仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT   作:風人Ⅱ

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番外編/桜龍玉と新たな神⑨(後編)

 

―廃ビル・七階フロア―

 

 

魚見「――そうですか……あの人がそんな事を……」

 

 

姫「……その後の君の行方についても彼女から聞いたよ。桜ノ神ではない君でも変身が出来るように、上役が手を加えた籠手を使って神界から脱走し、ごまかしごまかしで何とか籠手の力を使い続けながらギルデンスタンの研究所を破壊して回って、二人の改造人間を救い出した事も」

 

 

魚見「…………」

 

 

姫「だが本当は、君だって分かってたんだろ?彼女が君を利用するだけ利用して、事が全て終わっても他の上役達から君を庇うつもりなんてないと……神界に戻れば、今度こそ君の神権を剥奪され兼ねないんだぞ。そうなれば……」

 

 

魚見「…………」

 

 

神権を奪われた神がどんな末路を辿る事になるのか。それを知っているからか、姫は最後までその事を語らず思い詰めた顔を俯かせながら深刻な雰囲気を漂わせる。そしてそんな姫の顔を見た魚見も気まずげに顔を逸らすと、姫に治療された左腕を右手で掴み、強く握り締めた。

 

 

魚見「それでも、構わないと思いました……先の事件で、保身派が自分達の身を優先したせいで貴女を見捨てるコトになって、貴女を傷付けて……しかも全ての責任を貴女にだけ押し付けて追放だなんて……そんな理不尽な処罰を下した保身派達の下に従い続ける事が、どうしても我慢が出来なかった……」

 

 

姫「……それは当然の罰だ。私は守り神でありながら他世界の神に敗れ、世界を破滅の危機に追い込んで、大勢の犠牲を出してしまった……守り神としての役目を全う出来なかったのに、追放だけでもまだ足りないぐらいだろう」

 

 

魚見「っ……!貴女一人の力では幻魔神に太刀打ち出来ない事を、上役達は承知済みでしたっ!なのに助けを出そうともせずっ、ただ自分達だけが助かればそれで良いと、神滅兵器を起動させて貴女と世界ごと幻魔神達を葬ろうとしたっ……そんな横暴が……許されて良い筈がないじゃないですか……」

 

 

姫「…………」

 

 

そう言ってボロボロの左手で右腕を掴み、影で表情を隠しながら悔しそうに語る魚見のその言葉を聞いて、姫は魚見が抱いている感情……保身を優先した上役達に対する憤慨と失望を読み取れた。

 

 

恐らくそれもまた、黄泉の亡者達を甦らせて幻魔神と戦おうとした事や、神界からの脱獄に思い立った原因でもあるのだろう。

 

 

実際上役達が助けを寄越してくれさえすれば、幻魔に殺された街の人々も死なずに済んだのかもしれないのだから。

 

 

姫「―――君の気持ちは分からないでもない……禁忌を犯してまで、私を助けてくれようとしていたという君のその気持ちも、素直に言えば嬉しいと思う……」

 

 

零(……咲夜……)

 

 

魚見「…………」

 

 

魚見は口を閉ざし何も答えない。そんな彼女に対して姫は素直に自分の気持ちを口にしていき、そんな二人の今までの話を離れて聞いていた零はうなだれる姫の背中を見つめる目を僅かに細めると、うなだれていた姫がふと顔を上げて魚見の顔を力強く見据えた。

 

 

姫「だが……私は君のそのやり方を、肯定する訳にはいかない」

 

 

魚見「……っ……」

 

 

姫「追放された身である私が言える立場じゃないが……罪人とは言え、その罪を償う為に地獄にいた魂達を、君の都合で連れ出して甦らせようとした事も、怪盗騒ぎで街を騒がさせた事も……許される事じゃない。私達は腐っても世界を守る存在だ。だからこそ、神界や桜ノ町の平穏を乱した君のやり方を、私は認める訳にはいかない」

 

 

魚見「……保身派達の横暴も……貴女は認めると言うのですか……」

 

 

姫「そうは言っていない!私はもう良いんだ!今の私には私にしか出来ない役目があるから……!だが君が度し難いと言うその上役達に、私と君は命を握られているも同然なんだっ!下手に逆らった所で、待ってるのは神権の剥奪による消滅だけなんだぞっ!」

 

 

魚見「……それに関しては、貴女の上役が持ち掛けた取り引きに乗った時点で、既に覚悟を決めました……それにどうせ、私は自分の意志で水ノ神になった訳ではありませんから……迷う要素もありませんでしたし……」

 

 

姫「っ……それはっ……」

 

 

零「……?自分の意志で神になった訳じゃない?」

 

 

それはつまり、魚見は彼女の意志とは無関係に誰かによって水ノ神にさせられたという事なのか?彼女達の話を聞いていた零が思わずそう問うと、姫は零達の方を一瞥して言うべきか悩むような素振りを見せた後、俯く魚見を見つめながら口を開いた。

 

 

姫「彼女が水ノ神になった経緯は、神になる事を自分から承諾した私や他の神々と違ってな。彼女は元々、現世で命を落としてしまい他の死者達と共に黄泉の国に送られる筈だった、ただの人間にしか過ぎなかったんだ……」

 

 

魚見「………」

 

 

姫「だが、先代の水ノ神が彼女の中の水ノ神に神化出来る素質を見抜き、彼女に自分の神権を継承して死亡した……というのが表向きの事情なんだが、実際にはそうじゃない……先代は、何も知らない彼女に無理矢理自分の神権を押し付けたんだ。過酷な水ノ神の運命から、逃れる為に……」

 

 

零「……過酷な運命?」

 

 

魚見「……水ノ神は、文字通り水を司る神の事を差すのですが、その本質は別にあります……現世で死んでしまった死者達が、黄泉の国への道筋を迷わないように案内し、三途の川を行き来して黄泉へと送り届け、そして、黄泉に送り届けた死者達の末路を最期まで見届けなければならない……水ノ神であり続ける限り、永遠に」

 

 

ドール「死者達を黄泉へと送り届ける神……要するに、魚見さんは一種の死神ってことですかい?」

 

 

魚見「……ええ、その認識で間違いはありません」

 

 

零「…………」

 

 

顎に人差し指を当てて何となしにドールがそう問い掛けると、魚見は僅かに嫌そうな顔で目を逸らしながら淡々と答えた。そして零はその一瞬の仕種を見逃さず目を細めると、隣に座っているドールの頭を掴んで徐に立ち上がった。『あぁんッ!』なんてわざとらしい声が返ってきたが、それを無視して二人に向けて口を開く。

 

 

零「だが、何故それが過酷なんだ?聞いてる限りじゃ、ただ単に死者達を黄泉の国とやらに送り届けるだけの簡単な仕事に聞こえるが……」

 

 

姫「……そうだな。話だけでは分かりづらいが、彼女は普段その役職からあの世にいた……私も一度彼女に会いに其処に行ったことがあるのだが、彼処に足を踏み入れた瞬間、心が可笑しくなりそうになったよ……生命の息吹が一切感じられない、瘴気に満ちた『死』しか存在しない黄泉の世界……『死』が当たり前で、生きてる自分の方が不自然に思える、恐ろしく冷たい世界だった……」

 

 

魚見「……あの世は完全に『生命』という物を拒む死の世界ですからね。最低限の耐性が備わる水ノ神ならともかく、それ以外の者が踏み込めば忽ち死の瘴気に心を蝕まれていってしまう……神であろうと関係ない……生きているという感覚が鈍麻して、死への衝動に駆られてしまうんです」

 

 

なごみ「……成る程、過酷とはそういう意味ですか。例え耐性があっても、そんな陰気な世界に十年も百年も居続ければ精神が病んでいってしまう。死にたいと思っても、自分は神だから死ぬ事は出来ない。だから他人にその苦しみを押し付けて、楽になりたいと思う……先代の水ノ神は、大方そういった理由で魚見さんに自分の神権を押し付けたのでしょうね」

 

 

生を一切感じられない死の世界との繋がりを、永遠に持ち続けなければならない。

 

 

最初からその覚悟を持って神になったならともかく、何も知らずにただその苦しみを押し付けられただけの人間が、そんな過酷な運命に耐えられるとは思えない。

 

 

本当なら新たな生を得て、ただ普通の人間として来世を生きられた筈なのにそれも叶わず、死者達が次の生を得る姿をただ見ている事しか出来ない。

 

 

……確かに過酷としか言いようがない。本人がどんなに死にたいと思っていてもそれは出来ず、その苦しみから逃れるには誰かにその運命を押し付けるしかないのだから。

 

 

魚見「―――ですが私は、先代のように誰かにこの苦しみを押し付けて自分だけ楽になるなんて出来ない……その苦しみは、私自身が一番良く知っていますから……」

 

 

零「…………」

 

 

魚見「死ぬ事も叶わず、心が壊れていくぐらいなら、いっそ自分から壊れてしまった方が楽かもしれない……貴女に出会うまでは、ずっとそう思い続けていたんですよ……桜ノ神」

 

 

姫「……魚見……」

 

 

何処か儚げな笑みを向けてそう語る魚見の言葉に姫は複雑げな顔を浮かべ、魚見はそんな姫から視線を外し右腕の籠手を見下ろした。

 

 

魚見「まだ貴女が桜ノ神になったばかりの頃……自分以外の神を毛嫌いしていた貴女の教育係を任せられて、貴女と数え切れないほど衝突していく内に、いつの間にか貴女と掛け替えのない友人になって……希望を失っていた私に、もう一度生き続けたいという想いを抱かせてくれた……だからこそ、そんな貴女達が決死の想いで救ったこの世界を、ギルデンスタンと蘇った幻魔神達から守りたかった……貴女への、償いとして……」

 

 

姫「……そう思うのなら、どうして桜ノ神社に助けを求めなかったんだ?彼女達の力を借りれば―――」

 

 

真姫「―――出来る筈ないじゃーん、そんなの」

 

 

緊張感のない飄々とした声が真横から響いた。それに釣られて一同が声がした方に振り向くと、布団に包められ縛られた真姫が床に寝っ転がったまま姫達に語り掛けて来ていた。

 

 

真姫「だって先の事件の際、他の神々は保身派の指示とはいえ神滅兵器で君達と世界ごと幻魔神を亡ぼそうとした訳よう?まあ彼女は君を助けに向かおうとしていたけど、結果だけ見れば君達を見捨てたも同然だ。そんな奴が、どの面下げて助けを乞えるのさ?言える訳ないじゃん、ねー?」

 

 

魚見「…………」

 

 

零「お前はちょっと空気を読んで黙ってろ諸悪の根源。余計に話がややこしくなる」

 

 

真姫「あら、やだっ、イケメンに黙ってろって罵られたっ。ちょっと濡れたっ。いやん!もっと言ってぶるごあああああっ?!」

 

 

まるで陸に上がった魚の様に跳び跳ねながら自重しない台詞を吐こうとした真姫の額に目掛けて、なごみと姫が近くに落ちてた適当な破片をブン投げてクリーンヒットさせ黙らせていった。

 

 

魚見「……彼女の言う通りです……私には、先の事件の当事者達である貴女達に合わせる顔がなかった……だから怪盗騒ぎを起こして、遠回しに彼女達の協力を……いえ、彼女達を利用しようとしました……幻魔達が狙う桜龍玉を持つ私達を彼女達に追跡させ、幻魔の生き残りの存在を気付かせようとしましたが、貴女が戻って来てるかもしれないと知って……」

 

 

ドール「ふーむ……姫さんを巻き込めないからと急遽予定を変更して、姫さんにノコノコ付いてきていた零さんを取っ捕まえて協力を要請した、と?そりゃまた遠回しな気遣いっつーか、回りくどいっつーか……」

 

 

なごみ「不器用過ぎますね。まるで零さんみたいです」

 

 

零「誰がぶきっちょだっ。此処まで酷くはないわっ」

 

 

ドール「ええ、貴方の場合は不器用な上にタチが悪いですしね、隠し事するし。確かにこの程度の酷さではない」

 

 

零「ぐっ……!」

 

 

反論した途端にドールに図星を突かれてしまい、思わず押し黙ってしまう零。そしてそんな彼等のやり取りを他所に、魚見は顔を俯かせたまま……

 

 

魚見「ギルデンスタン達を倒してこの件が終わった後、神界に戻ってから、咎はきちんと受けるつもりです……例え神権を奪われて、地獄に堕とされても……」

 

 

姫「ッ!馬鹿を言うなっ!それでは君が……君だって、ギルデンスタンの目的を阻止する為に動いていたんだっ!それを上役達に伝えてどうにか……!」

 

 

魚見「それだけで、籠手を盗んだ事と脱走の件が許される筈がありません。貴女の言う通り、私は秩序を乱す行いをしてきました……それだけの事をしてきたと自覚していますし、言い逃れをするつもりもない……」

 

 

姫「魚見っ……!」

 

 

零「…………」

 

 

上役達に逆らって幻魔神と戦う為に大勢の亡者達を甦らせようとした事に始め、真姫の誘いに乗って籠手の力を使い脱走し、桜ノ町も怪盗騒ぎで騒がせた。

 

 

それらが罪だと分かっていながら、それでも親友への償いと、親友とその仲間が守ったこの世界を自分なりに守りたかった。

 

 

だから言い逃れはしない、罰は全て甘んじて受けると告げる魚見だが、それでは結局姫に友を失った悲しみを与えるだけだ。

 

 

それで残される者達にどれ程の悲しみを植え付ける事になるのか分かっているのか。それとも分かっていながら、仕方のない事だと受け入れてしまってるのか。

 

 

零(……チッ……めんどくさい奴だな……)

 

 

その光景……魚見を失った姫が泣き崩れて自分を責め立てる姿が脳裏を過ぎり、零は内心舌打ちして魚見を横目に見つめながら溜め息を吐くと、気怠げな足取りで真姫の下へと歩み寄った。

 

 

零「……おい、実際の所はどうなんだ?今回の事件を解決しても、あの女は神界に戻ってから上役達とやらに裁かれるのか?」

 

 

真姫「ん?んー、まあその可能性は高いかもねぇー。保身派達のあの頭の固さは筋金入りだし、自分達に逆らった奴はそう簡単にゃー許さんだろうさ。従わない奴をみすみす生かしておくほど生易しい連中でもないし」

 

 

零「それを知っていながらアイツを逃がしたわけか、とんでもない女だな。……なら、ギルデンスタンを倒しただけじゃあの女は処罰を免れないのか?」

 

 

真姫「なくはないが、確実じゃないだろうね。籠手を盗んで脱走しなければならなかった程の大事で、あの頑固者共の上役達を揃って納得させられるような大層な大義名分でもあれば話は別だけどさ」

 

 

零「…………」

 

 

つまり、ギルデンスタンの計画を止めたという結果は交渉の材料として使える訳だが、それだけでは魚見の処罰を軽減させるには至らない。ならばもっと、その保身派の連中が話を聞いただけで背筋を凍らせ、逆に魚見を行かせて良かったと思わせるような理由を付け加えればと、思考を必死に駆け巡らせ、一つの結論に至った零はスッと目を細めながら真姫を見据えてこう告げた。

 

 

零「――なら、こんなのはどうだ?『ディケイド……黒月零が桜ノ神を問い詰めて桜龍玉の存在を強引に聞き出し、桜龍玉を独占しようとこの世界に再び戻ってきた』……とかな」

 

 

姫「っ?!」

 

 

魚見「なっ……」

 

 

真姫「……ほう?」

 

 

腕を組みながら人差し指を立ててそんな提案し出した零の言葉を聞き、姫と魚見が驚愕の様子を浮かべ勢いよく零の方へと振り返る。そしてそんな零の提案を聞いた真姫は興味深そうに目を細めてニヤリと笑うと、呆然としていた姫が正気に戻り慌てて零に駆け寄った。

 

 

姫「ばっ、何を言っているんだ零っ?!君は――!!」

 

 

零「それなら、大義名分としても通用するだろ?話を聞いた限りじゃ、どうやらお前等の上役達は俺の事を危険視しているようだしな……俺がそんな暴挙の為にまたこの世界に戻ってきて、しかもギルデンスタンが桜龍玉で幻魔神を復活させようとしていたと聞けば、それを早急に阻止する為にあの女を向かわせたのだと言っても鵜呑みにするかもしれん」

 

 

真姫「……成る程……君と幻魔の両陣が桜龍玉を独占しようとしているとなれば、それは確かに大事だ……でもそれだと、何故そんな大事な事を報告しなかったんだって私が責められるかもしんないんだけど?」

 

 

零「其処までは知るか……適当にお前が報告し忘れたとでもホラを吹いとけばいいだろ」

 

 

真姫「本当に適当だなぁ。……でもいいのかい?そうなると君は上役達の顰蹙を買い、完全に連中から敵視される事になるけど?」

 

 

零「……ふん。中途半端に敵視されるぐらいなら、いっそ思いっきり嫌われた方が楽だろう。そんな連中に好かれたいとも思わんし、寧ろ清々する」

 

 

姫「勝手に話を進めるんじゃないっ!待って下さい上役っ!彼の言う事は真に受けな、むぐっ?!」

 

 

人を無視して勝手に話を進める零の前に出て今の話をなかった事にしようとする姫だが、零がそれを阻むように後ろから手を回して姫の口を塞ぎ、真姫を睨み付けながら淡々と告げる。

 

 

零「水ノ神は桜ノ神と協力して幻魔神を復活させようとしたギルデンスタン達を倒し、同じく桜龍玉を独占しようとした黒月零を叩き伏せて奴を止めた……そう伝えておけ。それで連中が潰しに来るなら、こっちも容赦はしないから覚悟しておけ、ってな」

 

 

真姫「……良いねぇー……そういう無謀な馬鹿は私も嫌いじゃないよ♪」

 

 

―バリイィッ!!―

 

 

人をおちょくるような笑みを浮かべながらそう言うと、真姫は自身を縛り付けていた布団と縄を内側から破裂させて拘束を解いた。それを見た一同は目を見開き驚くも、それを他所に真姫はゆっくりと立ち上がり首の骨を鳴らした。

 

 

真姫「ふぃー……んじゃあ、君や水ノ神の事は上役達にそう伝えておくよ。それなら私の首も飛ばずに済みそうだし。ただ、きちんと自分の目で今回の件を最後まで見届けないと報告は出来ないから、離れた場所で高見の見物をさせてもらうよ?スィーユー♪」

 

 

姫「ぶはぁっ!ま、待って下さいっ!上役っ!!」

 

 

呑気な調子で一同に向けて手を振りながら転移を開始した真姫。それを止めようと零の手を強引に振り払い真姫を止めようとするが、真姫はそのまま転移し何処かへと消えてしまったのであった。

 

 

姫「っ……零っ、どうしてあんな事を言ったんだっ!君はっ―ビシィッ!―あいたっ?!」

 

 

自分が何をしたか分かっているのか。零に詰め寄ってそう言い切る前に、零が姫の額にデコピンし黙らせてしまう。

 

 

零「皆まで言うな。安心しろ、その保身派達とやらと敵対する事になってもお前やなのは達とは無関係だ……出来る限り巻き込まないように努力するから、心配すんな」

 

 

姫「ッ!そういう問題じゃないっ!分かってるのかっ?!君が敵に回そうとしているのは神々なんだぞっ?!なのに君という奴は……「……何故、ですか……」……っ!」

 

 

神界の神々を敵に回す事になるかもしれないのに悠然とした態度を取る零に姫が詰め寄って怒鳴るが、その様子を見ていた魚見が呆然とした様子でポツリとそんな声を漏らし、零達の視線が魚見へと集まった。

 

 

魚見「どうして……私には、貴方が其処までして庇う価値なんてありません……!」

 

 

零「…………」

 

 

魚見「上役達の意向に反抗して、大勢の罪人達を私の独断で甦らせようとして、漸く平穏を取り戻した町を再び騒がせて……裁かれるに値する罪を幾つも犯してきました!なら……!」

 

 

零「……チッ……お前、自惚れるのもいい加減にしておけよ……?」

 

 

魚見「……え……?」

 

 

其処までして庇ってもらう価値は自分にはない。胸に手を当てて必死にそう訴え掛ける魚見だが、舌打ちしながらそう告げた零の言葉に呆然となり、零は突然の自分の発言に戸惑う姫の方を一瞥すると、もう一度舌打ちしながらそんな魚見に向けて淡々と語り出した。

 

 

零「お前が自分の罪を自分で償おうとするのはお前の勝手だがな……そんな押し付けがましい償いなんぞ、こっちからしてみれば良い迷惑なんだよ」

 

 

魚見「っ……」

 

 

零「それとも何か?本当はお前が水ノ神としての運命から逃げたいのが本音で、建前として親友への償いって形で死にたいのか?あぁ……確かにその方が綺麗な死に方だろうしなぁ?感動の涙でも流して欲しいのか?」

 

 

魚見「っ……!そんな、つもりは……」

 

 

姫「おい、零っ!」

 

 

冷たい態度で淡々と魚見を責めるように語る零に、姫が前に飛び出して咎めた。そして零はそんな姫の顔をジッと見つめた後、視線を逸らしながら再び溜め息を吐き、姫の横を素通りして歩き出した。

 

 

なごみ「?何処へ行く気ですか?」

 

 

零「……屋上に戻るんだよ。海道の奴が邪魔しに来ているし、恐らくまだギルデンスタン達と戦ってるかもしれんが、桜龍を呼び出された以上、既に願いを言われてフォーティンブラスの奴が甦って――」

 

 

いるかもしれない、と言い掛けて、零は其処で背後に振り返り、うなだれる魚見を気遣うような目を向けて佇む姫の様子に気付いた。それで魚見が気になって仕方がないのだと感じ取れた零はめんどくさそうに密かに息を吐くと、ポリポリと血で固まった前髪を掻いて背中を向けた。

 

 

零「木ノ花……お前は此処になごみ達と一緒に残れ。屋上には俺が向かう」

 

 

姫「ッ……!いや、だが君一人じゃっ……!」

 

 

ドール「敵は腐っても神様なんですし、一人で挑むのは無謀なのでは?なんでしたら私がパートゥナァーに!」

 

 

零「お前がついて来たら、此処の守りが木ノ花となごみだけになるだろうが……二人だけじゃ万が一の時、幻魔達に襲われた時に対処出来ん」

 

 

姫「だから、私が……!」

 

 

零「今のお前が付いて来ても戦いの邪魔になるだけだ……付いて来るなら、その原因を片付けてから来い。いいな?」

 

 

姫「……っ……」

 

 

魚見に視線だけ向けて念を押すように告げる零の態度から、彼が自分を気遣ってくれている事に気付いたのか、一拍を置いて深く悩むように俯いた後、コクりと小さく頷き返す姫。そしてそれを見て零も他の一同に気付かれないように小さく頷き屋上に向かうべく歩き出そうとするが、そんな零の隣になごみが無言のまま付いてきた。

 

 

零「……!なごみ?」

 

 

なごみ「基本何でもアリなドールさんが一人居れば、此処は安全でしょう。私達が零さんを手伝います」

 

 

零「なっ……駄目だ!相手は規格外の化け物なんだぞ!お前も此処に――!」

 

 

マジカルルビー『ノープログラム♪いざという時は私が全面的になごみさんをサポート致しますから、心配はご無用ですよー♪』

 

 

なごみ「ピンチになった時は零さんを囮にして逃げる覚悟ですので、どうぞお気になさらず。いないモノと思って頂いても構いませんよ」

 

 

零「……はぁ……分かった……そのスタンスを貫くつもりなら、俺ももう何も言わん」

 

 

逃げ際をしっかりと心得ているのなら、利口な彼女は自分が心配せずとも大丈夫だろうと半ば諦めたように息を吐く零。そしてなごみと一緒に屋上に向かおうと歩き出し、魚見の前を通り過ぎようとした際、魚見にしか聞こえないような小さな声で零が口を開いた。

 

 

零「……本気でアイツの為を思うんなら、お前の償いとやらでアイツを傷付けるような真似するな。お前が死んだ後、残されたアイツが何を想うかも考えろ……」

 

 

魚見「……っ……!」

 

 

その声に釣られて、魚見はバッと勢いよく顔を上げた。しかし零となごみは既に走り出してとっくにその姿は遠ざかっており、魚見が何処となく思い詰めた顔で零達の後ろ姿を見送る中、そんな彼女の横顔を離れて見つめていたドールはやれやれと首を振っていた。

 

 

ドール(これで彼女も罪を償う為に死ぬ、なんて覚悟に迷いが生じるでしょうが、どうしてあんなやり方と言い方しか出来ないのやら……)

 

 

相変わらずの零の不器用っぷりに溜め息を吐きながらそう考えると、ドールは腰の後ろからモゾモゾとあるモノ……隙を見て魚見から掏った籠手を取り出した。

 

 

ドール(んまあ、私は私で彼女達が再起した時に備えますかねぇ。lt's 魔改造ー!マジかマジでマジだよショーターイム!)

 

 

ジャキンッ!と、心の中で無駄にテンションを上げながら懐から愛用の工具箱を取り出すと、ドールはそのまま無言の姫と魚見に背を向けて何かの作業を黙々と開始していくのであった。

 

 

 

 

 

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