仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
―洞窟内―
濛々と先程の爆発から発生した黒煙が立ち込める洞窟内。
爆破の衝撃から未だに天井から岩が落下し続ける中、咲夜はその場に駆け付けたと同時に辺りの惨状を目の当たりにし呆然となった。
咲夜「何だ……これ……」
先程、雪奈と別れた地点であるこの場所には天井から落下した巨大な岩が地面に突き刺さり、辺りに幾つも無造作に転がっている。更に地面には無数の亀裂が走っていたり、壁や天井には何かの衝撃を受けてか所々凹みが出来ており、咲夜はその光景に呆気に取られながらも黒煙を吸い込まないように咄嗟に口に手を当てていく。
咲夜「っ……そうだ、アイツは……雪奈っ!!何処にいる雪奈っ?!いるのなら返事をしろっ!!」
口に手を当てたまま、雪奈の名を必死に叫びながら顔を動かして辺りを見渡していく咲夜。その時……
「―――咲夜……ですか……?其処にいるのは……」
咲夜「ッ!雪奈?!」
雪奈の姿を探し辺りを見渡していた中、不意に黒煙の向こうから雪奈の弱々しい声が聞こえてきた。それを耳にした咲夜は直ぐにその声が聞こえてきた方向へと走り出すと、徐々に黒煙の先に一人の人物……ボロボロになった雪奈が俯せに倒れる姿が見えてきた。
咲夜「雪奈っ……無事だったか!」
雪奈「っ……えぇ、一応何とか……さっきの男は、体に巻き付けていた火薬に火を付けて死にました。これでもう、貴方があの男達の危害に遭う事はないでしょう」
咲夜「そうか……とにかく、早く此処から出ようっ!此処はもう崩れそうだ……!」
先程の爆破の衝撃からか、洞窟内は未だ地響きが続き今にも崩れ落ちそうな状態だ。一刻も早く此処から出ようと咲夜は雪奈の身体を起こそうと手を伸ばすが、雪奈は何故かそれに対し首を左右に振った。
咲夜「?雪奈……?」
雪奈「……咲夜……すみませんが、貴方一人で逃げて下さい。私は、貴方とは行けない……」
咲夜「なっ……何言ってる?!こんな時に馬鹿な事を言うなっ!ほら!早く立ち上がって――「立てないんですよ、もう」……え?」
雪奈「……もう私は、立ち上がれないんです。残念ながら」
呆然となる咲夜に苦笑いを向けながらそう告げると、雪奈は咲夜から視線を逸らして自分の足に目を向けていき、咲夜は疑問げに首を傾げながらその視線を追い掛けていくと、其処にあった光景を目にして目を見開いた。其処には……
雪奈「――私は既に、この有様ですから……動けないんですよね、どうにも」
ハハハッと、頬を人差し指で掻きながら苦笑する雪奈。
そんな彼女とは対照に瞳を震わせる咲夜の視界に映るのは……咲夜の身長を遥かに越える岩により、両足を挟まれて身動きが取れなくなっているという信じられない光景だったのだ。
咲夜「ぁ……雪奈……お前っ……」
雪奈「えーっと……アイツを遠くに投げ飛ばして爆破から免れたところまでは良かったんですが、またドジを踏んでしまいましてυυアハハハッυυ」
咲夜「ッ!呑気に笑ってる場合かッ?!待ってろっ、今コイツを退かしてっ……!!」
また何時ものドジで足を岩に挟まれてしまったと呑気に笑う雪奈に怒鳴りながら、雪奈の両足の上に乗る岩に両手を当てて押し出そうと試みる咲夜。
しかし岩の大きさや重さは咲夜の力で退かされるほど安易い訳がなくビクともせず、雪奈はそんな咲夜の姿を見て苦笑いしながら口を開いた。
雪奈「咲夜、もういいですから。ほら、早く行って下さい。此処はもう崩れます」
咲夜「何がもういいだ?!勝手に諦めるんじゃないっ!!」
雪奈「諦めるもなにも……これは私の甘さと愚かしさが招いた結果なんです……あの時ちゃんと奴を仕留めておけば、こんな事態にはならなかったハズだし……あ……そういえば昔父様にも、『お前は何時もツメが甘い』って言われましたっけ……?あははっ、正に今がその通りですねぇυυ」
咲夜「こんな時に笑ってる場合かッ!!!クソッ!!動けッ!!動けと言ってるんだッ!!!」
こんな危機的状況にも関わらず、未だ笑みを絶やさずに笑う雪奈に一喝しながら咲夜は岩に身体を押し当てて岩を押し出そうとする。その間にも洞窟内の揺れが更に激しさを増していき、それ目にした雪奈は笑みを消してその様子を無表情で眺めると、未だ諦めずに岩を押し退けようとする咲夜に顔を向けていく。
雪奈「―――咲夜……いい加減にして下さい……これ以上はホントに此処が持たない……早く村に戻って下さい」
咲夜「っ……馬鹿言うなっ……!こんなところにっ、お前を置き去りになんか出来るわけ「咲夜ッッ!!!」ッ?!!」
村に戻れと促す雪奈の言葉を聞き入れようとせず首を左右に振ろうとする咲夜だが、その前に雪奈が怒号を上げそれを遮ったのである。見れば、雪奈は今まで見せた事がない怒りの表情を浮かべて咲夜の顔を見上げていた。
雪奈「もう時間は残されてないんです!!このままでは二人もろとも生き埋めになっしまう!!そうなれば、せっかく手に入れた薬草をはるかさんに届けられなくなるんですよッ?!」
咲夜「ッ……!だ、だが、それではお前がっ!!」
雪奈「……例え生き埋めに合っても、私はそう簡単に死にはしません。それに、どのみち貴方じゃその岩を動かす事など出来やしない……此処にいても、"貴方にはどうする事も出来ないんです"」
咲夜「ッ?!」
断言するように、突き放すような冷たい口調でそう告げた雪奈に咲夜は思わず息を呑んだ。
自分の力では、彼女を救い出す事など出来やしない。
此処に居ても、自分はただ『無力』でしかないのだと……雪奈にそう突き付けられ、咲夜はゆっくりと両手を下ろしながら悔しげに唇を噛み締めていき、雪奈はそんな咲夜を見て微笑した。
雪奈「それに……もしも岩を退かせたとしても、もう両足の感覚がないですからね……貴方に無駄な労力を使わせるだけです」
咲夜「っ?!……そん……なっ……」
雪奈「……行って下さい、咲夜。貴方には今、何物に変えてでも果たさねばならない事がある筈です。きっとはるかさんも、貴方が来るのを待ってる筈ですから」
咲夜「っ…………」
真摯を秘めた瞳で咲夜を見据えながら雪奈がそう言うと、咲夜は顔を俯かせて岩を何度も殴り付けた。
情けない……目の前で危険に曝されている友を救う事も出来ない事が……
どんなに助けたいと思っても、自分にはそんな力はないのだ。
『ただの人間』でしかない……自分には……
咲夜「っ……待ってろ……これを届けたら、村の皆を集めて助けに来る!!絶対戻って来るからっ、待ってろよッ?!」
ならば今は、自分が今やれる最善の方法を取るしかない。
そう考えた咲夜は雪奈に待ってるように強く言い放つと、その場から駆け出して洞窟の入り口へと急いで向かっていき、雪奈はそんな咲夜の背中が完全に見えなくなるのを確かめると小さく溜め息を吐いた。
雪奈「やっと言ってくれましたか……ふぅ……」
吐息を漏らしながら地面に顔を付けていくと、雪奈のすぐ真横に落石が落下して砂埃が発生し、無数の破片が飛び散った。しかし雪奈はそれを見ても特に焦る事なく、瞳を伏せながら静かに口を開いた。
雪奈「それにしても、私の認識もまだまだですねぇ。まさかこんな事態になろうとは……まぁ、自分の甘さがどれほどのものか再確認出来たって事で、良い経験にはなりましたね。やはり私には、刀を持って戦うのは向いてないみたいです」
自嘲気味に笑いながらそう告げた瞬間、今度は雪奈の斜め上に巨大な岩が落下し危うく下敷きになりそうになった。雪奈は僅かに目を開きそれを横目に見ると、自分の手の平に視線を向けポツリと語り出す。
雪奈「まあ、死ぬのは今更恐くないか……こんなものが見え始めた頃から、そんなものに対する恐怖なんて何処かに忘れてきてしまったし……」
瞳の色が不気味に輝く魔眼へと変わり、自分の手の平に無数の線が浮かんでるのが見える。
こんな死で彩られた世界が見え始めてから、死に対する恐怖心なんてもうとっくに持ち合わせていない……言ってしまえば、自分は既に壊れてる。
さっき頭を殺そうとして止めた時も、そんな自分が忘れてしまった死に恐怖するあの男が哀れに思えた。
よくまあこの程度で恐怖を感じるものだと……咲夜に止められたあとももう一度殺そうかと一瞬考えたが、恐怖で情けなく気絶した男を見てそんな気も失せた。
しかも見逃せば見逃せばでこんな逆襲が待っていたし……いやはや、人間がやる事は中々分からないものだと、雪奈はやれやれと軽く溜め息を吐いた。
雪奈「私もまだまだ未熟者ですね……あっちに逝ったらまた父様の扱きが待っていそう……あー……それだけは嫌だなぁ……アレの後は体中が痛いからυυ」
幼少の頃に嫌々剣の修行をさせられた記憶を思い出して微妙そうに笑う雪奈。だがその表情も、徐々に崩壊していく洞窟を見て無表情へと変わっていき、咲夜が走り去った入り口へと目を向けていく。
雪奈「――でも……一度で良いから、剣の師範もやってみたかったかな……」
先程咲夜とこの場所で話した会話……村の子供達に剣を教えるという話を思い出し、顔を俯かせて複雑げに笑う雪奈。
自分の最後を知れば、あの二人は一体どんな顔をするだろう?
悲しむか、それとも勝手に逝った自分に対して怒るか……
どちらにしろ、あの二人にそんな顔をさせてしまうと考えると悪い気がしてならない。
雪奈「……咲夜……はるかさん……それに村の人たち……ホント……気付いたら私なんかにはもったいない繋がりが、沢山出来てましたね……」
目をつむれば、今日までの様々な記憶が脳裏に蘇っていく。
初めて咲夜と出会った事や、そのあと半ば強引に家に住まわせられた事。
初めての農業で失敗を繰り返したり、落ち込む自分を咲夜とはるかが秘密の場所に連れていってくれたり、其処で咲夜が初めての親友になってくれた事など……
雪奈「……ホント……此処に来てから、咲夜には何時も助けられてばかりでした……」
脳裏に咲夜との様々な思い出を思い浮かべながら微笑し、雪奈はゆっくりと崩壊する天井を見上げて口を開いた。
雪奈「でも、何故でしょう……こんな時なのに、彼女達とはまた何処かで会える気がする。此処とは違う、何処かで……」
―……ピシッ……ピシピシピシィッ……!!―
雪奈のすぐ真上の天井に、無数の亀裂が走っていく。そして遂に天井が崩れ雪奈に向かって無数の岩が降り懸かろうとする中、雪奈は微塵の恐怖も感じさせない清々しい笑みを浮かべ……
雪奈「―――さようならは言わない……だから、また会いましょう咲夜……また……何処かで……」
―ドシャアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!―
……まるで何かを約束するかのようにそう呟いた瞬間、無数の岩が轟音と地響きを響かせて彼女の上に降り注いでいったのだった……
◆◇◆
―――その後、洞窟を脱出した咲夜は村に戻る途中、自分と雪奈を捜しに来た村の人たちと合流を果たし、今までの経緯を一から説明して捜索隊の一人に薬草をはるかの下に届けるように頼んだ後、村の人達と共に雪奈を救出すべく山の洞窟まで急いで戻っていった。しかし……
咲夜「……………そん………………な……………」
洞窟の前にまで辿り着いたものの、咲夜は洞窟の入り口の状態を見てその場に力無く膝を付いてしまった。
何故なら……入り口は洞窟の崩壊に伴って無数の瓦礫によって塞がれており、中に入る事が出来なくなっていたからである。
咲夜が呆然と岩で塞がれた入り口を見つめる中、村の男達は何とか入り口を塞ぐ岩を少しずつ退かして中に入ろうとするも……
「ぐっ……!駄目だ、奥の方も岩で塞がれてる!とてもじゃないが、中に入るのは無理そうだっ!」
「どうにかなんねぇのかっ?!このままじゃ雪奈ちゃんがっ……!!」
「だから無理なんだって!奥の方もずっと石で埋もれてるし、まだ中で崩落が続いてるみたいなんだ!これ以上進むのは無理だっ!」
咲夜「…………ゆき、なっ…………雪奈ァッ!!!」
完全に入り口が塞がれてる上に、奥に進む通路も石で埋もれている為に進む事が出来ない。
男達のそんな会話を耳にした咲夜は悲痛な叫びを上げながら立ち上がって入り口にまで駆け寄り、半ば錯乱した様子で素手で石を取り除いて退かそうとするが、背後から村の人達に羽交い締めにされ入り口から離されてしまう。
「止せ咲夜ッ!!これ以上進むのは危険だッ!!」
咲夜「離せッ!!離してくれッ!!言ったんだアイツはッ!!生き埋めになっても簡単には死なないってッ!!まだ生きてるんだ!!だからッ……!!」
「咲夜ちゃん……」
羽交い締めにされて抑えられながらも、それから逃れようと錯乱したまま必死に暴れ回る咲夜だが、そんな咲夜の肩を村の中年の女性が横から叩いた。
咲夜「っ…おばさんっ…」
「……咲夜ちゃんだって、分かってんだろう?そんなのは、あの子の嘘だって」
咲夜「ッ……!」
「あの子はアンタを逃がす為に、早くはるかちゃんに薬草を届ける為にそうしたんだ……アンタ達は生かされたんだよ、あの子に……その生かされた命を、危険に曝すような真似はするんじゃない。あの子の為にも」
咲夜「ぅ……あっ……」
厳しい表情で諭しの言葉を口にする女性に、咲夜は何も言い返せずその場に崩れ落ちてしまい、ボロボロと涙を流しながら地面に拳を打ち付けた。
咲夜「どうしてっ……どうして何も出来なかったんだっ……!!傍に居たのにっ……近くに居たのにっ……うぁっ……ああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!」
何も出来なかった、助けられなかった……
すぐ傍にいながら何も出来ず、守られて、置き去りにして、自分だけが助かった……
そんな無力な自分が腹立たしくてならない咲夜は地面を何度も殴り付け、地に額を押し当てて悲痛な叫びを響かせたのであった……
◆◇◇
……そしてその後。未だに崩落が続く洞窟の状態から雪奈の救出を不可と断定し、村の人達は咲夜を連れて村へと引き返す事となったが、咲夜は村に着くまでの間、ずっと無気力で足取りも覚束なかった。
そしてはるかは、咲夜と雪奈が採りに行った薬草を調合した薬を飲ませたおかげで、体調も徐々に回復して意識も取り戻した。
しかし、雪奈の姿がない事に気付いたはるかに彼女の所在を問われた際、どうしても病み上がりのはるかに雪奈の死を告げることが出来ず、彼女は薬草を届けた後に村を旅立ったと言って聞かせた。
そしてそれからの日常……
咲夜も最初の頃は雪奈の死に対して無気力気味であったが、数日ほど経ったある日を境に、皆の前で何事もなかったかのように元気に振る舞うようになった。
以前よりも仕事を増やし、家事やはるかの世話も以前の倍以上熟すようになったが、それでも普段の生活の中で突然涙を零してしまうことが度々あった。
やはり、あの時の事を無理矢理胸の奥に仕舞い込んでいる為に思わずボロが出てしまうらしい。
そんな姿をはるかに見せたくないが為に、咲夜は何時も仕事帰りにあの場所へと一人足を運び、其処で涙が一滴も残らぬように枯れるまで泣き続けた。
雪奈を救えなかった無力な自分……
目の前で危機に曝される命を救う力もない自分……
そんな力の無い自分に嫌気が差し、咲夜は泣きながら無力な自身を恨み、同時に『力』を強く欲した。
全ての人間を不幸から救えるような力……
大切な物を守り切れるような力……
この救いのない世界を変えるような力……
そう―――
―――ただ見ているだけで何もしてくれない、『神』のような力を……