仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
―――それからの数週間、雪奈は村での生活にすっかり馴れ親しみ、咲夜達との関係もより一層強い絆で結ばれつつあった。
仕事先でも最初の頃は何度か失敗して迷惑を掛ける事が多かったが、咲夜の影ながらのサポートのおかげでなんとか仕事も板に付き、資金も順調に稼いでいる。
たまに休みがある日等は、仕事でいない咲夜の変わりにはるかの遊び相手になったり、咲夜に教わった家事を不器用ながら熟したり。
村の人たちとの関係も良好であり、誰もが雪奈も村の一員として受け入れ、今や彼女が咲夜たちと一緒にいるのが当たり前のようになっていた。
雪奈自身も苦労は絶えないものの、村での生活や仕事を楽しみ、毎日生き生きとした笑顔を受かべていた。
こんな日々が、何時までも続く……誰もがそう思っていた……『あの日』が来るまでは……
◇◆◆
雪奈が村に滞在するようになってから、約四週間が過ぎた頃。何時もの様に仕事を終えた咲夜と雪奈は家に帰宅する途中、はるかの薬を買う為に村の薬売りの下へと訪れていた。
「ほい、これ何時もの薬な」
咲夜「ああ、何時もすまないな。おじさん」
「なに、こっちはただ商売やってるだけだ。礼を言われるほど大した事はしてねえさ」
そう言って薬売りの男性は照れ臭そうに笑いながら引き出しから取り出した薬を咲夜に手渡し、咲夜も今日の稼ぎのお金を出して薬を受け取り懐に仕舞っていった。
「しっかし、お前も苦労が絶えないな。はるかは病弱だから中々元気にならないし……やっぱり環境の問題なのかねえ……」
咲夜「さあな……私はそういう事に関しては良く分からないから、なんとも言えないが……前よりちょっと住み難くなってるのだけは、何となく分かる」
「だろうな。此処は再建したっつっても、まだまだ形だけでしか直せちゃいねえ……食べ物も以前に比べてかなり少なくなってるし、それが苦しいからって村を出てどっか此処より豊かな国に行こうとする奴も沢山いるが……途中で飢え死にしたり、戦に巻き込まれて死んじまったりする奴らが殆どだしなぁ……」
雪奈「?戦に……巻き込まれる……?」
戦に巻き込まれて死んだ。溜め息混じりにそう告げた男性の言葉に雪奈は思わず聞き返しに、男性はそんな雪奈に「うん?ああ……」と曖昧な返答をしたあと、再び溜め息を吐きながら口を開いた。
「この村から別の国や村に向かう最中、度々戦が行われてることが多いんだよ。だから、此処の村の住人達も何時この村が戦に巻き込まれるのかと、みんな毎日怯えながら生活してんだ。例え村を出ても、他の国までは遠いから食料が持つか分からねえし、その道中でもし戦に出くわして兵士にでも見付かったりしたら……」
雪奈「……どうなるん……ですか……?」
「先ず間違いなく、有無も言わせず拘束されて食料を全部奪われ兵糧にされちまうだろうな……そんでもしも捕まえた人間が男なら、脅迫して無理矢理兵士にさせらて戦わされるか奴隷にさせられ……女なら同じく奴隷か、最悪兵士達の慰めものにさせられるのがオチだろうさ……」
雪奈「なっ……そんなっ!そんな事をすれば、将軍や大将が黙ってる筈が……!」
「だが実際そうなんだよ。えらーい将軍様達とやらは兵士の士気を下げさせない為に、それを知っても黙視したり逆に薦めたりしてる……影でそういう事をやっていたって、誰にも言わなきゃなかった事になるしな」
雪奈「そんな……」
咲夜「……そういう物なんだよ……私達の立場なんて……」
信じられないという表情で呆然とした顔をする雪奈の隣で、ボソッと咲夜が何かを呟いた。それに気付いた雪奈が目を向ければ、咲夜は険しげに目を細めて唇を噛み締めている。
咲夜「私達がどんな目に遭っていようと、アイツ等は目もくれず助けてくれやしない……どうせ、これからの歴史でも私達の事は何も語られやしないだろうさ。都合の良い所だけ伝えて、悪い部分は全部なかった事にする……さぞかし立派な『英雄様』として伝えられていくんだろうな、アイツら武将達は……」
雪奈「……咲夜……」
彼女の目を見れば、なんとなく分かる。咲夜は武将達に対して、余り良い感情を抱いていない。寧ろ嫌悪に近い感情を抱いているのだと悟り、雪奈は何処か複雑げな顔を浮かべて俯いてしまうが、男性はそれに気付かず代金を懐に仕舞い腕を組んだ。
「まあ、今の戦国の世が終われば、きっと前みたいにもちっと暮らしやすい世の中になるだろう。それまで辛抱強く生きてくしかねえさ」
咲夜「……そうだな……すまないなおじさん、変なこと言ってしまって」
「うんにゃ。こんな世の中なんだ、愚痴りたくなる時だってあんだろうさ。気にすんなや」
咲夜「ありがとう……じゃ、私達はもう行くよ。雪奈、いくぞ」
雪奈「あ……は、はい」
咲夜は男性に一言礼を言って雪奈に声を掛けて帰路を歩き出し、今まで暗い顔を浮かべていた雪奈も正気に戻ると、男性に一度頭を下げて慌てて咲夜の後を追い掛けていったのだった。
◇◆◆
薬売りの家を後にした後、咲夜と雪奈ははるかが待つ家に向かって夕暮れ色に染まった帰路を歩いていた。しかし……
咲夜「―――おい雪奈……何でそんな私から離れてるんだ……?」
ピタッと立ち止まって背後へと振り返れば、其処には黙々と咲夜の背後を歩いていた雪奈がビクッと肩を震わせながら同じように立ち止まっていた。因みに咲夜から雪奈までの距離は3メートルほど離れており、その事を指摘された雪奈はオドオドと焦りながら……
雪奈「え、えぇーっと……そ、そうっ!今日は仕事が何時もよりキツかったから、何だかちょっと疲れちゃいましてっ……!」
咲夜「……さっきは疲れてないかと聞いた時、『全然大丈夫です♪』って言ってたのにか?」
雪奈「え?……あ、いや、その……い、今になって!今になって疲れが出て来たんですよ!はい!」
咲夜「……ふーん……ま、別にいいけど……」
両手をブンブン振って慌てふためく雪奈が気になりながら、前を向いて再び歩き出していく咲夜。雪奈もその後を追うように歩き出すと、暫く咲夜の背中を見つめ、一度何かを迷うように顔を逸らしたあと……
雪奈「……あ、あの、咲夜……ちょっと、聞いていいですか?」
咲夜「んー?何だー?」
雪奈「あ……その……えと……」
ごもごもと言いにくそうに口をごもらせると、雪奈は少しだけ顔を上げて咲夜にこう問い掛けた。
雪奈「咲夜って、その……武士や武将達……戦をする人間を、嫌ってるんですよね……?」
咲夜「…………」
その問いを投げ掛けられたと共に、咲夜は不意に歩みを止めて立ち止まった。それを見た雪奈も同じように足を止めると、互いに口を閉ざしたまま沈黙が流れ、それを破るように咲夜が口を開く。
咲夜「嫌いだよ……あんな奴ら……だいっ嫌いだ……天下を統一するだなんて言って、勝手に戦を始めて、勝手に殺し合って、勝手に私達を巻き込んで、勝手に何もかも奪って……なのにそれが当たり前のように、平然と振る舞ってる……」
雪奈「…………」
咲夜「武将だ名将だなんて言われている奴がいるが、私から見れば皆同じにしか見えないさ……自分の欲望を満たすしか脳のない連中ばかりしかいない……」
雪奈「で、でも、そうとは限らないかもしれませんよ?中にはその……己の武士の誇りと名誉を守るが為に、刀を手にして勇敢に「それが一体何になるっ?!」ッ!」
気まずそうに顔を反らしてポツポツと語る雪奈の言葉を遮るかのように、咲夜の怒号が響き渡った。見れば咲夜は目尻に涙を浮かべ、血が滲むほど強く拳を握り締めている。
咲夜「武士の誇り?名誉?そんな物が何だ!!そんな目にも見えないものを守る為に戦まで起こされてっ、家族を奪われてっ、今までの生活を奪われてっ、私達からすれば迷惑以外の何物でもないっ!!戦をされれば、一番の犠牲になるのは私達なんだぞっ?!アイツ等はそれをまるで分かってないっ!!」
雪奈「それ……は……」
咲夜「誇りがなんだっ……名誉がなんだ、天下統一がなんだ?!以前の暮らしのままで十分に幸せだったのにっ、戦が起きてからそれも全部失ったっ……例え誰かが天下を取ったとしても……父さんも母さんも……もう戻っては来ないんだっ……」
雪奈「…………」
今まで胸の内に溜め込んでいた感情を吐き出すように、悲痛な叫びを上げる咲夜。それを聞いた雪奈は口を閉ざして複雑げな顔を浮かべながら俯いてしまい、そんな雪奈の様子に気付いた咲夜もハッとなって閥が悪そうに顔を逸らした。
咲夜「あ……す、すまない……お前に当たるつもりは……なかったんだが……ついカッとなって……」
雪奈「い、いえ……私も気に障るような事を言ってしまったみたいですから……気にしないで下さい……」
咲夜「…………」
雪奈「…………」
互いに謝罪の言葉を交わすものの、気まずい空気が二人の間に流れ続ける。それを悟ってか、二人は口を閉ざしたまま何も語ろうとはせず沈黙が漂い、夕暮れ色に染まる道の真ん中で暫く立ち尽くしていた。
咲夜「……帰るか……家ではるかが待ってる……」
雪奈「…そう…ですね…」
重苦しい沈黙を破るように咲夜は口を開いて家に足を向け、雪奈と共に再び帰路へと付いていく。しかし、二人は家に着くまでどちらからも話を切り出す事なく、気まずい雰囲気を漂わせたまま家へと戻っていったのだった。
◆◇◆
それから数分後。結局咲夜は一言も雪奈と話せないまま家の前に到着し、家の戸を開いて家の中へと入っていった。だが……
咲夜「ただいまぁ、はるか…………はるか?」
家の中に入りながら布団で眠ってるであろうはるかに呼び掛けるものの、はるかからの返事はなかった。見れば、何時も帰ってきた時にはいる筈のはるかの姿が布団の上にはなく、家の中に入ってきた雪奈もはるかの姿がない事に気付き疑問符を浮かべた。
雪奈「あれ?はるかさん、いなくなってる……?」
咲夜「ううむ……あ、もしかしたら隣の部屋かもしれない。アイツ、よく暇な時は彼処に仕舞ってある本を取りに行って、一人で読者してる事があるんだ」
そう言って咲夜が指差したのは、戸が開け放たれたまま放っておかれた隣の部屋だった。彼処には、咲夜が今まではるかへのお土産として買ってきた本が何十冊も保管されており、今咲夜が話した通りはるかは良く暇な時はあの部屋でひとり本を読んでることがある。その証拠に、今朝は閉まっていたはずの部屋の戸が開かれており、咲夜は仕方なさそうに溜め息を吐きながら家に上がって隣の部屋に近づいていき……
咲夜「コラはるかっ!駄目だろちゃんと寝てないと!ほら、早く布団に戻っ…………て…………」
はるかに早く布団に戻る様に促しながら隣の部屋を覗き込んだ瞬間、何故か咲夜はピタリと足を止めて立ち止まり、徐々に両目を見開いていったのである。
雪奈「?咲夜……?」
咲夜「あ……ぁ……あっ……」
何故か突然固まって動かなくなった咲夜に雪奈が疑問げに声を掛けるが、咲夜は瞳を震わせて隣の室内を見つめたまま何も答えようとしない。そんな咲夜の様子が気になった雪奈は首を傾げたまま家に上がり、咲夜が見つめる隣の部屋を覗き込んだ。其処には……
はるか「………………………………………」
……戸棚から床に錯乱した無数の本。その中に、グッタリと力の抜けた手足を無造作に投げ出し、前髪で隠された顔を真っ青に染め、口から大量の血を吐き出して倒れるはるかの姿があったのだった。
雪奈「はるか……さん……?」
咲夜「はる、か?…………はるかああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっっ!!!!」
目の前で起きてる現実を頭が理解するのに、数秒時間を要した。そして全てを理解した瞬間、咲夜の悲痛な叫びが室内に木霊したのであった……