仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
―桜ノ町郊外・廃ビル―
―――町外れの郊外にひっそりと佇む廃墟ビル。昔はまだこの辺りに人が住んでいた頃に大きな病院として使われてたらしいが、人がめっきりいなくなり始めてから潰れて廃墟と化したらしい。
その有様は今や幽鬼の類が出てきても可笑しくはなく、最近まで夜になれば町の若者達が足を運んで肝試しに来ていたらしいが、それも今や行方不明者の続出ですっかり人が寄り付かなくなったとのこと。
零「――正に幽霊ビルって訳か。夏場に冷えたい時にはうってつけだな……入ったらもう戻っては来れなさそうだが」
魚見『実際、この建物に足を踏み入れて戻ってこれた人は一人もいないようですから。恐らくは幻魔達に殺され、死体はそのままギルデンスタンの実験材料に使われたかと』
零「仮に俺達がドジ踏んで捕まったとなれば、そのギルデンスタンにモルモットとして使われる訳か……考えたくもないな」
時刻は深夜の12時。あれから数時間が経ち、市街地の方も建物の明かりが徐々に消え始めている中、零は無線機の向こうの魚見と喋りながら廃ビルの周囲に広がる森林に身を潜ませて、魚見から預かったファイルの記録に一通り目を通しながらギルデンスタンが根城に使っているという廃ビルを見上げていた。因みに、今此処に零の他にいるのはノエルだけであり、魚見と折夏は零達とは建物の反対方向の場所で待機してるらしい。
零「しかし、二手に別れて中に突入するとか、戦力を分散させるのはリスクがありすぎやしないか?」
魚見『そうかもしれませんが、大人数で固まって突入するとなると敵にすぐ発見されてしまう可能性があります。あちら側の戦力が分からない以上、出来るだけ戦闘を避けて、本願にまで一気に突っ切る方を目的にした方が宜しいかと』
零「短期決着か……だが、建物の中がどうなっているのかも分からんのだろう?中の構造図は昔の奴を一応貰ってあるが、正直これが何処までアテになるか分からんぞ……」
魚見『それでもないよりかはマシかと。それに桜龍玉が何処に保管されてあるのか分からない以上、建物も大きいので、二手に別れて進入し探索した方が効率的でしょうし……万が一敵に見付かった時には、どちらかが派手に陽動を起こし、その隙にギルデンスタンの下まで攻め入って桜龍玉を奪還するという作戦に移行出来ますから』
零「……俺達かお前達が囮になってその隙に頭を、か。まあそれなら全部の敵を相手にしないで済みそうで助かるが……何だって俺がコイツと二人一組なんだ……」
ノエル「…………」
溜め息混じりにそう呟いて零が背後へと振り返ると、其処には零に背中を向けてマシンガンやアサルトライフル等の銃器の弾の装填を無言のまま行うノエルの姿があり、何も言わないが、その背中からは『私に話し掛けるな』というオーラが滲み出ていた。
魚見『一応、彼女の能力的に貴方と組んだ方が相性が良いと考えたので……何か問題でも……?』
零「寧ろ問題しかない……能力的に相性が良くても、人間関係が最悪じゃなんの安心も出来ん。下手したら後ろから撃たれ兼ねんぞ、俺が」
ノエルは自分に対して余り快い感情を抱いていない。このまま二人きりで敵地に乗り込んだとしても、戦いになった瞬間に、後ろからまたいきなり敵ごとロケットランチャーの一発や二発を撃ち込まれるのではないかと心配でならない。その意味と込めて溜め息混じりに告げる零だが、無線機の向こうの魚見はそれを否定した。
魚見『貴方が思っている程、彼女は貴方を恨んではいませんよ。ただ、そう……貴方という人を良くは知らないから、自分の中での先入観が先立って、貴方にきつく当たってしまっただけですから』
零「……それでも、アイツが俺に何かしら恨みを抱いてても可笑しくはないだろ。アイツが家族を失ったのも、改造人間にされたのも、俺達に力が足りなかったせいでもある……アイツ等が幻魔に捕まって苦しんでいた事だって、俺は微塵も知らなかったしな……」
魚見『……それを言うなら、神なんて人知外の存在でありながら、彼女達を元の人間に戻してあげられない私はもっと無力になってしまいますよ?貴方達が必死に幻魔神と戦ってる時にも、私は何も出来ませんでしたし……』
零「…………」
魚見『人というのは、案外話せば解り合えるものです。その人がどういう人間か、分からないし、知らないから、周りの声で自分の中で勝手な人物像を形作ってしまう……その人が本当はどんな人間か、話して知れれれば全部ではなくても、悪人ではない限り気が合うかもしれません』
零「……まるで自分もそうだった、みたいな口ぶりだな」
魚見『ふふ……彼女と契約しているなら知っていると思いますが、他の神を心底嫌っていた昔の桜ノ神とも、そうやって和解したものですからね……人生の先輩からのアドバイスという奴です』
零「……まさかとは思うが、俺とコイツを組ませたのはそれが目的か?」
魚見『さぁ?どうでしょうね。……そろそろ作戦開始時刻なので、私はこの辺で。ご武運を』
あからさまにわざとらしい口調のその言葉を最後に、魚見からの通信が切れた。そして零は通信が途絶えた無線機を耳から外しジト目で無線機を睨みつけると、小さく溜め息を吐きながら無線機を仕舞いノエルの方へと振り返った。
零「もうすぐ作戦開始時刻だそうだ……どうする?」
ノエル「……決まってるでしょ……私達も突入よ」
―カチャッ……!―
感情を押し殺したかのような淡々とした返事と共に、ハンドガンの冷たい撃鉄の音が暗闇の森に響き渡る。そうして、ノエルは整備を行った武器をすべて担いでズカズカと零を置いてビルへと進んでいき、零はそんなノエルの背中を見てやれやれと溜め息を漏らすと、ノエルの後を追い掛け歩き出していくのだった。
◇◆◇
―廃ビル・通路―
割れた窓を通り、ビルの中へと入り込む零とノエル。侵入は思ってたより安易く、少しばかり拍子抜けしてしまいながらも警戒心は緩めず、ライトを持つノエルを先頭に暗がりの通路を慎重に進んでいく。
零「……幻魔達は現れないんだな……てっきり、建物の中を徘徊して回ってるんじゃないかと思ったんだが」
ノエル「ザラ警備も良い所ね。幻魔を造るのは一丁前でもこういうとこは適当で敵の侵入を許すだなんて、笑えたもんだわ」
零「…………」
ライトで通路の先を照らしながら進んで一応は返事を返してくれるノエルだが、その声はやはり淡々としていてそっけない。その予想通りの反応に再び溜め息を吐きながらも、零はノエルの背中を見つめて徐に口を開いた。
零「そういえば一つ、聞き損なったんだが……お前、この戦いが終わった後はどうする気なんだ?」
ノエル「……何よ急に」
零「いや、単純にギルデンスタンとの因縁を着けて、それからお前等がどうするつもりなのか気になっただけだ。……親戚の所にでも行くのか?」
確かノエルは両親と母方の親族を先の戦いで失ったと言っていたが、他に親族はいるんじゃないだろうか?それならギルデンスタンと決着を付けた後はその親族に会いに行くのだろうかと気になり問い掛ける零だが、それに対しノエルは鼻を鳴らして否定した。
ノエル「まさか……こんな化け物みたいな身体にされて、今更帰れる訳ないじゃないの……そもそも私の家すら、もうない訳だし」
零「……は……?」
もう自分の家はない。なんでもないようにそう告げたノエルの言葉に耳を疑って思わず聞き返すと、ノエルは曲がり角の先に誰かいないか確認しながら先に進み、話を続けた。
ノエル「取られたのよ……私の家もパパの会社も叔父に……うちって、ちょっと有名な軍事企業でね。休日にママの実家がある日本に遊びに来て、其処でこの間の事件に巻き込まれてパパとママ、私も死んだのだと思われていたから、叔父が倒産し掛けてたうちの会社を掌握したの。で、晴れて叔父は会社の社長、私の家も叔父とその家族に取られたってワケ……」
零「……お前が改造人間にされて捕まってる間に、か……」
ノエル「……久方ぶりに国に帰って、家の前で呆然としたわ。私がいない間に、私が知ってる家の風景じゃなくなっていて……本当に何もかも失ったんだって、そう自覚した途端、目の前が真っ白になった……絶望感って、ああいうのを言うのかしらね」
零「…………」
掛ける言葉が見付からず、零は口を閉ざしノエルから視線を逸らしてしまった。彼女がギルデンスタンの下でモルモットのように扱われていた中、叔父によって父親の会社と家を奪われ、帰ってきた彼女に居場所はなかった。その時に彼女が感じた絶望など、自分には想像し難い。
ノエル「それから日本から戻ってきた私を見て、叔父はわざとらしく喜びながら一緒に暮らさないかなんて言ってきたけど……あの男が前々からパパの事を疎んでたのを知っていたから、そんなのは願い下げだって断って、あのヘリと武器を幾つか貰って日本に戻ってきたってわけ」
零「……ギルデンスタンに復讐する為に、か?」
ノエル「それ以外になにがある?私にはもうそれしか残されていない……こんな身体にされて、もう普通の人間のように生きられる筈がない……だったらせめて、アイツだけでもっ……」
零「…………」
もう普通の人間として生きられないのなら、せめて、こんな事になってしまった全ての元凶である幻魔達とギルデンスタンを倒し仇を撃つしか生きる希望はないのだと、憎しみの篭った目付きへと変わりながらそう語るノエル。そしてそんなノエルから憎しみの念をひしひしと感じ取った零は何かを考え込むように顔を俯かせた後、ノエルの背中を再び見据え、足を止めた。
零「――俺は、お前と似たような境遇の奴を……いや、お前のように、異形の力を持ってしまった奴らを、良く知ってる」
ノエル「…………?」
不意に突然そう語り出した零の言葉を聞き、ノエルは思わず頭上に疑問符を浮かべながら立ち止まって背後へと振り返り、零はそんなノエルの目を真っすぐ見つめ返しながら言葉を続けた。
零「そいつらは皆、お前のように体を改造されて異形にされたり、異能の力を手に入れて、辛く厳しい戦いに巻き込まれて徐々に人間ではなくなって行ったり、既に人間でなかったり……それぞれ苦悩を抱えてた。そういう奴らを、俺は幾つもの世界を巡って、この瞳で何人も見てきた」
ノエル「…………」
零「一見すると、ソイツ等も化け物である事に違いはない。実際、ソイツ等の中には人間から疎まれたり、人類の敵と呼ばれた奴らもいた……だがソイツ等には、人を襲う化け物とは違う、決定的な違いがあった」
ノエル「……違い?」
思わずそう聞き返すノエル。人を襲う化け物と、異形の存在になってしまったというその人達の違いというのが、彼女にとって他人事のように思えなかったのかもしれない。そんなノエルの疑問に対し、零は懐からライドブッカーを取り出すと、ライドブッカーを開きディケイドのカードを取り出しながらポツリと答えた。
零「人間としての心、って奴だ……例え自分が人間でなくなって、周りから化け物と恐れられようとも、それでも守りたいモノがあった。ソイツ等はただ、それだけの理由で、自分と同じ力を持った怪物と戦い続けて来た」
ノエル「……何かを守る為に、ね……じゃ、私はその人達みたくはなれないわ。命を張って守りたいものだなんて、私にはもう――」
零「別に、ソイツ等みたく生きろとは言わんさ。ただ、お前にも憶えてて欲しいだけだ……お前の言う化け物になって、自分の存在に悩みながら、それでも尚今も愚直なまでに戦い続けている……アイツ等の事を」
ノエル「…………」
零「今の自分に、悲観的になるなとは言わない、何かを恨むなとも言わない……ただ……」
其処まで言い掛けて、零は少しだけ次の言葉を紡ぐのを躊躇してしまう。彼女を救えなかった自分に、この言葉を口にする資格はあるのかと。だが誰かが言わねば、彼女はずっとこのままかもしれない。そう考え、零は瞳を伏せて一拍置いた後、瞼を開き真剣な眼差しをノエルに向けた。
零「……ただ、それだけで終わらないで欲しい、とは思う。自分が人間じゃないから、もう未来はないんだと……そう思って、其処から立ち上がる事を、諦めないで欲しい」
ノエル「…………」
多くの大切なものを失った彼女の心の闇を、果たして晴らす事が出来るのか、それは分からない。
だがそれでも、どんな形にしろ、あの事件から生き残った彼女には、生きていて欲しいと思う。
彼女の境遇を考えれば酷な願いでしかないだろうが、それでも……あの丘の上の慰霊碑に名を刻まれた死者達のような犠牲者を、これ以上出したくはない。
ノエル「――無責任な男ね。幻魔を倒す以外、生きる希望を何かも失った私に、これ以上生き続けろってこと……?」
零「……そうだな。何時もの俺らしくもない、自分でも驚くほど身勝手な事を言っているとは思ってる……それでも……」
ノエル「…………」
それでもそれが自分の本心なのだと、その意を込めて零は無言のままノエルの目を見つめていく。それに対しノエルも零の視線を正面から見つめ返すが、すぐに瞳を伏せながら零に背中を向けて再び歩き出していき、そんなノエルの背中を見て零も薄く溜め息を吐いて彼女の後を追った。
零(まあ、俺が言っても何の説得力もないか。肝心な時に何もしてやれなかったような奴から言われても、余計に嫌悪感を……「……ねぇ」……ん?)
やはり自分が何を言っても届くハズがないかと、零がそう考えていた中、不意にノエルの方から声を掛けてきた。その声に釣られる様に零がノエルの方に視線を向けると、ノエルは歩みを進めながら僅かにこちらに顔を向けている。
ノエル「……さっきアンタが、幾つもの世界を巡って見てきたっていう人達の事だけど……その人達って、何て呼ばれてるの?」
零「?……その世界によっては呼び名も色々変わって来るが……どれも全部一括して、仮面ライダーと呼ばれてる」
ノエル「……kamen rider、か……キャメンライダー……いや、カァメンライダァー……?」
零「……?」
言い慣れぬ様子で、何度も仮面ライダーの名前を呟くノエル。そんなノエルの姿に零も不思議そうに見つめ怪訝な表情を浮かべるが、ノエルもそんな零を他所に納得が行かなそうな表情で何度も何度も仮面ライダーの名を繰り返し呟いていくと徐々に正しい発音に近付いていき、漸く納得が行く発音を言えるようになったのか、コクりと小さく頷いた。
ノエル「――仮面ライダー……ね……うん……まぁ、一応その名前は、頭の隅にでも入れておく」
零「!お前……」
ノエル「……別に、アンタの言う事を全部聞き入れた訳じゃない。ただ別世界でも私みたいな目にあって、それでも挫けず戦い続けている奴らがいるって聞いて……私だけ負けるのは何かイヤだなって、そう思っただけ……」
髪で横顔を隠しながらそう言うと、ノエルは再び前を向いてそのまま無言となり先へと進んでいく。そしてそんなノエルを見つめて零も僅かに目を見開いたまま驚くも、全部ではないが、彼女の心境に少しだけ変化を与えられたのだと考えて微笑し、ノエルの後を追い歩く速度を速めていくのであった。