仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT   作:風人Ⅱ

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番外編/桜龍玉と新たな神⑤

 

 

――その後、〇〇〇ホテルで起きた人造幻魔の突然の襲撃と、怪人Sに七桜玉を奪われてから一夜が明けた。

 

 

あの後、ホテル内に現れた人造幻魔達はライダー達とアシェンの活躍により全て撃退され、負傷した警備員の何人かが病院に搬送されたものの、命に別状はなく、幸いにも死傷者は出ていない。

 

 

またホテルで起きた一件は桜ノ神社から関係各所に頼み込み、人聞きは悪いが、世間には知らせず隠蔽する事にした。

 

 

理由は、前の事件からまだ半年も経っていないにも関わらず、再び幻魔が現れたなどと世間に知れれば街の住民達の不安とトラウマをまた呼び起こす事となってしまうからだ。

 

 

今回の事件で実際に被害を受けた側からすれば納得がいかない話かもしれないが、向こうもその辺りの事情を汲んでくれてか、真相を明らかにして事件を解決するという約束と引き換えにどうにか納得してくれた。

 

 

そして桜ノ神社はあれからアシェンが捕らえた一体の人造幻魔をドールが解剖、怪人Sが足止めに利用した馬鬼を姫が一睡もせず調査してる間、絢香は翌日関係各所への説明と説得、なごみを除いた他のメンバーは姫達からの連絡があるまで街中を捜索し続けていた。何故か?

 

 

 

 

屋上を警備していたハズの黒月零が突然失踪し、連絡も取れず行方不明となったからだ。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―桜ノ神社―

 

 

姫「――そうか……君達の方でも結局、零は見付からなかったか……」

 

 

昨夜のホテル襲撃事件から一夜明けた翌日の夕方頃。桜ノ神社の居間では昨夜の戦闘での疲れがまだ残っているにも関わらず、今回の件での関係各所への説明と謝罪と説得、人造幻魔の解剖や馬鬼の調査、失踪した零の捜索を昨夜から続けていたメンバーの姿があった。

 

 

紗耶香「申し訳ありません、街中をくまなく捜索したのですが……結局、奴を見付ける事は叶わず……」

 

 

姫「いや、私の方でも、彼との契約の繋がりを辿ろうとしても何故か居場所を掴めなかったからな。君達だけを責めるのは見当違いだ……だが恐らく、零の失踪に何か関与があるのは間違いないと思う」

 

 

桜香「考えられる可能性としては、逃亡先の屋上で零と居合わせたであろう怪人Sか、彼に幻魔神を倒され、昨夜姿を現した幻魔達のどちらかか……何れにしても早く救出に向かうべきなのでしょうけど……肝心の居場所が分からないのでは……」

 

 

ドール「んー、それもなんですが、皆さんもそろそろ睡眠の一つでも取ったらどーです?目の下、隈出来てますやん」

 

 

なごみ「睡眠不足は乙女の天敵の肌荒れの元ですよ。昨夜の戦闘での疲労がまだ残ってるでしょうし、私も一度休んだ方がいいと思いますよ」

 

 

アシェン「私はあまり睡眠を必要としないので問題はありませんが、私の数値でも皆さんの思考能力、体力が共に平均より低下を示しています。お嬢様達の言う通り、休眠を取られては?」

 

 

絢香「わ、私もそう思いますっ。皆さんフラフラだし、このままじゃ皆さんが倒れてしまいますよっ!」

 

 

ドールとなごみ、アシェンと絢香が揃って休むように薦めるのも当然だ。姫達はホテルでの一件から一度も休む事もなく作業を続けており、その顔にはあきらかな疲労に目の下には隈も出来ており、しっかり休眠を取った絢香となごみ、睡眠を余り必要としないドールとアシェンならともかく、このままでは彼女達が限界が来て倒れてしまう。だが……

 

 

姫「いや、呑気に寝ている場合ではないんだ。ドール、君の調べでは、あの人造幻魔は正真正銘本物の幻魔だったのだろう?」

 

 

ドール「うん?えぇ、桜香さんが以前幻魔界から持ち帰ったというギルデンスタンさんの資料を元に調べてみましたが、あの人造幻魔の構造は資料と一致してました。造られた時期も大分昔のようですが、所々改良されたような不自然な部分が見受けられました」

 

 

桜香「……つまり何者かが、ギルデンスタンが何処かに遺してた人造幻魔を回収し改良した、ってところかしらね……人造幻魔は純粋な幻魔って訳じゃないから、幻魔神が消滅しても起動出来なくなるだけで、他の幻魔達のように消えるワケじゃない……いずれにせよ、事態は私達が思ってたよりも深刻かもしれない。何せ、またこの世界に幻魔が現れたのだから」

 

 

ギリッと、桜香は唇を強く噛み締めた。桜ノ神である姫、現代の聖者として籠手を受け継いだ桜香と紗耶香にとって、幻魔は数百年前から続く因縁の敵なのだ。それをフォーティンブラスとの決着で漸く断ち切ったと思われた矢先に再び幻魔が蘇ったとなれば、零や、自分達のあの戦いは一体なんだったのかと、やるせない気持ちになり休んでなどいられない。それに……

 

 

姫「―――それもあるが、もう一つ、懸念せねばならない事がある……怪人Sの事だ」

 

 

なごみ「怪人S……そういえば、あの方の姿は不格好でしたが、何処となく仮面ライダーに近い外見をしていたような気がしますね。もしやお二方の他にもライダーが?」

 

 

紗耶香「いや、そんな筈はない。この神社に残されていた伝承にも、聖者は二人しか存在しないと書き記されていた……のだが……」

 

 

桜香「……ドールに見せてもらった記録映像を見たけど、所々の外見や雰囲気は鬼王と龍玉に酷似してたし、それに昨夜捕まえたあの黒い馬……桜ノ神、貴女は何か知ってるような口ぶりだったけど、そろそろどういう事か教えてもらえるかしら?」

 

 

姫「…………」

 

 

何か知っているか?という遠回しな質問ではなく、知っている事を教えろという直接的な桜香の問い。恐らく彼女自身、既に怪人Sの正体について何か気付いている節があるのだろうが、まだ確かな確証が持てずにいるのだろう。一同の視線が集まる中、瞳を伏せる姫は暫くの沈黙の後、その口を開き言葉を紡いだ。

 

 

姫「怪人Sが、何処でアレを見付けたのか、誰が変身してるのかは知らない……だがあの聖者――ライダーについては、私も良く知っている」

 

 

絢香「え……じゃあ、あの怪人Sが変身していたのは、やはり聖者……?」

 

 

姫「その一基であることに違いはないが、鬼王や龍玉とは根本的に違う。アレは――」

 

 

姫の顔が少しばかり曇る。不可解な現実を目の当たりにして、有り得ない事実を認められないように、徐にその口を開いた。

 

 

姫「―――アレは人間には絶対に使えないハズの……桜ノ神専用に造られた聖者……ライダーシステムなのだから」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

零「――――ぅ……っ……?」

 

 

その頃、怪人Sとその仲間に不意を突かれて囚われた零は、重たい瞼を開き漸く目を覚ましていた。

 

 

零(……此処……は……)

 

 

朧げな意識の中、視線のみを動かして現在地を確かめようと周りを見回していくと、周りの風景に何となく見覚えがあった。

 

 

零(航空機……ヘリの……中か……?)

 

 

元の世界で局員として働いていた頃に、任務等で良く乗っていた大型ヘリと構造と壁の質が良く似ている気がする。だがあくまで気がするというだけなので実際は違うのかもしれないが、そもそも何故自分がこんな所に?と、状況が全く理解出来ず脳内を疑問符で埋め尽くし、とにかく立ち上がり自分が今何処にいるのか調べようとするが……

 

 

―……ジャラッ!―

 

 

零「――ッ!何っ?」

 

 

立ち上がろうとして、零は漸く今の自分がどんな状態なのか気が付いた。身体の自由が効かず上手く立ち上がれない。それに驚愕して自分の姿を見下ろせば、何やら水色の鎖のような物が身体に巻き付き拘束されていたのだ。それを見て零も余計に困惑し、取りあえず鎖を解こうと腕に力を込め身を捩らせる。すると其処へ……

 

 

―プシュウゥゥゥゥッ……―

 

 

「――漸く気が付いたようですね」

 

 

零「……ッ……!」

 

 

不意に目の前の扉が開き、その奥から数人の女達が姿を現し部屋の中へと入って来たのだ。一人は毛先が肩に僅かに掛かるぐらい伸ばした金髪の女、もう一人はショートカットの銀髪に髪止めを付けた無表情の女。そしてその二人の前に立つ、黒い長髪を左右に分けてお下げにした女が零の下に歩み寄ってきた。

 

 

零「お前は……?」

 

 

「……こうして素顔を見合わせるのは初めてですね。初めまして、ディケイド。昨夜は敵同士だったからとは言え、まともな挨拶も交わせず申し訳ありませんでした」

 

 

零「昨夜……?」

 

 

お下げの女にそう言われて一瞬頭上に疑問符を浮かべる零だが、お下げの女の瞳を見た瞬間、脳裏に昨夜の出来事の記憶が過ぎった。自分が怪人Sと戦った事、突然現れた謎の女達の襲撃に遭った事、そして今目の前に立つお下げの女の顔が昨夜垣間見た怪人Sの素顔と同じで、その女の背後にいる女達が自分を襲撃した張本人達である事を。

 

 

零「――そうか……お前が怪人Sのっ……」

 

 

「えぇ、お初にお目にかかります。魚見(うおみ)と申します。以後、お見知り置きを」

 

 

昨夜の出来事を思い出して警戒心を露わに問い掛ける零に対し、お下げの女……"魚見"は正体を包み隠そうともせずにアッサリ自分が怪人Sだと認めて小さくお辞儀をすると、背後に立つ二人の女に手の平を指した。

 

 

魚見「そしてこちらの二人は私の仲間の、ノエル・コーマット、立花折夏です」

 

 

ノエル「……ふん……」

 

 

折夏「…………」

 

 

魚見の紹介を受けたノエルは鼻を軽く鳴らしながら壁に背を付けて零からそっぽを向き、折夏は僅かに頭を下げてペこりと挨拶した。そんな二人を見据えて零は更に目付きを鋭くさせると、何もない殺風景な部屋を見回していく。

 

 

先程は昨夜の記憶が曖昧だったせいで気づけなかったが、此処は恐らく彼女達の住み処で、自分は彼女達にまんまと捕まり此処に閉じ込められていたのだろう。

 

 

そう考えながら、零は目の前の魚見を見上げて僅かながらの敵意を込めて言葉を紡いだ。

 

 

零「……律儀に自己紹介をしてくれるのは有り難いが、取りあえず、此処が何処なのか教えてもらえないか?ついでに、俺を捕らえてこんな所に閉じ込めた理由も説明してもらえると助かるんだが」

 

 

とにかく、今自分が1番に聞きたいのはこの二つだ。自分が囚われの身である事は分かったが、此処が何処で、何故彼女達は自分を殺すなり放っておくなりせずにわざわざ捕らえたりしたのか。零からの問いを受けた魚見はノエルと折夏の方を一瞥すると、再び零の方に視線を向け語り出した。

 

 

魚見「そうですね。自分の今の現状を知らないままでは、貴方も不安ででしょうから……先ずは此処が何処なのかという質問ですが、此処は私達の住居のヘリの中です。元々はノエルの実家の物なのですが、内装を改造し寝所に使っています」

 

 

零(……チッ……やっぱりそうだったか……)

 

 

魚見の返答を聞き、やはりかと零は小さく舌打ちした。昨夜にもホテルの屋上から一度目にしたが、彼女達が住居に使っているというヘリはかなりの大型のモノだった。盗みを働いた後にそんなサイズのヘリを隠すとなれば、街中には絶対に隠せないだろうし、恐らく今現在ヘリが待機しているのは桜ノ町から離れた郊外の何処かに隠れされていると考えるべきか。となれば、姫達にもきっと安易には見付けられないだろうし、彼女達の助けは期待出来ない。

 

 

魚見「それから、何故貴方を捕らえたかという二つ目の質問ですが……それに答える前にこちらから一つ、貴方に質問があります」

 

 

零「……?質問?」

 

 

魚見「はい……貴方は以前、この世界で起きた事件を解決した後、桜ノ神と共に違う世界へと旅立った筈。なのに何故再び、この世界に戻ってきたのです?」

 

 

零「!何でその事を……?」

 

 

自分がこの世界で起こった幻魔事件に直接関与した事はあの事件に関わった当事者達しか知らないことだし、並行世界云々もこの世界の住人では絢香達しか知らない筈だ。だからその事を知る魚見に目を見開き驚く零だが、魚見はそれに対しアッサリとこう告げた。

 

 

魚見「単純に今回の作戦の障害となりそうなアナタ達の事で以前の事件を調べ、アナタ方の正体を突き止めただけですよ。それより、何故またこの世界に?」

 

 

零「……ふん。何故も何も、お前達が妙な事件を起こしたせいに決まってるだろう?それで俺達が呼ばれて、六桜玉を盗んだお前達を捕まえる為にこんな事件に首を突っ込むハメになったんだ」

 

 

魚見「俺達?……もしや、桜ノ神もこの世界に?」

 

 

零「さあな……質問は一つだけなんだろう?ならこれ以上話すつもりはない」

 

 

魚見「…………」

 

 

ベラベラとこちらの情報を話す気なぞない。そもそも彼女達が自分にとって敵である事に変わりはないし、敵に捕まったからと言って仲間の事をそう安々と話すほど腐ってるつもりはない。その意味を込めて魚見を睨み付けると、そんな零を見た魚見は薄く息を吐いてやれやれと首を振った。

 

 

魚見「仕方ありませんね……二つ目の質問の返答ですが、貴方を捕らえたのは私個人、貴方に折り入って頼みたい事があるからです」

 

 

零「……頼み……?」

 

 

魚見「ええ、あの幻魔神を倒したという世界の破壊者としての貴方の力。それを見込んで―――私達に協力してもらえないでしょうか?」

 

 

零「……………………………………………………」

 

 

……横たわる零の目を真っすぐに見据えながら魚見がそう告げた途端、零の顔があからさまに嫌そうな表情へと変わった。例えるなら、いつの間にか部屋に湧き出た黒光りのGを初めて目の当たりにした時のような険しい顔に。

 

 

魚見「そんな顔をされると何気に傷付きますね。其処まで嫌な提案でしたか?」

 

 

零「当然だろ……逆に聞くが、お前は俺がそんな提案されて、素直に頷くような奴とでも思ったのか?」

 

 

魚見「いえ、私も別に其処まで楽観的に捉えていた訳ではありません。ですから、これからその理由を説明します」

 

 

ジト目で見上げて来る零にそう言いつつ、魚見は懐に手を伸ばして一枚の写真を零に差し出した。其処には、一つの廃ビルが写されていた。

 

 

零「……これは?」

 

 

魚見「町外れにある、今では使われてない廃ビルです。数ヶ月前から、このビルに近づいた人達が忽然と姿を消すという噂が町に流れているようでして。何でも此処から逃げ延びた人の話では、刀を持った化け物に襲われたとか……」

 

 

零「刀を持った化け物……?……ッ!まさか……?」

 

 

その特徴を聞き、零の脳裏に一つの醜い異形の姿……以前この世界に訪れた際に戦った下級幻魔の足軽の姿が過ぎるが、すぐにそれを振り払うように頭を振った。

 

 

零「いや、そんな筈ないっ。幻魔は俺達と、桜ノ神が倒したフォーティンブラスと一緒に消えた筈だっ」

 

 

魚見「……確かに、幻魔神の支配下にある幻魔達なら例外なくすべて消滅するでしょうが、あくまでそれは支配下のみの話です。この幻魔達は、恐らく幻魔神の管轄を離れた者が支配する下級幻魔達……ギルデンスタンの部下と思われます」

 

 

零「ギルデン……スタン?」

 

 

その名には聞き覚えがある。確か、自分がこの世界に転移して来る前に人造幻魔を引き連れて幻魔界とやらからこの世界に現れたという高等幻魔の名だった筈だが、そいつは絢香達が協力して倒した筈だ。

 

 

魚見「奴は以前この世界に突然現れて人々を襲い、現代の聖者の鬼王と龍王の手によって倒されました……ですが、奴はしぶとく生きながらえ、今の今まで息を殺して各地に複数の研究所を作り、以前の決戦にも姿を見せずにある物を集めていました」

 

 

零「ある物?……まさか……」

 

 

魚見「そう……奴の目的とは、全ての桜龍玉を集め、あらゆる望みを叶える桜龍を呼び出し、恐らく貴方達に倒された幻魔神……フォーティンブラスを蘇らせようとしてるのではないかと」

 

 

零「……!」

 

 

フォーティンブラスの復活。もしも本当にそうなれば、消えた幻魔達が再びこの世界に蔓延り、人々を襲い、あの地獄のような光景がまた繰り返されるという事になる。だが……

 

 

零「……話は大体分かった……だが、お前達は一体なんなんだ?何故其処まで詳しい?ギルデンスタンとやらが生きていた事も、ソイツが桜龍玉を集めて幻魔神を復活させようとしている事も……」

 

 

魚見「…………」

 

 

零「それだけじゃない……。怪盗の真似事なんてわざわざ目立つやり方で予告状を桜ノ神社に宛てて送り付けて、桜龍玉を盗んだのも何故だ?お前達は……何者だ?」

 

 

絢香達すら気付かなかった情報を知っていて、桜龍玉を盗んで、彼女達の目的は何で、一体何者なのか?何をしようとしているのか?それらが未だに分からない零は魚見を見上げて疑問を投げ掛けると、魚見は何かを考えるように静かに瞳を伏せるが、その時、今まで口を閉ざしていたノエルが語り出した。

 

 

 

 

ノエル「――私達はね……ギルデンスタンに捕まって身体を改造された、"改造人間"なのよ」

 

 

 

 

魚見「!」

 

 

零「ッ!改造人間……だって……?」

 

 

折夏「…………」

 

 

改造人間。淡々とした声でノエルがそう口にしたその言葉に、零は驚愕の表情を浮かべて絶句し、魚見も目を見開きノエルの方に振り返るが、ノエルはそんな魚見の横を通り過ぎ零の前に立った。

 

 

ノエル「まぁ、正確には、折夏と私がギルデンスタンに捕まって幻魔の血を身体に注入され、身体のあっちこっちをモルモットみたく改造されてたって感じかしらね……で、いよいよ見た目まで完全に化け物にされそうになったとこに、魚見が助けてくれたってワケよ。だからギルデンスタンの事も、奴の目的についてもそれなりに知っていたし、私達は何処にも行く宛がないから魚見に協力してる……ほら、これだけ聞ければ満足かしら、エーユー様?」

 

 

零「………………」

 

 

魚見「ノエル……貴方達のことは、そんなアッサリと話して済ませられる話では――」

 

 

ノエル「ハッ、こんな奴にこっちの事情を教えてどうなるってのよ?私達は半分幻魔になったと言っても過言じゃない化け物、コイツ等はその化け物である幻魔を叩き潰すのが目的のエーユー様方……解り合える訳無いのよ。そもそも――」

 

 

ノエルの目が、床に倒れ伏す零に向けられる。その目には、怒りと憎しみ、そして僅かながらの、哀しみが入り混じっているように見えた。

 

 

ノエル「―――こんな奴の助けを借りるなんて、まっぴらゴメンだわ……どんなに泣き叫んで助けを求めても、肝心な時に駆け付けてくれやしない、役立たずの英雄なんかにはねぇッ……!」

 

 

零「…………」

 

 

ノエルの激情が全身に突き刺さるのを、肌に感じる。零はそんなノエルを無表情のままジッと見上げると、ノエルは忌ま忌ましげに舌打ちして踵を返し部屋の扉へと向かっていく。

 

 

魚見「ノエル……」

 

 

ノエル「断るんならとっとと断って消えろ……奴とは私達の手でケリを付ける。英雄なんてチヤホヤされて祟られてるようなヒーロー様なんて、お呼びじゃないのよ……」

 

 

吐き捨てるようにそれだけ言い残すと、ノエルは部屋を後にし退室してしまう。そして残された一同は彼女が出ていった扉を暫く見つめていると、魚見が静かに溜め息を漏らし、零の方に振り向いた。

 

 

魚見「すみません……彼女自身も、貴方に当たるのは筋違いだと分かってるとは思うのですが、あの事件の当事者にこうして会うのは、貴方が初めてだったモノで……」

 

 

零「……?どういう意味だ……?」

 

 

魚見「…………」

 

 

あの事件の当事者となると、思い当たるのはやはり、あのフォーティンブラスが復活した事件の事だと思うが、今の彼女の態度にあの事件が何か関係しているのだろうか?訝しげな表情を浮かべてその意味を込めて問い返すと、魚見一度は口を閉ざして一拍置き、ゆっくりと口を開く。

 

 

魚見「―――彼女がギルデンスタンに捕まったのは、幻魔神が復活したあの日……母親の実家に遊びに来ていた彼女は、霊山から下りてきた幻魔の大群に家族を皆殺しにされて重傷を負い、怪我で動けない彼女は、そのままギルデンスタンに密かに捕まり、モルモットにされたのです」

 

 

零「ッ?!な……に……?」

 

 

魚見「無論、彼女だけではありません。幻魔神が復活したあの日に襲われた人間が死体を含めて、ギルデンスタンに誘拐されモルモットにされたようです……。奴は生粋のマッドサイエンティストですから、上手く動けば実験体の人間が大量に手に入る前回の事件は、大喜びだったでしょうね……前回の事件の裏で、奴に誘拐された人間も決して少なくはないと思われます」

 

 

零「ッ……なら……誘拐された人達はっ?」

 

 

魚見「……残念ながら……私が奴の研究所の一つを突き止めて駆け付けた時には、既にノエルと折夏のみでした」

 

 

零「……ッ……!」

 

 

ギリッ!と、魚見の言葉を聞いた零は歯を噛み締めて音を鳴らしながら床に視線を落とし、魚見はそんな零を見つめながら薄く溜息を漏らして一度折夏と目を見合わせると、再び零に目を向けた。

 

 

魚見「一先ず、考える時間を差し上げます。余り時間もないので期限は今夜まで……良く考えて、決断して下さい」

 

 

それだけ言い残し、魚見も部屋を後にして退室した。恐らく出ていったノエルを追い掛けたのだろうが、今の零に彼女達の事を考える余裕はなかった。

 

 

零(……あの事件で救えなかった被害者……しかも、俺達がフォーティンブラスを倒して事件が解決した後も、ずっと苦しめられてる人達がいた……?助けを求めて……ずっと……)

 

 

その光景が頭に浮かび上がる。訳も分からず捕まった人間達が、訳の分からない化け物に捕まって実験体にされる光景が。

 

 

生きたまま解剖されて、どんなに泣き叫んで助けを求めてもその声は届かず、同じ化け物にされ、失敗すれば死体の山に積まれて他の幻魔の餌にされる……。

 

 

そんな地獄みたいな光景も、あの事件さえなければ――もしくはあの時、自分がフォーティンブラスを倒して、姫を助けてさえいれば、或いは……

 

 

零「……クッソッ……」

 

 

そんな今更過ぎるもしもを考えて、零は自分の頭を床に打ち付け、力無くポツリとそんな声を漏らしたのであった。

 

 

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