仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
――――突然だが皆さん。黒月零という、超が幾つあっても足りない鈍感野郎の事をご存知だろうか?
その鈍感は知る人ぞ知り、その酷さはもう酷いというレベルではない。
『コイツの頭ん中はどうなってんだ?』という、末期を越えたレベルの酷さだ。
周囲の人間達も何度かコレを治そうと試みるものの、その全てが失敗に終わってしまったという過去が幾つもある。
一度は異世界の知人を介してこの鈍感をどう治せばいいかと募集を掛けたが、「治せない」、「無理無駄無謀」とどれもこれも匙を投げられてしまった。
加えて最悪な事に、こやつはデリカシーの『デ』どころか、DELICACYの『d』すらない男で、それが原因で幼なじみ達からフルボッコにされるという日々が続いている。
これに関してももう、学習能力がないとかのレベルではない。
本人曰く、『ガキの頃からこんな感じだったからな、多分もうクセとかそういうのに近い形で染み付いてるんだろう……』との事で、最早改善の余地が見られない程酷くなってしまってる。
どちらかでもいい。完治とまでは行かなくても、どうすれば改善してくれるのか……。
一度は少女の身体になってしまったこともあり、その経験で何か少しは学んだことがあったのではないかと思いきや、結局元に戻っても彼は彼のままで何も学んでないっぽい。
一体何が悪かったのか……作業片手間に考えた末に、ドールはある仮説を立てた。
姿形が変わっても特に何も学ばなかったのは、身体が女になろうが、結局は彼が彼のままだった為に女性にDELICACYを抱くにまで至らなかったからではないか。
……では、仮に他の女性の身体になってしまった際、彼は女性の身体を気遣い、ほんの少しのDELICACYを抱くのではないか?と。
◇◆◇
ドール「――という経緯があって今回の実験に至ったワケなのですが、まだ何か意見でも?」
アズサ?「大有りだこのトラブルメーカー共がぁあああああああああああああああああああッッ!!!!」
―ガッッッシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―
そんな腹の底からの怒声と共に、テーブルがちゃぶ台の如く思いっきりひっくり返った盛大な音が、午後の光写真館全体に響き渡った。そして、ひっくり返ったテーブルの傍にはビビった様子でソファーの上で身を引く優矢と、動じる様子もなく椅子に座って足を組む大輝とドール、何故か内股に組む両足の間に座るシロの頭を静かに撫でる零と、テーブルをひっくり返した張本人……普段の彼女なら絶対にそんな事はしない筈のアズサが、怒りの形相で大輝とドールを睨み付ける姿があった。
大輝「あっぶねえぇー……いきなり酷いじゃないか、"零"?怪我でもしたら一体どう責任を取ってくれるんだい?」
アズサ?「喧しいわっ!!毎度毎度はた迷惑なトラブルに人を巻き込みおってっ!!何だっ?!お前等は俺に恨みでもあるのかっ?!新手の鳴滝からの刺客かっ?!」
そう怒りを露わにして大声で叫ぶアズサ……ではなく、大輝とドールの手によりアズサの身体と入れ代わってしまった零だが、ドールはそんなアズサ(零)に対し左手をパタパタさせながら呑気に笑い掛けた。
ドール「まっさかぁ~。大輝さんはともかくとして、私は単純に零さんのためを思ってやったまでですよぉ?毎度毎度懲りもせずセクハラ発言をかます零さんのそんな性格を改善すべく、女性の身体を労るっていうデリバリー精神を学ばせたいなぁ~と」
優矢「それを言うならデリカシーな、何をデリバリーすんだよ。今の混沌な状況をか?」
アズサ(零)「余計なお世話過ぎるわっ!誰もそんな事は頼んどらんだろっ!大体俺だけでなく何でアズサまで巻き込むかっ!」
そう言いながらビシッ!と勢いよくアズサ(零)が人差し指で突き付けたのは、ソファーに座ってシロを撫で続ける零……ではなくて、零の身体に入れ代わってしまったアズサであり、シロはそんな何時もの零らしくない零(アズサ)を見上げて若干ビクビクしている中、大輝は律儀に近くに落ちている包みに入った茶菓子を拾い集めながら適当に答えた。
大輝「仕方がないだろう?他の女性陣はタイミングが悪く留守でアズサしかいなかったんだし、あまり人がゴチャゴチャいられると、この薬で余計なのまで心と身体が入れ代わってしまうんだから」
ドール「イエース!この私が開発した『IREKAWARU』は機密性が高く、吸い込んだ人同士の精神が入れ替わってしまうのデース!もし優矢さんがもう少し早く帰ってきてたら、恐らく優矢さんが零さんかアズサさんのどちらかになっていたかもしれませぬなぁ」
優矢「……考えたくもないなソレっ……」
デデデーンと怪しげな形状のスプレーを掲げるドールの言葉を聞いてその光景を思い浮かべたのか、心底巻き込まれずに済んで良かったと苦笑いを浮かべる優矢。まあつまり、何故こんなことになってしまったのか経緯を簡潔に説明しますと……
計画を企てた大輝&ドールがIREKAWARUを手に写真館に侵入。
↓
リビングに零とアズサしかいないのを確認し、ドールがIREKAWARUを室内に注入。
↓
二人はIREKAWARUを吸ってすぐに気を失って倒れてしまい、目を覚まして自分達の精神と身体が入れ替わっている事に気付き混乱。
↓
直後に写真館に帰ってきた優矢が、アズサ(零)の絶叫を聞いて慌ててリビングに駆け付けようとし、ドールと大輝を発見&強制連行。
↓
二人から事情を全て吐いてもらい、アズサ(零)が怒りテーブルをひっくり返す。↓
今現在。
こんな感じである。
アズサ(零)「とにかく早く元に戻せっ!こんな姿じゃ録に動き回れんし、もしアイツ等に見られでもしたらっ……!」
ドール「いえ、今は無理っす。元に戻す薬とかねーんで」
アズサ(零)「……………………………はっ?」
優矢「え?ま、まさかそれってっ、二人はずっとこのままとか……?!」
ドール「いえいえ、時間が経てば勝手に元に戻れますよ。まあ今日中って以外は分かりませんから、十分か一時間か半日かは分かりませんが……」
アズサ(零)「不確か過ぎるだろっ……!夜になるまでこの姿のままなんて御免だぞっ?!」
零(アズサ)「……零、私は別に暫くこのままでも大丈夫……他の人と身体が入れ代わるなんて貴重な体験が出来て、楽しいし……」
アズサ(零)「いや、お前が認めたらコイツ等が余計に調子に乗るだろっ!ほらっ、見ろっ!ドールのヤツが『計画通り……』みたいな顔して笑ってんぞっ!」
シロを撫でる零(アズサ)にそう叫びながらアズサ(零)が指差したドールは、確かに一同から顔を逸らし不敵な笑みを浮かべてニヤリとしており、そんなドールの隣でテーブルをしっかり元に戻した大輝も椅子に再び腰を下ろし、いつもの笑みを浮かべた。
大輝「まあとにかく、元に戻るまではしっかりアズサの身体を守る事だね。下手に一生付いて回るような傷でも付けたら、アズサは嫁入りも出来なくなるかもしれないぞ?」
アズサ(零)「……クッ……コイツの身体は俺ほどではなくても頑丈なんだ、そう安々と傷なんか付くかっ……」
優矢(とか言いながら、しっかりアズサの身体を気遣いながら座るのな……)
フンッと不快げに鼻を鳴らしながらアズサのスカートをしっかり下げ、静かにソファーに座るアズサ(零)を見て優矢は内心苦笑いを浮かべていき、そんな優矢の様子に気付かずアズサ(零)は頭痛で額を抑えてうなだれた。そんな時……
零(アズサ)「……ん……」
額に手を当ててうなだれるアズサ(零)の隣でシロと遊んでた零(アズサ)が不意に僅かに身じろぎし、膝の上のシロを床に下ろして徐に立ち上がった。
ドール「お?何処に行くんですアズサさん?」
零(アズサ)「トイレ……」
ドール「ああそうでしたか、サーセンな引き止めて。いってらー(´∀`)ノシ」
優矢「にしても、ホントにお前がアズサの身体に入れ代わると違和感しか感じねーなぁ……アズサのそんな無愛想そうな顔なんて見たことないぞっ?」
アズサ(零)「悪かったなっ。これが俺じゃなくてお前だったら、もっと呑気な顔になれてただろうさ……」
優矢「ひどっ?!」
大輝「…………」
ドールに見送られリビングを後にする零(アズサ)の背が見えなくなるまでジッと見送った後、大輝は目の前のアズサ(零)と優矢に視線だけ向けるが、二人は気に止めた様子もなく台所に向かってお茶を要れてきたりして話を続けている。
大輝「零、いいのかい?アズサを行かせて」
アズサ(零)「……?何がだ……?」
大輝「彼女、今さっきトイレに発ったぞ。放っておいてもいいのかい?」
アズサ(零)「は?……おいおい、アイツが一人で便所にも行けないようなヤツに見えるのか?其処までガキじゃないんだぞ、失礼な奴だな」
大輝「ほう……そうかい」
呆れるように言いながら今要れてきたばかりの茶を啜るアズサ(零)にそっけなくそう返すと、大輝も静かに椅子から立ち上がって台所を借り、お茶を注いで口に運み、一口啜ると……
大輝「いや、あのままだと彼女は君の身体でトイレを済ませる事になるんじゃないかと思ったんだが、君はそういうのは気にしないのか。なら安心したよ」
アズサ(零)「…………あ?」
優矢「…………え?」
大輝「…………うん?」
アズサ(零)「…………」
優矢「…………」
大輝「…………」
ドール「ずずずっ……あ、茶柱。ラッキー」
そんな、到底聞き流せないような事を飄々と告げられ、二人は大輝の顔を見つめながら硬直し、大輝もそんな二人の顔を見つめ返し固まってしまった。
そして、アズサ(零)と優矢も一瞬大輝が何を言ってるか理解出来ず硬直した後、一同の間に沈黙が流れ……
アズサ(零)「おおおおおおおおいアズサァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーっっっ!!!!待てッ!!待ってくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!」
―ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンッッッ!!!!!!!―
漸く事の重大さを飲み込むと共に、アズサ(零)は急いでリビングから飛び出して零(アズサ)が入っていったトイレへと駆け出し、必死の表情でトイレの扉を何度も何度も殴るように叩いていったのであった。
『?零?どうしたの?』
アズサ(零)「どうしたじゃないんだっ!!今すぐそこから出ろっ!!早くっ!!頼むからっ!!」
『……あっ、もしかして零もトイレ?待ってて、私が終わってから――』
アズサ(零)「そうじゃないんだっ!!今のお前の身体は俺の身体であってっ、だからっ――!!」
『?……ああ……大丈夫、任せて。元の身体と違って慣れないけど、零の身体を汚したりはしないから』
アズサ(零)「そういう事を言ってるんじゃないっ!!……あれ?おい待て、何だこのカチャカチャって音?……おい、まさか?……や、止めろアズサァッ!!!待てッ!!!頼むから止めろッ!!!止めろぉおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!!」
慣れていないせいで自分の身体を汚されるんじゃないかとアズサ(零)が心配しているんだと勘違いしたのか、何処か張り切った様子の零(アズサ)を止めようと、ダンダンダンダンッガチャガチャガチャッ!!と、扉を叩いたりドアノブを回したりを繰り返しながら必死にそう叫ぶアズサ(零)だが、そんな声も虚しく廊下に響き渡るだけであり、そうして……
◆◇◆
――結論から言いますと、零の身体は無事、アズサのお陰で何処も汚れずに戻って参りました。
アズサ(零)「……………………………………………………………………」
優矢「あー……そのぉ……零さぁーんっ……?」
大輝「ぶっ……くくっ……そ、そう気を落とすなよ零?良かったじゃないかっ、アズサがちゃんと君の身体をっ……ぶふっ!」
零(アズサ)「うん……私、頑張った、零……」
微塵の悪意もなく、部屋の片隅で体育座りして暗い影を落とすアズサ(零)に向け両腕で小さくガッツポーズを取る零(アズサ)だが、その隣で大輝が顔を逸らして爆笑するのを必死に堪えている。優矢はそんな大輝を呆れるような目で見つめながらアズサ(零)に何と声を掛けようか迷ってしまうが、そんな彼等の間を抜けてドールがるんるんスキップでアズサ(零)へと近寄り、物凄く良い笑顔で彼の肩に手を置いて……
ドール「ねえねえ今どんな気持ちィ?NDK~?年頃の女の子に自分の身体の放尿を見られるってどんなキモジブオァアアアアアアアアアッ!!!?」
アズサ(零)「ぶっ壊すッ!この人形だけはスクラップにしてゴミの山に埋めてやるぅううううううううううううううッ!!!」
優矢「お、おおおおお落ち着け零ッ?!!止めとけってっばっ!!!」
言葉の途中で奇妙な悲鳴に変わったのは、アズサ(零)が目にも止まらない速さで振り向き様に強烈なエルボーをドールにお見舞いしたからだ。そして白目を剥いて仰向けに倒れるドールにトドメを刺そうとするアズサ(零)を優矢が背後から羽交い締めにして必死に止めていき、アズサ(零)は諦めたようにガクリと床に崩れ落ちてしまった。
アズサ(零)「クソォッ……くそおぉぉっ……ホントにいい加減にしろッ!!一体何時になったら元の身体に戻れるんだッ?!」
大輝「ンンッ……。それは俺達にも分からないって言っただろ?一分後かもしれないし、一時間後かもしれないし。まぁ元に戻る時には戻るから、心配しないでくれたまえ♪」
アズサ(零)「寧ろ心配しかないわッ!……あぁ、もういいっ、お前らの顔を見てると余計にストレスが溜まるっ……」
無償に殴り掛かりたくなる笑顔を向ける大輝から顔を逸らして忌ま忌ましげに舌打ちすると、アズサ(零)はそのまま床から立ち上がり大輝を無視してリビングを後にしようとする。
優矢「え、零?何処行くんだよ?」
アズサ(零)「便所だよ……いい加減一人にもなりたいし、別に何処にも行きやしない……」
疲れた様子で溜め息混じりにそう呟くと、アズサ(零)は今度こそノロノロとリビングを後にしトイレへと向かっていった。そんな彼の背中から滲み出る疲弊感を感じ取った優矢も黙ってアズサ(零)を見送ると、深く溜め息を吐いて大輝にジト目を向けた。
優矢「ホント、あんた等もいい加減にしといてくれよ?このままじゃまた余計なトラウマをアイツに植え付ける事になんぞっ」
大輝「うん?ドールはともかく、俺は本当に最初から興味本位の面白半分で関わっているだけだよ?こんな方法であの零が本当にデリカシーを学ぶのかってさ」
優矢「いや無理だろ、あの零だぜ?こんなんで治るならなのはさん達がとっくに治してるって……」
大輝「かもね、まあ別に俺はそれでも良いんだけど。その過程でさっきみたいなのが見れれば面白いし♪」
優矢「知ってはいたけど、アンタ本当に最悪なっ?!―ガタンッ!―……え?」
爽やかな笑顔で人で無しな発言をする大輝にツッコミを入れる優矢だが、その時、不意にリビングの入り口の方から物音がして一同の視線がそちらへと集まっていく。すると其処には今し方、トイレに立ったハズのアズサ(零)が入り口の前でガクリと肩を落として座り込む姿があった。
零(アズサ)「零?」
優矢「お、おい、どうしたんだよ?」
アズサ(零)「………………………………な………………………い……………」
優矢「は?な、何だってっ?」
何だか小刻みにプルプルと震えながら顔を俯かせボソボソと何か呟いているようだが、声が小さくて上手く聞き取れずにアズサ(零)に聞き返す優矢。それに対しアズサ(零)は唇を噛み締めてギュッと左手でスカートを押さえると、何かを猛烈に我慢しているような真っ赤になった顔を上げ、涙を浮かべながら……
アズサ(零)「―――ア…………アズサの身体、だからっ…………トイレっ…………出来ないっ…………!」
『…………あー…………』
零(アズサ)「……?」
納得したように、優矢と大輝は揃って声を漏らした。先程の零(アズサ)は中身がそういうのを気にしない為に自然と行けたが、アズサ(零)はそういう訳にはいかない。中身が男なのに他の女の身体でそのまま手洗いなど、アウト過ぎる。セクハラである。変態である。なので……
アズサ(零)「ぐうぅうううううっ……クッソッ……!さっきから何時でも行けるからと我慢していたのにっ、畜生っ……こんな落とし穴がぁっ……!!」
優矢「え、ええっとっ……と、とにかくもう少し我慢しろっ!今なのはさん達に連絡して手を貸してもらうように頼んでみっからっ!」
アズサ(零)「無理だっ……限界が近いっ……!」
優矢「もうそんな水位レベルなのっ?!もうちょっと我慢しろよ子供じゃあるまいしっ!!」
アズサ(零)「女の身体は男の身体の時に慣れてる歯止めの効き方と違うんだよぉッ!!オマエ男と女の尿道の形状が大きく違うって事を知らんのかぁッ!!!」
優矢「知らねぇよッ!!!と、とにかくなのはさん達を呼ぶから待ってろってッ!!!」
此処にいる男二人では手の打ちようがない。とにかく今は買い出しに出掛けてるなのは達を急いで呼び戻しこの事態の収束を手伝ってもらおうと、優矢は携帯を片手にリビングを慌てて飛び出していき、アズサ(零)と零(アズサ)と気絶してるドールと一緒にリビングに残された大輝は呆れるように溜め息を吐いた。
大輝「君も頑固だなぁ……身体の事なんて気にしないでさっさと済ませてしまえばいいのに」
アズサ(零)「ソッ……ッ!そんな訳に行くかぁっ……いくら俺でもっ、其処まで無遠慮って訳じゃないんだぞっ……!」
零(アズサ)「零……私なら別にそんなこと気にしないよ……?」
アズサ(零)「イヤ、お前が気にするとか気にしないとかの問題じゃなっ―――ッ!そ、そうかっ!」
最早我慢の限界の寸前だと言う所で、突然何かを思い付いたかのようにバッ!と顔を上げて、アズサ(零)は零(アズサ)の腕を掴んだ。
アズサ(零)「アズサ……!お前、俺と一緒にトイレに付いて来いっ!」
零(アズサ)「え……?」
大輝「オイオイ、なんだい急に?我慢のし過ぎで遂に気でも狂ったのか?」
アズサ(零)「そうじゃないっ!俺が見たり触れたりするのはアウトだがっ、この身体の持ち主のコイツが手伝ってくれるのならセーフだろっ!用を足してる間は俺も目隠しして身体に触れないようにしてれば、何の問題もない訳だしっ……!」
大輝「……ふむ。まあその様子を見ることになるのはその身体の持ち主のアズサだしね……元の身体に戻ったとしても、君は目隠しで何も見えていなかった事になるだろうし、多分問題はないかな?」
アズサ(零)「だろうっ?!そんな訳だから頼むアズサっ、手を貸してくれっ!本当にもう限界なんだっ……!」
零(アズサ)「……分かった……それで零を助けられるなら、手伝う」
アズサ(零)「助かるっ……!よしっ、そうと決まれば急ぐぞっ!」
漸くこの我慢地獄から解放されると希望を抱き、アズサ(零)は急いでその辺りに掛けてあった目隠しに使うためのタオルを手に取って零(アズサ)と共にリビングから慌てて飛び出し、そのまま二人一緒にトイレへと騒がしく駆け込んでいったのであった。
大輝「……はぁ……全く、よくもまあこんなしょうもない事でグチグチ悩める物だ……あのまま零がトイレに直行した時には、なのはさん達へのネタに使えると思ったんだけど」
それが残念だったなぁと、大輝がそう呟きながら椅子に腰を下ろしてテーブルの上の茶菓子に手を伸ばそうとした。その時……
―ガチャンッ!―
『零っ?!』
『零君っ!大丈夫っ?!』
大輝「……ん?」
不意に突然、玄関の方から勢いよく扉が開け放たれる音と聞き慣れた声が幾つもの響き渡ったのだ。そしてその音に釣られ大輝がリビングの入り口の方へと振り返ると、玄関の方からバタバタと騒がしい足音と共に買い物袋を手にしたなのはとはやてと、そしてその二人を呼びに出ていった優矢がリビングへと慌てて駆け込んできた。
大輝「おや、やっと帰ってきたのかい?」
はやて「ぜぇっ…ぜぇっ……あ、あれっ?大輝君っ、零君はっ?」
なのは「ゆ、優矢君から、電話で零君が大変なことになってるって聞いて、慌てて戻ってきたんだけどっ……」
大輝「ああ、彼かい?彼だったら君達が来る前に――」
と、大輝が適当な調子でテーブルに頬杖を付きながらトイレに駆け込んだ二人のことをなのは達に教えようとした。その時……
―シュウゥ……ビガアァァァァァァァァァァァァァァァァァアァッ!!―
大輝「……ッ?!」
なのは「え?な、何っ?!」
突然、前触れもなく廊下の方から激しい光が放たれたのであった。その光を目にした一同は驚愕して戸惑いを浮かべるが、光はすぐに何事もなかったかのように収まって消えていった。
優矢「な、なんだ今の……?」
はやて「今の光って……トイレから……?」
大輝(……あ、今の現象って確か……)
なのは「もしかして零君、トイレに……?!」
廊下から見えた光で何かを察したような大輝の様子に気付かず、なのは達はすぐさま買い物袋を置いて廊下へと飛び出し、トイレの前に辿り着くと共に鍵が掛けられてない扉のドアノブを掴んで回転させ、勢いよく扉を開け放った。
はやて「零君っ!」
優矢「大丈夫か零っ!今の光はなん――――」
扉を開け放ち、言い掛けた優矢の台詞がトイレの中の光景を目の当たりにした瞬間、ピタリと止まった。何故なら……
アズサ「――?……???……????」
零「………………………………………(゜д゜)」
便器の前でタオルで目隠ししたまま佇み、その足元には脱がれたスカートが床に落ち、何が起きたのか分からず困惑した様子でキョロキョロと頭を動かすアズサと、そんなアズサの白い太股に下着を履かせようと(脱がせようとしてるようにも見える)屈んで布を通し、開かれた扉を見て唖然とした顔を浮かべる零の姿があったからだった。
……どう見ても変態の画です、本当に(ry
はやて「……一つ……確認したいんやけど……」
なのは「今……その零君の身体には、誰が入ってるのかな?アズサちゃん?それとも、まさか……レ イ ク ン ?」
零「………………………………………ァ………」
はやて「あ、アズサちゃんなら全然問題あらへんよ♪しょーじきに言うてくれればええから♪ウン♪」
零「………………………………………………」
そう言いつつも、彼女達の背後から凄まじい阿修羅のオーラが見えるのは何故だろうか。いや、そんな事は今はどうだっていい!
晴れて元の身体に戻れたというのに、よりにもよって最悪なタイミングで最悪な場面の最中に絶対見られてはいけないヤバい奴らに見られてしまったっ。
本当に最悪だ、だが幸いにもまだこちらが黒月零なのかアズサなのかは分かってはいないのは好都合だ。
ならば此処は全力で、この場を切り抜ける為にシラを切るのみっ!!
零「ソ……ソウダヨ?ワ、ワタシ、アズサダy――」
すると、状況が分からずにキョロキョロしてばかりいたアズサが漸く目隠しを外し、自分に下着を履かせようとしてる態勢のまま固まる零を見つけ……
アズサ「ッ!零、良かったっ……ちゃんと元の身体に戻れてたんだっ……」
零「…………………………………………」
なのは「………………………………………」
はやて「………………………………………」
ホッと安堵したように一息吐いたアズサのその言葉が紡がれたその瞬間、青年の運命が決まったのであった……。
◆◇◆
実験報告書。
零を他の女性と精神と身体を入れ替えさせ、少しでもDELICACYを学んでくれるのかという興味本位からの実験は、結局満足に確認も出来ず失敗に終わった。
ただ、入れ代わってしまったアズサの身体を気遣うような態度は見せていたので、元からそういった感情は少なからずあったのかもしれない。
まあ、その辺りに関してはドールが興味があったことなので、個人的に俺は余り興味はなかった。
寧ろその後の展開の方が面白かったので、大分満足な結果になったなとは思う。
その点で言えば、君の実験に付き合って良かったよ。
……これで君の嘗ての友人の息子が、少しはマシに育ってくれていると納得してくれればいいがね。
君が零と一緒に写真館の前で土下座させられてる間に、俺はそろそろルミナ君と次の世界に向かわせてもらうよ。
暇があればまた風麺に食べに来ればいいさ。
じゃ、また何処かの世界で会おう。
海道 大輝
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