仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
数十分後……
雪奈「ヒィッ…ヒィッ……ま、待って下さいぃ~!」
咲夜「ほら、頑張れ雪奈!」
はるか「雪奈さーん!頑張って下さ~い!」
外出の準備を済ませた後、咲夜とはるかと雪奈の三人は家を後にして村の近くの山に訪れていた。ちなみにはるかは咲夜の背中におぶられており、咲夜がそれを気にした様子もなく順調に山道を登る中、その後ろからは呼吸絶え絶えの雪奈がふらついた足取りで咲夜の後を追い掛けてきていた。
雪奈「ぜぇ、ぜぇ……咲夜さぁ~ん……まだ着かないんですかぁ~……」
咲夜「もう少しだ。後もうちょっとで……あ、ほら、見えてきたぞ!」
もう倒れそうですっ……と言いたげな情けない声を上げる雪奈を励ましながら、咲夜は暗い森林の奥を指差した。咲夜が指差す先には出口があり、其処から木々に囲まれた暗い山道を照らすように一筋縄のオレンジ色の光が射している。
それを見た雪奈はラストスパートを掛けようと表情を切り替えて足を進め、咲夜もそんな雪奈を見て微笑しながらはるかを抱え直し、雪奈と肩を並べながら出口へと向かっていく。そして出口を抜けると、其処には……
雪奈「――ッ!これは……」
出口を抜けてすぐ、雪奈は目の前に広がる光景を見て愕然となった。雪奈の目に映ったのは、一面に広がる沢山の種類の花で彩られた花畑。更にその花畑の向こうにはオレンジ色の夕日が見え、その光が花畑の花に被った水を照らし、一面の花畑がキラキラと光り輝いているように見える。その余りにも美しい光景に雪奈も見惚れて言葉を失ってしまい、咲夜はそんな雪奈の横を通って花畑の中に入り、背中に背負ったはるかを花畑の上にゆっくりと下ろした。
はるか「わぁ……前来た時と全然変わらないね、此処……」
咲夜「だな。あ、でも少し花が濡れてるようだが……大丈夫か?冷たくないか?」
はるか「あははは、心配し過ぎだよお姉ちゃん。コレくらい私でも平気だから♪」
大丈夫大丈夫!と、自分が元気だと安心させるように笑顔を向けるはるか。咲夜はそんなはるかに心配を拭え切れない様子を浮かべながらも、彼女を気にしながら未だ呆然と佇む雪奈の下へと歩み寄った。
咲夜「どうだ雪奈、すごいだろ此処?」
雪奈「あ……は、はい……此処がさっき言っていた、咲夜さん達ご家族にとって大切な場所……なんですか?」
咲夜に声を掛けられて正気に戻ると、雪奈は数歩前に出て身を屈め花畑を見つめていく。そして咲夜も雪奈の言葉に頷きながら雪奈の隣に屈み、一輪の花を手にして口を開いた。
咲夜「此処はな、私達の父さんと母さんが結婚を誓い合った場所でもあるんだ。その後も父さん達に連れられて、良くはるかと一緒に此処で遊んだ事があってな……だから此処は、私達にとって思い出深い場所なんだ」
雪奈「……そうなんですか……」
咲夜とはるかの両親。その両親との思い出を聞かされた雪奈は複雑そうな表情を浮かべながら顔を俯かせ、咲夜は花畑の中に座り込み花を摘むはるかを一度見つめると、雪奈に顔を向けて口を開いた。
咲夜「ま、此処は父さんと母さんに私とはるかしか知らない秘密の場所でもあるんだ。此処までの道も結構険しいし、村の人達も此処には何もないと思っているから、誰も近付こうとはしないんだ」
雪奈「秘密の場所……そんな場所を、私なんかに教えても良かったんですか……?」
咲夜「さっきも言っただろ?此処へはお前を元気付けるために連れて来たんだ。私も嫌なことがあった時は此処へ来て元気をもらってたしな……だからお前も、この景色を見て少しは元気出せ。な?」
雪奈「……はい。ありがとうございます、咲夜さん」
微笑する咲夜の言葉で少しは元気を取り戻せたのか、雪奈は小さく笑みを浮かべ目の前の花畑に目を向けていく。そしてその視線を追うように咲夜も目の前に目を戻すと、何かを思い付いたように顔を上げて雪奈に語りかけた。
咲夜「そういえば……なあ雪奈、お前の両親って一体どんな人達なんだ?」
雪奈「……え?私の両親……ですか……?」
咲夜「ああ、何となく気になってな。どんな人達なんだ?お金持ちって言うから……やはり家の事とかで厳しかったりするのか?それとも以外と娘に甘い親馬鹿だったりとか?まあ、今のお前の不器用な性格から見て、両親も似たようにドジだったりしてな?はははっ」
雪奈「…………」
指を立たせながら、雪奈の両親のイメージを頭の中で膨らませ楽しげに笑う咲夜。だが、雪奈は何故か沈んだ顔を浮かべて何も答えず、咲夜もそんな雪奈の様子が可笑しい事に気付き話すのを止め、頭上に疑問符を浮かべた。
咲夜「雪奈?どうした?」
雪奈「あ…いえ…その…何と言うか…」
咲夜「???」
何故か気まずそうに視線を泳がして苦笑する雪奈に、咲夜は更に疑問符を並べて小首を傾げていく。そして雪奈は泳がせていた瞳をはるかに向けると、膝を抱えながら顔を伏せた。
雪奈「――その……私……母様の事は何も知らないんです……母様は私を産んですぐ、亡くなってしまったらしいので……」
咲夜「ぇ……」
雪奈の母親は、雪奈を出産してすぐ亡くなっている。雪奈の口からそう聞かされた咲夜は思わず言葉を失い、雪奈はそんな咲夜の顔を見て苦笑いしながら言葉を続けた。
雪奈「だから私、幼い頃からずっと父様に育てられてきたんです……でも、その父様もつい先日……戦で亡くなられてしまって……」
咲夜「……そう……だったのか……」
戦で亡くなったということは、彼女の父親も戦に巻き込まれて死んだのだろうか?もしそうなら、先程まで冗談半分に雪奈の両親の事を話していた自分が恥ずかしいと、咲夜は気まずそうに顔を伏せて表情を曇らせた。
咲夜「その……すまないな……不謹慎に親の話をして、勝手に一人で盛り上がってしまって……」
雪奈「あ、いえ!別に全然気にしてませんから!咲夜さんもそんな気にしないで下さい……!」
咲夜「いや、しかし……」
悪気がなかったとは言え、死んでしまった家族の事を面白可笑しく話されていい気分がする筈がない。実際咲夜もそういう経験があるから、尚更それが分かる。そのことを謝罪する咲夜に対し、雪奈は気にしないでいいと慌てて手を振って告げると、目の前に視線を戻しながら含み笑いした。
雪奈「でも、なんていうのかな……こんな事を家の者たち以外に話す機会があるなんて、想像もしてませんでした。私、他に親しい人なんていないから……」
咲夜「?親しい人がいないって……友人はいなかったのか?」
雪奈「はい、生憎そういうのは一人も……作ろうとは思いませんでしたし、別にいなくても困らないだろうと、以前はそう思ってました……」
静かにそう語る雪奈の顔は、何処か寂しげに見える。雪奈は膝を抱え直しながらはるかに目を向け、僅かに瞳を細めながら口を開いた。
雪奈「――でも……父様が亡くなってから、その考えが間違ってたと漸く気付きました……父様がいなくなってからは私一人だけで、頼れる人が周りには誰もいない……今になって後悔してます。もっとちゃんと、心を許せる友を作るべきだった、と……」
咲夜「……友……か」
その言葉を口にし、咲夜は族に殺された嘗ての友人達の事を脳裏に思い浮かべていく。彼等が殺された後、咲夜は友人と言える人間を一人も作っていない。何せ自分と同い年の人間は既に殺され、生き残ったみんなも家族とともに此処よりも住みやすい場所へと向かい村を出ていってしまった。だから村にはもう大人やご老体の村人しかいない為に、今まで友人と呼べる人間を作ろうにも作る事が出来なかったのだ。
だからなんとなく、頼れる友人がいないという雪奈の気持ちは分かる。咲夜はそう思いながら雪奈を横目で見つめると、雪奈の腰に差さった刀に気付き首を傾げた。
咲夜「……?なあ、その刀って……」
雪奈「え?……ああ、これですか?これは父様の形見なんです」
昨日雪奈が男達から必死に庇っていた腰の刀が気になって何気なく問い掛けると、雪奈は腰に差していた刀を抜いて膝の上に置いた。
雪奈「この刀は、父様が腰に何時も差していた刀……代々家に受け継がれてきた名刀・雪片(ゆきひら)と言います」
咲夜「雪片、か……刀にしては綺麗な名前だな」
雪奈「あはははっ……まぁ、そんな綺麗な名前でも人を殺す道具に違いはありません……人を斬れば、この刀の刃も鮮血に染まる……それを考えると、【雪】という名は刀に不釣り合いかもしれません……私のように……」
咲夜「?」
何やら最後の部分だけ小声で呟いた為、咲夜の耳にはなんと言ったのか聞こえなかった。雪奈はそんな咲夜に苦笑いを向けると、膝に置いた雪片と咲夜を交互に見て、雪片を咲夜へと差し出した。
雪奈「良ければ、ちょっと持ってみますか?」
咲夜「え……?いいのか?大事な形見なんだろ?」
雪奈「構いませんよ。咲夜さんには色々とお世話になってますし、この場所を教えてくれたお礼です」
そう言って雪奈が差し出す雪片は、貧家生まれの咲夜でも一目で名刀だと分かる美しさを秘めている。咲夜は少し緊張して手汗が滲む手を着物で拭うと、雪奈の手から恐る恐る雪片を受け取っていった。
咲夜「おぉうっ……意外とズッシリ来るなっ」
雪奈「まあ、普段から刀を持たない人からすれば重たく感じるでしょうね。あ、良かったら抜いてみます?」
咲夜「い、いや、これ以上は良い。こういうのはどう扱っていいのか分からないし……」
やはりこういう名刀とか、高価そうなモノにベタベタ触れるのは少し恐れ多い。咲夜は若干顔を引き攣りながら雪片を雪奈へと返し、雪奈もそんな咲夜の様子に苦笑いしながら雪片を受け取り膝の上に置いていく。
咲夜「いやはや、やっぱり名刀なんて物は触れるだけでも緊張するなっ。何だか私が触れただけで汚してしまった感じがするよっ」
雪奈「そんな大袈裟なυυ……まあ、これは家を一つ・二つ建てるだけの価値があるらしいので、緊張するなという方が無理かもしれませんがυυ」
咲夜「って、そんな価値のある物なのかっ?!おまっ、早く言えよちょっと土が付いちゃったじゃないかっ?!」
もし価値が下がったりしたらどうするんだ?!と雪片にちょっと付いてしまった土埃を見てマジビビりする咲夜だが、雪奈は特に気にした様子もなく可笑しそうに笑った。
雪奈「咲夜さんだから良いんですよ。だって咲夜さんとはるかさんは、私にとって特別ですから」
咲夜「……は?特、別?」
雪奈「はい。私に此処まで親しく接してくれたのは、貴方達が始めてでしたから……だから、誰にも触れられたくない父の形見であるこの刀も、お二人になら触れられても嫌悪したりしません……寧ろ、逆に何だか嬉しく思うんです」
咲夜「…………」
穏やかな目で雪片を見下ろす雪奈を見て、咲夜も視線を下ろし雪片を見つめた。この刀は雪奈の父親の大事な形見であり、それを赤の他人なんかに安易く触れられて嫌悪感を抱かない筈がない。しかし、その形見を自分達が触れても嫌な思いをせず、寧ろ嬉しいのだと言ってくれた。それが嬉しく思えた咲夜は思わず微笑すると、目の前に目を向けながら口を開いた。
咲夜「なあ雪奈……これからはさ、私の事は呼び捨てで呼んでくれていいぞ」
雪奈「……え?」
その言葉が予想外だったのか、雪奈は刀から咲夜へと顔を向けて目をパチクリさせ、咲夜も雪奈に振り向き笑みを浮かべた。
咲夜「お前が私達のことを特別と思ってくれるなら、他人行儀にさん付けしないで名前で呼べ……友達だろ?私達は」
雪奈「友……達……?」
咲夜「そうだ。私は秘密の場所を教えて、お前はその大事な刀を触らせてくれた……こんなのは余程親しくなきゃ出来ない事だろう?だからもう、私達は友達だ。嫌か?」
雪奈「いっ、いえ!そんなことは全然っ……!」
咲夜「なら良い♪これからは私がお前の人生始めての友達で、はるかは二番目の友達だ。そういう訳だから、今からは愛しさと切なさと心強さを込めて私の名前を呼べ!はい!」
雪奈「え、えぇっ?!そんないきなりっ?!」
いきなり名前を呼び捨てで呼ぶように言われ、突然のことにオドオドと慌てふためく雪奈。そして、雪奈は胸の前で両手の人差し指をツンツンさせながら……
雪奈「えと……さ、咲……夜……?」
咲夜「うぅーむっ、何だかちょっとぎこちない感じが引っ掛かるが……まあいい、これから慣れていけば良いさ♪」
勇気を振り絞るようにぎこちなく咲夜の名前を呼んだ雪奈にちょっと不満は残るものの、仕方なそうに笑い掛ける咲夜。そんな時……
はるか「お姉ちゃーんっ!雪奈さぁーんっ!そんな所で話してないで、こっちに来なよーっ!」
何時までも離れた場所で話している二人に痺れを切らしたのか、花を摘んだ手を振って咲夜と雪奈に呼び掛けるはるか。咲夜はそんなはるかに「今いくー!」と返しながらゆっくりと立ち上がり、雪奈の方へと振り返って手を差し延べた。
咲夜「ほら、お前も行くぞ。せっかく久しぶりに此処まで来たんだし、お前にも此処での遊びを教えてやる♪」
雪奈「……はい。是非お願いします、"咲夜"」
陽気に笑う咲夜に対して、優しげな微笑みを浮かべて咲夜の手を取り立ち上がる雪奈。そして咲夜は雪奈の手を引いてはるかの下へと駆け出し、それぞれ楽しい時間を過ごしたのであった……
――そう……永訣の別れが少しずつ近づいている事も知らず……私達はただ……"今"を笑い合っていた……