残った男は呆然とした顔で固まってしまい、咲夜はパンパンッと両手を払って軽く溜め息を吐いた。
咲夜「こんな物か……女に投げ飛ばされたぐらいで気を失うとは、情けない奴め……」
「ッ!て、テメエ!なんてことしやがるっ!!」
気を失った男に呆れ果てる咲夜の言葉で正気に戻り、もう一人の男は怒りを露わにして背中を向ける咲夜へと突っ込み刀を振りかざしていく。咲夜は咄嗟にそれに反応して背後に振り返りながら男の振り下ろした刀を右手で払い、更に勢いを殺さずにそのままその場で回転し、そして……
咲夜「フッ!」
―ドグオォッ!!―
「ガッ…ハッ…?!」
男の腹へと渾身の後ろ蹴りを突き刺し、男は一瞬呼吸が止まって苦しげに身体をくの字に折り曲げていった。そして男が腹を押さえて悶え苦しむ中、咲夜は男の腹から左足を離して距離を離すと、右手を力強く握り締め……
咲夜「せえええあああああああああああっ!!」
―バキイィンッ!!―
「があぁっ?!」
アッパーカット気味に拳を勢いよく振り抜き、男の顎を真下から殴りつけていったのだった。そして男は懐に仕舞っていた小刀を落しながら吹っ飛んで地面へと大の字に倒れ、咲夜は男の落とした小刀を拾って刀を抜くと、そのまま男の下に歩み寄り……
―……ドンッッ!!―
「っ?!ひ、ひいいいいっ?!」
男の顔目掛けて刀を振り下ろし、男の顔の横ギリギリに刃を突き立てていったのだった。ギラリと鋭く輝く刃を見た男は恐怖で引き攣った表情を浮かべ、咲夜は前髪で顔を隠しながら男を睨みつけた。
咲夜「お前達みたいに……自分の事しか考えられない奴……大っきらいだっ……さっさと消えろ……」
「う、あぁ……お、お前!こんな事してただで済むと思うなよぉ?!」
男はそんな捨て台詞を残しながら体を起こすと、気を失う仲間を担ぎ何処かへと逃げ去っていった。そして咲夜はそんな男達を見送ると疲れたように溜め息を漏らし、小刀を捨てて女の方へと振り返った。
咲夜「おい、大丈夫か?」
「……え?あ、は、はい。すみません、ありがとうございます……危ないところを……」
咲夜「いいや、私が勝手にやっただけだ。怪我がないのならそれでいい……それにしても……」
咲夜は頭を下げて礼を言う女の格好を頭から足先まで見下ろしていき、不思議そうに小首を傾げて口を開いた。
咲夜「見慣れない格好だな…もしかしてお前、旅人か何かか?」
「へ?……あ、はい。旅の途中、休める場所を探してこの村に来たばかりでして……」
咲夜「ほお、道理でこの辺りじゃ見ない顔だと思った……あぁ、自己紹介が遅れたな。私は咲夜、この村の住人だ。お前は?」
名を名乗ることをすっかり忘れて自己紹介をすると、咲夜は女に名前を聞いていく。その問いを受けた女は頭に被っていた風来帽を外し、白い髪と紅い瞳を露わにして口を開いた。
「――私は雪奈…雪奈って言います。よろしく、咲夜さん」
◇◆◆
それから数時間後。野菜の仕事を終えて夕方になった頃、咲夜は仕事の間待たせていた雪奈から話を聞こうと、近くの団子屋に訪れて茶をしながら話をしていた。
咲夜「ふむ……では、雪奈は今の世の中を見て回る為に旅をしている、という事か?」
雪奈「えぇ、一応そんなところなんですけど……肝心の旅の資金が、昨晩宿に泊まった時にほとんど使ってしまって……それで必要な資金を稼げるところを探して歩いていたら、さっきの人達にぶつかって絡まれてしまいまして……」
咲夜「成る程、それはまた災難だったなぁ」
そう言いながら咲夜は茶を手に取って口に流し込んでいき、雪奈も苦笑しながら団子をひとくち口にしていく。
咲夜「……で、旅の資金を稼げるところは見付かったのか?」
雪奈「あ……いえ、それはまだ……あ、咲夜さんってこの村の人なんですよね?なら、私でも働ける所って知りませんか?」
咲夜「ん?んー……どうだろうな……今は何処も手が足りないってことはないし……少し難しいかもしれんな……」
雪奈「……そう、ですか……」
雪奈が働けそうな所は今はないかもしれないと、そう告げる咲夜に雪奈もガクリと肩を落としてしまった。旅の資金もそうだが、金がなければ宿にも泊まれないし食料も買えない。今夜は本気で野宿を考えるしかないかもと、雪奈が沈んだ顔を浮かべる中、咲夜はそんな雪奈の様子を見てなにかを考え込むかのように顎に手を沿えた。
咲夜「ふむ、そうだな……雪奈、仕事の方は私がどうにかしてみようか?」
雪奈「……は?いや、でもそんな、悪いですし……」
咲夜「構わんさ、別に迷惑とは思っていないし。第一、金がないんじゃ旅を続ける事も出来ないだろ?」
雪奈「それは……そうですけど……でも、咲夜さんに迷惑掛けるのは……」
咲夜「だから迷惑とは思っていない。それに一度助けたからには、途中で放って見捨てるというのも気持ちが悪いからな。此処で会ったのも何かの縁という奴だ、私に任せておけ♪」
ポンッと、自分の胸を叩き雪奈に笑みを向ける咲夜。そんな咲夜の言葉を聞いた雪奈は何かを考えるように暫く顔を俯かせると……
雪奈「――えと……じゃ、じゃあ……お言葉に甘えても良いですか……?」
咲夜「うむ、そうこなくてはな♪さて、そうと決まったら……おばさん!お代は此処に置いておくよ!」
雪奈の了承を得た咲夜は懐から出した団子代を置くと、はるかのお土産を持って雪奈の手を引きながら店を飛び出した。
雪奈「え、ちょっ!何処に行くんですかっ?!」
咲夜「決まっている!今日からお前の住むところだ!ほら、早く行くぞ♪」
雪奈「は、ええ?!聞いてないですよそんなのっ?!ちょ、待ってっ!そんなに引っ張ったら転んじゃいますってばぁっ!」
咲夜に手を引かれながら叫ぶ雪奈だが、咲夜はそれを聞かず意気揚々とした様子で雪奈を引っ張り何処かへと向かっていったのだった。