仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
―ズシャアァッ!ザバアァッ!ザンッ!―
「ぎゃあぁっ?!」
「ぐがあぁっ?!」
雪奈の振るう雪片の刃が、盗賊達の急所を的確に貫き絶命させていく。盗賊達の屍が次々と倒れていく中、雪奈はそれを尻目に刀を振りかざして襲い来る盗賊達の全身に走る線を雪片でなぞるように斬り裂き、咲夜の下へ徐々に近づいていく。
「な、何やってやがんだっ?!女の一人ぐらいさっさと始末しやがれっ!!」
「へ、へいぃっ!!」
盗賊の頭はそんな雪奈の姿を見て恐怖の余りたじろしぎ、これ以上の接近を許すまいと残った部下達を一斉に雪奈へと放った。そして部下達は四方から刀を振りかぶって一斉に雪奈へと飛び掛かるが、雪奈は雪片を手の中でクルリと回転させて逆手に持ち、そして……
―スパアァァンッ……ゴバアァァッ!!―
「んなっ……?!!」
片足を軸に一瞬でその場をクルリと回転すると共に、襲い掛かってきた盗賊たちの身体に浮かび上がる線をたった一薙ぎ振るっただけで全て断ち切っていったのであった。盗賊たちは身体をバラバラに切断され雪奈の周りに落下していくが、雪奈はそれに気に止める事なく最後に残った頭に歩み寄っていく。
「ち、畜生っ……こうなったらっ……こいっ!」
咲夜「あうっ?!」
部下達を失って完全に追い込まれた頭は焦りを浮かべ、足元で倒れている咲夜を無理矢理起こさせこちらに歩み寄ってくる雪奈と向き合い、咲夜の首に刀を突き付けた。
「お、おい!止まれ!それ以上近づいたら、この女の首かっ切るぞっ!!」
咲夜「うっ……ぐっ……!」
雪奈「…………」
頭は咲夜を人質に捕らえて雪奈に止まるように呼び掛けると、雪奈は咲夜の姿を見て僅かに片眉をピクリと動かし、歩みを進めていた足を止めていった。
「へ……へへっ……やっぱこの嬢ちゃんとは知り合いみてぇだな……ようし、その刀も地面に捨てろ!この嬢ちゃんの命が惜しけりゃなぁ!」
雪奈「…………」
都合の良い人質が手元に有って助かったように安堵しながら、続けて雪奈に右手に持つ雪片を捨てるように呼び掛ける頭。そう指示をされた雪奈は無表情のまま逆手に構える雪片を見下ろすと、僅かに瞳を伏せた後に腰をゆっくりと屈め雪片を足元に置こうとする。
咲夜「ゆ、雪奈っ……!」
「ハハハハッ!!そうだ、それでいいんだ!!」
要求を素直に受けて雪片を足元に下ろそうとする雪奈を見て頭は愉快げに笑い、咲夜は頭に刀を突き付けられたまま悲痛な表情で雪奈を見つめていた。そして、雪奈は前髪超しにチラリと高笑いを上げる頭の様子を伺うと、雪片をゆっくりと地面に置いて僅かに手を離した瞬間……
―……ブオォンッッ!!―
「ハハハハハハッ……は?―ズシャアァッ!!―ギッ?!ガアァァァァァァァァァァァァァァァァアッッッ?!!!」
咲夜「ッ?!」
素早く後ろ腰に隠していた短刀を抜き取り、頭の左目に狙い定め投擲していったのだった。その一瞬の動作に頭も思わず呆気に取られてしまうも、短刀が精確に左目の眼球に突き刺さった瞬間正気に戻され、激痛のあまり刀と咲夜から思わず手を離し絶叫を上げていった。そしてそれを見た雪奈はすぐさま雪片を拾い上げながら絶叫する頭の懐へと潜り込み、そして……
―ズバアァッ!!―
「ッ?!!イッ、ァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアッ?!!う、腕がァッ?!!俺の腕がァァァァァァァァァァァァァァァァッ?!!」
雪片を斜め上に振り抜き、頭の右腕に浮かぶ線を断ち切って右腕を斬り飛ばしていったのであった。同時に眼球を貫かれた痛みよりも遥かに大きい激痛が襲い、頭は先程の比にもならない絶叫を上げて右腕を押さえながら悶え苦しみ、雪奈はそんな頭の前に悠々とした足取りで立ちはだかり雪片の切っ先を突き付けた。
「ひっ、ひいぃっ?!た、頼むっ!い、命はっ……命だけはっ……?!!」
雪奈「…………」
死の恐怖で顔を引き攣らせながら必死に雪奈に命乞いする頭。だが雪奈はそんな頭を無機質な表情のまま見下ろして何も答えず、無言のまま雪片を振りかざして頭の首を刈り取ろうと雪片を勢いよく振り下ろした。その時……
「――もう止せっ!!!」
雪奈「……!」
―ピタッ……―
「ひいぃっ?!!ひっ……ぁ……?」
背後から不意に響き渡った悲痛な怒号。それを聞いた雪奈は瞳を見開いて寸前のところで雪片を止め、刃は頭の首に触れるギリギリの位置で止まっていった。そして雪奈はガタガタと身体を震わせながら恐怖で気を失った頭から視線を逸らすと、先程の怒号を放った主……悲痛な表情でこちらを見つめる咲夜に向けた。
雪奈「……咲夜……」
咲夜「もう止せっ……もういい……殺すなっ……これ以上、人を殺めるお前の姿を見たくないっ……」
雪奈「…………………」
そう言って雪奈を見つめる咲夜の瞳の奥には、驚愕と戸惑い、そして僅かながらの恐怖が入り混じっていた。虫すらも殺せないような優しさの持ち主だと思っていた雪奈が、刀を手にした瞬間なんの躊躇もなく人の命を奪った。そんな親友の変わりように咲夜も困惑を隠せず、雪奈も咲夜に制止されて咲夜を見つめると、ゆっくりと雪片の刃に付いた血を払って腰の鞘に収めながら瞳の色を元の赤色に戻していった。
咲夜「……雪奈……」
雪奈「…………」
一先ず雪片を収めてくれた雪奈に安堵の吐息を漏らす咲夜。だがその表情もすぐに強張っていき、こちらに背を向ける雪奈に歩み寄り疑問を投げ掛けた。
咲夜「雪奈……今のは一体何なんだ……?」
雪奈「…………」
咲夜「あの動きや剣の腕、剣術にはそんな詳しくない私でもアレがどんなに異常なのかはすぐ分かった……それに今のお前、奴らの命を奪う事に何の躊躇もしてなかった……まるで、殺し慣れてるみたいな……」
雪奈「…………」
今の雪奈の戦い、刀の扱いや動きなどの全てが明らかに常人のソレを逸脱していた。たった一振りで盗賊達の身体をバラバラにしたり、人質にされた時もあんな精確に左目を狙って短刀を投擲するなんて普通じゃ出来ない技だ。しかも自分を助けるためとは言え、雪奈自身は盗賊達を殺すことに一切の戸惑いもなかった。まるで戦い慣れてるような……そうとしか言いようがない戦い方だった。
咲夜「ただの風来坊に、あんな常人離れした戦い方なんて出来る筈ない……お前、一体何者なんだ……?」
雪奈「…………」
咲夜が訝しげに雪奈にそう問い掛けるが、雪奈は顔を俯かせたまま暫く口を閉ざし二人の間に沈黙が漂う。すると雪奈は何かを観念したかのように白い息を吐くと、ゆっくりと咲夜と向き合い顔を上げた。
雪奈「……咲夜の言う通りです……私はただの風来坊ではありません……」
咲夜「じゃあ、お前は一体……」
雪奈「…………」
何者なんだ?と訝しげな目を向ける咲夜から気まずげに視線を逸らす雪奈だが、一度瞳を伏せた後に咲夜の顔を見据えて口を開いた。
雪奈「―――私は……以前は織田信長公に仕えていた家臣……貴方の嫌う"武将"だった者です」
咲夜「…………え?」
そう告げた雪奈の言葉に、咲夜は一瞬何を言われたか理解出来ず唖然となった。
今、なんと言った?
雪奈が……武将……?
咲夜「信長公の武将って……どういう、事だ……?」
雪奈「そのままの意味です。私は風来坊の前に一人の武将だった……でもそれも、今は昔の話です……」
動揺を浮かべる咲夜に淡々とした口調でそう言い放つと、雪奈は咲夜に背を向けながらゆっくりと顔を上げ、頭上の星空を見上げた。
雪奈「……もう遠い昔の話ですが……私は、今の世に大して名も知れ渡ってない武家に生まれましてね……最初の頃は剣や戦とは関係ない、普通の女の子として育ちました……他の従姉妹達と遊んだり、たまにその娘達とお忍びで下町に行ったり……そんな何の変哲もない生活を送っていました……」
咲夜「…………」
ポツボツと、何処か懐かしげな顔で静かに自身の過去を話し出した雪奈。咲夜は無言のまま雪奈の話に耳を傾け、雪奈は星空を見上げていた視線を下ろしながら話を続けた。
雪奈「ですが今仰った通り、私の家は武家としての名は広くは知られてません……頭首である私の祖父は、他の家が戦や他国との交易などでどんどん名を上げていく中、自分達だけがなんの成果も得られず家の名が堕ちていく事に焦燥に駆られていました……このままでは、私達の家は名も残せず歴史の闇に消えてしまう。それを避けるために何か方法がないかと考えていた矢先……私の身にある出来事が起こりました……」
咲夜「?ある……出来事?」
ポツリと雪奈が呟いたその言葉に、咲夜は思わず疑問げに小首を傾げながら聞き返した。雪奈はそれに対し複雑げな表情を一瞬だけ浮かべると、少し間を置いた後に話の続きを語り出した。
雪奈「………ある日、当時幼かった私は母様に我が儘を言って、下町で開かれるお祭りに出掛けたんです。でも……そのお祭りの最中で、私と母様は馬車の転倒事故に巻き込まれ……母様はその時に私を庇い、亡くなってしまった……」
咲夜「ッ?!そん……な……」
雪奈「………そして私も、普通なら死んでも可笑しくない重傷を負って数ヶ月も昏睡しましたが……何とか一命を取り留めました……でも目を覚ました瞬間……私は何故か、こんな物が見えるようになってしまった……」
咲夜「え……?」
そう呟くと共に、雪奈の瞳の色が再び不気味な青色に変化していく。それと同時に雪奈の観る世界がガラリと変わり、咲夜の体や地面や森の木々などに無数の線が浮かび上がっているのが見え、雪奈は辛そうに目をつむり頭を左右に振った。
雪奈「っ……昏睡から目覚めてから、私の目はモノの死が視える鬼の目に変わってしまったんです……」
咲夜「モノの死が視える、鬼の……目……?」
雪奈「皆はそう呼んでます……私だけに視える、モノの死を表す線……私がこの手でそれを断ち切った途端、断ち切られたモノは忽ち死んでゆく……だからこの両目は、地獄の悪鬼があの世から逃げ出した私に罰として掛けた呪われた目……家の者は皆そう思い、私を気味悪がって避けるようになりましたが、祖父だけはこの力を持つ私に目を光らせました。この力を上手く使えば、いずれは信長公を退け天下を取れるかもしれない……と」
咲夜「……お前はそれを、受け入れたというのか……?だから武将に?」
雪奈「……私には、母様のことに負い目がありましたから……私が我が儘を言いさえしなければ、母様はあんな事故で死ぬことなんてなかった……だから祖父の命には逆らえなかったし、戦では父様も戦う事を知っていたから……せめて父様だけでも守れるようにと、刀を手にする事を誓ったんです……でも……」
其処で言葉を一度区切り、目をつむって何処か哀しげな顔を浮かべる雪奈。咲夜がそんな雪奈を訝しげに見つめると、雪奈は僅かに瞼を開いて咲夜の方へと振り向いた。
雪奈「その父も、先の今川軍との戦で亡くなりました……敵陳を突破しようとした最中、敵兵の不意打ちを受けて馬から落ちたところを、串刺しにされて……」
咲夜「……雪奈……」
雪奈「……無惨な姿に変わり果ててしまった父の亡骸を見て、私はもうどうすればいいのか分からなくなりました……唯一、この目を持った私を以前と変わらず接してくれてた父様が亡くなり、主君の信長公も討ち死にし、残されたのは私を利用して名を上げようと企む祖父だけ……正直、もう無理でした……これからもずっとあの人のためだけに戦うのが我慢出来なくなり、私は家から逃げ出す為にこうして旅をしてたんです……同時に、刀を握る以外の道も探して……」
そしてその旅の途中、自分達の村へやって来たという訳なのだろう。腰に差した雪片の柄を握り締める雪奈の顔を見つめながら咲夜はそう考え、雪奈は咲夜から視線を逸らすように俯いた。
雪奈「だけど結局、私には刀を振るう以外の道なんてなかったみたいです……私のあの姿を見られ、武将であった事を知られた以上、もう貴方の親友ではいられない……」
咲夜「ッ!お前……」
雪奈「……私のこと、軽蔑したでしょう?貴方が嫌う武将だった事を隠し、なにも知らない貴方達を騙して接してきた……酷い人間ですよ、私は……」
咲夜を助ける為とは言え、彼女の目の前で刀を抜き、武将であった事を明かしてしまった以上、最早彼女と友人であり続けることなど出来やしない。雪奈は自嘲するように笑いながらそう呟くが、その表情は何処か辛そうであり、何かを覚悟したかのように瞳を伏せて俯いてしまう。恐らく咲夜から絶交を持ち掛けられると思ってるのだろう。そんな雪奈を見た咲夜は一度顔を俯かせた後に、再び雪奈を見据えた。
咲夜「――確かに……お前が武将だった事を隠し事されてたのは、正直動揺したし……話してくれなかった事にも傷付いた……」
雪奈「っ…………」
正直に、自分が感じた事をポツポツと語り始める咲夜。雪奈はそれを瞳を伏せたまま無言で聞き入れるが、「傷付いた」という言葉を聞いた瞬間辛そうに眉を寄せた。そして咲夜は、一度息を吐いて少し間を置いた後に、真っすぐと雪奈の顔を見つめて口を開いた。
咲夜「……だけど私は……それでお前を軽蔑したりはしない……出来る筈がないだろ……」
雪奈「……えっ?」
咲夜の口から呟かれたのは、雪奈が想像していたとは全く違う言葉だった。一瞬何かの聞き間違いかと雪奈が思わず目を開いて顔を上げれば、咲夜は苦笑いしながら雪奈を見つめていた。
咲夜「確かに私は武将達や戦をする人間を嫌っている……でも、戦から遠退いた人間まで陰険に嫌ってる訳じゃない。そんなのはなんの意味もないしな……それにお前は、短い間とは言え私達と一緒に苦楽を共にした親友だし……酷い事を言ってしまった私なんかの為に危険を省みず、こうして助けに来てくれたじゃないか……そんなお前を、どうして軽蔑なんか出来る?」
雪奈「咲夜……でも私は、この手で数え切れない人達の命を……」
咲夜「こんなご時世なんだ、別段珍しい事じゃない。私もそういう事をしてきた人間なんて何人も見てきたし……お前に限った事じゃないさ」
雪奈「……責めないん……ですか……?貴方やはるかさんに……隠し事してたのに……」
咲夜「もういいさ。それにお前は、変なところで消極的な奴だしな。故意で隠してたというより、私に嫌われるんじゃないかとビクビクしてただ言えなかっただけだろう?そんな事を一々咎めても意味なんてないだろうに」
恐る恐る問い掛ける雪奈にやれやれと言ったポーズを取りながら、冗談混じりに告げる咲夜。それを聞いた雪奈は一瞬ポカンと呆けてしまうが、次第に目尻に涙を浮かべながら声を出して泣き始めていく。
咲夜「って、お、おい?!何でいきなり泣き出すんだ?!」
雪奈「うぐっ……ぇう……だって……だっでぇっ……でっぎりっ……嫌われるど思っだがらぁぁぁぁっ……!!」
咲夜「ちょ、鼻を垂らすな汚いから!分かった!私が悪かったから!だから泣き止めってっ!!」
余程咲夜に嫌われるのが恐ろしかったのか、涙で顔をグチャグチャにさせて嗚咽しながら泣き始める雪奈。そんな雪奈に咲夜も流石に慌てふためき、何とか雪奈を宥めようと慌てて背中を摩っていく。
雪奈「ひぐっ……ズズッ……ず、ずみまぜんっ……みっどもないどころをお見ぜじでっ……」
咲夜「全くだ……ま、そういうとこがお前らしいから、逆に安心したが……とにかくホラ、例の薬草がある洞窟を見付けたんだ。早く行って採りにいくぞ!」
雪奈「ズズゥッ……はっ、はいっ……!」
ボロボロと溢れ出ていた涙を拭い去り、泣いたせいで赤くなった顔で力強く頷く雪奈。咲夜もそんな雪奈に微笑して頷き返し、雪奈と共に先程見付けた洞窟へと急いで向かっていったのであった。
「――ゆるさねぇ……あの女共……絶対ゆるさねぇっ……」
……そんな二人の背中を、憎悪を込めた瞳で睨む人間がいるとも気付かずに……