仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
―光写真館―
姫「―――んっ……ぁ……?」
ふと目が覚め、瞼を開けた先には見慣れた背景ロールが見えた。その光景に一瞬眉間に訝しげに眉を寄せるが、すぐに此処が写真館のリビングだと気付き、同時に自分が今まで眠りに付いていたのだと理解した。
姫「?……今のは……夢、か?」
先程まで、自分が見ていたあの夢。何処か懐かしく、だが同時に哀しくもあるあの夢は、間違いなく今まで自分が忘れてしまっていた記憶。何故か自然とそう理解出来た姫はポツリとそう呟き、未だに眠気が拭えず目を擦っていく。そんな時……
「――漸くお目覚めか?」
姫「……は?」
不意に目の前から声が聞こえ、それに少し驚きながらもそちらに目を向ける姫。するとそこには見慣れた顔の青年……自身が突っ伏しているテーブルになにかの部品を広げ、カメラの手入れをしながらこちらを見つめる零と、零が座る椅子の下で俯伏せるザフィーラの姿があった。
姫「零に……ザフィーラ?こんな所で何を……?」
零「何って、なのは達が町へ買い出しに行っていないから、俺とザフィーラと爺さんとキバーラで留守番してるんだよ……ホントなら、今日の買い出しはお前がヴィータとアギトとシャマルと一緒に行く予定だったのに、お前はいつの間にかうたた寝してるし……」
姫「買い出し?……あ……そういえば、今朝の朝食でオットーから頼まれたような……」
まだ起きたばかりで意識がハッキリしてなかったが、零から話を聞いて漸く頭が目覚めてきた。確か今朝の朝食の時、オットーに食材や日用品が足りなくなってきたから買い出しに行って欲しいと頼まれ、この世界を調べた後にシャマル達とともに買い出しに行く予定だったのだが……どうやら零が今言った通り、いつの間にかうたた寝して此処で眠ってしまってたらしい。
姫「あー、そうか……昨日は少し夜更かししてたからつい眠ってしまってたようだな……帰ったらちゃんと皆に謝らねば……」
ザフィーラ「まぁ、恐らくシャマル達は気にしないとは思うが、一応そうした方が良いだろう……ところで木ノ花、お前は大丈夫なのか?」
姫「うん?うーむ……まだ生理はキテないようだし、至って大丈夫だが?」
ザフィーラ「……いや、そういう意味ではなくてだな……」
ううむ、と難しげな表情で腹部を摩る姫を見て呆れるように吐息を漏らすザフィーラ。零もそんなザフィーラの様子を横目に見て同じように呆れた顔をすると、カメラの手入れを一旦止め姫に口を開いた。
零「ザフィーラが言いたいのは、お前が寝てる時に妙にうなされてたから大丈夫か?って聞いてるんだ」
姫「?うなされ……私がか?」
零「お前以外に誰がいる?隣でずっと「ウーウー」うなされて喧しいから作業に集中出来んし、いい加減起こそうと思って揺さぶっても全く起きんし……悪い夢でも見てたのか?」
姫「…………」
ぶっきらぼうな口調だが、何処か心配するような感じで訝しげに問い掛ける零。そんな零から問いを受けた姫は口を閉ざすと、顔を俯かせながら先程見た夢を思い出していく。
姫「……悪い夢、という訳ではないな……うむ、寧ろ懐かしい……大切な親友の夢だった……」
零「親友?……もしかして、人間だった頃のか?」
姫「そうだ……だが……」
懐かしげに自分が見た夢の話をしていた姫だが、声のトーンが不意に落ちて表情も雲っていく。そんな姫を見た零とザフィーラは互いに顔を見合わせ首を傾げると、姫が重たい口を開きポツリと呟いた。
姫「……思い出せないんだ、その親友の名が……」
ザフィーラ「?思い出せない?」
姫「ああ……顔や声、一緒に過ごした記憶はある……だが、名前だけは靄が掛かったみたいに分からなくてな……どうしても思い出せないんだ」
零「…………」
頭を片手で抑えながらそう呟く姫の様子を見て、零はふと以前姫から聞いた話を思い出していく。
零(確かコイツ、人間の頃に神になる代価として生前の記憶を失ったんだったか?他に覚えてたのは妹の事だけだったみたいだし……なら、コイツが親友のことを夢で思い出させたのも、ある意味奇跡に近いんじゃ……)
ザフィーラ「ふむ……事情は良く分からんが、元気を出せ木ノ花。そんな顔はお前らしくないぞ?」
姫「うん……?何だ、わざわざ心配してくれるのか?カワイイ奴だなぁザフィー♪」
ザフィーラ「ザッ…ザフィー?」
心配してくれるザフィーラに気を良くしたのか、動物好きを発揮した姫は陽気な笑みを浮かべてザフィーラの前に近づいて屈みワシャワシャと毛を撫でていき、姫に撫でられるザフィーラも若干複雑げに口を引き攣らせていた。だが、楽しげにザフィーラを撫でていた姫は突然手の動きをピタリと止め、ゆっくりとその場から立ち上がっていく。
零「……?木ノ花?」
姫「あー……すまん二人共、今から少し出ても構わないか?ちょっと用事が出来た」
ザフィーラ「用事?」
姫「あぁ。だから悪いんだが、ちょっと留守番を頼む。すぐに戻って来るから」
疑問げに小首を傾げる二人に向けてそう言うと、姫はそのまま部屋を出て写真館を後にし何処かへと出掛けていってしまった。
ザフィーラ「ふむ……あの木ノ花が一人で外出か……珍しい事もあるものだな……」
零「…………」
普段から姫が他のメンバーと共にいる所を頻繁に見ているためか、珍しいものを見たような表情を浮かべて姫が出ていった入り口を見つめるザフィーラ。そんなザフィーラの隣では零も同じように姫が出ていった入り口を無言で見ていたが、すぐに何事もなかったかのようにカメラの手入れを再開していったのだった。
◆◆◆
―桜ノ神の世界・高台―
姫「…………………」
それから数十分後。写真館を出た姫が向かったのは、自身の世界の桜ノ町にある高台だった。オレンジ色の夕暮れに染まる高台の頂上に立つ彼女のその手には白い花束が握られており、姫はそれをしっかりと手にしながら、色んな花束や品物が手向けられてる目の前の石碑………あの幻魔達との戦いの中で命を落としてしまった人々の魂を弔う為、桜ノ神社と町の人々が協力して建てた慰霊碑を見つめていた。
姫「……すまない。もっと早く来るべきだったのだが、こちらも色々と立て込んでてな……」
慰霊碑に向けて申し訳なさそうに謝ると、姫は慰霊碑の前に屈み込んで手に持っていた花束を手向け、石碑を見つめながら目を僅かに細めた。
姫「本当なら、君達のことも助けてあげたかったのに……私の力が劣らなかったばかりに、罪のない君達を見殺しにしてしまった……全ての人々を不幸から救いたい……そんな大層な願いを叶えたいが為に、あんなに憎んでいた神の身になったというのに……私には、そんな器量はなかったみたいだ……」
滑稽だなと、自嘲の笑みを浮かべながらその場に腰を下ろし、膝を抱えて慰霊碑を見つめる姫。
姫「……なあ、"親友"……私は、お前やはるかの死をキッカケに、神のような力が欲しいと願うようになった……そうすれば、お前達みたいな人達を何物からも救えるようになると思って……だが、結局私には無理だった……」
フルフルと力無く首を横に振り、名を忘れてしまった親友の顔を脳裏に思い浮かべて苦笑した。
姫「神の身になっても、私は全ての人間を救うなんて出来はしなかった……なあ……お前の事を忘れてまで力を手に入れたこんな私を、お前はどう思う?馬鹿と思うか?滑稽だと笑うか?無様だと罵るか?……いや、お前はそんな事が出来る奴じゃないよな……」
かつて親友と共に過ごした記憶を思い起こしていくが、彼女が誰かに対し悪口や罵倒を口にする姿など見たことない。剣術以外の事は手先が不器用だし、すぐに何もないところで転んだりして泣き出すし、何処か抜けてるし。そんな親友の姿を思い出していく内に自然と笑みを浮かべていくと、姫は軽く息を吐きながら顔を上げた。
姫「――それで?何時までコソコソ隠れてるつもりなんだ、零?」
「……!」
ビクッと、姫の言葉に反応するように背後の草むらからそんな擬音が聞こえた気がする。それから少し時間が経つと、ガサガサと草むらの中から一人の人物……零がゆっくりと姿を現した。
零「悪趣味だな……気付いていたなら最初から声を掛ければ良いだろう?」
姫「君こそ悪趣味だろう?コソコソと盗み聞きなど。大体私と君は契約で繋がっているのだから、こんなに近くに居られれば直ぐに分かるさ」
零「……契約と言うのも考えものだな……」
溜め息交じりにそう愚痴ると、零はゆっくりと慰霊碑の前で体育座りをする姫の背後に近づき、慰霊碑に目を向けていく。
零「墓参り、か?あの戦いで救えなかった人達と、例の親友の」
姫「あぁ……彼等を死なせてしまったのは、私のせいでもある……こうして彼等の前に顔を出す事すら傲かましいと思うが、今日はどうしてもそうしなければならないと思って、な……」
零「――成る程……だが、別にお前だけの責任って訳ではないだろう。あの戦いで救えなかった命は、あの戦いに参加してた俺達全員の責任だ……それをお前が一人で自分のせいだと決め付けるのは、俺からすれば自惚れに聞こえるぞ」
姫「…………」
あのフォーティンブラスや高等幻魔達との激戦。あの戦いの中で、犠牲になってしまった命は決して少なくない。その命を守り切れなかった責任は人物達全員にあるのだと、慰霊碑に刻まれた犠牲者の一つ一つの名を見つめながらそう告げる零に、姫は膝を抱える腕に自然と力を込めた。
姫「私は……私はかつて、たったの一人の親友を置き去りにして、彼女を死なせてしまったんだ……アイツや妹を救えなかった後悔や無力さから、私はこの力を求めたというのに……私はこの有様で、力を手にする代価にアイツの記憶まで失ってしまった……」
零「……そんなものだろ。人とは違う存在になって、しかも人知を越えた神様の力とやらを手に入れるのになんの代価もないなんて、そんな上手い話があるなら誰だって神様になれる……まぁ、大事な物を守る為に大事な物を捨てなければならないと言うのは、確かに皮肉な話だろうが」
姫「そうだ……だから私は、その為にアイツとの記憶を今まで忘れ、忘れていた事すら忘れていた……親友失格だ……」
慰霊碑を見つめたまま自嘲の笑みを浮かべる姫。零はそんな姫の背中を見下ろして吐息を漏らすと、黄昏れの空を見上げながら脳裏に一人の少女……リィルの顔を思い浮かべていく。
零「――確かに……絶対に忘れてはいけない記憶っていうのは、誰の中にもあるんだろうな……それが掛け替えのないものなら、尚更」
姫「…………」
零「まあ、別に俺には関係ないからどうでもいいが……咲夜……お前はソイツの事を思い出せて、良かったって思ったか?」
姫「……そうだな……良かったって、思った……心の底から」
零「そうかい……だったら、それで良いんじゃないか?」
姫「え……?」
なんでもないような口調でそう告げた零に、姫は顔を上げながら思わず疑問げに聞き返した。零はそんな姫の隣に立つと、慰霊碑に目を向けたまま続きを語り出した。
零「今まで忘れていた事を思い出せたなら、あとはもう二度と忘れないようにすれば良い。一々忘れてた事をグチグチ悩んだところでキリもないし、何より折角思い出してもらったのに、そんなに自分を責めるお前の姿を見たら相手も気分が悪いだろ?もしも俺が思い出される立場なら、お前のその反応は嫌だ」
姫「…………」
零「それに、お前が生前の記憶を失ったのは、上司の神が代価として記憶を消したからなんだろ?それなのにお前はその親友との記憶を思い出せた……やるじゃないか?お前等の絆が神様の力とやらを上回った証拠だ」
お前の上役はマシな奴じゃないみたいだし、ちょっとは一泡噴かせられたんじゃないか?と冗談混じりに笑い掛ける零。そんな零を見て姫も呆然となってしまうが、すぐにクスリと笑みを浮かべながらその場から立ち上がった。
姫「そうだな……君の言う通りだ……もう二度と、私はアイツの事を忘れたりはしない……名前はまだ思い出せないが……」
零「それもゆっくり思い出していけば良いだろう……取りあえず、なのはたちが戻る前に早く写真館に帰るぞ。余り帰りが遅くなるとアイツ等の雷が落ちるし」
そんなのは御免だからなと、零は軽口を叩きながら踵を返して頂上を後にしようとし、姫も慰霊碑を見つめながら零の後を追い掛けて高台から下りようとした。その時……
―……ドンッ!!―
姫「…なッ?!」
「うきゃあッ?!」
零「ッ?!咲夜?!」
姫が慰霊碑に視線を向けたまま頂上の階段を下りようとした時、突然目の前から階段を登ってきた誰かとぶつかり互いに尻餅を付いてしまったのだ。それに気付いた零は階段を下りるのを止め、慌てて二人の下へと駆け寄っていく。
零「馬鹿!何やってるんだお前?!ちゃんと前を見ろ!」
姫「いっつっ……すまんっ、少し余所見してたっ……すまない、君の方は大丈夫かっ?」
「アイタタッ……は、はい、何とかっ……あ、あれ?眼鏡は?眼鏡、眼鏡っ……」
ぶつけてしまった頭を摩りながら涙目になる姫の問いにそう答えるが、今の衝突で眼鏡を無くしてしまったのか、左手に持った花束を膝の上に起きながら眼鏡を手探りで探す女性。すると、そんな女性の様子を見た姫は自分の近くに眼鏡が落ちてる事に気付き、それを拾って女性に差し出した。
姫「もしかして、これか?ほら」
「へ?……あっ、そ、それです!すみません!」
姫「いや、謝るのは私だ。私の不注意のせいですまな…………い………?」
姫が差し出した眼鏡を目にして顔を上げる女性の素顔を見て、姫は僅かに目を見開き驚愕の表情を浮かべていった。そしてそんな姫の様子に気付かず、女性は姫の手から眼鏡を受け取りながら……
雪奈?「いえ、私も考え事をしててちゃんと前を見てませんでしたから。すみませんっ」
姫「……あ……ぁ……?」
……苦笑を向けて謝罪する女性。その顔は、紛れもなく自分の記憶の中の親友と瓜二つであり、姫は驚愕の表情のまま思わず固まってしまったのであった。
雪奈?「?……あの、どうかしましたか?」
零「(咲夜?)……いや、気にしないでくれ。それより、アンタの方は怪我はないか?」
雪奈?「え……あっ、はい。私は全然、花もちゃんと無事ですし♪」
そう言って雪奈?は服に付いた汚れを払いながら立ち上がると眼鏡を掛け、花束を両手で抱えて笑みを浮かべていき、零もそれを見て安堵しながら未だに地面に座り込む姫を立たせていく。
零「本当にすまなかったな……ところで、アンタも墓参りに?」
雪奈?「あ、ええ。此処へは父に会いに来まして……もしかして、貴方達も?」
零「ん?まあそんなところだ……あぁ、まだ名乗ってなかったな?俺は黒月零、こっちが木ノ花姫だ」
雪奈?「あ、これはご丁寧にどうも。えと、黒月さんに木ノ花さん……ですよね?私は難波道場で剣の師範をしてます、難波 雪奈と言います」
姫「難波……ゆき、な?」
嘗ての親友と瓜二つの顔をした女性……難波"雪奈"という名に反応し、姫が呆然とした様子で思わず聞き返した瞬間……
『――私は雪奈…雪奈って言います。よろしく、咲夜さん』
姫(……ゆき……な……?)
脳裏を横切ったのは、自らの名前を名乗る親友の顔。姫は脳裏を横切ったそれに驚愕して目を見開いていくが、雪奈はそれに気付かず二人の間を通り過ぎて慰霊碑に近づき、花束を手向けて暫く合掌すると、合掌を解いて二人の方に振り返った。
雪奈「お二人も、お墓参りに此処へ来たんですよね?相手はご友人やご家族……とか?」
零「ん……まあ、コイツの親友のな。アンタは父親に会いにと行っていたが……やっぱり、あの化け物に?」
雪奈「……えぇ……私の父は、あの化け物達が町に攻めてきた時に教え子達や私を逃がす為、一人で奴らに立ち向かって亡くなったんです……だから、私や今の教え子達がこうして生きていられるのも、父のおかげなんですよ」
姫「……そう、だったのか……それは何と言うか……気の毒だな……」
雪奈「あはははっ……確かに父が亡くなったのは悲しかったけど……だけど、私はそんな父を誇りに思ってますよ?」
零「?誇り?」
雪奈「はい。だって父は、子供達を守る為……自らの誇りの為に最後まで戦って死んだんです。そんな父の姿を思い出す度に、何時までも悲しんでクヨクヨしていられないと思って、父の道場を受け継いで剣の師範をしてるんです」
零「……そうか。強いんだな、アンタは……」
雪奈「いえ、私なんて父に比べたら全然ですっ。あの時だって、私はただ子供達を逃がすことしか出来なかったし……」
まだまだ全然ですよと、零の言葉を否定するように首を左右に振る。姫はそんな雪奈の隣にゆっくりと歩み寄って雪奈の顔を見つめると、雪奈の左手の薬指に指輪のようなものが嵌められてることに気付いた。
姫「?その指輪……まさか?」
雪奈「え?あっ、これですか?ハハハッ……実は私、来月に結婚する事になってるんです♪」
姫「け、結婚?」
雪奈「はい!相手の彼は、以前父の元で修行していた生徒の一人でしてね。今は一緒に道場の経営を手伝ってくれてるんです。道場は私に任せてくれれば良いと言ってるんですけど、彼はあの時心配を掛けたお詫びがしたいと聞かなくて……」
零「心配掛けたって……何だ?何か事故にでも遭ったのか?」
何か大事でもあったのか?と気になって訝しげに問いかける零。雪奈はその質問を受けて一度顔を俯かせると、そのままゆっくりと口を開いた。
雪奈「……実は、あの化け物達が二度目に現れて町を襲った時、彼は斬られそうになった私を庇って重傷の怪我を負ったんです。傷も深くて、血の量も多くて、内臓も幾つか傷付いて……現場に駆け付けてくれたお医者さんからも、もう助からないって言われて、正直もう駄目だって諦め掛けてしまいました……でもその時……奇跡が起きたんです」
零「?奇跡……?」
雪奈「はい……あの化け物達が消えたすぐ後、町中に突然空からピンク色の光が雪のように降ってきて、それを浴びたらあの人の怪我が魔法のように治っていったんです」
姫「光……雪?……ッ!」
雪奈が口にしたワードを思わず呟いた時、姫の脳裏にこの世界で起きたあの決戦の後の出来事の記憶が自然と浮かび上がった。
『咲夜、お前まさか……!』
『……零……悪いが少しだけ、私の我が儘に付き合ってくれ……これが、私がこの世界にしてやれる最後の恩恵だから……』
『…?最後?』
『――さあ、始めようか。これが私の……桜ノ神の最後の奇跡だ!』
『なあ零……私は今度こそ……人々を幸せに出来たかな……?』
『……さあな……ただ―――』
『――ただ、お前ほどのお人良しな神は他にはいないと思うぞ……きっと』
『……ふふ……そうか……それは光栄だ……』
姫(まさか……あの時の……?)
あの決戦の後、幻魔の脅威によって破壊し尽くされた町と人々の願いを聞き入れ、この世界で自分が使った最後の奇跡。
それによって破壊された町は修復され、人々は怪我が治りその命を取り留めたのである。
そしてその中にいた彼女の大切な人の消えかけていた命も救われ、彼女の未来を救うことが出来たのだと、姫はそう考えて呆然とした顔を浮かべていた。
雪奈「あの光がなければ、きっとあの人はあのまま助からずに死んでいた……だから私は、この世界の神様やあの怪物たちと戦ってくれた仮面の戦士たちに感謝してるんです。これからは絶対、神様や彼等がくれたチャンスを無駄にしない為にも、恥ずかしくない生き方をして幸せになると……そう誓って」
姫(……雪奈……)
何処となく誇らしげに、胸を張りながら自分の胸の内を語る雪奈。そんな彼女の背中を見つめていた姫は、思わず開けてしまっていた口をキュッと摘むんで微笑を浮かべていくが、雪奈が突然自分の左腕に巻いた腕時計を見てギョッとなった。
雪奈「う、嘘?!もうこんな時間?!すみません!今から夕食の準備をしないといけないので!つまらない話を聞いてもらって、ありがとうございます!では!」
零「あ、おい!」
雪奈は夕食の準備の為にと二人に向けて片手を振りながら急いで高台を下りていき、零はそんな雪奈の走り去っていく姿を見て溜め息を吐いた。
零「全く、落ち着きがない奴だな。あれだとまた途中で転んでしまうぞ……まぁいいか、取りあえず俺達も早く……木ノ花?」
自分達も早く写真館に帰ろうと高台を下りようとした零だが、何故か姫が雪奈の走り去った階段を見つめたまま動かない。零はそんな姫に近づき、面倒臭そうに声を掛けた。
零「おい、何ボーッとしてるんだ?早く「……君達の……お陰だ……」……は?」
早く帰るぞと促そうとした零の言葉が、ポツリと静かに呟いた姫の声に遮られた。それを聞いた零が怪訝そうに聞き返して姫の顔を覗くと、姫は目尻に涙を浮かべながら何処か嬉しそうに笑っていた。
零「!咲夜……?」
姫「っ……君達の……お陰だっ……今度こそ守れたっ……アイツをっ……」
零や絢香たち、そして平行世界の皆が幻魔達を退けてくれたお陰で、嘗て救えなかった彼女の未来を今度こそ救う事が出来た。それがなにより嬉しくてならない姫は涙を止める事が出来ず泣き出してしまい、零はそんな姫の突然の涙に戸惑いを隠せずにいた。
零「な、なんだいきなり?おいっ、何故泣くっ?」
姫「グズッ……いや、何でもないっ……ただ、改めて君達に感謝したくなった……それだけさ……」
零「???」
頬を伝う涙を拭い去ってそう告げる姫だが、零はいきなりどうしたんだ?という顔をして疑問符を浮かべていた。そんな零に苦笑いをすると、姫は階段に目を向けて嬉しげに目を細めた。
姫(……今度こそ……幸せにな……雪奈……)
今はもう自分の事を覚えていない親友の生まれ変わり。だがそれでも、姫は今度こそ彼女が幸せになれることを切に願いながら、嘗て親友と共に見たオレンジ色の夕日をジッと眺めていくのだった。
――そして後日。桜ノ町の某所で行われたある結婚式にて、匿名で一つの綺麗な花束が花嫁の下に贈られたらしいが、それはまた別のお話である……