仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT   作:風人Ⅱ

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番外編/幾ら努力しようが絶対に無駄に終わる努力もある。ようするに無駄な努りょ(ry⑤

 

―旧モール街下水道・管制室―

 

 

零「――――――――――…………ッ…………ぅ…………?」

 

 

暗がりに支配された下水道。旧モール街の真下に存在するその場所は空間的にも広く、しかし大量の下水が流れるとあって思わず顔をしかめてしまいたくなるような酷い臭いが充満しており、とても人間がいつまでも滞在していられるような場所ではない。

 

 

だが、そんな場所にも下水の嫌な臭いを遮断出来る唯一の場所……旧モール街が使われる事がなくなった為に同様に閉鎖されていた管制室が存在し、無数のモニターや下水道内での機能を操る為の機材が揃った部屋の中では、気を失って横たわっていた零がゆっくりと瞼を開いて意識を取り戻し、暗転する視界の中で右目を動かし管制室内を見回していく。

 

 

零「…………?こ、こは…………「気が付いたようだね」…………ッ?!」

 

 

意識が目覚めたばかりの頭で薄暗い室内を見回し、見慣れない場所に一瞬混乱し掛けてしまう零だが、右方から聞こえた声に驚き振り返ると、其処には地面に腰を落として体育座りで座り込むリアの姿があった。

 

 

零「っ……!おま、えっ……―ズキィイイッ!!―ギッ……?!ァッ……!」

 

 

リアを見て思わず上体を起こそうとするが、途端に全身に走った激痛と痺れ、特に左目の痛みに思わず悶絶して左目を抑える零。が、其処で零は自分が触れた左目から頭に掛けて何か布状のモノを包帯のように巻かれている事に気付き、同時に、自身の左目に何もないような違和感を感じ取った。

 

 

零「ッ……俺、は……確かっ……アイツと戦っていて……」

 

 

リア「動かない方が身の為だよ。君の中に残ったもう一つの"ソレ"の恩恵で、今は毒の侵行を全力で抑えてくれているようだけど、そのせいで他の怪我を治すだけの余力はないようだし」

 

 

零「……ソレ……?」

 

 

そう言いながら顎で差して来るリアの視線を追い、零が自分の身体を見下ろして先ず最初に目に付いたのは、止血止めに巻かれた包帯代わりの布と、黒く変色した自分の身体の右半分。しかし其処から左半分にまで毒が進行している様子は何故かなく、一瞬不自然に思い疑問を抱くも、今のリアの言葉と彼女が見つめる視線が自分の左胸……再生の因子を捉えていると気付き、ソッと大事なモノに触れるように左胸に手を当てていく。

 

 

零「そう、か……コイツのおかげで、まだどうにかしぶとく生きていられてるって事か……」

 

 

リア「今はまだ、ね……。でも安心はまだ出来ないよ。あの彼が追って来てるかも分からないし、君の怪我も深刻だ。君の中のソレが毒を抑え込むのに精一杯で怪我を癒せない以上、このままでは出血多量で死んでしまう可能性も―――」

 

 

零「…………」

 

 

天井を見上げ、今の深刻な状況を語るリア。しかし、零は何故かそんなリアを険しげな顔で睨み付けたまま口を閉ざして何も言わず、リアもそんな零の視線に気付き困惑を露わにする。

 

 

リア「なんだい、どうしたんだよ零君?急にそんな怖い顔で睨み付けたりして」

 

 

 

零「……どうしたもこうしたもないだろう……何であんな真似したんだ、お前……?」

 

 

リア「あんな?……あぁ、よりによってこんな汚い場所に逃げ込んだ事かい?確かに酷い臭いの所だけど、仕方ないだろ?あの状況じゃ咄嗟に逃げられるのが此処しかなかったと言うか――」

 

 

零「惚けるなっ……!俺が聞きたいのはそんな事じゃない……分かって言ってんだろ、お前っ……」

 

 

リア「…………」

 

 

白々しくも話を逸らそうとするリアに零も思わず語気を強めて食って掛かる。そんな零に対し、リアも一瞬口を閉ざして無表情となるも、小さく溜め息を吐きながら困ったように首の後ろを擦っていく。

 

 

リア「悪かったよ、ふざけた事は確かに謝る……でも、私がした事は君が其処まで怒りを買うような事かい?正直、君がそんな必死になってまで私を気に掛ける理由の方が分からないのだけど……」

 

 

零「お前には分からなくてもこっちには多々にあるんだよっ……。別世界と言えど、仮にも公務員が自殺願望者を前に見殺しにする訳にもいくまいし、絢香達にだってなんて伝えろってんだっ。何より、分かってるのか……?アイツに神権を渡すって事は、新たな幻魔神を生み出すって事なんだぞっ……!そうなったら――!」

 

 

そう、リーガンの手に神権が渡れば、それは幻魔達の復活を意味するのではないか。その事も危惧したからこそ零はその身を挺してリアを庇ったが、それを抜きにしても、あの時自分から命を差し出すような真似をした彼女に対して個人的な怒りも感じており、そんな零の憤りを感じ取ったのか、リアは何処か物憂い表情を浮べながら零から視線を外した。

 

 

リア「確かに、勝手に話を進めた事はすまなかったよ。そのせいで君も左目を失うハメになった事だし、怨まれてもしょうがないミスを犯したと反省はしている」

 

 

零「……この目の事は別に気にしなくたっていい……本当なら翔子達の世界でとっくに使い物にならなくなる筈だった訳だし、今更惜しいとも思ってない……それよりも、俺が聞きたいのはっ―――」

 

 

リア「―――彼に私の持つ神権が渡る事を心配しているなら、その必要はないよ、零君」

 

 

零「……何?」

 

 

リーガンに幻魔神の神権が渡ってしまうのでは、と言う最悪の事態は零の杞憂でしかない。そう語るリアにどういう意味かと零が訝しげに聞き返すと、リアは脇に下ろしているジュラルミンケースの上に右手を乗せながらその意味を語り出す。

 

 

リア「彼は、私を倒せば自身に神権が継承されて次期幻魔神となり、復活した幻魔達を統治する事が出来ると思い込んでるようだけど、実際はそう簡単な話じゃない。神権を継承するにしても正式な段取りが必要だし、そうじゃなきゃ私が嘗て破棄した王位の件と何も変わらないだろ?だから、私を倒しても次の幻魔神に……なんて言うのは、そもそもからして無理な話なんだよ。私もホラ、"かもしれない"……と、可能性の話でしか話していなかったろ?」

 

 

零「……だったら、何でお前はあんな事……」

 

 

リア「自分から命を差し出すような真似をしたかって?理由は大体さっき彼に話した通りさ。……まぁ、実際の所はもう一つ、いずれ来るであろうと思っていた時が来たからそうした、って言う理由が大きいんだけどね……」

 

 

零「……?」

 

 

溜め息混じりに何処か気だるげな表情でそう呟くリアに、眉間に皺を寄せて小首を傾げる零。すると、ジュラルミンケースをコツコツと指でリズム良く小突いていたリアは、そんな零に目を向けて続きを語る。

 

 

リア「今の私はもう幻魔神ではない。けど、幻魔神の神権を所持している以上、ソレを狙う存在がいずれ現れるだろうとは思ってたんだ。だってそうだろ?所詮今の私は神権を持っているだけ……そんな私の手から、神権を奪う事ぐらい簡単に出来ると思う輩がいても不思議じゃない。だけど、私はもう他の者にこの神権を渡すつもりないし、そういった考えを抱く連中がこれから先も絶えず出てきて、不毛な争いが起こるのは私も望まない。だから―――」

 

 

零「……お前、まさかっ……」

 

 

リア「流石に察しがイイね。そう……神権が手に入ると思い込ませたまま、彼の手によって私という存在を今度こそ終わらせると共に、幻魔神の神権を私と共に消滅させてその系統を終わらせる……それがあの時、私が自ら命を差し出した目的の一つだよ」

 

 

ただそれだけの話だ、と何でもない事のように自身の真意を語るリア。しかし、それは零からすれば到底聞き流せるような内容ではなく、一瞬息を拒んだ後に徐々に目付きを鋭くさせリアを睨み付けた。

 

 

零「それこそ話が違うだろ……あの時、奴は神権を消し去る事は出来ないって……」

 

 

リア「普通では……という話ではそうさ。だけど、それにも例外という物はあってね。神権を生み出した大元の張本人であるなら、本来なら不可能である筈の神権の破棄を行う事が出来るんだ。……まぁ今の時代、次の後継者に継承されるのが当たり前になってからはその方法も廃れてほぼ不可能な話になりつつあるんだけど、こうして蘇っている原初の存在である私にならそれが可能だ。だからあの彼には勘違いをさせたまま私を討ってもらい、神権をこの世から消し去ってもらいたかったんだよ。……まぁ、あのままじゃ君も殺されてたかも分からなかったから、せめてもの駄賃にと彼を道連れにしようと思ったけど、まさか君の横槍が入るとは想定外だったなぁ……」

 

 

零「ッ……お前っ……」

 

 

リア「君としても望ましい事だろう、零君?そうすれば幻魔神という存在が再び現れる可能性も完全に消え去り、君達が守ったあの世界の平穏が二度と破られる事もなくなるのだからさ」

 

 

零「勝手な事を言うなっ!幾ら神権を消し去る為とは言え、その為にお前に命を捨てろと求めた覚えも無ければっ、そんなやり方を認めるつもりも毛頭ないっ!」

 

 

リア「…………」

 

 

神権を無くす事で新たな幻魔神の誕生と幻魔達の復活が無くなるのは良い。だが、その為にリアの命を犠牲にするようなやり方を黙認する事など出来る筈もない。だが、そんな言葉を投げ掛ける零に対してもリアは表情一つ変えようともせず、零もそんなリアの不動さに僅かに圧されながらも言葉を続けていく。

 

 

零「お前は言っていたな、俺達に敗れたお前の命には最早意味も価値もないと……本気でそう思ってんのかっ……?」

 

 

リア「……寧ろ君に聞かせた私の価値観の話から、君もとっくにその事を察してくれてると思ってたよ。ほんとに噂に違わぬニブちん振りだね、君?」

 

 

零「単純にお前の話が回りくど過ぎただけだろうがっ……ッ……神権を消し去りたいのなら、何もお前までも死ぬ必要はないだろっ……それでもまだ死にたいってのかっ……?」

 

 

リア「勿論」

 

 

激痛に耐えながらもどうにか口を開いて投げ掛けた零の問いに、一切の迷いもなく即答するリア。そんな彼女の返答に更に顔を顰める零だが、リアはその瞳で零を捉えたまま淡々とした口調で語る。

 

 

リア「執着はしない―――。君にそう言った通り、私は自分の命にもそういったものは抱かない。特に、今の私の命はギルデンスタンによって不本意に蘇らされたものだ……望まぬ形で、しかも君達に敗れた事で彼の望みも果たせなかった以上、今の私が生き続ける事に何の価値もないし、これ以上生き続ける意味もない。……ならばせめて、私達を倒した君達を生かせるという意味のある事の為に使いたいんだよ」

 

 

零「ッ……何処までも勝手な女だなっ……そんな押し付けがましい自己満足の為に、お前の命を背負わされる身にもなったらどうなんだっ……!」

 

 

リア「背負う必要なんてないよ。言っただろう?私はとっくの昔に死んだ身なんだ。今此処にある私は余計な奇跡の下に蘇っただけで、本来ならあの世に帰結するのが当たり前の存在だ。見掛けによらずお人好しな君のお節介でどうにか生き永らえたけど、それも本当は間違いでしかない。間違った者の手によって蘇った者は、再びあの世へ還すべき……そんな私に君が固執する事は、それこそ、自然の摂理に反する行為だとは思わないのかい、零君?」

 

 

零(ッ……!コイツはっ……!)

 

 

何とか零が説得の為の流れを作ろうと試みても、それ以上の屁理屈を捏ねて反論するリアに舌を巻いて険しい表情を浮かべてしまい、どれだけ言葉を投げ掛けてもリアには何一つ響いてる様子もない。

 

 

……しかし、もしかしたら、彼女の言う事も一概に間違ってるとも言い難いかもしれない。

 

 

何せリアは彼女の言う通り、現在進行形で神格としての役を務める姫や魚見とは違い、元々は数千年も前に『滅び去った存在』なのだ。

 

 

故に自身の命に無頓着なのも道理。後悔も未練もなく死んだ彼女からすれば、今ある人生はそれこそ蛇足以外の何物でもなく、元々執着が薄い性格に加えて自分の命を軽視しているのは無理らしからぬ事なのかもしれない。

 

 

しかし、それでも……

 

 

零「―――それでも……お前にも今は、"命"があるのは確かだろうがっ……!」

 

 

リア「…………」

 

 

零「お得意の御託を並べて煙に巻こうったってそうはいくかっ……。お前を生かすと最初に言い出したのは俺なんだ……そんな俺が、このままお前を見殺しにする訳にもいくまいし……お前を助けると言い出したからには、お前の命に関して担わなければならない責任だってあるっ……!」

 

 

リア「……変な所で律儀だな、君は……それでも、私が行くと言えば?」

 

 

零「……決まってるだろう、そんなの……」

 

 

ジャキッ……!と、そう言いながら気怠げに腕を上げた零の右手に握られているのは、銃口が冷たい輝きを放つライドブッカーGモード……。それを見てもリアが表情一つ変えぬ中、零は息も絶え絶えに告げる。

 

 

零「今の俺じゃ、お前を引き止める事もままならない……だったらせめて、あんな奴に殺されるのを見過ごすぐらいなら……俺が此処で、今度こそお前を討つ……それがお前を倒した者としての、俺が果たすべき責任だ……」

 

 

リア「……また無茶苦茶な事を言ってくれるものだな……だがその理屈で語るなら、私を殺すにしても、桜ノ神や水ノ神も一緒でなくては筋は通らないのではないかい?君が私を倒せたのは、彼女達の力があってこそだと言うのが君の意見だったと思うけど」

 

 

零「それは間違っちゃいないが、今は話が別だ……こんな事で、アイツ等の手を汚させる必要なんてない……。最も、お前が考えを改めるつもりがあるのなら、俺もこんな真似をせずに済む訳だが……」

 

 

リア「私もそのつもりは無いよ。私自身、私たち幻魔を倒した君達への報酬として、君達が守った世界の平穏を出来うるだけ永く保つにはどうするべきか……それを私なりに考えた末に出した結論でもある。今更君の言葉一つで、変えられる程の軽い決意ではないさ」

 

 

零「……交渉は平行線、って事か……」

 

 

リア「そのようだ。ならば、次に君はどうする?」

 

 

零「…………」

 

 

変わらず眉一つ動かさないままそう問い掛けるリアに、零はライドブッカーを突き付けたまま口を閉ざす。

 

 

嘗てのあの夜の戦いの時のように、リアを言葉だけで説き伏せる事はきっと出来ない。

 

 

特に、自身の命よりも零の命に価値を見出していると言うのも、この先、神権を巡る厄介事を引き起こしたくはないと言うのも、彼女の良い意味でも悪い意味でも潔い性格からして嘘ではないのだろう。

 

 

自身の命に執着はない―――。

 

 

加えて彼女はその命の使い道を自分を倒した零に使い、更に敗者の矜持に習うと同時に、ギルデンスタンの最後の罪業を清算しようと既に決めている。

 

 

そんな彼女の決意を、僅かにでも引き留めるにはどうすればいいか……。

 

 

零はリアと対峙したままその次の方法を必死に思考していく中、ふと、ある一つの考えが脳裏を過ぎり、その手に握るライドブッカーを持つ腕を力無く下ろした。

 

 

リア「……?なんだい、漸く諦めでも付いてくれたのかな?」

 

 

零「……まさか……ただ一つ質問が出来ただけだ……。お前は、自分の命よりも、俺の命に価値を見出してると言ったな?それは本心か?」

 

 

リア「無論だよ。何度も言っただろ?君や彼女達は私を倒した勝者であり、だからこそ君に生きていてもらわなければ私が困ると。……それが何か?」

 

 

零「ただの再確認だ……あぁ……だったら、こういうのはどうだ……?」

 

 

二ィッ……と、首を僅かに傾げながらそう言って口端を吊り上げる零。そんな零の意味深な態度にリアも思わず訝しげに眉を寄せる中、ゆっくりと、零は一度は下ろしたライドブッカーを持ち上げ、その銃口をリア……ではなく、なんと、己のこめかみに突き付けた。

 

 

零「―――お前の命が掛けられた天秤のもう片方に、"俺の命を乗せる"……お前がどうしても死にに行くと聞かないのなら、今此処で……俺が命を断つと言えば、お前はどうする気だ?」

 

 

リア「…………。どうもしないよ。そんなブラフで私が動揺するとでも思うのかい?生憎私にはそんなものは通用しない……。「必ず世界を救う」と、彼女達と交わした約束を放って君がそんな半端な真似をしないだろう事は理解してるし、私に其処まで命を掛ける理由もないだろう?」

 

 

零「さぁ?どうだろうな……少なくとも、明らさまに口数が増えたお前の様子を見るに、それだけでも俺にとっては試すだけの理由はある所だが……」

 

 

そう言ってリアを見据えたまま、血に濡れた零の人差し指がライドブッカーの引き金に掛けられる。それを目にしたリアも眉をピクリと動かすが、それも一瞬。すぐに表情を元に戻しながら、冷静な口調で語り掛ける。

 

 

リア「莫迦な真似はしない方が身の為だ。世界を救うと言う大事の前に、私なんかの為に命を張って何の意味がある?そんなものはないんだ。そんな簡単な事が分からない程、君は愚か者ではないだろう?」

 

 

零「そうかよ、だとしたら俺は愚か者で十分だ……。前にも言った事だが、世界を救うなんて言いながら、目の前で死のうとしている奴を見殺しにするような奴が世界を救えるなんて出来る筈もない……此処でお前を止められなきゃ、俺はきっと、アイツ等との約束を果たすなんて不可能な話だ」

 

 

リア「……それこそ本末転倒じゃないか。君が死ねば、一体誰が彼女達の世界を救えるんだ?」

 

 

零「なのは達はもう魔法無しでも十分に戦える。それに優矢やアズサ、木ノ花達もいれば、いざとなれば海道や祐輔達だっているんだ……万が一俺に何かあったとしても、アイツ等なら―――」

 

 

リア「馬鹿げた事を言うんじゃない。君という存在はその程度の価値じゃないだろう?あまり自分の命を軽視するのは感心しないぞ……」

 

 

零「どっちが」

 

 

リア「…………」

 

 

零「…………」

 

 

互いに一歩も引かず、睨み合ったままどちらも視線を外そうとしない零とリア。しかし、その間にもリアは僅かにだがジリジリと爪先から足を動かして、零のこめかみに突き付けられたライドブッカーを弾く為に零との距離を徐々に詰めていき、零の方もそんなリアの一挙一動を注視しつつ引き金に掛けた指に力を込め、頬を伝う一滴の汗が地面に落ちて弾けた、次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

―――ドロォオオオッ……と、零の両目と鼻、口から夥しい量の血液が突如溢れ出したのであった。

 

 

リア「?!零、く―――」

 

 

零「…………ぇ…………なん…………ァ――――」

 

 

―グラッ……―

 

 

リア「零君!!」

 

 

零の身に起きた突然の異常事態。零自身もそんな自分の身体に起きた異常を理解出来ぬまま、両目や口からゴポッと水音と共に大量の血を吐き出しながら身体を揺らして倒れそうになるも、咄嗟にリアが零の身体を胸に抱き留め、ヒューヒューとか細い呼吸を繰り返す零の容態を見て目付きを鋭くさせた。

 

 

リア(マズイな……毒が侵行を再開し出してる……。今の零君の中の因子の力では、完全に毒を抑え込むのは不可能という事なのか……抜かったな……らしくもない失敗だぞ、リア……!)

 

 

零の中の因子が毒を抑えている隙に、彼を姫達の下に連れて毒の治療だって可能だった筈だ。なのに必要性の欠片もない口論でその機会を潰してしまったと、己の失態を咎めて内心舌打ちするリアだが、リアの腕の中にもたれ掛かる零は未だ吐き出る血の量に呻きながらも、震える左手でリアの背中を鷲掴んだ。

 

 

リア「!零君?」

 

 

零「ッ…………どっち、にしっ、ろ…………俺の命、も…………ここまでかも…………分からない、みたい…………だなっ…………」

 

 

リア「……君らしくもない……私やフォーティーンブラスにも見せたお得意の生き汚さは何処へ行った!君のその諦めの悪さの末に私達は敗れたというのに、こんなつまらない死に方で終わるつもりなのか!」

 

 

零「…………そうしたくはな、いのは…………こっちだって山々だ…………だが、今回ばかりは…………それだけじゃ、どうにもならなそっ、グッ―――がはッ!!げほっげほッ……!!」

 

 

リア「……ッ……!」

 

 

自嘲気味に笑ってそう言いながらも、激しく咳き込むと共に血を吐き出し続けて目に見えて衰弱してゆく零。その様子に流石のリアも顔を歪め、内心焦りを覚え始めながら零の血で汚れた自身の右掌を見つめていく。

 

 

リア(時間はもうない……桜ノ神達の下に連れていこうにも、恐らく間に合わないだろう……このまま何も手を打たなくては、本当に零君は……しかし、今の私の力では彼を治療する事も―――)

 

 

―――いや、一つだけあったと、リアは掌にこびり付いた零の赤い血を見て思い出す。

 

 

幻魔神の神権―――。

 

 

無から有を、その気になりさえすれば宇宙すら一から生み出せる神の力を今一度この身に宿せば、零の中の毒どころか、彼の怪我でさえ忽ち治す事だって容易い。

 

 

しかし、それは……

 

 

リア(……それは同時に、他の幻魔達の復活を意味する……そうなれば……)

 

 

再び幻魔達による地獄が始まり、零達が自分を倒して守った平穏が打ち破られる事になる。

 

 

否、それだけは決して避けなければならない。

 

 

しかし、残された方法がそれしかないのも、今此処でその力を使わなければ目の前で死の淵に立たされる零を救う事を出来ないのもまた事実……。

 

 

このまま零を見殺しにするか、それとも零の命と引き換えに幻魔の復活か。

 

 

虚ろな目の零を壁により掛かるように寝かせながら、どうするべきかと心の内で迷うリア。だが、その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――そうか……なら、俺が一思いに楽にしてやるよ」

 

 

リア「……!?」

 

 

 

 

自分と零しかいない筈の管制室内に、突如響き渡った聞き慣れぬ男の声。完全に思考に浸っていた為にリアも、背後から聞こえたその声の接近に気付かずハッとなり、すぐさま振り返った、次の瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

―バァアアアアンッ!!!―

 

 

零「――――ガッ――――ァッ――――!!!?」

 

 

リア「なっ……」

 

 

 

 

 

 

 

……背後に振り返ったリアの真横を過ぎ去り、一発の銃弾が、零の右胸を貫いて粒状の血飛沫を撒き散らしたのだった……。

 

 

 

 

 

 


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