仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
―大型ヘリ・格納庫―
大型ヘリ内の格納庫。其処には現在、魚見とノエルが魚見の籠手……無骨な鋼鉄の装甲の上に無数の札を貼付けた籠手の整備と調整を行う姿があり、作業机の上にはその為の部品の他にも奇妙な形状をしたリングと勾玉、そして勾玉を材料に造られたと思われる赤、青、緑、黄色など様々な色と形の指輪が転がっていた。
魚見「――どうでしょうか、ノエル?」
ノエル「…………駄目ね。どうやってもキャパシティを越えてしまう。これじゃ指輪を一度でも使った瞬間、コイツの力を抑え込んでる拘束具が壊れて装着者のごまかしが効かなくなるわ。指輪の件は、もう諦めるしかないかも」
魚見「そうですか……結局、次の戦いまでに指輪の力を使えるようにはなりませんでしたね……」
溜め息混じりのノエルからの報告を受けて、名残惜しそうに作業机の上の勾玉の指輪を一つ手に取る魚見。だがそれも一瞬だけであり、魚見はすぐに表情を切り替えノエルに目を向けた。
魚見「では力が使えない分は、ノエルと折夏の力を頼りに、私が頑張るしかないですね」
ノエル「そればっかりってのも、不安が残るけどね。死んだパパの……いや……今は叔父さんの会社か……そっからこのヘリと武器を幾つか取り寄せて、籠手の力をウオでも使えるように調整したりもしてるけど、それでも実際の戦力を考えると、やっぱり馬鬼を失ったのは痛手だし……」
魚見「……私が足止めを喰らったせいで、馬鬼を捕らえさせてしまったようなものですからね……ですが、その失った戦力を埋める為に彼に協力を要請したんです。幻魔神を撃退するほどの彼の力さえあれば、きっと馬鬼以上の戦力になってくれると思いますから」
ノエル「…………」
そう言って魚見の零の話題を切り出した途端、ノエルは口を閉ざして黙々と作業の手を進めていく。そんな彼女の様子を横目に、魚見は手の中で指輪を弄びながら静かに口を開いた。
魚見「やはり……まだ受け入れられませんか?彼の事」
ノエル「別に……私だって、理屈じゃ分かってんのよ……アイツを責めるのはお門違いなんだって……でも……」
魚見「……理屈では分かっていても心では、ですか……貴女の気持ちは分からなくもありませんが、現状の私達の戦力ではギルデンスタンとその戦力に敵わない事は明白ですから……」
ノエル「分かってる。だからアイツの力を借りるって事でしょ……私ももう感情的にはならないから、アンタが決めた事なら黙って従うわ」
魚見「……ありがとうございます、ノエル」
まだ納得自体はしていないのだろうが、一先ずは零をこちらに引き入れることを許してくれたノエルに礼を言いながら微笑する魚見。そして礼を受けたノエルもそんな魚見を見て照れ隠しのようにそっぽを向き軽く鼻を鳴らすと、作業を続けながら徐に口を開いた。
ノエル「でもアイツ、本当に私達に協力してくれるの?正直、全然そんな見込みないと思うんだけど」
魚見「……断られた時の事を考えて、こちらの目的やこれからの方針についてはまだ話せていませんからね。そればかりは、彼の答えを待つ以外分かりません」
ノエル「なら、もし断られたら?」
魚見「此処での記憶を全て奪って、仲間達の下に返します。……その場合、ギルデンスタンの根城へは私達のみでの突撃になりますが」
現状の戦力を考えるとそれだけは避けたいが、零の返答次第ではそれも止む無しとなるだろう。その辺りは知恵を働かせてどうにか乗り切るしかないが、問題はもう一つ……。
ノエル「でも、桜ノ神社はどう動くかよね。アイツを捕らえられて、しかも幻魔がまた現れたのを知ったとなると、間違いなく私達と幻魔の足取りを追って来るだろうけど」
魚見「私達の方は、ヘリに私の札を張り巡らせて気配を完全に遮断していますが、ギルデンスタン達の根城はすぐに発見するでしょうね。彼女達の索敵能力も優れていますから」
ノエル「そうなると連中も、こぞって来る事になるわよね……。正直個人的にはあんま気乗りしないけど、奴らを纏めて相手する事にならないならそれはそれで助かるけどさ……やっぱり、桜ノ神も一緒なのかしら」
魚見「…………」
零が再びこの世界に現れたとなると、彼と一緒に旅に出た桜ノ神もやはり戻ってきているのか。籠手の整備と調整を続けながらなんと無くそう呟くノエルだが、彼女は其処でハッとなり隣にいる魚見に目を向けると、魚見は何か思い耽るように掌の上の指輪をジッと見つめていた。
ノエル「……別に止めたいなら、構わないわよ?元々アンタは桜ノ神にバレないように動いてたわけだし。そうなっても、私達は私達でやるだけだしね」
魚見「……いいえ、貴女がそんなことを気にする必要はありません。仮にもし、彼女が戻ってきていたとしても、私は貴女達と一緒に行きます。私の仲間は、今は貴女達なんですから」
ノエル「そう言ってくれるのは有り難いけど……本当に良い訳?アンタと桜ノ神は……」
魚見「……ええ……大丈夫です」
何処か魚見を案じるような声音でノエルがそう問い掛けても、魚見は瞳を伏せて静かにそれだけ返し、指輪を作業机の上に置いて椅子から立ち上がった。
ノエル「?ウオ?」
魚見「そろそろ休みます、今夜の作戦での体力を温存させておきたいので……後は任せても宜しいですか?」
ノエル「ああ……分かった。こっちは夜までに終わらせておくわ」
魚見「はい、お願いします」
そう言いながらノエルに向けて軽く頭を下げ、格納庫を後にする魚見。そうしてノエルもそんな魚見の後ろ姿を見送ると、薄い溜め息を吐きながら作業に戻ってポツリと呟いた。
ノエル「……いつもみたく無表情の癖に、無理してんのがバレバレだっての……バカ……」
◇◆◇
―大型ヘリ・魚見用休眠スペース―
そしてその一方、ノエルと別れて格納庫を後にした魚見は、彼女が普段使用している休眠スペースの前まで戻ってきていたが、魚見は休眠スペースの扉の前で足を止め溜め息を吐いていた。
魚見(これでは、協力してくれているノエルや折夏にまともに顔向け出来ないわね。もう後戻りが出来ないところまで来てしまってるのだから……例え彼女が戻ってきていたとしても……)
胸に手を当てながら何回か深呼吸を繰り返しそう思案すると、魚見は徐に扉に手を伸ばし、扉を開けて室内に足を踏み入れようとした、その時……
零「――ぬぅ……Cカップか……実に健康的で控え目なサイズだな。まあアイツ等みたいにあざとくでかいよりはマシ……?」
魚見「………………」
零「………………」
……扉を開けた先で、魚見の青のブラジャーを両手に妙に真剣な表情でそんな事を呟いてる変態(零)と対面したのであった。そんな零を見付けた魚見は無表情のまま固まり、零も魚見に気付いて固まり、暫く互いを見つめ合った後、魚見がゆっくりとポケットから端末を取り出して……
魚見「通報します」
零「待てッ!!実に適切な対応だが待てッ!!誤解だッ!!というか此処で通報したらお前達の方もマズイだろうッ?!」
平坦な声でそう言いながら端末を操作する魚見を慌てて制止し、元のあった場所の下着入れにブラジャーを戻していく零。そんな零を見て魚見も呆れるように息を吐き、端末を懐に戻していく。
魚見「それで?どうやってあの部屋を抜け出して忍び込んだのですか?しっかり拘束して、監視に折夏も付けていた筈ですが」
零「っ……ふん、奴が呑気にいびき掻いて居眠りした隙に抜け出しただけだ……あの程度の拘束も、俺なら問題なく壊せるしな。馬鹿な女で助かったよ」
魚見「それは嘘でしょう?彼女は受け持った仕事を疎かにするような子ではありません。……大方、彼女が鎖を解いて貴方を逃がしたのでは?」
零「……仲間を疑うつもりかよ」
魚見「逆です、彼女という人間を良く知っているからこそですよ。彼女は優しい子ですから、無関係の貴方を巻き込む事を良しとしなかったのでしょう……第一彼女も並外れた実力者ですから、身近に少しでも異変が起きたなら、今頃私達に報告しに来る筈です。……何か違ってますか?」
零「……チッ……性の悪い女だな……」
最初から分かっていながら、わざわざあんな質問してきたのかと不快げに舌打ちして魚見から顔を逸らす零。だが魚見は特に気にした様子もなくお下げに纏めた髪を弄りながら、扉に背を付けて懐からあるモノ……零のライドブッカーを取り出した。
零「ッ!それは……!」
魚見「逃がして貰えたのに、わざわざ私の部屋に忍び込んで長く居座っていたとは、コレが中々見つからなかったから……ですよね?」
零「……バックルは簡単に見付けられたんだがな……やっぱりお前が持ってたか」
魚見「ええ。昨夜の戦いで、貴方がコレを武器にして使っているのをこの目で見てるので、コレさえ持ってればそちらは放っておいてもあまり危険ではないかと思いまして。流石にコレがないと、変身も出来ないでしょう?」
零「……とことん嫌らしい奴だな、お前っ」
魚見「あ……今の悔しげな顔は何かグッと来たので、ワンモアプリーズ?」
零「しかもS気質かッ?!ほんっと最悪だなお前ッ!」
ほんのり頬を上気させながら人差し指を立ててそんな所望をする魚見を見て、とことん自分とは相性が悪いと思い知りながら叫ぶ零。魚見もそんな零の反応を見て「冗談です」と微笑するが、零は絶対に冗談なんかじゃなかったと確信しながら頭を抑えて疲れたように溜め息を吐いた。
零「ああ、まあいいか……どうせ取られたモノを取り返したら、お前の所に行くつもりだったし」
魚見「……私に?」
零「まだ腑に落ちない事があるんだよ……それをお前に直接問い質したくてな」
零は不思議そうに聞き返す魚見にそう言ってベッドに腰掛け、足を組んで魚見を見据えながらポツポツと語り出した。
零「さっきのお前の説明のおかげで、あの二人がギルデンスタンとやらに改造された連中で、お前達の目的がギルデンスタンへの復讐と奴の計画を阻止しようとしている事は大体分かった……だが俺は、まだ肝心のお前自身の事を何も教えてもらっていない」
魚見「………………」
零「あの二人をギルデンスタンの下から救い出した、と言ってたな?どうやってそんな事が出来た?あんな化け物共の巣窟に、まさか偶然にも迷い込んで二人を救い出したって訳じゃあるまい……あのライダーの力か?」
魚見「……ええ。あの力がなければ、私では幻魔達と対等に戦う事なんて不可能ですから。アレは元々私が持っていた物です……それが何か?」
零「それは可笑しいな……この世界じゃ、ライダーは二人しかいないと云われているらしい……だがお前が変身したアレは、俺が良く知ってるその二人の外見と雰囲気が酷似してる部分があった……この世界の仮面ライダーは桜ノ神によって造られたらしいが、アレが元々お前が持ってた物なら、お前はアレを何処で手に入れた?いやそもそも……お前は一体何者だ?」
魚見「……私の正体を知ることが、そんなに重要ですか……?」
零「俺が困っている人間に誰彼構わず手を差し延べる善人だと思ってるなら、大間違いだ。正体も知れないような奴に無償で手を貸すほど、俺もお人良しじゃないんだよ……お前自身の事を何も話さないと言うなら、協力して欲しいって答えはNOの一点張りを通させてもらう」
魚見「………………」
やれやれというお決まりの仕草を、両手を広げてしてみせながら意地の悪い笑みを浮かべる零。そんな零を見据えながら魚見もほんの僅かにだが眉を潜めると、溜め息を吐いて顔を左右に振った。
魚見「本当に意地の悪い人……何故貴方のような人を、彼女は……」
零「……彼女……?」
魚見「いいえ、何でもありません……」
零「?」
口ではそう言って首を横に振る魚見。だがその様子は何処か、何か期待と違って失望しているようにも見え、零はそんな魚見の様子に頭上に疑問符を浮かべ首を傾げるが、魚見はもう一度深く溜め息を吐いたと共に零を見つめ返した。
魚見「――分かりました。私も、このまま仲間の命を危険に曝すような真似は出来ませんから……私の正体の一つや二つを曝して済むなら、幾らでもお話します」
零「交渉成立か……なら、話してもらえるか?お前の正体、それからあのライダーに変身する籠手の出所とか」
魚見「ええ……本当は、彼女との契約の繋がりがある貴方に教えるのは気が引けたのですが、背に腹は返られません」
観念したように溜息を吐きながらそう言うと、魚見は零にライドブッカーを投げ渡した。恐らく、これから全てを話すという意思表示なのだろう。
魚見「とは言え、貴方が何処まで私の話を信じてくれるかは分かりませんが……私は―――」
◇◆◇
―桜ノ神社―
絢香「――え……盗まれた?幻魔との決戦の時に?!」
同時刻、桜ノ神社に真姫を招いた絢香達は、怪人Sが持つ籠手の管理をしていたという彼女から話を聞いていた。因みに真姫は未だに服を口に含んだりしており、零の服はもう涎まみれで使い物にならなくなってるが、真姫は気にせずつまみ感覚で服を噛みながら言葉を紡いだ。
真姫「まあねぇ。ついこの間の君達と幻魔との決戦の、えー……『幻魔大戦』?の最中、私や他の神々の目を盗んでいつの間にか封印が解かれてたらしくてさぁ、籠手もどっかいっちゃったのよぉ。今も探しているとこなんだけど、全然見つかんなくてねぇ?いやはや参った参ったぁ♪」
紗耶香「参った参ったって……」
桜香「私達が死に物狂いで戦ってる時に何やってたんだか……アンタや他の神達もこの世界の神でしょう?なのに何にもしないで……」
真姫「ん?そりゃあ、この世界を守るのは姫ちゃんの役だからねぇ。私の役目はそんな彼女の監督役で直接世界に関与して言い訳じゃないし、私らは彼女みたくそう易々と人間の世に関わっちゃいかんのよ、これが」
姫「……度々人の世に下りては男を食い散らかしてるのは、関わってないと言えるのですかね」
真姫「あっ、それはそれ、これはこれ。どうせその後は記憶を奪ってなーんも覚えちゃいないんだし、ノープロっしょ?」
なごみ「そういう問題ではないと思いますが」
真姫のあまりの適当ぶりに呆れてしまう一同だが、当の本人である真姫は無問題だと笑ってばかりいる。そして絢香が出してくれた茶を一口飲むと、真姫は瞼を伏せながらしみじみと語り出した。
真姫「まぁ、君達が幻魔神を倒してくれた事には私も感謝してるよ。あのまま姫ちゃんがさらわれれば、私も彼女から神権を剥奪して切り捨てなきゃならなかったし。もしくは万が一、この世界が幻魔達に侵略されるようなら、私らも最後の手を使わなならんかったしね」
アシェン「?最後の手……というのは?」
真姫「ん?アレだよ、この地球上の生き物ごと幻魔達を殲滅する、ってヤツ」
『なっ……』
姫「…………」
軽い調子で笑いながらそう語る真姫だが、その内容は彼女のように笑って流せる物ではなかった。幻魔達にこの世界を侵略された時、連中ごと地球上の生物諸共滅ぼすつもりだった。そんな恐ろしいことをサラリと告げた真姫に一同も目を見開くが、姫は薄く溜め息を吐いて首を振った。
姫「やはり、上役達はアレを使うつもりでしたか……」
真姫「『神滅兵器』、ね。不死の神を殺すとなると、地球上の生物を滅ぼすほどの威力じゃなきゃ殺せないから。君達が幻魔神に敗れた時に備えて、私もソイツを動かす為に上役達に駆り出されてたんで、籠手の方を気にしてる余裕もなかったのさね」
姫「……つまり籠手が盗まれたのは、元を糾せば私の不甲斐なさが原因でもあるという事ですね……」
絢香「……姫様」
幻魔大戦での件に負い目があるから、顔を俯かせ暗い表情を浮かべる姫。そんな姫を絢香が心配そうに案じる中、ドールはそれを横目に真姫を見つめ口を開いた。
ドール「んで、肝心のその籠手を盗んだ犯人さんの目星は既に付いているのですかい、真姫さん?」
アシェン「……ふむ。籠手が盗まれたのが神界という世界なら、籠手を盗んだのは神界の神の誰かと考えるのが妥当でしょうね。何か手掛かりの一つは掴んでるのでは?」
以前の事件からそれなりに時間も経ってるのだから、既に犯人に関する足取りを何か掴めているのではないかと、ドールとアシェンが真姫を見据えてそう疑問を投げ掛けると……
真姫「え……あー……んーと……さぁ、どーだろぉ?犯人探しは私より下の神達に任せてあるから、私は全然知らないかなぁ?ウン」
絢香「………………」
紗耶香「………………」
何故か急に、真姫は歯切れが悪くなり、一同から視線を逸らしながらそう告げたのだった。そのあからさまに怪しい態度を見せる真姫に絢香達はジト目を向けていき、姫も絶対零度の眼差しで真姫を見た。
姫「上役……」
真姫「…………な、何ぞな、姫ちゃん……?」
姫「いえ……そういえば、貴女は昔から隠し事を隠すのが下手くそだったなー、というのを何故か思い出しまして……」
真姫「な、何を言うんだい姫ちゃん?!この純粋無垢、天衣無縫さを絵に描いたような私が隠し事だって?!そんな事ある訳ないじゃないのさっ!」
姫「…………上役」
真姫「はうっ!」
そのまま姫は、無言のまま真姫を見つめ続けた。全てを見透かすような姫の瞳の前に、真姫は思わず変な声を上げながらその顔にダラダラと冷や汗を浮かべていく。
姫「上役……?」
真姫「う……えぇっと……あー……だからぁ……」
なごみ「だから?」
一同の疑心に満ちた視線が真姫に一斉に突き刺さる。それを肌で感じ取った真姫は彼女達の視線から逃れるように辺りに目を泳がせていき、そして……
真姫「――あっヤッベーッ!!そろそろ日課にしてる小学生男子ウォッチングの時間だわッ!!そーいう訳だからスィーユゥーッ!!」
―バッ!!!―
姫「堂々と犯罪宣言して逃げるなァッ!!イクゼ淑女共(レディーズ)ッ!!」
『夜露死苦てよッ!!』
―ドォンッ!!!―
最早容赦無し。堂々と犯罪宣言して勢いよく逃亡した真姫を取っ捕まるべく、姫の号令と共に一同は真姫を追って一斉に飛び出していくのであった。
◇◆◇
―大型ヘリ・魚見用休眠スペース―
零「―――水ノ神?」
魚見「ええ……それが私、市杵宍姫ノ命(いつきししひめのみこと)の神名です……」
そして場所は戻り、零は魚見から彼女の本当の名……市杵宍姫ノ命(いつきししひめのみこと)の名を聞かされ、腕を組みながら訝しげな顔を浮かべていた。
零「市杵宍姫ノ命……その長ったらしく口説い名前、何処となく桜ノ神と似てるが、なんだ?アイツの遠い親戚か何かか?」
魚見「親戚というわけではありませんが……そうですね……それに近しいような仲ではありました」
零「…どういう事だ?」
何を考えてるか分からない無表情のまま天井を仰いで呟く魚見にそう聞き返すと、魚見は徐に零へと視線を向けて言葉を紡いだ。
魚見「親友だったんですよ、彼女……桜ノ神がまだ神になったばかりの頃から、私達は」
零「ッ?!親友って、お前と、アイツが……?」
魚見「意外ですか?ですが、事実です。実際私が変身に使っていたあの籠手も、元々は桜ノ神専用の物ですから……彼女と親友だったからこそ、籠手が何処に仕舞われていたのかも知っていましたから」
零「……要するに、アイツの持ち物を勝手に盗んだって事か、それは?」
魚見「それは……ご想像にお任せします」
零「………………」
一瞬歯切れが悪くなったという事は、何か後ろめたい事でもあるのか。そう考えながら零はベッドからゆっくり腰を上げると、片手をポケットに突っ込み、魚見をまっすぐ見据えた。
零「最後に一つ聞きたい。お前は何で、其処までして幻魔達と戦う?」
魚見「……償い、です」
零「償い?」
魚見「はい……肝心な時に、何もしてあげられなかった友への……です」
零「………………」
視線を落としそう語る魚見の様子は、何処となく罪悪と後悔の念が垣間見える。そんな魚見の様子から彼女が言ってる事も満更嘘ではないと悟り、零は魚見から視線を逸らして面倒そうに溜め息を吐きながら頭を掻いた。
零「まあいい。お前が何者で、あの籠手を何処で手に入れたのかも聞けたんだしな。これ以上詮索はしないでおく」
魚見「では、これで……?」
零「……ま、お前達だけで幻魔共を倒せるとは思えんしな。一応聞いておくが、桜ノ神社の連中と協力する気はないんだろう?」
魚見「ええ……本当は、桜龍玉を狙いに来る幻魔達の存在を桜ノ神社の彼女達に気付かせて、遠回しに彼女達の協力を得ようと考えていたのですが……桜ノ神が戻ってきているのだとすれば、それは避けねばなりませんから……」
零「……また何か訳ありか……仕方ない。そういう事なら、俺とお前達でやるしかないようだな……」
出来れば仲間達と合流して戦力に余裕があるようにしたかったのだが、魚見にも魚見の事情がある以上頷くしかないかと、零は薄く息を吐いて魚見に左手を差し出した。
魚見「?握手、ですか……?」
零「……何だよ、何で其処で意外そうな顔する?」
魚見「いえ……てっきり、貴方はこういう友好的な表しをするような人ではないのだと思ってたので」
零「お前も結構失礼だな……一先ず休戦を約束するってだけだ。協力はしてやるが、事件が全部解決した後にはアイツの籠手と盗んだ桜龍玉を力付くでも返してもらう。別にお前と仲良くする気もないんだ、勘違いするな」
魚見「……ああ……何だか愛想の無い人だな、と思いましたけど、もしかしたら勘違いしていたかもしれません。アレですか、もしやツンデレ?」
零「今の発言の何処にそう汲み取れる部分があったッ?!人を何処ぞの金髪女と一緒にするなッ!」
魚見「寧ろ、そういう風に受け止められる要素しかなかったというか、別に否定する必要はないと思いますよ?年下の男の子のツンデレとか、ショタ属性の私的に私得――」
零「……え"っ?」
魚見「コホンッ……いえ、何でも。こちらの話です」
何だか聞き流せない危ない台詞を聞いてしまったような気がするのだが、魚見はそう言いながら咳払いして気を取り直し、零の左手を握り返して握手を交わし微笑を浮かべた。
魚見「それでは、ギルデンスタンを倒すまでは、貴方の力をお借りします。ディケイド」
零「……何か、速まった事をしたんじゃないかって気が段々としてきたんだが……まあいい……協力するって言ってしまった訳だしな……」
先程の発言から、魚見から姫と同じ変神の片鱗を垣間見てしまい、早くも自分は速まった選択をしてしまったのではないかと軽く後悔し始めてしまう零だが、今更二言は言えないなと覚悟を決め、軽く溜め息を吐きながらも魚見の手を握る力を少しだけ強めたのであった。