仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
――――物心が付いたその日から
俺は、自分が周りの人間とは違うのだと気が付いた。
一輪の花が在る。
そよ風に揺れるその姿を美しいと愛で
散りゆく様を儚いと、誰もが慈しんだ
一つの物語がある。
様々な苦難を乗り越えて、主人公達がハッピーエンドに至るという有り来たりな筋書き
しかし、その険しい道程を、絶望に膝を屈せずに未来を信じて進み続けた彼らの健気な姿に誰もが涙し、拍手喝采を惜しみなく送った
一つの奇跡が有る。
過去に一度流産し、それ以来児を産むことが出来ないと医師に断じられた筈の女が、児を授かり、愛する人に見守られながら我が子を産み落とした
あり得なかった筈の奇跡に、母と父は涙ながら腕に抱いた我が子に、そして児を授けてくれた神に感謝を捧げ、生まれてきてくれた我が子を一生守ってゆくことを誓った
その花の儚さは
その物語の結末は
その奇跡の尊さは
万人の心を打ち、涙し、美しいと口にした
それが普通だと
当たり前のように振る舞う彼らの姿を遠巻きに見つめながら、俺の心の内を埋める感情は一つしかなかった
おぞましい
何故そのような醜いものを愛せるのか
何故そのような汚らわしいものを美しいと感じられるのか
理解出来ない
したくもない
豚の臓物をぶちまけて塗りたくった様な肉塊を見て、感動の念を向けているも同然な連中の感性をどうやって解かれと言うのか
だが、そんな俺の想いとは裏腹に、世界は俺が嫌悪するモノで満ち溢れている
幸福が
希望が
正義が
万人が「美しい」と感じるものを、美しいと思えない
嗚呼―――嫌だ。嫌だ。嫌だ。
何だコレは?何の冗談だ?
汚らわしい
おぞましい
醜いぞ消えてなくなれ
吐き気が止まらない
寒気が収まらない
確かに俺は生きているのに、「生きてる」という実感すら湧かない
周りから聞こえて来る幸せを噛み締めるような笑い声ですら、呻き声や金切り声に聞こえる
ああ
何故だ
何故なんだ
理解不能の不快感が消えてなくならない
視界に映る総てに殺意すら抱く
俺はなんだ?
何故俺は他とは違う?
この言葉に出来ない感情を表すにはどうすればいい?
誰でもいい
何でもいい
この懊悩に応えを―――
◆◆◆
―???―
―――日の光もなく、灰色の暗雲に覆われた荒廃した大地の上を、一迅の風が吹き抜ける。
其処には生命と呼べるものはなく、人や獣、自然が存在していた痕跡らしきものも何一つ存在しない。
それもその筈、此処は生命という概念が生まれ落ちる事がなかった可能性の世界の地球……。
Mundi mortis―――正しく死の世界。
そんな世界に唯一人、黒を基調とした服装の黒髪の青年が、何処か物憂げな表情で灰色の雲を見上げて佇む姿があった。
幸助「――こんな時に限って運が悪い……最期の時は何処か縁の場所をと思って適当に跳んだら、辿り着いたのはこんな世界か……」
やれやれと、肩を竦めて溜め息を吐く青年の名は天満幸助。
断罪の神として様々な世界の住人達を手助けし、或いは救ってきた平行世界の頭役。
―――そして、永い時を生き過ぎた代償により魂が摩耗がし、今正に、三度目の死を迎えようとしていたその人だった……。
―ザッ……―
「―――寧ろ、貴様にしては中々趣のある"死に場所"を選んだのではないか?この荒廃した大地……ああ、此処に立てば鮮明に思い出す……嘗て貴様が戦い抜いた第二のラグナロクの成れの果て、そのものの光景だろう……?」
幸助「……ほざけ。あの時も裏で暗躍し、そう仕向けた貴様が言えた義理か……」
土を踏む音を鳴らし、何処か懐かしむように悦に浸る声を背中越しに聞きながら、幸助は僅かに振り返った先に佇む一人の男を鋭い目付きで睨み付ける。
その服装は常時身に纏っている筈の黒いローブではなく、軍服のような制服に身を包み、両手には白の手袋、黒のブーツ姿という幸助も初めて目にする姿だが、その忌まわしい顔だけは忘れた事など片時もない。
荒れ果てた大地に吹く風に揺れる漆黒の長髪に、三度の死を前にした幸助の姿を愉悦げに捉えて離さない真赤い瞳。
その顔立ちは幸助が知る青年の顔と良く似ているが、その冷酷非情な人格も本性も、奴の息子の彼とは到底似ても似つかない。
―――黒月八雲。
総ての物語からその存在を赦されず追放されながらも、禁忌を破り、未だあらゆる世界の裏で暗躍する男。
―――そして、嘗て天満幸助の妻と親友をその手に掛け、彼等から『人』としての幸福を奪った怨敵であった……。
八雲「驚愕は無し、か……その様子だと、どうやら貴様も薄々気付いてはいたようだな。貴様の三度目の死を、俺がみすみす見過ごす筈がないと」
幸助「当然だろ。生粋のバットエンド主義者のテメェが固執する俺に、自然消滅なんてつまらん幕引きをさせるとも思わんし、貴様の目的も分かってんだよ……俺の"因子"が狙いだって事はな」
左胸を鷲掴み、未だ鼓動が鳴り続ける自身の心臓……断罪の因子を示してそう語る幸助に、八雲は愚問だと言わんばかりに笑ってみせる。
八雲「いつかのあの出来損ないの物語(せかい)でも語って聞かせた通りだ……俺のもう一つの目的の為にも、貴様の因子の真価をこの目で確かめる為にも、お前には存分にその力を振るってもらわなければ困る……ああ、いや、違う。違うな。それだけではないか」
訂正するように呟き、白い手袋に覆われた右手で前髪を弄りながら、八雲は目を細めて口端を吊り上げる。
八雲「貴様を一度殺したのは俺だ。ならばそう、お前が今一度死ぬのであれば、安寧なる死など認めん。他の誰にも渡しはしない。赦しはしない。貴様を最期まで殺していいのは他の何者でもない―――俺だけだろう?」
幸助「……随分な告白だな。俺が女なら、今すぐ助走を付けてその顔にビンタ一つでも叩き込んでた所だ」
八雲「軽口を叩ける余裕があるのなら、消滅までの残りのタイムリミットの心配はいらなそうだな」
フッ……と、八雲の身体が僅かに宙に浮き上がる。それを目にし、幸助も即座に断罪の剣―――メモリアルブレイドを取り出して構えを取ると、八雲は両腕を掲げ謳うように語る。
八雲「―――では、俺からのせめてもの贈り物だ。葬送曲(レクイエム)を捧げてやろう。絶望を奏で、哀絶を歌い、貴様の物語を新たな『悲劇』として彩ろうじゃないか……」
幸助「人の人生の終わりを勝手に決めてんじゃねえよ。俺の結末は俺が決める……テメェとの因縁にケリ付けて、若い連中に後を託すって結末をなァッ!」
力強く地を踏み込み、八雲の目前に瞬時に現れた幸助が横一閃にメモリアルブレイドを振りかざす。
だが、メモリアルブレイドの刃が触れる寸前、八雲の姿が残像のように掻き消えメモリアルブレイドの刃は空を切ってしまい、直後に幸助の背後に八雲が音もなく姿を現した。
八雲「そう急くなよ、断罪の……貴様と戦いを興じようにも、俺と貴様が惜しみなく力を発揮して一度ぶつかれば、この銀河―――いや、世界そのものが一瞬で消し飛び、ロクに戦う事も叶わない……ならば此処は、我々二人に相応しい舞台を用意すべきだとは思わんか?」
幸助「……何?」
どういう意味だ、と険しげな眼差しで八雲を睨み付ける幸助だが、八雲はそれに対して答えず、ただすぐに分かると言わんばかりに不敵な笑みを浮かべ、真赤い瞳を不気味に光らせながらゆっくりと口を開いた。
Omnia eunt more modoque fluentis aquae.
万物は流れる川のように移ろいゆく
Mundus vult decipi, ergo decipiatur.
世界は騙されることを欲している、それゆえ世界は騙される
幸助「……!これは……」
八雲の口から紡がれるのは、正体不明の謎の詠唱。
しかし、その声を耳にした瞬間に背を走り抜ける寒気を感じ取り、幸助は無意識のままメモリアルブレイドを振り下ろした姿勢から瞬時に剣を構え直した。
Damnant quod non intellegunt.
彼等は、彼等が理解しないものを非難する
Cum tacent, clamant.
彼等が沈黙しているとき、彼等は絶叫しているのである
Date et dabitur vobis.
与えよ、さらば与えられん
Ducunt volentem fata, nolentem trahunt.
運命は望む者を導き、欲しない者を引きずる
響き渡る声は静かに、だが無限の情熱を持って綴られる。
魂ごと木っ端微塵に砕けそうな重圧。
紡がれるその謳の一つ一つが、極大の破壊と歓喜を放ち、奴を中心に荒廃した地上総てが焦土と化して燃え盛る。
狂した意志が威圧を伴い、総ての世界から追放されし者の両眼が輝きを増す。
Dum fata sinunt vivite laeti.
運命が許す間、喜々として生きよ
Homo vitae commodatus non donatus est.
人は生命を与えられたのではなく貸されたのだ
Initium sapientiae cognitio sui ipsius.
自分自身を知ることが知恵の始まりである
Fiat eu stita et piriat mundus.
正義を行うべし、たとえ世界が滅ぶとも
Nemo fortunam jure accusat.
誰も運命を正当に非難できない
――――クル。
直感的にそう悟り、次に迫る衝撃に奥歯を噛み締めながら挑み掛かるかのように、八雲を睨み付ける幸助。
直後……
八雲「――Die Geburt der Tragodie (悲劇の誕生)……」
最後の一節が紡がれたその瞬間、荒廃した灰色の世界が光に覆われ、総てを塗り潰したのだった――――。
◆◆◆
――――先ず、一番最初に目にしたのは、眼下に見える青の星だった。
それは、彼も数多の世界で多く目にしてきた人の児達の母なる星―――地球。
つい先程まで、生命の存在を一切赦さない死の星と化していたあの星が、何故青の輝きを取り戻しているのか……。
その答えは、今自分が立つ此の空間が示していた。
幸助「―――地球の……真上か、此処は……」
死の星の地上を踏み締めていた筈の己の足が、いつの間にか宇宙空間を漂っている。
一体何が起きたのか、余人には理解不能の超展開。
だが、断罪は既に、この異常の正体に気付いていた。
「―――そう。これが俺の描く流出(ものがたり)だよ……断罪の」
無が支配する静寂の中、空から声が響き、顔を上げる。
其処に視えたのは、目映い太陽の輝きを背に幸助を見下ろす軍服姿の男……。
愉悦の相を隠そうともせず、笑みを貼り付けたまま、八雲はまるで愛児でも見るような眼差しで語る。
八雲「俺の渇望、俺の本性、俺の業……それらが形を成し、生まれ出たのがこの世界―――いや、そう呼ぶほど仰々しいモノでもないな……今この瞬間は、俺と貴様が歌劇を舞う為だけのただの舞台と思えばいい。俺達の闘いに、あの世界(フィクション)は脆すぎる……この世界でなら、俺達の力の拮抗にも耐え、野暮な連中の横槍を気にする必要もなく存分に戦えようさ」
幸助「…………」
そう語る八雲の言葉を耳に、幸助は眼下に映る地球を見下ろし、思考する。
恐らく此処(この世界)は、八雲の言葉通り、奴がイレイザーの力で生み出した新天地……
……いや。恐らく元々あったあの死の世界を自身の理の形にデフォルメし、その上に、知覚不可の己の世界を生み出したのだ。
例えるのであれば、古びた紙の上に、全く同じサイズの新しい紙を乗せて重ねているようなものか。
別次元の並行して存在する並行世界とも違ければ、嘗てイレイザーとなった零が、雷牙の世界を無理矢理己の物語に書き換えた訳でもない。
この世界は、あの死の世界の上に均等に重なり、現状"全く同じ次元に、あの死の世界と八雲が生み出した世界が同時に存在しているのだ"。
本来の常識下であれば、不可能な所業。
最早天地創造の域のその業を成しているのは、偏にイレイザーの力だけではない、八雲という男の規格外さが可能としているのだろう。
幸助「出鱈目な奴め……イレイザーの分際で世界を創り出すだなんて真似事、自分が神と同格になったとでも自慢のつもりか?」
八雲「それは少し違うな、断罪の。俺は神などというフィクションの象徴のソレではない。……単にこの物語(せかい)を描くだけの、ただの物書き風情に過ぎんよ」
八雲の視線が僅かに眼下の地球……其処に生きる、八雲の渇望から生まれ出た何も知らない人々に向けられる。
だが、その瞳の内には感情と呼べるものが宿っておらず、ただ何となしに、道端に転がる石に気付いて目を向けたのと同じ意味に過ぎない。
八雲「この力は、上級イレイザーの中でも極めて極大な渇望を抱く者にしか開眼出来ない禁忌の中の禁忌……しかしその実、自らの内の渇望を垂れ流し、形を成したソレを貴様の言うように神の真似事で見せられるだけの退屈な物に過ぎん」
そう呟き、直後、地上の何処かで巨大な大爆発が巻き起こった。
それも一つだけではない。
日本、アメリカ、イギリス、中国等の各国から無数のドーム状の爆発が次々と連鎖的に発生していき、人々も突然の混乱に悲鳴を上げ、逃げ惑い、ただただ絶望だけが加速的に世界中に広まっていく……。
その光景は正に、阿鼻叫喚が絶え間なく響き渡る地獄絵図。
そうとしか呼ぶ事が出来ない光景を天上から見下ろし、八雲は声音一つ変えずに語り続ける。
八雲「俺の渇望は『至高の悲劇を望む事』……それで生まれたこの世界はどうだ?なんでもない……"ただこの世界に生きる者総てが、幾ら努力し、善行を重ねても、救いようのない悲惨な悲劇の結末にしか至れない"……ただそれだけの世界だ。ああ、実に面白味がない。悲劇とは名ばかり。幾ら数を重ねようとも所詮は有象無象。役者が悪ければどれも二流以下の歌劇しか生まれない……それでは俺の餓えは満たされはしないのだよ」
だからと、長い前髪を掻き分け、八雲は幸助をその目に捉える。
八雲「この箱庭(せかい)は狭い……ただ紙の裏につまらない文字を書き起こして並べるだけの一人遊びにも飽いた……。此処で得る肥料も水も、俺にとっては枯れ井戸でしかいない……分かるか断罪の?俺の喉を潤せるのはあの出来損ないでもなければ、七柱神でも、烏合の異世界の連中でもない……貴様という主役がいてこそ、始めて成り立つものなんだよ」
幸助「……能書きはそれで終わりか……?生憎、こっちはテメェのくだらねえ趣味に付き合う気はねえんだよ」
そう吐き捨て、幸助は手に握る断罪の剣を八雲に突き付ける。
力の矛先をはっきりと、戦意と共に怨敵に翳す。
お前を殺す。ただその意味だけを込めて。
幸助「テメェの渇望だの、渇きだの知った事じゃねえ。俺がやるべき使命は今も昔も変わらない……貴様の大罪を此処で断罪する……他に語るべき事は何もない。ただそれだけの話だっ」
八雲「…………」
この男に対し、一切の怨念がないのかと聞かれれば、無論あるに決まっている。
幾ら億数年の時を重ねようとも、例え万が一、運良く三度目の死を免れてこれから更に数千と時が経とうとも、自分達の幸せを奪い、妻と親友を殺し、自分達の故郷だった世界を滅びへと誘ったこの男だけは決して許せない。許せる筈も無い。
しかしそんな怨念も多忙な断罪の神の使命で心の底に仕舞い込み、この男を倒すのは奴の息子である零達の役目だと思っていたが、今のままでは八雲を倒すどころか、逆にこの男の暗躍に圧し潰されてしまう可能性の方が高い。
ならばせめて、この最期の瞬間、先に逝く者として、後の未来を往く若者達が道を切り拓けるように布石を残す。
それが今の自分に残された最後の役目だと、そう告げる幸助のまっすぐな眼差しを正面から受け、その時……
―ザザザァッ……ザザザザザザザザザザァアアッ……!!―
『――――――――――ッッッ!!!!!!!!!!』
――八雲の脳裏を、一瞬だけ駆け巡ったノイズ混じりの記憶……。
禍々しくも神々しいその姿……。
漆黒の翼にも似たマントを羽ばたかせ、この世総て、森羅万象を破滅へと誘わんとする『鬼神』の姿を垣間見た。
八雲「――――く、は」
その瞬間、その口から不意に、僅かに何かが漏れる。
もちろん、それが何かは知っている。
今までも数多の世界で暗躍してきた頃、フードで顔を隠し、イレイザーとしての側面を前面に押し出していた自分が散々やってきたことだ。
だが、これは初めてだ。
八雲「はは……く、ははは……ははっ……」
イレイザーとしての側面の自分ではなく、"黒月八雲"として声を出して嗤うのは、一体どれほど以来だったか。
久しい故に、我ながら上手く出来ない。
どうにかこの気持ちを表現したいが、これでは嗚咽のようにも見える。
いや、最早それでも構わないか。
いいぞ、ああ、もう面倒だ。
奮わせてくれ。
泣かせてくれ。
この身は総て、人の世の悪性しか愛せない破綻者。
希望よりも絶望を。
正義よりも悪を。
喜劇よりも悲劇を。
そんな歪んだものしか愛せず、認められず、それらを愛する事でしか抱けなかったこれを、心の底から吐き出させてくれ―――
八雲「はッははははははははははははははははははははッ!!!!ははははははははははははははははははは――――――ッ!!!!!!」
幸助「?!」
天上の宇宙を仰ぎ、突如八雲が歓喜の哄笑を上げる。
そんな八雲の突然の反応に幸助も驚愕を露わにするも、八雲はそんな幸助を他所に、止めどなく湧き起こる歓喜に身を奮わせて幸助を見据えた。
八雲「くく、くくくくくく……アァ、そうか、そうなのか……やはり貴様が"そう"なのだな……であるなら、俺が此処まで貴様という存在に固執するのも道理なのか……」
幸助「っ?何言ってやがる?いきなり何の話を―――!」
突然不明な台詞を口にする八雲に眉を顰め、思わず幸助が聞き返そうとしたのと同時だった―――
Aut disce aut discede.
学べ、さもなくば、去れ
幸助「――!!?な……」
突如八雲の口から歌われる詠唱。
その瞬間、まるでそれに呼応するかのように二人が浮遊する空間が不気味に震え出し、幸助は背筋を駆け抜けたその不吉な予感に釣られるように天上の八雲を仰いだ。
Vivere disce, cogita mori.
生きることを学べ、死を忘れるな
幸助「ま、さか……止めろぉおッ!!八雲ぉおおおおおおッ!!!!」
二節目の詠唱を耳に、八雲が何をしようとしているかなど考えるよりも先に予想し、断罪の剣を手に幸助が飛び掛かる。
しかしその刃が届くよりも早く、八雲は幸助と眼下の地球を真赤の瞳に捉えながら白い指を差し向け、直後、二人の間に白光が発生したと共に幸助と八雲を呑み込み、
Alea iacta est!
賽は投げられた!
最後に紡がれた一節と共に
光は一瞬で太陽系全域へと広がり
やがて太陽系そのものを呑み込み、一瞬で全てを消滅させてしまったのである。
幸助「グッ――あああァッ!!!!」
無数の星々が爆発して発生した膨大なエネルギーが、幸助を飲み込んでその身を焼き尽くしていく。
並の者ならば、最初の衝撃だけで細胞一つ残らず消し飛ぶ程の業火。
しかしこの男も、かの断罪の神と呼ばれた男。
たかだか太陽系の星々が消し飛んだ程度の爆発でどうとでもなる筈もなく、体内の神氣を開放して衝撃波を放ち、身を焼く焔を払い除けた。しかし……
幸助「ッ……地球が……」
幸助の目に映るのは、元の原形が何一つ残らず無へと消え去り、先程まで地球が存在していた筈の空間。
消えてしまった。何も出来ず、こんな簡単にも、地球の人々が……。
「―――何をそんなに憂えている?この物語(せかい)は俺の渇望から生まれた独りよがりなモノ……いずれ悲劇の結末に至り、初めから死が前提で生まれた連中のことなど気に掛けてどうする?」
幸助「ッ……!」
背後からの含み笑うような男の声。
振り返り、剣を突き付けた先には、やはり幸助と同様に無傷で宇宙空間を悠然と漂う八雲の姿があった。
八雲「それよりもだ、今は先の一撃にも耐えてみせたこの物語(せかい)の健在を喜ぶべきではないか?ああ、実の所、俺も驚いている……この身は罪の体現、無数の業と共に我が身は在り、罪業が何処かで生まれる度にその力を増す……故に永く、全力を出す事も叶わなず億劫の時を歩んできた……」
しかしだ、と、八雲は間を置いて言葉を区切り、威圧を伴い真赤の両眼が輝く。
放たれるのは極大の戦意。
宿っているのは堪え切れぬ歓喜……その一色のみ。
八雲「信じられるか……?抱擁どころか、柔肌を撫でるだけで脆く枯れ落ちる目の前の光景が、今も俺の前にある。あるんだよ。それだけで心が躍る、無垢の子供のようにな。散々味わい続け、飽いた既視感も既知感も今はない……」
それはこの物語(せかい)が突出して頑丈だから……という訳ではない。
幾らこの世界が強靭な基盤を持とうとも、この世総ての罪業をその身に力とする八雲が詠唱(うた)を一度口ずさめば、それだけで数多の世界を破壊する災厄そのもの。
故の存在を赦されぬ存在であり、大罪者の烙印である「罪」の属性なのだ。
それでもまだこの程度の規模にまで被害が抑えられているのは、偏に幸助の内に宿るもう一つの因子……原罪を裁く役目を持つ「断罪の因子」の影響力が大きい。
だからこそ……
八雲「貴様の因子によって余分な力が削ぎ落とされ、俺はより『全力』を出す事が出来る。一方的な殺戮でもなければ、屈服させる為でもない。殺し、殺されるかの本気の殺し合い……それが叶うのはお前とこうして対峙した時のみだ。そういった意味でも、お前は俺にとって唯一無二の存在だよ。今この時、俺に確かに「生きている」と実感させてくれるのだからな……」
幸助「……そんなくだらないモノの為に、意味もなくこの物語(せかい)の人類を滅ぼしたと言うのかっ……」
八雲「何を其処まで気にする?元よりこの物語は、俺と貴様の闘いの舞台として描き起こしただけのもの。どの道この物語の理もある以上、遅かれ早かれ死に絶える運命だ……それに言った筈だぞ、葬送曲(レクイエム)を捧げてやると。貴様の事だ。どうせ異世界の連中どころか、伴侶の女神達にも何も言わず此処まで来たのだろう?」
幸助「…………」
まるで見透かすような視線を向けてそう告げる八雲に、幸助は口を結んで無言を通す。
図星なのか、それとも律儀に受け答える必要はないという意思表示なのか。
いずれにせよ、八雲は僅かに目を細めながら語り続ける。
八雲「誰にも知られず、看取られる事なく孤独に逝くぐらいなら、せめて寂寞を抱かぬように大勢の同志を連れて逝かせてやろうと、俺なりの気遣いのつもりだったのだがな……気に入らなかったか、断罪の?」
幸助「ふざけるな……そんなことを決める権利が貴様にあるのかっ!」
八雲「愚問だな……俺が俺の描いた流出(ものがたり)の登場人物を気に掛ける必要が何処にある?それにコレが初めてという訳でもない。あの出来損ないの因子……破壊の因子をスカリエッティの一味に授ける前、この物語を展開して破壊の因子の力を持つ新たなクリエイトの幹部候補のイレイザーを生み出せないか、何度も実験を繰り返した末、人類滅亡など何度も繰り返した……結果は察しの通りだったがな」
そう語りながら八雲が思い出すのは、何度もこの物語の流出を行い、破壊の因子をこの世界の中に落としてから紡がれた、どれも到底物語とは呼べぬくだらないモノばかり。
ある時は、破壊の因子を手に入れて悪用し、世界中を巻き込んだ戦乱を招いた悪しき者を討つ為に、後の世に英雄と呼ばれる事になる者達が立ち上がって悪しき者を討った事もあれば
この物語の真実に気が付き、破壊の因子の力を使って八雲の下にまで辿り着き、この物語(せかい)を守ろうと挑んできた者もいた。
他にも似たような事はあるにはあったが……その中でイレイザーに至る者もいなければ、破壊の因子の力を真に正しく発揮出来た者は誰もおらず、結局は実験失敗の下に八雲の手で残らず消滅したのが共通する結末……。
アレは実に無為な実験だった。そう考えながら、八雲は徐ろに片手を頭上に掲げていく。
八雲「……いずれにせよ、死を目前にしてくだらんセンチメンタルに囚われる余裕はないぞ……?今この瞬間ばかり、もう加減はせんと決めている……すぐに余計な思考も出来なくなろうさ……」
Qui parcit malis, nocet bonis
悪人を許す人は、善人に害を与える
幸助「ッ……!八雲ッ!!」
再び八雲の口から紡がれる詠唱。それを見て、幸助も即座にメモリアルブレイドを両手で構えた。
Nec possum tecum vivere, nec sine te.
私はおまえとともに生きていけない、おまえなしに生きていけない
Respice, adspice, prospice.
過去を吟味し、現在を吟味し、将来を吟味せよ
幸助「オールフォームブレイクッ!」
二節目と三節目の詠唱。その詩を耳に幸助が高らかに叫ぶと共に、その身から無数の自身の分身……一人一人姿が異なる仮面ライダーメモリー達を生み出した。
ノーマルフォームとファイナルフォームを除き、イフリート、ウンディーネ、シルフ、セルシウス、ノーム、ヴォルト、アスカ、ルナ、シャドウ、マテリアル、ガイア、クリスタル、パーフェクト、スペリオル、スペリオルファイター。
本来であれば、ファイナルフォームの能力である全てのフォームの実体化。それを生身だけで実行すると言う離れ業をやって退けつつ、直後に分身のメモリー達はそれぞれの武器に素早く力を収束させながら八雲に向けて身構えていく。
Jucunda memoria est praeteritorum malorum.
過ぎ去った苦しみの思い出は、喜びに変わる
メモリーI『業火爆炎!インフェルノブレイカーッ!!』
メモリーU『飲まれろ流水の槍撃!アクアランサーッ!!』
メモリーS『荒れ狂え風の弓激!テンペストアローッ!!』
メモリーG『大地のスコップの一撃!アーススティンガーッ!!』
メモリーC『氷華の乱舞!アブソリュートブレイクッ!!』
メモリーA『光の砲撃!解き放て!!アスカバスターッ!!』
メモリーL『天の裁きよ、降り注げ!!ルナジャッジメント!!』
メモリーSW『闇の終焉にて食われて消えよ!ダークネスハウリング!!』
メモリーM『全ての属性の一撃を喰らえ!エンドオブ・マテリアルブレイカーッ!!』
メモリーGA『星よ、我が一撃に力を!エンドオブ・ガイアブレイカー!!』
メモリーCS『光と闇のクリスタルよ、我に力を!!エンドオブ・クリスタルブレイカーッ!!』
メモリーP『全ての力を一つに……これが完全なる一撃!!エンドオブ・パーフェクトブレイカー!!』
メモリーSP『グオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーー―――――ーッッッ!!!!』
メモリーSPF『ダブル・エンドオブ・スペリオルブレイカーッ!!!』
八雲の詠唱を掻き消さんとばかりに、怒号にも似た雄叫びを上げながら必殺技の発動準備を行うメモリー達。
対する八雲はそんな光景を目の当たりにしながらも臆するどころか薄い笑みを浮かべ、片腕を天上に掲げたまま、この物語の外に存在する無数の並行宇宙・並行世界にまで干渉、その内部の天体の配列を操作し、この死の世界と二人が存在する物語の外側に並べ始めていた。
その数はこの短時間で百、千、万……否。恐らくそれらを上回る数の天体を集め、八雲は不気味に輝く瞳で幸助達を見下ろしながら高らかに叫ぶ。
八雲「それでこそだ断罪の。さぁ、最期の恐怖劇(グランギニョル)を此処に……!盛大に祝おうか天満幸助!冥府への門は目の前だ!故に滅びろ!至高至天の悲劇に散る花と成れッ!!」
幸助「吐かせッ……!どちらが滅びるか知るのは貴様だッ!俺が遺すのはテメェに捧げる悲劇じゃねえっ……!アイツ等がこれからを歩む為の途だッ!故に滅びろ!未来を照らす道標の礎となれッ!!」
そして、二つの絶対が激突する。
まるで闘いの開幕を告げるかのように、一斉に撃ち放たれた分身のメモリー達の業と共に、剣を振り抜いて幸助が一息で跳び
迫り来るメモリー達の業の轟音により音が掻き消された最後の一節を八雲が口にすると共に、二つの世界の外側に集められた無量大数の宇宙・世界が極大規模の大爆発を連鎖的に起こしていき、そして……
幸助/八雲「「行くぞォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!!!」」
―――宇宙が先程の比にならない白い光に覆われる寸前
断罪の剣が悲劇の天使の頸に目掛けて振りかざされ
振るわれた白い指が断罪の神の額に向けて焔を放ち
二人の男の咆哮と共に、文字通り総てを巻き込んだ闘いが火蓋を切って落とされたのだった―――。
黒月八雲 設定(随時設定を更新予定)]
黒月 八雲
性別:男
年齢:外見は二十代後半だが、実年齢は不明。
容姿:漆黒の長髪に真赤い瞳。
解説:黒月零の実父で様々な事件の裏で暗躍してきた黒幕であり、自身と同じく全ての物語から追放された上級イレイザーのみで編成された組織『クリエイト』のメンバーの一人。
過去の黒月零と当時の彼の仲間達が関わったと言われる『アルテマの乱』で零達を陥れ、嘗ての時の神、破壊の神、究極と狂気の神を殺害、神道拓斗の世界でのグリード達の復活なども彼の手によって引き起こされた。
『至高の悲劇を味わいたい』、『誰もが絶望に身を堕とす姿をいつまでも見ていたい』といった歪んだ極大な渇望を抱いており、その渇望から多くの人間を嵌め、欺き、最悪の事態に仕向け、自らの望む『至高の悲劇』を創り続けてきた。故に、彼によって総てを狂わされた人間も数知れない。
その危険な思想と本質から八雲のイレイザーは『罪』の属性を司る者として誕生したが、それにより八雲は最悪な力を身に付ける事となってしまう。
八雲のイレイザーとしての能力は、『存在する罪(大小問わず)の数と、それらの罪の重さから強くなる』というものであり、これは八雲が犯した数が多ければ多いほど、犯した罪が重ければ重いほど戦闘力が増大するというもの。
聞いているだけでは大した事のない普通の能力のように思えるが、上記の能力は八雲がまだイレイザーに目覚めたばかりの頃の能力であり、八雲はこの力を利用して成長を続けていき、遂には規格外の化け物にまで上り詰めてしまう。
初期の頃の能力はあくまで八雲の犯した罪にだけ当て嵌まるものだったが、八雲の能力が成長するに伴い、対象が八雲自身だけでなく『存在する全ての物語の中の人間達が持つ、総ての罪の数とその重さから戦闘力が増す』というデタラメな能力にまで進化してしまう。
これにより八雲は自身の罪だけではなく、無限に存在する全ての物語の人物達の持つ罪(大小問わない)の数と重さが八雲の戦闘力として反映され、更に罪を犯す罪人が何処かで増える度に、新たな物語が生まれる度に強大化する化け物と化してしまう。
全ての物語の人物達の持つ罪を自らの力として得る為に、その戦闘力は未知数。彼と戦った事があるユリカや古い友人であったドール曰く、『彼がその気になれば多次元宇宙を一瞬で消し飛ばせる』らしい。
加えてイレイザーの能力がなくとも八雲自身の純粋な戦闘力は最強クラスとされており、例え零達一行が如何なる手段を問わず全力で挑んだとしても瞬殺、良くても秒殺が関の山であるらしく、ユリカも自身の弟子に『絶対に手を出すな』と言わしめるほど。
だが、それ故に『全力』を出せない事に憤りを感じており、その憤りを鎮める事を目的の一つとして悲劇を求めている。
『罪』の属性を司る事から『断罪』の因子を持つ天満幸助とは相性が悪く、彼と対峙して向き合うだけで著しく弱体化するという弱点が存在する。
幸助に目を付けたのもそれが理由と思われるが確かな真相は不明であり、彼と彼の大切な人達の人生を悲劇で彩り目茶苦茶にした上で彼等の命を奪うという非道を行うが、断罪の神に転生した幸助と、弱体化した上でなら『全力で戦える』という微かな愉しみを抱いている。
古い友人であるドール曰く、人間だった時代の八雲は今よりも人間らしく、ある世界では『英雄』として称えられた事もあったらしいが、この頃から彼の価値観と一般的な価値観の相違はあったとの事。
実は、今の宇宙が誕生する以前の宇宙……前世である古代宇宙時代(真・仮面ライダークロノス)から幸助達と出会っており、彼等との因縁が始まったのもこの頃からとされている。
更に現世の八雲は古代宇宙時代の記憶を僅かながらにだが受け継いでおり、この記憶の解明も目的の一つとし、その一環として記憶の底に根付いているベルトの設計図と技術を元に、クロノスの発展型である『NEOクロノス』を開発するが、幸助の持つ因子がなければその真価は発揮されない為にリミッター的な役割とされて使用されている。