仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
一人屋敷の縁側で酒を飲んでいた所に現れたキャロ。こんな夜中に不意に現れた予想外な人物に少し驚いた零だったが、すぐに気を取り直して普段通りに装い、取りあえずキャロを隣に座らせて一緒に月を眺めていた。
零「こんな時間にどうしたんだ?眠れないのか?」
キャロ「あ、はい。なんかすっかり目が冴えて、全然眠れないから外の空気でも吸って来ようかと思って。そうしたら零さんを見付けたんですけど……零さんも眠れないんですか?」
零「いや、ちょっと神威と話し込んでただけだ。神威はもう寝たんだが……俺はまだそういう気分になれなくてな……」
苦笑いしながら困ったようにそう告げる零だが、実際はそうではない。ただ単に、先程の記憶のせいで眠りたくないだけだ。このまま眠ってしまえばあの記憶が夢の中にまで出て来そうで……そうならないために、少しでもあの記憶の事を紛らわせたいから部屋に戻らないのだ。
零「まあ俺が言うのもあれだが、夜更かしもほどほどにしろよ?でないと、何処ぞの過保護な分隊長さんが心配の余り捜しに来るかもしれんし」
キャロ「あ、あははは……そうですね……出来るだけそうします」
同じ部屋で寝てるその過保護な隊長が自分を心配して捜しに来る様を思い浮かべたのか、キャロは苦笑いを浮かべながら頷いた。だが、その横顔を見た零は何処かある違和感を感じ僅かに眉を潜めた。何だか、いつものキャロの様子と比べて若干暗いような……。そう思いながら訝しげな視線をキャロの横顔に向けてると、その視線に気付いたキャロが零に振り向いて首を傾げた。
キャロ「零さん?あの……何か、私の顔に付いてます?」
零「いや……なあキャロ。お前もしかして、何か不安や悩みとかないか?」
キャロ「……へ?ど、どうしてですか?」
零「いいや、何と言うかな……いつものキャロらしくないというのか?妙に元気がないように見えてな……多分俺じゃなくても分かると思うぞ。何かあったか?」
キャロ「あ、えーっと……その……」
零の指摘が図星だったのか、キャロは言いにくそうに顔を俯かせながらゴモゴモと口をごもらせてしまい、零はそんなキャロの横顔を見つめて困らせてしまったかと苦笑いした。
零「言いたくないのなら別に良いし、違うと言うなら否定してくれて構わんぞ?悩み事がないなら、俺の単なる杞憂だったで片付くし」
キャロ「あっ……いえ……違うって訳じゃないです。実際悩みがあるのはほんとですから。その事で今朝も、フェイトさんやエリオ君に気にかけられましたし」
零「あの二人か……その様子だと、フェイトとエリオにも話してないようだな」
キャロ「……はい」
コクりと頷き返すと、キャロは口を閉ざしたまま屋敷の庭に視線を向けていく。その様子を見た零も特に何を問い詰めるわけでもなくキャロの視線を追うように庭を見つめると、それから互いに無言になった。何処からか聞こえる鈴虫の鳴き声が夜に響き、落ち着いた空気が二人の間に流れる。やがて、その穏やかな雰囲気のお陰か、今まで無言でいたキャロがゆっくりと重たい口を開いた。
キャロ「こう言ったら、皆が私を心配して気にかけるじゃないかと思って、言わなかったんですけど……実は今朝、フリードの夢を見たんです……」
零「?フリードの?」
フリードと言えば、彼女が卵から孵った頃から育てて使役しているフリードリヒのことであり、彼女と共に訓練に励み、自分等と共に数々の修羅場を潜り抜けてきた仲間でもある。そういえば、彼女やエリオと合流したカブトの世界では二人と一緒にいなかったなと頭の片隅で思い出していると、キャロが言葉を続け語り出した。
キャロ「今朝見た夢の中で、私、何処かも分からない暗闇の中に立っていたんです……そしたら、背後から聞き慣れた鳴き声が聞こえて、思わず振り返ったら、遠く離れた場所でフリードが必死に誰かを捜してる姿があったんです……」
零「…………」
キャロ「私は慌てて大声でフリードを呼びました……だけど、フリードには私の声が届いてないみたいで、フリードは私が立っている場所とは逆の方向に去っていってしまったんです……私は直ぐさま追い掛けようとしたけど、何故か私が立ってる場所から一歩も動けなくて……フリードはそのまま暗闇の向こうに消えて、私はフリードの名前を叫びながらその場に泣き崩れてしまったんです……」
零「で、そこで夢が途切れて目が覚めた……という訳か?」
自分も何度か夢見の悪い夢を見た事がある為か、なんとなく察しが付いて静かにそう問い掛けた。すると案の定、キャロはコクりと力なく頷き返し、零も「そうか」とだけ返して目の前の庭に視線を向けた。
キャロ「その夢を見てから、何だか途端に、フリードのことで不安が膨れ上がり出したんです……ライダーの世界に飛ばされる前は一緒にいたはずなのに、カブトの世界に飛ばされてからフリードの姿がないことに気付いて不安だったけど、きっとフリードだけは飛ばされずにミッドに残ってるのかもしれないて、エリオ君に励まされてからそう思うようにしてたけど……でももし、フリードも何処かの世界に飛ばされてて、何か危険な目に合ってたら……どうしようってっ……」
フリードは、キャロ達とは違って人間ではない。もしミッドではない地球のような世界に飛ばされてでもして悪い人間等に捕まったりしたら、もし何か危険な目に遭っててでもしたらと、今朝見たという夢のせいか酷くマイナス思考に走って不安がるキャロ。こういう相談に乗るのは俺じゃなくて、あの過保護か竜騎士の役割だと思うんだがなぁと、零はあれこれ悪い予想を口にするキャロを見つめて苦笑いすると、庭に視線を戻しながら口を開いた。
零「まあ確かに、フリードだけだと何かと不憫かもしれないな。アイツは言葉も喋れないし、地球みたいな世界なら気軽に誰かの前に姿を見せれないから、コソコソ人目を避けながら隠れて過ごすしかないだろうし」
キャロ「!や、やっぱり、そう思いますよね?!やっぱりフリードだけじゃ……!」
零「そうかもしれない。だけど、そう心配することもないんじゃないか?」
キャロ「……え?」
焦ってパニクるキャロとは対照に、何故か落ち着いた様子で微笑む零にキャロは思わずキョトンとしながら首を傾げた。こういう反応はほんとに年相応だなと、零はそんなキャロの顔を横目に穏やかに微笑みながら言葉を続けた。
零「お前が思ってるほど、フリードはそんなに頼りのない奴じゃないって話だ。アイツも結構やる時はやるし、たまに野生の感?って奴を発揮してその場の危機を乗り越えたりすることもある。幾ら飛竜になれなくてちっこいままでも火は噴けるんだし、自分の身ぐらい自分で守れるに決まってる」
キャロ「……そう……でしょうか……」
零「なにより、俺やあの鬼教官等がお前たちと一緒に鍛え上げて、お前と一緒に数々の修羅場を潜り抜けてきた奴だぞ?そんじょそこらの危機ぐらいで参る筈がない。ま、もしその程度で何処かで参ってたりしたら……今までの訓練レベルを更にグレードアップさせて一から鍛え直すしかないな。あぁ、もちろん連帯責任でお前等四人全員でな?」
キャロ「え、えぇぇぇ?!そんなぁっ?!!」
零「俺に言われてもなぁ。多分それ見て決めるのは、なのはやヴィータ辺りやもしれんぞ?訓練内容は……全力全開のスターライトブレイカーを真っ正面から防ぎ切れ!とか?」
キャロ「………………フ、フリードっ、お願いだから無事でいてっ。主に私達の明日の為にっ……!!」
零「其処まで嫌か……いやまあ、アレを真っ正面から堂々と受けたりするなんて余程の命知らずしかしないだろうがな……俺は毎日のように受けてるが」
…………あれ?それだと俺も余程の命知らずって事になるのか?と、今更過ぎる疑問を抱いて小首を傾げる零だが、まあどうでもいいかと直ぐに気を取り直して隣を見れば、アワワワッと恐怖で全身を震わせながら両手を組んで神に祈るようにしていた。まぁ、うちにはもう身近に神様がいるんだがな……まともに願いを叶えてくれるか微妙だから頼まないけど。
零「―――まぁ、とにかく俺が言いたいのは、そんなに心配したり不安がらずにフリードを信じてやれって話しだ……アイツはお前と一緒に俺達のキツイ訓練を乗り越えて、JS事件でもお前達を最後まで守ってくれた頼もしいヤツなんだ。そんなアイツを卵から孵して、アイツを彼処まで育てたのは、他でもないお前なんだろう?」
キャロ「……はい……」
零「ん。なら胸を張って、下ばかり見ないで、アイツの強さを信じながら前を見続けろ。そんな顔してたら逆にフリードが心配する。何より俺だってフリードが大丈夫だと信じてるのに、一番長く一緒にいるお前が信じてやらないでどうする?」
キャロ「……零さん……」
まるでまだ小さかった頃、義兄である恭也が誰にも心を開かなかった自分に語りかけていた時のようだなと思いながらそう告げると、キャロは徐に顔を上げクリッとした目を零に向けてきた。そんなキャロに苦笑いしながら頭をポンッと軽く叩いた後にクシャクシャと撫でると、それが心地好いのかキャロは気持ち良さ気に目を細め、コクりと小さく零に頷き返した。
キャロ「そう、ですよね……あの子は私達と一緒に、何度も死線を潜り越えてきた。それを隣でずっと見てきた私があの子を信じないなんて、そんなの可笑しいですよね」
零「不安がるなっていうのも無理な話だとは思うがな……ただ、それと同じぐらいフリードの力を信頼して欲しいっていうのもある。アイツも掛け替えのない、機動六課のメンバーなんだ……だからアイツの強さを信じて、フリードが早く見付かるのを祈ろう」
キャロ「……はい……何だか、話したら少し気が楽になりました……ありがとうございます。その、フリードの事も、そんな風に言ってもらえて」
零「いや、別にそれほど大したことは何も言ってないつもりだが、ちょっとでも力になれたなら幸いだ」
言いながら、零は酒の瓶を軽く振って中身が空なのを確認すると、軽く息を吐きながらキャロに再び視線を戻した。
零「まぁ、取りあえず今はやれることをやらないと何も変わらんしな。明日からまたこの世界での役目を探す予定だから、お前ももう寝ろ」
キャロ「あ、はい……それじゃ、この辺で。話を聞いて頂いて、ありがとうございました。おやすみなさい」
零「ああ、おやすみ……」
先程の暗い雰囲気から元気を取り戻したらしい様子で軽く頭を下げるキャロに向けてそう言うと、キャロはそのまま踵を返してフェイト等が眠る部屋へと戻っていった。その少女の背中が見えなくなるまで見届けると、零は額を人差し指で掻きながら軽く息を吐いた。
零「胸を張って、下ばかり見ないで、か……全く……教え子にあんなこと言ってしまったら、俺も一々下を見れなくなってしまうじゃないか……」
先程キャロに掛けた言葉。それを思い出しながら自嘲するように笑う零は、左目のレンズを外して因子の力を解放し、紫に輝く両目で月を見上げた。
零(過去の記憶に振り回されてどうする?それと向き合うことをフェイトの前で誓っただろう……アイツの……リィルの事も……)
祐輔の世界での暴走の際に自分を救ってくれた少女。破壊者へ堕ち掛けた自分を暗闇の中から導き、仲間達の下へと帰してくれた彼女のことを必ず思い出そうと決めたのだ。ならば、この程度のことで溺れてはいけない。あの記憶がリィルのことを思い出すまでの過程だと思えば、大した苦にはならない。だからあの程度平気だと、自分に言い聞かせるように胸の内で呟いて手の平を見下ろした瞬間……
―……ビシィッッ!!―
零の中で、何かが、確かにひび割れるような音が鳴り響いた。
零(ッ?!!なん、だ……?)
その音に弾かれるように、零は慌てて顔を上げ思わず辺りを見渡した。しかし、周りの風景は別段何も変化はなく、自分の体を調べてみても何処か異常があるというわけではない。
零(気のせい?……いかんな……酒が回ってきてるのか?明日もあることだし、今日はもう休むか……)
どうやら飲み過ぎて幻聴を聞いたらしいと、零は頭を軽く振りながらやれやれと溜め息を漏らし、明日の為に今日はもう休もうと酒の瓶とお猪口を片付けてから自室へと戻っていったのであった。
―……ピシッ……ピシィッ……―
◇◆◆
それから翌日。起床した頃には酒もすっかり抜け切っていたようで、身体に不調らしい不調は特に見られなかった。それから普段着に着替えた零が居間に向かうとFWやナンバーズ達の姿はあったが、なのは達の姿が何処にも見当たらなかった。どうやらまだなのは達が起きていないらしく、零は仕方なくなのは等を起こしに彼女達の部屋に向かっていた。
零「全く、まだ準備に時間が掛かってるのか?それともまだ寝てるのだとしたら、教え子に示しが付かないだろうに」
ぶつくさと文句を口にしながらも、取りあえず一番近かったはやての部屋の前で立ち止まる零。トントンと一定のリズムで戸を手の甲で叩くと、中の返事を待たないまま戸を開いた。
零「おいはやて、いつまで寝てる?さっさと起きて準備済ませ―――」
と、険しげに早く準備を済ませろと促そうとした零の顔が、ピシッと固まった。何故なら零が見つめる先、戸を開けて入った室内の一角では……
はやて「…………………」
衣服を身に纏ってない下着姿で、ブラのホックを止めようと背中に両手を伸ばす八神はやての姿があったのだった。彼女の傍らには、同室のリインが布団の上で眠りながら何やら良い夢でも見ているのか、幸せそうな表情で何か寝言を呟いている。だが零には彼女を起こす以前に、そちらに意識を向ける余裕すらなかった。戸を開いた手が汗で滲んで顔が引き攣る中、はやてはしばしブルブル震えながら顔を俯かせ……
はやて「零君……私、前にも何度か言わへんかったかなぁ……?女の子の部屋に入る前には、必ずノックして相手の返事を待ってから入れって……」
零「……いやぁー……どうだっただろうなぁ……黒月さん、最近歳のせいか物忘れが激しくなってボケ始めてるからなぁ、ハハハハハハハハッ……本当に言ったかっ?」
はやて「言ったよ。何度も言ったよ……なのに何時も何時も何時も、零君の学習能力の無さと来ればっ……」
あっ、ヤバい。これ完全に怒ってる。もう目視だけで分かるぐらい怒りのオーラを発しているはやてに零も思わずたじろぎ、傍らで寝ているリインも寝ながらにしてその異常を察したのか、幸せそうな表情から一変して「ふ、ふがぁ?!うぁ?」とビクビク震え出していた……それでも起きないのは大した肝の持ち主だと賞賛に値したいぐらいだ。
零(だ、だがマズイっ……これは完全に殺る空気だぞっ。どうにかして許してもらうし……か……?)
この状況の打開策を練っていた零だが、ふとはやての胸の膨らみを見て訝しげに目を細めた。そしてしばしはやての胸をジッと見つめていた零は、突然バッ!と驚愕の表情を浮かべながらその場から後退りし、はやても零のその突然の反応に思わずビックリして怒りのオーラを消した。
はやて「な、なんや?え?零君?どないしたん?」
零「ば……馬鹿な……どういう事だっ……?!」
はやて「な、何がっ?」
零が余りにもマジなリアクションで驚愕するから怒ろうにも怒れず、はやては逆に恐る恐る零に問い返した。それに対し零は、徐に手を上げて人差し指をはやてに向けながら……
零「何故だ……何故、お前のソレは其処まで大きくなっとるんだッ?!」
はやて「…………は?」
……この男、いきなり何を言ってるのだろう?はやては一瞬そう思いながら零の指先を追って視線を下ろすと……最近大きくなり出した自分の胸が視界に入った。
零「何だソレはッ?!数日前に見た時は79か80の中間辺りだったはずなのにっ、何故いきなり84なんてサイズに劇的変化を遂げとるんだ?!」
はやて「え……いや、何故って言われても……なんか可笑しい、かな?」
零「可笑し過ぎるに決まってる!前から思ってたが何なんだお前等のその有り得ない身体的成長速度は?!なのは然り!フェイト然りカリム然りギンガ然りと、第二次成長期なんてとっくの昔に過ぎとるだろうがっ!どれだけ胸の脂肪を膨らませれば気が済むんだお前等?!」
はやて「いや……そう言われてもなぁ……」
零「クソッ、はやてはまだ普通だと思っていたのにっ……大体なのはの奴だって可笑しすぎるんだ、なんだあの胸?最近また妙に成長し出してるし、前屈みすればどれだけ異常なデカさか直ぐに分かるぞ。最早魔王というより、牛魔王ならぬ乳魔王ってところだろうな」
なのは「にゃははは、誰が牛魔王ならぬ乳魔王?」
零「お前の事に決まってるだろ?お前の。ま、その内フェイトの奴と並ぶんじゃないか?正にミッドチルダきっての二大(笑)エース―――」
………………。いや待て。今の独特な笑い声、アレははやての物だったか?いや、彼女はあんな笑い方はしない。あんな笑い方をするのは、自分が知る中でただ一人しかいない筈だ。そう、今自分が話している彼女しか……
なのは「―――で?話しの続きはないのかな?かな?」
零「……………………………………………………」
ドバーーッ!と、背筋から大量の冷や汗が噴き出すのが分かった。背後から感じる視線がグサグサと背中を突き刺し、油の切れた機械人形のように声の方に振り向けば……はい、案の定いた。ニコニコ笑顔で微笑む我らが乳魔王様ことなのはと、その背後に頭上に?を浮かべるヴィヴィオとアズサの目を両手で塞ぐフェイト等の姿が。
なのは「んん?どうしたのかな?もっと聞かせてよ?乳魔王がどーのこーのって、面白そうな話ししてたでしょ♪」
顔こそ何時ものように笑ってるが、額にはビキィッと怒りの血管マークが浮かび上がっているのが目に見えて直ぐに分かった。無表情の零の額から一筋の汗が伝い、チラリと視線だけ動かして辺りを見れば、フェイトやはやて等はそっぽを向いて見て見ぬフリを貫いている。それで助力は無理だと判断した零は一度深呼吸をし、一気に空気を吐いたあと……
ドバァッ!!と何かを蹴る音が響いた。それは黒月零が床を思いっきり蹴った音だった。
ガシャアァンッ!!という盛大な爆発音が響いた。それはトランスに変身したなのはが床を破壊して愚か者を追撃する音だった。