仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
第二十一章/雷牙の世界⑥
―機動六課・食堂―
あれから数十分後、零達は取りあえず落ち着いて話し合える場所に移そうと言う雷達の提案からこの世界の六課の食堂に訪れ、其処で雷達に事情を説明し、同時に紫苑達からも雷達と一緒に今までの経緯を聞かせてもらっていた。ちなみに、アズサは六課に到着した後そのまま医務室へと運ばれ、先の戦いで負った怪我をこの世界のシャマルに治療してもらっている。
理央「――つまり、お前達はそれぞれ別世界のディケイドで、この世界には何れ訪れるであろう滅びを食い止めに来たという訳か」
零「一応な。ま、紫苑達がこの世界に現れたのなら、危険分子とやらの俺は不要なのかもしれんが……」
なのは「ちょっと、零君っ……!」
一通りの話を聞いた理央の言葉に、テーブルに片肘を付きながら淡々とした口調でそう答える零。そんな零の態度になのはが咎めるが、理央は特に気にせず真剣な顔付きで零と紫苑の顔を交互に見比べていく。
理央「だが、その話も何処まで本当か分からんな……世界を破壊する悪魔がこの世界に現れると雷から聞いて、それが二人も現れた。その悪魔とやらは、お前達のどちらなのか……」
紫苑「…………」
光「ま、待ってください!世界を破壊する悪魔って、紫苑君はそんな事……!」
零「……そいつの言う通りだな。その小僧に、世界を破壊するなんて事は出来んと思うぞ?」
勇輔「……え?」
疑心の眼差しを向ける理央に光が紫苑を庇おうとしたその時、零が無愛想な態度で横からそんな事を言った。その発言に紫苑達は呆気に取られた顔で零を見つめ、雷達も紫苑から零へ視線を移していく。
理央「では、お前は出来ると言うのか?世界を破壊するなどという芸当が」
零「お前こそ、そんなことが出来ると分かってて回りくどい質問をしてるんじゃないのか?さっきの戦いでも、其処の男が証拠とやらがどうとか言っていたしな。全く、一体何を見せられ聞かされて、そんなに怯えているのやら……」
シグナム(別)「何…?」
はやて「零君っ!」
雷「…………」
やれやれと肩を竦めながら挑発するような態度を取る零に思わずシグナム(別)とヴィータ(別)が身を乗り出し、はやても零のその態度に怒鳴り声を上げて止めに入った。そして理央はそんな零を見て僅かに目を細めると、はやて(別)に視線を向け、はやて(別)も理央が何を伝えようとしているのか悟り頷き返した。
はやて(別)「――んじゃ、その『証拠』を見てもらう前に一つ質問あるんやけど、ええかな?」
紫苑「……?質問?」
はやて(別)「せや。二人はこの世界に来る前に幾つものライダーの世界を回ってきたみたいやけど……その中に、キャンセラーの世界を訪れた事てあった?」
『ッ?!』
光「キャンセラー……ですか?」
はやて(別)が零達と紫苑達に向けて問い詰めたのは、零達と紫苑達がこの世界に来る以前にキャンセラーの世界に訪れた事があるか、という内容だった。零達は何故他の世界に関わった事のない雷達がキャンセラーの名を知るのかと驚愕してしまうが、紫苑達は初めて聞かされるキャンセラーの名に疑問符を浮かべていき、理央達は双方のその反応から答えを得たのか小さく頷いている。
理央「どうやら、そちらの一行はキャンセラーの世界に滞在していたことがあるようだな」
零「……何でキャンセラーの世界の存在を知ってる?お前等、まだ並行世界の事は何も知らないんじゃないのか?」
理央「キャンセラーの世界に関しては別だ。まあ最も、俺達がその世界の存在を初めて知ったのは、こんなものを見せられてからだがな」
零「何?」
険しげな顔を浮かべる零に理央がそう言うと、雷の隣に座るはやて(別)が片手で端末を操作していく。すると食堂内に巨大なモニターが展開され、モニターに何かの映像が徐々に映し出されていった。それに映っていたのは……
ディケイド『ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!』
―ドグオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォオンッッ!!!!ドグオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォオンッッ!!!!―
ヴェクタス『アッハハハハハハハハハハハハハッ!!ほら何処を狙ってる?!そんなんじゃすぐに俺に殺されるぞ?!あの女みたいになぁ!!アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!』
ディケイド『貴様ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!!!』
零「――っ?!」
フェイト「あ、あれは……?!」
巨大なモニターに映し出された映像。それは、零達が以前訪れたキャンセラーの世界での戦いのひとつ……ディケイドが破壊の因子の暴走により殺意と憎悪に囚われ、何かも破壊し尽くしながらヴェクタスと戦っている映像だったのだ。その映像に零達は驚愕を隠せず目を見開き、理央はそんな零達を見据えながら淡々と語り出した。
理央「これは数日ほど前に、機動六課に送られてきた映像でな。差出人は不明で、最初は何かのイタズラかと思っていたが、同封されていた手紙のせいで本当か実か判断が出来ずにいた」
零「……手紙だと?」
雷「これの事だ」
理央が口にした手紙とやらが気になり思わず質問すると、雷が制服の内から一枚の手紙を取り出しテーブルの上に置いていく。そして零は訝しげな顔でその手紙と雷の顔を交互に見つめながら戸惑いがちに手紙を手に取り、其処に書かれてる内容を読み上げてく。その内容とは……
―龍藤 雷、突然のお手紙に驚かせてしまったことをお詫び申し上げます。実は貴方様に一つご忠告させていただきたく、この手紙を送らせて頂きました。
あの預言者を名乗る男から既に話を聞いてると思われますが、アナタ方の世界に、世界の破壊者と呼ばれるライダーの脅威が迫りつつあります。
預言者の言う通り、アレは確かな危険を持ってる存在であり、必ず貴方達の前に障害として立ち塞がる事となるでしょう。
そして何より一番にお伝えしなければならないのは、アレが持つ『破壊』の力です。
あの破壊者はその力を己の感情のままに振るい、仲間たちがいるにも関わらず、別の世界に存在するキャンセラーの世界を滅ぼそうとした事があります。
一度は絆を結んだ友すらも躊躇なく消し去ろうとした存在……そのようなモノを野放しにしておくのは危険です。
お願いします、どうかあの破壊者を貴方達の手で消し去って下さい。でなければ、アレは何れ全ての世界を破壊し尽くしてしまう。
これは世界を救う牙である、貴方にしか出来ない役目です……―
はやて「――何やのこれ、こんなん無茶苦茶や……!」
フェイト「……零……」
零「…………」
その手紙に書かれてるのは、雷にディケイド……零を倒して欲しいという頼みが綴られたものだったのだ。それを読み終えたなのは達が手紙の内容に対し理不尽さを覚える中、フェイトは物憂い表情で零の顔を見つめるが、零は無表情のまま手紙から雷達に視線を向けていく。
零「一つ聞きたい……この手紙、鑑識に回して調べたのか?」
雷「一応な……色々と調べてはみたが、その手紙から手掛かりになりそうなものは何も出なかった。差出人も不明で、多分六課に直接届けられたんだろうが、それ以上の事は何も分からない」
零「……簡単に尻尾を掴ませる気はないって事か……コイツを出した奴は余程の用意周到らしいな」
差出人不明の手紙をテーブルの上に投げながら軽く息を吐いてそう言うと、零は両腕を組んで理央を見据えながら再び口を開いた。
零「で?お前達が俺を……ディケイドを危険視する理由は分かったが、これからどうする気なんだ?具体的に」
理央「それはこれから決める所だ。その為にも幾つか、お前にはこちらの質問に答えてもらう事になるが」
零「質問……?」
雷「ああ、先ずは一つ……その手紙に書かれてる事は事実なのか?お前が世界を破壊しようとし、仲間達をも消し去ろうとしたというのは」
零「…………」
フェイト「ちょ、ちょっと待ってっ!違うのっ!それは「あぁ、事実だ」――え……?」
手紙の真意について確かめようと零を問い詰める雷にフェイトが何かを言おうとするが、それを遮るように零が事実だと認めてしまい、それを聞いた理央達の零を見る目が鋭くなった。
理央「では、その手紙にも書いてある『破壊の力』とやらを、お前が保有してるというのは?」
零「事実だ……まあ流石の俺でも未だに扱い切れない力だが、やろうと思えば世界の一つぐらい消せるぞ?何なら、今この場でやって見せようか?」
優矢「おい、零っ?!」
ヴィータ(別)「テメッ…!「待て」っ?!雷?!」
不敵な笑みを浮かべながら挑発する零に掴み掛かろうとするヴィータ(別)だが、それを雷が片手で制して止め、雷はそのまま零に視線を戻して再び問い掛けた。
雷「……本当なのか?お前は自分の仲間を……友人を世界と一緒に消し去ろうと……?」
零「今言っただろう?紛れも無い事実だと。俺は世界を破壊しようとしたし、それに仲間を巻き込む事に何の躊躇もしなかった……この手紙にも書いてある通り、俺は正真正銘の破壊者だ」
セイン「ちょっ、零っ!何言ってんのさっ?!」
フェイト「そうだよっ!祐輔の世界でのアレは、元はと言えば私がっ――!」
零「きっかけはどうであれ、俺が自分の感情のままに破壊者になった事に変わりはない。それに一つ勘違いしているようだが、あの時俺が世界の破壊者になったのはお前の為じゃない。俺が俺の為になった……それだけだ」
フェイト「っ……零っ……」
なのは達が零を弁護しようとしても、零はそれを突っぱね飽くまで自分の意志で世界を破壊しようとしたと淡々と告げる。そんな零にフェイトも更に思い詰めた表情を浮かべ、理央も零の返答を聞きはやて(別)達と顔を見合わせ頷き合った。
理央「……ならば、お前をこのまま野放しにする訳にはいかない。お前には悪いが、この世界に滞在してる間は俺達の監視下に入ってもらう」
優矢「え?か、監視っ?」
理央「そうだ、この手紙が送られたのは六課だけじゃない。本局にもこれと似たような警告状と映像が送られたらしく、上層部はディケイドに対して警戒態勢を取っている。そんな状況の中で、お前達を自由に出歩かせるわけにはいかない。暫くは自室の外に出ることは禁ずる。その間の食事は、レオンとFWの誰かに部屋にまで持って来させる」
ヴィータ「んだよそれっ…殆ど監禁じゃねぇーかっ!」
はやて(別)「……私等も、ホントはそんな扱いしとうないよ。せやけど、私等はまだ完全に彼の事を信用出来へんし、なにより、彼は世界を破壊出来る力を保有していながら自分でもその力を御し切れてないて言った。もしそれであの映像みたいに暴走なんてされたら、私達に止める術はない。だから、いつ何が起きても良い様に常に目の届くとこに居てもらわんと……」
理央「身の丈を越える力は自身だけでなく、周りをも滅ぼす……お前が暴走して勝手に自滅するだけで済むなら話は別だが、それで俺達の世界まで巻き込まれては堪らんからな。例え暴走しないと言われても、根拠も無しに会ったばかりの人間の言葉を鵜呑みにする程、俺達もお人良しじゃない。俺達はこの世界の市民の命を預かる身だ。そちらが絶対に安全だと保障してもらわなければ、簡単に信用することは出来ない」
はやて「っ…それは……」
確かに、彼等にとって零は今日初めて会ったばかりの他人だ。そんな人間を言葉だけで完全に信用する義理はないし、なにより彼等にだって守る物がある。それを危険に晒す可能性を持つ人間を野放しにする訳にはいかないのかもしれないが、やはり納得は出来ない。どうにか零の処遇を考え直してもらおうと必死にその方法を考えるなのは達だが……
零「――御託はいい。要するにただ部屋に篭ってれば良いだけの話だろう?ならそれでいい」
セッテ「?!零っ…?!」
ギンガ「で、でも、いくら何でもこんなっ…!」
零「別に犯罪者として逮捕される訳じゃないだろう。どうせアズサも暫く怪我で此処から動けんだろうし、どっちみち残る事になる。気にするな」
なのは「だけど……」
心配するなのは達に大丈夫だとは言うが、やはりまだ納得出来ないのかなのは達は不安げに互いの顔を見合わせていき、零はそんな一同から雷達に目を向けて話を切り出した。
零「ただ、アンタ等に二つほど約束して欲しいことがある。それを呑んでくれるなら、俺も大人しくそっちの指示に従う」
雷「?約束……?」
零「そうだ。先ず一つは、定期的でも良いからアズサの見舞いに行かせること。勝手に外に出る事はしないだろうが、もしかしたら、アイツの容態が気になって部屋から勝手に抜け出すかもしれん。どうせ監視も付けるだろうし、同行させて行けば構わんだろ?」
はやて(別)「ん……まぁ、それくらいなら別にええけど……」
零「助かる……二つ目は、紫苑に関しての処遇だ」
紫苑「……え?」
零が雷達に提示した二つ目の約束は、紫苑に関する事。今まで口を閉ざしていた紫苑もそれを聞いて思わず疑問げな声を漏らすが、零は構わず話を続ける。
零「コイツも俺と同じディケイドだが、コイツには俺ほどの物騒な力は持っていない、多分だがな。だから、紫苑に関しては俺みたいな扱いはするな」
雷「それは……ソイツがお前の友人の同位体だから、か?」
零「勘違いするな。ただ単に俺と同じライダーだからと言う理由でとばっちりを受けて、後で文句言われたら敵わんだけだ。お前達が危惧しているのは俺だけなんだろ?だったらコイツにまで同じ扱いをする必要はないし、レオンに配属になる二人がどっちもそれじゃお前達だって困るだろ?」
ただそれだけだ……と、零は其処まで言って口を閉ざした。それを黙って聞いていた光や勇輔は紫苑を庇う零を唖然とした表情で見つめ、雷ははやて(別)の意思を聞こう彼女と顔を見合わせると、はやて(別)は暫く考える仕草を見せた後に仕方ないといった感じに頷いた。
雷「……分かった、出来る限り考慮はする。だがお前は――」
零「何度も言わなくても分かってる、約束を呑んでもらった以上は俺も文句は言わんさ」
再度忠告しようとする雷にウンザリした顔でそう言うと、零はなのは達に視線を向けて口を開いた。
零「んじゃ、お前達は先に写真館に戻ってろ。また何時インフェルニティが現れるか分からんからな。それまでちゃんと身体を休ませて何時でも動けるようにしとけ」
なのは「で、でもっ、二人を残して帰るなんて……」
零「阿呆め、人の心配より自分の心配しろ。お前両手がそんなんじゃ、戦う以前に生活にだって支障が出るだろうが。いいからとっとと帰って安静にしとけ」
なのは「うっ……」
理央との戦いで重度の火傷を負い、包帯でグルグルに巻き付けてるなのはの両手を見下ろしながら溜め息を吐く零。それを指摘されたなのはも言葉が詰まって何も言え返せなくなり、苦笑するはやてとすずかに肩を叩かれ渋々と頷き返したのだった。その端では……
フェイト(……私……私のせいだ……私のせいでっ……)
そんななのは達から離れた場所では、フェイトが一人思い詰めた表情を俯かせて唇を噛み締めていた。祐輔の世界で零が破壊者と化してしまった1番の要因は、自分にある。そのせいで零が雷達から危険視されてしまってるのだと責任を感じ、暗い影を落としながら誰にも気付かれぬよう静かに食堂を後にしたのだった。
◇◆◇
―???―
不気味に輝く生体ポットがズラリと並ぶ薄暗い研究室。暗闇に包まれるその一室には、今現在零達の世界のクアットロが何かが入った巨大なポットの前で端末を操作し、室内にはクアットロがキーボードを打つ音だけが絶え間無く響き渡っていた。其処へ……
―プシュウゥゥゥゥ…―
『―――只今戻りました。そちらの調子はどうです?クアットロ』
研究室の扉がスライドして開き、其処から黒いローブを纏った男……黒月八雲が室内へと足を踏み入れた。そして扉の開く音でそれに気付いたクアットロは操作を一時中断し、部屋の中に入ってきた八雲の方へ振り返った。
クアットロ「えぇ、プラン通り順調に進んでますよ?貴方が先日持ってきて頂いた『オリジナル』の血液のおかげで、"この子"の完成ももうすぐですし……後は簡単な調整を済ませるだけですわ」
『それは何より……こちらも丁度貴方達が雷牙の世界で動きやすくなるように、手回しを済ませてきたところです』
クアットロ「…?手回し?」
八雲の発言にクアットロが疑問符を浮かべながら聞き返すと、八雲はローブの中から数枚の封書を取り出し小さく笑みを浮かべた。
『あちらの世界の機動六課、それと本局の方に危険が迫りつつある事を知らせただけですよ。ディケイドという破壊者の事をね……。これで雷牙の世界に現れた破壊者達も自由には動けず、貴方達も少しは動きやすくなるでしょう。ついでに……』
そう言って八雲は手に握る数枚の手紙を何処かへ消し去り、代わりに一本の金のガイアメモリとガイアドライバーを出してクアットロへと投げ渡した。
クアットロ「ッ!これは……?」
『祝い代わりに用意した、貴方専用のガイアメモリとドライバーですよ。これで貴方も彼等や組織と対等に渡り合える力を得られるでしょう。それと、もう一つ……』
まじまじと八雲から投げ渡された金色のガイアメモリとドライバーを交互に見つめるクアットロにそう告げながら、八雲はもう片方の手を徐に上げて掌を開いていく。その中には、小さな黒い欠片のような物があり、それはまるで何かに呼応するかのように何度も淡く紫色に輝いていた。
クアットロ「?それは……」
『これは"彼女"への誕生日プレゼントです。見覚えがあるでしょ?一時は貴方達が組織を倒す為の切り札として保有し、今はあの出来損ないの下に戻った石……"破壊の因子の欠片"です』
クアットロ「なっ…?!」
八雲の手に握られてるのが、ライダー少女Wの世界で自分がロストを通し黒月零の左目に埋め込んだ破壊の因子の欠片。それを聞いたクアットロは驚きを隠せず、八雲はそんなクアットロを他所にポットの前にまで歩み寄っていく。
クアットロ「因子の欠片……そんな物を一体何処から……?」
『以前お話したでしょう?あの出来損ないは過去に、『アルテマの乱』で自ら因子を捨てて人の身となりました。この欠片は、アレがそのとき因子を捨てた際に欠けた一部分でしてね。それを拾っておいたのですよ』
クアットロ「そんな物が……ですが、何故今になってそんなものを?そんな欠片程度、黒月零の持つ因子に比べれば大した力なんて……」
『いいえ、欠片程度と甘く見てはいけませんよ?確かに力はアレの持つ因子とは比べ物にはなりませんが、それでもこれだけで世界を壊すことなど造作もない。それに、コレが1番面白いのは力などではなく、この欠片の中に内包されているモノ……あの出来損ないの"負の感情"です』
クアットロ「?負の……?」
この欠片には黒月零の負の感情が内包されてる。邪な笑みと共にそう告げた八雲にクアットロが思わず聞き返すと、八雲は紫色に点滅する因子の欠片を自分の耳に近付けた。
『破壊の因子は持ち主の負の感情を取り込むことで、その成長を速めます。過去のアレはそれによって神座へと至る権利を得ましたが、因子を捨てた事で、破壊の因子はそれまでの力を全て失いました。しかしこの欠片の中には、過去のアレの憎悪や絶望、そういった負の感情の濃い部分が内包されてるんですよ。聞こえてきせんか?過去のアレの嘆きが、憎悪が、絶望が、悲痛な叫びが……この欠片から聞こえて来るのが』
クアットロ「過去の黒月零の負の感情……ですが、それが一体何になるんです?」
『おや、分かりませんか?この負の感情が内包された因子の欠片……これをそのクローンに与えれば、彼女は世界の総てを憎悪し、総てを壊し尽くすまで止まらない破壊の化身となるかもしれない。しかもこの欠片は、あの出来損ないの持つ破壊の因子と一つになる事を激しく求めてる……コレは面白い事に使えると思いませんか?』
生体ポットの中で、無数のケーブルのような物で繋がれた人間……バイザーで顔が隠された少女を見つめながら楽しげな声でそう言うと、八雲はポットの表面に手で触れ口元を歪めていく。
『初めて心から愛した女と同じ顔をした人間が、過去に自分が抱いた憎悪と絶望を抱き破壊と殺戮の限りを尽くす……それをあの出来損ないが目にした時どんな顔をするか、実に興味深いでしょう?』
クアットロ「……成る程。しかし私も大概ですけど、貴方も悪趣味な男ですね」
『ええ……今こうしてても愉しみですよ……』
微笑するクアットロにそう言ってクルリと振り返ると、八雲は何処からか数枚の写真……零となのは達の姿が写し出された写真を取り出した。
『何せアレは、この雷牙の世界ごと自らの仲間を手に掛ける事になりますからね……その時にあの出来損ないは知る事になるでしょう。本当の絶望というものが如何なるものなのかを……二度と戻れぬ絶望の淵でね』
口元を歪め、零やなのは達の写真を纏めて握り締める八雲。直後、零達の写真を握り締める八雲の手が不気味な黒い炎に包まれ、写真が徐々に炎に焼かれ灰と化し散っていく。そして八雲はその様子を眺めながら更に笑みを深めていき、灰となった写真を捨てて背後の生体ポット……『No.Φ』と表記されたポットと向き合い因子の欠片をおもむろに翳していくのだった。