仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
―市街地・南区―
ディケイドとテュフォンが戦闘を開始したのと同時刻。未だ収まる気配のないパンデミックの出現は街の南に位置する区域でも同様に発生し、無差別に破壊の限りを尽しながら人々を襲うパンデミックの大群で溢れ返っていた。
―――つい先程までは、の話だが……
―バキィイイイイイイイイイイイイイインッ!!!―
『ギギャアァアアアアアアッ!!?』
街の一角にて、断末魔にも悲鳴と共にパンデミックの一体が壁に勢いよく叩き付けられ、そのまま地面に倒れると共に爆発して散る光景があった。そして、その"最後の"パンデミックを撃退した人物……ストライプのスーツに、黒い営業鞄という如何にも胡散臭い格好の青年はパンデミックを蹴り飛ばした際に突き出した右足をゆっくりと下ろすと、乱れた裾を整え直し、黒煙が立ち上る空を見上げて目を細めた。
「やれやれ……せっかく黒月の新しい災難を影から愉し―――もとい、生暖かく見守っていたってのに、何処の敵さんも空気を読んでくれないねぇ、まったく」
ふぅ……、と何気に酷い事をぼやきながら落胆を込めて溜め息を吐く青年だが、それも一瞬。右手にぶら下げる営業鞄を一瞥した後、青年は踵を返して街の中央区の方へ振り返る。
「ま、それを見越してのあのドライバーだった訳だけどもね。……テストプレイを見るついでに、少しばかりつっ突きにでも行ってみますかっと」
辺りの悲惨な状況に似つかわしくない軽い調子でそう呟くと共に、ストライプのスーツの青年……早瀬文臣はその顔に不敵な笑みを張り付けたまま、中央区を目指して徐ろに歩き出してゆくのだった。
◆◇◆
―中央区・旧モール街―
―バシュウゥッバシュウゥッバシュウゥッ!!!―
テュフォン『そらそらそら逃げろ逃げろォッ!!一発でも貰えば一瞬であの世逝きだぞクソガキィッ!!』
ディケイド『チィッ!!』
一方場所は戻り、ディケイドはテュフォンとの戦闘の最中で周囲の被害を考慮し、戦いの場を中央区内にある潰れた店舗が並ぶ旧モール街に逃げ込み、後方からヒュドラの首を用いて炎弾を乱射しながら追って来るテュフォンをライドブッカーGモードで迎撃していた。だが、テュフォンは黒い弓でディケイドが放つ銃弾を容易く弾きながらヒュドラの首から絶える間もなく炎弾を放ち続け、その猛威にディケイドもいよいよ堪らずビルの一角に身を潜めてしまう。
テュフォン『おいおい、何だよ口ほどにもないじゃないか。よくもまぁそのザマで俺を倒すだなんてほざけたなぁ、えぇ?もう臆病風にでも吹かれたのかよ?』
ディケイド『ッ……毒なんてセコい真似を使う奴が良く言うっ……』
愉快げに煽るような言葉を投げ掛けるテュフォンに反論して毒づきつつ、ディケイドは右腕の傷の具合を確かめる。ヒュドラの毒が進行している影響か、傷口は先程よりも毒々しい緑色に変色しており、素人目から見ても一目でマズイ状態だと分かる程に悪化していた。
ディケイド(……此処に辿り着くまでに大体で約十分……奴の言葉が本当だと仮定すれば、残り二十分までに解毒しなければ俺の命も其処までって事になるが……クソッ……奴自身はともかく、あの蛇共が厄介だなっ……)
一対一で戦うならともかく、あの猛毒持ちのヒュドラ達があっては下手に近づく事も叶わないが、かと言って遠距離からの攻撃もあの九つの首に遮られて無力化させられてしまうのは既に確かめ済みだ。
ディケイド(今の身体のコンディションも考慮して、アレを相手に正面からの正攻法は避けるしかない……そうなると残る手は、搦め手で奴の不意を突き、思わぬ事態に動揺した瞬間を狙って全力の一撃を叩き込み、一瞬でカタを付け……っ……付けるしかないかっ……)
大きく深呼吸しようとして、全身に痺れるような痛みが走る。恐らく毒が全身に回ってきた証拠なのだろうと思考しながら、ディケイドはライドブッカーを開いてカードを一枚取り出した。
ディケイド(チャンスは一度切り……分の悪い賭けではあるが、一か八か……賭けるしかないっ……!)
『ATTACKRIDE:―――』
テュフォン『ハッ!何をする気か知らないが、みすみすやらせるとでも思ってんのかァッ?!』
『『『『シャアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアアアァァァッッッッッ!!!!!』』』』
ディケイドが身を隠すビルの一角から鳴り響いた電子音声を耳に、テュフォンは背中から伸びたヒュドラの首達を一斉にビルの一角に身を潜めるディケイドに目掛けて放ち、ビルの一角を噛み砕くが……其処には何故か、ディケイドの姿が何処かへとなくなっていた。
テュフォン『ッ!消えた……?』
―バシュウゥンッ!―
『ハァアアッ!!』
テュフォン『ッ?!何?!』
ディケイドの姿が消えた事に動揺するテュフォンだが、そんなテュフォンの真横の窓に映る鏡から、突如不意を突いて一人の赤いライダー……龍騎にカメンライドしたディケイドが拳を振りかざして飛び出して来たのだ。その思わぬ不意打ちにテュフォンも思わず驚愕しながらも反射的に身体を反らしてD龍騎の拳をかわすと、D龍騎はそのまま反対側のビルの窓ガラスへ吸い込まれるように飛び込み、ミラーワールド内へと逃げ込んだ。
テュフォン『チィッ!咄嗟にミラーワールドに避難してこっちの攻撃をやり過ごしたって訳かっ!小癪なぁ……!』
しかし、それは逆にこちらとしても好都合とも言える。鏡の中から出てくると分かっていれば、自分の周囲の鏡に警戒して出てきた瞬間を狙ってしまえば一撃で仕留める事が出来ると、テュフォンは黒い弓を引き絞りながら周りの窓ガラスに忙しなく狙いを定め、D龍騎がミラーワールドから飛び出してくる瞬間を狙うも、その時……
『ATTACKRIDE:THUNDER!』
―バチィイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!―
テュフォン『……?!なっ?!』
鏡ばかりに気を取られているテュフォンの背中に目掛けて、テュフォンが弓を向けるビルとは反対側のビルの中から一筋の稲妻が放たれてきたのだ。反応が遅れて慌てるテュフォンだが、ヒュドラの首の一つがテュフォンを守るように雷撃を代わりに受け止めて凌ぎながら、すぐさま他のヒュドラの首が稲妻が放たれてきたビルの中に向けて火炎弾を放つと、暗闇に紛れる一人の青いライダー……ブレイドにカメンライドしたディケイドは咄嗟に火炎弾を避け、再びビルの暗闇に紛れ身を隠した。
テュフォン『っ?!いつの間に反対側のビルに……?―ズドドドドドドドドドドドドドドドォオンッ!!!!―なあっ?!』
つい今し方、ミラーワールドに逃げ込んだ姿を目にしたばかりのD龍騎がいつの間にかブレイドに姿を変え、反対のビルの中に消えていく姿を見て疑問を抱くテュフォンだが、そんなテュフォンの周囲に突如空から無数の火炎弾が降り注いで襲い掛かった。突然の攻撃に驚きながらもテュフォンが空を見上げると、其処にはビルの上の階層の壊れた窓から身を乗り出し、太鼓の撥のような武器で肩を叩きながらテュフォンを見下ろす鬼の姿のライダー……響鬼にカメンライドしたディケイドの姿があり、D響鬼はそのまま先程のDブレイドのようにビルの奥へと引っ込んで姿を消していく。
テュフォン『またっ?瞬間移動か何かかよっ……!ガキがちょこまかとっ……鬱陶しいんだよしゃらくせえェえええええええええええッッッッ!!!!!』
『HYDRA ENERGY STRIKE!』
『『『『ギシャアァアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアアアァァァッッッッ!!!!!』』』』
ディケイドに翻弄される今の状況に憤慨し、痺れを切らしたテュフォンはバックルのハンドルを再度押し込むと共に背中から伸びた九つのヒュドラの首を一斉に飛ばしていき、今度こそディケイドが逃げられぬように両側のビルを貫いていった。が……
―……ガシィッ!!―
テュフォン『―――?!な、にっ……?!』
ヒュドラ達が両側のビルを貫いた直後、突然、ヒュドラ達が両側のビルに突き刺さったまま何かに掴まれたように見動きが取れなくなってしまったのだ。予期せぬ事態に陥り、困惑を露わにヒュドラ達を引き戻そうと足掻くテュフォンだが、そんなテュフォンの意志とは裏腹に一向にヒュドラ達が戻ってくる気配がない。それもそのハズ……
―グググググググググッ……!!!―
『ギシャアァアアアアアアアアアッ!!シャアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』
Dクウガ『―――捕まえた、ぞっ……!!』
Dファイズ『グッ!クッ……!!』
D電王『このっ……!大人しくしろっ!!』
Dキバ『グウゥッ!!』
ヒュドラ達が貫いた両側のビルの内部では、それぞれ九人のライダー達……ディケイドがイリュージョンを用いて生み出した分身達がカメンライドしたDクウガ、Dアギト、D龍騎、Dファイズ、Dブレイド、D響鬼、Dカブト、D電王、Dキバが九頭のヒュドラの首を捕らえて必死に抑え込んでいるからだ。そして、ビルの中でそんな事態になっているとも露知知らず、テュフォンが未だヒュドラ達を引き戻そうと躍起になる中、其処へ……
『『ATTACKRIDE:TIME QUICK!』』
―シュンッ!ズバババババババババババババババババババババババババァアッ!!!!―
テュフォン『ッ?!なっ……ヒュドラの首が?!』
突如何処からか鳴り響いた電子音声と共に、黒と青の二つの閃光が目にも止まらぬ速さで現れ、テュフォンの背中から伸びたヒュドラの九つの首の間を駆け巡りながら一瞬で細切れにしてしまったのである。直後、テュフォンの左右に二人のライダー……分身のディケイド達が変身したDクロノスとDキャンセラーがタイムクイックを解除して姿を現し、そのまま続け様にそれぞれの手に握り締めた剣と刀を振りかざし、すれ違いにテュフォンに一閃を叩き込んだ。
―ガギィイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイィンッ!!!―
テュフォン『ガァアアアアアアァッ?!!ぐっ、チキッ、ショウがァアアアアアアアアアッ!!!雑魚の分際で小賢しい真似をォオッ!!!一体どれだけ分身を―――!!!』
『―――安心しろ。コイツで打ち止めだ……』
『ATTACKRIDE:BURST HAMMER!』
テュフォン『ッ?!―ズドォオオオオオンッ!!!―がはぁああああっ!!?』
高まる苛立ちのあまり激昂の雄叫びを上げるテュフォンの背後から、電子音声と共に聞こえた声。それに釣られるように振り返った瞬間、テュフォンの顔面に炎を纏った右ストレートが叩き込まれて後方にまで吹っ飛ばされていったのだった。そして、テュフォンを殴り飛ばしたバッタの姿のライダー……firstにカメンライドしたディケイドはテュフォンを殴った右手首を軽くスナップさせてから叩くように両手を払い、ライドブッカーから一枚カードを取り出してバックルに投げ入れ、スライドさせた。
『FINALATTACKRIDE:FIR•FIR•FIR•FIRST!』
―バチィイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!―
Dfirst『はぁああああああっ……ハァアアッ!!』
ディケイドライバーから響く電子音声と共にDfirstの両足から電流が走り、直後に凄まじい勢いの雷を身に纏いながら空高く跳躍して飛び上がる。そして、殴り飛ばされたテュフォンがユラリと立ち上がる隙に空中できりもみ回転から跳び蹴りの態勢を取り、
Dfirst『電光ライダーキックッ……!!!ゼェエヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアアァァァッッッッ!!!!!』
テュフォン『クッ……ッ?!グゥアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!』
―ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーオオオォンッッッッ!!!!!―
眩い稲妻を撒き散らしながら放たれたDfirstの電光ライダーキックがテュフォンに炸裂し、Dfirstの全力の一撃をまともに受けたテュフォンは断末魔の悲鳴と共に爆発を巻き起こし炎の中に呑み込まれたのであった。そして、テュフォンが呑み込まれた爆発を背にDfirstも着地し、Dクウガたち分身を消して一人に戻りながらディケイドへと戻ると、若干ふらつきつつも起き上がり、右腕を抑えながら未だ轟々と燃え盛る炎を見つめていく。
ディケイド『ッ……どうにか上手くいったか……成功するか微妙だったが、思ってたよりも短絡的な奴だったのが功を奏したな……』
テュフォンに気付かれぬように、イリュージョンで生み出した分身達を利用する作戦。あたかもあちこちに瞬間移動しているかのように見せ掛けてテュフォンを翻弄し、挑発されて憤るテュフォンがシラミ潰しに差し向けて来るであろう九頭のヒュドラを一対一で抑え込み、先に厄介なヒュドラ達を潰す事で動揺するテュフォンを不意の一撃で倒す。毒を抱えた状態で短期決戦に持ち込むべく即興で立てた作戦がどうにか成功して安堵するも、途端に意識が朦朧とし倒れそうになる。
ディケイド『ぅッ……ッ……とにかく、奴を倒した以上騒ぎも収まるハズ……後はアイツ等と合流してっ、木ノ花達に毒の治療をっ……』
目の前の視界が暗転する。恐らくヒュドラの毒が全身に回って来た証拠だろうと考えながら、急ぎ姫達の下に向かうべくふらついた足取りで歩き出そうとするディケイド。が……
『Rock On……!』
『HYDRA ENERGY!』
ディケイド『……ッ?!なっ?!―ドッガァアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―ぐぁああああああああああああああああッ!!!?』
ディケイドの背後で燃え盛る炎の中から、不意に響き渡った無機質な電子音声。二度と聞こえるハズのないその音声を耳にしたディケイドが驚愕を露わに慌てて振り返った瞬間、炎の中から一本のエネルギー矢が飛び出してディケイドを貫き、爆発と共に吹っ飛ばされながら変身を強制解除させられ零に戻ってしまったのだった。
―シュウゥゥゥゥゥゥッ……―
零「ァッ……グッ……!なに、が……今のはっ……?!」
思わぬ一撃を受けて重傷を負い、地面に夥しい量の鮮血を撒き散らしながら倒れ伏す零が困惑を露わに額から流れる血と毒の影響で霞む視界で目の前に目を向けると、其処には……
―ゴォオオオオオオオオオオオオオオッ……!―
テュフォン『―――なーんてなァ……アレで俺を倒しただなんて、本気で思ったのか?破壊者さんよォ?』
……ヒュドラエナジーキーを装填した黒い弓を放った姿勢のまま何事もなかったかのように炎の中に佇み、飄々とした口調で零を小馬鹿にするように嘲るテュフォンの姿があったのだった。
零「おま、えっ……どういう事だっ……確かにさっき、手応えはあったハズっ……!」
テュフォン『ンン?あァ……何でまだ生きてるかって?そういや、お前にはまだ説明してなかったっけなぁ』
零「何っ……?」
倒したと思われたテュフォンの健在に驚愕する零だが、クツクツと不気味な笑みを隠そうとしないテュフォンの言葉に怪訝な表情を浮かべそう聞き返すと、テュフォンはユラリと右手を広げ語り出した。
テュフォン『俺が高次元生命体の研究をしている事は説明したな?その研究の為に、俺は様々なモルモットを実験体に使ってきたが、それは"俺自身"とて例外ではないんだよ……。例えこの身を滅ぼされようと、細胞が僅かにでも残っていれば其処から再び肉体を再生して蘇る……つまり俺は不死の一歩手前、高次元生命体完成の目前にまで上り詰めていると言う事さ!』
零「ッ……マッドサイエンティストがっ……ようするに、化け物のお仲間入りをしたって事かよ……」
テュフォン『おいおい、頭の悪い言い方するなよ……。俺は人の身で神にも匹敵する肉体を得た、言わば超越者だぞ?もっと言っちまえば、お前が釣るんでる断罪の神や無効化の神ともそう変わらんだろ?』
零「……吐かせ……テメェなんぞとアイツ等を一緒にすんなっ……アイツ等はお前みたく高慢チキでもなけりゃっ、人間の心を捨てちゃいなっ……ッ……」
テュフォン『……立場を弁えないクソガキだな……今この状況で、どっちが優位に立ってるのか分かってんのかぁ?』
テュフォンに反論しようとして脇腹に激痛が走り、顔を歪める零にテュフォンが黒い弓矢を引いて狙いを定めていく。
テュフォン『まぁどっちにしろ、お前じゃあもう俺は倒せはしない……。さっきの攻撃で因子の力を上乗せしていれば俺を倒せたかも分からんが、最早動く事も出来ないんだろ……?そんなお前にその因子を持たせるだけ、宝の持ち腐れってもんだからな……頂くぞ、お前の命と共にィイッ!!』
―バシュウウゥゥッ!!!―
零「クッ……!!」
最早満足に動く事も叶わない零に目掛けて、テュフォンの弓から容赦なく矢が放たれた。それを目にして零も咄嗟にバックルを取り出して再び変身しようとするが、毒の影響かバックルを持つ手が震えてディケイドライバーを落としてしまい、その間にもテュフォンの矢が零の眉間を貫こうと目前にまで迫った、次の瞬間……
―ブォオオッ!!!ー
『ギギャアァッ?!』
零「……?!」
―チュドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーオオオオォォォンッッッ!!!!―
『ギャアァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!?』
テュフォン『ッ?!な、何だッ?!』
矢に貫かれようとした零の目の前に、突如何処からか一体のパンデミックが投げ飛ばされて来たのだ。直後、矢はそのまま零の代わりにパンデミックに直撃して爆散させていき、そんな予想外の事態に零もテュフォンも動揺を露わにする中、パンデミックが吹き飛ばされてきた方から足音と共に一人の人物が姿が現した。それは……
リア「―――それは困るなぁ、闖入者君。彼は私を倒した勝者なんだよ?そんな彼を此処で倒されてしまっては、私の立つ瀬がいよいよ無くなってしまうじゃないか」
零「?!リア……?!」
そう、二人の前に現れたのは、ジュラルミンケースを手にまるで緊張感のない声音でブラリと歩み寄って来る金髪の女……零と別れてから一人でパンデミックの大群を相手に無双の限りを尽くしていたリアだったのだ。そんな彼女の思わぬ登場に零が目を見開く中、テュフォンはリアの顔をその目で捉えたと共に歪んだ笑みを深めていく。
テュフォン『何だ。誰かと思えば、人間や格下の神格如きに敗れて落ちぶれた、元神様の負け犬かい』
リア「わぁ、歯に衣着せぬ言い方するなぁ。まぁ、実際事実だから否定出来ないのが痛い所だけども……」
明らかに見下すような口調のテュフォンに対して、口ではそう言いつつも特に気にする様子もなくやれやれと首を振るリアだが、彼女の登場に一瞬唖然としていた零はすぐさま我に返り、リアに向けて叫ぶ。
零「お前っ……!何で此処に来たっ……?!さっき別れる間際になのは達と合流しろと言っただろうっ!!」
リア「まぁまぁ、そう肩を怒らせないでくれよ。出来れば私も素直に君の言葉に従いたかったのだけどさ……そうも行かなくなった事情が出来たと言うかな……どうやら其処の闖入者君が用があるのは、君だけではないようなんだよ。零君」
零「……エッ……?」
なのは達の下に向かわずにわざわざこんな危険な場所にやって来たリアに思わず怒鳴る零だったが、目を細めてテュフォンを真っすぐ見据えるリアの言葉に呆気に取られ、リアの視線の先を追うようにテュフォンに目を向けると、テュフォンは何処か関心した様子で「ほう……」と感慨の声を漏らした。
テュフォン『どれだけ落ちぶれようとも、持ち前の勘の良さは健在ってか。流石は原初の幻魔神、その名は伊達ではない、と?』
リア「流石に彼処まであからさまじゃ、狗でも気付くだろうさ。裂け目から現れる怪物はみな私を狙って来るだけでなく、街を襲っていた者まで私を標的に変え次々と向かって来る始末だしねえ……。おかげでホラ、絢香が買ってくれた服が返り血で台無しだよ。どうしてくれるんだい、コレ?」
テュフォン『……へぇ……ふざけた言動の割には、あの数のパンデミックを相手に無傷で此処まで辿り着いたって訳か……』
パンデミックを撃退した際に浴びた返り血がこびりついた服を引っ張って広げるリアに対し、何処か興味深そうにリアを観察するテュフォン。だが、零はそんな二人のやり取りからでは話の意図が読めず困惑を深め、二人の顔を交互に見比べリアに疑問を投げ掛ける。
零「おいっ、さっきから一体何の話だっ……?アイツが用があるのは俺だけじゃないとか、パンデミック達がお前を狙うとかっ……」
リア「言葉通りの意味さ。此処に辿り着いてすぐチラッと聞こえたけど、彼は君の中の因子を欲しているんだろ?其処から考えたら、彼が私を標的にする目的は大体の察しが付くよ」
零「……目的……?」
肩を竦めて溜め息混じりにそう語るリアだが、零は未だに理解が及ばず怪訝な表情を浮かべ、そんな彼を他所にリアはテュフォンを見据えたままスッと細め、
リア「そうだろ、闖入者君?君の狙いは、彼の因子と同等の意味合いを持つと言っても過言ではないモノ……"幻魔神の神権"……私が所持するソレも欲していると推測したのだけど、どうだろ?合っているかな?」
零「……ッ?!なん……だと……?」
今、彼女はなんと言ったか。自分が所持する幻魔神の神権……。確かな口調でハッキリとそう告げたリアの言葉にテュフォンは何も答えずただ仮面の下で僅かに笑い声を漏らし、零は目を見開いて言葉を失うも、困惑が収まらぬままどうにか口を開く。
零「待て……おい待てっ、どういう意味だソレはっ……?!幻魔神の神権を所持してるって何だっ?!アレは、俺と市杵宍が復活したフォーティンブラスを倒した事で一緒に消滅した筈じゃっ……?!」
リア「いや、それは……」
テュフォン『それはあまりにも短絡的過ぎだろ?幾ら神権を所持する神を倒そうとも、その神権自体が消滅する事は先ずありえない。加えて神権の生みの親が健在で、しかも次の後継者もいない以上、ソイツの下に帰結するのは当然のハナシじゃないか。なぁ、初代様?』
零「なっ……」
リア「…………」
つまり、幻魔神の神権は零と魚見が倒したフォーティンブラスと共に消滅した訳ではなく、神権を生み出した大元であるリアに渡っていたという事。初めて聞かされるその内容に零は動揺を浮かべるも、リアは特に表情を変える事なく無言のまま瞼を伏せ、そんなリアに向けてテュフォンは何処か腑に落ちない口調で口を開いた。
テュフォン『しかし解せないのはその後だ。せっかく神権を取り戻したというのに、何故再び幻魔神として再臨しない?そうすれば、消えた幻魔達も再び蘇り、今度こそ地上をその手にする事が出来るかもしれないと言うのに』
リア「…………」
テュフォン『もしや、其処の彼等を警戒するあまり機会を得られずくすぶってるのかな?ああ、だったら私と来ると言うのはどうだろう?君の幻魔神の力と私の高次元生命体の力、その二つが合わされれば最早君に敵う敵など存在しなくなる!君の悲願だったこの世を幻魔の新たな故郷にするという望みも、私と共になら実現し「……笑わせないでくれよ、闖入者君」……あ?』
リアを自分の下に引き入れようと一方的にまくし立てていたテュフォンだったが、それを遮るように放たれた冷たい一声で思わず低い声で返しリアを見つめると、リアはまるで卿が削がれたかのような冷めきった眼差しでテュフォンを見据え、長い髪を軽く払いながら淡々と語り出す。
リア「君と共に?私の悲願?生憎だが、私は元から其処までして今の幻魔に尽くすつもりは毛頭ないんだよ。私がこの身を削ってでも守りたかったのは嘗ての幻魔であり、今の獣畜生も同然な幻魔ではない。彼等との戦いの時も、ギルデンスタンに蘇らされて幻魔神としての役を押し付けられたから、半ば仕方なく受け入れて戦ったまでだしね……だからこうしてその役から解かれた以上、進んで私が幻魔神になる理由なんて最早存在しないんだよ」
テュフォン『……正気か……?放り投げるっていうのか?幻魔達を統べる存在でありながら、無責任にも貴様は―――』
リア「責任の是非を部外者の君にとやかく言われる筋合いはないだろ?そもそも私は太古の存在だ。そんな過去の遺物に頼ってしまった時点で、今の幻魔は終わってしまったも同然だし、私自身も敗者なんだ。敗れた者は潔く去るのみ……それが私のモットーって言う奴だ。仮に今の私に出来る事があるとすれば、せめて、これ以上彼等の名誉に泥を塗るようなことがないように、緩やかに終わりを受け入れる事だけ……まぁようするに、だ。君の誘いは余計なお世話以外の何物でもないんだよ、闖入者君?」
テュフォン『……へぇ。ふうん。ああそう。よーく分かったよ……所詮お前も、物事の価値って奴が分からない馬鹿の一人だって事がね……』
『Rock On……!』
ハッキリと拒絶の言葉をリアから突き付けられ、テュフォンは苛立ちを含んだ声でそう呟きながら再び黒いにヒュドラエナジーロックキーを装填して電子音声を鳴らし、黒い弓に備わった刃にエネルギーを収束させていく。
零「ッ!マズいっ……!おい逃げろリアっ!!奴は本気だっ!!このままじゃ殺されるぞっ!!」
リア「…………」
テュフォンから滲み出る狂気的な殺気を感じ取り、慌ててリアにそう呼び掛ける零。しかし、リアは何故かその場から一歩も動こうとはせず、ジュラルミンケースを掴む手の人差し指でケースの取っ手の部分をカチカチと小刻みに叩く。
零「っ……?おいっ、何で突っ立ってんだっ……?!早く逃げろってっ―――!!」
テュフォン『因みに聞くがよぉ、初代様……もし此処で神権持ちのお前を俺の手で殺せば、その瞬間、お前の持ってる神権は俺に譲渡されたりはするのかよ……?』
リア「さあ、どうだろう?しかし可能性が無いとも言い切れないしねぇ……そんなに気になるようなら、試してみてもらっても構わないよ?私は」
零「……ッ?!な、に……言ってんだ……お前……?!」
あっけらかんと、自分の命を差し出すような事を言い出したリアに零も言葉を失い戸惑いを浮かべ、そんな零とは対照にテュフォンはニイィッと不気味な笑みを張り付ける。
テュフォン『なんだよ、命なんて惜しくも何ともないってのかい?』
リア「さっきも言っただろ?私は敗者なんだ。彼等に敗れた時点で、私の命になんて最早何の意味も価値もない。強い奴が生き、弱い奴は死ぬのが当たり前……特に私の場合、ギルデンスタンの手によって間違った方法で蘇った訳だしね。私が勝つ事でそれが正しかったと証明出来なかった以上、いつまでもそんな私がこの世に存在するのは可笑しいじゃないか?」
零「ッ?!」
至極当然のように、零達に敗れた自分が生きている事に価値はないと断言するリアに驚愕する零だが、同時に、先程のリアとのやり取りが脳裏を過ぎった。
―私の価値観のベースには弱肉強食……強い奴が生き、弱い奴は死ぬのが当たり前って考えが今尚強く根付いてる。だからって別にそう振る舞おうって気はないのだけど、『負けた奴は全てを失って当然』……そういう考えは自分にも向けられていてさ。だから生前、私は死ぬまで誰にも敗れるような事はしなかったけれど、君達に負けた時点で、私は"何もかも失ったと受け入れられた"……―
あの時、彼女は何でもない事のように己の事をそう語り、自分はそんな彼女の言葉に何処か違和感を感じていた。
その時は何に対して疑問を抱いたのかハッキリせず、ただの気にし過ぎかと思い考えるのを止めたが、今になって漸く分かった。
『負けた奴は全てを失って当然』、『何もかも失ったと受け入られた』と、この女は言ったが、その前にもこうも言っていた。
"執着というモノをしない"、と。
零(あの時感じた違和感……そうか、コイツっ……物事にだけじゃないっ……"自分の命"にすらっ……!!)
テュフォン『へえ……なら、大人しく俺に殺されてくれるってんだァ、お前?』
リア「その言い方は少し引っ掛かるけど、利害関係は一応一致してるのかな……君は私の神権が欲しくて私を殺し、私はギルデンスタンの犯した最後の間違いである私自身を終わらせたい……うん、私の都合を考えたら、今のところ君が適任か。今まで世話になった絢香達へのお礼の品も買い揃えたし、心残りは……あー……なごみ君の事があったけど……まぁ、これから自分の目と耳で確かめると言って退けた彼女に、私なんかの言葉は必要ないか……」
テュフォン『そうかいそうかい、それは助かるよ。ソイツみたく無駄に抵抗されちゃめんどくさいからさぁ……死にたがりなお前のおかげで、目的の一つがスムーズに達成出来るよっ!!』
『HYDRA ENERGY!』
―ダァアアンッ!!―
そう言いながら黒い弓から発せられる電子音と共に、テュフォンは弓を振りかざしながら勢いよく地を蹴って飛び出し、リアへと飛び掛かった。しかし、対するリアは迫り来るテュフォンを前に動じる様子もなくただその場に佇み、目の前の死に身を委ねるかのように瞼を閉じ、そんなリアに目掛けてテュフォンが不気味な笑みと共に容赦なく弓を振り下ろした、が……
―ドォオンッ!!!―
リア「……え?」
―ブザァアアアアアアアアアアアアアアァッッッ!!!!―
零「ガッ―――グウゥァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッッッ!!!!!」
テュフォン『ッ?!なん、だとっ?!』
テュフォンの凶刃が振り下ろされた瞬間、なんと零が動けぬ筈の身体でリアに横からタックルで押し飛ばし、そのまま彼女の代わりに顔の左側を引き裂かれてしまったのだった。飛び散る血しぶきと共に零の絶叫が響き渡り、ゴロゴロと地面を転がって吹き飛ぶ零の姿にリアもテュフォンも呆気に取られてしまうが、先に正気に戻ったリアは零の傍に戸惑い気味に駆け寄り、困惑を露わに腰を落として赤い血に濡れた顔の左側を抑えて苦しむ零の顔を覗き込んだ。
リア「零君……君、なぜ……?―ガッ!!―ッ?!」
リアが疑問を投げ掛けるよりも先に、零が右手を伸ばしてリアの胸ぐらを乱暴に掴んで引き寄せ、そのまま勢い任せにリアの頭に強烈な頭突きを叩き込んだ。思わぬ一撃を喰らい、更に困惑を深めるリアだが、リアの額から顔を離した零は赤く塗り潰された左面を抑えたまま激痛のあまり涙が浮かぶ鋭い目付きで、リアを睨み付けていた。
リア「零君……?」
零「フッ、ザケ、ン――じゃねえ、ぞっ―――テメェッ―――!!!!誰、が、其処ま、で―――――グッ……ごばぁああああッッッ!!!!!!」
リア「!零君!」
リアに何かを言い放とうとするも、突然零の口から大量の血の塊が吐き出され、呻き声を漏らしながらもがき苦しんでいく。未だ困惑が収まらないリアはそんな零を目にして何時になく動揺を浮かべるが、零の右肩の服の隙間から僅かに見える黒い肌に気付き、急ぎ服を捲り上げると、其処には、右腕からヒュドラの毒が侵食して零の身体右半分が真っ黒に変色している異常な光景があった。
リア「これは、毒か……しかも既に此処まで進行して……『フフフ、クククククククククククッ……』……!」
幾分か落ち着きを取り戻し、一目で零の身体を蝕む物の正体を見抜くリアだが、背後から不意に聞こえた不気味な笑い声に釣られて思わず振り返ると、其処には何故か、クツクツと肩を揺らして上機嫌に笑うテュフォンの姿があった。
テュフォン『流石は初代様だ。そう、ソイツは彼のヘラクレスをも殺したヒュドラの毒……さっきの戦いで俺が与えたんだが、もうタイムリミットが近いようだなあ。あれから二十分。もうあと十分で、ソイツの命もこの世からおサラバって訳だァ」
リア「……いいのかな、君はそれで。彼が死ねば、彼の中の因子が暴走してこの世界は一瞬で砕け散るんだぞ?そうなれば君も―――」
テュフォン『え?アァ、その心配だったらもう必要ないと思うぜェ?』
リア「……何?」
どういう意味だ、と怪訝な表情で思わず聞き返すリア。テュフォンはそんな彼女にただただ不気味な笑みを返し、ゆっくりと、零の血で真っ赤に染まった左腕を上げて固めていた拳を開き、
テュフォン『だって、ほうら……そいつの左目だったら、ちゃーんと"此処"にあるんだからさァ?』
リア「なっ……」
ニチャアァッ……と、粘着くような音と共にゆっくりと開いて見せたテュフォンの拳の中に在ったのは、人間の目……零の左目に収まっている筈の、"真赤い瞳の左眼球"だったのだ。
何故テュフォンが零の眼球を?と、それを目にしたリアは目を見開いて驚愕するも、其処で何かを思い出したようにハッとなりながら零が抑える左目を覗き込めば、零の指の隙間の奥に見える左目は空洞で何もない。つまり、アレは零が自分を庇った際に左目を抉り取られて、奴の手に渡り奪われてしまったモノ……。
テュフォン『ギャッハハハハハハハハハハハハッ!!ソイツが想像以上の馬鹿で助かったよッ!!偽善此処に極まれッ!!嘗ての敵を庇ったばかりに大事な因子を奪われるたァ、ザマアねえよなぁ、破壊者ちゃ~ん?』
零「ッ……て、め……ごぶっ……!!」
リア「零君!」
思わぬ形で因子を手に入れた上機嫌からか、ナメ切った口調で嘲るテュフォンに対して零も思わず立ち上がろうとするも、ヒュドラの毒と左目を失ったダメージは大きく血を吐き出しながら呻き、そんな無様な姿の零にテュフォンも興味を失ったようにリアに目を向け、黒い弓で狙いを付けながら弓を引いていく。
テュフォン『さーて……お次はアンタだぜェ、死にたがりの初代様?どうするぅ?因子がこっちにある以上、ソイツを殺す不安要素もなくなっちまった訳だけど、どうせだ。あの世への付き添い欲しけりゃ一緒に殺してやるぜぇ?』
リア「…………。生憎だが、私はともかく、彼は此処で死なせる訳にはいかないんだよ。彼は私を倒した勝者だ。その勝者が、敗者の私を庇って死ぬだなんて事は―――」
テュフォン『ウン、ウンウンウン、スゲェーわかるー。そうだよなぁ、じゃあ最後の望みとしてそれぐらいは聞き入れてやる―――なーんて言う訳ねぇーだろバァアアアアアアアアアアアカァッ!!!!!』
『HYDRA ENERGY!』
―バシュウゥッバシュウゥッバシュウゥッバシュウゥッ!!!―
リア「!」
―チュドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーオオォォンッッッ!!!!―
テュフォンの嘲笑と共に空に向けて放たれた必殺の矢の雨が、豪雨の如くリアと零に目掛けて降り注ぐ。迫る矢の雨を前にリアも零を抱き寄せて強く抱き締めたと共に、矢の雨は容赦なく二人に襲い掛かって絶え間なく爆発を巻き起こしていき、二人の姿を爆炎と爆風が呑み込んでいってしまうのであった。
テュフォン『アッハハハハハハハハハハッ!!ざまぁみろぉっ!!俺の誘いに乗ってればこうならずに済んだモノをっ!!当然の報いだァっ!!はっはははははははははっ…………あ?』
空から降り注ぐ矢の雨の中に飲み込まれた二人を見て狂ったように高笑うテュフォン。だが、徐々に薄れていく黒煙の奥を目にしてその顔から笑みも消え去り、変身を解除してリーガンに戻りながら二人がいた場所にまで歩み寄ると、其処に二人の肉片らしきモノは見当たらず、代わりに先程の矢の雨によって地面を破壊されて出来た巨大な大穴……下水道へと繋がる道を発見した。
リーガン「……チッ、あの一瞬で逃げ遂せたって事か……無駄にしぶといっ……」
あともう少しと言うところで惜しくも逃げられ、声に苛立ちを滲ませるリーガンだが、自身の左手に握られた零の眼球に目を向けた途端に口端を不気味に釣り上げていく。
リーガン「まあいい……目的の一つは達成出来たんだ。後はゆっくり……じっくりと追い詰めるだけだ――」
―グチュイィイイッ!―
そう呟いた次の瞬間、なんと、リーガンは己の手で躊躇なく自身の左目を潰し、そのまま左目の眼球を抉り取り放り捨ててしまったのだ。常人では考えられない奇行だが、しかしリーガンは左目から血を流しながらも苦痛に悶える素振りもなく、零の眼球を己の左目に捩じ込み、高次元生命体の再生力で零の眼球を自身の肉体に結合させていき、次第に見えるようになってゆく左目からの景色にニタリと笑みを浮かべた。
リーガン「アァアアァァアアアアアッ……ハハハハハハハァッ……コレが破壊者が見てきた景色かァ……イィもんじゃんかよ。視えるもの総てが脆く、壊したくなる……ククククッ、一体この目でどれだけ破壊の限りを尽くして来たんだろーなぁ、アイツ……」
破壊の因子を宿した瞳を通して見る景色から得るのは、自分が絶対者になったという高揚感。身体に満ちる最高の感覚から、成る程、今ならあのガキが阿南祐輔の世界を破壊しようとした気持ちがよーく分かると一人納得し、早くこの瞳の力を試したい衝動に駆られながら二人の後を追おうと下水道に繋がる穴へ落ちようとした、その時……
―バシュウゥッ!バシュウゥッ!―
リーガン「……んあ?」
突如リーガンの足元に打ち込まれた無数の銃弾。背後から放たれたソレを目にしたリーガンがユラリと振り返ると、其処には零の救援に駆け付けた二人のライダー……天神と聖桜が無双セイバーとウィザーソードガンの銃口をリーガンに突き付ける姿があった。
聖桜『動かないで下さい……少しでも動けば、今度は確実に当てます』
リーガン「……あぁ……誰かと思えばァ、あのクソガキが契約したっていう神様方か」
天神『……その口ぶり、やはり貴様が零を狙ってこんな騒動を引き起こした元凶か……!一体何者だ!その気配からして、人間ではないんだろう……!』
リーガン「へぇええ?俺が普通じゃないってのももう分かってんのかァ。流石じゃん神様達?でもさぁ……あのガキを助けに来たのなら手遅れって奴だぜェ?」
天神『……何?』
明らかに危険な雰囲気を漂わせるリーガンに警戒心を強めて天神がそう聞き返すと、リーガンはゆっくりと二人に身体を向けて左目を見開き、その見覚えのある真赤い瞳を目にした二人は仮面の下で驚愕し、目を見開いて絶句した。
聖桜『そ、その目……?まさかっ……?!』
リーガン「あははははははははははははははっ!!見覚えあるだろぉ?お前らの愛おしい愛おしい破壊者君が、俺にくれたプレゼントさぁッ!」
―プシュウゥッ!―
『HYDRA ENERGY!』
信じられないモノを目にしたかのように戸惑う二人に向けて狂喜を露わに笑い、リーガンはヒュドラエナジーキーの解錠ボタンを押して電子音を鳴らしながらブラッドドライバーにセットしていく。
リーガン「あの二人を殺しにいく前のウォーミングアップだァ……光栄に思えよ、雑魚神共ぉ?お前達が新たな破壊の因子の宿主様の、初めてのお相手になれるんだからなァああああああッ!!!!」
『BLOOD……!』
『HYDRA ENERGY ARMS!』
ハンドルを押し込んで再びテュフォンに変身しながら駆け出し、更に復活したヒュドラ達を従えて二人へと襲い掛かるリーガン。対する天神と聖桜も零の左目を持つテュフォンに動揺しながらも慌てて迎撃態勢を取り、それぞれの武器を構え直してテュフォンと戦闘を開始していくのであった。