仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT   作:風人Ⅱ

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番外編/男達の戦……い?

 

 

 

 

 

――――それはある日、彼の友人である提督からの一つの相談事から始まった……。

 

 

 

 

 

―機動六課・黒月零の自室―

 

 

零「……は?お偉いさん達との接待で食事会?」

 

 

 

まだ機動六課が設立して間もない頃。後見人となってくれた友人達の助力もあって、漸くはやてが数年の月を掛けて立ち上げた六課の発足が叶い、より一層意気込むなのは達と共に自分でも珍しく思うほど気合いを入れようとしていた零の下にそんな話を持ち込んだのは、六課設立の後見人の一人であり、零の友人でもあるクロノ・ハラオウンだった。

 

 

クロノ『あぁ、まぁ……実は六課設立の際に出資を快く引き受けてくれた方々からそういった話があってな……某所のレストランで食事の場を設ける事になってしまって、その内の一人として零、君が指名されているんだ……』

 

 

零「……?何で俺だ?部隊長のはやてやお前と同じ後見人のカリム達ならともかく、俺と会って話して向こうに何のメリットがある?」

 

 

零の疑問も最もだ。はやて達のような重要な役職の人間ならともかくとして、たかだか一局員にしか過ぎない零と会った所で何か意味があるとも思えないし、向こうが自分を指名してきた意図も検討が付かない。もしや、何か新しい陰謀論か……?などと、あまりに予想が付かないばかりに素っ頓狂な考えまで過ぎり訝しげな顔で珈琲を啜る零だが、モニターの向こうのクロノは何処か歯切れの悪い様子でその疑問に答えた。

 

 

クロノ『まぁ、何というかな……実は、向こうは君やなのは達のファンでもあるらしいんだ……それで僕が、君達の友人である事を知った向こうからの要望で、一度君と会って話をしてみたいという話になってしまってな……。まぁ、そういう話の流れもあってか、どうにか機動六課への投資の話を円滑に進められた訳なんだが……」

 

 

零「ああ……あぁ成る程……ようするに金の為に俺を売った訳か、お前」

 

 

クロノ『ひ、人聞きの悪い事を言うなっ!!僕は別に、君をそんな風に利用しようだ事なんて思った事は一度もっ―――!!』

 

 

零「冗談だ、冗談……まぁ、俺は六課の設立に関して何も手伝えなかった訳だしな……そういった交渉事の場で少しでも役立てたのなら、俺も少しは力になれたんだと思えて気が楽になるし、それに関しちゃ別にいい」

 

 

クロノ『それは……いやしかし、そのつもりがなかったとは言え、勝手に君を交渉の材料に使ってしまった事は謝る。すまなかったな……』

 

 

零「気にするなよ、俺とお前の仲だろう」

 

 

思えば、クロノにもこちらに来てから度々世話になっていながらその借りを返す機会も中々なかった訳だし、少しでもそれを返す事が出来たのなら願ったり叶ったりだと、瞼を伏せて微笑しながら戯けるように肩を竦める零。クロノもそんな零の言葉に思わず砕けた笑みを浮かべながらも、直後に何故か困ったように眉を下げ、

 

 

クロノ『それでまぁ、どうだろうか……?出来れば今夜辺りにでも、と向こうから連絡も来ているんだが……今日の夜、予定は空けられそうか?』

 

 

零「?また急だな……まぁ、発足し立てとあって、今の所まだ俺にはそんなに仕事も回って来てはいないし、このままのペースなら丁度定時に終われるだろうから、俺は別に構わんが……」

 

 

クロノ『助かるっ……あっ、それと実はもう一つ、君に頼みがあるんだが……』

 

 

零「……頼み?」

 

 

何だ、今日のクロノはやけに頼み事が多いなと不思議がりながらも零がそう聞き返すと、クロノは何処か切羽詰まった様子で声を潜めつつ、

 

 

クロノ『その……実は、その接待に誰かもう一人連れて行きたいと思ってるんだ……出来れば同姓で、なんだが……そういう奴に誰か、心当たりとかないかっ……?』

 

 

零「……?ないか、と急に言われてもな……というか、同姓がどうとか何の話だ?ただの接待じゃないのか?」

 

 

クロノ『それ、は……まぁ、それに関しては追々話すとして、だっ……。誰でもいいんだっ!役職とか、この際局員でなくても別にいいっ!出来ればこうっ、人当たりも良く、気遣いの出来るみたいな、そういう奴を……!』

 

 

零「?」

 

 

何だろうか、らしくもなく身振り手振り使ってまるで訴え掛けるように問い詰めて来るクロノの勢いに圧倒されてしまい、眉間に皺を寄せて困惑を露わにしながら思わず身じろぐ零だが、それでも一応何処か鬼気迫るクロノの形相に圧されるがままにクロノの言う条件に当て嵌まる人物を頭の中で探していき……

 

 

零「……ああ……そういえば、ユーノの奴が今日は休暇を取ってる、みたいな話をなのは達から聞いたぞ?何でも明日無限書庫で大規模な探索をするらしいから、その準備の為に今日一日休んだとか何とか……」

 

 

クロノ『それだっ……!ユーノならきっと及第点に違いないっ!これならきっとっ――!』

 

 

零「……及第点……?」

 

 

クロノ『ッ!あ、いや、何でもないんだ、何でもっ……。とにかく!ユーノには僕の方から連絡しておくから、君も向こうに失礼がないようにちゃんとした正装で来てくれっ!場所は○○時に、○○ホテルの最上階に在る天望レストランだ……!この件はなのは達にも内密にっ!頼んだぞっ!』

 

 

零「お、おい、ちょっ……!」

 

 

プツンッ!と、やはり切羽詰まった様子で口早にそう切り上げ、思わず引き止めようとした零の静止の声を聞かずに一方的に通信を切ってしまうクロノ。そして、後に一人残された零はクロノを呼び止めようとして中途半端に右手を伸ばした態勢のまま暫し固まった後、その手で額を抑えて深々と溜息を漏らした。

 

 

零「何なんだ一体っ……というかアイツ、あんな人の話を聞かないようなキャラだったかっ……?」

 

 

いや……少なくとも、自分の記憶の中のクロノはあんなキャラではなかったような気がするのだが、最近になってキャラチェンジでもしたのだろうか?と首を傾げながら疑問げな表情を浮かべる零だが、その時、零の端末に局内の局員からの通信が入り、不意を突いたタイミングに若干慌ててつつも気を取り直し、通信を開いた。

 

 

『あ、黒月さん?少しよろしいですか?実は、今すぐちょっと確認を取って頂きたい資料がありまして……』

 

 

零「あぁ、もしかしてさっき聞かされた奴か?分かった……今から向かうから、少し待っていてくれ」

 

 

『分かりました。では、お待ちしておりますね』

 

 

と、その後も一言二言局員と会話を交わした後に通信を切り、椅子に掛けておいた上着を手に取って羽織りながら、頭の片隅で先程のクロノからの頼まれ事を考える。

 

 

零(しかし結局、接待の内容自体は教えれなかったが、というか何でなのは達に秘密なんて……まぁ、行ってみてアイツから直接聞いた方が早いか)

 

 

どうせ待ち合わせ場所で顔を突き合せるだろうしと、あまりその事を深く考えもせず「そう言えば、スーツなんかまだあったか……?」などと別の心配をしながら部屋を出ていく零。

 

 

 

 

 

 

……だがこの時、今からでももう一度クロノに連絡してその内容を問い質しておけばと、零は後になってから酷く後悔した。

 

 

そうすれば、あんな"惨劇"は起こらなかったのに―――と。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

―○○ビル・天望レストラン―

 

 

―――クラナガン都内に在る、とある高層ビル最上階の高級レストラン。そのビルの天望からは、ロマンチックなクラナガンの夜景を一望でき、更に出される料理も全て三ツ星レベルの高級の一品揃いと、某料理本でもオススメに選ばれる程の有名店でもある。そんな場所で……

 

 

 

 

 

 

「―――えと……は、はじめまして!私、航空武装隊に所属しております、ディクソン・アーデンの娘の、マリー・アーデン三等空尉です!で、こっちが……」

 

 

「あ、り、陸士隊に所属してます……!リリアン・ベルレルトの娘の、リリー・ベルレルト三等陸尉です……!本日は、宜しくお願いします……!」

 

 

「どうも!同じく陸士隊に所属してまーす!ロベルト・ワイナーの娘の、シェリー・ワイナー三等陸尉です!今日は宜しくお願いしますねー♪」

 

 

零「………………………………………………………………………………………………………………」

 

 

 

 

……お偉いさん方との食事会と聞いてきっちりスーツ姿の正装に身を包んで来た零は何故か、同じく正装姿のクロノとユーノと共に見知らぬ美女達の前に訳も分からず呆然と立たされており、そんな零を他所に、クロノは一度軽い咳払いした後に爽やかな笑みで前に出た。

 

 

クロノ「ええ、こちらこそ、本日は宜しくお願いします。クロノ・ハラオウンと申します。それで、こちらの二人が……」

 

 

ユーノ「えーと……ユ、ユーノ・スクライアです。本日はどうぞ、宜しくっ……」

 

 

零「……………………………………………………黒月零一等空尉だ「敬語っ……!」……一等空尉です……宜しく……」

 

 

「「「きゃあああああぁぁぁぁーーーー……!!!」」」と、三人が自己紹介を終えると共に、女性陣の間で湧く黄色い悲鳴。その光景を前にクロノとユーノも思わず苦笑いを浮かべる中、自己紹介中にクロノに注意されてより一層渋い表情を浮かべていた零がクロノの腕を強く引っ張り、半ば強引にユーノ達に背中を向けるように背後に振り返って小声で叫んだ。

 

 

零(おいっ……おいどういう事なんだコレはっ……!!!聞いてた話と全く違うぞ一体これの何処が接待だっ……?!!アレがお前の言ってた出資者達だってのかっ?!!どう見ても違うだろうアレか、浮気かぁっ!!!エイミィや子供達がいながら何やっとんだ説明しろクロノォオオオオオオオオッッッ!!!!)

 

 

クロノ(お、落ち着けっ……!!違うっ!!いや、出資者と言うのはあながち間違いでもないんだっ……!!)

 

 

零(ああッ?!)

 

 

日々の多忙さのあまり遂にトチ狂って浮気にでも走るつもりかと思い、マジギレ寸前で怒鳴る零を必死に宥めるクロノ。そんなクロノの言葉に零も僅かに怒りが和らいで頭上に疑問符を浮かべると、クロノはユーノと楽しげに語らう女性達の方を見つめながら小声で説明していく。

 

 

クロノ(さっきの彼女達の自己紹介の際、幾つか名前が出ただろう……?その人達こそ、六課設立の為の出資を快く引き受けてくれた名門家の方々……つまり彼女達は、その出資者達の娘のご令嬢という事だ……)

 

 

零(ご令嬢ってっ、それなら尚更可笑しいだろうっ……!何故に出資者達本人じゃなくてその娘達が出てくるんだ……!会いたいと言っていたのは出資者達の方じゃな―――まさかっ……?)

 

 

其処で何かを察したのか、零が険しく眉を寄せてクロノの顔を見つめると、クロノの方も困ったように眉を下げながら嘆息と共に頷き返した。

 

 

クロノ(その出資者達が君や僕に会いたいと言う話になったのは、彼等のご令嬢達が僕達の事を良くご存知だったからと言うか……まぁようするにファンという事から、其処からトントン拍子に色々と話を進められたと言うかな……で、その人達の要望で、僕や君に娘達の為に会ってもらえないかとこの場を設けられてね……)

 

 

零(……ようするに金持ちの道楽とただの親バカって事じゃないのかそれ……)

 

 

クロノ(そういう言い方をするなっ……!少なくとも前提として、はやてや僕達の考えに共感してくれた上で出資を快く引き受けてくれたんだ……。ならこちらも引き受けれられる向こうからの要望には応えていかなくては、ご令嬢達の心象を悪くしたばかりに援助を断たれた上に、漸く発足した六課の活動に支障が出るとあっては、折角のはやて達の意気込みに水を刺す羽目になるだろっ……)

 

 

零(今正に、六課の発進に気合いを入れていた俺が水を刺されてる最中にあるんだがそれは……)

 

 

クロノ(どうせ君のソレは今じゃなくても明日か明後日には平常運転に戻ってるだろうから要らぬ心配だ……。長く続いた試しも無いしな)

 

 

零(おう喧嘩売ってんのかテメェっ)

 

 

人をまるで三日坊主みたく言いやがるクロノに思わず顔を引き攣らせて抗議する零だが、その時、二人の背後からスカイブルーのセミロングヘアーの女性と、紅色のボブヘアーの女性……マリーとシェリーが話し掛けた。

 

 

マリー「あの……お二人共、どうかしましたか?」

 

 

クロノ「ッ!い、いえ、お気になさらず!そのっ……彼はこういう場に慣れてはいないようなので、皆さんの前で失礼がないように最低限のマナーを教えていただけで……!」

 

 

零「おいっ、なにサラッと人のこと礼儀知らずみたいな―ドゴォッ!―ごふぅっ!?」

 

 

クロノのフォローに思わず異を唱えようとするも、マリー達に笑顔を向けたままクロノが放った高速肘打ちを脇腹に打ち込まれて黙殺させられてしまう零。そしてそんな密かなやり取りが行わられてるとも露知らず、シェリーは手を振りながら「気にしないで」と笑った。

 

 

シェリー「私達も父さん達から後から聞かされたクチですから、そういうのは気にしなくても大丈夫ですよ。元々、私達の父さん達が勝手に決めた事ですし」

 

 

マリー「でも、その……スミマセンっ。皆さん大事な時期でお忙しいでしょうし、最初は断ろうかとも思ったんですけど、こちらから頼んでおきながら断るのも、それはそれで失礼だろうと思いまして……」

 

 

クロノ「いいえ、お気になさらず。そのお心遣いだけでも十分ですよ。それに、皆さんが我々の事をご存知で居てくれたのも、個人的には嬉しく思いますし」

 

 

シェリー「それはもう!PT事件や闇の書事件の事は勿論、それ以降の皆さんのご活躍も聞いてます!特にこの娘とか、黒月さんが解決した事件が載った雑誌や新聞の切り抜きとかしててー♪」

 

 

マリー「ちょっ?!や、止めてよシェリーっ!ご本人の前でそんなっ……!!///」

 

 

零「ぐぅううううっ……!」

 

 

まるでからかうようにマリーの両肩に手を置き、彼女が零のファンであると本人を前に暴露するシェリーにマリーは顔を真っ赤にして慌てふためき、零の方を何度もチラ見して気にするが、零の方は未だクロノに肘を叩き込まれた脇腹を抑え悶絶している為に全く会話を聞いておらず、そうこうしている間にも何やら一人リリーと話し込んで盛り上がっていたユーノがウェイトレスに話し掛けれ、四人に声を掛けた。

 

 

ユーノ「クロノ、零、席に案内してくれるって。そろそろ行こうか?」

 

 

クロノ「あ、あぁっ。ほら零っ、君もしっかり歩けっ、何時までそうしてるっ……!」

 

 

零「誰のせいだと思ってやがるっ……!クソッ、よりによって打ち所の悪いとこに叩き込みおってっ……」

 

 

マリー「あ、あの、大丈夫ですかっ?」

 

 

零「エッ?あ、あぁ、別にこれぐらいどうという事はない「敬語っ……!」……デス」

 

 

と、クロノに注意されたりマリーに気遣われつつも零は他の面々と共に案内に付いていき、男性陣と女性陣で向かい合う形でホール中央付近のテーブルの席に着いていく。

 

 

因みに席順は、テーブルの右端からユーノとリリー、クロノとシェリー、零とマリーと一対一で対面になるように座り、席に着いたクロノは再び小声で隣に座る零に話し掛けていく。

 

 

クロノ(取りあえず、この場は印象良く乗り切れればいい……。下手な事を言ったばかりに怒って帰らせた挙句に出資者達の心象を悪くし、さっき言ったように機動六課の活動に支障を来たすなんて最悪な展開は絶対に回避するぞっ……!)

 

 

零(……まさかこんな形で六課の今後について肩に背負う事になるとは思わなかったがな……というか、ユーノはこの事について知ってるのか……?)

 

 

クロノ(当たり前だろう……ユーノには特に詳細を伝えて、話の流れが停滞した時には出来るだけ場を盛り上げて欲しいと頼んである……)

 

 

零(成る程、サポートに関しちゃ右に出る者はいないユーノにこそ相応しい重要ポジだ……堅物のお前やこういう場に疎い俺じゃとても務められないな……)

 

 

クロノ(あぁ、全くだ……君と二人だけで名門家のご令嬢達と会うだなんて、自殺行為も甚だしいからな……やはりユーノを呼んでおいて正解だったよ……)

 

 

リリー「へぇ、じゃあユーノさんは、そういった経緯で今の司書長の職に?」

 

 

ユーノ「はい、最初の頃は色々と勝手が分からなくて悪戦苦闘してましたけど、今はもう何とか板に付いて来てっ……。まぁ、元々考古学の関係で本が好きだったから、其処まで苦にはならなかった、と言うのもありますけど」

 

 

零(あぁ、実に大した采配だ、流石提督……因みに聞くが、エイミィにはこの事を何か伝えてたりとかしてるのか……?)

 

 

クロノ(いや、接待とは言え、流石に異性と食事をしてくるとは伝え辛くてな……お偉方と食事をしてくるとだけは伝えてあるが……)

 

 

零(まるで浮気男の謳い文句みたいだな、オイ)

 

 

クロノ(誤解を招く言い方するなっ!というか君の方こそっ、此処に来る前になのは達に何か余計な事を言ったりしてないだろうなっ?!)

 

 

零(?フェイトはともかく、何でなのは達が出てくるのか分からんが……まぁ心配はないだろう。何故か知らないが、なのはとフェイトは先に上がってていつの間にかいなくなってたし、はやての方は部隊長室に篭って作業をしていた事しか分からなかったが……)

 

 

クロノ(そ、そうか……まぁ、その辺りの心配がないだけまだマシだな……この食事会を成功さえすれば、後はどうとでもなるだろうし……)

 

 

などと二人でヒソヒソと小声で話している間にも、ユーノはマリー達を相手に話を回して場を盛り上げてくれており、零とクロノもそんなユーノの若者向けのトークスキルの高さに感心している中、不意にマリーが何処か目を輝かせながら零に質問していく。

 

 

マリー「あ、あの、黒月さんって確か、高町なのはさんやフェイト・T・ハラオウンさん達と一緒に八神はやてさんが立ち上げた部隊に配属なされたんですよね?」

 

 

零「え……あぁ、もしかして機動六課の事か「敬語」……ですかっ」

 

 

マリー「はい!あの、その……先程シェリーも言っていたんですけど、私、黒月さんや高町さん達に憧れてて……航空武装隊に志願したのも、皆さんのような、強くて、凄くて、素敵な魔導師になりたいと思ったからなんです……」

 

 

零「あ、あぁ……そうなのか―――ですか……?」

 

 

マリー「はい!だから、その、まだお話でしか聞いた事がないんですけど、PT事件や闇の書事件を解決した皆さんがまた揃うと聞いて、皆さんを応援してきた私的にもとてつもないビックニュースと言うか!本当に私事みたいに嬉しくて!皆さんのご活躍に今からもう期待で一杯で!」

 

 

零「は、はぁ……」

 

 

やけに熱の篭った口調で興奮気味にそう語りながら、何やら身を乗り出し兼ねなそうな勢いのマリーに圧されながらも相槌ちを打つ零。そしてマリーも、そんな零の引き具合を見てハッと我に返って慌てふためき、顔から湯気が立ち上らんばかりに赤くなって俯いてしまう。

 

 

マリー「ス、スミマセンっ……私ったらはしたなく、声荒げたりしてっ……/// ひ、引きましたよ、ね……?」

 

 

零「……いや……まぁ、確かに少し驚きこそはしたけれども……其処まで俺達の事を応援してくれてると言うのは、有り難い……です」

 

 

マリー「え?」

 

 

零「いや、その……正直に言うと、そういう風に周りから言ってもらえるのはこれまでもありましたが、あまり実感というモノは感じた事がなかったと言うか……アイツ等は勿論、俺もただ、今までこの目で目の当たりにして来たような惨劇を、二度と起こしたくは無いと思って、ただ突っ走って来ましたから……」

 

 

マリー「…………」

 

 

零「その点で言えば、高町やハラオウン、八神達は確かに賞賛されて然るべき事を成してきました……それは今回の機動六課の発足をきっかけに、もっと多くの人達を救っていくでしょうが……俺が出来る事なんてたかが知れてると言うか……正直、アイツ等はともかく、俺が周囲から持ち上げられるような事を言われるのは違和感が――「そんなことありません!!」……え?」

 

 

マリー「黒月さんは、十分それだけのことをして来てます!だって私、ちゃんと見てますもん!高山のダムが決壊して、大規模な洪水が起きた時に村の方々の避難が完了するまで一人で食い止めたこととか、とある次元世界の町で暴走して暴れ回るロストロギアを相手に民間人に被害が出ないように一人で挑んで、満身創痍になったこととか!他にも沢山!」

 

 

零「…………」

 

 

マリー「えと……ですから、そんな風に自分を卑下しないで下さい!そんな黒月さんの姿に憧れて、元気付けられている人がいるのは確かなんですし……私も、その一人なんですから……」

 

 

そう言って、哀しげに顔を伏せるマリー。そんな彼女の熱弁と勢いに一瞬呆気に取られていた零だったが、直後、せきを切ったように吹き出しながら顔を逸らし、必死に笑いを噛み殺そうとする。

 

 

マリー「ちょっ、な、何で其処で笑うんですか?!私は真剣に……!」

 

 

零「ふっ、くくっ……いやっ、失敬……俺の事をそんな必死に言ってくれる奴は、高町達や隣にいる二人ぐらいしかいなかったもので、少し驚いて、つい……ふ、くくくっ……!」

 

 

マリー「あう……」

 

 

余程ツボにハマったのか、必死に笑いを堪えようとしても堪え切れずに笑い声が口から溢れる零に対し、絶対に可笑しな子だと思われたと恥ずかしげに縮こまるマリー。そしてその後、零は軽く深呼吸を繰り返し、どうにか落ち着きを取り戻して気を取り直すように咳払いした。

 

 

零「ンンッ、失礼……しかし、そう思ってくれているというのは本当に有り難いです……アーデン女史にも……」

 

 

マリー「……マリー……」

 

 

零「……は?」

 

 

マリー「マリーって、呼び捨てで呼んでくれませんか……?私は黒月さんよりも階級も下ですし、そんな風に呼ばれるほど、私自身も大した人間じゃありませんから……出来れば、あの……お互いに、名前で呼び合えたらと言うか……いい、ですかっ……?」

 

 

零「は、はぁ……では、マリー……っと?」

 

 

マリー「は、はい!えっと……れ、零さん……えへへへっ……///」

 

 

零「っ?」

 

 

クロノ(嗚呼……また君という奴は、全くっ……これではフェイトにバレた時、僕まで小言を言われるハメになるじゃないかっ……!)

 

 

シェリー「クロノさん、クロノさん!じゃあ、奥さんへのプロポーズの言葉ってどんな感じだったんですか?」

 

 

クロノ「……え?あ、あぁ、それは、何というか、そのっ―――」

 

 

名前を呼び、呼ばれて本当に嬉しそうに微笑むマリーと、そんなマリーの様子に怪訝な表情で首を傾げる零を横目で見て、よりにもよって恐れてた事態になってしまったと内心戦々恐々としていたクロノにシェリーが興味津々にエイミィとのプロポーズの時の話を質問攻めしていき、そんな二人を横目に零も一先ず一息吐こうとテーブルの上の飲み物が入ったグラスを手に取ろうとして……

 

 

 

 

 

 

―…………ゾワァアアアアッッッ!!!!!―

 

 

零「………………………………………………………………えっ?」

 

 

 

 

 

 

……その時、何故か不意に背筋が凍り付くような寒気が走り、その震え上がるような感覚に零も思わずグラスを持つ手の動きを止めて固まってしまい、忙しなく辺りを見回していく。

 

 

クロノ(……?零?どうしたんだ?)

 

 

零(いや……何だろうな……何か突然、寒気というか……身に覚えのある殺気を感じたというか……)

 

 

クロノ(はあっ……?脅かしっ子は無しだぞっ、ただでさえ知り合いに見られでもして誤解されたら困ると言うのに……)

 

 

零(……そう、だな……悪い、多分俺も疲れてるのかもしれないな……。全く、機動六課も今からこれからだというのに……)

 

 

この調子じゃ機動六課が本格始動する際には身体が持たないんじゃないかと溜め息を吐き、今の寒気にも似た殺気は恐らく気のせいだろうと気を取り直した零はグラスの中の飲み物を一口飲み、何となしにマリーから目を逸らしてその背後に目をやり、

 

 

 

 

 

――――その先に、『地獄』は在った。

 

 

 

 

 

零(…………………………………………………………クロノ……クロ、クロククッ、クククククククロノっ、クロっ、クロっ、クロっ……!黒介ぇええっ!!!)

 

 

クロノ(痛っ!痛っ、ちょ、痛いっ!何だ急にっ?!というか誰が黒介だっ!)

 

 

零(そんなのどうだっていいだろうっ!!アレ、ア、アレ……アレっ……!!)

 

 

クロノ(アレっ?)

 

 

何だ突然?、と急に顔色を変えてドスドスと肘で突っついて来る零のただならぬ様子に困惑しながらも、零が必死に視線を向けろと促す方に目を向けると、其処には……

 

 

 

 

 

 

 

 

―カチャッ、カチャッ、カチャッ……―

 

 

なのは「…………」

 

 

エイミィ「…………」

 

 

フェイト「…………」

 

 

はやて「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――零達が座るテーブルから少し離れた場所に位置する、窓際の席……。其処には何故か、それぞれに合った色合いのドレスを身に纏い、正に絶対零度と呼ぶに相応しいオーラを放ちながら黙々とフォークとナイフを動かして食事するなのは、フェイト、はやて、そして、クロノの妻であるエイミィの姿があったのだった。

 

 

クロノ(ッッッッ!!!!!?ば、馬鹿なっ……エ、エイミィにフェイト、だとっ……!!!!?し、しかもなのはにはやてまでな、なぜ、何故此処にっ……!!!!?)

 

 

零(俺が知るかぁっ!!!さてはお前っ、エイミィにバレるようなヘマして此処に来やがったなっ!!!?)

 

 

クロノ(そんな訳あるかっ!!!!僕はそんなヘマしていないっ!!!!そういう君こそっ、あの三人の内の誰かにこの食事会の事を悟られたりして、って…………あ…………)

 

 

零(……「あ……」?おい、「あ……」って何だ、「あ……」ってっ……?)

 

 

クロノ(……いや……そ、そういえばこの前、エイミィが母さんから何処かのレストランの食事券を貰ったと言って、機動六課の設立記念になのは達の日頃の労いも兼ねて食事会に誘う、みたいな話をしてた気が……)

 

 

零(……おい……おいちょっと待てお前……その食事券って、まさかっ……)

 

 

クロノ(…………その…………恐らく、この○○レストランの食事券だったんじゃないか、と………………)

 

 

零(馬鹿かお前えェええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!!)

 

 

零、大絶叫。ただし小声でなので他の面々に気付かれぬまま、片手で顔を覆うクロノに向けて叫び続ける。ただし小声で。

 

 

零(何でよりにもよってそんな重要なこと忘れてんだテメェエエッ!!!!しかも同じ日、同じ時間のこのレストランの食事会の場でバッタリとか天文学数値的レベルの偶然とかそんなチャチなもんじゃねえぞぉおおッ!!!!笑いの神にでも愛されてんのかお前ぇええッ!!!!)

 

 

クロノ(そんなはた迷惑な神様になんか愛されてたまるかぁあッ!!!!いやっ、確かにうっかり忘れていた僕の責任ではあるがっ、何でよりにもよってこんな時に鉢合わせなんてっ……!!!!)

 

 

零(それよりもどうすんだ提督っ……!!!!アレ完全にこっちに気付いてんぞっ……!!!!気付いた上でのあの氷河級のレベルの空気だぞっ……!!!!さっきの殺気は気のせいなんかじゃなかったんだどうしてくれるんだこの状況ォオオッ!!!!)

 

 

クロノ(お、おち、おおおおおおおお落ち着けっっ……!!!!こんな時こそ冷静にっ、落ち着いて対処するだっ……!!!!そもそも後ろめたい事をしてる訳でもあるまいしっ、彼女達だって流石にこんな公共の場で問題を起こし兼ねない接触なんてして来ない筈だっ……!!!!普通にしていれば後から幾らでも弁明をっ――――!!!!)

 

 

シェリー「……クロノさん?何か、顔色悪いですけど、大丈夫ですか?」

 

 

クロノ「ッ!い、いえ!お気になさらず!ちょっと飲み過ぎたかなぁ、なんてっ、アッハハハハハッ……!」

 

 

いやー!!、とあからさまに取り繕った愛想笑いで乾いた笑い声を漏らすクロノ。シェリーはそんな違和感バリバリのクロノの態度に首を傾げながらも、グラスに入った飲み物を口にしながら大してその事を追及せず、笑顔を向けて語り出した。

 

 

シェリー「でも、やっぱりクロノさんって素敵ですよねぇー。お母様の跡を継いで次元航行隊提督で、しかも二児のお父さん……いいなー……憧れますよー……」

 

 

クロノ「は、ははははっ、そんなっ、僕なんてまだまだ大した事はっ……」

 

 

零(詰めの甘さが原因で、現在進行形で妻に浮気現場を目撃されてる最中だしな……)

 

 

クロノ(余計な事を言うなぁッ!!というか僕は浮気なんかしてないぞッ!!)

 

 

零(いやしかし、前に何かの番組で見たが、人によっては妻に黙って他の女性と食事しに行っただけでも浮気認定されるとか……)

 

 

クロノ(君は一体どっちの味方なんだァあッ!!!)

 

 

ボソッと、何故今そんな聞きたくもない恐ろしい情報を口にするのかと思わず零に怒鳴ってしまうクロノ。しかし、シェリーは何処か艶っぽい眼差しでクロノの顔をジッと見つめながら、

 

 

シェリー「でも私、クロノさんが執務官だった頃から知ってるんですよ……最年少で執務官になっただけじゃなく、その後も色んな活躍をなさって、憧れて……この際だから言っちゃいますけど、幼かった頃の私の初恋って、クロノさんだったんですよねー……」

 

 

クロノ「へ、へぇ、そう、でしたかっ……それはまたっ、光栄というかっ……」

 

 

エイミィ「…………………………………………」

 

 

零(……クロノ、エイミィが最早無表情を通り越してスゴい顔になってるぞ……今の会話聞かれてるんじゃないか……)

 

 

クロノ(ば、馬鹿を言えっ!!この席から彼女達の席まで距離があるんだっ!!例えどんな地獄耳だとしても、僕達の会話が彼女達の耳に拾われる筈はっ……!!)

 

 

シェリー「だから今日、父さん達が勝手に決めた事とは言え、そんな幼い頃からずっと憧れてたクロノさんに、会えたのが嬉しいのも当然なんですけど……こうして直接お会いして、やっぱり素敵な人なんだなぁって実感したら……余計に、好きになっちゃったって言うか……」

 

 

クロノ「……え"?」

 

 

 

 

 

シェリー「悪い事だって、分かってるんですけどね……『略奪愛』も、アリかなー……なんて……///」

 

 

 

 

 

 

エイミィ「……………………………………………………(グググググッ!」

 

 

零(……クロノ、エイミィがお前から貰った指輪を薬指から外そうとしてるぞ……)

 

 

クロノ(エイミィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!!違ぁうッ!!!!僕はそんなつもりはないッ!!!!誤解だァあああああああああッ!!!!)

 

 

最早盗聴器の類でも密かに付けられているんじゃないかと、思わずクロノの服を眺める零にも構わずクロノは小声で絶叫をかましつつ、熱い視線を送るシェリーに向かってエイミィにも聞こえるように叫ぶ。

 

 

 

クロノ「ぼ、僕は妻一筋ですッ!!!!それはこれから先も一切変わりませんっ、ハイッ!!!!」

 

 

マリー「そ、そうだよシェリー!クロノさんにはちゃんとした奥さんがいるんだからっ、そういうのは駄目だってばっ……!」

 

 

シェリー「むうー……やっぱりダメかー……でもなぁっ……」

 

 

クロノ「そ、それよりもっと別の話をしましょうっ……!!なぁユーノっ?!最近君の近況とか今どんな感じ―――!!」

 

 

と、これ以上エイミィの逆鱗を刺激しない為に未練タラタラにクロノを上目遣いで見つめるシェリーから逃れるように、クロノが隣の席の最大戦力であるユーノに話題を振るが、その時、クロノと零の表情が凍り付いてしまう。何故なら……

 

 

 

 

 

 

ユーノ「―――ヒックッ……!いやぁ~、でもまさか、リリーさんも考古学に詳しいだなんて意外でしたよー///あっ、ジュースおかわりどーぞっ///」

 

 

リリー「うふふ、ありがとうございまーす///んんぅ……でもおいしーでふねー、このジュース♪///」

 

 

 

 

 

 

其処には、何故か頼まれていたお酒の瓶をジュースと勘違いして開き、お互いのグラスにお酒を注ぎ合いながら盛り上がって完全に出来上がっているユーノとリリーの姿があったからだ。

 

 

零「ユ、ユーノォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!?」

 

 

シェリー「ちょっ、アンタ何やってんのよリリーッ?!っていうか、なんでお酒なんかあるワケっ?!」

 

 

クロノ「……それ、さっき僕が頼んだ年代物だ……話し込んでた隙にいつの間にか来ていたのかっ……!」

 

 

零「戦犯お前かいッ!!!!」

 

 

マリー「リ、リリー!しっかりしてよっ!お水飲むっ?!ねぇってばーっ!」

 

 

リリー「えふー……///」

 

 

瓶の中身はもう半分以下。零とマリーがどうにか二人を介護するもそれだけの量を飲み干したばかりに完全に酔い潰れてしまっており、その後結局、二人は店の店員が持ってきた水すらも飲み切れずに椅子やテーブルに寄り掛かりながら眠り込んでしまい、掛け布団代わりにユーノにジャケットを被せた零とクロノも深刻な顔で重い雰囲気を漂わせていた。

 

 

零(おい……おいどうするんだクロノっ……!うちの最大戦力のユーノが潰れちまったぞっ……!この後どうやって乗り切る気だっ?!)

 

 

クロノ(ッ……立て続けに思わぬアクシデントが起きてしまったが、此処から軌道修正する事はまだ可能な筈だっ……とにかく、この食事会さえ平穏無事に終わらせる事だけでも出来ればっ……!)

 

 

零(だからそれをどうするかと聞いてるんだろうっ……!!俺とお前に今時の女子に向いた話題が出来る筈も無しっ、平穏無事に終わらせるにしてもどうやって話を其処までっ―――!!)

 

 

シェリー「もう、リリーってば……ユーノさんも、流石にこのまま寝かせておく訳にもいかないし……クロノさん、スミマセンけど、二人を家まで送っていくの手伝ってくれませんか?私、車出しますから」

 

 

クロノ「……え?それ、は……僕も、ですか?」

 

 

シェリー「えぇ。私、ユーノさんの家が何処にあるか分かりませんし、ついでにクロノさんもそのまま家に送っていきますけど……あ、もしかして、クロノさんも車で来てます?」

 

 

クロノ「あ、い、いえ、今日はタクシーで来ましたから、その心配は……」

 

 

シェリー「じゃあ、今日の所はお開きにしときます?私、表に車回しますから、ユーノさんを連れて先に行って待っててくれますか?」

 

 

クロノ「そ、そうですね……!では、今日はもうこの辺にして、解散しましょうか……!」

 

 

零(ちょ、おい待てクロノっ……!ホントにこのタイミングで解散する気なのかっ……?!)

 

 

クロノ(このまま続けて火に油を注ぐような事になるよりもマシだっ……!一先ずこの食事会を成功させてしまえば、後はもうエイミィやなのは達に弁明して誤解を解くだけで済むっ……!)

 

 

零(いや……正直、それだけでアイツ等が許してくれるとは到底思えないんだが……)

 

 

クロノ(心配し過ぎたっ……!とにかく、僕はこのまま彼女達と一緒にユーノを送るついでに彼の家に行く……!君も彼女と別れた後はそのまま帰宅して、明日にでもなのは達に事情を説明して誤解を解け……!分かったなっ……?!)

 

 

とにかく今はエイミィ達の目から逃れたいのか、クロノは零にそう言ってから手早い動きでユーノの肩を首に回し、そのまま足早にホールの外へと逃げるように去っていってしまう。

 

 

零「逃げ足速ぇなアイツ……」

 

 

マリー「えーと……じゃあ、私達も今日はこの辺にして、そろそろ行きましょうか?」

 

 

零「え、あ、あぁ……そう、ですね……じゃあ、タクシーでも呼んで――」

 

 

シェリー「え?何言ってんの?アンタはまだ残んなきゃダメよ、黒月さんも!」

 

 

マリー「……へ?」

 

 

零「……は?」

 

 

と、クロノに続いて自分達も帰宅の準備をしようと椅子から立ち上がり掛けた零とマリーを制止したのは、何故かクロノ達を先に行かせた筈のシェリーであり、二人が彼女の言葉に揃って聞き返すと、シェリーはニヤニヤとした笑みを浮かべながら懐からキーのような物を取り出し、マリーの手に握らせた。

 

 

マリー「……?な、何これ?」

 

 

シェリー「何って、見てわかるでしょ?このレストランの下にあるホテルの、ス・イ・ー・ト・ル・ー・ム……の鍵♪」

 

 

零「…………は?」

 

 

マリー「え……えええええええええッ!!!?///」

 

 

「「「(ガタァッ!!!)」」」

 

 

思わぬ品を渡されたマリーの絶叫と共に、なのは達が思わず飛び出そうとした椅子の物音が激しく響き渡った。その音にビクゥッ!!と零がビビる中、そんな零の様子に気付かずシェリーは溜め息混じりに語り出す。

 

 

シェリー「まー、ホントは私がクロノさんと一緒に行くつもりで取った部屋なんだけどねー……でも、ほら、アンタもせっかくずっと憧れてた黒月さんとお会い出来たんだし、この出会いをチャンスにしないと♪」

 

 

マリー「だ、だだだだだっ、だけどそんなっ、今日初めて会ったばかりなのに、ま、まだ早いよそんなっ……!!」

 

 

シェリー「もー、今更なに言ってんだかー……今日の為に、勝負下着してきたクセに……」

 

 

マリー「ちょっとぉおおおおおおっ?!!////」

 

 

 

 

 

―バリィイイイイイイイイイイイイイイイイイインッッッッ!!!!―

 

 

「ッ?!お、お客様っ……?グ、グラスがっ……」

 

 

なのは「……へ?あ、ごめんなさーい♪ちょっと力み過ぎちゃったみたいでー♪」

 

 

はやて「やー♪此処のお料理が美味しすぎて飲み物もついつい進むから、酔ってしまったんかなー♪あははははははははははははははははははははははっ♪」

 

 

フェイト「もう、はやてったらー♪私達が飲んでるのは、ノンアルコール、だよー♪あ、グラスは後で弁償しますねー♪」

 

 

 

 

 

零「――――――――――――――――――――――――――」

 

 

 

 

 

ああ、マズイ。この流れはマズイ。

 

 

直感的にそう思っただけで具体的に何がマズイのかまでは良く分からないが、それでも気付かぬ内になのは達の地雷を踏み抜いていってしまってるのだけは分かる。

 

 

ただの握力だけでグラスを粉砕し、ポタポタッと中身にあった飲み物で濡れた手を振って恐怖に震える店員に笑顔を向けるなのは達を横目に、零も恐怖のあまり呆然と立ち尽くす中、シェリーはニシシと歯を見せて笑ってみせた。

 

 

シェリー「大丈夫大丈夫、私も実はまだクロノさんのこと諦めてないから♪ユーノさんとリリーを送った後で幾らでも二人きりになる機会ある訳だしねー」

 

 

マリー「き、機会ってっ、シェリーまずいってばっ!相手はあのクロノさんだし、下手したら不倫問題に……!」

 

 

シェリー「残念、私は恋に生きると決めたのよマリー君!じゃあそーゆー訳なんで、黒月さん、マリーのこと宜しくー♪」

 

 

マリー「ちょ、まっ、シェリーっ!!」

 

 

エイミィ「……私、ちょっと行ってくるね」

 

 

なのは「どうするの?」

 

 

エイミィ「タクシーで追い掛けて、現場抑えて来る」

 

 

フェイト「うん、頑張って……」

 

 

零(……生き延びろよクロノ……俺にはもう、お前に何もしてやれそうにない……)

 

 

軽快に走り去っていくシェリーの後を追うように、ドンッ!と足音に怒りを滲ませて出ていくエイミィの姿を目で追いながら、遠い目で内心クロノの無事を祈る零。そしてマリーがそんなエイミィに気付かず、心配そうにシェリーが去っていった方を見つめていると、零は若干歯切れ悪くこう告げる。

 

 

零「その……心配はいらないと、思いますよ……クロノの奴は見た目通りの堅物ですから、自分の嫁を裏切るような真似はしないかと……」

 

 

マリー「!そ、そうですよね!ごめんなさい……別にクロノさんを信じてない訳じゃないんですけど、シェリーは昔から、コレ!って決めたらどんどん突き進んでいっちゃう子なんで……あの子の勢いに押し切られでもしたら、どうしようかと心配になってしまって……」

 

 

零「あぁ……成る程……」

 

 

だとしたら、場合によってはとんでもない場面を抑えられてアイツも血を見兼ねないなと、この後のクロノの運命を垣間見てマリーにバレないように合掌する零だが、マリーは申し訳なさそうに眉を潜めて零の方に振り返った。

 

 

マリー「でも今更ですけど、奥さんがいるのに私達みたいなのの我侭に付き合わせてしまって、ホントにご迷惑でしたよね……もしかして、零さんも、恋人がいるのに私達に無理矢理付き合わせてしまったりとか……」

 

 

零「えっ?あぁ、その心配なら別に……恋人とかいないですし、そもそも今まで一度も作った事がないんで……」

 

 

マリー「そうなんですか……って、一度もっ?!一度も彼女とか作った事がないんですかっ?!」

 

 

零「えぇ、まぁ……元々愛想が悪いとは度々言われてるので、周りからは印象悪く思われてるんだと思います……今日まで生きてきてこの方、異性に恋愛的に好かれていると感じた事は一度もないので……」

 

 

それはただ単純にお前がありえないくらい鈍いだけだろうがっ……!!と、長年奴の鈍感に振り回されてきたなのは達が怒りの炎に更に油を注がれて血管が浮かび上がるほど強く握り締めた拳をフルフルと震わせる中、零の話に聞き入っていたマリーが手の中の鍵をジッと見つめると、何かを迷うかのように視線をさ迷わせた後、何度か深呼吸をして零を見上げ……

 

 

マリー「―――あ、あのっ……!零さんって、恋人はいらっしゃらない……んですよ、ねっ……?」

 

 

零「……?えぇ、今もそう言いましたが……」

 

 

マリー「じゃ、じゃあ、あの……もう少しだけ、一緒にいて欲しいと私が頼んでも……ご迷惑ではありませんか……?」

 

 

零「はぁ……え……はい?」

 

 

マリー「で、ですからっ……!そのっ……」

 

 

察しが悪く首を傾げて聞き返す零に対し、マリーは若干テンパった様子で「うぅ~~~~……!!」と真っ赤になった顔で目を強く瞑りながら唸るも、恐る恐る、零のスーツの袖端をギュッと掴み、恥ずかしげに俯きながらか細い声で呟く。

 

 

マリー「その……へ、部屋……一緒に、行ってもらえませんか……?零さんと一緒じゃないと……その……意味、ないと思いますからっ……///」

 

 

零「え……」

 

 

「「「ッ?!」」」

 

 

マリーの口から飛び出した思わぬ大胆発言。それを耳聡く聞き取ったなのは達がバッ!と勢いよく振り返り緊張が走る中、その言葉を向けられた当人である零はと言うと……

 

 

零(二人で、部屋……?いやまぁ、大前提として名家のご令嬢が俺なんぞを恋愛対象として見るなんてありえないとして……一体何が目的でそんな誘いをっ……?)

 

 

……などと、この状況で一番の可能性を「まず無い」とアッサリと切り捨てただけでなく、まるでフィクションの中の探偵のようなシリアスな推理顔でマリーの意図が何なのかと推理しようとするなどと、とんでもなく場違いな事を考え始めていたのだった。

 

 

しかしそんな馬鹿な男の頭の中など露知らず、マリーはと言えば「言ってしまったっ……!!やってしまったぁああああああっ……!!!///」と、凄まじい羞恥心と僅かな後悔がゴチャゴチャに入り混じった感情から、傍から見れば心配になりそうなほど真っ赤に染まった顔で俯き、零はそんなマリーの意図を探ろうとジーーッと顔を見つめ……

 

 

零(……ッ!嗚呼、そうか……そういう事か……やはりそうだったんだな……)

 

 

マリーの意図を察したのか、赤面しながら不安で小刻みに震えるマリーを見て何かに気づいた様子で瞼を伏せ、零は悟ったように穏やかな笑みを浮かべながらマリーを見つめ、そして……

 

 

零(―――やはり、着ているドレスが一回り小さいせいで着替えたくて仕方なかったんだな……。初見の時からスタイルとドレスのサイズ差に違和感があったのには気付いてはいたが、可哀想に……顔があんな真っ赤になるほどキツかったのを、ずっと我慢し続けていたのか……)

 

 

―――とんでもなく素っ頓狂な思い違いを心の中で吐露してやがったのだった。

 

 

しかし当の本人はそんな自分の思い込みに何処から来ているのかも分からない自信から確信し、哀れむような眼差しをマリーに向けながら勘違いの暴走は更に加速していく。

 

 

零(確かに、このドレスのタイプで、しかもサイズが合っていないとなれば一人で脱ぐのは困難だろう……昔、なのはの奴が間違ってサイズの合わないドレスを着たばかりに、一人で脱げずフェイト達の手を借りてワンワン言っていたし……ううむ……女は見栄を張りたがる生き物だとは聞いた事があるが、それは何処も一緒なんだなぁ……)

 

 

感慨深そうに「うんうん」と頷く零だが、その推察が何一つ当たっていないのが悲しい所である。

 

 

唯一合っているとすれば、マリーのドレスのサイズが実際合っておらずキツキツという、口にすれば場合によってはセクハラと訴えられても文句の言いようのない事ぐらいなのだが、現在進行形でそういった女心を学習中の経験から流石の零も言葉を濁すよう努めつつ、マリーの肩に手を置きながら……

 

 

零「分かりました……なら、一緒に行きましょうか?」

 

 

「「「なあっ……!!?」」」

 

 

マリー「ッ?!えっ、え、ええっ?!い、良いんですかっ?!」

 

 

零「えぇ、心配しないで下さい。俺がちゃんと(ドレスを着替えられるように)リードしますから……何より……」

 

 

よしよし、今回はちゃんと女心を気遣って言葉を選べているぞ……と、(零の感覚では)手応えを掴めていると実感を得て得意気になり、更には数年前に中学の学園祭で開かれた女装コンテストにて、男連中共に嫌々女物の服やドレスを着せたり脱がしたりした経験から、何の自慢にもならない自信と共に爽やかな笑みを向けながら……

 

 

 

 

 

零「―――こう見えても俺、女性の服を脱がすのだけは得意なんでっ!」

 

 

 

 

 

……経緯が分からなければ最早ただのスケコマシにしか聞こえないとんでも発言をブチかましたと共に、なのは達が全力全開でブン投げた殺傷力満載の椅子がマッハの勢いでぶち当たって横殴りで吹っ飛んだのは、そのすぐ直後の事であった……。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

――――事後報告。

 

 

その後、凶器と化した椅子と共にぶっ飛んだ黒月零は高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやての三人の手によって確保。

 

 

マリー・アーデンも突然目前で起こった事態に最初こそ混乱していたものの、なのは達を見た瞬間に「エ、エース・オブ・エースの高町なのはさんっ?!フェイト・T・ハラオウンさんに、八神はやてさんまでっ?!」と、目の前にいきなり現れた憧れの人達を前に目を輝かせて感激しまくり、なのは達も最初の方はそんなマリーのテンションに圧されて若干戸惑いはしたものの、直接話していく内にマリーの自分達に対する純粋な想いが伝わったのか、その後は意気投合し、頭に包帯を巻いた零を間に挟んで楽しく会話(ただし、零には終始プレッシャーを掛けながら)した末、帰宅の際にはなのは達と零と共にフェイトの車で家まで送ってもらったのだが、その際……

 

 

 

 

マリー「あのっ、今日は本当にありがとうございましたっ!ほんっとうに楽しかったですっ!その……零さんも、機会がありましたら……またお話させてもらってもいいですか……?///」

 

 

フェイト「フフッ、もちろん良いに決まってるよ♪ねー零♪だって、こーーーーんな可愛いガールフレンドを泣かせるような事はしないもんねー♪」

 

 

零「……………………………………………………………………あの…………ちょっと、野暮用を思い出したんで、俺もこの辺で降りても―――」

 

 

なのは&はやて「「は?」」

後部座席で、零を間に挟んで座っている。

 

 

零「アッハイ、ウソデス、ハイ……」

 

 

マリー「?」

 

 

 

 

――――それから翌日。

 

 

酔い潰れたユーノはあの後無事に帰宅したらしいが、昨晩の記憶もあやふやで、しかも頭を締め付けるような二日酔いが抜き切れぬまま仕事に向かったせいで無限書庫の大規模探索で本領を発揮出来ず

 

 

クロノは一応本人の名誉の為にも詳しい事は話せないが、あれから暫くハラオウン家は嘗てない程の冷戦状態となったらしく、同居人のアルフ曰く「子守りがなけりゃ今すぐにでも他所へ避難したい……」と憔悴し切った顔でくたびれ、その様子からどれだけあの家が壮絶な事態になっているか伺い知れる。

 

 

そして、なのは達の手によって機動六課に連行された零はと言うと―――まぁ、これに関しては特に語るまでもない……。

 

 

強いて言うならば、その次の日、黒月零が六課に出勤した姿を誰も見なかった、という事ぐらいだろうか……。

 

 

 

 

 

 

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